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報告書

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高泌乳牛の移行期の栄養管理 と周産期病の予防 1 京都大学大学院農学研究科 久米新一

移行期の栄養管理の重要性 -- 乳牛の栄養管理の Final Frontier 移行期 (Transition Period) とは 分娩前 3 週間と分娩後 3 週間の期間 : 栄養管理の最も難しい時期 (1995 年の J.Animal Science の 3 編の論文を契機 ) 移行期の栄養管理が不十分だと -- 代謝障害 周産期病の増加 乳生 産 繁殖成績の低下

乳量 (kg) 10000 9000 8000 7000 6000 図 乳量増加と乳牛の生体機能 ( 牛群検定 : 北海道 ( ) と都府県 ( )) 5000 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 2010 年 高泌乳牛 : 摂取した栄養素を乳生産に優先的に利用する 乳牛の乳量が急増したが 遺伝子 細胞 組織 器官の何が変わったか? 体内代謝が活発になり 酸素消費量 血流量が増加 後継牛の遺伝的能力は母牛より高い -- 周産期病発生のリスクが高まる 栄養管理の改善が常に必要

根室

冬の知床 冬の野付半島 : 湾内の凍結

別海の 酪農家 1 乳量 : 約 1,100t 経産牛 :110 頭 ( 計 200 頭 ) 飼料畑 :110ha

水槽と塩

子牛と暖房

酪農家 2 牛舎

酪農家 3 ( フリーストール牛舎 ) : 牛床と換気

泌乳牛 ( パドック )

冬の帯広 (-18 )

帯広の酪農家飼養頭数 :900 頭 出荷乳量 :6,000t ( ロータリーパーラー :3 回搾乳 ) 水槽 : 1 日 2 回洗浄 ( フリーバーン )

乳牛の搾乳 : ロータリーパーラー

ー 18 の環境温度 (12 月 )

帯広の酪農家 1 頭当たりの乳量 :1 万 kg アルファルファ生産

高野牧場と十勝野フロマージュ ( チーズ工房 )

若草のカマンベール 高野牧場の放牧牛の牛乳で製造したカマンベールチーズ

Ì d i kgj V b _ i meq/lj Û æ Ê i kg/ú j û Ê i kg/ú j 図 分娩直後の乳牛の特徴 : 乳量の急増と不十分な乾物摂取量による栄養不足 24 50 20 16 12 40 30 800 8-14 0 14 28 42 ª Ø O ã i ú j 20 0 14 28 42 ª Ø ã i ú j 700 600 1.2 0.8 0.4 500-14 0 14 28 42 ª Ø O ã i ú j 0-14 0 14 28 42 56 ª Ø O ã i ú j

乳牛の分娩直前の血漿 乳中エストロゲンの上昇 ( 乳腺の発達などに必須 )(Pape- Zembito ら 2008) 分娩前の DMI の減少と免疫機能の低下をもたらす ( 生理的要因 )

乳牛の栄養管理の基本的考え方 -- 生理 生産機能の変化に対応する 現在の乳牛の特徴 ( 繁殖に関して :Lucy,2001) フ ロシ ェステロン濃度が低い -- 飼料摂取量が多く 体内代謝が活発 初回排卵が 10 日遅れる -- 負のエネルギーバランスが大きいため 発情微弱 発情持続時間が短い 発情発見時間 ( 従来 : 朝夕 30 分 ) をのばし 発情発見 6-8 時間後に人工授精 乳牛の遺伝的能力に適した栄養管理の重要性

周産期病の発生要因は? 高泌乳牛では遺伝的能力が向上したため 分娩時のリスクが高まっている --NEFA 増加 低 Ca 血症はほとんどの高泌乳牛で生じる 不適切な飼養管理が加わると代謝機能が阻害され 周産期病が多発する -- 乾物摂取量 乳量の減少 受胎率低下 淘汰につながる

分娩前後の DMI 減少 ビタミン 微量ミネラル 抗酸化物質の不足 高 DCAD 低 Mg 飼料 負のエネルギー タンハ ク質バランス NEFA 増加 免疫能低下 低 Ca 血症筋収縮減退 跛行 ルーメンアシドーシス ケトーシス 脂肪肝 周産期病の発生要因 飼料中有効繊維の不足 乳房炎 胎盤停滞 子宮炎 乳熱 第四胃変位 Goff(2006)

% 乳牛の除籍理由 ( 牛群検定成績 : 平成 21 年 ) 30 25 20 15 10 北海道 都府県 5 0 乳用売却低能力繁殖障害疾病乳器障害死亡 北海道都府県 肢蹄故障 10.3 1 消化器病 2.3 0.6 起立不能 4.1 0.8 乳房炎 15.8 1.7

周産期病の予防は? 高泌乳牛では一つの周産期病が発生すると 他の周産期病も発生しやすい 高泌乳牛の体内代謝を正常化する 総合的な栄養管理を実践し 周産期病を予防する 周産期病の予防 ( 優先順位 ) -- エネルギー ( 乾物摂取量 ) 不足と低 Ca 血症の改善が重要

高泌乳牛の代謝特性と周産期病 体内代謝の急激な変動 ( 代謝 内分泌 免疫機能 ): 周産期病のリスク要因 栄養管理などの不備 : 周産期病の増加 周産期の免疫機能の低下 : 乳房炎 胎盤停滞などの増加

泌乳開始による乳腺のしくみ 血流量 栄養素の増加ー乳量 乳成分の増加 乳腺の免疫成分の増加ー子牛の疾病予防と乳房炎の予防 ( 乳頭口から病原菌の侵入 ) 乳生産のためにブドウ糖とアミノ酸が大量に必要

表, 分娩 1 週間前 (3 日間 ) と分娩 2 ー 4 日後 (3 日間 ) の乾物摂取量 (n=4) 分娩前ク ラスアルファルファ 分娩後ク ラスアルファルファ 体重, kg 754 733 711 643 増体, kg/ 日 0.15 0.65-4.79-6.50 DMI,kg/ 日 10.0 11.0 13.3 13.3 乳量, kg/ 日 29.5 31.9 乾物消化率, % 74.1 70.8 71.6 73.1 CP 消化率,% 71.8 70.8 70.5 72.5 N 蓄積量, g/ 日 49 64-93 -72 分娩直後 : 消化率は高いが エネルギーと窒素が不足

エネルギー摂取 ( 炭水化物 脂肪 蛋白質 ) 糞 (VFA) エネルギー基質 +O 2 肺 O 2 CO 2 CO 2 +H 2 O+N 化合物 尿 糞 乳成分 貯蔵 ( グリコーゲン 体脂肪 アミノ酸 ) ATP :39 ( エネルギー源 ) 体内代謝 ( 乳生産 ) 61 図 分娩直後の乳牛のエネルギー代謝 熱

乳牛のエネルギー利用 ルーメン粘膜肝臓末梢血末梢組織 酢酸 酢酸 プロピオン酸糖新生ク ルコースク ルコース 酪酸 β- ヒト ロ β- ヒト ロ オキシ酪酸 オキシ酪酸 酢酸の 78% は骨格筋 心筋 乳腺などで消費 ( 末梢血 VFA の 95% は酢酸 : エネルギー源 ) 分娩直後には筋肉のアミノ酸などから 糖新生でグルコースの産生が必要になる ( タンパク質をエネルギーとして使いたくない )

乳量 (kg/ 日 ) 乳成分 (%) 図 乳牛の乳量と乳糖の関係 ( グルコースの必要性 ) 45 40 5 4.5 脂肪率蛋白質乳糖 35 4 30 3.5 25 3 20 0 2 4 6 8 10 泌乳期 ( 月 ) 2.5 0 2 4 6 8 10 泌乳期 ( 月 ) 乳量増加は乳糖 ( グルコース ) の増加が重要 : 浸透圧の関係 ( 乳糖が多いと乳腺に水の移行が増加する )

ケトーシス 脂肪肝の発生 ケトーシス : 分娩直後の体脂肪の大量動員により血中遊離脂肪酸が急増して脂肪酸代謝障害が生じると, 体内にアセト酢酸などのケトン体が増加し, 痙攣, 麻痺などの脳 神経障害につながる ( 糖質不足 : 血糖値低下 ) 脂肪肝 : 肝臓に大量に動員された脂肪を処理できなくなると, 大量のケトン体の生成による重度の中毒症状と肝機能の減退を示す 分娩直後 ~10 日頃までのエネルギー代謝異常 ( 不足 ) によるケトーシス 脂肪肝が問題 (1980 年代 : 分娩 2~4 週後に多発 )

乳成分 (%) 乳成分 (mg/dl) 図 初乳中への免疫 栄養成分の分泌 -- 子牛の健康維持と乳房炎の予防 15 タンパク質脂肪乳糖 250 Ca P K 10 200 5 150 0 0 1 2 3 4 分娩後 ( 日 ) 100 0 1 2 3 4 分娩後 ( 日 ) 初乳量の急増による乳中へのカルシウムとリンの多量分泌が乳熱発生要因になる

表 分娩直後の乳中へのミネラル分泌量 分娩直後分娩 3 日後泌乳牛 乳量 kg/ 日 -- 30.7 29.5 Ca g/ 日 21.4 42.1 37.3 P g/ 日 18.0 36.8 28.1 Mg g/ 日 3.5 3.5 3.1 牛乳 1kg 生産に血液は約 400L が必要 : 分娩前後の乳房への血流量の急増によって Ca を分泌する

飼料 乳牛の分娩直後の Ca 代謝と乳熱 腸 細胞外液 Ca 貯蔵量 (8-10g) 血漿中 Ca 貯蔵量 (2.5-3.0g) 骨 (Ca の 99%) 糞 尿 (0.2-1.0g) 乳 (20-30g) 胎児 (0) 乳熱発生要因 : 血漿中の Ca 貯蔵量が少ないため 初乳中への急激な Ca 分泌に対応できない

表, 分娩 1 週間前 (3 日間 ) と分娩 2 ー 4 日 後 (3 日間 ) のミネラル出納 (n=4) 分娩前 分娩後 ク ラスアルファルファク ラスアルファルファ DCAD, meq/kg 178 186 134 152 尿量, kg/ 日 11.3 12.6 15.5 22.9 尿中 ph 8.20 8.31 8.19 7.75 Ca 摂取量,g/ 日 46.6 81.3 69.5 111.0 蓄積量 11.7 18.9-20.3-1.4 K 摂取量,g/ 日 194.8 203.7 218.9 192.5 蓄積量 0.1 2.9-50.2-18.9 ミネラルの蓄積もマイナスになる

骨粗鬆症とエストロゲン ( 閉経後 ) エストロゲン受容体 : 骨芽細胞と破骨細胞 卵巣機能低下によるエストロゲン不足 ( エストロゲンは骨のCaの保持に重要 ) 骨吸収が増加して 骨からCaが損失するー乳牛の分娩前の高エストロゲンは骨吸収抑制

NRC2001 の乳熱発生要因 1)K あるいは Na 過剰摂取による代謝性アルカローシス 副甲状腺ホルモン (PTH) 受容体の機能低下 活性型ヒ タミン D 低下による Ca 吸収量減少 骨吸収減少 2) 妊娠牛の低 Mg 血症 PTH 分泌量減少と PTH 受容体の機能低下

表 飼料のミネラル含量 ( 乾物当たり %) と イオンバランス (DCAD) Na K Cl S DCAD 配合飼料 0.10 0.81 0.20 0.22 59 大豆粕 0.02 2.33 0.02 0.40 350 イタリアンライク ラス 0.08 3.13 1.79 0.24 184 アルファルファ 0.05 3.23 1.02 0.29 379 オーチャート ク ラス 0.27 2.11 1.17 0.21 200 コーンサイレーシ 0.03 1.00 0.27 0.09 139 注 )DCAD=((Na/23.0+K/39.1)-(Cl/35.5+S/16.0)) 10,000( ミリ当量 /kg) わが国では牧草のカリウム含量が非常に高い

血漿中 Ca (mg/dl) 血漿中 PTH (pg/ml) 図 ク ラス区 ( ) アルファルファ - 正常 ( ) アルファファ - 乳熱 ( ) の血液成分 10 8 6 4-14 -7 0 7 分娩前後 ( 日 ) 1500 1000 500 0-14 -7 0 7 分娩前後 ( 日 ) アルファルファ給与による乳熱発生 :K 含量の高いこと (3.4%) が一因である

図 DCAD((Na+K)-(Cl+0.6S)) 給与 による乾物摂取量の減少 ( 人為的 ) (Charbonneau ら 2006)

周産期病発生のリスク要因 1. 分娩前後の体内代謝 内分泌機能の急激な変動 ( 乳生産の増加が影響 ) -- 代謝障害 繁殖障害の増加 2. 分娩前後の免疫機能の低下 -- 病原菌の体内侵入による乳房炎などの疾病増加 ( 乳腺に IgG が多いことは細菌感染から乳腺を保護している ) 高泌乳牛は分娩に伴うリスクが高く 精密な栄養管理による周産期病の予防が必要

移行期の課題と飼料給与 栄養管理の改善が乳量増加に追いつかない 粗飼料 ( イネ科 ) の品質が改善されない 1) 分娩直後の乾物摂取量の早期増加を図る 2) 飼料から栄養素を過不足なく摂取する 3) ルーメン環境の適正維持と絨毛の発達促進 良質粗飼料を活用して TMR で給与する 分娩前の濃厚飼料の給与比率を 3 割程度 移行期はほぼ同じ粗飼料構成にする