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p tn tn したがって, 点 の 座標は p p tn tn tn また, 直線 l と直線 p の交点 の 座標は p p tn p tn よって, 点 の座標 (, ) は p p, tn tn と表され p 4p p 4p 4p tn tn tn より, 点 は放物線 4 p 上を動くこと

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Transcription:

5 混成軌道と多重結合 分子軌道法 ) 混成軌道 様々な幾何構造の分子の結合を説明するために考え出された 例えば sp 混成軌道の場合 右図のように s 軌道と p 軌道二つが混じり合って三つで 組の混成軌道を作ると考える 混成軌道の例 sp 直線型チオシアン酸イオン sp 平面三角形型 三フッ化ホウ素 dsp 平面四配位型四フッ化キセノン sp 四面体型アンモニウムイオン dsp 三方両錐型五フッ化リン d sp 八面体型 六フッ化イオウ ) 多重結合窒素の場合以下のように三本の結合がある ) p 軌道同士の σ 結合 : p 軌道が符号を合わせるような向きで近づき 軌道が重なって結合が生じる

) p 軌道同士の π 結合 : 結合方向と垂直な向きの p 軌道が近づき 軌道が重なって結合が生じる ) もう一つの π 結合 : 上記とは 90 度向きを変えた p 軌道同士の結合 ) 分子軌道法原子のまわりの電子の軌道 ( 原子軌道 AO) とは別個に分子のまわりには分子軌道 (MO) が存在し 電子はその軌道に存在するという考え方 例えば水素分子の場合 二つの分子軌道が重要で もとの原子の軌道のエネルギーと比べるとエネルギーの低い結合性軌道と エネルギーの高い反結合性軌道が生成する 二個の電子はエネルギーの低い軌道を占める 下図は水素分子の結合性軌道 ( 左, の表示あり ) と反結合性軌道 ( 右 ) H 原子 H 分子 H 原子 He 原子 He 分子? He 原子 水分子の分子軌道エネルギー

補足説明 ) 混成軌道以前の講義で共有結合の考えかた ( 電子を つ持った軌道同士が重なると結合ができる ) について勉強した これは原子価結合法という考え方に基づくものであった 水素など最も単純な分子以外に水分子やアンモニア分子などの簡単な分子の構造もこの方法で説明ができた しかし 有機化合物によく見られる四面体構造 ( 結合角 09 ) の分子の構造は 先の考え方 (p 軌道に基づく 90 度の結合角を説明する ) では説明できない アンモニアでも実際の結合角は 07 で 90 とはかなり異なる さらに炭素の場合 電子配置は s s p であり 電子を つもつ軌道は p 軌道の二つしかない するとそもそも共有結合が二本しかできない ( しかも結合角は 90 ) ことになってしまう また VSEPR 理論でも例えば BF の構造が平面状の正三角形となることを説明した しかしこの場合の 0 度の結合角も上の考え方では説明できない 三方両錐型などもどうやって説明していいか分からない そこで編み出されたのが以下の混成軌道を用いる考え方である 例えばホウ素の場合 電子配置は s s p である ここで s 軌道 つと p 軌道 つを混ぜ合わせて あらためて sp 混成軌道と呼ばれる軌道を三つ作ることができる この三つの sp 混成軌道は図に示すようにキノコのような形をしており 大きなカサが互いに 0 の方向を向いている この三つの軌道に もともと s と p 軌道に存在した つの電子を つずつ入れれば それらの軌道と水素原子の s 軌道が重なって正三角形の BH 分子を作ることができる (BH は実際に安定に存在する分子ではないが BF は存在する )BF の場合は B 原子の sp 混成軌道と F 原子の電子の つ入った p 軌道が重なると考えればよい なお s 軌道の電子のエネルギーは sp 混成軌道のエネルギーよりも低いために 電子が sp 混成軌道に入れるためには電子のエネルギーを高くしなければならない ( 昇位 ) が つの共有結合ができることでエネルギーは大幅に下がるので 電子の昇位によるエネルギー上昇分を差し引いても 全体的にはエネルギーが安定化 ( 低下 ) するためこのようなことが生じるのである さて なぜ軌道を混ぜ合わせるとあのような形の軌道ができるのであろうか これについては波動関数がどのようなものかがわかっていれば理解できるであろう 先に勉強したように ここでいう波動関数は一つの電子に関する波動関数で 電子の座標 ( z) が決まればその値が決まるような関数であった 波動関数の値がある一定となる点を結んでいくと よく見る s 軌道や p 軌道の形となるのであった 実は下の式のように三つの関数 Ψ ~Ψ を s 軌道と p 軌道の波動関数を使って定義すればこれが つの sp 混成軌道となる 平方根のついた係数がついているが ここでは細かいことは無視して 符号だけ考えてもらおう s 軌道は原点を中心に球形に広がり 空間中のどの点においても正の値を取ること p 軌道は >0 の領域では正であるが <0 の領域では負となることを思い出せば s 軌道の波動関数 Ψs と p 軌道の波動関数 Ψp の和 ( 最初の式 ) は >0 の領域では正の大きな値となり <0 の領域では s 軌道と p 軌道の関数の値がうち消しあって値は 0 に近くなってしまうことが理解できよう このあたりは ecel を使って体感することもできる ( 興味ある人はアップロードしてある ecel ファイルを参照 ) - p p p p p (Ψs Ψp Ψp はそれぞれ s 軌道 p 軌道 p 軌道の波動関数を表す 規格化のための係数は省略してある ) 番目と 番目の軌道は p 軌道の符号が逆でさらに p 軌道も使っている 符号が逆 ( 波動関数の引き算 ) ということは p 軌道の符号を逆転させ ( 図では赤と青を入れ替えるということ ) てから 加えればいいので 最初の Ψ と異なり <0 の領域で大きな値となる p 軌道の成分を加えると 斜め上方向に大きな値の領域がくることがイメージできれば OK さて そもそも軌道を混ぜて別の軌道を作るなどということをやってしまっていいのかという疑問をもったとしたら なかなかするどいが これにうまく答えるのは難しい ) 多重結合窒素分子の多重結合については図を参照 紙面で左右方向が 軸とすれば p 軌道同士は大きく重なるので強い結合となる この結合の部分は結合する原子核のちょうど中間で軌道が重なり σ 結合と呼ばれる 水素分子や水分子 きちんと理解するには波動関数が規格直交系を満たすということを理解する必要がある 簡単にいうと以下のとおり 例えば 三次元空間内の任意のベクトルは z 方向の単位ベクトルを元にこれらに係数をかけて足しあわすことで表現ができるが 三つの直交する単位ベクトルは何も座標軸 z 軸の方向に一致させなくても 適当な方向の三つの直交するベクトルをもとにして表現ができるのと同じことである つまり原子や分子中の波動関数はいずれにせよ何か基準となる波動関数の足し合わせで表現できるものであり たとえば基準の関数として s と p p を使わなくても 例えば sp 混成軌道を使ってもよいということである ここは詳しく勉強したい人は物理化学の教科書を見て頂くことにして ともかくもとの関数を足したり引いたりして もとの関数と同じ数の混成軌道ができると思ってもらいたい 例えば s 軌道 つと p 軌道 つを混ぜると 4 つの sp 混成軌道ができる 基本的な混成軌道と分子の例は図に示したとおり

アンモニアなどこれまで説明してきた共有結合はすべて σ 結合である それに対し p p z 軌道同士は 原子核間とは離れたところ か所で重なり π 結合と呼ばれる 後者の場合 重なってできた軌道 ( すなわち波動関数 ) は原子を挟んで符号が異なることに注意 また π 結合は明かに σ 結合よりは軌道の重なりが少ないために結合力は弱い よって窒素は三重結合であるが 単結合の 倍強いわけではない p 軌道からできる π 結合の軌道と pz 軌道からできる π 結合の軌道は互いに直交していることにも注意せよ 資料の図はわかりにくかったかもしれない 別の書き方で示すと右のようになる 重結合の内 本は 方向に延びる p 軌道同士の重なりで これは上の例と同様 σ 結合である 残りの 本はどうなっているかというと p 軌道同士と pz 軌道同士の重なりによっている 右下の図は p 軌道同士の重なりを示している p 軌道は実際には右の図に書いたよりは幅広い形をしているので ( 幅広く書くと図がごちゃごちゃしてしまうので スマートに書くことが多い )p 軌道は結合の方向とは 90 異なる方向を向いているにもかかわらず右下の図のように若干重なることができる カ所の重なりで 本の結合であることに注意 同様に pz 軌道同士も重なり それによってもう 本の π 結合ができる p 軌道 z 窒素分子の結合 まとめると 窒素分子の場合 本の σ 結合と 本の π 結合合わせて 本の結合があることになる 分子軌道法分子軌道法は最近結合を考える時に 最も普通に使われる理 p 軌道論である この方法は これまでに説明してきた 個の電子を持つ p 軌道同士の結合をz 軸方向から見た図原子の軌道同士が結合するという考え方とは全く異なる考え方であるが これを使って計算すると分子の様々な性質 ( 構造 色 反応など ) を予測することができ 多くの化学者が利用している ここでは主に水素分子とヘリウム分子の分子軌道法による定性的な理解にとどめる 分子軌道法とは 原子の回りには電子の軌道があって電子はそこに分布している のと同じように 分子の回りには電子の軌道があって電子はそこに分布している とする考え方である 分子軌道には エネルギーの低い方から 個ずつ電子が入っていく ことは原子の周りの電子の軌道と同じである ただし 分子のまわりの軌道は構成する原子の波動関数の足しあわせで近似的に表す 方法が主流である 例えば水素分子の場合は 構成する つの水素原子のs 軌道の波動関数をそれぞれΨ とΨ とすると 水素分子の波動関数 ( 分子軌道という ) は Ψ=aΨ + bψ と表されると考え a, b を数学的に求める 途中は省略するが この考え方で水素分子の中の電子の波動関数を求めると解が つ求まり エネルギーの低い方の解は a = b = [ ある定数 ] であり もとの水素原子のs 軌道より少しエネルギーが低くなる もう一つの解は a = -b = [ 別の定数 ] となり もとの水素原子のs 軌道より少しエネルギーが高くなる つまり低いエネルギーの波動関数は つの水素原子のs 軌道の波動関数を足しあわせた形であり もう一つは引き算した形となっている それぞれの波動関数の形は資料の図に示したとおり このような状況ではエネルギーの様子は下図のようになり水素分子では 生成した分子軌道にエネルギーの低い方から 個の電子が入ることになる つまりもとの原子状態よりも分子を作った方が電子のエネルギーが下がることになり これによって分子には結合力が生じることになる ヘリウムの場合も同様に分子軌道ができるが 価電子が 4 個あるので s 原子軌道よりエネルギーの低い分子軌道にも 高い分子軌道にも両方 個ずつ電子が入ることになり 結局 4 個の電子の全体のエネルギーは結合を作っても変わらないことになる ( 実際には高いエネルギーの方の分子軌道のエネルギーは図で書いたよりも高いために 分子を作ると元の原子の状態より高エネルギーとなってしまう ) そのためにヘリウムは単原子分子となる もう少し複雑な多くの化合物は 電子が 個ずつ入る分子軌道を多数持っており エネルギーの低い方から 個ずつ電子が入ることになる 例えば水分子の場合は価電子だけ考えると 8 個あるので 下から 4 つめの分子軌道まで電子が詰まることになる

問題. 代表的な混成軌道の形と分子の例を書け. [ 発展 ]sp sp 混成軌道の成立の式を調べ 軌道の方向を理解せよ. 窒素分子の電子式を書き 多重結合を説明せよ. 4. 無機化合物の二重結合の例を挙げ どのように説明すればよいか考えよ 5. なぜ H 分子は存在するのに He 分子は存在しないのか考えよ