Microsoft Word - 10pk_all.doc

Similar documents
Ⅰ One-compartmentmodel( 静脈内急速投与 ) [ シミュレーション実験上の全般的注意点 ] 実習書をよく読み 適切な器具 ( フラスコ, メスシリンダー ) を使用する の流速を 実際の実験状態に近い位置で 別々にしっかりと合わせる ( 最低 3 回 ) 精製水の補給用のチュー

オクノベル錠 150 mg オクノベル錠 300 mg オクノベル内用懸濁液 6% 2.1 第 2 部目次 ノーベルファーマ株式会社

ピルシカイニド塩酸塩カプセル 50mg TCK の生物学的同等性試験 バイオアベイラビリティの比較 辰巳化学株式会社 はじめにピルジカイニド塩酸塩水和物は Vaughan Williams らの分類のクラスⅠCに属し 心筋の Na チャンネル抑制作用により抗不整脈作用を示す また 消化管から速やかに

ロペラミド塩酸塩カプセル 1mg TCK の生物学的同等性試験 バイオアベイラビリティの比較 辰巳化学株式会社 はじめにロペラミド塩酸塩は 腸管に選択的に作用して 腸管蠕動運動を抑制し また腸管内の水分 電解質の分泌を抑制して吸収を促進することにより下痢症に効果を示す止瀉剤である ロペミン カプセル

薬物動態学の最初の発展期である 1960 年代中頃から 1970 年代初めになると Metzler が NONLIN という名の非線形解析プログラムを紹介し ( [Metzler, 1969]) Benet は線 形マミラリーモデル ( 図 8-1) の一般化した解法を初めて発表した ( [Bene

添付文書がちゃんと読める 薬物動態学 著 山村重雄竹平理恵子城西国際大学薬学部臨床統計学

Microsoft PowerPoint ppt

シプロフロキサシン錠 100mg TCK の生物学的同等性試験 バイオアベイラビリティの比較 辰巳化学株式会社 はじめにシプロフロキサシン塩酸塩は グラム陽性菌 ( ブドウ球菌 レンサ球菌など ) や緑膿菌を含むグラム陰性菌 ( 大腸菌 肺炎球菌など ) に強い抗菌力を示すように広い抗菌スペクトルを

抗菌薬の殺菌作用抗菌薬の殺菌作用には濃度依存性と時間依存性の 2 種類があり 抗菌薬の効果および用法 用量の設定に大きな影響を与えます 濃度依存性タイプでは 濃度を高めると濃度依存的に殺菌作用を示します 濃度依存性タイプの抗菌薬としては キノロン系薬やアミノ配糖体系薬が挙げられます 一方 時間依存性

Microsoft PowerPoint - H22制御工学I-2回.ppt

3. 安全性本治験において治験薬が投与された 48 例中 1 例 (14 件 ) に有害事象が認められた いずれの有害事象も治験薬との関連性は あり と判定されたが いずれも軽度 で処置の必要はなく 追跡検査で回復を確認した また 死亡 その他の重篤な有害事象が認められなか ったことから 安全性に問

解析センターを知っていただく キャンペーン

スライド 1

ータについては Table 3 に示した 両製剤とも投与後血漿中ロスバスタチン濃度が上昇し 試験製剤で 4.7±.7 時間 標準製剤で 4.6±1. 時間に Tmaxに達した また Cmaxは試験製剤で 6.3±3.13 標準製剤で 6.8±2.49 であった AUCt は試験製剤で 62.24±2

あった AUCtはで ± ng hr/ml で ± ng hr/ml であった 2. バイオアベイラビリティの比較およびの薬物動態パラメータにおける分散分析の結果を Table 4 に示した また 得られた AUCtおよび Cmaxについてとの対数値

微分方程式による現象記述と解きかた

Microsoft Word - Chap17

態はいつも同じではありません 食事の前後 食事の内容によっても違ってきます 薬の剤形として錠剤 カプセル 散剤 水剤などが代表的ですが各製剤もいろいろな工夫がされています 錠剤にもただ固形にしているものは稀で 表面に薄い膜や甘い覆いをかけているものなど様々です 散剤も胃の中での溶け方を考え 粉末状よ

数理システムユーザーコンファレンス (Fri) 医薬品の臨床薬理試験におけるモデリング & シミュレーションー S-PLUS とほかのソフトウェアの連携ー サターラ合同会社笠井英史

<4D F736F F D B4389F D985F F4B89DB91E88250>

PowerPoint Presentation

添付文書の薬物動態情報 ~基本となる3つの薬物動態パラメータを理解する~

例 e 指数関数的に減衰する信号を h( a < + a a すると, それらのラプラス変換は, H ( ) { e } e インパルス応答が h( a < ( ただし a >, U( ) { } となるシステムにステップ信号 ( y( のラプラス変換 Y () は, Y ( ) H ( ) X (

者における XO 阻害薬の効果に影響すると予測される 以上の議論を背景として 本研究では CKD にともなう FX および尿酸の薬物体内動態 ( PK ) 変化と高尿酸血症病態への影響を統合的に解析できる PK- 薬力学 (PD) モデルを構築し その妥当性を腎機能正常者および CKD 患者で報告さ

Microsoft Word - 付表(使い方).doc

1/17 平成 29 年 3 月 25 日 ( 土 ) 午前 11 時 1 分量子力学とクライン ゴルドン方程式 ( 学部 3 年次秋学期向 ) 量子力学とクライン ゴルドン方程式 素粒子の満たす場 y ( x,t) の運動方程式 : クライン ゴルドン方程式 : æ 3 ö ç å è m= 0

2006 年 3 月 3 日放送 抗菌薬の適正使用 市立堺病院薬剤科科長 阿南節子 薬剤師は 抗菌薬投与計画の作成のためにパラメータを熟知すべき 最初の抗菌薬であるペニシリンが 実質的に広く使用されるようになったのは第二次世界大戦後のことです それまで致死的な状況であった黄色ブドウ球菌による感染症に


Microsoft Word - NumericalComputation.docx

Microsoft Word - thesis.doc

NLMIXED プロシジャを用いた生存時間解析 伊藤要二アストラゼネカ株式会社臨床統計 プログラミング グループグルプ Survival analysis using PROC NLMIXED Yohji Itoh Clinical Statistics & Programming Group, A

パソコンシミュレータの現状

トリアムシノロンアセトニド マキュエイド硝子体内注用 40mg 医薬品製造販売承認事項一部変更承認申請書 添付資料 CTD 第 2 部 ( 資料概要 ) 2.6 非臨床試験の概要文及び概要表 薬物動態試験の概要文 わかもと製薬株式会社 1

Vol. 36, Special Issue, S 3 S 18 (2015) PK Phase I Introduction to Pharmacokinetic Analysis Focus on Phase I Study 1 2 Kazuro Ikawa 1 and Jun Tanaka 2

P001~017 1-1.indd

PowerPoint プレゼンテーション

Microsoft Word - t30_西_修正__ doc

TDM研究 Vol.26 No.2

目次 生物薬剤学試験及び関連する分析法 背景及び概観 製剤開発過程 バイオアベイラビリティ メマンチン塩酸塩の絶対バイオアベイラビリティ メマン

以下 変数の上のドットは時間に関する微分を表わしている (ex. 2 dx d x x, x 2 dt dt ) 付録 E 非線形微分方程式の平衡点の安定性解析 E-1) 非線形方程式の線形近似特に言及してこなかったが これまでは線形微分方程式 ( x や x, x などがすべて 1 次で なおかつ

使用上の注意 1. 慎重投与 ( 次の患者には慎重に投与すること ) 1 2X X 重要な基本的注意 1TNF 2TNF TNF 3 X - CT X 4TNFB HBsHBcHBs B B B B 5 6TNF 7 8dsDNA d

2016年度 京都大・文系数学

If(A) Vx(V) 1 最小 2 乗法で実験式のパラメータが導出できる測定で得られたデータをよく近似する式を実験式という. その利点は (M1) 多量のデータの特徴を一つの式で簡潔に表現できること. また (M2) y = f ( x ) の関係から, 任意の x のときの y が求まるので,

学習指導要領

相対性理論入門 1 Lorentz 変換 光がどのような座標系に対しても同一の速さ c で進むことから導かれる座標の一次変換である. (x, y, z, t ) の座標系が (x, y, z, t) の座標系に対して x 軸方向に w の速度で進んでいる場合, 座標系が一次変換で関係づけられるとする

第 4 週コンボリューションその 2, 正弦波による分解 教科書 p. 16~ 目標コンボリューションの演習. 正弦波による信号の分解の考え方の理解. 正弦波の複素表現を学ぶ. 演習問題 問 1. 以下の図にならって,1 と 2 の δ 関数を図示せよ δ (t) 2

スライド 1

2010年度 筑波大・理系数学

重要例題113

<4D F736F F D2097CD8A7793FC96E582BD82ED82DD8A E6318FCD2E646F63>

Microsoft PowerPoint - siryo7

OCW-iダランベールの原理

学習指導要領

標準薬剤学_改3.indd

"éı”ç·ıå½¢ 微勃挹稉弑

スライド 1

Microsoft Word - 【確定版】H27都道府県別生命表作成方法

11.3. 海外におけるガイダンス FDA のガイダンス EU のガイダンス 12. 註 13. 質疑応答集 1. はじめに本文書は 新医薬品の開発および医薬品の適正使用に必要なヒトにおける薬物動態情報を得ることを目的に 医薬品の承認申請時に添付する資料または既承認医

Epilepsy2015

データ解析

Microsoft PowerPoint - R-stat-intro_12.ppt [互換モード]

大学院博士課程共通科目ベーシックプログラム


Kumamoto University Center for Multimedia and Information Technologies Lab. 熊本大学アプリケーション実験 ~ 実環境における無線 LAN 受信電波強度を用いた位置推定手法の検討 ~ InKIAI 宮崎県美郷

日本臨床麻酔学会 vol.36

Microsoft PowerPoint - H21生物計算化学2.ppt

PowerPoint プレゼンテーション

<4D F736F F D2094F795AA95FB92F68EAE82CC89F082AB95FB E646F63>

Problem P5

PowerPoint プレゼンテーション

DVIOUT-SS_Ma

DVIOUT

都道府県名

PowerPoint Presentation

Ⅰ. 改訂内容 ( 部変更 ) ペルサンチン 錠 12.5 改 訂 後 改 訂 前 (1) 本剤投与中の患者に本薬の注射剤を追加投与した場合, 本剤の作用が増強され, 副作用が発現するおそれがあるので, 併用しないこと ( 過量投与 の項参照) 本剤投与中の患者に本薬の注射剤を追加投与した場合, 本

Microsoft PowerPoint pptx

物薬

Microsoft Word - 補論3.2

今週の内容 後半全体のおさらい ラグランジュの運動方程式の導出 リンク機構のラグランジュの運動方程式 慣性行列 リンク機構のエネルギー保存則 エネルギー パワー 速度 力の関係 外力が作用する場合の運動方程式 粘性 粘性によるエネルギーの消散 慣性 粘性 剛性と微分方程式 拘束条件 ラグランジュの未

都道府県名

Microsoft PowerPoint - 10.pptx

PowerPoint プレゼンテーション

線積分.indd

Microsoft Word - 201hyouka-tangen-1.doc

A Precise Calculation Method of the Gradient Operator in Numerical Computation with the MPS Tsunakiyo IRIBE and Eizo NAKAZA A highly precise numerical

後発医薬品の生物学的同等性試験ガイドライン

Microsoft Word - 2_0421

PowerPoint プレゼンテーション

<4D F736F F F696E74202D AB97CD8A E631318FCD5F AB8D5C90AC8EAE816A2E B8CDD8AB B83685D>

<4D F736F F D20824F B CC92E8979D814696CA90CF95AA82C691CC90CF95AA2E646F63>

PHY_30_Newton's_Law_of_Cooling_LQ_日本語

ルグリセロールと脂肪酸に分解され吸収される それらは腸上皮細胞に吸収されたのちに再び中性脂肪へと生合成されカイロミクロンとなる DGAT1 は腸管で脂質の再合成 吸収に関与していることから DGAT1 KO マウスで認められているフェノタイプが腸 DGAT1 欠如に由来していることが考えられる 実際

Microsoft PowerPoint - suta.ppt [互換モード]

添付文書情報 の検索方法 1. 検索条件を設定の上 検索実行 ボタンをクリックすると検索します 検索結果として 右フレームに該当する医療用医薬品の販売名の一覧が 販売名の昇順で表示されます 2. 右のフレームで参照したい販売名をクリックすると 新しいタブで該当する医療用医薬品の添付文書情報が表示され

数学 t t t t t 加法定理 t t t 倍角公式加法定理で α=β と置く. 三角関数

( 慣性抵抗 ) 速度の 2 乗に比例流体中を進む物体は前面にある流体を押しのけて進む. 物 aaa 体の後面には流体が付き従う ( 渦を巻いて ). 前面にある速度 0 の流体が後面に移動して速度 vとなったと考えてよい. この流体の質量は単位時間内に物体が押しのける体積に比例するので,v に比例

2.6.4 薬物動態試験の概要文 目次 略語 略号一覧 薬物動態試験の概要文 まとめ 吸収 分布 代謝 ( 動物種間の比較 ) 排泄

CHEMOTHERAPY FEB Table 1 Background of volunteers

Cpk=36.5 μg/ml =0.99 meq/l Cav=27.9 μg/ml =0.75 meq/l Ctr=20.7 μg/ml = 0.56 meq/l 4) 躁病治療の有効血中濃度は 0.3~1.2mEq/L であるが この投与量で治療効果が得られるか? Li は 2 分子含まれているの

Microsoft PowerPoint - 第3回2.ppt

Transcription:

薬物動態学 目次 Ⅰ. 薬物速度論の基礎... 3 Ⅰ-1 薬物速度論序論...3 Ⅰ-2 コンパートメントモデル解析...7 (a) 概論...7 (b) 薬物の排泄の解析 (one-compartment model)...9 (4) 消失経路が複数ある場合...14 (c) 薬物の吸収 排泄の解析...16 Ⅰ-3 モーメント解析...22 Ⅰ-4 連続投与時の薬物速度論...26 (a) 点滴静注...26 (b) 反復投与...29 Ⅱ. 臨床薬物速度論... 35 Ⅱ-1 バイオアベイラビリティの評価...35 (a) バイオアベイラビリティ...35 (b) バイオアベイラビリティの算出方法...37 (c) 生物学的同等性...38 Ⅱ-2 2-コンパートメントモデル解析...40 (a) 2-コンパートメントモデル ( 分布 消失 )...40 (b) 薬物血漿中濃度データの解析法...41 (c) 薬物排泄速度の解析法...43 (d) ラプラス変換...5 Ⅱ-3 生理学的薬物速度論...45 (a) 生理学的モデル...45 (b) クリアランスの概念...46 (c) アニマルスケールアップ...51 Ⅱ-4 薬理効果の速度論...52 (a) 血漿中濃度と薬効...52 (b) 薬力学的モデル...53 Ⅱ-5 臨床薬物投与計画...55 (a) TDM...55 (b) 薬物血中濃度データ解析...58 (c) 薬物動態パラメータに基づく投与計画...59 [ 1 ]

Ⅲ. 薬物体内動態の変動... 61 Ⅲ-1 体内動態の飽和 ( 非線形 )...61 Ⅲ-2 病態時の体内動態...65 (a) 肝疾患...65 (b) 腎疾患...66 (c) 心不全...69 Ⅲ-3 各種生理的条件下...70 (a) 新生児 乳児 小児 胎児...70 (b) 高齢者...71 (c) 妊婦...72 (d) 時間薬理学...73 Ⅲ-4 薬剤耐性...74 (a) 膜耐性...74 (b) 酵素耐性...75 (c) 免疫学的抵抗...77 国試演習問題 79 Excel 薬物動態解析演習 92 [ 2 ]

Ⅰ. 薬物速度論の基礎 Ⅰ-1 薬物速度論序論 薬物速度論とは 生体内に投与された薬物の量的 質的な変化の過程を速度論的な手法で定量的に研究する学問を薬物速度論 (pharmacokinetics) と呼ぶ ( 薬物の体内動態を評価するには 体内から速く消失する とか 吸収が極めて遅い というレベルの話ではいけない ) Pharmacokinetics is the study of the time course of drug and metabolite levels in different fluids, tissues, and excreta, and of the mathematical relationships required to develop models to interpret such data. The discipline of pharmacokinetics has been applied to the clinical pharmacology, drug metabolism, pharmaceutics, and toxicology, and so on. The ultimate goal of pharmacokinetics is the elucidation of relationships between pharmacologic or toxicological response and levels of drugs or their metabolites. The study of the kinetics of absorption, distribution, metabolism, or excretion of drugs may help us to understand the basic mechanisms underlying these processes. Moreover, pharmacokinetics offers an approach to improve and probably to optimize the therapeutic management of individual patients. 薬物速度論の目的 1 体内薬物レベルと薬効 あるいは毒性との相関の解明 2 吸収, 分布, 代謝, 排泄 (ADME) 過程の解明 3 新薬開発, 製剤設計, 製剤評価への応用 ( 望ましい体内挙動 ) 4 臨床への応用 - 薬物投与の最適化 ( 安全性 有効性 ) アニマルスケールアップ : 動物 ヒト in vitro から in vivo: in vitro ( 試験管 細胞 ) in situ ( 臓器 組織 ) in vivo ( 全身 個体 ) [ 3 ]

薬効と薬物血中濃度 昔は 薬は匙加減 と言われ 経験に基づいて患者の症状に応じて服用量が決定されており 薬物に対する反応 ( 効果 毒性 ) は 個人によって大きく異なると考えられていた しかし 分析機器などの発達により 体液中 ( 血液 尿など ) の薬物濃度測定が可能となり 薬理作用は投与量より血中濃度に強く依存していることが明らかとなった さらに 臨床薬理学の研究により 血中濃度と臨床効果を比較した結果 薬物によっては 有効血中濃度域 の存在が証明された しかし 多くの薬物において 同一投与量であっても 個々の患者で血中濃度が大きく異なっていることも明らかとなった 薬物投与 血中濃度測定 体内動態の解析 投与計画 臨床評価 血中濃度測定が必要とされる臨床背景 初期治療の時 投与剤形 投与法を変更した場合 患者に生理的 病態的変化のある場合 薬物相互作用が予想される場合 中毒症状が疑われる時 Noncompliance( 服薬違反 ) が疑われる時 投与量と効果とに関係が見られない場合 薬物速度論の研究方法 (1) コンパートメントモデル解析 (2) モーメント解析 ( モデル非依存的解析 ) (3) 生理学的薬物速度論 [ 4 ]

< 薬物動態学関連の数学公式 > [ 対数 ] e=2.7182 はネピアの数と呼ばれる無理数で これを底とする対数を自然対数という薬物動態学プリント冊子などでの表記 10 を底 (log 10 x) 常用対数 log x e を底 (log e x) 自然対数 ln x log10 x loge x loge 10log10 x 2.303log10 x log e 10 ln 10 x ln10log10 x 2.303log x 2.303log x [ 微分 ] ' 1 x x log [ 積分 ] f (x) 1 x ' 1 f (x) f '(x) x ' x a a log a (a 0, a 1 ) f '(x) f (x) ' ' ' e x loge f (x) loga x (a 0,a 1) a 1 e 1 x log a x 1 x x x dx C dx loge x C a 1 e dx e C x ax b 1 ax b e dx e C a f (x) g'(x) dx f (x) g(x) f '(x) g(x) dx e a < ラプラス変換 > 数の乗法 除法は対数をとることによって 加法 減法になる 関数の微分 積分演算は ラプラス変換によって代数演算にかえられる ラプラス変換表を利用すれば 微分方程式を簡単に解くことができる F(s) 0 e st f (t) dt 関数 f (t) に対して このような F(s) を求めることを ラプラス変換するという f(t) を 原関数もしくは表関数 F(s) を像関数もしくは裏関数と呼ぶ s はラプラス演算子で複素数となる 即ち ラプラス変換すると 微分方程式を四則演算で取り扱える [ 5 ]

代表的なラプラス変換の公式 f (t) 表関数 F(s) 像関数 計算内容 1(t) f (t) F 1(s) F2 (s) 関数の和 f 2 a f (t) a F(s) 定係数の積 a a s 定数 f '(t) s F(s) f (0) 微分 e a t 1 s a 指数関数 ラプラス変換を用いた解法 : One-compartment model (i.v.) X C, V k X u X : 体内薬物量 X u : 排泄薬物量 V : 分布容積 k : 排泄速度定数 体内コンパ - トメント 体外コンパ - トメント ( 物質収支式 ) ( ラプラス変換形 ) ラプラス変換 dx k X s X X(0) k X dt X(0) = D (s k) X D D X s k X De kt ラプラス逆変換 [ 6 ]

Ⅰ-2 コンパートメントモデル解析 (a) 概論 コンパートメント理論 薬物の生体内における複雑な動きを記述するには 若干抽象化した考え方が必要となる コンパートメントとは 薬物が種々の移行過程を経過する中で 速度論的に区別できる薬物の存在状態のことで ( 分画, 部分とかいう意味 ) このコンパートメント間を速度定数によってつなぐことにより 薬物の生体内での動きを表現するものが コンパートメントモデルである 従って 異なる部位に存在していても 同じ速度で動くのであれば 一つにくくって単一のコンパートメントと考える シンプルな one, two-compartment model までが有用で実用的である < 長所 > 比較的簡単に解析できる 時間次元の式が容易に求められる < 短所 > モデル自体に生理学 解剖学的な意味が無く 実体性に乏しい 細かい現象を捉えることが困難 実験値の精度が伴わない場合がある コンパートメントモデル解析のための必要条件 コンパートメント内の薬物濃度は瞬時に平衡に達する コンパートメント間の薬物の移動は一次速度式に基づく 線形条件が成立している ( 飽和に達していない ) 一次速度式 : 物質の変化する速度は その時に存在する物質の量 ( 濃度 ) に比例する dx k X X: 物質の量 t: 時間 k: 一次速度定数 dt 投与様式 即時吸収 ( 静脈内瞬時投与 ) 0 次吸収 ( 点滴投与 ) 1 次吸収 ( 経口, 経皮投与, 筋注など ) 反復投与 ( 静脈内投与, 経口投与 ) [ 7 ]

代表的なコンパートメントモデル One-compartment model (i.v.) One-compartment model (p.o.) Two-compartment model (i.v.) 分布容積 (distribution volume) 体内に存在する薬物量 X と血漿中薬物濃度 C p との関係を表すための比例定数は分布容積 V d とよばれる 分布容積は 薬物が血漿中濃度と等しい濃度で他の組織などに分布すると仮定した場合の薬物の分布を表す見かけの容積である ( 実際の容積ではない ) 即ち X=V d C p の関係が成り立つ The total volume of body fluids in which a drug is distributed is known as the apparent volume of distribution (Vd). The volume of distribution may provide useful estimates as to how extensive the toxicant is distributed in the body. クリアランス (clearance) 薬物速度論の領域では 臓器の薬物処理能力を示す指標としてクリアランスが広く用いられている クリアランスは単位時間に薬物を含む血漿中のどれだけの容積を除去したかという値で 次式の関係が成り立つ ( 消失速度 )=( クリアランス ) ( 血漿中濃度 ) ここで 薬物を消失させる器官として 身体全体を仮定した場合 身体全体の持つクリアランス能力を全身クリアランスと呼び CL tot で表すと 次式が成り立つ ( 身体が薬物を循環血漿中から消失させる速度 )=CL tot C p ( 血漿中濃度 ) 両辺を積分し 式を変形すると CL tot =D/AUC=k V となる 多くの場合 薬物は肝臓および腎臓から消失するから CL tot =( 肝クリアランス )+( 腎クリアランス ) となる また クリアランスの割合は排泄量の割合と等しくなる Clearance is an important pharmacokinetic parameter that describes how quickly drugs are eliminated, metabolized or distributed throughout the body. It can be viewed as the proportionality constant relating the rate of these processes and drug concentration. [ 8 ]

(b) 薬物の排泄の解析 (one-compartment model) 最も簡単な薬物速度論的モデルである one-compartment model(i.v.) は 次のような仮定の上に成り立っている 即ち 静脈内に投与された薬物は 瞬時に分布可能な体内組織および体液に分布するとともに 一次速度式に従って体外へ排泄される 体内 体外 ポンプ ポンプ チューブ 試薬瓶 フラスコ (50 ml) サンプリング体外コンパートメント スターラー 補給用水 体内コンパートメント [ 9 ]

(1) 薬物血漿中濃度データの解析法 One-compartment model (i.v.) X C, V k X u X : 体内薬物量 X u : 排泄薬物量 V : 分布容積 k : 排泄速度定数 体内コンパ - トメント 体外コンパ - トメント dx dt k X (1) 初期条件 t=0 のとき X=D ( 投与量 ) X kt De (2) X=V C の関係が成り立つから C D e V kt C 0 e kt C 0 1 2 t t 1/ 2 (3) ln C logc D k t ln k t ln C 0 V k D k t log t logc 0 (4) 2.303 V 2.303 0.693 t1/ 2 (5) k [ 10 ]