3. ポアンカレ円盤上の 次分数変換この節以降では, 単に双曲的直線, 双曲的円などといえば, 全てポアンカレ円盤上の基本図形とします. また, 点 と点 B のポアンカレ円盤上での双曲的距離を,[,B] と表します. 3. 双曲的垂直 等分線 ユークリッドの原論 において 円 双曲的円, 直線 双曲的直線 の置き換えを行うだけで, 双曲的垂直 等分線, 双曲的内心, 双曲的外心などを 機械的に ( ユークリッド平面の場合と全く同様に ) 作図できます. ここでは, 双曲的垂直二等分線を調べます. 3. 双曲的垂直二等分線の作図点 を中心とし点 B を通る双曲的円 C と, 点 B を通り点 を通る双曲的円 C の二つの交点 P,Q を通る双曲的直線 を引けば, は 点,B の双曲的垂直二等分線となります. ユークリッド平面の場合と全く同様に作図できます. C P P Q B C B Q - ポアンカレ円盤における双曲的垂直二等分線 ユークリッド平面における垂直二等分線 CabrⅡ による検証,B, を Drag してください.( はつまんで Drag して下さい ) perp_bsector.html
3-. 原点 と点 の垂直二等分線に関する鏡像以下, この後の節で使う 原点 と点 の双曲的垂直二等分線 ( 下図の青色 ) の式を調べます. をポアンカレ円盤, を通り に垂直な直線と の交点の つを C, この点 C において と直交する円を, の中心を D, と線分 D の交点を E とします. このとき CD CD より, D : CD=CD : Dó D D=CD よって, 点 と点 は, 円 に関し互いに鏡像 です. 点 E の に関する鏡像は E だから, 双曲的線分 E の に関する鏡像は線分 E に, また双曲的角 CE の に関する鏡像は CED となります. 故に, C [,E]=[E,] かつ CE=90 E D 即ち, は と の双曲的垂直二等分線となります. C' ところが, 同様に C CD から, 点 と点 D は, 円 に関し互いに鏡像となります. 以上から, がポアンカレ円盤, と ( ) の双曲的 等分線を, その半径を R とすると, の中心は D R, D C = = よって, に関する鏡像を g とすると, R g ( ) = g( ) = + = + = = ( ) ( ) 即ち, と ( ) の双曲的垂直二等分線 に関する鏡像を g とすると, g ( ) = 注 いま を 原点 を通らない任意の双曲的直線 とする時, の に関する鏡像を とすると, は線分 の双曲的垂直 等分線になっています. 即ち, を適当に取ることにより, は を通らない任意の双曲的直線を表わすことができます.
3-3. 原点 を通る直線に関する鏡像複素数平面で原点を通り, 実軸から θ 回転した直線を l, l に関する の鏡像を β とします. このとき, と β のなす角は θ となるので, β (cos sn ) β = θ + θ = e θ θ となります. すなわち, θ θ β y ( tan θ) x 線称 ó β e ó e β とが = について対 = = 3
3-. 次分数変換 3-. 一次分数変換の式 ポアンカレ円盤での 向きを変えない合同変換 T は,H + での 向きを変えない合同変換 T に対応します. 即ち, ポアンカレ円盤上の点 ω を, Mebus-Caley 変換 f の逆変換 : f ( ω) : = ω + T() によって H + 上の点 に移し, それを H + 上の一次分数変換 : a + b T ( ) = c + d ( abcd,,, は実数, ad bc > 0 ) w T(w) で変換し, さらにそれを f によってポアンカレ円盤上の点 ( ) 実際に計算して, T ω に戻す変換が T です. - ( a d b c) ω ( a d b c) T( ω) = f T f ( ω)= + + + + + ( a + d b c ) ω + ( a d + b c ) ここで, p = a d b+ c, q = a+ d + b+ cとおくと, p, q は複素数で pω + q T ( ω) = qω + p. 但し, p q = ( ad bc) > 0 (*) 分母 分子を p で割り, q p p θ =, = (cosθ + sn θ) = e とおくと,, θ p < は実数となり, p p q q ω+ ω+ p p p p p θ ω T ( ω) = = = e ( <, θ R) (**) q ω + p q ω p ω+ p 即ち, ポアンカレ円盤内の任意の点を改めて と表すと, 円盤内の一次分数変換は, p + q T ( ) = ( p > q ) (*) q + p θ T( ) = e ( <, θ R) (* *) (*) と (**) の同値な つの形で表せる事がわかりました.( 鏡像原理 を用いてもできます.)
3--. 一次分数変換の分解 3-. の一次分数変換 : θ T( ) = e ( <, θ R) (**) の図形的な意味を考えます. と ( ) の双曲的垂直二等分線 に関する鏡像を g とすると,より, g = = φ ( ) =e ( 但し φ arg ) θ θ 一方, 実軸正方向からの回転角が arg + = φ+ である原点を通る直線 M に関する対称移動を h とすると 3より, さらに g と h を合成すると, 故に h g = T となります! 即ち, θ φ+ ( φ+ θ) h ( ) = e = e ( φ+ θ) ( φ+ θ) φ ( φ+ θ) φ θ h g( ) = e g ( ) = e e = e e = e = T ( ) θ f : e は, と の双曲的 等分線 に関する鏡像 と, θ 直線 を, 原点の周りに回転した直線 M に関する鏡像 の合成です. 注 右図では, φ M に関する Mに関する 鏡像鏡像 - CabrⅡによる検証,M,, 単位円を Drag してください.( 単位円はつまんで Drag して下さい ). ω = θ となることを確認してください. symmetrcs.html ω = です.
3--3. 分解できる理由なぜ ( 原点を通らない円 ) に関する鏡像と M( 原点を通る線分 ) に関する鏡像の合成に分解できるのでしょうか? ポアンカレ上半平面 H + 上の 点 を通る直線 は C Mebus-Caley 変換 : f : + C' により, ポアンカレ円盤上の 原点を通る直線 に移ります. ( f() =, f( ) = ) CabrⅡ による検証 lne through.html - 一方,H + での 向きを変えない双曲的合同変換 = 一次分数変換 ( 合同変換の分子 ) は, 双曲的直線 l, m に関する鏡像 ( 合同変換の原子 ) を合成した変換 です. そして m を 点 を通る直線 に固定しても,l を適当に取ると,l, m に関する鏡像の合成は, 任意の一次分数変換を表せます. したがって,l, m の Mebus-Caley 変換による像を,M とすると, ポアンカレ円盤上の一次分数変換は, に関する鏡像と M に関する鏡像の合成に分解できます. このとき, つの円の位置関係 ( 点で交わる, 接する, 離れる ) は,Mebus-Caley 変換によって変わらないので, H + 上と同様ポアンカレ円盤上でも, が成り立ちます. lm, が点 で交わるólm, の合成はを回転の中心とする楕円的移動 lm, が交点を持たないólm, の合成は双曲的移動 lm, が双曲的平行 ólm, の合成は放物的移動
以下の例 ~3 で, 細線の円弧は H + 上の, 太線の円弧と線分は, ポアンカレ円盤上の双曲的直線です. l に関す m に関す青い細線を l, 緑の細線を m, 青い太線を, 緑の太線を M とします. る鏡像る鏡像 は, H + 上の点列です. 点, k, l, m の Mebus-Caley 変換による像を ω, ω k,,m とすると, 鏡像原理より, に関する Mに関する ω ω ω 鏡像鏡像 です. また, 点 ' のように ' をつけた点は, H + 上の点 を Mebus-Caley 変換で, ポアンカレ円盤上に移した点とします. 例. 楕円的移動 ( 双曲的回転移動 ) H + 上の 点 が中心の θ の双曲的回転 は で θ の角で交わる 本の双曲的直線 l, m に関する鏡像の合成 なので, m として, 点 と点 を通る双曲的直線を取れます. l を適当に取ると l と m が θ の角度で交わるようにできて,l と m の合成は を中心とする θ の回転 となります. また と M は点 で θ の角で交わり, かつ M は線分です. m l w ' w w M - CabrⅡ による検証,B,C,, 単位 を drag してください. rotaton.html
例. 双曲的移動 H + 上の 点 と点 B を固定点とする双曲的移動 は,B からの距離の比が一定なアポロニウスの円 l, m に関する鏡像の合成 で表せます. このようなアポロニウスの円のうち, 点 を通る円を m と取ります. この時, l を適当に取ると,l と m の合成は, 点,B を固定点とする任意の双曲的一次変換を表します. M は線分となり, と M は交わりません. m ' w w w B' l B M - P 注 l 上に点 P を, m 上に点 Q をとり, =R BP R R [, ]= log =log R R Q, =R BQ とすると, と の双曲的距離は となります. よって l を適当に変えると R が変わり,[, ] が任意の値を取 れます. すなわち, l を適当に変えるだけで,,B を固定点とする任意の双曲的一次変換が作れます. CabrⅡ による検証,B,C,, 単位 を drag してください. hyperbolc.html
例 3. 放物的移動 H + 上の 点 で実軸と接する極限円に沿った放物的移動 は 点 で接する 円 l, m に関する鏡像の合成 です. m として, 点 と点 を通る双曲的直線を取ります. この時 l を適当に取れば, l と m の合成は, 点 で接する極限円に沿った任意の放物的移動を表します. M は原点を通る線分で, と M は点 ' で接します. m ' w w w B' l B M - CabrⅡ による検証,B,C,, 単位 を drag してください. parabola.html