第 41 回日本臨床検査自動化学会平成 21 年 10 月 甲状腺疾患と抗 TSH レセプター抗体 診療前に検査値が分かることの意義 すみれ病院院長 浜田昇
以前は 甲状腺疾患の診療 患者さんの症状を聞き 甲状腺の触診を行い さらにその他の所見から ( 脈拍 皮膚の湿潤度など ) 甲状腺機能状態を判断し 診断を推測し 診療をしていた 次回の診察時に検査結果が分かることから 橋本病と思っていたら 甲状腺癌であったとか 機能が亢進していると思って薬の量を増やすと 実際は正常であって機能低下になってしまっていたと 言うようなことがあった
甲状腺疾患の診療 現在は 診療前に FT3, FT4, TSH 値 ( 機能 ) 甲状腺超音波検査 ( 形態 ) TgAb TPOAb 値 ( 自己免疫の関与 ) が分かるようになって 受診当日に かなりのレベルで診断がつき 治療方針が立てられるようになっている 特に 甲状腺機能が正常 あるいは低下の場合は 橋本病の診断やその他腫瘍性疾患の診断も 細胞診も当日に行っているので 一度の受診でほとんど治療方針が決まっている しかし これまで TSH レセプター抗体 (TRAb) 値が分かるのが診療後になっていたことから 甲状腺ホルモン高値の患者の診断 バセドウ病患者の経過観察中に治療方針の決定が正確にできない状況が続いていた
診療前に TRAb 値が分かるようになった その意義は? というのが本日のテーマです が その前に TSH レセプター抗体とは? TSH レセプター抗体を測定することによって何が分かるのか
抗 TSH レプター抗体とは TSHレセプター抗体は 甲状腺濾胞細胞膜にあるTSHレセプターに対する抗体で レセプターに結合して 甲状腺を刺激する バセドウ病の甲状腺機能亢進症の原因になっている抗体と考えられている 血液中の TSH レセプター抗体 刺激 TSH レセプター ホルモン合成 T3 T3,T4 T4,T4,T4 濾胞腔 血液中の T3, T4 上昇 ホルモン分泌増加 甲状腺濾胞上皮細胞 甲状腺濾胞
バセドウ病とはどんな病気? バセドウ病イコール甲状腺機能亢進症ではありません 甲状腺疾患の中には 血液中の甲状腺ホルモンが過剰になる疾患が沢山ある その中には 甲状腺機能の亢進によるものと 亢進によらないものがある バセドウ病は TSH レセプター抗体が甲状腺を刺激する為に血液中の甲状腺ホルモンが過剰になる疾患である 甲状腺機能亢進によるもの バセドウ病 機能性結節性甲状腺腫 胞状奇胎 絨毛上皮腫 妊娠甲状腺中毒症 機能性悪性腫瘍 非自己免疫性常染色体優性甲状腺機能亢進症亢進症 卵巣甲状腺腫 甲状腺機能亢進によらないもの 無痛性甲状腺炎 亜急性甲状腺炎 医原性甲状腺中毒症 薬剤性甲状腺炎 甲状腺腫瘍の梗塞 放射性甲状腺炎
TSH レセプター抗体は測定法から 2 つに分けられる TSH 受容体に結合する活性で測るもの 測定法から TSH Binding Inhibiting Immunoglobulin; TBII これを TRAb (TSH Receptor Antibody) と呼んでいる 甲状腺を刺激する活性で測るもの Thyroid Stimulating Antibody: TSAb 通常の診療には使われないが TSH の刺激作用を抑制する活性で測るもの Thyroid stimulation Blocking Antibody (TSBAb)
TRAb と TSAb の測定法を簡単に説明しますと 下垂体 フィート ハ ック TSH TSAb TRAb 患者 IgG ラベルした TSH ( モノクローナル抗体 ) がレセプターへの結合するのを阻害する活性で測定する TSHR TSH 受容体 camp camp 甲状腺上皮細胞 T3, T4 camp を増加させる活性で測定 健常人の下垂体 甲状腺の関係
TRAb と TSAb の測定意義 どう違うの?
甲状腺機能亢進との関係で見ると FT3, FT4 と TRAb, TSAb の相関 ( 未治療バセドウ病患者 ) FT3 FT4 TRAb 0.606 * 0.633 TSAb 0.307 0.263 * 相関係数 TRAb のほうが甲状腺機能と相関する
バセドウ病眼症との関係を見ると 眼症のない 眼窩の脂肪織が増加している 外眼筋が腫大しているものの TRAb TSAb 値を見ると TRAb TSAb (-) 脂肪 外眼筋 (-) 脂肪 外眼筋 TSAb はバセドウ病眼症の活動性と相関する
まとめると 甲状腺を刺激する活性でみている TSAb のほうが甲状腺機能亢進と相関するように思えるが レセプターとの結合で見ている TRAb の方が甲状腺機能との相関が強い TSAb は 眼症の重症度と深く関係している バセドウ病診療では バセドウ病の診断や活動性の観察には TRAb を用いる バセドウ病眼症の活動度を見る上で TSAb は有用 通常のバセドウ病診療には TRAb を用いる
TSH レセプター抗体を測定する ことによって何が分かるのか TRAb の測定により TSH レセプターに対する自己免疫の有無 程度が分かる すなわち バセドウ病の診断 バセドウ病の活動性が分かる これらの中で 特に診療前に TRAb 値が分かるメリットは? バセドウ病の診断甲状腺ホルモンが過剰の患者 眼球突出のある患者をみたとき 未治療時 妊娠時 出産後 胎児甲状腺機能亢進症 など バセドウ病の活動性の強さ バセドウ病が治りやすいかどうか 抗甲状腺薬中止の判断 薬を中止後の再発の予測 薬を中止後の再発かどうかの判断
TSH レセプター抗体値が 診療前に分かることの有用性
診療前に TRAb 値が分かることの有用性 1. 甲状腺中毒症患者を診たときその場で鑑別診断ができる 2. バセドウ病を抗甲状腺薬で治療中薬を中止して良いかどうかの判断ができる 3. 抗甲状腺薬中止後の経過観察中再発かどうかの判断ができる再発の予測ができる
診療前に TRAb 値が分かることの有用性 1 甲状腺中毒症患者を診たとき その場で鑑別診断ができる
甲状腺ホルモンが過剰 (FT3 FT4 TSH ) の患者さんが受診されました 患者さんは症状が強いので早く治療を開始してあげたいが 血中甲状腺ホルモン値を上昇させる疾患はたくさんあります
血液中の甲状腺ホルモンを過剰になる疾患 甲状腺機能亢進によるもの バセドウ病 機能性結節性甲状腺腫 胞状奇胎 絨毛上皮腫 妊娠甲状腺中毒症 機能性悪性腫瘍 非自己免疫性常染色体優性甲状腺機能亢進症亢進症 卵巣甲状腺腫 甲状腺機能亢進によらないもの 無痛性甲状腺炎 亜急性甲状腺炎 医原性甲状腺中毒症 薬剤性甲状腺炎 甲状腺腫瘍の梗塞 放射性甲状腺炎
甲状腺ホルモン過剰 (FT3 FT4 TSH ) の 患者さんが受診された時 これまでは この状態をみると バセドウ病のことが多いので すぐに抗甲状腺薬の投与が開始されたりしていました しかし バセドウ病と言える確証はありません 無痛性甲状腺炎との鑑別は絶対に必要です バセドウ病でないのに 薬が投与されると 機能低下になりますし 副作用がでたら大変です
どのように鑑別診断を 進めるかですが まず甲状腺ホルモンを過剰にさせる疾患の頻度をみると
甲状腺中毒症患者の原因疾患の頻度未治療例における頻度 ; 伊藤病院 甲状腺腫が結節性 妊娠している 甲状腺に痛み発熱 CRP 陽性 甲状腺機能亢進によるもの バセドウ病 853 853 (80%) 機能性結節性甲状腺腫 5 (0.5%) 胞状奇胎 絨毛上皮腫 0 妊娠甲状腺中毒症 10 10 (1.0%) 機能性悪性腫瘍 0 非自己免疫性常染色体優性甲状腺機能亢進症 0 卵巣甲状腺腫 0 甲状腺機能亢進によらないもの 無痛性甲状腺炎 89 89 (8.3%) 亜急性甲状腺炎 110 110 (10.3%) 薬剤性甲状腺炎 甲状腺腫瘍の梗塞 放射性甲状腺炎 0 この状態を見たときに問題になるのは バセドウ病と無痛性甲状腺炎の鑑別である
バセドウ病と無痛性甲状腺炎の違い バセドウ病 TSH 受容体抗体が甲状腺上皮細胞を刺激するために甲状腺ホルモンの合成 分泌が亢進し, 血中甲状腺ホルモンが高値になる疾患 無痛性甲状腺炎 リンパ球性甲状腺炎を基礎として一過性に甲状腺が破壊するため甲状腺ホルモンが血中に流出し, 甲状腺中毒症をきたす病態 橋本病でもバセドウ病でも起こる ともに 甲状腺腫はびまん性 血液中の甲状腺ホルモンは上昇
バセドウ病 無痛性甲状腺炎 TSH 受容体抗体 TRAb T3/T4 比 血中 T3,T4 原因? T3/T4 比 血中 T3, T4 分泌 漏出 ホルモン合成 T3,T3,T3 T4 濾胞腔 濾胞の破壊 T3 T4,T4,T4 甲状腺上皮細胞 甲状腺上皮細胞
バセドウ病 亜急性甲状腺炎 無痛性甲状腺炎の FT3/FT4 比 6 バセドウ病亜急性甲状腺炎無痛性甲状腺炎 4 FT3/FT4 2.81 2 0 0 2 4 6 8 10 FT4
バセドウ病 無痛性甲状腺炎 TSH 受容体抗体 TRAb T3/T4 比 血中 T3,T4 原因? T3/T4 比 血中 T3, T4 分泌 漏出 ホルモン合成 T3,T3,T3 T4 濾胞腔 濾胞の破壊 T3 T4,T4,T4 血流 甲状腺上皮細胞 甲状腺上皮細胞 血流
バセドウ病では 甲状腺内の血流が増加していることが多い
バセドウ病 無痛性甲状腺炎 TSH 受容体抗体 TRAb I I ホルモン合成 T3,T3,T3 T4 濾胞腔 血中 T3,T4 分泌 原因? I I 濾胞の破壊 T3 T4,T4,T4 血中 T3, T4 漏出 甲状腺上皮細胞 一番の違いはヨードの取り込み次は TRAb の有無 甲状腺上皮細胞
バセドウ病と無痛性甲状腺炎の鑑別 放射性ヨード甲状腺摂取率を測定する バセドウ病では高値 無痛性甲状腺炎では低値 しかし 面倒であるし 設備がないところが多いということから通常は TRAb で鑑別している
-10 10 0 10 10 20 20 30 30 40 40 50 50 60 60 70 70 80 80 90 90 100 100 バセドウ病バセドウ病橋本病橋本病腺腫様腺腫様甲状腺腫甲状腺腫腺腫腺腫単純性びまん性単純性びまん性甲状腺腫甲状腺腫無痛性無痛性甲状腺炎甲状腺炎亜急性亜急性甲状腺炎甲状腺炎 AFTN AFTN TMNG TMNG 各種甲状腺疾患における各種甲状腺疾患における TRAb TRAb 値 (%) (%) バセドウ病バセドウ病無痛性甲状腺炎無痛性甲状腺炎 TRAb CT 98-100% 陽性
AIA-TRAb による診療前検査 未治療バセドウ病の陽性率は
バセドウ病患者における AIA-TRAb の陽性率 第二世代 TRAb と同等の陽性率がでている TRAb CT AIA TRAb TRAb (IU/L) 10 1 Cutoff = 2 IU/L 0.1 Healthy blood Donor 89 / 89 (100 %) Graves Disease 71 / 73 (97 %) Healthy blood Donor 89 / 89 (100 %) Graves Disease 71 / 73 (97 %)
診療前に TRAb 値が分かることの有用性 -1 甲状腺中毒症患者を診たとき その場で鑑別 診断ができる 甲状腺ホルモン高値の患者を診たとき バセドウ病と無痛性甲状腺炎の鑑別が非常に大事である 患者は 動悸 息切れ 倦怠感などの甲状腺機能亢進症状があるので 早く治療を開始して欲しい しかし 両者の治療法が異なるので 診断がつかないと治療を始めることが出来ない これまでは T3/T4 比や甲状腺内血流などを見て鑑別していましたが 難しいことが多かった 診察時に TRAb 値が分かればこの鑑別ができる
診療前に TRAb 値が分かることの有用性 2 バセドウ病を抗甲状腺薬で治療中 薬を中止して良いかどうかの判断ができる
まず バセドウ病を抗甲状腺薬で治療中 の状況を考えてみます 抗甲状腺薬の投与量からみると 抗甲状腺薬で治療中の患者で 抗甲状腺薬の投与量がなかなか減量できない人は 薬を中止することはできない これは 当然です TRAb 値から見ると 治療開始後も TRAb が高値の人は そのあと治療をつづけてもなかなか寛解しない
療開始6ヵ月後診療前にTRAbが分かる必要はない 治抗甲状腺薬治療開始後 6 ヶ月の TRAb 値による予後の推測 M. Schott Horm Metab Res 2004 2 年間の抗甲状腺薬治療後の成績再発寛解のTRAb 値結論治療開始後半年で TRAb が高値 (TRAb 人 >10) のものは 抗甲状腺薬治療で寛解する可能性は低い このように TRAb 測定は 予後を推測する上で有用である しかし この場合は 必ずしも
抗甲状腺薬治療中で 診療前で TRAb の値を知りたいのは どのようなときか 現在治療中の患者さんの診察中に 明日からお薬を中止していいかどうかを判断するときです
薬を中止するかどうかを考えている状況 薬を中止して良いかどうか考えている患者は 薬の量が一日 1 錠以下で 診察間隔も 3-4 ヶ月に一度になっている 薬を中止して良いかどうかですが この状態の患者さんでバセドウ病の活動性を正確に判断する絶対的なものがない そんな中で 日本甲状腺学会からバセドウ病薬物治療ガイドラインの 中止の目安 がだされました
バセドウ病薬物治療中止の目安 ステーメント 1. バセドウ病が寛解しているかどうかを正確に判断する方法はまだ見つかっていない 現時点で実際的な方法は 最少量の抗甲状腺薬で一定期間 甲状腺機能が正常であることを確かめた後に 投薬中止を検討することである 2. 薬物治療中止の目安としては これまで TRH テスト T3 抑制試験 血清 Tg 値 血清 T3/T4 比 TSH 受容体抗体などが用いられているが いずれも絶対的なものでない 現在は簡便さと有用性で TSH 受容体抗体が参考にされている TRAb はどの程度有用なのか
バセドウ病薬物治療 ガイドライン 中止の目安の条件で 薬を中止したときの 治療成績
ガイドラインの条件で薬を中止したときの 治療成績 対象 ガイドラインに順じ 抗甲状腺薬を中止したバセドウ病患者 114 名 ( 2002 年 2 月から 2007 年 9 月に中止 ) 方法抗甲状腺薬中止後 バセドウ病を再発したものを再発例とし 甲状腺機能正常を維持しているもの, および甲状腺中毒症を呈しても一過性のものは寛解例とした
再発か 一過性甲状腺中毒症かの判断 バセドウ病再発 FT4 上昇および TSH 低値が 3 ヶ月以上続いたもの 一過性甲状腺中毒症 FT4 上昇が 3 ヶ月未満のものをとした無痛性甲状腺炎も バセドウ病の一時的な増悪もある 甲状腺中毒症状が強いものは,3 ヶ月を待たずに抗甲状腺薬を再開したが, その後の経過で再発か一過性かの判断を行った.
ガイドラインの条件で薬を中止したときの 治療成績 この条件でも再発する人は どんな特徴を持っているのか? 100 寛解維持率 (%) 90 80 70 60 50 40 半年後に 13% 再発 一年後に 25% 再発 ガイドラインの条件で中止すると 2 年経っても 7 割の人は 寛解している 30 20 10 0 中止後の期間 0 0.5 1 2 3 3 ( 年 ) 寛解維持率 (%) 87.7 75.5 69.2 56.1 観察された症例数 114 110 104 84
寛解を維持している患者と再発した患者の比較 (6 ヶ月後の成績で n=114) 寛解 n=100 再発 n=14 p 性 (M:F) 10:90 7:7 <0.01 年齢 37.4±11.0 40.4±15.8 NS 甲状腺腫 ( 七条分類 ) 1.859±0.726 1.786±0.893 NS 中止時 FT3 2.71±0.39 2.65±0.49 NS 中止時 FT4 1.27±0.23 1.34±0.16 NS 中止時 TSH 1.63±1.01 1.0613±0.65 0.075 中止時 TRAb ヒト 0 (0-4.8) 1.55 (0-3.8) 0.0162 中止時 TRAb ヒト : 中央値 ( 範囲 ), Mann-Whitney 検定 その他 : 平均 ± 標準偏差 明らかに TRAb 値に差がある
もう少し詳しく見てみましょう 投薬中止時の TRAb 値が 陽性の者は再発しやすいのか TRAb 陽性例と陰性例の 寛解維持率をみると
治療中止時の TRAb 値と治療成績 100 90 80 寛解維持率 (%) 中止後の期間 70 60 50 40 30 20 10 0 0 0.5 1 2 3 ( 年 ) TRAb 陰性 TRAb 陽性
治療中止時の TRAb 値と治療成績 100 90 80 寛解維持率 (%) 70 60 50 40 30 92 % 75 % P<0.05 TRAb 陰性 TRAb 陽性 20 10 0 中止後の期間 0 0.5 1 2 3 陽性のものでは有意に再発率が高い ( 年 ) それでは TRAb 値の高さで分けてみるとどうなのか
治療中止時の TRAb 値と治療成績 TRAb 陰性 弱陽性 (<2.0), 陽性 ( 2.0) 別 100 90 80 寛解維持率 (%) 70 60 50 40 30 20 10 91.8% 76.2% 73.3% TRAb 陰性 TRAb 弱陽性 TRAb 陽性 ( 2.0) 0 中止後の期間 0 0.5 1 2 3 ( 年 ) TRAb 弱陽性でも中止後半年で再発しやすい
診療前に TRAb 値が分かることの有用性 -2 バセドウ病を抗甲状腺薬で治療中 薬を中止して良いかどうかの判断ができる ガイドライン通り 最少量の抗甲状腺薬で一定期間 甲状腺機能が正常であることを確かめた後に 投薬を中止しても 再発するものがいる そのとき TRAb が陽性のものは 再発する可能性が高い 診察時に TRAb 値が分かっていれば 中止すべきかどうかの判断ができる そのとき患者さん こう言っています TRAbが 陰性なら 半年後 90% 2 年後 75% は治っています 陽性の場合は 半年後 75% 2 年後約 5 割ですどうしましょう?
診療前に TRAb 値が分かることの有用性 3a 抗甲状腺薬中止後の経過観察中 甲状腺ホルモンが上昇したとき 再発かどうかの判断ができる
抗甲状腺薬中止後の経過観察中 再発かどうかの判断をせまられる状況とは 投薬中止後 経過観察中に FT3, FT4 値の上昇を見たとき バセドウ病の再発と考えて 抗甲状腺薬が再開されることが多かったが 投薬をしなくても自然に正常に戻る例があることが分かってきた 正常に戻る例に 抗甲状腺薬を投与することは 機能が低下する可能性もあるし 副作用の危険もある 再発なのか 一過性のホルモン上昇なのかの鑑別は 治療の再開を考える上で極めて重要である TRAb でこの鑑別ができるか?
まず投薬中止後の経過観察中に FT3, FT4 値の上昇をみた症例の TRAb の変動を紹介します
3 2 1 0 6 4 2 0 3 2 1 0 バセドウ病 再発 A.A. 中止時 3 ヵ月後 6 ヵ月後 9 ヵ月後 再発時に TRAb が上昇している TSH (μiu/ml) FT4 (Ng/dL) TRAbh (IU/mL)
バセドウ病 一過性増悪 O.M. TRAbh (IU/mL) 3 2 1 0 TRAb の上昇なし FT4 は高く TSH は感度以下になっている 経過中に TSH の上昇は見られない TSH (μiu/ml) FT4 (Ng/dL) 3 2 1 0 3 2 1 0 中止時 3 ヵ月後 6 ヵ月後 7 ヵ月後 12 ヵ月後 15 ヵ月後 18 ヵ月後 24 ヵ月後
無痛性甲状腺炎 K.K. TRAbh (IU/mL) 3 2 1 0 TRAb の上昇はない FT4 は高くなったあと 自然に低下している それに伴い TSH も低値になったあと高値になっている典型的な無痛性甲状腺炎である TSH (μiu/ml) FT4 (Ng/dL) 3 2 1 0 40 30 20 10 0 中止時 3 ヵ月後 6 ヵ月後 9 ヵ月後 12 ヵ月後
無痛性甲状腺炎 Y.M. TRAbh (IU/mL) TSH (μiu/ml) FT4 (Ng/dL) 10 8 6 4 2 0 3 2 1 0 5 4 3 2 1 0 無痛性甲状腺炎では 発症後遅れて TRAb が一過性に上昇することがある H18.9 H19.2 H19.5 H19.7 H19.8 H19.9 H19.11 H20.2 H20.5 ATD 中止
多数例で検討してみました
抗甲状腺薬中止後 再発した例と一過性甲状腺中毒症例の TRAb 値の比較 対象 ガイドラインに準じ治療後,ATD を中止したバセドウ病患者 142 名 ( 男性 20 名 : 女性 122 名 2002 年 2 月から 2007 年 6 月に中止 ). 方法 ATD 中止後,3ヶ月ごとに経過観察し, 再発した39 名 ( 男性 5: 女性 34) 一過性甲状腺中毒症の27 名 ( 男性 2: 女性 25) について TRAb 値で両者を鑑別できるかを検討した ATD 中止時の状態は TRAb を含めて両者に差はありません
バセドウ病再発例と 一過性甲状腺中毒症例の 中毒症発症時の TRAb 値を 抗甲状腺薬中止時 TRAb 陰性のものと TRAb 陽性のもの にわけて示します
中毒症発症時の TRAb 値 ATD 中止時 TRAb 陰性群 TRAb-Dyno (U/L) >5 5 4 3 2 P < 0.0001 一過性中毒症例再発例 中央値 1 0 一過性甲状腺中毒症例 再発例 Mann-Whitney の U 検定
中毒症発症時の TRAb 値 ATD 中止時 TRAb 陽性群 ATD 中止時の TRAb 値は一過性群 2.1(1-4.8) 再発群 1.8(1-3.8) で差がない >6 6 5 P < 0.0001 一過性中毒症例 再発例 TRAb-Dyno (U/L) 4 3 中央値 2 1 0 一過性甲状腺中毒症例 再発例 Mann-Whitney の U 検定
TRAb の増加率 ATD 中止時 TRAb 陽性群 = 中毒症発症時の TRAb 値 ATD 中止時の TRAb 値 >3 TRAb の比 ( 中毒症発症時 / 中止時 ) 3 2 1 1.45 一過性中毒症例 再発例 0 一過性甲状腺中毒症例 再発例
ATD 中止後甲状腺中毒症が発症したとき TRAb 測定による 再発か一過性甲状腺中毒症かの鑑別の仕方 ATD 中止時 TRAb 陰性のものでは, TRAbhが陽転すれば ( 特に2.0U/L 以上 ) 再発の可能性が高い. ATD 中止時 TRAb 陽性のものでは, TRAbh が 3.0U/L 以上になるか, ATD 中止時 TRAbh 値に比較して中毒症発症時 TRAbh 値が 1.45 倍以上になれば 再発の可能性が高い.
診療前に TRAb 値が分かることの有用性 -3a 抗甲状腺薬中止後の経過観察中再発かどうかの判断ができる 治療中止後の経過観察中に甲状腺ホルモンの上昇を見たとき バセドウ病の再発か一過性の甲状腺ホルモンの上昇かの鑑別が重要になる 前者であれば 抗甲状腺薬を再開しなければいけないが 後者であれば経過観察で良い 両者の鑑別は TRAb 値によって可能なことが多いので 診療時に TRAb 値が分かることは 患者を診療する上で有用性が高い
診療前に TRAb 値が分かることの有用性 3b 抗甲状腺薬中止後の経過観察中 再発を予測できる
抗甲状腺薬中止後の経過観察中 バセドウ病の再発予測ができるというのは どんなメリットがあるの? 投薬中止後の経過観察は 中止 1-2 ヵ月後に一度見る 機能正常であれば その後は 3 ヶ月に一度経過観察している 甲状腺機能検査が TSH も含めて正常であれば 次回は 3 ヵ月以上先と言うことになる しかし その間に再発してくるものがある 次回までに再発の可能性が予測できれば 患者に指導が出来る ( 早期の受診 ストレス回避など ) この再発が TRAb で予測出来るか?
まず投薬中止後の再発した症例の 再発する前の TRAb 値の変動を示します
3 2 1 0 6 4 2 0 3 2 1 0 再発前には TRAb の上昇は見られていない バセドウ病 再発 A.A. 中止時 3 ヵ月後 6 ヵ月後 9 ヵ月後 TSH (μiu/ml) FT4 (Ng/dL) TRAbh (IU/mL)
TRAbh (IU/mL) 8 6 4 2 0 バセドウ病再発 宮下真紀 再発の前から TRAb が上昇し始めている M.M. 15.7 TSH (μiu/ml) FT4 (Ng/dL) 10 8 6 4 2 0 5 4 3 2 1 0 H17.3 H17.9 H18.2 H18.5 H18.11 H19.5 H19.8
TRAbh (IU/mL) 20 15 10 5 よく見るとごく僅かであるが 再発前から TRAb が上昇している 2.3 バセドウ病 再発 S.T. 2.9 16.8 0 TSH (μiu/ml) FT4 (Ng/dL) 5 4 3 2 1 0 2 1 0 中止時 3 ヶ月後 6 ヵ月後
多数例で検討してみました
抗甲状腺薬中止後の再発を TRAb で予測できるか 対象 ガイドラインに準じ治療後,ATD を中止したバセドウ病患者 128 名 ( 男性 18 名 : 女性 110 名, 2002 年 2 月から 2007 年 6 月に中止 ). 方法 ATD 中止後,3 ヶ月ごとに FT4,TSH,TRAb を測定し, 再発例 39 名 ( 男性 5: 女性 34) 一過性甲状腺中毒症例 27 名 ( 男性 2: 女性 25) 寛解例 62 名 ( 男性 11: 女性 51) の TRAb 値の変動を比較した
再発例における 中毒症発症前 6 ヶ月間の TRAb 値の動き
再発例における中毒症発症前 6 ヶ月間の TRAb 値の動き 15 TRAb (IU/mL) 10 5 0 前 6 ヶ月前 3 ヶ月再発時
再発例における ATD 中止時の TRAb 値と中毒症発症前 6 ヶ月 3 ヶ月 中毒症発症時の TRAb 値の差 中毒症発症前 6 ヶ月 - ATD 中止時の TRAb 値 = 中毒症発症前 3 ヶ月 - ATD 中止時の TRAb 値 = 中毒症発症時 - ATD 中止時の TRAb 値 =
ATD 中止時の TRAb 値と再発前 6 ヶ月 再発前 3 ヶ月 再発時の TRAb 値の差 10 Wilcoxon singled-ranks test TRAb 値の差 (IU/mL) 8 6 4 2 p < 0.01 0 ATD 中止時の TRAb 値と -2 再発前 6 ヶ月の TRAb 値との差 再発前 3 ヶ月の TRAb 値との差 再発時の TRAb 値との差
TRAb 値で再発を予測できるか 中毒症発症前 6ヶ月から発症前 3ヶ月のTRAbの増加と再発の関係
中毒症発症前 3 ヶ月と発症前 6 ヶ月の TRAb 値の差 5 4 p < 0.005 経過観察中の TRAb 最高値と TRAb 値の差 (U/L) 3 2 1 0-1 -2 p < 0.05 ns ATD 中止時の TRAb 値の差 -3-4 再発群 一過性群 寛解群
ATD 中止後 TRAb が軽度でも上昇すると 再発する可能性があると言えるか TRAb の上昇を >0U/L とした場合 寛解群 + 一過性群 再発群 TRAb 上昇 あり 20 例 7 13* (65%) なし 91 例 71 20 (22%) 78 33 カイ二乗検定,*p < 0.01 TRAb の上昇がないものでも 22% は再発しているが TRAb が軽度でも上昇した場合は 65% が再発している
ATD 中止後 TRAb が軽度でも上昇すると 再発する可能性があると言えるか TRAb の上昇を >1U/L とした場合 寛解群 + 一過性群 再発群 TRAb 上昇 あり 8 例 1 7* (87.5%) なし 103 例 77 26 (25.2%) 78 33 カイ二乗検定,*p < 0.01 87.5% が再発している
診療前に TRAb 値が分かることの有用性 -3b 抗甲状腺薬中止後の経過観察中 再発の予測が出来る 抗甲状腺薬中止後 FT4, TSH が正常範囲にあっても TRAb 値が軽度でも上昇するものは 再発する可能性が高い 診療前に TRAb 値が分かれば その後の甲状腺機能の変化を予測でき 患者を指導する上で有用である
診療前に TRAb 値が出ることの 有用性はご理解いただけたと思います 本日 示した後半のデータは TRAb human によるものである TRAb human は 自動化ではなく インキュベーション時間も 180 分である問題は 自動化されて インキュベーション時間が 20 分の AIA-TRAb で同じ結果が出せるかである
AIA システムでは トレーサーに 安定性 レセプターとの親和性が高い抗ヒト TSH レセプターモノクローナル抗体を用いているので 反応性が改善し反応時間を短縮できた 診療前検査が可能になった しかし 診療前に結果を出す為には 何といっても反応時間をあまり長くはとれない 診療前 TRAb 検査の価値は 未治療のバセドウ病の診断だけでは 半減する 感度を上げ 再現性を高くするには 工夫が必要
TRAb human と AIA-TRAb との相関 E テスト AIA-TRAb TOSOH (TRAb) (IU/L) (IU/L) 40 30 20 10 y = 1.009x - 0.150 R = 0.975 n = 118 0 0 10 20 30 40 DYNO test TRAb Human ヤマサ (IU/L)
TRAb human との相関 低濃度域 E テスト TOSOH Ⅱ(TRAb) (IU/L) 5 4 3 2 1 0 y = 0.849x + 0.088 R = 0.919 n = 20 0 1 2 3 4 5 DYNO test TRAb Human キット ヤマサ (IU/L)
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