早稲田大学大学院理工学研究科 博士論文概要 論文題目 Various statistical methods in time series analysis 時系列解析における種々の統計手法 申請者 天野友之 Tomoyuki AMANO 数理科学専攻数理統計学研究 007 年 月
時とともに変動する偶然量の観測値の系列である時系列の解析は近年 様々な統計手法が導入され自然工学 医学 経済学 など多方面で急速に発展している 本論文では多方面におけるいくつかの重要な時系列のトピックについて統計手法を提案し解析を行う 第 章では様々な分野で応用される時系列の研究の問題背景等について記述する 第 章では代表的な非線形時系列モデルである ARCHq) モデルの母数推定を条件付最小 乗推定量を用い行い その漸近最適性について議論する 第 3 章では 章における ARCHq) モデルを拡張した ARCH ) モデルの母数推定を Whittle 推定量を用い行い その漸近性質について議論する 第 4 章では独立標本における推定量の分散の縮小法である制御変数法を従属標本 すなわち時系列に応用する 第 5 章では時系列の基礎的な線形 ARMA モデルの適合性検定である Portmanteau 検定について議論する 第 6 章では本論文で得られた結果の証明を記載した 下記に本論文の概要を記す [ 章 ] ARMAモデル等 典型的な線形時系列モデルにおいては過去の情報を与えた下での条件付分散は一定である しかしながら時系列の実データにおいて 過去の情報を与えた下での条件付分散が一定であるという仮定はしばしばきつい制約となる事がある この事を克服するためEngleによって過去の情報を与えた下での条件付分散が過去の情報に依存するARCHモデルが提案され これは経済 医学等 多種多様の分野に応用されている ARCHモデルの重要な推定量として条件付最小 乗推定量がある これは観測値とその過去の情報を与えた下での条件付期待値との差の平方和を最小にする値で与えられる この推定法をARCHモデルの 乗過程に適用すると 観測系列に関して明示的に書け 更にARCHモデルの残差過程の確率密度関数の情報が要らないと言う利点を持つ しかしながら一般的に漸近最適ではないので本研究では本推定量が漸近最適になるための必要十分条件を導いた 漸近最適性は局所漸近正規性 LAN) に基づく モデル族のLAN 性が示されれば 最適性はLANに表われるCentral sequence とFisher 情報量で記述される ARCHモデルの族に対してはLAN 性が示されている これに基づいて必要十分条件は次のとおりとなった i) 過去の情報の下での条件付分散が定数である ii) 残差過程が正規過程に従う また数値解析において残差過程の分布の裾が重い 過去の情報の条件付分散への影響が大きいほど条件付最小 乗推定量の効率は悪いと言う知見が得られた [3 章 ] ARCHq) モデルは条件付分散がq 個の過去の観測系列に依存するが これを q = に拡張した ARCH ) モデルが Giraitis 等によって提案された ARCH ) モデルの条件付分散の係数は有限次元の未知母数で記述されると仮定する この母数推定を観測系列を 乗変換したものに基づく Whittle 推定量を用いて行った Whittle 推定量とは正規過程を想定したときの近似最尤推定量であるが これは非正規過程に対しても漸近正規性を持ち ARCH モデルの残差過程の確率密度関数の情報がいらないと言う利点を持つ 更にこの漸近分散は正規 Fisher 情報
量の逆行列 F と非正規性の量 NV の和で表される モデルが正規過程である時 正則な推定量の漸近分散 V は行列の意味でV F をみたし Whittle 推定量の漸 近分散 WV は WV = F をみたし 正規 ) 漸近最適となる ARCH モデルの 乗過程は線形過程となるが非正規過程なのでWV = F + NV が成り立つ 自然な予想とし て WV F が成り立つと思われるが 意外な結果として WV F となる場合があ る事を示すことができ非正規過程に対しては Whittle 推定量の漸近分散が正規 Fisher 情報量の逆行列を改善する場合がある事を示した また種々の母数の下 数値解析を行い興味ある結果が得られた [4 章 ] 独立標本において関与の変量の母数を推定する時もう一つの変量の情報を用いる事により より良い推定量が構成できる このような方法は制御変数法と呼ばれ種々の統計分野で用いられてきた しかしながらこの方法は多くの場合独立標本に対して適用されてきたので これを定常過程へ拡張した 関与の定常過程とこれと相関のある他の定常過程 すなわち 制御変数過程が観測可能であるとする 関与の定常過程の母平均を推定するとき これの自然な推定量は標本平均であるが制御変数過程の情報を用いることにより標本平均の分散を縮小する制御変数推定量を提案する 関与の定常過程のノンパラメトリックスペクトル密度関数推定量と制御変数過程のノンパラメトリッククロススペクトル密度関数推定量を構成し これらを用い母平均の制御変数推定量を提案した 更にこれが標本平均を平均 乗誤差の意味で改善することを示した また制御変数推定量の適用を時系列回帰モデル すなわち母平均が母数とトレンド関数と呼ばれる多項式の係数によって記述されるモデルである まで行った この母数の自然な推定量は最小 乗推定量であるが これに制御変数法を応用し平均 乗誤差の意味でこれを改善する推定量を提案した 数値解析においては提案された推定量の分散の縮小が十分に得られた [5 章 ]ARMA モデルには多数の適合性検定が提案されている その代表的なものに Box と Pierce によって提案された Portmanteau 検定がある Portmanteau 検定は残差過程の推定量のm 次までの標本自己相関関数の 乗和によって与えられ Ljung と Box 等多数の修正ヴァージョンが提案されてきている Portmanteau 検定は i)arma モデルが正しい かつ ii)mが十分に大きい ときカイ 乗分布で近似できると主張され ARMA モデルの適合性検定として用いられた しかしながら 以下のように ARMA モデルの適合性検定として不適切であることが示された 残差過程がm 次相関過程に従う ARMA モデルを考える ARMA モデルのスペクトル密度関数は ARMA 係数 θと残差過程の自己相関係数 θ を用いて表わされる ここで帰無仮説 H: θ = 0 すなわち残差過程が無相関と対立仮説 A: θ 0 に関し一種の近似対数尤度である W hittle 型の尤度 PW θ, θ ) を考え Hの下での Whittle 型 の尤度の最大値 PW θˆ,0) と ˆ θ の下での Wh ittle 型の尤度の最大値 PW θˆ, θˆ ) を与え
PW ˆ θ, ˆ θ ) PW ˆ,0) によって Whittle 型の尤度比検定を定義する これは一種の対 θ 数尤度比である Whittle 型の尤度比検定に関し帰無仮説 H の下 mを任意に固定したとき次のことが成り立つことを示した i)box と Pierce の Portmanteau 検定と Whittle 型の尤度比検定は漸近同等となる ii) 有限のmに対して Whittle 型の尤度比検定はカイ 乗分布に収束しない すなわち Box と Pierce の Portmanteau 検定はこの条件下でカイ 乗分布に収束しない事が示された Portmanteau 検定の代わりに自然な Whittle 型の尤度比検定を提案した これは H の下での Whittle 型の尤度の最大値 PW θˆ,0) と θ と θ に関する Whittle 型の尤 度の最大値 θ, θ ) ~ ~ ~ ~ PW の差 PW θ, ) PW ˆ θ,0) で与えられる これが任意のmを固 θ 定したとき次のことを満たすことを示した i) H の下 自然な Whittle 型の尤度比検定はカイ 乗分布に収束する ii) 帰無仮説に近接した対立仮説の下 自然な Whittle 型の尤度比検定は非心度カイ 乗分布に収束する i) より自然な Whittle 型の尤度比検定が ARMAモデルの適合性検定として適切であることが示され ii) より自然な Whittle 型の尤度比検定の局所検出力評価が可能になった また数値解析において 帰無仮説の下提案した自然な Whittle 型の尤度比検定の χ 分布の十分な近似が得られ 対立仮説の下 i) これの検出力が十分に大きい ii) 残差過程の相関が大きい又はモデルが非定常に近いほど検出力が大きい と言う興味ある知見を得た 3
研究業績 種類別題名 発表 発行掲載誌名 発表 発行年月 連名者 申請者含む ) 論文論文論文論文講演講演講演講演講演講演講演 Amano,T. Note on Asymptotics of Whittle estimators for square transformed ARCH ) models 007 Scientiae Mathematicae Japonicae 65) 43-5 Amano,T. and Taniguchi,M. Asymptotic efficiency of conditional least squares estimators for ARCH models Statistics & Probability Letters 掲載決定 ) Amano,T. and Taniguchi,M. Control variate method for stationary processes 投稿中 ) Taniguchi,M. and Amano,T. Systematic Approach for Portmanteau Tests in View of Whittle Likelihood Ratio 投稿中 ) Systematic Approach for Portmanteau Tests in View of Whittle Likelihood Ratio 007 年 0 月 日本ベルギー二国間交流事業共同研究 箱根 Systematic Approach for Portmanteau Tests in View of Whittle Likelihood Ratio 007 年 9 月 日本数学会 007 年度秋期総合分科会 東北大学 Control variate method for stationary processes 007 年 3 月 日本数学会 007 年度年会 埼玉大学 Note on Asymptotics of Whittle estimators for square transformed ARCH ) models 006 年 9 月 日本数学会 006 年度秋期総合分科会 大阪市立大学 ARCH models 006 年 3 月 日本数学会 006 年度年会 中央大学 ARCH models.poster session) 006 年 月 国際会議 "Time Series Analysis and Its Related Topics" 早稲田大学 ARCH models 005 年 月 科学研究費シンポジウム 確率統計学における漸近的方法 東京大学 5