総 説 2018;25:3-11. 術後肺合併症を予防する周術期呼吸管理 大藤 純 要約 : 術後肺合併症 (postoperative pulmonary complication, PPC) は, 周術期死亡や合併症の主原因となる PPC は, 無気肺, 呼吸器感染症, 術後呼吸不全, 慢性肺疾患の急性増悪など多様な臨床的病態を含む PPC を予防する周術期呼吸管理として, 術中の肺保護戦略, 術後の肺拡張療法, 経鼻高流量酸素療法 (high flow nasal cannula, HFNC), 非侵襲的陽圧換気 (noninvasive positive pressure ventilation, NPPV) がある 肺保護戦略では, 低容量換気単独よりも PEEP および肺リクルートメント手技を併用する管理が有効である 肺拡張療法では, 早期離床や肺理学療法, 口腔衛生による複合的治療が有効である HFNC は, 忍容性は高いが PEEP 効果は低いため,PPC 高リスク患者には適さない NPPV は肺リクルートメント効果に優れ,PPC 高リスク患者の挿管回避や肺炎予防に有効であるが, 忍容性は低く長期使用は困難である また, 術後呼吸不全への HFNC および NPPV の使用中は, 適切な再挿管の時期を逸しないよう, 注意深い観察を要する Key words: 1postoperative pulmonary complications, 2postoperative respiratory failure, 3 atelectasis, 4 high flow nasal cannula, 5 noninvasive positive pressure ventilation Ⅰ. はじめに Ⅱ. 術後肺合併症の定義 術後肺合併症 (postoperative pulmonary complication, PPC) は, 周術期死亡や合併症と関連し 1), 発症頻度は術式や定義により大きく異なり,5 80% とされる 2) National Surgical Quality Improvement Program(NSQIP) のデータによると, 開腹術後の PPC 発症率は 5.8% であり 3), また非心臓手術後を対象とした系統的レビューでは, 非心臓外科術後のPPC 発症率は6.8% と報告されている 4) PPCは循環器系合併症や血栓性合併症, 術後感染症など, 他の術後合併症と比較して, 最も高額な医療費と長期の入院期間を必要とするため 5), その対策は重要である 本稿では, PPC の病態生理や危険因子について整理し,PPC 予防対策として, 主に術中および術後の呼吸管理について述べる PPCは, 術中から術後にかけて新たに発生した呼吸器系病変や呼吸機能の異常であり, 一般的には無気肺, 肺炎などの呼吸器感染症, 気管支攣縮, 低酸素血症, 慢性肺疾患の増悪, 術後呼吸不全など多様な疾患や病態が含まれる 6) 術後呼吸不全とは, 術後 48 時間以上人工呼吸を必要とするもの, または再挿管を必要とするもの, と定義されることが多い 6) Ⅲ. 周術期の呼吸機能の変化術中操作による肺の圧迫や術後の疼痛, 手術侵襲による横隔膜機能不全, 胸水貯留など, 様々な原因で肺容積は減少し,PPC 発症の誘発因子となる 胸部手術や腹部手術後のvital capacity(vc) は50 60% 低下し, また機能的残気量 (functional residual capacity, FRC) は30% 低下し, その回復に1 週間程度を要する 7),8) FRCがclosing capacity(cc) を下回ると無気 徳島大学病院 ER 災害医療診療部 受付日 2017 年 6 月 29 日 ( 770-8503 徳島県徳島市蔵本町 2-50-1) 採択日 2017 年 7 月 3 日 -3-
日集中医誌 J Jpn Soc Intensive Care Med Vol. 25 No. 1 肺を形成し, 換気 血流比不均衡分布により低酸素血症を来す また無気肺部分では細菌の増殖を促し肺炎発症の温床となる 9) その他, 術中の麻酔薬や筋弛緩薬, 術後疼痛管理に使用するオピオイドなどの影響により咳嗽反射の減弱や繊毛運動機能低下が起こると, 気道分泌物排泄困難となり術後肺炎のリスクが高まる 10) 無気肺の形成は, 全身麻酔導入の直後から始まり, 術後 24 時間から48 時間で最大となる 11) つまり術後回復室から一般病棟へ転棟した後, あるいは術後 ICU で早期抜管した後に, 術後呼吸不全が増悪する可能性があることに注意が必要である Ⅳ. 術後肺合併症の危険因子 PPC の危険因子を認識しておくことは,PPC の高リスク患者を早期に選定し, 予防策を講じる上で重要である PPCの危険因子は, 主に患者因子と手術因子に分けられるが, 患者因子よりも手術因子の影響が大きい 米国内科学会 (American College of Physicians, ACP) ガイドラインによると, 患者因子としては, 加齢 (60 歳未満と比較して,60 69 歳 :OR 2.28,70 79 歳 :OR 3.90,80 89 歳 :OR 5.63),ASA-PS (American Society of Anesthesiologists physical status) 2(OR 2.55 4.87), 慢性心不全 (OR 2.93), COPD(chronic obstructive pulmonary diseases)(or 2.36), 機能的自立度の低下 (OR 1.65 2.51), 喫煙 (OR 1.26), 低栄養 (albumin < 3.0 g/dl:or 2.53) などがある 4) 他に睡眠時無呼吸症候群 12), 肺高血圧症 13),14), 手術 1か月前の気道感染 15) もPPCリスク因子とされる 肥満患者は, 胸郭コンプライアンスの低下により肺容積の減少を生じやすく低酸素血症のリスクが高いが,PPC の危険因子であることは証明されていない 4) またコントロールの良い喘息もPPC 危険因子とされていない 4) 手術因子では, 腹部大動脈瘤手術 (OR 6.90), 胸部手術 (OR 4.24), 上腹部手術 (OR 2.96), 脳外科手術 (OR 2.53), 緊急手術 (OR 2.52), 頭頸部手術 (OR 2.21), 長時間手術 ( 2.5 時間以上 )(OR 2.26), 全身麻酔 (OR 2.35) などがある 4) 特に胸部や上腹部手術など比較的横隔膜に近い手術では, 創部痛による横隔膜機能不全, 肋間筋や腹筋群の手術による離断などから呼吸筋の筋力低下を来し, 随意的な深呼吸や咳嗽が減弱することで無気肺形成の原因となりやすい PPCを予測する術前検査では,SpO2 測定が,PPC 発症リスクの層別化に有用とされる 仰臥位, 安静時 の室内気での測定で,SpO2 96% の患者と比較して, SpO2 91 95% ではPPC 発症頻度は2 倍となり,SpO2 90% では10 倍となる 15) 一方, スパイロメーターによる呼吸機能検査, 動脈血ガス分析, 胸部 X 線検査は, PPC 予測に必ずしも有用ではなく必須の検査ではない 6) ただし, 慢性肺疾患 (COPDや喘息) の状態評価や身体診察上で心肺機能の低下が予測される場合 ( 原因不明の息切れ, 咳, 運動不耐など ) には施行すべきである 6) PPCの予測スコアは,ARISCAT PPC score,gupta calculator(postoperative respiratory failure,postoperative pneumonia) などがある ARISCAT PPC scoreは,2,464 名の非心臓手術患者のデータを基に作成されたもので, 各評価項目 ( 年齢, 術前 SpO2 値, 最近の呼吸器感染症の有無, 手術部位と時間, 緊急手術 ) について点数化し, その合計点でPPC 発症リスクを low,medium,high riskの3 段階に層別化できる 15) スコアリングも比較的容易で使用しやすく, その有用性は欧州における5,099 名の非心臓手術患者を対象としたコホート研究で証明されている 16) Gupta calculatorは, 米国外科学会 (American College of Surgeons, ACS) の手術の質改善プログラムのデータを基に作成されたもので, 術後 48 時間以内の呼吸不全発症率 17) や術後肺炎の発症率 18) を予測できる 専用のスコアリングソフトをダウンロードし, 術式, ASA-PS 分類, 機能的自立度, 術前敗血症の有無などの情報を入力すれば簡便に算出できる Ⅴ. 周術期の術後肺合併症予防対策 PPC 予防策で最も重要なことは,PPC 発症のリスクを事前に予測し, 合併症対策を行うことである その対策は術前から開始されるべきである 術前の禁煙 (8 週間以上 ) や呼吸機能訓練, 慢性肺疾患や心不全のコントロール, 術後に行われる肺拡張療法や早期離床に関する術前教育などが重要である 6) また術中の対策として, 肺保護戦略に即した人工呼吸管理や麻酔方法の選択 ( 不要な全身麻酔を避ける, 硬膜外麻酔の併用, 短時間作用型の筋弛緩薬の選択など ) がある 6) 術後対策としては, 抜管までの肺保護的換気の継続と適切な抜管時期の判断, また抜管後の無気肺を予防する深呼吸療法やインセンティブスパイロメトリー (incentive spirometry, IS) などの肺拡張療法, 早期離床やリハビリテーション, 適切な疼痛管理などが重要である 6) 術後に肺拡張療法が十分に施行できない症例, あるいは慢性呼吸器疾患や心不全などを基 -4-
術後肺合併症に対する呼吸管理 礎疾患に持つ症例では, 経鼻高流量酸素療法 (high flow nasal cannula, HFNC) や非侵襲的陽圧換気 (noninvasive positive pressure ventilation, NPPV) な どの呼吸補助が有効である 以下, 術中の肺保護的換気, また抜管後の呼吸管理 として, 肺拡張療法,HFNC,NPPV の有用性や問題点について述べる Ⅵ. 術中の肺保護的換気 (lung-protective ventilation) 術中は術操作による肺への物理的な圧迫, 高濃度酸素への曝露, 虚血再灌流, 一側肺換気, 人工心肺などの侵襲が肺に加わる また大きな1 回換気量 (tidal volume, VT) による肺の容量損傷, 高い気道内圧による圧損傷, また肺の虚脱と再開放を繰り返すことで生じる剪断力による無為肺損傷から急性肺傷害が進行し,PPC の発症リスクが高まる 19) 術中の肺虚脱と肺傷害を軽減する目的で行われるのが, 肺保護的換気である 肺保護的換気は, 低容量換気 (low tidal volume ventilation, LTVV), 気道内圧の制限, 適切な PEEP, 肺リクルートメント手技 (lung recruitment maneuver, LRM) など, いくつかの要素で成り立っている Futierら 20) は,PPC 発症リスクの危険因子が中等度から高度の腹部外科 400 症例を,VT 6 8 ml/kg 予測体重,PEEP 6 8 cmh2oおよび LRM で管理した群 (protective 群 ) とVT 10 12 ml/kg 予測体重,PEEP なしで管理した群 (non-protective 群 ) に分けてPPC を含む患者予後について比較した Protective 群では, PPC, 肺外合併症の頻度, 術後換気補助の必要性や入院期間において,non-protective 群と比較して改善を認めた ただし, 本研究結果からは,LTVV,PEEP あるいはLRMのいずれの因子が患者予後に影響したのかは不明である そこで, 肺保護的換気のそれぞれの要素についてPPCや患者予後に与える影響について述べる 1) 低容量換気 (LTVV) VTを制限し, 肺の容量損傷や剪断力による損傷を予防する換気法である LTVV は,ICU における人工呼吸管理では,ARDS(acute respiratory distress syndrome) 患者のみならず, 非 ARDS 患者においても肺合併症予防に有効とされる 21) 推奨されるVTは 6 8 ml/kg 予測体重程度とされる ただし, 手術患者の多くは健常な肺機能であり,ARDS 患者で認められる極度な呼気終末肺容積の減少症例 (end- expiratory lung volume, EELV:500 1,000 ml 程度 ) と比較すると,VT が肺に与える影響は少なく, その分 LTVVによる肺保護効果も少ない可能性がある Güldnerら 19) は,LTVV によるPPC 予防効果を評価した研究のメタ解析を行ったところ,LTVV 単独での PPC 予防効果は証明されず,LTVV にPEEPおよび LRMを併用した場合に, その効果を認めたと報告している またYangら 22) のメタ解析でも,LTVV 単独では, 無気肺や急性肺傷害は予防せず,PEEP とLRM を併用した場合に無気肺や急性肺傷害を予防したと報告している さらにLadhaら 23) は, 非心臓手術の全身麻酔およそ70,000 件の解析からは,LTVV(VT<10 ml/kg 予測体重 ) 単独でのPPC 予防効果はなく, LTVVにPEEP 5 cmh2oおよびプラトー圧 16 cmh2oで管理した場合に最もppc 発症が少ないと報告している またLTVVとlow PEEP(PEEP 4 cmh2o) の組み合わせでは, 術後患者の30 日死亡率が悪化したとの報告もあり 24),LTVV による肺保護作用は,LTVV 単独よりも中等度のPEEPを併用する方が効果的と思われる 2) 術中のPEEP 設定 PEEPは呼気終末に陽圧を維持することで肺の虚脱を防ぎ, 無気肺損傷を軽減する効果が期待される 術中の適切なPEEP 設定は, 各患者の体格あるいは術式などで異なり, 一律に決定するのは難しい 一般的に非肥満患者における末梢気道の維持に必要なPEEPは 6 8 cmh2o 程度, 肥満患者や腹腔鏡手術では PEEP 10 cmh2o 以上が必要と考えられている 25) de Jongら 26) の報告では, 約 11,000 件の上腹部手術および開頭術患者の術中 PEEP 設定の解析から, PEEP 5 cmh2oで管理した上腹部術後患者では PPC 発症が軽減し (OR 0.53, 95% CI 0.39 0.72), 入院期間は短縮した (OR 0.91, 95% CI 0.84 0.98) が, 開頭術後患者では関連がなかった 無気肺のリスクが上腹部手術で高く,PEEP が無気肺予防に効果的であることがうかがえる 一方,PROVHILO trial 27) では, 900 例の開腹術症例を対象に, 術中のLTVVに加えて PEEP 12 cmh2o とLRMを行う群 (high PEEP 群 ) と LTVVおよびPEEP 2 cmh2oでlrmを行わない群 (low PEEP 群 ) で術後 5 日間のPPC 発症頻度を比較しているが, 両群間に有意差はなかった またhigh PEEP 群では循環虚脱の頻度が有意に高かった 本研究では,ARISCAT PPC scoreにて PPC 中等度から高リスク患者が対象であったが, 患者の平均 BMIは25 kg/m 2 程度と低く, 高いPEEPを必要とする症例は少なかったと予測される 結果的にPEEP 12 cmh2oと -5-
日集中医誌 J Jpn Soc Intensive Care Med Vol. 25 No. 1 LRM の組み合わせは肺過膨張を惹起し,low PEEP 群と予後に差がつかなかった可能性がある 以上より, 非肥満患者ではPEEP 5 6 cmh2o 程度で開始すること, また肥満患者や低酸素血症の増悪など無気肺の進行が予測される症例においては, 循環動態を考慮しつつPEEP 10 cmh2oを用いて肺の虚脱予防に努めることが合理的と思われる 3) 肺リクルートメント手技 (LRM) 一度虚脱した肺を開放させるには高い気道内圧が必要となる LRM は虚脱した肺を再開放させるために, 一時的に高い気道内圧を用いる換気方法である 健常人で全身麻酔中に生じた虚脱肺の再開放には,30 40 cmh2oの気道内圧を少なくとも7 8 秒以上かける必要がある 肥満患者では,40 50 cmh2o の気道内圧が必要となる場合もある 28),29) LRM は, 高い胸腔内圧により静脈環流が制限され, 特に循環血液量が低下した症例では循環虚脱を起こしやすい また開放肺の過膨張や肺傷害の危険性があり,COPD など閉塞性肺疾患患者への使用は原則禁忌である さらに LRM 施行後は適切な PEEPを付加しなければ, 短時間で肺は虚脱し効果は一時的となることに注意する 30) 周術期のLRMに関する最近の報告として,Costa Lemeら 31) は, 心臓外科術後 ICU 入室時にP/F ratio 250の酸素化障害のある患者 320 名を対象に, 高強度 LRM 群 (LRM:PEEP 30 cmh2o, driving pressure 15 cmh2o, 60 秒間, インターバル設定 :PEEP 13 cmh2o) または中強度 LRM 群 LRM:CPAP (continuous positive airway pressure)20 cmh2o, 30 秒間, インターバル設定 :PEEP 8 cmh2o に割り付け, 退院までのPPC 重症度スコアを比較した 高強度 LRM 群では,PPC 重症度スコアが低く (1.7 vs. 2.0), 入院期間 (10.9 日 vs. 12.4 日 ) および ICU 在室日数 (3.8 日 vs. 4.8 日 ) は短縮し, 肺の圧外傷は増やさなかった (0% vs. 0.6%) ただし,LRM 中の血圧低下は高強度 LRM 群でより顕著であった 本研究は, 先述の PROVHILO trial と異なり, 術後低酸素血症を呈した患者が対象であり,LRM による虚脱肺の再開放が酸素化の改善やPPCの予防に有効であったと思われる LRMは虚脱肺の再開放により酸素化改善やPPC の予防を期待できるが, 循環虚脱や肺損傷の危険性を考慮すると, 術中から術後の人工呼吸管理中にルーチンに行うものではなく, 肺虚脱による低酸素血症を呈する場合に, その適応を考慮すべきであろう Ⅶ. 肺拡張療法肺拡張療法は, 術後無気肺を予防し酸素化の改善や呼吸仕事量の減少を目的に行われるもので,IS, 深呼吸訓練や肺理学療法の他に, 広義には早期離床訓練や NPPVによる換気補助なども含まれる ISは単純で安価, 安全であり術前から術後にかけて幅広く利用されるが,IS のPPC 予防効果を支持するエビデンスは乏しい 32),33) 冠動脈バイパス術後患者を対象としたISのPPC 予防効果を検討したメタ解析によると,IS のPPC 予防効果は証明されなかった 32) 同じく上腹部手術患者を対象としたメタ解析でもISのPPC 予防効果は示されなかった 33) また深呼吸訓練に関しても, 上腹部術後患者に対して, 早期離床に深呼吸訓練を加えても, 早期離床のみ行った場合と比較してPPC 発症率に有意差は認められなかった 34) これらの結果を踏まえると, 個々の肺拡張療法を単独で行っても効果は少なく, 複数の肺拡張療法を一括して行う取り組みが必要であることがうかがえる Cassidyら 35) は, 術前教育を含む複数の肺拡張療法 ( 毎時間のIS 施行,2 時間おきの深呼吸訓練, 早期離床プログラム, 頭高位など ) に口腔衛生を組み込んだ複合的プログラム (I COUGH) を導入し, 一般外科患者の術後肺炎および再挿管率への影響について検討している I COUGHプログラム導入により,IS 実施率 (52.8% vs. 77.2%) や離床達成率 (19.6% vs. 69.1%) の改善とともに, 術後肺炎 (2.6% vs. 1.6%) や再挿管率 (2.0% vs. 1.2%) が低下したと報告している 肺拡張療法は, 患者の協力が得られず, その実施率や実施方法が一定でなくなることが効果を減じる要因となる 肺拡張療法の複合的プログラムの実践は, 個々の肺拡張療法の実施率を向上させ,PPC 予防の有効な対策となる可能性がある Ⅷ. 経鼻高流量酸素療法 (HFNC) HFNCは, 鼻カニューレから高流量の加湿されたガスを供給することで, 安定した吸入酸素濃度を維持する他に, 鼻咽頭腔の解剖学的死腔を減らし吸気抵抗を減弱して呼吸仕事量を軽減する また呼気終末に陽圧を維持し, 肺の虚脱を防ぐ効果もある 36) 鼻カニューレによる吸気ガスの供給は,NPPV や酸素マスクに比べて患者の忍容性は高い 37) 急性低酸素性呼吸不全症例や免疫不全の呼吸不全症例に対するHFNCの効果 -6-
術後肺合併症に対する呼吸管理 はNPPVと同等もしくは優れるとの報告もあり 38),39), 特に NPPV 不耐性の患者では,NPPV の代替手段としても使用される ただし,HFNC により供給される PEEP 効果は低く, ガス流量が 40 50 l/minの場合, 閉口時で 3 4 cmh2o, 開口時で 1 2 cmh2o 程度とされる 40) 無気肺が主原因となることの多い PPC では, 肺のリクルートメント効果が不足する懸念がある これまで HFNCによるPPC 発症や術後呼吸不全に対する効果を検証した臨床研究は少なく, 術後患者への治療法として確立しているとは言えない ここでは, 術後患者のPPC 予防もしくは治療においてHFNCの有効性を検証した臨床試験について述べる Stéphanら 41) は, 心臓外科術後の呼吸不全患者または呼吸不全のハイリスク患者 830 名を対象に HFNC(50 l/min,fio2 0.5) またはNPPV BiPAP (bilevel positive airway pressure):ipap(inspiratory positive airway pressure)8 cmh2o,epap (expiratory positive airway pressure)4 cmh2o, 1 日最低 4 時間は装着 を使用する群に分けて, 治療の成功率 ( 再挿管や治療法の変更がない ), 酸素化,ICU 死亡率や有害事象について比較した 両群とも治療成功率に有意差はなく (21.0% vs. 21.9%), 死亡率も変わらなかった (6.8% vs. 5.5%) 治療開始 6 12 時間後の酸素化はNPPVで高かったが (P/F ratio:198 vs. 261), 顔面の皮膚トラブルは HFNC で少なかった (3% vs. 10%) Hernández ら 42) は, 抜管後呼吸不全の低リスク患者 527 名 ( 術後患者が約半数を占める ) を対象に, 抜管直後より予防的にHFNCを24 時間使用した群と通常の酸素療法 (conventional oxygen therapy, COT) を行った群で, 抜管後 72 時間以内の再挿管率, 抜管後呼吸不全, 再挿管までの時間や有害事象などについて比較した HFNC は COTに比べて, 再挿管率を減少し (4.9% vs. 12.2%), 抜管後呼吸不全の発生率を抑制し (8.3% vs. 14.4%), 再挿管までの時間は延長しなかった (19 hr vs. 15 hr) 一方,Corleyら 43) は, 心臓外科術後でBMI 30 kg/m 2 の肥満患者 155 名を対象に,HFNC もしくは COTを使用し, 抜管後の胸部 X 線写真による無気肺スコアおよび酸素化 (P/F ratio), 呼吸数などの呼吸機能を比較した HFNCはCOTと比較して, 抜管後の無気肺スコア (2 vs. 2), 酸素化 (P/F ratio:228 vs. 253) および呼吸数 (17.2 /min vs. 16.7 /min) を改善させなかった またFutierら 44) は,2 時間を超える腹部手術後で, ARISCAT PPC scoreにてppc 中等度から高リスクとされた患者 220 名を対象に,HFNC またはCOTを使用して, 抜管後 1 時間および酸素療法中止後の低酸素血症の頻度, 術後 7 日以内のPPC 発症頻度, 入院期間, 病院死亡率について比較した HFNCはCOTと比較して, 抜管後の酸素化 ARR(absolute risk reduction) 4,95% CI 8 15%,P=0.57, 術後 7 日以内で PPCを発症しない日数 (ARR 7, 95% CI 6 20%, P=0.4) に違いはなく, その他アウトカムにも違いはなかった 以上より,HFNC は忍容性が高く,PPC 予防や術後呼吸不全への治療として一定の効果が期待できるため, 術後早期からの予防的使用に適すると思われる ただし, 肥満患者や腹部術後など無気肺のリスクが高い症例では, 肺のリクルートメント効果が不足し, 酸素化の改善やPPCの予防効果は不十分である また無気肺による低酸素血症では,HFNC による高濃度酸素の供給はかえって吸収性無気肺を助長する 術後呼吸不全症例に対し,HFNC 装着にて酸素化の改善や呼吸負荷の軽減を認めないにもかかわらず, 吸入酸素濃度を増加させながら漫然と長期使用することは, 再挿管の時期を遅らせ予後悪化に繋がる可能性もあり 45), 厳に慎むべきである 通常,HFNC による呼吸パラメータの改善は30 分以内に現れることが多く 46), HFNC 継続の判断は迅速に行うべきである HFNC 装着後, 酸素化や呼吸数など呼吸機能パラメータの改善が得られない症例では,NPPV への変更や再挿管のタイミングについて検討すべきであろう Ⅸ. 非侵襲的陽圧換気 (NPPV) NPPVは, 人工気道を必要としない器械的換気法である NPPV 専用の人工呼吸器やICU 人工呼吸器により, 必要とされる吸入酸素濃度を供給する他に, 吸気および呼気でそれぞれ異なった陽圧をかけることで, 換気補助やPEEP 効果を期待できる NPPVの適応として,COPD 急性増悪およびCOPD 患者の呼吸器の離脱補助, 心原性肺水腫, 免疫不全患者での呼吸不全がある ( エビデンスレベルⅠまたはⅡ, 推奨度 Aまたは B) また術後の急性呼吸不全の予防ならびに治療にも推奨されている ( エビデンスレベルⅡ, 推奨度 B) 47) Ferreyraら 48) は, 上腹部手術後患者に対するCPAP によるPPC 予防効果に関するメタ解析を行った CPAPにより,PPC 発症頻度 (OR 0.66, 95% CI 0.52 0.85), 無気肺 (OR 0.75, 95% CI 0.58 0.97), 肺炎 (OR -7-
日集中医誌 J Jpn Soc Intensive Care Med Vol. 25 No. 1 0.33, 95% CI 0.14 0.75) を減少したと報告した Chiumelloら 49) は, 非侵襲的陽圧換気 (NPPV または CPAP) を術後患者に使用した場合の系統的レビューを報告している 2010 年までの研究報告から, 上腹部手術 (9 研究 ), 胸部手術 (3 研究 ), 心臓手術 (8 研究 ), 胸腹部手術 (3 研究 ), 肥満外科手術 (4 研究 ) に関する研究を抽出し, 主に酸素化や再挿管率などに関し評価している NPPVは19の研究で酸素化を改善し,11 の研究で再挿管率の軽減に有用であったと報告している 最近の報告では,Jaber ら 50) は, 腹部手術後に低酸素性呼吸不全を来した293 名を対象に,NPPV またはCOTを使用した群に無作為に割り付け, 再挿管率, 院内感染発症率, 人工呼吸期間, 院内死亡率などの比較を行った NPPV は, 再挿管率を軽減し (33.1% vs. 45.5%), 人工呼吸を必要としない日数を増加し (25.4 日 vs. 23.2 日 ), 院内肺炎の頻度を軽減した (31.4% vs. 49.2%) が,90 日後の院内死亡率は変わらなかった (14.9% vs. 21.5%) 以上より, 術後早期のNPPV( またはCPAP) の導入, もしくは術後呼吸不全を呈した患者への NPPVの治療介入は再挿管率を軽減し,PPC 発症を抑える可能性が示唆される NPPV 使用上の注意点としては, 気道分泌物の多い症例ではその排出を阻害し, 呼吸状態を悪化させる危険性がある 47) また高い気道内圧から呑気や腹部膨満を来す場合があり, 特に消化器手術後では注意が必要である NPPVの効果に関しては, フェイスマスクのフィット不良は, エアリークを増加させ, 陽圧換気が不十分となる またマスク装着に伴う不快感や皮膚合併症により, 治療の途中で NPPV 継続が困難となるケースも多い ヘルメット型インターフェイスは, フェイスマスクと比較して忍容性が高く, またフィット不良によるエアリークを抑え, 有効な陽圧換気を維持できる利点がある Patelら 51) は, ARDS 患者 206 名を対象とし,NPPV 施行時にヘルメット型インターフェイスと従来のフェイスマスクを比較したところ, ヘルメット型インターフェイスは, ARDS 患者の挿管率を軽減し (61.5% vs. 18.2%),28 日間での侵襲的人工呼吸を行わない日数を延長させ (28 日 vs. 12.5 日 ),90 日死亡率も改善した (34.1% vs. 56.4%) と報告している NPPVによるPPC 予防効果の評価には, 今後インターフェイスの違いによる検討も必要であろう ただし, 現状ではフェイスマスクによる NPPV が主流であり, 術後早期に NPPV の予防的使用をルーチンに行うことは現実的ではない PPC 発症の高リスク患者への予防的使用,COT やHFNC 使用後に続発した低酸素性呼吸不全症例へのセカンド ラインとしての使用, または術後のCOPD 急性増悪など換気補助を必要とする患者への使用などが考慮される ヘルメット型インターフェイスによる安定した陽圧換気と忍容性の向上が術後患者の予後に与える影響については, 今後さらなる検討が必要である Ⅹ. おわりに PPCは, 周術期死亡率の悪化や合併症と関連し, その予防は重要な課題である 術前よりPPC 発症の危険因子を認識し,PPC の高リスク患者を同定することは,PPC 予防策を講じる上で必要である PPC 発症には多様な病態が関連するが, 中でも無気肺の形成は PPC 発症の根本的な原因となりやすく, 術中から術後にかけての呼吸管理も, 無気肺の形成をいかにして防ぐかが重要となる そのため, 術中の肺保護的換気では,LTVV に加えて肺虚脱を防ぐPEEPや必要に応じてLRMを併用することは理にかなっている また術後の肺拡張療法では, 複合的アプローチによりその実施率を上げ, 無気肺を予防することでPPC 予防効果を上げていく工夫が必要である 抜管後の呼吸補助としてのHFNCおよびNPPV は, それぞれの特性を理解した上で使い分けを行いたい HFNCは忍容性が高く, また術後患者の呼吸不全に対して一定の効果があり, ファーストラインとしての使用が可能である ただし,PEEP 効果は弱く十分な肺リクルートメント効果は期待できないため, 肥満患者や腹部手術後などPPC 高リスク患者における低酸素血症に対しては,NPPV の使用を優先し,HFNC は NPPV 離脱期のセカンドラインとしての使用が望ましい また,HFNC やNPPVの治療継続に関する判断の遅れは, 必要な再挿管のタイミングを遅延し患者予後の悪化に繋がる危険性があるため,HFNC および NPPV 使用中は, 呼吸状態の注意深い観察が必要である 本稿の著者は, 徳島県からの寄附講座に所属しているが, 本稿の内容に関して, 規定されたCOIはない 文献 1) Lawrence VA, Cornell JE, Smetana GW; American College of Physicians. Strategies to reduce postoperative pulmonary complications after noncardiothoracic surgery: systematic review for the American College of Physicians. Ann Intern Med 2006;144:596-608. 2) Fisher BW, Majumdar SR, McAlister FA. Predicting pulmonary complications after nonthoracic surgery: a systematic review of blinded studies. Am J Med -8-
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術後肺合併症に対する呼吸管理 Abstract Perioperative respiratory management to prevent postoperative pulmonary complications Jun Oto Department of Emergency and Disaster Medicine, Tokushima University Hospital 2-50-1 Kuramoto-cho, Tokushima, Tokushima 770-8503, Japan Postoperative pulmonary complications (PPC) are a major cause of perioperative morbidity and mortality. The definitions of PPC include several major categories of clinically significant complications, including atelectasis, respiratory infection, postoperative respiratory failure and exacerbation of chronic lung disease. To prevent PPC, intraoperative lung protective ventilation, a postoperative lung expansion maneuver, a high flow nasal cannula (HFNC) and noninvasive positive pressure ventilation (NPPV) can be applied. Regarding lung protective ventilation, low tidal volume ventilation (LTVV) with moderate PEEP and the lung recruitment maneuver are more effective for preventing PPC than LTVV alone. Early mobilization, chest physiotherapy, and an oral hygiene bundle approach can reduce PPC. Although HFNC has a good tolerability, it should not be considered a standard measure to prevent PPC in high-risk patients because the PEEP effect attributable to HFNC is not sufficient to re-expand the collapsed lung. The benefit from applying NPPV is the lung recruitment effect, thereby reducing the risk of reintubation and pneumonia in high-risk patients. However, NPPV is difficult to use for long periods of time because of its poor tolerability. Close monitoring of the patient s respiratory status during the use of HFNC or NPPV for postoperative respiratory failure to avoid delayed reintubation. Key words: 1postoperative pulmonary complications, 2postoperative respiratory failure, 3atelectasis, 4high flow nasal cannula, 5 noninvasive positive pressure ventilation J Jpn Soc Intensive Care Med 2018;25:3-11. -11-