肝疾患の診断 肝臓 胆のう 膵臓内科 眞柴寿枝
症例 1 症例 50 歳代男性 主訴 なし ( 肝障害精査目的 ) 既往歴 特記事項なし 家族歴 父 : 糖尿病 現病歴 生来健康 感冒様症状が出現したため近医を受診した このとき施行された血液検査にて肝胆道系酵素の上昇があり 精査 加療目的に当科紹介となった
WBC RBC Hb Ht PLT Seg Eo Lymph At-ly 6950 385 万 13.5 41.2 28.2 万 61.0 0.2 26.3 0 /μl /μl g/dl /μl 血算 TP Alb T.Bil AST ALT LDH ALP γ-gtp ChE ZTT TTT g/dl g/dl mg/dl Units Units 7.3 4.2 1.2 101 18 590 256 22 420 4.0 3.0 生化学 PT- 98.0 凝固まず何を考えますか? 前医での検査データ
まずどんな検査をしますか? WBC RBC Hb Ht PLT Seg Eo Lymph At-ly 6950 385 万 13.5 41.2 28.2 万 61.0 0.2 26.3 0 /μl /μl g/dl /μl 血算 TP Alb T.Bil AST ALT LDH ALP γ-gtp ChE ZTT TTT K g/dl g/dl mg/dl Units Units meq/ml 7.3 4.2 1.2 101 18 590 256 22 420 4.0 3.0 6.8 生化学 PT- 98.0 凝固前医での検査データ
慢性肝炎 肝硬変の原因 1. 肝炎ウイルス 2. アルコール 3. 薬物 4. 代謝異常 5. 免疫異常 6. その他
B 型肝炎と C 型肝炎は? B 型肝炎約 140 万人 C 型肝炎約 180 万人 2014 年 1 月 : 日本総人口 1 億 2722 万人 320 万人 /1.3 億人 2.5 40 人に 1 人はウイルス肝炎
肝硬変の成因別割合 PBC 2.3 AIH 1.9 NASH 関連 2.2 他 4.4 B 13.1 (1998-2007 年 ) B+C 1.0 アルコール 14.8 C 60.2 ( n = 20,719 ) 第 44 回日本肝臓学会総会 (2008)
都道府県別の肝癌死亡率 ( 人口 10 万人対 ) 21.5 未満 21.5 以上 24.2 未満 24.2 以上 29.1 未満 29.1 以上 33.4 未満 33.4 以上 ( 人口 10 万対 ) 厚生労働省. 人口動態調査 ( 平成 19 年 ) 都道府県別にみた死因簡単分類別死亡率 ( 人口 10 万対 ) より作成
症例 2 症例 70 歳代女性 主訴 倦怠感 ( 肝障害精査目的 ) 既往歴 肝疾患なし 現病歴 近医よりイレウスで紹介された 腸管壊死が疑われたため緊急手術となった 術後 1 日目の血液検査で高度の肝胆道系酵素異常があり当科紹介となった
WBC RBC Hb Ht PLT Seg Eo Lymph 18950 385 万 10.5 31.2 18.2 万 61.0 0.2 26.3 /μl /μl g/dl /μl 血算 TP Alb T.Bil AST ALT LDH ALP γ-gtp ChE ZTT TTT g/dl g/dl mg/dl Units Units 6.2 2.2 2.2 1400 890 1590 456 62 420 4.0 3.0 生化学 PT- 58.0 凝固まず何を考えますか? 検査データ
WBC RBC Hb Ht PLT Seg Eo Lymph 18950 385 万 10.5 31.2 18.2 万 61.0 0.2 26.3 /μl /μl g/dl /μl 血算 TP Alb T.Bil AST ALT LDH ALP γ-gtp ChE ZTT TTT g/dl g/dl mg/dl Units Units 6.2 2.2 2.2 1400 890 1590 456 62 420 4.0 3.0 生化学 PT- 98.0 凝固まず何を考えますか? 検査データ
B 型肝炎
B 型慢性肝炎の治療は難しい 治療してもウイルスが完全に排除 できない (C 型肝炎は排除可能 ) 自然経過で治療が不要になる人も 多い (C 型肝炎はずっと必要 ) ウイルスの検査項目が多い (C 型肝炎は少ない )
B 型肝炎の検査 HBs 抗原 HBs 抗体 HBV-DNA HBcrAg HBe 抗原 遺伝子型 HBc 抗体 HBe 抗体 HBcrAg: HB コア関連抗原
B 型肝炎の検査 HBe 抗原 HBe 抗体 HBe 抗原 / 抗体はウイルスの活動性 HBe 抗原 (+) HBe 抗体 (-) 活動性あり HBe 抗原 (-) HBe 抗体 (+) 活動性低い (10 は活動性あり )
B 型肝炎の検査 HBV-DNA ウイルスの量 感染初期 :10 9 個以上 /ml 肝炎期 : 10 4-5 個以上 /ml 少ない方が肝がん発生を抑制
B 型肝炎の検査 HBs 抗原 HBcrAg HBs 抗原と HBV コア関連抗原は 血液内だけでなく 肝臓内のウイルス量を反映 治療効果予測
B 型慢性肝炎の治療対象は? 慢性肝炎 ALT(GPT) が30 以上 ウイルスの量が多めの人 (HBV-DNAが4.0より多い人) 肝硬変 HBV-DNA が陽性の人 ( 日本肝臓学会 B 型肝炎診療ガイドライン第 2 版 )
B 型慢性肝炎の治療薬は? ペグインターフェロン -α 核酸アナログ
インターフェロンと核酸アナログ インターフェロン核酸アナログ 投与方法 注射 経口 治療期間 24-48 週間 長期 耐性 なし まれ~ 多い 副作用 多い 少ない 催奇形性 なし 否定できない
ペグインターフェロンの治療効果 () 30 投与終了後 24 週間に 3 条件すべて満たす HBe セロコンバージョン HBV-DNA(5.0Logcopy/ml 未満 ) ALT 正常化 (40 以下 ) ( 国内第 3 相試験 ) 20 17.1 19.5 10 9.8 7 4.9 0 90μg 24 週間 180μg 24 週間 90μg 48 週間 180μg 48 週間 HLBI 24 週間
核酸アナログ製剤とは? B 型肝炎ウイルスが増えないようにする薬 ゼフィックス ( ラミブジン ) ヘプセラ ( アデホビル ) バラクルード ( エンテカビル ) テノゼット ( テノホビル )
核酸アナログは中止できるか? HBs 抗原 (IU/ml) スコア 1.9log(80) 未満 0 1.9log(80)IU/ml 以上 2.9log(800)IU/ml 未満 2.9log(800)IU/ml 以上 2 1 HBコア関連抗原量 (logu/ml) スコア 3.0 未満 0 3.0 以上 4.0 未満 1 4.0 以上 2 15:55
核酸アナログは中止できるか? 再燃リスク総スコア予測成功率 低リスク群 0 80-90 中リスク群 1-2 約 50 高リスク群 3-4 10-20 (35 歳未満 : 30-40) 核酸アナログ製剤からインターフェロンに切り替えてから中止する (sequential 療法 ) 方法もある
De novo Hepatitis B virus infection HBs 抗原陰性化に伴う HBs 抗体や HBc 抗体の出現 以前は臨床的に HBV 治癒とされていた 実際には微量の HBV が肝細胞内などに存在 HBs 抗原陰性,HBs 抗体又は HBc 抗体陽性例に化学療法, 免疫抑制などを行った場合に HBs 抗原陽性化及び肝炎の発症が見られることあり de novo HBV infection
免疫抑制 化学療法により発症する B 型肝炎対策ガイドライン スクリーニング ( 全例 ) HBs 抗原 HBc 抗体 HBs 抗体 HBs 抗原 (+) HBc 抗体 (+) or HBs 抗体 (+) HBc 抗体 (-) and HBs 抗体 (-) HBe 抗原 HBe 抗体 HBV-DNA 定量 HBV-DNA 定量 通常の対応 (+):2.1 LogC/ml 以上 (-): 2.1 LogC/ml 以上未満 モニタリング HBV-DNA 定量 1 回 /1~3 月 ( AST/ALT 1 回 /1~3 月 ) 治療内容を考慮して間隔 期間を検討 核酸アナログ投与 (+):2.1 LogC/ml 以上 (-): 2.1 LogC/ml 以上未満
B 型肝炎治療のまとめ HBs 抗原消失が最終目標 ペグインターフェロン治療(48 週間 ) 20 で肝炎安定 12/5 年でHBs 抗原消失 核酸アナログ製剤テノホビルとエンテカビルテノホビルでHBs 抗原減少効果条件次第で中止できる場合あり
症例 3 症例 30 歳 男性 主訴 皮膚黄染 既往歴 小児喘息 家族歴 叔父が胃癌 現病歴 職場の健診で皮膚 眼球結膜の黄染と血液検査にて高ビリルビン血症を指摘され当科を受診した
WBC RBC Hb Ht PLT Ret Seg Eo Lymph At-ly 3850 395 万 12.5 39.2 26.5 万 1.64 61.0 0.2 26.3 0 /μl /μl g/dl /μl 血算 TP Alb T.Bil D.Bil AST ALT LDH ALP γ-gtp ChE T.Chol g/dl g/dl mg/dl mg/dl I mg/dl 6.5 4.6 3.6 0.9 15 8 239 286 13 192 108 生化学 PT- 71.0 凝固検査データまず何を考えますか?
WBC RBC Hb Ht PLT Ret Seg Eo Lymph At-ly 3850 395 万 12.5 39.2 26.5 万 1.64 61.0 0.2 26.3 0 /μl /μl g/dl /μl 血算 TP Alb T.Bil D.Bil AST ALT LDH ALP γ-gtp ChE T.Chol g/dl g/dl mg/dl mg/dl I mg/dl 6.5 4.6 3.6 0.9 15 8 239 286 13 192 108 生化学 PT- 71.0 凝固検査データまず何を考えますか?
C 型肝炎
C 型肝炎に対する治療法の変遷 1992 インターフェロン (IFN) 単独治療 1993 1994 1995 1996 リバビリン 1997 1998 1999 2000 2001 12 月 IFNα-2b+リバビリン (RBV) 2002 2 月 IFN 長期投与 2003 12 月 ペグIFNα-2a 単独 2004 12 月 ペグIFNα-2b+RBV 2005 4 月 IFN 自己注射 (HLBI) 2006 2007 3 月 ペグIFNα-2a+RBV 2008 2009 2010 2011 11 月テラプレビル + ペグ IFNα-2b+RBV 2012 2013 11 月シメプレビル + ペグ IFNα+RBV 週 1 回の IFN ウイルス直接阻害薬
日本における C 型肝炎ウイルスの型 インターフェロンが効きやすい 血清型 :2 (30) 遺伝子型 2b (10) 遺伝子型 2a (20) インターフェロンが効きにくい 遺伝子型 1a (0) 血清型 :1 (70) 遺伝子型 1b (70)
インターフェロン治療とウイルスの関係 1 型 2 型 高ウイルス量 5.0 LogIU/ml 300 fmol/l 1.0 Meq/ml 以上 最も効きにくい 効きにくい 低ウイルス量 5.0 LogIU/ml 300 fmol/l 1.0 Meq/ml 未満 効きやすい
インターフェロン治療に影響する因子 ウイルス側の因子 宿主 ( 人間側 ) の因子 遺伝子型 ( 血清型 ) ウイルス量 遺伝子変異コアアミノ酸変異 NS5A 変異 ISDR(interferon sensitivity determining region) IRRDR(interferon-ribavirin resistance determining region) 人種 年齢 性別 線維化の進展度 体重 肝脂肪化 鉄過剰沈着 高インスリン血症 IL-28B SNPs ITPA SNPs
インターフェロン治療に影響する宿主因子 人種 黒人 性別 女性 年齢 高齢 (60 歳以上 ) 体重 肥満 肝線維化 肝硬変に近づくと効きにくい 肝脂肪化 インスリン抵抗性 IL-28 遺伝子多型 ITPA 遺伝子多型
インターフェロン治療の効果 (2 型と低ウイルス量 ) ウイルス陰性化率 () 100 80 60 40 27 低ウイルス量は約 90 68 76 2 型高ウイルス量約 90 20 0 インターフェロン単独療法 24 週間 (1992 年 ) ペグインターフェロン単独投与 48 週間 (2003 年 12 月 ) インターフェロン + リバビリン併用療法 24 週間 (2001 年 12 月 ) ペグインターフェロン + リバビリン併用療法 24 週間 (2005 年 12 月 )
IFN の治療効果 (1 型高ウイルス量 ) ウイルス陰性化率 () 100 80 60 40 16 1 型高ウイルス量は治療効果が不足 30 50~60 20 5-6 0 インターフェロン単独療法 24 週間 (1992 年 ) ペグインターフェロン単独投与 48 週間 (2003 年 12 月 ) インターフェロン + リバビリン併用療法 24 週間 (2001 年 12 月 ) ペグインターフェロン + リバビリン併用療法 24-72 週間 (2004 年 12 月 )
新しい C 型肝炎治療薬 ウイルスを直接阻害薬 : DAA(Direct-acting antivirals) C E1 E2 P7 NS2 NS3 NS4A NS4B NS5A NS5B NS3/4 プロテアーゼ阻害薬 NS5A 阻害薬 NS5B ポリメラーゼ阻害薬
DAA を含んだ治療法 従来の治療 Peg-IFN RBV プロテアーゼ阻害薬を含んだ治療 Peg-IFN RBV DAA プロテアーゼ阻害薬テラプレビルシメプレビルバニプレビル
プロテアーゼ阻害薬併用 IFN 治療 初めてインターフェロン治療を受ける ( 初回治療 ) 前のインターフェロン治療時に ウイルスが検出感度以下 ( 陰性 ) になっていたが 終了後に再度陽性になった ( 再燃 ) 約 90 の人でウイルス排除
プロテアーゼ阻害薬併用 IFN 治療 前のインターフェロン治療時に ウイルスが検出感度以下にならなかった ( 前治療無効 ) 約 50 の人でウイルス排除 新しい治療方法が必要
症例 4 症例 60 歳代女性 主訴 なし ( 術前検査で HCV 陽性 ) 現病歴 変形性膝関節の手術目的で入院 術前に施行された血液検査にて HCV 抗体陽性を指摘され 精査目的に当科紹介となった
HBsAg Anti-HCV (-) 1.03 U/ml s/co WBC RBC Hb Ht PLT Seg Eo Lymph 4950 285 万 9.5 32.2 15.2 万 61.0 0.2 26.3 /μl /μl g/dl /μl 血算 TP Alb T.Bil AST ALT LDH ALP γ-gtp ChE g/dl g/dl mg/dl 7.3 3.8 1.2 43 67 286 256 75 482 生化学検査データまずどんな検査をしますか?
HBsAg Anti-HCV (-) 1.03 U/ml s/co WBC RBC Hb Ht PLT Seg Eo Lymph 4950 285 万 9.5 32.2 15.2 万 61.0 0.2 26.3 /μl /μl g/dl /μl 血算 TP Alb T.Bil AST ALT LDH ALP γ-gtp ChE g/dl g/dl mg/dl 7.3 3.8 1.2 43 67 286 256 75 482 生化学検査データまずどんな検査をしますか?
DAA を含んだ治療法 従来の治療 Peg-IFN RBV プロテアーゼ阻害薬を含んだ治療 Peg-IFN RBV DAA NS3/4A 阻害薬 インターフェロンを含まない DAA 治療 DAA NS3/4A 阻害薬 DAA NS5A 阻害薬
インターフェロンを使わない治療 DAA NS5A 阻害薬 ダクルインザ ( ダクラタスビル ) DAA NS3/4A 阻害薬 スンベプラ ( アスナプレビル ) 24 週間 (6 ヶ月間 ) 内服
ダクラタスビル + アスナプレビル 治療効果は? ウイルスを排除できた人が 84.7( 治験時データ )
SVR 24 率 () ダクラタスビル + アスナプレビル (Kumada H, et al. Hepatology 59: 2083-91, 2014) 100 80 84.7 80.5 87.4 60 40 20 0 全体 (222 人 ) 前治療無効例 (87 人 ) インターフェロン不応 不耐例 (135 人 )
SVR 24 率 () ダクラタスビル + アスナプレビル (Kumada H, et al. Hepatology 59: 2083-91, 2014) 100 性別 年齢 開始時 HCV-RNA 代償性肝硬変 IL-28B (rs12979860) 80 60 83.1/85.5 81.2/89.9 93.9/83.1 84.0/90.9 84.9/84.5 40 20 0 77 145 133 89 31 189 200 22 110 112 男女 <65 65 <800 800 なしあり CC non-cc
C 型肝炎治療のまとめ NS3/4Aプロテアーゼ阻害薬併用のインターフェロン治療初回 再燃 :90 前治療無効 :50 ダクラタスビル+アスナプレビル耐性変異なし :90 耐性変異あり :40 来年にはさらに強力な治療が登場予定
C 型肝炎治療の展望 100 C 型肝炎の撲滅 ウイルス陰性化率 () 80 60 40 20 0 IFN 単独 24 週 IFN 単独 48 週 IFN RBV ペグ IFN RBV ペグ IFN RBV DAA ペグ IFN RBV DAA DAA のみ