ヘリコバクター ピロリ対策 2014/5/8 ヘリコバクター ピロリ除菌療法について (patient-oriented H.pylori eradication therapy) 医療法人明信会今泉西病院総合診療科科長日本ヘリコバクター学会ピロリ菌感染症認定医吉田孝司 Koji Yoshida, M.D. Division of General Practice, Imaizumi Nishi Hospital, Koriyama, Fukushima, JAPAN 診断と治療の minimum essential ピロリ菌とは ピロリ菌発見の歴史 ピロリ菌の電気顕微鏡画像 グラム陰性桿菌 長さ 2.5~5 μm 直径 0.5 μmのラセン菌 胃粘膜に生息 4~6 本の鞭毛をもつ ( 鞭毛の回転運動で粘液中を移動 ) 微好気性低濃度の酸素 二酸化炭素を要求 ( 培養が難しい ) 1892 年 [Bizzozero] イヌ胃粘膜にスピロヘータを発見 1906 年 [Krienitz] 胃癌患者の胃内にラセン菌を発見 1954 年 [Palmer] 胃内における細菌の存在を否定 1979 年 [Warren] 活動性胃炎の生検組織に高率にラセン菌を発見 1983 年 [Warren&Marshall] H. pylori の分離培養に成功 1984 年 [Marshall] H. pylori が慢性胃炎の原因菌であることを証明自飲実験! 1994 年 [WHO] ピロリ菌が胃癌の発癌因子であることを発表 WHO:World Health Organization( 世界保健機構 ) 2005 年 Warren & Marshall は ともにノーベル医学生理学賞を受賞 ピロリ菌の特徴 ピロリ菌感染による胃粘膜炎症 鞭毛を回転させて粘液層を自由に移動 ピロリ菌が強酸の胃の中で生存できるしくみ 粘液層に生息 一部は粘膜上皮に強固に接着 H + H + H + H + H + ウレアーゼにより粘液中の尿素からアンモニアを生じ 周囲の胃酸を中和する 尿素 CO2 H + 粘液層ウレアーゼ + + H2O NH3 胃酸を中和 胃粘膜上皮細胞 ピロリ菌が産生する CagA タンパク質 ピロリ菌 尿素 胃の細胞を傷つける ウレアーゼ アンモニア + 二酸化炭素 毒素 (VacA タンパク質 ) の分泌 空洞ができる 炎症性タンパク好中球 ( サイトカイン ) VacAタンパク質 白血球遊走 動けなくなったヘルパー T 細胞 ( 免疫が抑制される ) がんサポート情報センター HP より 1
ピロリ菌の感染率 ピロリ菌の感染経路 一般的に発展途上国では感染率が高く 欧米先進国では低い 日本のピロリ菌陽性者数 : 約 6000 万人 1992 年時点では 10 歳以下では感染率が低く 40 歳以上では感染率 70% 以上の二相性を示す ピロリ菌に感染している人の割合 (%) 100 80 60 40 20 0 0 ピロリ菌の年代別感染率 1950 年 1992 年 2010 年 ( 予測 ) 2030 年 ( 予測 ) 20 40 60 ( 歳 ) 年齢 がんサポート情報センター HP より ほとんどが小児期に感染 ほとんどが免疫力の弱い小児期に感染する 成人後に感染することはまれ 感染しても自然に排出されることが多い 感染は終生持続 ピロリ菌に感染すると菌はそのまま胃に定着し 一生感染が持続する 感染経路は家庭内での経口感染 ( 特に母子感染 ) が多い 感染経路 水系感染 : ピロリ菌に汚染された水 食品を介した感染家庭内感染 : 幼少期における親との接触 ( 離乳食の口移しなど ) 施設内感染 : 保育園 幼稚園 障害児施設など医原性感染 : 消毒の不十分な医療行為 ( 内視鏡 歯科治療など ) ピロリ菌の感染経過 H. pylori 感染の長期経過 ピロリ菌の発するアンモニアや毒素などにより胃粘膜が炎症を起こす ピロリ菌の持続感染により粘膜の防御能が低下 胃粘膜の傷害 萎縮 腸上皮化生 H. pylori 感染数週間から数ヵ月で100% 慢性胃炎 (H. pylori 感染胃炎 ) 慢性表在性胃炎 萎縮性胃炎 消化性潰瘍 胃癌 胃ポリープ 萎縮性胃炎 胃 十二指腸潰瘍 胃ポリープ ピロリ菌に感染 胃 MALT 環境因子リンパ腫 ( 高血糖 塩分の多い食生活 タバコ ストレスなど ) さまざまな疾患を引き起こす 分化型胃癌 胃 MALT リンパ腫 機能性胃疾患 (FD) 特発性血小板減少性紫斑病 未分化型胃癌 幼少期 数十年 監修 : 北海道大学大学院医学研究科がん予防内科学講座特任教授浅香正博 消化器疾患におけるピロリ菌感染率 胃潰瘍や十二指腸潰瘍などの上部消化器疾患では ピロリ菌感染率が高い これらの疾患はピロリ菌の除去により 高い確率で症状の改善がみられる ピロリ菌感染と消化器以外の疾患 ピロリ菌は上部消化器疾患以外にも 心 血管疾患 血液疾患 皮膚疾患などの数多くの疾患との関連性が指摘されている 分類 関連疾患 萎縮性胃炎胃潰瘍十二指腸潰瘍胃 MALTリンパ腫胃癌 68% 93% 98% 94% 92% 心 血管系疾患 血液疾患 神経疾患 皮膚疾患 呼吸器疾患 自己免疫疾患 肝 胆 膵疾患 虚血性心疾患 脳血管障害 原発性レイノー症状 片頭痛 遺伝性血管浮腫 特発性血小板減少性紫斑病 原因不明の鉄欠乏症 アルツハイマー病 認知症 急性自己免疫性多発神経炎 ギラン バレー症候群 パーキンソン病 慢性蕁麻疹 円形脱毛症 多発慢性痒疹 貨幣状湿疹 慢性閉塞性肺疾患 気管支拡張症 肺癌 肺結核 シェーングレン症候群 関節リウマチ 自己免疫性甲状腺炎 シェーンライン ヘノッホ紫斑病 肝硬変 肝性脳症 慢性胆囊炎 胆石 肝臓癌 膵癌 その他 糖尿病 肥満 メタボリックシンドローム 成長遅滞 乳児突然死症候群 福田能啓他 H.pylori 感染の疫学 : 日本ヘリコバクタ ピロリ学会誌選定論文集 (2001-2003)P.149 より改変 塩谷昭子ら : 臨床検査, 54(2) 195-198 (2010) より 2
ピロリ菌と胃癌 内視鏡的経過観察による H.pylori 感染と胃癌の発生との関連 1994 年に WHO はピロリ菌を胃癌発生のクラス 1 発癌物質と認定 1.00 H. pylori 陰性 除菌治療による胃癌の予防効果が示唆 ピロリ菌感染者では 2.9%(36/1246 例 ) に胃癌が発生したが ピロリ菌非感染者 (280 例 ) からは胃癌は 1 人も発生しなかった Uemura N et al.: N Engl J Med, (2001) 早期胃癌の内視鏡的治療後 ピロリ菌を除菌することで異時性再発癌の発生が 1/3 に減少した Fukase K et al. : Lancet( 2008) ピロリ菌が引き起こす胃粘膜萎縮が胃癌の発生母地 ピロリ菌の持続感染で胃炎から胃粘膜の萎縮が発生 さらに腸上皮化生を経て DNA の障害が蓄積し 多数の遺伝子異常が起こり 胃癌が発生するとされる ピロリ菌感染 胃炎 胃粘膜萎縮 DNA の障害が蓄積 胃癌 累積胃癌非発生率 H. pylori (-) H. pylori (+) 0.98 0.96 0.94 0.92 0.90 0.00 0 2 4 6 8 10 12 280 1246 272 1219 251 1086 観察期間 ( 年 ) 245 907 H. pylori 陽性 213 782 57 258 Uemura N. et al.:n. Engl. J. Med.,345,(11),784-789,2001. * p<0.001 症例 : 私が行った三次除菌が成功した事例 症例 1 50 代男性, 小学校教員既往 : 十二指腸潰瘍, 慢性胃炎, 高血圧症前医での経過 : 2011 年 7 月 6 日, 上部消化管内視鏡検査施行時の迅速ウレアーゼ試験 (RUT) にて, ピロリ菌陽性. 一次除菌を施行後,2011 年 12 月 14 日,UBT 陽性 (3.7) 除菌失敗 正常上限値 :2.4 二次除菌を施行後,2012 年 2 月 29 日,UBT 陽性 (2.7) 除菌失敗 その後は, プロトンポンプ阻害薬 (PPI) を継続して処方されていた. 症例 : 私が行った三次除菌が成功した事例 私の総合診療外来を偶然受診 : どうしても除菌したい という患者さん本人の強い希望があり, 私が方法や除菌成功率, 自費診療や副作用などについての説明を行い, 同意が得られた 下記レジメン ( 過去に除菌成功例あり ) で, 三次除菌を施行した. ラベプラゾール (RPZ)10mg bid + メトロニダゾール (MNZ)250mg bid + レボフロキサシン (LVFX)250mg bid + Lac-B 1g bid all above for 7 days 2012 年 12 月 8 日,UBT 陰性 (-0.1) 除菌成功! 症例 : 私が行った三次除菌が成功した事例 症例 2 60 代男性, 元高校教員最近 他の患者さんに 下記のレジメンで三次除菌を施行したところ 除菌に成功した エソメプラゾール (EPZ)20mg bid + メトロニダゾール (MNZ)250mg bid + レボフロキサシン (LVFX)250mg bid + ビオフェルミン R 錠 1Tab bid all above for 7 days なお 治療期間中およびそれ以降に 明らかな副作用は認めなかった ピロリ菌除菌治療の適応疾患 (1) H.pylori 感染の診断と治療のガイドライン 2009 ピロリ菌感染症 ( 推奨度 A) H.pylori 除菌は胃 十二指腸潰瘍の治癒だけでなく 胃癌をはじめとする H.pylori 関連疾患の治療や予防 さらには感染経路の抑制に役立つ ピロリ菌感染症を除菌適応疾患とし 病気の有無に関わらずピロリ菌感染は原則除菌治療の対象とする 3
ピロリ菌除菌治療の適応疾患 (2) ピロリ菌除菌治療の適応疾患 詳細 (1) 疾患別エビデンスレベル 疾患 エビデンスレベル 1. 胃潰瘍 十二指腸潰瘍 Ⅰ 2. 胃 MALTリンパ腫 Ⅲ 3. 特発性血小板減少性紫斑病 (ITP) Ⅰ 4. 早期胃癌に対する内視鏡的治療後胃 Ⅱ 5. 萎縮性胃炎 Ⅰ 6. 胃過形成性ポリープ Ⅱ 7. 機能性ディスペプシア (FD) Ⅰ 8. 逆流性食道炎 (H.pylori 陽性 ) Ⅱ 9.ⅰ 鉄欠乏性貧血 Ⅲ ⅱ 慢性蕁麻疹 Ⅲ H.pylori 感染の診断と治療のガイドライン2009 改訂版日本ヘリコバクター学会 1. 胃潰瘍 十二指腸潰瘍 ( エビデンスレベルⅠ) 粘膜の壁が傷ついた状態 64.5% 85.3% 除菌成功例 再発を繰り返す 除菌失敗例 除菌により潰瘍の再発が抑制できる 保険適用あり 11.4% 6.8% 除菌後の再発率 胃潰瘍 十二指腸潰瘍 Asaka M,et al.:j Gastroenterol, 2003 2. 胃 MALTリンパ腫 ( エビデンスレベルⅢ) 胃の粘膜にあるリンパ組織 (MALT) から発生する低悪性度リンパ腫 90% がピロリ菌感染による慢性胃炎から発生 除菌により60~80% が治癒するため ピロリ菌の除菌が第一選択とされる 保険適用あり H.pylori 感染の診断と治療のガイドライン2009 改訂版日本ヘリコバクター学会 ピロリ菌除菌治療の適応疾患 詳細 (2) 3. 特発性血小板減少性紫斑病 :ITP( エビデンスレベル Ⅰ) 血小板蛋白に対する自己抗体の発現により 脾臓での血小板の破壊が亢進し 血小板減少をきたす後天性自己免疫性疾患 ピロリ菌陽性 ITP の 50% 以上が除菌により血小板数が増加 保険適用あり 4. 早期胃癌に対する内視鏡的治療後胃 ( エビデンスレベル Ⅱ) 早期胃癌の内視鏡的治療後 ピロリ菌を除菌することで異時性再発癌の発生が 1/3 に減少 保険適用あり Fukase K et al.: Lancet,372,392(2008) 一部改変 胃癌発生率 (%) 12 8 6 4 2 内視鏡治療後の異時性再発癌の発生率 除菌しない場合 :4.1%/ 年除菌した場合 :1.4%/ 年 0 0 1 2 観察期間 ( 年 ) 3 ピロリ菌除菌治療の適応疾患 詳細 (3) 5. 萎縮性胃炎 ( エビデンスレベル Ⅰ) 萎縮性胃炎の大部分が H.pylori 感染胃炎に由来する 除菌により 胃粘膜萎縮の改善効果 腸上皮化生の抑制効果 胃癌の予防効果が期待される 平成 25 年 2 月 保険適用に! 6. 胃過形成性ポリープ ( エビデンスレベル Ⅱ) 除菌による胃過形成性ポリープの消失が期待できる 多発例などにも有用 ( 保険適用なし ) 7. 機能性ディスペプシア :FD( エビデンスレベル Ⅰ) 慢性的な上腹部症状を示すが 器質的異常が認められない胃炎 ピロリ菌陽性の FD に対して除菌を推奨 ( 保険適用なし ) ピロリ菌除菌治療の適応疾患 詳細 (4) 8. 逆流性食道炎 (H.pylori 陽性 )( エビデンスレベルⅡ) ピロリ菌除菌後の逆流性食道炎の発症増加や症状悪化の報告はあるが大部分が軽症で 逆流性食道炎の存在が除菌の妨げにはならない ( 保険適用なし ) 9 鉄欠乏性貧血 ( エビデンスレベルⅢ) ピロリ菌の検査法 侵襲的検査法 内視鏡検査により採取した生検組織を用いる方法 保険診療で認められている検査法 非侵襲的検査法 内視鏡を用いない方法 小児例 (18 歳以下 ) などで除菌により 貧血の改善の報告がある 本邦での文献が少なく 今後さらなる検討が必要 ( 保険適用なし ) 10. 慢性蕁麻疹 ( エビデンスレベルⅢ) 除菌により皮膚症状が改善 寛解 本邦での文献が少なく 今後さらなる検討が必要 ( 保険適用なし ) H.pylori 感染の診断と治療のガイドライン2009 改訂版日本ヘリコバクター学会 迅速ウレアーゼ試験 鏡検法 培養法 尿素呼気試験抗ピロリ抗体測定便中ピロリ抗原測定 4
H. pylori 検査法とその特徴 迅速ウレアーゼ試験 鏡検法 培養法 便中 H. pylori 抗原測定法 H. pylori 抗体測定法 ( 血清 or 尿 ) 内視鏡を用いる 内視鏡を用いない 13C- 尿素呼気試験 特徴 迅速性に優れる 簡便 前庭部大彎と胃体中 下部大彎の 2 箇所より生検 H. pylori の感染診断と組織診断が可能 coccoid form( 球状を呈する H. pylori ) の診断も可能 診断精度を高めるためにギムザ染色などの特殊染色が有効 特異性に優れる 菌の保存が可能で 薬剤感受性試験が可能 判定まで時間を要する 簡便 除菌判定に応用 除菌成功後 抗体価の低下に時間を要する (6~12 ヵ月 ) 除菌後陰性化すれば 除菌成功 を意味する 簡便 感度 特異度が高い 除菌判定に有用 EBM に基づく胃潰瘍診療ガイドライン Q&A, じほう,p.15 H. pylori 診断法の医科診療報酬点数 ( 平成 24 年 4 月 1 日改正 ) 組織鏡検法 培養法 迅速ウレアーゼ試験 尿素呼気試験抗体法便中抗原測定法 上部消化管内視鏡検査 ( 生検組織採取のため ) ( 例 ) 胃 十二指腸潰瘍ファイバースコピー 1,140 点 13 C 標識尿素薬剤費内視鏡下生検法 310 点血液採取手技料ほか ( 薬価 ) フィルム代 + 咽頭麻酔ほか薬剤費 ( 薬価 ) +α 点尿採取錠 310 点小計 1,450+α 点 16 点 0 点 糞便採取 0 点 病理組織標本作成細菌培養同定検査検査実施料 (1 臓器につき ) ( 消化管からの検体 ) 860 点 160 点 60 点 70 点 ( 定性 半定量 ) 70 点 80 点 150 点 微生物学的検査免疫学的検査免疫学的検査免疫学的検査病理判断料 * 微生物学的判断料検査判断料判断料判断料判断料判断料 150 点 150 点 150 点 144 点 144 点 144 点 240 点 530 点合計 2,460+α 点 1,760+α 点 1,654 点 +α 点 ( 血清抗体測定の ( ユービット錠の場合 ) 場合 ) 294 点 * 病理医が常勤する施設では 病理診断料 400 点 これでわかるピロリ除菌と保険適用改訂第 4 版, 著者 : 高橋信一, 発行 : 南江堂,2012 年 p.98. 感染診断と除菌判定 診断 感染診断 : 感染の有無を検査 除菌判定 : 除菌治療が成功したかどうかを判定する検査 除菌前診断初期除菌判定後期除菌判定 迅速ウレアーゼ試験鏡検法培養法尿素呼気試験便中抗原測定 除菌治療 すべての薬剤中止後 4 週以降 尿素呼気試験便中抗原測定 3~12 ヵ月後 便中抗原測定尿素呼気試験 抗体測定抗体測定抗体測定 確実な感染診断と除菌判定のために プロトンポンプ阻害薬 (PPI) を内服あるいは注射している状態で 感染診断または除菌判定しているケースが多々見られる 偽陰性 となる可能性が高い PPI は 最低 2 週間の休薬が必要である この期間は H2RA(H2 ブロッカー ) などで代替する エカベト Na( ガストローム ) などの一部の粘膜保護剤も 同様に休薬が必要である 5
保険診療における H. pylori 感染診断から除菌判定までの流れ 胃潰瘍 十二指腸潰瘍などの診断 H. pylori 感染診断 1 迅速ウレアーゼ試験 2 組織鏡検法 3 培養法 4 抗体測定 5 ヘリコバクター ピロリ尿素呼気試験 6 便中ヘリコバクター ピロリ抗原測定 1~6 より 1 法を用いる判定が陰性の場合に限り他の検査法が 1 つだけ認められている 1~6 の検査を同時に実施した場合 1+2 4+5 4+6 5+6 に限り同時算定可 (* 平成 22 年 4 月より ) 陽性 H. pylori 除菌療法 抗体は除菌前後で定量計測する除菌後の抗体陰性化には 6ヵ月以上要する 治療薬内服終了後より 4 週以降に行う 除菌判定 1 迅速ウレアーゼ試験 2 鏡検法 3 培養法 4 抗体測定 5 ヘリコバクター ピロリ尿素呼気試験 6 便中ヘリコバクター ピロリ抗原測定 1~6 より 1 法を用いる判定が陰性の場合に限り他の検査法が 1 つだけ認められている * 4 5 6の検査を同時に実施し * た場合 2つに限り同時算定可 成功 不成功 二次除菌療法 除菌判定 これでわかるピロリ除菌と保険適用改訂第 4 版, 著者 : 高橋信一, 発行 : 南江堂,2012 年 p.95. 迅速ウレアーゼ試験 (RUT) 生検組織内に含まれるウレアーゼ活性を検出 ピロリ菌が存在すると ウレアーゼ活性により尿素が分解されてアンモニアが発生し ph の上昇に伴い指示薬の色が変わり感染が確認される 短所 迅速性に優れ 簡便で精度が高い 感染診断 には有用性が高い 検体 陽性 アンモニアが発生 尿素 +ph 指示薬 PPI 一部の防御因子製剤の内服により 偽陰性になることがある 除菌判定 には 感度の限界があり不向き 鏡検法 培養法 生検組織標本を特殊染色して ピロリ菌を顕微鏡で観察する組織診断法 染色法には ヘマトキシリン エオジン (HE) 染色 ギムザ染色などが用いられる ピロリ菌と他の細菌の鑑別 coccoid form の診断には 免疫染色が有用 内視鏡で採取した組織を培養して判定する ピロリ菌の唯一の直接的証明法である 検査結果を保存することができる ピロリ菌の存在だけでなく 組織診断 ( 炎症 萎縮 腸上皮化生の程度など ) を合わせて行うことができる 特異度に優れている 菌株の保存ができ 菌株のタイピングや抗菌薬に対する感受性検査に有用 短所 他のラセン菌との鑑別が困難で 検査には熟練が必要 HE 染色は ギムザ染色などの特殊染色を併用することが望ましい 短所 他の検査法に比べて 手間と時間がかかる PPI 一部の防御因子製剤の内服により 偽陰性になることがある 尿素呼気試験 (UBT) 抗ピロリ抗体測定 ピロリ菌が持つウレアーゼ活性を間接的に測定する方法 13 C- 尿素製剤を経口投与し 胃内にピロリ菌が存在すれば 尿素はアンモニアと 13 CO 2 に分解され 13 CO 2 は呼気に排出される その呼気を採取し 13 CO 2 濃度を測定する 13 C- 尿素アンモニア + 13 CO 2 ピロリ菌に感染するとピロリ菌に対する特異抗体が生産されるため 血液や尿の H pylori IgG 抗体を測定する 血清 全血 尿 唾液を用いた抗体検査が可能だが 血清 尿が広く用いられている ウレアーゼ 呼気に排出 測定 非侵襲的かつ簡便で 信頼度の高い迅速検査法 感染診断だけでなく 除菌判定にも有用 診断薬服用前後の呼気をパックに集めて測定 手軽に行える検査法 治療薬の影響を受けないため 潰瘍治療薬を服用中あるいは服用中止直後 菌数が減少している状態での感染診断に有用 短所 コストが高い 潰瘍治療薬の服用中 服用中止直後には偽陰性になることがある 短所 除菌治療後の抗体価の低下が遅く 除菌判定を急ぐ場合には不向き ( 最低 6 か月はあける必要がある ) 6
便中ピロリ抗原測定法 糞便中に存在するピロリ菌の抗原の有無を調べる方法 モノクローナル抗体を用いる測定法が現在の主流となっている 一次除菌法保険で認可された3 剤併用療法 (PPI/AC 療法 ) 1 プロトンポンプ阻害薬 (PPI) 2 抗生物質 3 抗生物質 非侵襲的 簡便で 検査時の患者の負担が少ない 小児でも安全に検査できる 感度 特異性に優れている 感染診断だけでなく 除菌判定に有用 尿素呼気試験 (UBT) では陰性となる coccoid form も検出できる ラベプラゾール 10mg ランソプラゾール 30mg オメプラゾール 20mg エソメプラゾール 20mg のいずれか アモキシシリン 750mg クラリスロマイシン 200mg または 400mg 以上が 1 回分で 1 日 2 回 ( 朝食後 夕食後 )1 週間連続で投与する ランソプラゾール (LPZ) 長期連用による Collagenous colitis H. pylori 除菌療法における各 PPI の用法 用量 慢性の水様性下痢をきたし 体重減少 低蛋白血症に至る症例が増えてきている 65 歳前後の女性に多い ( 男性の 7 倍 ) 大腸の粘膜上皮下に 好酸性の Collagen band が認められる 製品名 ( 一般名 ) ネキシウム R メーカー名 ( エソメプラゾールマ疾患名グネシウム水和物 ) アストラセ ネカ 第一三共下記におけるヘリコバクター ピロリの除菌の補助胃潰瘍 十二指腸潰瘍 EPZ 20mg/ 回胃 MALT リンパ腫 特発 性血小板減少性紫斑病 CAM 200 早期胃癌に対する内視 ~ 400mg/ 回鏡的治療後胃 (3 剤を1 日 2 回 7 日間 ) パリエット R ( ラベプラゾールナトリウム ) エーザイ RPZ 10mg/ 回 CAM 200 ~400mg/ 回 タケプロン R ( ランソプラゾール ) 武田薬品工業 LPZ 30mg/ 回 CAM 200 ~400mg/ 回 オメプラゾン R ( オメプラゾール ) 田辺三菱製薬 OPZ 20mg/ 回 CAM 200 ~ 400mg/ 回 オメプラール R ( オメプラゾール ) アストラゼネカ OPZ 20mg/ 回 CAM 200 ~ 400mg/ 回 上記の除菌治療不成功に対するH. pylori 除菌の補助 (3 剤を1 日 2 回 7 日間 ) EPZ 20mg/ 回 MNZ 250mg/ 回 RPZ 10mg/ 回 MNZ 250mg/ 回 LPZ 30mg/ 回 MNZ 250mg/ 回 OPZ 20mg/ 回 MNZ 250mg/ 回 OPZ 20mg/ 回 MNZ 250mg/ 回 EPZ: エソメプラゾール RPZ: ラベプラゾール LPZ: ランソプラゾール OPZ: オメプラゾール AMPC: アモキシシリン CAM: クラリスロマイシン MNZ: メトロニダゾール (2013 年 2 月現在オメプラゾール ランソプラゾール ラベプラゾールには後発品があります ) プロトンポンプ阻害薬 (PPI) 内服製品の用法 用量と薬価基準一覧 (1-1-5507) より一部改変 一次除菌法の除菌率 PPI-AC 療法では 80~90% の除菌率が報告されている ラベプラゾール ランソプラゾール オメプラゾールを用いた除菌療法の比較試験では 除菌率に差がないことが報告されている ピロリ菌陽性消化性潰瘍に対するPPI-AC 療法の除菌率を検討した国内臨床試験ラベプラゾール Kuwayama H, et al. : Aliment Phrmacol Ther,(2007) ランソプラゾール Asaka M, et al: Helicobacter, (2001) オメプラゾール Higuchi K, et al.: Clin Drug Investig,(2006) 最新の知見では 70-80% 程度と言われている! 7
試験またはサブグループ Chen 2005 De los Rios 2009 Hun 2004 kang 2008 Maev 2003 Miehlke 2003 Subei 2007 (1) Tulassay 2001 (2) 合計 (95%CI) 除菌成功例 46 26 44 121 46 38 139 184 除菌成功例の合計 644 EPZ 20mg 症例数 52 41 57 137 51 42 186 222 788 (1) (2)OPZ 群では OPZ を 3 週間追加投与 PPI の除菌率 ( メタアナリシス ) OPZ 20mg PPZ 40mg 除菌症例数成功例 43 25 41 157 26 31 148 192 663 52 42 55 190 29 38 188 224 818 重み 5.4% 8.5% 8.9% 16.2% 2.9% 3.8% 28.8% 25.5% EPZ: エソメプラゾール OPZ: オメプラゾール PPZ: パントプラゾール オッズ比 [95%CI] 1.60 [0.53, 4.89] 1.18 [0.49, 2.86] 1.16 [0.49, 2.75] 1.59 [0.84, 3.02] 1.06 [0.23, 4.81] 2.15 [0.57, 8.01] 0.80 [0.49, 1.29] 0.81 [0.48, 1.35] 100% 1.04 [0.80, 1.35] 2011 年までに報告された H. pylori 除菌の無作為化比較試験の除菌率についてメタ解析を行った オッズ比 [95%CI] 0.2 0.5 1 2 5 OPZ,PPZが EPZが優れる優れる 一次除菌法の副作用 除菌治療に伴う副作用 (14.8~66.4%) 下痢 軟便 10~30% 味覚異常 舌炎 口内炎 5~15% その他 腹痛 放屁 腹鳴 便秘 頭痛 頭重感 肝機能障害 めまい そう痒感など 治療中止となるような副作用 (2~5%) 皮疹 2~5% 下痢 発熱 発疹 咽頭浮腫 出血性腸炎など McNicoll AG et al: Aliment Pharmacol Ther,36,414-425,2012. 除菌不成功の原因 クラリスロマイシンの耐性 クラリスロマイシンに対する耐性菌の出現により 除菌率が低下している 薬物代謝酵素 CYP2C19 によるプロトンポンプ阻害薬 (PPI) の代謝 除菌失敗例ではPPIの代謝が速い症例 ( rapid metabolizer(rm) / intermediate metabolizer(im) ) が多く認められる RPZは影響を受けにくい! 服薬コンプライアンスの低下 喫煙でも 除菌率は低下する! コンプライアンスが60% 以下になると除菌率が30% 低下する 除菌失敗は 耐性菌を生じる原因になる 除菌薬の飲みやすさと 下痢の予防 軽減化が重要! ピロリ除菌治療 AtoZ P15 : 日本医事し新報社 (2010) H.pylori 感染の診断と治療のガイドライン2009 改訂版日本ヘリコバクター学会 薬剤耐性菌の問題 クラリスロマイシンの一次耐性菌が約 30% まで上昇している 一次除菌不成功例では 50% 以上に二次耐性菌が出現する (%) 30 25 20 15 10 5 0 7.0 クラリスロマイシン一次耐性菌の推移 18.9 27.7 21.2 29.0 27.2 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 ( 年 ) 8
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二次除菌法 1. ラベプラゾール 10mg ランソプラゾール 30mg オメプラゾール 20mg エソメプラゾール 20mg のいずれか 2. アモキシシリン 750mg 3. メトロニダゾール 250mg PPI/AM 療法 以上が 1 回分で 1 日 2 回 ( 朝食後 夕食後 ) 1 週間連続で投与する クラリスロマイシンをメトロニダゾールに変更した PPI/AM 療法が用いられる 81~96% の除菌率を示す Nagahara A, et al. : J Gastroenterol Hepatol,(2001) PPI( ラベプラゾール ランプラゾール オメプラゾール ) の除菌率に差はない 一次除菌不成功の場合のみ適応される ( 適応患者の絶対数は増加する!) 二次除菌法の副作用 二次除菌の副作用 (8~26%) 主な副作用は下痢 治療中止となるような重篤な副作用 ( 下痢 発熱 発疹 咽頭浮腫 出血性腸炎 ) が 1~5% に認められた メトロニダゾールの副作用 薬物相互作用 飲酒により ジスルフィラム - アルコール反応が起き 腹痛 嘔吐 ほてり等が現れることがある メトロニダゾール服用中は飲酒を避ける メトロニダゾール併用により ワルファリンの作用を増強し 出血等が現れることがある 三次除菌法 除菌率の高い新しいレジメンの登場 (1) 二次療法まで行っても 3~5% で除菌に失敗する症例がみられる 現在日本では 三次除菌法は保険適用外 日本ヘリコバクター学会のガイドラインで推奨されるレジメン ニューキノロン系抗菌薬を用いた治療法 プロトンポンプ阻害剤 (PPI) + アモキシシリン + レボフロキサシン 1 週間ないし2 週間投与 プロトンポンプ阻害剤 (PPI) + アモキシシリン + シタフロキサシン 1 週間ないし 2 週間投与 高用量 PPI/AMPC 療法 PPI 高用量 ( 通常の 4 倍量 )+ アモキシシリン 1 日 4 分割 2 週間投与 プロトンポンプ阻害剤 (PPI) + メトロニダゾール + レボフロキサシンまたはシタフロキサシン 除菌率の高い新しいレジメンの登場 (2) PK-PD 理論に基づく抗菌薬の選択と使用方法 ニューキノロン系抗菌薬を用いた新しい治療法プロトンポンプ阻害剤 (PPI) + アモキシシリン + シタフロキサシン 1 週間ないし2 週間投与 1 週間投与より 2 週間投与の方が除菌率が約 10% 高い! 濃度依存性抗菌薬 時間依存性抗菌薬 ペニシリンアレルギー患者にも使用できる治療法 プロトンポンプ阻害剤 (PPI) + メトロニダゾール + レボフロキサシンまたはシタフロキサシン 1 週間投与 1 週間投与と 2 週間投与では 除菌率に有意差がない! 1 週間投与で十分! 10
除菌後の問題点 今後の課題 逆流性食道炎 生活習慣病 再感染 3~19% の頻度で発症 除菌成功後 胃酸分泌能が改善することが原因 多くが軽症かつ一過性であるため 除菌治療の妨げにはならない 肥満やコレステロール上昇などの生活習慣病が出現 除菌後 消化器症状が改善し 過食 飲酒などの生活習慣の変化が原因 除菌成功後の患者の生活指導に配慮 再感染率は 0~2% 程度でごくわずか 三次除菌の保険収載日本人に適した除菌療法を一次除菌から再考するピロリ菌の抗菌薬感受性試験を踏まえた抗菌薬の選択薬物代謝酵素 CYP2C19の遺伝子多型を踏まえたPPIの選択 H.pylori 感染の診断と治療のガイドライン 2009 年度版日本ヘリコバクター学会 11