一級建築士 今井清美
近年 国内外を問わず大きな地震が起きています 地震のメカニズムなど 日ごろ良く耳にするキーワードを取り上げてお話しします 地震の種類 ( 海溝型地震と直下型地震 ) 震度とマグニチュード 地震波 (P 波とS 波 ) 地震と震災
海のプレートが陸のプレートの下に沈み込む時 陸のプレートの先端は巻き込まれ 反発力によって跳ね返ります このときプレート境界で地震が発生します 今回 大きな被害があった東北地方太平洋沖地震 この地方に多大な被害を及ぼすと言われている東海 東南海地震もこのタイプです
震源が浅い地震で プレートの沈み込み等の影響を受け 内陸のプレートが歪むことによりエネルギーが蓄積され 地下の断層の破壊でエネルギーが解放されることにより発生するタイプの地震です 今後発生が予想される阿寺断層系 関ヶ原 - 養老断層系の地震がこのタイプです
震度ある地震に対するある場所での地面の揺れの強さを表す尺度のことです 震源から近い場所では震度は大きく 遠い場所では震度は小さくなります したがって 震度はマグニチュードと違って場所によって変わり ある地震に対して 1 つの値とは限りません 現在は震度 0 から 7 まで (5 と 6 にはそれぞれ強弱がある ) の 10 段階設定されています
岐阜県における東海 + 東南海地震 ( 複合型地震 ) 予想震度分布図
地震によって放出されたエネルギーの量 つまり地震の大きさ ( 規模 ) の尺度といえます マグニチュードは M と表されます 基本的には放出されたエネルギーの量が大きいほど 震源地に近いほど震度も大きくなるものと思われます マグニチュードは 震源から放射された地震波の総エネルギーに関係づけられ マグニチュードが 0.2 大きくなるとエネルギーは約 2 倍 1 大きくなるとエネルギーは約 32 倍に 2 大きくなると約 1000 倍になると考えられています
地震規模 巨大地震 大地震 中地震 小地震 微小地震 極微小地震 マグニチュード (M) 8 M 7 M 5 M<7 3 M<5 1 M<3 M<1 関東大地震は M7.8 阪神淡路大地震は M7.2 東北地方太平洋沖地震は M9.0 でいかに今回の地震が巨大地震だったのか想像できます
地震が起きてから すぐにガタガタと小刻みに揺れた後に グラグラと揺れることに気づかれると思います P 波 P 波とは 地震が発生したときに最初の小さな揺れ ( 初期微動 ) を引き起こす波です S 波 S 波とは 地震が発生したときの大きな揺れ ( 主要動 ) を引き起こす波です P 波と S 波の速度の差をコンピュターで即座に計算し 速報を出すのが緊急地震速報です
地震地震とは 普段は固着している地下の岩盤が一定の部分を境目にして急にずれ動く現象およびそれによって引き起こされる地面の振動のことを指します 震災地震による災害のことを震災と言います 特に甚大な被害のあった震災のことを大震災と言い 地震とは別に固有の名称がつけられることがあります 例えば関東大震災 阪神 淡路大震災などです 阪神 淡路大震災の地震の名前は 兵庫県南部地震です 今回は東北地方太平洋沖地震 東日本大震災となります
耐震構造の種類 耐震基準 耐震基準の変遷 耐震化の必要性 耐震に関わる問題
1 耐震構造 ( 従来型 ) 建物全体で地震力に耐える構造です 一般的な建物で通常の基礎を用い 筋交いや構造用合板で補強し 建物全体で地震の揺れに対応する構造です 2 免震構造地震力を基礎で遮断し 建物に伝えない構造です 基礎と建物の間に積層ゴム等の免震装置を設置して 地盤と建物を分離し 地震の振動を建物に伝えにくくします 3 制震構造地震力をダンパー等で吸収する構造です 建物の各階または項部にダンパーを設置し 地震エネルギーを吸収させ 建物の振動および破損を低減させます
免震構造 一般構造
制震構造 制震装置 制震装置
耐震基準とは 設計する際に構造物が最低限度の耐震性能を持っていることを規定し 建築を許可する基準です そして 建築構造物に関しては 建築基準法により耐震基準が定められています 耐震基準は 数百年に一度発生する地震 ( 震度 6 強から震度 7 程度 ) の地震力に対して倒壊 崩壊しない程度 と 数十年に一度発生する地震 ( 震度 5 強程度 ) の地震力に対して損傷しない程度 とされています 要するに 大規模地震に対しては人命の安全を確保するため倒壊 崩壊を起こさないよう設計し 中規模地震に対しては損傷しないよう設計することが定められています
1920 年 (T09 年 ) 市街地建築物法 ( 建物の最低基準 ) 制定 1923 年 (T12 年 ) 関東大震災 1924 年 (T13 年 ) に大改正 ( 耐震基準の新設 ) 1950 年 (S25 年 ) に建築基準法が制定 1978 年 (S53 年 ) 宮城県沖地震 1981 年 (S56 年 ) に建築基準法の大改正新耐震設計基準が誕生 その後 大きな地震の度に基準法が改正される 1995 年 (H07 年 ) の兵庫県南部地震 ( 阪神 淡路大震災 ) 2000 年 (H12 年 ) 建築基準法改正
新耐震設計基準による建物は 1995 年 (H07 年 ) の兵庫県南部地震 ( 阪神 淡路大震災 ) においても被害が少なかったとされています 1981 年 (S56 年 ) 以前の耐震基準の建物 や 1981 年 (S56 年 ) 以降の新耐震基準による建物 という表現がされており この年が建物の建築年のポイントとされているのはこのためです
平成 7 年度版警察白書によりますと 1995 年 (H07 年 ) の阪神 淡路大震災の死者数の約 9 割が住宅の倒壊等によるものでした 家屋 家具等の倒壊による圧迫死と思われるものが 4831 人で 88% 焼死が 550 人で 10% その他が 121 人で 2% を占めます 合計 5502 人の方がお亡くなりになりました その際 1981 年 (S56 年 ) 以前の建物に大きな被害が見られました S57 年以降の建物の 70% 近くが軽微な被害か無被害で 大破したのは 10% 近くだったのに対し S56 年以前の建物では軽微な被害 無被害は 40% 未満に止まり 20% 以上が大破という甚大な被害を受けたのです
阪神 淡路大震災の被害を受け 同年 (1995 年 ) に耐震改修促進法が施行されました 1981 年 (S56 年 ) 以前に建てられた新耐震基準以前の建物に耐震診断が義務付けられました その後 2005 年 (H17 年 ) 中央防災会議にて地震防災戦略が決定され 将来起こると考えられている 東海地震 東南海 南海地震の被害想定の死者数や経済被害について 2015 年までに半減させるという目標を定め 住宅の耐震化率の目標を 90% にすることを設定しました
住宅総数約 4700 万戸のうち 21% の 1000 万戸 住宅以外の建築物は総 340 万棟のうち 31% の 105 万棟 特定建築物 ( 公共施設 ) では 36 万棟のうち 20% の 7.2 万棟と推計されています 施工前 施工後
(2004 年内閣府調査 ) 耐震改修工事に費用を払えない 払いたくない 改修工事に伴う手間や 一時的な引越がわずらわしい どこのだれに相談すればいいか分からない 地元の工務店などに相談しても 的確な対応をしてくれない 高齢者世帯なので 長期的な安全性の必要を感じない
理由は 2 つあります 1 つ目は 建物が倒壊すると中にいる人の命が失われる可能性があることです 2 つ目は 倒壊した建物が道をふさぎ 救急車 消防車が近寄れず 人命救助や消防活動に当たれず 助かる命を失う可能性があることです また 復興の妨げとなり まちや社会に大きな損害を与えることにもつながります 耐震強度の問題は 個人の問題ではなく地域全体の問題としてとらえ 取り組まなくてはならないのです
1981 年 (S56 年 ) 以前の建物老朽化に加え 構造耐力不足の可能性が高い 耐震診断を受けて耐震補強などの対処をしていたものは地震による被害は少なかったようです 耐震診断を行い 弱い部分の耐震補強を行うことが望ましいと思われます 1981 年 (S56 年 ) 以降の建物新耐震設計基準により設計されており 一応安心できます 但し 設計 施工の不良やシロアリの被害等も考えられ 心配であれば 簡易診断を受けると良いと思われます 2000 年 (H12 年 ) 以降の建物現行の建築基準法 耐震基準によりますので 過去に比べて耐震性は高いと考えられ 設計 施工についても概ね安心出来ます
分譲マンションの耐震偽装 2005 年に姉歯元一級建築士による分譲マンションの構造計算偽造が発覚し その後次々と耐震偽装の問題が新聞紙上を賑わせました 偽造は構造上重要な鉄筋量等を故意に少なくしたものです 専門家に任せておけば安心だと言うのは間違いです 現在では いろいろなチェック機能が追加され 一応は安心です 木造住宅の耐震偽装 建売住宅における耐震強度不足の建物が多く発覚しました 壁に配置する筋交いの数が十分でありませんでした 小規模の木造住宅の場合 細かな構造計算がされない場合が多く 単純なミス 故意による手抜き工事が発生する可能性があります 大きな原因は建築業従事者のモラルと力量の問題であり 業者選びは慎重にしましょう
建築士の資格を必要としない建築物小規模建築物の木造建築物では 2 階建て以下 100 m2以下 木造以外では 2 階建て以下 30 m2以下の建築物は建築士の資格がなくても誰でもつくることができます 構造審査を必要としない建築物 2 階建以下 500 m2以下の木造住宅は 建築士が設計したものであれば 建築確認時に 四号建築物の確認の特例 によって構造の審査をしなくてもよいことになっています 建築確認申請を必要としない建築物建築確認の必要のない地域があります 木造 2 階建て 延べ面積 200 m2以内の住宅であれば都市計画区域 知事が必要と認めた区域外では建築確認の必要はありません
木造住宅における 耐震に関わる状況 問題点などをまとめてみました 地震に強い家 耐震診断 耐震補強 家の中の耐震対策
建物の設計時に 構造設計者が建築関連規定によって建物が安全であることを確認します 地震は地下に震源を持つので 下から突き上げる力と建物を横に揺らす力が存在します 下から突き上げる力は建物を横に揺らす力の 1/2 と言われており 耐震性能を考える際に問題とするのは 横に揺らす力の影響です 水平力により破壊しないことが地震に強い建物といえます また 建物の質量に比例して地震力 ( 水平力 ) は大きくなります 建物は軽く 低く 壁の多いものほど地震に強くなります
軟弱地盤や液状化しやすい地盤に建つ住宅の地震被害率は そうでないものと比べかなり高くなります 地盤が軟弱な場合 地盤の揺れが大きく それが建物に生じる加速度を増幅させ 建物をさらに大きく揺らします このような地盤条件では 上部の木造住宅に高い強度を持たせることが必要です 杭基礎 ベタ基礎 布基礎
建物の平面形状は単純で正方形に近いものが理想的です 複雑な平面形状の建物では 地震時にそれぞれの部分がバラバラに動いて壊れます 2 階建てより平屋建ての方が地震に強いですが シンプルな形の総 2 階建てであれば バランスがよく 比較的地震に強いと言えます また 1 階に大きな部屋を設けたり 吹き抜けを設けたりすると建物全体の耐震性が低くなります
建物に働く地震力の大きさは 建物の重さに比例します よって建物重量を少なくすれば 地震力を減らすことになります 木造住宅では 屋根の重量が建物の全体の重量の多くを占めており 建物を軽くするには 屋根を軽くすることが効果的です また 2 階に重い家具を置いて 2 階の重量を大きくすると 1 階にかかる地震力が大きくなります 重いものは1 階に置く間取りと生活スタイルをお勧めします
建物は 壁の量が多ければ多いほど地震に強く 少ないほど地震に弱くなります ( バランス良く配置する事も大事 ) 筋交いと壁の量で地震の横揺れに耐えるのです
岐阜市の場合 木造住宅耐震診断( 無料耐震診断 ) この制度は 建築物所有者から申込みのあった住宅に無料で県に登録された 岐阜県木造住宅耐震相談士 を派遣し 耐震診断 及び 概算補強工事費等の情報提供 を実施するものです 木造住宅に係る住宅耐震補強工事費補助金耐震診断において 倒壊する可能性がある と判定された住宅について 安全な住宅となる耐震補強工事を実施する市民に対して その工事費の一部を補助するものです 建築物耐震診断補助金 ( 木造以外 ) 特定建築物及び分譲マンション耐震補強工事費補助金 ( 全て昭和 56 年 5 月 31 日以前に着工された建物が最低条件 )
床下 屋内 天井裏 外観をチェックし 地盤 基礎 壁のバランス ( 建物の形 壁の配置 ) 壁の量 ( 筋交い 壁の割合 ) 老朽度などを調べます 地盤地盤図や周辺の地形を確認します 基礎ひびの有無を確認 鉄筋の有無を確認 コンクリートの圧縮強度を計測します 壁のバランス ( 建物の形 壁の配置 ) 建築図面と目視で 家の形状を確認し さらに図面通りに壁が配置されているかを確認します 壁の量を満たしていても壁の配置バランスの悪さによって耐震性を損なうことがあります 壁の量 ( 筋交いの有無 壁の割合 ) 床下 天井裏から筋交いの有無をチェックし 耐力壁の位置を割り出します 老朽度床下の湿度 含水率や シロアリの被害がないかをチェックし 建物の外部から 屋根 外壁などにゆがみやひびがないかチェックします 建物の内部では 床鳴り 柱の傾き 梁のたわみなどがないかチェックします
地盤の弱い場合は締め固めるなどして 建物が不同沈下しないようにします 基礎は無筋コンクリートの場合は 鉄筋コンクリートを増設して一体化させます 耐力壁の下には布基礎を造り連続させます 独立基礎や玉石基礎の場合は 基礎の上の木を足固めと呼ぶ木材でつないで緊結し 鉄筋コンクリートで足元を固めます 木材が劣化している場合は その部分を取り除いて新しい木に取り替えます 地面に近い場所は 特にシロアリ被害や腐朽の劣化の対策が大切です 補強前 鉄筋コンクリートで補強 布基礎の補強
耐力壁を増やして壁量を増やします その際 平面的に見て偏らないバランスで配置する必要があります 既存の壁に筋交いを入れて補強したり 構造用合板で補強します また 壁のないところに耐力壁を新設します 補強前 筋交いで補強 補強前 構造用合板で補強
部材の接合部の緊結が充分でない場合は ボルトなどの補強材で固定度を高めます 地震での多くの建物の被害は 揺れに伴い柱や筋交いの抜けが原因で崩れるというものでした 筋交い端部や耐力壁の柱脚を緊結します 隅柱の柱脚は基礎まで固定します 土台と基礎はアンカーボルトで その土台と柱脚はホールダウン金物で 柱と横架材は羽子板ボルトで止めるなどします 柱脚の補強 柱頭の補強 土台の補強
吹き抜け部分は水平剛性が低いので 火打ち材等を設置して剛性を高めます 補強前 補強後
建物に働く地震力は建物の重さに比例します 耐震性の面では屋根の軽いものがよいとされています 屋根材が重く 壁量の増加だけでは耐震強度に不安がある場合は 軽い材料に取り替える方法もあります 屋根取替前 屋根取替後
比較的安価に命を守ることができる装置です 住宅の地震対策は耐震補強が最も効果的です しかし経済的な理由で大がかりな耐震改修が出来ない場合に 家屋が倒壊しても一定の空間を確保することで命を守る装置として 耐震シェルター 耐震ベット があります 耐震ベット 耐震シェルター
耐震補強に要する工事費は住宅の建築年代 ( 古さ ) 規模 補強工法などによって違いますので一概には言えません 参考までに静岡県が調べた H15 年度補強補助に係る工事費の概算調査 によると 補強工事費の平均は 178 万円になっています 約 800 件の工事費を調べた結果では, 0~100 万円が24.6% 100~200 万円が43.6% 200~300 万円が18.9% 300~400 万円が8.2% 400~500 万円が2.5% 500 万円以上が2.1% こうした工事により耐震評価の評点が平均して 0.44 から 1.18 に増加した結果になっています
耐震補強計画の際のポイントは 耐震診断で判明した弱点を補強するということです その際 最低限求める耐震性の高さと かけられるコストを明確にし 十分納得してから契約しましょう 基本的に補強工事は 内外装をはがして内部の材料に部材や金物等を追加して補強するため 住みながらですと生活に不自由を感じ 居住者の生活に負担をかける場合があるので 事前に施工計画の説明を十分受ける事が大切です 耐震診断を受けたら 地震が来たら危険だ と危機感をあおられ 補強計画をせずにすぐ補強工事にかかり 結果として多額の費用請求を受けたというトラブルも多発しています 業者選びは慎重にしましょう
地震で最も危険なのは やはり家屋の倒壊による圧死です 先の阪神 淡路大震災における 死因の約 90% が家屋の倒壊による圧死でした 従って建物の耐震性を高める事が重要視されます 繰り返しになりますが 東海地震 東南海地震は過去の経験からいつ来てもおかしくない状態にあります しかしながら 東日本大震災を目の当たりにして あれほど地震の恐ろしさを理解しながらも 実際に対策は後回しになりがちです 何かあったときではもう手遅れです ご自身でできる身近なことから 対策を始められてはいかがでしょうか