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小児整形外科

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299 P1NP 骨芽細胞 プロコラーゲン分解 Ⅰ 型コラーゲン TRACP-5b BAP OC ucoc OC 類骨 細胞活性化による分泌 1 増殖期 P1NP 2マトリックス形成 成熟期 3 石灰化期 OC 破骨細胞 肝臓 腎臓代謝 尿中 NTX CTX 血中 NTX コラーゲン断片 CTX α

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タペンタ 錠 25mg タペンタ 錠 50mg タペンタ 錠 100mg に係る 販売名 タペンタ 錠 25mg タペンタ 錠 50mg 医薬品リスク管理計画書 (RMP) の概要 有効成分 タペンタ 錠 100mg 製造販売業者 ヤンセンファーマ株式会社 薬効分類 821 提出年月 平成 30 年

ピルシカイニド塩酸塩カプセル 50mg TCK の生物学的同等性試験 バイオアベイラビリティの比較 辰巳化学株式会社 はじめにピルジカイニド塩酸塩水和物は Vaughan Williams らの分類のクラスⅠCに属し 心筋の Na チャンネル抑制作用により抗不整脈作用を示す また 消化管から速やかに

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甲状腺機能が亢進して体内に甲状腺ホルモンが増えた状態になります TSH レセプター抗体は胎盤を通過して胎児の甲状腺にも影響します 母体の TSH レセプター抗体の量が多いと胎児に甲状腺機能亢進症を引き起こす可能性が高まります その場合 胎児の心拍数が上昇しひどい時には胎児が心不全となったり 胎児の成

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Transcription:

骨について 骨は常に骨芽細胞 ( 骨を作る細胞 ) による 骨形成 と 破骨細胞 ( 骨を壊す細胞 ) による 骨吸収 を繰り返して再構築 ( 骨リモデリング ) を営み続けて常に新しく生まれ変わっています ( 右図 ) 骨の量はこの 2 つの異なる細胞のバランスによって保たれています ところが 骨芽細胞は脂肪や筋肉の細胞などと同様に間葉系幹細胞由来なのに対して 破骨細胞は赤血球や白血球 リンパ球などと同様に血球系の細胞由来です 全く起源の違う 2 つの細胞が 骨を吸収した ( 壊した ) 分だけ形成するという不思議な現象によって骨は一定量に保たれているわけです これを カップリング と呼びます その秘密について ちょっと難しいお話をします 骨リモデリングは 骨吸収 から始まります そうすると最初に破骨細胞に働くような気がしますが 実は最初の役割は骨芽細胞が担っています 骨芽細胞の表面に RANKL ( ランクル ) という膜タンパクが現われ それが血球系の細胞の RANK( ランク ) という受容体に結合することによって 血球系の細胞が破骨細胞へと分化することから始まります 分化 成熟した破骨細胞は骨を壊して ( 骨吸収 ) その後 そこに骨芽細胞がやってきて吸収された分と同量の骨が形成される この現象が骨の様々なところで起こって骨は常に新しく置き換わり 一定に保たれています 骨リモデリングの周期を右図に示しています 骨リモデリングの 1 サイクルは大体 1~4 年です この中で吸収 形成されているリモデリング期は比較的短く 2~5 カ月程度です 中でも破骨細胞による骨吸収は非常に短く 2~4 週ぐらいです その後 骨芽細胞によって 2~4 カ月かけて骨形成が起こる つまり 骨は急激に吸収されてゆっくりと形成された後 さらに長く休むという周期を繰り返して新しい骨に置き換わっているわけです このバランスが崩れて 骨吸収が骨形成を上回ったときに骨粗鬆症が発症します 骨粗鬆症が起こっている骨を詳しく見ると 骨が減っているだけではなくて微小な骨折や骨の断絶が起こっています これが骨全体の大きな骨折につながるわけです 骨粗鬆症の国際的な定義は 古くは骨量の減少でした 最近では骨の強さの低下 すなわち骨折の起こりやすさとされています では 骨の強度の危険因子とは何でしょうか? 骨量減少イコール骨粗鬆症でないことは前述しましたが 骨量減少が危険因子のひとつであることは間違いありません しかしながら 骨の強度は骨量減少だけでは説明できないことが 最近 わかってきています 骨の強度の 2 番目の危険因子として注目されているのが 骨代謝回転 です 骨代謝回転は 最近は血中あるいは尿中の骨代謝マーカーを測ることによって 簡単に測れるようになりました 表に現

在 保険適用されている骨代謝マーカーを示します 骨形成マーカーは血中の骨型アルカリフォスファターゼ (BAP) と血中 Ⅰ 型プロコラーゲン N- プロペプチド (P1NP) です 骨吸収マーカーは殆どがコラーゲン関連分子の計測で 尿中のデオキシピリジノリン Ⅰ 型コラーゲンの架橋の N および C テロペプチド (NTx と CTx: これはそれぞれ血中と尿中に 2 つずつあります ) それから 破骨細胞のマーカーである血中酒石酸抵抗性酸ホスファターゼ (TRACP-5b) があります 右図に示すように 骨量の減少と骨代謝回転の増加が主要な 2 つの骨強度の危険因子と言えます 骨粗鬆症の薬物療法 骨粗鬆症は 一般的には薬によって治療をするのが大部分です では どういう人が薬物治療の対象になるのでしょうか? 骨粗鬆症学会から出ている新しいガイドラインでは まず 脆弱性骨折 ( 椎体骨折と大腿骨頸部骨折 ) がある 50 歳以上の人が対象です 脆弱性骨折がない場合には 骨密度 (DEXA という方法で腰椎と大腿骨を測定するのが最も正確です ) を測定して YAM 値 ( 若い人の椎体および大腿骨頸部の平均値 ) の 70% 以下が薬物治療の対象となります しかしながら新しいガイドラインでは 予防的な意味も含めて DEXA の YAM 値の 70-80% の人たちの中でも 以下の 2 つのどれかの危険因子が加わっている場合も薬物治療対象としています ひとつは大腿骨頸部骨折の家族歴のある人 ふたつ目は上記以外の脆弱性骨折 ( 橈骨遠位端 上腕骨近位部 骨盤 下腿 肋骨 ) のある人です ところが 骨粗鬆症治療薬は現在 新薬ラッシュで 各メーカーからの様々な情報で臨床の現場は混乱しているのが現状です 表に日本で現在使用可能な主な骨粗鬆症治療薬を示します 大きく 骨吸収の抑制を主たる作用とする薬剤 骨形成の促進を主たる作用とする薬剤 いずれにも分類できない薬剤に分けられます それぞれの薬剤の特徴は下記のとおりです ビスフォスフォネート世界で最も多く使用されている骨粗鬆症治療薬です 作用機序は ビスフォスフォネートは骨に対する吸着性が非常に強く 内服するとほとんど骨に取り込まれますが この薬剤は破骨細胞にとっては 毒 で 破骨細胞を殺してしまいます したがって 骨吸収はそれ以上起こらず カップリングによって骨形成も起こらない すなわち

強力に骨代謝回転を抑制しながら効果を出す薬剤です ビスフォスフォネートには 毎日剤 週 1 回剤 月 1 回剤があり 経口剤 点滴剤 注射剤と 多種多様です その種類について紹介すると エチドロネート ( ダイドロネル ) は 3 カ月のうちの 2 週間内服という第一世代のビスフォスフォネートです アレンドロネート ( フォサマックとボナロン ) リセドロネート ( ベネットとアクトネル ) は世界標準のビスフォスフォネートです ミノドロネート ( リカルボンとボノテオ ) は日本で開発されて日本人女性を対象とした臨床骨折試験が行われた唯一の薬剤です 更に イバンドロネート ( ボンビバ ) という月 1 回の注射剤および経口薬が発売されています 非常に効果的な骨粗鬆症治療薬ですが 副作用も報告されています ビスフォスフォネートを多量に使用している患者さんに抜歯などの歯科処置をすると 下顎骨に骨髄炎や骨壊死が起こることが言われています しかしながら 骨粗鬆症に対するビスフォスフォネートに関しては頻度は少なく 1 万人あるいは 5000 人に 1 人にすぎません 2 番目の副作用は 大腿骨の中心 ( 骨幹部 上記の大腿骨頸部ではない ) の骨折で 前もって骨基質 ( 主に外側 ) が両側性に肥厚していることがあります したがって 両側の骨折が起こることもあります 最大の問題は 治りにくい ( 骨折が癒合しにくい ) ということです ただし これも頻度は少なく 全ての大腿骨骨折の 1% 未満でビスフォスフォネート内服患者の中でも多くとも 0.05% 程度です 最近では上記の下顎骨壊死や大腿骨骨幹部骨折の予兆がなくても ビスフォスフォネートを内服して 7 年以上で 骨密度がある程度保たれていれば 休薬 ( 他剤に変更 ) を考えるべきという新しい基準が提唱されています デノスマブデノスマブ ( プラリア ) はヒト型抗 RANKL( ランクル ) 抗体です 上記に述べたように RANKL( ランクル ) を抗体でブロックすれば RANK( ランク ) と結合することが出来ないので 破骨細胞は出来ません したがって 骨吸収は起こらず カップリングによって骨形成も起こらない すなわち 強力に骨代謝回転を抑制しながら効果を出す ビスフォスフォネートと同じメカニズムの薬剤です 特徴は 6 ヶ月に 1 回だけの注射で ビスフォスフォネートよりも強力な骨量増加作用 骨代謝回転抑制作用を示す画期的な薬剤です 海外の臨床試験で強力な椎体骨折抑制効果 大腿骨頸部骨折を含めた非椎体骨折抑制効果を示しています ただ やはりビスフォスフォネート同様 下顎骨壊死の副作用が報告されています 本薬剤の一番の問題は 低カルシウム血症の副作用 ( 注射後 1 週頃にピーク ) により 定期的な血中カルシウム濃度のモニタリングが必要な点で

ビタミン D とカルシウムの合剤や活性型ビタミン D の毎日の併用内服が必要となります SERM SERM(selective estrogen receptor modulator) は 女性ホルモン ( エストロゲン ) に似た構造ですが 受容体によってその効果を選択的に使い分けるという薬剤で 2 種類あります ひとつはラロキシフェン塩酸塩 ( エビスタ ) もうひとつはバゼドキシフェン酢酸塩 ( ビビアント ) です 両剤とも ビスフォスフォネートやデノスマブに比べると 骨量増加効果は強いとはいえません また 骨代謝回転抑制についても ビスフォスフォネートは正常閉経前女性の値のぎりぎり下限ぐらいまで抑制しますが ラロキシフェン塩酸塩は上限ぎりぎり程度までにしか抑制しないという 非常にマイルドな薬剤です 椎体骨折の抑制についてもビスフォスフォネートほど強力ではなく 40% 弱程度です 非椎体骨折 ( 椎体以外の骨の骨折 ) に関しては両剤とも効果は認められていません 活性型ビタミン D アルファカルシドール ( アルファロールとワンアルファ ) は日本では最もなじみのある骨粗鬆症治療薬です 共に骨密度増加効果は弱いですが 骨折予防効果は比較的強いことが知られており これは高齢者の転倒頻度を減少させるためといわれています ビタミン D は骨だけではなくて中枢神経や筋肉に受容体があるため 意識が鮮明になり 筋肉に支持されて転びにくくなるのが原因だと言われています ただし 血中 尿中カルシウムを上昇させるため 高カルシウム血症 心不全 結石患者には注意して投与することが必要です エルデカルシトール ( エディロール ) は新しいビタミン D 製剤です 臨床試験はアルファロールを対照として行われており 椎体骨折の発生率をエディロールはアルファロールに比べて有意に抑制したデータがあります ただし 非椎体骨折発生率に関してはアルファロールと有意差はありません 骨密度増加効果も骨代謝回転抑制効果もビスフォスフォネートやデノスマブには及びません 注意点は アルファロールよりも血中 尿中カルシウムを上昇させる点で 高カルシウム血症 腎不全 結石患者には減量投与 慎重投与するように添付文書に明記されてあります テリパラチドテリパラチドはヒト副甲状腺ホルモン (PTH) の全長 84 アミノ酸のうちの活性部位の 34 アミノ酸を合成したものです 現在では 2 種類の薬剤が市場に出ており ひとつは海外で開発されたフォルテオ ( 一般名 : テリパラチド ) で 毎日 20 μg 自己注射します もう一つは日本で開発されたテリボン ( 一般名 : テリパラチド酢酸塩 ) で 週 1 回 56.6 μg 医療機関で注射します 両者ともに長所 短所を持っているので 適切に使い分けることが重要です フォルテオのデータを紹介すると 骨密度増加効果はビスフォスフォネートやデノスマブを凌いで世界最強です 椎体骨折および非椎体骨折の抑制効果についても世界最強です 一番の特徴は フォルテオは強力に骨代謝回転を上げるという点です 骨形成マーカーは 100~200% 以上 吸収マーカーは 50% 程度上昇させます 前項までに紹介した薬剤は代謝回転を落としながら効果を出していましたが フォルテオは骨の代謝回転を活性化させて 形成と吸収の上昇の差によって骨の量を増やしていくという 全

くメカニズムの異なる薬剤です しかしながら 実験段階でラットに 2 年間フォルテオを与えていると骨肉腫ができてしまったデータがあり 人間でも累計の使用期間は 2 年までとされています したがって 骨折の危険が強い時期に使用すべきで 適応症は 骨折の危険性の高い骨粗鬆症 となっています また フォルテオは原発性骨粗鬆症のみならず ステロイド骨粗鬆症 男性骨粗鬆症に対してもその強力な薬効が大規模臨床試験によって証明されています 一方 テリボンは日本発のテリパラチドですが 椎体骨折予防効果が世界最強である点はフォルテオと全く変わらず 約 80% 抑制します 本剤は現状では 1 年半まで投与可能です テリボンの一番の特徴は骨代謝回転で 当初はフォルテオと同じように代謝回転を上昇させるのだろうと期待されていましたが 骨形成マーカー 骨吸収マーカーともに軽度上昇またはむしろ低下気味でした ただし この上げ幅 下げ幅は共に 20% 程度に過ぎず 統計学的に有意に上げたとも下げたともいえない範囲の変化です 以上より フォルテオは間違いなく骨形成促進剤といえますが テリボンを骨形成促進剤と言い切っていいかどうかは少し疑問が残ります むしろ生理的な骨代謝回転の範囲内で 吸収よりも形成を優位に維持するバランス調整剤と考えられます 各薬剤のまとめと私の薬剤選択法骨粗鬆症の患者さんは 健常者に比べて骨の量は減っていて代謝回転が上がっています ( 右図 ) ビスフォスフォネートやデノスマブは 2 つの骨強度の危険因子 ( 低骨量と高代謝回転 ) の点から見ると 両者を克服している理想的な薬剤と言えます しかしながら 代謝回転を抑制する分だけ骨が古くなっているかもしれません それが下顎骨壊死 大腿骨骨幹部骨折 低カルシウム血症の原因なのか 今のところ不明です SERM や活性型ビタミン D は健常な状態に戻すようなマイルドな薬剤で 代謝回転もあまり変えず 軽症例が対象となります 一方 フォルテオは強力に代謝回転を増加させる特徴的な薬剤であり その分だけ骨折のチャンスが増えるではないかと疑問が出ますが これだけ骨量増加が達成できていれば微小骨折が起こりにくいことは 臨床のエビデンスで明らかです テリボンは 骨量も代謝回転もフォルテオほど増加させません ビスフォスフォネートと SERM 活性型ビタミン D の中間型のような薬剤で 生理的な範囲内で骨形成を骨吸収よりも優位に維持する薬剤と考えている 最後に われわれはこれだけ多くの骨粗鬆症治療薬を手に入れているということを強調したいと思います 患者さん各々によって あるいは一人の患者の病期によって それぞれの特徴のある薬を上手に使い分けて 患者さんの骨折を予防していただきた

いと考えています 私の治療法の基本は 図に示すようにまず患者さんを 軽症群 (YAM の 70% と 80% の間の境界型プラス 2 つの要素のどれかがある ) 骨粗鬆症の診断が付いている中等症群 また椎体骨折が二つあるとか大腿骨頸部骨折があるような重症骨粗鬆症の 3 群に分けています 軽症群では SERM か活性型ビタミン D で始めています 効果がなければビスフォスフォネートかデノスマブに切り替えています 骨粗鬆症の診断がついている場合は ビスフォスフォネートかデノスマブから始めています 効果がない症例は少ないですが ビスフォスフォネートの下顎骨壊死 大腿骨骨幹部骨折 および 7 年以上の長期投与 デノスマブの低カルシウム血症の問題が出てきた場合は SERM か活性型ビタミン D に切り替えます しかしながらその前にテリパラチドを加えておけばより効果的と考えます 重症骨粗鬆症にはゴールデンコンビである まずテリパラチドを投与して その後ビスフォスフォネートかデノスマブで維持するのが適切です 骨粗鬆症の手術療法 薬物治療では対応できない重症骨粗鬆症の骨折症例に対しては 手術療法を行うことがあります 対象になるのは 主として 不安定性で進行性の脊椎圧迫骨折と 大腿骨頸部骨折です 前者に対しては 椎体形成術 (BKP: 椎体をバルーンで膨らませた後に骨セメントを注入する ) またはこれに加えて椎体固定術 ( 潰れた椎体の上下の椎体にスクリューを打って上下の金属で繋げて固定する ) 後者に対しては 人工骨頭置換術または観血的整復内固定術を行います 骨粗鬆症の患者さんが転倒した時に手首の骨折を起こすことがありますが 大部分はギプス固定を行います 骨折の粉砕の程度が激しい場合や 関節のズレが激しい場合にはごくまれに観血的整復内固定術を行うことがあります 椎体形成術 椎体形成術 + 後方固定術観血的整復内固定術 (ORIF)

おわりに 骨粗鬆症の患者さんには不自由なことがたくさんありますが 本院骨粗鬆症外来では医師 看護師 理学療法士 薬剤師をはじめ色々なスタッフがおります 分からないこと 不安なことなどがありましたら遠慮なくお尋ねください