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計算化学のすすめ第 5 回フロンティア軌道を用いた反応予測 2 京都府立大学人間環境学部講師リントゥルオト正美 分子モデリングソフトウェア Spartan ( スパルタン ) のご紹介 (5) グラフィックス ( その 1) 4 米国法人 Wavefunction,Inc. 日本支店長内田典孝 水中における β-(1 3)- グルカンの構造解析 5 北九州市立大学国際環境工学部教授上江洲一也 emd 2 ( エムディースクエア ) で始める分子動力学シミュレーション (5)MD 計算後の解析 ( その 2) 8 株式会社インフォグラムシステム開発部田上享

計算化学のすすめ 第 5 回フロンティア軌道を用いた反応予測 京都府立大学人間環境学部講師リントゥルオト正美 化学反応において複数の生成物が予想される場合 生成熱の比較によって熱力学的な選択性を知ることができる この場合 反応物 生成物の両方の計算が必要になり 系によっては計算労力が負担になる場合がある 生成物の計算をしなくても反応物の計算結果のみから反応性を知ることもできる 化学反応で重要な軌道は HOMO-LUMO 付近の軌道でこれらの軌道はフロンティア軌道と呼ばれる フロンティア軌道を用いた反応予測についてみてみよう 1. フロンティア軌道理論福井謙一らは芳香族への求電子置換反応は HOMO の電子密度の大きい場所で 求核置換反応では LUMO の電子密度の大きい場所で起きることを単純ヒュッケル法の結果から説明した ここで電子が詰まっている軌道の中で最もエネルギーの高い軌道を最高被占有軌道 HOMO(Highest Occupied MO) 空の軌道のうち最もエネルギーの低い軌道を最低空軌道 LUMO(Lowest Unoccupied MO) という 反応性に対して重要な情報を与えるこれらの軌道をフロンティア軌道という 図 1 にナフタレンの HOMO の等高線図を示す 求電子試薬がナフタレンを攻撃する場合には求電子試薬の空の軌道とナフタレンの HOMO が相互作用すると考えられる 図からわかるように HOMO においてα 位の電子密度が高いことから 求電子試薬はα 位を攻撃すると予想される 図 1. ナフタレンの HOMO の等高線図 (6-31G(d)/HF 計算 ) 表 1. モノ置換ベンゼンのニトロ化における相対速度と配向性に対する実験結果 同様に芳香族のニトロ化の配向性について見てみよう 表 1 にモノ置換ベンゼンのニトロ化における配向性と無置換ベンゼンに対する相対速度を示す モノ置換ベンゼンのニトロ化は求電子置換反応であるから HOMO の各位置の大きさを比較すれば その配向性を説明できる 図 2にモノ置換ベン ゼンのそれぞれの HOMO を示す 電子供与性基を有するフェノールやクロロベンゼンではそれぞれオルト位 パラ位での軌道の広がりが大きくなっていることがわかる すなわち HOMO における電子密度がオルト位 パラ位で大きいため 求電子試薬からの攻撃をオルト位 パラ位で受けやすくなっている 一方 電子吸引性基をもつ安息香酸ではメタ位のローブがオルト位 パラ位に比べ大きくなっており メタ位で求電子試薬の攻撃を受けやすいことを説明する結果となっている 図 2. モノ置換ベンゼンの HOMO の等高線図 (6-31G(d)/HF 計算 ) 電子供与性置換基を有するモノ置換ベンゼンのニトロ化反応は無置換ベンゼンよりも速く 電子吸引性置換基を有する場合 無置換ベンゼンよりも遅くなる また 電子供与性基はオルトーパラ配向性で 電子吸引性基はメタ配向性である 図 3. ベンゼンとクロロベンゼンの静電ポテンシャルマップ 0.002 electron/au 3 の等電子密度表面上に静電ポテンシャルを表示 (6-31G(d)/HF 計算 ) これに対して クロロベンゼンのニトロ化反応は特徴的である オルト-パラ配向性を示すのに無置換ベンゼンに比べてその反応速度は遅い これは図 3の静電ポテンシャルマップから説明をすることができる クロロベンゼンはベンゼンに比べてベンゼン環上の電子密度が少なくなっていることがわかる 求電子置換反応では中間体としてカルボカチオンが生じる OH 基などの電子供与性基はカルボカチオンの正電荷を緩和し安定化する働きをする しかし クロロベンゼンではこの緩和は無置換ベンゼンよりも劣ってしまい ニトロ化は遅くなる 2 Wako Infomatic World No.7

2.Diels-Alder 反応フロンティア軌道を用いた反応予測は芳香族の置換反応のみでなく Diels-Alder 反応のような2 分子間の軌道の位相の関係する反応に対しても有効である Diels-Alder 反応とはジエン (diene) と求ジエン (dienophile) による [4+2] 環状付加反応で 2 分子間の2ケ所の結合生成が協奏的に進行する diene である 1,3-ブタジエンと dienophile であるエテンの反応を例にとってみる 図 4にそれぞれの HOMO およ diene としてシクロペンタジエン dienophile としてエチレン アクリロニトリル テトラシアノエチレンを用いた場合の相対速度比は 6 10-6 :1:4 10 7 と実験的に得られている 表 2にそれぞれ化合物の HOMO LUMO エネルギーレベルを示す dienophile であるエチレンに電子吸引性の CN 基をつけると LUMO のエネルギーレベルが下がっていくことがわかる そのため diene であるシクロペンタジエンの HOMO と dienophile の LUMO のエネルギー差 ΔE 2 が CN 基の置換数の増加にともない小さくなって行く この順序と相対速度比の実験結果が一致していることがわかる 一般に dienn に電子供与性の置換基 dienophile に電子吸引性の置換基をつけると Diels-Alder 反応は進行しやすくなる 表 2.HOMO LUMO のエネルギーレベル (a.u.) と HOMO-LUMO エネルギー差 (ev) (6-31G(d)/HF 計算 ) 図 4.1,3-ブタジエンとジエンの軌道相互作用び LUMO を示す 1,3-ブタジエンの HOMO とエテンの LUMO 1,3-ブタジエンの LUMO とエテンの HOMO の位相が一致している この2つの相互作用によって環状付加反応が進行する 図 5に diene と dienophile の HOMO-LUMO のエネルギー相関図を示す 次に 2-メトキシブタジエンとアクリロニトリルの反応について見てみよう 生成物としてはパラ形とメタ形が可能である 図 6に 2-メトキシブタジエンの HOMO とアクリロニトリルの LUMO を示す 軌道のローブの大きい部分同志で重なれば 最も効果的に結合を形成することができる この結果から パラ生成物が選択的に生成すると予想される 図 5.diene と dienophile のエネルギー相関図 図 6.2- メトキシブタジエンの HOMO とアクリロニトリルの LUMO を電子密度図に重ねた図 (6-31G(d)/HF 計算 ) 参考文献 1. 村橋俊一 戸嶋直樹 安保正一編集 分子の物理化学 朝倉書店 2006 年 2. 堀憲次 山本豪紀 情報化学 計算化学実験 丸善 2006 年 3. 加納航治 有機反応論 三共出版 2006 年 4.W. J. Hehre A. J. Ahusterman J. E. Nelson The Molecular Modeling Workbook for Organic Chemistry WaveFunction, Inc. 1998 年 Wako Infomatic World No.7 3

分子モデリングソフトウェア Spartan ( スパルタン ) のご紹介 (5) グラフィックス ( その 1) 米国法人 Wavefunction,Inc. 日本支店長内田典孝 Spartan で作成できるグラフィックスのうち主なものは以下の通りです サーフェス 全電子密度(Electron Density ) 静電ポテンシャル(Electrostatic Potential ) 局所イオン化ポテンシャル(Local Ionization Potential) 分子軌道(Molecular Orbital Surface) マップ 静電ポテンシャルマップ 局所イオン化ポテンシャルマップ 分子軌道マップ スライス 各プロパティの断面 サーフェス とは それぞれのプロパティで分子近傍に等値面をつくったもののことを指します たとえば全電子密度面であれば 下図のようになります 図 2. 静電ポテンシャルの等値面とマップ左のグラフィックスは 負値 (-30kJ/mol) の静電ポテンシャルの等値面をつくったものです 分子密度面上のあらゆる点で静電ポテンシャルを計算しの色分けしたものが右図で 静電ポテンシャルマップ とよびます これらは 分子表面上の電荷分布の理解に役立ちます Spartan ではいつも最小値に赤 最大値を青で表現しますので " 赤は電子が豊富にある部位 青は電子が欠乏している部位 " と考えられます 次回は SMD SRD などの Spartan に関連するデータベースについてご紹介します 図 1. 全電子密度 このように 等値面は その値によって原子の位置 結合 分子の大きさなどさまざまな情報を提供します 図 1 の右側のグラフィックスは CPK モデルによりよくフィットするように決められた数値で等値面を作っています つまり分子の大きさ形を再現するものとして考えることができます この面の上に別のプロパティを重ねて色分けをしたものを マップ とよびます ここで静電ポテンシャルについて考えてみましょう 静電ポテンシャル とは 分子近傍での正の点電荷に対するポテンシャルエネルギー のことです 4 Wako Infomatic World No.7

水中における β-(1 3)- グルカンの構造解析 北九州市立大学国際環境工学部教授上江洲一也 β-(1 3)-グルカンは, グルコースがβ-(1 3) 結合で連結した鎖を基本骨格にもつ多糖である その中で最も単純な構造を有する物質は,1966 年に原田らによって発見され, 加熱すると固まる性質 (curdle ) に由来しカードラン (Curdlan:CUR) と命名された 1) CUR はセルロースに次いで天然に豊富に存在する多糖であり, その性質を利用して食品添加剤, コンクリートの増粘剤, 化粧品など様々な用途で用いられている 一方, 同じβ-(1 3) グルカンに属し, 主鎖内のグルコース 3 つに対し 1 つの側鎖を持つシゾフィラン (Schizophyllan:SPG) には, 抗腫瘍活性があることが見出されており 2), 子宮頸癌の筋肉注射剤として広く世の中に知られている CUR は X 線による構造解析により Fig.1(a) に示 のような影響をもたらすかを検討するため,CUR の主鎖 6 つに 1 つの割合で側鎖を付加した 6/1G-SPG モデル に関して,MD シミュレーションによって水中での挙動について検討した結果を紹介する 各モデルを 85 85 85A のセル中心に配置し, 周りに約 20,000 個の水分子をランダムに配置した 今回の計算では, 多糖には GLYCAM93 力場パラメータ 4) を, 水分子には TIP3P 力場パラメータを採用し, 能勢法により温度を 298K に制御しつつ,NPT アンサンブルで MD 計算を行った GLYCAM パラメータの最新版は, 論文はもちろんのこと, ホームページ (http://glycam.ccrc.uga.edu/index.jsp) でも入手することができる Fig.1 The structures of the CUR-crystal and solvated β-1,3-d-glucans. Comparison between (a) CUR-crystal, (b) CUR (c) 6/1G-SPG and (d) SPG. Each single main-chain consists of 19 glucose units. SPG and 6/1G-SPG have one side chain per three main-chain glucose residues and one side-chain per six main-chain glucose residues, respectively. すようなβ-(1 3) 結合したグルコース鎖が 3 本集まった右巻き 3 重螺旋構造をとることがわかっている 3) この 3 重螺旋構造は,2 位のヒドロキシル基同士の水素結合の連結で安定化されており, その水素結合様式には 3 種類 (Type A: 螺旋軸方向に垂直な平面上における不等辺六角形の分子間水素結合,Type B: 同一鎖内における右巻き螺旋状の分子内水素結合,Type C:3 本の鎖にまたがった左巻き螺旋状の分子間水素結合 ) あると考えられる ( 本誌 2007 年 8 月号参照 ) では, このβ-(1 3)-グルカンは, 水中ではどのようにして 3 重螺旋構造を維持しているのだろうか? また, 側鎖があるかどうかで, 水中でどうような形態変化があるのだろうか? このような興味に対して分子動力学 (MD) 計算は, 多大な情報を与えてくれる 今回は, 結晶構造を再現した CUR モデル,CUR モデルの主鎖 3 つに 1 つの割合でグルコース側鎖 1 つを付加した SPG モデル, さらに, 側鎖の数がど MD 計算を 700ps 行った後のそれぞれのβ-(1 3)-グルカンモデルの分子構造を Fig.1(b),(c),(d) に示した 各モデル 3 重螺旋内部の水素結合を調査した結果,CUR-crystal 構造で形成可能な 3 種類の水素結合様式 (Type A,Type B, Type C) が混在していた したがって,β-(1 3)-グルカン 3 重螺旋は水溶液中においても, 結晶構造の場合と同様な水素結合によって安定化されていることが示唆された 全てのモデルにおいて 3 重螺旋構造を維持しているものの, ピッチ (pitch: 螺旋 1 巻分の長さパラメータ ) の初期構造からの変化に大きな相違があった 500-700ps 間のピッチを測定した結果を Fig.2 に示した 側鎖を持たない CUR モデルのピッチは熱運動による影響で結晶状態の CUR-crystal のピッチよりも 15% 程度伸長しているのに対し, 側鎖を持つ 6/1G-SPG モデルと SPG モデルのピッチの伸長は 7% 程度に抑制されている Wako Infomatic World No.7 5

Fig.2 Fluctuation of the helix pitches for CUR, 6/1G-SPG and SPG models during the simulation. The red line indicates the pitch for a CUR-crystal structure determined by Deslandes et al. The pitch is defined as the length between the 6 main-chain glucose units along the helix c-axis. Fig.4 The mean-square displacement (MSD) of the bulk water and the water molecules around side chains. 側鎖を持つか持たないかで, 水溶液中でこのような差が生まれるということは水分子がなんらかの影響を及ぼしていると考え,6/1G-SPG モデルと SPG モデルの 700ps でのスナップショットにおいて側鎖と水分子との配置を検証した Fig.3 に示したような水分子を介した 主鎖 - 側鎖 (Fig.3A, B) および 側鎖 - 側鎖 (Fig.3C) 水素結合が観測された 主鎖の周りの水和水と側鎖の周りの水和水とが交わることで, 主鎖 - 側鎖 および 側鎖 - 側鎖 間の引力が生まれ, 熱運動による主鎖の伸長を抑制していると考えられる 側鎖周りの水の運動性を定量的に評価するため, 側鎖近傍の水分子にマーカーをつけ, その他のバルクの水分子と共に平均二乗変位 (Mean Square Displacement,MSD) を解析した MSD は, 原子あるいは分子がある時間の間に元の位置からどれだ け移動したかの目安となる量であり, それを時間ごとにプロットしたグラフの傾きから自己拡散係数 (Self-diffusion coefficient) が求められる MD 計算から求めた自己拡散係数の値は一般に実験値とさほど良い一致は示さず, 最初の 1 桁目の数字があえば良いほうであるが 5), 相対値として使用する場合は特に問題はない 解析結果を Fig.4 に示した 側鎖周辺の水分子の運動性はバルクの水分子と比べて著しく減少していた 側鎖周辺の水分子の MSD の増加が見られない領域では, 主鎖 - 側鎖 および 側鎖 - 側鎖 水素結合が観測された それら水素結合はいくつかの水分子が入れ替わりながら 4 ps 程度持続し, その現象は断続的に観測された また,SPG と 6/1G-SPG においては螺旋軸中心に Fig.5 に示したような約 3.5A の空孔が存在していた 一方, Fig.3 A snapshot of 6/1G-SPG (a) and SPG (b) in 700 ps. Blue and green circles highlight the water molecule-bridged hydrogen bonding. 6 Wako Infomatic World No.7

CUR-crystal および CUR においては,2 位の水酸基が螺旋中心にせり出していたため空孔は存在していなかった この SPG と 6/1G-SPG の空孔は, 結晶構造では螺旋軸に対して約 70 に位置していた主鎖グルコース残基が, 側鎖が水分子との水素結合による影響で螺旋軸に対して約 30 の位置まで傾いた結果であった 参考文献 Fig.5 The top views of the triple helix structures for (a) CUR-crystal, (b) CUR, (c) 6/1G-SPG and (d) SPG in 700 ps. 1.Harada, T. Masada, M. Fujimori, K. Maeda, I. Agr. Biol. Chem. 30, 196-198. (1966). 2.Chihara, G. et al., Nature. 222(194), 687-688. (1969) 3.Deslandes, Y. Marchessault, R. H. Sarko, A. Macromolecules, 13, 1466-1471. (1980) 4.R. J. Woods, R. A. Dwek and C. J. Edge, J. Phys. Chem., 99, 3832-3846 (1995). 5. 岡崎進. コンピュータシミュレーションの基礎, 化学同人. (2000) emd 2 -Empowered Molecular Design/Dynamics- emd2( エムディースクエア ) は 分子動力学シミュレーション (MD) 計算と分子操作をリアルタイムに連携させた新しいタイプの分子モデリングソフトです ユーザーフレンドリーなインターフェイスを通じ 通常のデスクトップコンピューター上で 分子間相互作用を実感しながら 動く分子を使った分子モデリング が可能となりました よりリアルに よりパワフルに そして直感的に これが我々の目指す 分子モデリングソフトの新しいカタチです コード No. 品 名 容量 希望納入価格 ( 円 ) 303-17151 ( 株 ) インフォグラム (MD-AC1Std)eMD 2 スタンダードアカデミック版 1セット 500,000 300-17161 ( 株 ) インフォグラム (MD-AC1Std)eMD 2 スタンダードコーポレート版 1セット 1,500,000 634-08061 ( 有 ) 高速計算機研究所 MDGRAPE-3 PCl-X アカデミック版 1 枚 1,200,000 - ( 有 ) 高速計算機研究所 MDGRAPE-3 PCl-X コーポレート版 1 枚 照 会 Wako Infomatic World No.7 7

emd 2 で始める分子動力学シミュレーション (5)MD 計算後の解析 ( その 2) 株式会社インフォグラムシステム開発部田上享 前回に引き続き 今回も MD 計算後の解析について解説いたします 今回は 計算ログから平均二乗変位 (MSD:Mean Square Displacement) と自己拡散係数を計算してみます 時刻 t 0 で X(0) にいた粒子が 拡散しながら時間 t 経過後に X(t) に達したとします 時間 t の間に元の位置から移動した距離の 2 乗を時間平均したもの< X(t)-X(0) 2 >で N 個の粒子の平均二乗変位は以下の式で求めることができます 計算ログから平均二乗変位を計算するには まず対象となる 1 つ以上の原子と時間幅を決め 計算ログから座標値を抜き出します 抜き出した座標値より 各ステップでの初期座標からの距離が計算できますので その値から平均二乗変位を計算しグラフを作成します 図 2. 全水分子の O の平均二乗変位 ( 緑 ) と自己拡散係数 ( 赤 ) 平均二乗変位は t の小さいところでは t 2 に比例し t の大きいところでは 6Dt+ 定数 (D は自己拡散係数 ) の形をとります ( アインシュタインの 酔歩の理論 (Random walk theory)) したがって t を横軸にした平均二乗変位プロットの直線部分の傾きから自己拡散係数を求めることができます 図 2 のグラフの直線部分の傾き ( 赤色の線 ) から水の自己拡散係数を計算すると 1.59 10-9 [m 2 /s] という結果が得られます 図 1. 対象原子が 1 つの場合の Excel での計算式の例 次回は emd 2 の機能であるリアルタイム分子操作と高速チップ MDGRAPE-3 についてご説明します 実際に 前回の二体相関関数の計算で使用した水中の酢酸分子のシミュレーション結果から すべての水分子の酸素原子について平均二乗変位を計算すると以下のようなグラフになりました 緑色の線 ) emd 2 の体験版及び今回の連載記事の Web 版を以下の URL よりご覧いただけます http://www.emd2.jp/ こちらも 是非ご覧下さい 071201 学 01K