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有機化学 III 解答例と解説 I. ame the following compounds in English according to the IUPAC system nomenclature. R,S designation is required for question (e). (3,3,3,3,6 points) 5-phenylhexanal 2-ethyl-3-butenoic acid (c) C 2 5 ethyl 4-pentynoate (d) C 3 C 3,-dimethyl-3-phenylpropanamide (e) 2 (R)-trans-3-penten-2-amine 解説 まず一番主となる部位は何か ( エステル カルボン酸 アルデヒドなど ) を探し出し それを構成する一番長い炭素基本骨格をみつける それから官能基を番号をつける という作業を行う アルデヒドは alkanal フェニルは普通官能基だから 5 番目の炭素についているので 5-phenyl とする カルボン酸は alkanoic acid, 長い鎖は 2 通りあるが 複雑なオレフィンを含む方を主鎖とする (c) エステルは alkyl alkanoate, この場合長い鎖に 3 重結合がついているので alkynoate になる カルボニルから 4 番目の炭素で 3 重結合がはじまるから4という番号をつける (d) アミドは alkanamide, 窒素上のアルキル基は -ethyl--methyl のようにつけること (e) これは教科書 957ページそのまま しかしあまり詳しく述べていなかったので難しかったと思う Alkane-n-amine 型で命名する R,Sはいつでも命名できるように 特に大学院試験には部分点ですがいつも出ます

II. Give the product(s) of each of the following reaction sequence. (30 points) 1) Cl 2) PhMgBr 3) 3 + 解説 最初の重要ポイントはケトンの酸化 Baeyer-Villiger ( バイヤービリガー ) 反応でエステルが生成する際酸素がどこに入るのか です 大学院レベルで言うと nucleophilic oxidation で特殊な酸化反応です この場合講義ノートに書いたとおり 酸素原子はカチオンが安定化しやすい置換基の方に入りやすく methyl < primarty < phenyl, secondary < tertiary の順に酸素が転移しやすくなります よってできるのは phenyl acetate. これを Grignard 反応剤で処理しますので 一旦ケトンが生成して 2 当量目が攻撃する ( これはエステルや酸塩化物に Grignard 反応剤が反応するときの典型的パターンで重要です ) それから 加水分解によって 3 級アルコールが生成します 1) Cl 2) PhMgBr MgBr PhMgBr MgBr + 1) 2) C 2 =CC 3) 3 + C or C 2 解説 まず pyrrolidine はケトンに求核攻撃して脱水し エナミンを与えます これはいわゆる enolate 等価体 (equivalent) と考えられ 電子吸引性の置換基を持つオレフィンと共役付加を起こします その後加水分解するとイミニウムイオン中間体を経てケトニトリルを与えます もし強い酸性条件だとニトリルも加水分解されますので ケトカルボン酸も正解です

1) 2) C 2 =CC C 3) 3 + + C 2 (c) 1) ac, conc. Cl C 2 2 2) LiAl 4 解説 C - イオンがケトンを求核攻撃してプロトン化されます この化合物にはシアノヒドリンという慣用名がついています これを還元するとアミンになります LiAl4 に対してアルコールは不活性です 1) ac, conc. Cl C C 2 2 2) LiAl 4 (d) + C + (C 3 ) 2 1) Cl, Et, heat 2) a, 2 (C 3 ) 2 解説 Mannich 反応です 他と違って 1 つの反応です 教科書 p977からの出題 反応機構はp978を見てください (e) 2 1) Cl 2, a, 2 2) C 3 CCl 解説 ofmann 転位でまずアミンが生成します その際立体化学は保持です その後アセチル化により 似て非なるアミドができます

III. Indicate which reagent or combination is best suited for each of the following reactions. (12 points) 1) 3 2) Zn or C 3 SC 3 C [(C 3 ) 2 CC 2 ] 2 Al (DIBAL) (c) gs 4 2, 2 S 4 (d) 2 2 a, 2 解説 オゾンによるオレフィンの酸化的開裂 (oxidative cleavage) です モルオゾニド 酸素が3つついた環状化合物 これを還元剤で分解 ( 酸素を1つとる ) してジカルボニル化合物にします 亜鉛の場合は亜鉛に酸素が移りますから酸化亜鉛 ジメチルスルフィドの場合も酸素が移動してジメチルスルフォキシドになります ちょっと忘れていた人も多いでしょう ダイバル還元です LiAl4 ではイミンを経由してアミンまで還元されるところが この立体障害が大きくヒドリドが1つしかない還元剤を使うと途中のイミンで止まるのです ここで加水分解するとアルデヒドになる (c) 水和してからできたエノールがケトンになります アルキンの数少ない反応だから この際覚えておきましょう (d) Wolff-Kishner 還元です 有機化学としてはちょっと不思議な反応で 一般にケトンを還元するとアルコールにしかならないので 還元反応としても特異な存在です 重要反応としてマークしておいてください

IV. Write a major product and formulate a mechanism of the following reactions. (20 points) C 2 C 3 + C 3 C 2 + C 3 C3 C 2 C 3 C3 C 2 C 3 C 3 - C 3 C 2 C 3 - + C 2 C 3 C 2 C 3 解説 酸触媒によるエステル交換反応です 酸によってカルボニル基がカチオンに変換されるため活性化されています 塩基触媒は 求核剤側の活性化であり これとは考え方が逆であることも理解しておいてください 酸がついたりはなれたりするところ正確に書けるようにトレーニングしてほしいのです これから将来 皆さんがもっと複雑な分子の振る舞いを自分でいろいろと考える 誰にでもできるわけではない楽しい世界へ入っていってもらうため これは自分で考える有機化学の第 1 歩の課題としてとても重要だと考えています

C 2 Et + aet Et C 2 Et C 2 Et Et C 2 Et aet C 2 Et C 2 Et Et C 2 Et - 2 C 2 Et 解説 Robinson 環化です 最初にできた enolate がマイケル付加反応を起こし そのあとできたケトンの enolate が分子内アルドール縮合します ノートに 2 回も書いているはずの重要反応です この反応では エタノール中で プロトンの供給を受けながら プロトンが脱けたりついたりしながら反応が進みます プロトンの供給がない非プロトン性溶媒では 進行しません

V. Suggest a synthesis of the following compounds from given starting materials. (20 points) from C 3 C 2 C 2 5 C 3 C 2 C 2 5 aet Et C 2 5 1) aet, Et 2) PhC 2 Br C 2 C 2 5 a, 2 heat 解説 Claisen 縮合を経てβ-ケトエステルからの脱炭酸の方法がベストです このパターンは マロン酸合成の応用ですので 多くのエステル ケトン合成がこのパターンで合成できないか一度は考えてみる価値があります 考え方は 脱炭酸する前の状態を一度書いてみる それが enolate のアルキル化で合成可能ならさらに逆に考えてみるということです 教科書の Retro synthetic analysis の項目を読んでください from I I C 2 C 2, + + I PhMgBr 解説 出発物質が iodide なので PhLi か PhMgBr の S2 反応をまずイメージします でも カルボニルがあればそちらとも反応しますから まずカルボニルの保護を考えます アセタールで保護すれば アニオンとは全く反応しないから 安心してS2 反応が行えます その後 酸で脱保護して目的達成です 教科書そのままの出題

(c) from Br Br Ph 3 P PPh 3 Br BuLi PPh 3 C 解説 Wittig 反応が楽にできてよさそうですね 他にも臭化ベンジルを何とかしてベンズアルデヒドまで持って行って Wittig 反応でつくるとか ベンズアルデヒドに pentyl bromide からつくった Grignard 反応剤を反応させてからできたアルコールを 酸性条件下で脱水なども可能です 研究室では 学生さん皆自分の好きな様に化合物を創っていますので何でもまちがっていなければK これが有機化学のおもしろいところ (d) from Br Br KC C LiAl 4 2 C 3 CCl 解説 アミド合成だから アミンをどうして合成するかを考える ベンジルから1つ炭素が増えているからCでニトリルにしてから還元が思いつけばいい できなければ C2 との Grignard 反応でカルボン酸 PhC2C2 にしてからアミドにして還元でもできます 合成戦略に正解はありませんので 自由に考えてみてください 章末に多くの演習問題がありますので トライしてみてください また web サイト http://bcs.whfreeman.com/vollhardtschore5e/ も参考にして下さい