2012.10.13 第 34 回京阪血液研究会松下記念病院 確定診断が得られなかった MF から移行した血液疾患症例 高知医療センター SRL 検査室 根来利次 筒井敬太 筒井義和 福留由香里 山崎喜美高知医療センター 血液内科上村由樹 今井利 町田拓哉 駒越翔山根春那 橋本幸星
患者 70 才代女性 主訴 2008 年 1 月頃 体重が 3kg 減少 多血症 白血球 血小板増加及び肝脾腫を認める 既往歴 胆嚢癌疑いで 22 年前 OP をしたが 何もなかった 術後麻酔の肝機能障害で 3 ヶ月入院 卵巣嚢腫 子宮筋腫で手術あり 現病歴 以前から高血圧症で治療中の方で 多血症 白血球 血小板増加及び肝脾腫を認める CT では肝脾腫 左腎嚢胞が疑われ 肝疾患 血液疾患など鑑別を要する状態である 家族歴 特になし 身長 157Cm 体重 53.0Kg 血圧 119/87mmHg 体温 37.6 肝脾腫 : ありリンパ線腫 : 触知せず老人性湿疹 : あり
初診時時のデータ (2008/1/18) WBC RBC Hgb Ht MCV MCH MCHC PLT St Seg Eo Ba Mo Ly Aly 10660 /μ L 499 10 4 /μ L 14.4 g/dl 45.4 91.0 fl 28.9 pg 31.7 57.6 10 4 /μ L 0.5 73.5 4.0 1.5 6.0 14.0 0.5 形態コメント記載なし PT PT PT-INR CEA CA19-9 HBsAg HCVAb 13.8 79.0 1.12 2.8 10.9 (-) (-) S ng/ml U/mL ミトコント リアAb 160 倍 ミトコント リアM2Ab (+) TP ALB AMY BUN Cre AST ALT LD γ GTP ALP CRP T-BIL D-BIL 7.5 4.0 83 16.2 0.9 44 34 499 542 841 0.14 1.1 0.3 g/dl g/dl mg/dl mg/dl mg/dl mg/dl mg/dl
臨床診断 抗ミトコント リア抗体 (160 倍 ) 抗ミトコント リア M2 抗体 (+) 体重 3kg 減少 皮膚掻痒あり CT にて肝脾腫あり 原発性胆汁性肝硬変症と診断され 特定疾患申請をする そうよう
2008 年 1 月より原発性胆汁性肝硬変症の診断でフォローしていたが 約 1 年後の 2009 年 3 月頃より 急激な肝脾腫と体重減少 (3 年前より 10kg 減少 ) と貧血が亢進する 消化器内科のデータ (2009/9/14 の貧血の亢進時 ) WBC RBC Hgb Ht MCV MCH MCHC PLT PT PT PT-INR 10590 308 8.9 29.0 94.2 28.9 30.7 24.7 13.9 83.1 1.10 /μ L 10 4 /μ L g/dl fl pg 10 4 /μ L S Blast Pro My Met St Seg Eo Ba Mo Ly (-) 3.5 4.5 2.5 64.0 4.5 4.0 4.5 12.5 形態コメント記載なし TP ALB T-BIL D-BIL Ch-E AST ALT LD γ GTP ALP CRP 7.1 4.0 0.9 0.3 184 27 15 833 156 727 0.14 g/dl g/dl mg/dl mg/dl mg/dl
11 月に消化器内科から 末梢血に Ba がやや多いので骨髄増殖性疾患の疑いで血液内科へ紹介となる WBC RBC Hgb Ht MCV MCH MCHC PLT PT PT PT-INR APTT Fib HPT D ダイマー 14660 330 9.5 31.4 95.2 28.8 30.3 38.3 14.1 77.8 1.15 33.9 228 71 1.0 /μ L 10 4 /μ L g/dl fl pg 10 4 /μ L S S μ g/ml μ g/ml 血液内科のデータ (2009/11/30) Blast (-) Pro My 1.0 Met 1.0 St 3.0 Seg 74.0 Eo 1.5 Ba 4.0 Mo 1.0 Ly 14.5 Aly 0.5 形態コメント記載なし ALP 染色 0 型 1 型 2 型 3 型 4 型 5 型 陽性率陽性指数 3 3 9 21 38 26 97 366
TP ALB T-BIL D-BIL Ch-E AST ALT LD γ GTP ALP CRP 7.1 4.0 0.9 0.3 184 27 15 833 156 727 0.14 g/dl g/dl mg/dl mg/dl mg/dl (2009/11/30) ビタミン B12 LDH-1 LDH-2 LDH-3 LDH-4 LDH-5 19.1 40.1 27.4 8.9 4.5 LDH アイソザイム ALP アイソザイム ALP-1 ALP-2 ALP-3 ALP-4 ALP-5 ALP-6 2.3 34.2 60.9 0.0 2.6 0.0 SIL2-R 1390 pg/ml 1630 U/mL フェリチン 204 ng/ml 末梢血好中球 BCR/ABL[t(9;22)] 認めません血液内科のデータ
CBC の変化 初診時貧血亢進時血内紹介時 今回の症例提示 WBC RBC Hgb Ht MCV MCH MCHC PLT (2008/1/18) (2009/9/14) 10660 499 14.4 45.4 91.0 28.9 31.7 57.6 10590 308 8.9 29.0 94.2 28.9 30.7 24.7 (2009/11/30) 14660 330 9.5 31.4 95.2 28.8 30.3 38.3 (2012/6/19) 2730 759 18.3 55.5 73.1 24.1 33.0 13.5 /μ L 10 4 /μ L g/dl fl pg 10 4 /μ L 原発性胆汁性 肝硬変症 骨髄増殖性疾患 の疑い 骨髄増殖性疾患の疑い? 画像診断 肝脾腫が見られます 脾臓には肝の生理的集積と同等の FDG 集積が見られます 全脊椎 胸骨 骨盤骨 両側上腕骨 両側大腿骨にびまん性 FDG 集積が見られます 両側耳下腺部に FDG 集積を伴う小結節が数箇所見られます 耳下腺腫 耳下腺内リンパ節鑑別で来ません 両側頚部 縦隔 両側えきか 腹部 骨盤内 両側そけいリンパ節に腫大や FDG 異常集積は見られません 悪性リンパ節の診断がついているのであれば stageⅣ です 悪性リンパ腫の疑いです
骨髄像 血内紹介時 100
骨髄像 血内紹介時 100
骨髄像 血内紹介時 400
骨髄像 血内紹介時 400
骨髄検査 (2009/11/30) 血内紹介時 NCC Mgk M/E 比 21000 250 6.5 /μ L /μ L 末梢血の混入です末梢血と骨髄共に Ba の増加を認め 巨核球が増加しており 何らかの骨髄増殖性疾患の疑いがあります 骨髄生検 Blast Pro Myelo Meta St Seg Eo Ba Mono Lym Plasma Reti 0.0 1.2 6.8 10.0 14.8 35.2 1.2 1.2 4.4 13.6 0.0 0.8 Pro-E baso poly Ortho 0.0 0.4 10.0 0.4 11 月 30 日の骨髄穿刺で特異的な検査結果が得られなかったため 再度 骨髄生検を行い 骨髄線維症の範疇としてよい像であると診断される
経過 2009 年 12 月 28 日ハイドレア500mg 2C/dayを開始 血球の減少と共にLDの低下 脾腫の縮小を認める 2010 年 1 月 13 日汎血球減少が進行 1 月 20 日ハイドレア500mg 1C/dayに減量するが 汎血球減少が亢進し LDも若干上昇する 1 月 27 日ハイドレアを中止するが 汎血球減少 貧血著明 2 月 3 日輸血を開始する 2 月 10 日頃より血小板が回復傾向 2 月 22 日汎血球減少が回復し 再度ハイドレア500mg 1C/day 開始する 3 月 1 日 LDが上昇傾向でハイドレア500mg 1C/dayではLDの上昇を止められないため ハイドレア500mg 1C/dayとハイドレア500mg 2C/dayの交互投与を開始する
経過 2010 年 3 月 15 日汎血球減少が改善され 脾腫も触知せず 安定しているためハイドレアを減量し 様子を見る 2011 年 9 月頃より ( 約 1 年半後 ) 汎血球減少が亢進し LDも若干上昇するため ハイドレアを中止する 10 月 24 日ハイドレアを中止するが汎血球減少のため 骨髄穿刺を施行するが吸引不可であるため 生検のタッチでカウントする Blastが4.2,E 系が81.2 のため MDSを疑う 染色体は正常核型であったが JAK2mutetionが陽性であるため MPNを疑う所見である 11 月 14 日胃カメラにて早期胃癌が見つかる ホモ変異型 11 月 25 日骨髄穿刺を施行する Blastが6.2,E 系が48.8 で (RAEB-1?) を疑う MFに伴うBlastの増加と考える (NCCが5.8 万 )
経過 2011 年 12 月 6 日骨髄穿刺を施行する Blast が 8.4,E 系が 49.6 で (RAEB-1?) を疑う MF に伴う Blast の増加と考える (NCC が 5.6 万 ) 2012 年 1 月 4 日骨髄穿刺を施行する Blast が 10.0,E 系が 69.0 で (RAEB-2? M6?) を疑い CAG 療法開始 (NCC が 14.1 万 ) 1 月 31 日 CAG 療法後の血球の立ち上がりが遅いため 再度骨髄穿刺を施行する Blast の増加傾 向はなく無顆粒球症様になっているが 回復傾向にあると思われる (NCC が 0.4 万 ) 2 月 22 日骨髄穿刺を施行する Blast の増加傾向はなく回復傾向にあり プリモボランの投与開始する (NCC が 2.4 万 ) 5 月 16 日多血症が進むため プリモボランの投与中止する 末梢血の Blast も増加傾向 その後 RBC の増加に相関して Blast が増加する 6 月 20 日骨髄穿刺を施行する Blast が 10.2 E 系が 78.6 を認める (NCC が 18.1 万 )
多血症と末梢血で Blast が 10 認め 緊急入院時 今回の症例提示 WBC RBC Hgb Ht MCV MCH MCHC PLT PT PT PT-INR APTT 2730 759 18.3 55.5 73.1 24.1 33.0 13.5 13.8 65.7 1.18 32.1 /μ L 10 4 /μ L g/dl fl pg 10 4 /μ L S S 血液内科のデータ (2012/6/19) Blast 10.0 Pro My Met St 1.0 Seg 35.5 Eo 1.0 Ba 0.5 Mo 1.5 Ly 52.5 Aly 大小不同 Gluco Ch-E AST ALT LD γ GTP ALP CRP T-BIL D-BIL 124 179 40 15 776 105 378 0.9 1.0 0.4 mg/dl mg/dl mg/dl mg/dl 巨大血小板
NCC Mgk M/E 比 181000 13 0.2 /μ L /μ L 骨髄検査 Pro-E baso poly Ortho 1.0 4.2 73.0 0.4 Blast Pro Myelo Meta St Seg Eo Ba Mono Lym Plasma Reti 10.2 1.0 1.4 0.2 1.6 2.4 0.2 0.0 0.0 4.2 0.0 0.2 (2012/6/20) 染色体 : 正常核型 CD1 CD2 CD3 CD4 CD5 CD7 CD8 CD10 CD19 CD20 CD13 CD14 CD33 CD41 GP-A CD34 CD56 HLA-DR 1.1 3.3 1.4 1.5 1.4 15.5 1.3 10.6 3.3 3.5 60.1 1.1 8.1 10.0 5.2 64.7 1.1 88.8 表面マーカー検査 ANC 10.2 NEC 59 Blast Pox 陽性今回の症例提示
400 末梢血 今回の症例提示
400 末梢血 今回の症例提示
1000 骨髄像 今回の症例提示
1000 骨髄像 今回の症例提示
400 骨髄像 今回の症例提示
1000 骨髄像 今回の症例提示
1000 骨髄像 今回の症例提示
1000 骨髄像 (Pox 染色 ) 今回の症例提示
ハイドレア 500 mg 2C CAG 療法 CAG 療法 プリモボラン 末梢に Blast10 出現 JAK2 変異陽性 小数点
RBC 数と Blast の推移 ハイドレア 500 mg 2C CAG 療法プリモボラン CAG 療法 今回の症例提示
JAK2 遺伝子変異 エリスロポエチン受容体のシグナルをつかさどる JAK2(Janus activating kinase 2) の1,849 番目のグアニンがチミンに1 塩基置換 (exon 14 G1849T) することにより 617 番目のフェニールアラニンがバリンに置換した (JAK2V617F) 結果 野生型ではエリスロポエチン刺激により始めて生じるシグナル伝達が エリスロポエチンの非存在下でシグナル伝達が進行するようになり 細胞増殖を促がされる
JAK2 遺伝子変異 骨髄増殖性腫瘍における JAK2V617F(exon14 変異 ) の診 断的価値は極めて高く また JAK2V617F 変異の量的 に意義がある 赤血球増加症における JAK2 exon12 変異も明らかにな りつつある
JAK2 遺伝子変異解析 JAK2 V617F(GTC TTC) 変異を認める 判定 (3+) 遺伝子型 野生型 ヘテロ変異型 ホモ変異型 (G/G) (G/T) (T/T) PV では 95 以上の症例に JAK2 遺伝子変異が認められ ホモ変異型の症例が 3 分の 2 を占める ET や PMF の約 50 の症例に JAK2 遺伝子変異が認められ 殆どがヘテロ変異型である
考察 MFでハイドレア投与中にBlast crisisをおこし CAG 療法にて寛解となったが 貧血が亢進するためにプリモボランを投与した その後 多血症となり赤血球数の増加と相関して Blastが徐々に増加するため骨髄穿刺を施行するとM6a 様であった
まとめ 1. 本来 PMF や PV 等の急性転化時は赤血球の寿命の短縮により貧血が亢進するが 本症例は貧血を認めず逆に赤血球の増加を認めため 急性白血病様の判断が困難であった 2. 本症例は JAK2T/T 変異 ( ホモ変異型 ) で PMF 様の経過を辿り白血病化したと思われる 3. JAK2V617F 陽性の PV では抗悪性腫瘍薬による治療の必要性が高く 骨髄線維や白血病への移行頻度が高い 4. 貧血の改善薬であるプリモボランの投与で MF の急性転化後に RBC が 759 万 /μl Hg が 18.3 g/dl まで増加し 同時に急性白血病様になった そのためプリモボランで文献検索したが 関与を示す報告はなかった
ご清聴ありがとうございました 高知医療センター 血液内科の先生と SRL 検査室のメンバーです