脳梗塞の血管内治療 N Engl J Med 2015; 372:11-20 N Engl J Med 2015; 372:1019-1030 N Engl J Med 2015; 372:1009-1018 慈恵 ICU 勉強会 2015 年 3 月 31 日 石垣昌志
急性期脳梗塞治療戦略の基本概念 閉塞している血管の再開通 ペナンブラ領域を救済 予後が改善 慈恵 ICU 火曜勉強会脳梗塞ガイドライン part1 より
なぜ血管内治療か? 2007 年のガイドライン 内頸動脈や中大脳動脈起始部などの主幹部閉塞では t- PA 静注療法による再開通率や改善効果が低いことが示されている 内頸動脈 14% 中大脳動脈 55% 出血性合併症の危険性から t- PA 静注療法の適応となる症例は限られている 脳主幹動脈の急性閉塞によって生じたペナンブラ領域が非可逆的な梗塞に至る前に再開通が得られれば 神経症状の改善が期待できる 脳血管治療の開発が進む 慈恵 ICU 火曜 勉強会脳梗塞ガイドライン part1 より
MERCI trial と mull MERCI trial Stroke. 2005;36:1432 1438. Stroke. 2008;39:1205 1212. 発症 8 時間以内の患者 151 人と 164 人 t- PA 静注療法の禁忌例 または静注療法で再開通が得られない中等度以上の主幹血管の閉塞に対して血管内治療施行 結果 それぞれ 48% と 57% の再開通率 90 日後の modified Rankin Scale(0 2) は再開通に成功した群で 39% 失敗した群で 3% 再開通が予後を改善する重大な因子であった 血管内治療の有効性を確立ここから血管内治療の戦略は新しいデバイスの開発へとシフトしていった
デバイスについて FDA の承認 2004 年 The Merci Retrieval System 2007 年 The Penumbra System Merci: コイル状のワイヤーで血栓を掻き取る Penumbra: 血栓の近位にデバイスを留置し 陰圧をかけ血栓を吸引してカテーテル内に回収
新しいデバイス Solitaire と Trevo Merci や Penumbra と違うステントを使った血栓回収システムの登場 FDA の承認 2012 年 The Solitaire Flow RestoraLon Device The Trevo Retriever < ステント型リトリーバー > Solitaire: ネット状のワイヤーで血栓を除去する Trevo: 血栓内部を一旦通過させ ネット状のワイヤーを拡張させることでまず血流を確保し 後に起始部のバルーンを拡張させ 最終的に血栓を除去 残存血栓を吸引する
The SWIFT study (Solitaire FR With the IntenLon for Thrombectomy) Solitaire flow restoralon device versus the Merci Retriever in palents with acute ischaemic stroke (SWIFT): a randomised,parallel- group, non- inferiority trial Lancet. 2012;380:1241 1249. Solitaire と Merci Retrieval System を比較した trial t- PA の適応がなかった あるいは t- PA に反応しなかった患者 112 人 結果は 再開通率 (TIMI2-3):68.5% vs. 30.2% 症候性脳出血の合併 :1.7% vs. 10.9% 90 日後の良好な機能予後 (mrs 2):58.2% vs. 33.3% 90 日後の死亡率 :17.2% vs. 38.2%
The TREVO 2 study (Thrombectomy REvascularizaLon of large Vessel Occlusions) Trevo versus Merci retrievers for thrombectomy revascularisalon of large vessel occlusions in acute ischaemic stroke (TREVO 2): a randomised trial Lancet. 2012;380:1231 1240. Trevo と Merci Retrieval System を比較した trial 対象は SWIFT 試験と同様 患者数は 178 人 結果は 90 日後の modified Rankin Scale (0 2) 40% vs. 22%(p=0.01) 90 日後の死亡率 33% vs. 24%(p=0.12) 安全性にも有意差はなかった
The SWIFT study (Solitaire FR With the IntenLon for Thrombectomy) The TREVO 2 study (Thrombectomy REvascularizaLon of large Vessel Occlusions) この 2 つ study のまとめ この 2 つスタディの結果は Solitaire と Trevo という新しい 2 つのデバイスが Merci や Penumbra よりも治療効果が高い事を支持している この研究が発表され Merci や Penumbra は第 1 世代 Solitaire と Trevo は第 2 世代のデバイスと呼ばれるようになった 慈恵 ICU 火曜 勉強会脳梗塞ガイドライン part1 より
血管内治療の有効性が証明血管内治療のデバイスも開発が進んだ 大きな期待のもと 3 つの RCT が行われた 2013 年に発表された RCT IMS III trial t- PA 単独群 vs. t- PA 後 + 血管内治療群 SYNTHESIS Expansion trial t- PA 群 vs. 血管内治療 ( 血栓溶解 or 血栓回収 ) 療法群 MR RESCUE trial t- PA 群 vs. 血管内治療群
IV t- PA vs. IV t- PA+Endovascular IntervenLons IMS III trial Endovascular Therapy aeer Intravenous t- PA versus t- PA Alone for Stroke N Engl J Med 2013; 368:893-903 アメリカ ヨーロッパ オーストラリア カナダ 58 施設 RCT 3 時間以内の t- PA 治療 900 人 t- PA 単独群 vs. t- PA 後 + 血管内治療群 結果 mrs 0, 1 or 2(90 日後 ) 有意差なし 優位性認められないため 656 人で研究中止
IV t- PA vs. Endovascular IntervenLons SYNTHESIS Expansion trial Endovascular Treatment for Acute Ischemic Stroke N Engl J Med 2013;368:904-13. 多施設 RCT 4.5 時間以内 t- PA 群 vs. 血管内治療 ( 血栓溶解 or 血栓回収 ) 療法群 結果 modified Rankin Scale (0-2) 90 日後有意差なし ただし血管内治療 ( 血栓溶解 or 血栓回収 ) 療法群は開始が 1 時間遅かった
IV t- PA vs. Endovascular IntervenLons MR RESCUE trial A Trial of Imaging SelecLon and Endovascular Treatment for Ischemic Stroke N Engl J Med 2013; 368:904-913 多施設 RCT 8 時間以内 t- PA 群 vs. 血管内治療群 ペナンブラの有無で層化 血管内治療 : 血栓回収療法 Merci or Penumbra 結果 血管内治療の有効性は示せなかった 画像評価 (CT MRI) によって血管内治療が有効な患者を同定できなかった
2013 年の 3 つの RCT の試験 2013 年の特徴 mrs(0-2) が低く 有意差認めない 血管内治療開始までの時間が長い 再開通率が低い 大部分は画像評価で閉塞部位による患者選定をせず 血管内治療を施している
2013 年の RCT の疑問 高い再開通率を得たら 予後が変わるのか? 血管内治療開始時間を早めたら結果は改善するのか? 画像評価にて血管内治療が有効な患者を同定することは不可能なのか? デバイスが問題なのか? (2013 年の RCT では第 1 世代のデバイスしか使用されなかった )
2015 年に発表された RCT 2013 年の RCT の結果を受けて MR CLEAN t- PA 単独群 vs. t- PA + 血管内治療追加群ステント型デバイス ( 第 2 世代デバイス ):81.5% 使用前方循環の近位部動脈閉塞の確認 ESCAPE trial t- PA 単独群 vs. t- PA + 血管内治療追加群ステント型デバイス ( 第 2 世代デバイス ):86.1% 使用前方循環の近位部動脈閉塞の確認 EXTEND- IA t- PA 単独群 vs. t- PA + 血管内治療追加群ステント型血栓デバイス Solitaire FR( 第 2 世代デバイス ):100% 使用 CTA MRA CT 灌流検査にて患者選定
Randomized Trial of Intraarterial Treatment for Acute Stroke MR CLEAN N Engl J Med 2015; 372:11-20 前向き オープンラベル RCT オランダ 16 施設 t- PA 単独群 (267 人 ) vs. t- PA + 血管内治療追加群 (233 人 ) 前方循環の近位部の梗塞で 発症 6 時間内に血管内治療が可能な 500 例が対象 血管内治療 : ステント型デバイスが 81.5% の患者で使用 90 日後の modified Rankin Scale を評価
患者の平均年齢は 65 歳 445 人 (89%) がランダム化前に t- PA 静注施行 脳血管治療開始までの時間は平均 260 分
Primary outcome 90 日後の mrs(0~2) は 血管治療群が 32.6% 標準治療群が 19.1% Secondary outcome: 死亡率 症候性頭蓋内出血の発生率に有意差なし
MR CLEAN 前方循環の近位部動脈閉塞において 発症後 6 時間以内の血管内治療は従来の薬物療法と比較し 有効であり 安全に施行できる ステント型デバイスによる血管内治療の有効性を明らかにした
Randomized Assessment of Rapid Endovascular Treatement of Ischemic Stroke ESCAPE N Engl J Med 2015; 372:1019-1030 カナダ 米国 韓国 アイルランド 英国の 22 施設 RCT 315 例 ( 良好な結果 早期に終了 ) 対象 : ADL 自立 小さい梗塞巣 前方循環の動脈近位部閉塞 側副血行が中等度 ~ 良好の虚血性脳卒中 発症後 12 時間以内 t- PA 単独群 vs. t- PA + 血管内治療追加群 ( ステント型血栓回収デバイス推奨 ) 主要評価項目 :90 日後 mrs
年齢中央値は介入群が 71 歳 対照群は 70 歳 画像検査から血管内治療開始まで 51 分 ( 発症からは 185 分 ) t- PA 投与は 120 例 (72.7%) 118 例 (78.7%) で行われた
90 日死亡率は 介入群が 10.4% 対照群が 19.0% 症候性の頭蓋内出血の発生率は 介入群が 3.6% 対照群は 2.7% 90 日後の mrs(0~2) は 血管内治療群が 53.0% 標準治療群が 29.3%
ESCAPE 血管内治療は従来の薬物療法と比較し 有効であり 機能的予後の改善が期待できる また ESCAPE では 脳梗塞発症から血管内治療を開始するまでの時間が 185 分と迅速な血管内治療が行われた このことが 機能的予後を改善し 死亡率の低減をもたらした可能性がある 以上より 迅速血管内治療の追加の有用性を示唆
Endovascular Therapy for Ischemic Stroke with Perfusion- Imaging Selec@on オーストラリア ニュージーランドの 14 施設 前向き オープンラベル RCT 100 例を対象 ( 早期中止となり 70 例 ) EXTEND- IA 全例に t- PA 静注療法を施行し t- PA 単独群 vs. t- PA+ 血管内治療追加群で比較 対象 : 発症 4.5 時間以内に t- PA 静注療法実施 CTA または MRA で ICA,M1,M2 閉塞を確認 CT 灌流画像で mismatch ralo 評価 梗塞のコア <70ml ステント型血栓リトリーバー (Solitaire FR) 使用 再灌流率 90 日後の modified Rankin Scale を評価 N Engl J Med 2015; 372:1009-1018
年齢中央値は介入群が 68 歳 対照群は 70 歳 画像検査から血管内治療開始までの時間は 93 分 発症から血管内治療開始まで 210 分
24 時間の再開通率 t- PA 静注療法単独群 :37% Solitaire + t- PA 静注群 :100% (P<0.001) 早期の神経学的改善 t- PA 静注療法単独群 :37% Solitaire + t- PA 静注群 :80% (P=0.002) 死亡 症候性頭蓋内出血は両群に有意差なし
EXTEND- IA 90 日後の modified Rankin Scale (0-2) は t- PA 静注療法単独群 (39%) に対し Solitaire + t- PA 静注群 (72%) は機能的予後が改善した CT 灌流画像検査 CTA MRA を用いて近位部閉塞患者の選定による血管内治療の有効性が示された 高い再開通率が機能的予後の改善に関係があることを示唆 Solitaire の安全性と効果の証明
全ての論文の比較 2013 年の RCT mrs(0-2) 2015 年の RCT mrs(0-2) 1 90 日後の mrs (0-2) 血管内治療 40.8% IMSⅢ MR RESCUE SYNTHESIS t- PA 治療のみ 38.7% 血管内治療 21% 標準治療 26% 血管内治療 30.4% t- PA 治療のみ 34.8% MR CLEAN ESCAPE EXTEND- IA 血管内治療 33% t- PA 治療のみ 19% 血管内治療 54% t- PA 治療のみ 29% 血管内治療 72% t- PA 治療のみ 39% 今回の 3 つの RCT は明らかに mrs(0-2) の改善が認められる t- PA 治療に血管内治療を追加することで明らかな転帰改善を認める
全ての論文の比較 2013 年の RCT 死亡率 2015 年の RCT 死亡率 血管内治療 19.1% IMSⅢ MR RESCUE SYNTHESIS t- PA 治療のみ 21.6% 血管内治療 18% 標準治療 21% 血管内治療 8% t- PA 治療のみ 6% MR CLEAN ESCAPE EXTEND- IA 血管内治療 18.9% 2 死亡率 t- PA 治療のみ 18.4% 血管内治療 10.4% t- PA 治療のみ 19.0% 血管内治療 9% t- PA 治療のみ 20% それぞれの研究において有意差なし
全ての論文の比較 2013 年の RCT 脳出血の合併症 2015 年の RCT 脳出血の合併症 3 脳出血の合併症 血管内治療 11.5% IMSⅢ MR RESCUE SYNTHESIS t- PA 治療のみ 5.8% 血管内治療 9% 標準治療 6% 血管内治療 6% t- PA 治療のみ 6% MR CLEAN ESCAPE EXTEND- IA 血管内治療 7.7% t- PA 治療のみ 6.4% 血管内治療 3.6% t- PA 治療のみ 2.7% 血管内治療 0% t- PA 治療のみ 6% 脳出血の合併症は血管内治療群を追加しても特に有意差なし 2013 年の RCT と 2015 年の RCT を比較すると 脳出血の合併症は減少している
全ての論文の比較 4TIME( 治療までの時間 ) 2013 年の RCT 脳梗塞発症から血管内治療を開始するまでの時間 2015 年の RCT 脳梗塞発症から血管内治療を開始するまでの時間 IMSⅢ MR RESCUE SYNTHESIS 249 分 318 分 225 分 MR CLEAN ESCAPE EXTEND- IA 260 分 185 分 210 分 EXTEND- IA 及び ESCAPE は治療開始までの時間が早い (EXTEND- IA に至っては再開通までの時間は 241 分であった ) 今回は治療開始までの時間が短縮されていた
全ての論文の比較 5 再開通率 IMSⅢ MR RESCUE SYNTHESIS 再開通率 :TICI 2B- 3 ICA:38% M1:44% TOTAL:53% TOTAL:27% MR CLEAN ESCAPE EXTEND- IA 再開通率 :TICI 2B- 3 TOTAL:75% TOTAL:72% TOTAL:86% (1-3であれば100%) 新型デバイス ( ステント型血栓リトリーバー ) の使用により 大幅に高率となった EXTEND- IA においては 再開通率は 100% に改善再還流の遅れを防ぎ 組織が不可逆的変化を起こすのを防いだ
全ての論文の比較 6 患者の選定 2013 年 : MR RESCUE のみ治療前に画像評価し無作為に割付 2015 年 : 全ての患者の梗塞部位の評価 除外を検討している ( 発症早期の近位部主幹動脈閉塞例を対象 ) 梗塞部位 梗塞巣のサイズ 側副血行路 迅速に治療可能な患者を選定する事ができる
全ての論文の比較 2013 年 7 デバイス Merci Penumbra 2015 年 Solitaire Trevo ステント型リトリーバーの使用により短時間かつ高い再開通率の実現 このことが治療成績の向上に寄与
今後の展望 1 ガイドラインの見直し (2015 年改訂予定 ) 今回の 3 つの RCT で血管内治療の強いエビデンスが示された 患者選定を行い回復が見込まれる患者には 血管内治療の追加は標準治療にするべき 2 血管内治療が可能な施設の整備 地域の連携強化 脳卒中センターの設立 onset to door の時間短縮 3 各専門科による迅速な治療を行うために チームワークの強化や対応マニュアルの整備
私見 脳梗塞の血管内治療の有用性は確立されたと思われる 迅速な対応が患者の生命予後に強く影響される 患者選定に重きが置かれてしまうと 回復の可能性を減らしてしまう危険性がある