オブザーバ 状態フィードバックにはすべての状態変数の値が必要であった. しかしながら, システムの外部から観測できるのは出力だけであり, すべての状態変数が観測できるとは限らない. そこで, 制御対象システムの状態変数を, システムのモデルに基づいてその入出力信号から推定する方法を考える.. オブザーバとは 次元 m 入力 r 出力線形時不変システム x Ax Bu y Cx () の状態変数ベクトル x の推定値を ˆx として, 状態方程式 xˆ AxˆBu () を考える. 状態変数 x とその推定値 ˆx の推定誤差を と定義すれば, e x x ˆ (3) e x xˆ A( x xˆ ) Ae (4) e( ) e A e () (5) に従って, 初期推定誤差 e() から推定誤差は遷移する. ゆえに, lim e( ) になるために は, 制御対象システムが安定である場合であり, 不安定な場合は e() は発散する. また, lim e( ) であってもその収束の速さは行列 A の極に依存する. そこで, 式 () を xˆ AxˆBu G( y yˆ) yˆ Cxˆ (6) r と変更する. ここで, 行列 G R である. すると,
e ( A GC) e (7) ( ) e( ) e AGC e () (8) となる. ゆえに, 行列 A GC の極のすべての実部が負になるように行列 G を選ぶことができれ ば,lim e( ) となる. このような式 (6) のシステムをオブザーバ ( 状態オブザーバ, 状態 観測器 ) という. また, 行列 G をオブザーバゲインとよぶ. 定理式 () で与えられるシステムに対して, 式 (6) のオブザーバが構成できるための必要十 分条件は, このシステムが可観測であることである. これらは, 状態フィードバック制御則における極配置と似た考え方である. u() B x () x() C y() A B xˆ( ) xˆ( ) G C e() yˆ( ) A オブザーバ 図 オブザーバの構成. オブザーバの設計法 システムを可観測正準形に変換し, 極配置によってオブザーバゲインを求める. 次元 m 入力 出力線形時不変システム x Ax Bu y cx (9) が可観測なシステムであれば, 変換行列 ( x x) LM ()
a a a a a 3 L, M a c ca () ca ca によって, x AxBu y cx () a a A A a, B B a (3) c c (4) と可観測正準形に変換される. このとき, a, a,, a は, もとの制御対象システムの特 性方程式 s s a s as a I A (5) の係数である. この可観測正準形にオブザーバゲイン g g g g とするオブザーバ ˆ ˆ x Ax ( y yˆ ) Bu g yˆ cx ˆ (6) を構成すると, 推定誤差 e xxˆ の微分方程式は となり, この微分方程式の特性方程式は e ( A gc) e (7) 3
si A gc a g a g a g a g s ( a g ) s ( a g ) s ( a g ) s a g 3 3 (8) となる. 一方, 望ましいと考える極を,,, と与えるなら, 上の特性方程式は ( s )( s ) ( s ) (9) とならなければならない. したがって, 式 (9) を展開し, 式 (8) と係数の比較を行えば, 可 観測正準形のオブザーバゲイン g g g g を求めることができる. 最後に, 可観測正準形のオブザーバゲインg から, もとの制御対象システムのオブザー バゲイン g は, 以下のように計算できる. g g () 実際のオブザーバゲインの計算には, 制御対象システムをいちいち可観測正準形に変換 する必要はないことに注意する. ただし, 変換行列 の計算は必要である. 3. 最小次元オブザーバ前節までで述べたオブザーバは同一次元オブザーバといい, 状態全体を推定している. しかし, 実際は出力によって状態の一部は直接観測できるので, これまで推定する必要はない. このことから, 次元を下げたオブザーバ, 最小次元オブザーバが定義される. 次元 m 入力 r 出力線形時不変システムを考える. x Ax Bu y Cx () r y R は観測できるので, rakc r ち r 次元は観測できることになり, 残り であるならば, 次元状態変数ベクトルx r Gopiah (97) の方法に従って最小次元オブザーバの説明を行う. 上の行列 C r R に適当な行列 D ( r) R R のう 次元を推定すれば十分である. 以下,G. を加えて, 正則な変換行列 4
C D R () とする相似変換 x x (3) を考える. この相似変換によって, x Ax Bu y Cx (4), B A A B, C C (5) のように式 () のシステムは変換されるが, C C I ( I r はr r rの単位行列 ) (6) であることに注目して, 式 (4) のシステムを x A A x B u x A A x B x y I r x x (7) r r のように分解する. ここで, A R, r m B R, ( r) m B R である. 状態変数 x のうち, 可能である. そこで, 状態変数 x を求めるオブザーバを r ( r) R ( r) r A, R ( r) ( r) A, A R, x は観測可能であるが, x が観測不 ˆ x A x A xˆ Bu xˆ A x A xˆ BuGx xˆ ( ) (8) r r と構成する. ここで, オブザーバゲインG R である. 推定誤差 e x x ˆ (9) としてこの推定誤差 e の微分方程式は, 式 (7),(8) より, 5
e ( A GA ) e (3) となる. よって, オブザーバゲイン G を調整してオブザーバの極を指定できる. なお, このオブザーバは状態の微分 x が含まれているので, 実際にこれを計算すること はできない. そこで, z xˆ Gx x ˆ Gy (3) の変換を行えば, z [ A GA ] z [ A G A G( A G A )] y [ B GB ] u (3) となる. また, x ˆ z Gy と表されるから, 状態変数 x の推定値 ˆx は x y x Wz Vy ˆ ˆ : G x z y (33) によって与えられる. ただし, W I r r, I V (34) G である. 4. オブザーバと状態フィードバック制御の併合可制御な線形時不変システムは状態フィードバックによって任意の応答性で制御ができたが, そのためにはすべての状態変数の利用が必要であった. よって, 出力によって一部の状態変数しか観測できないときには, 状態フィードバックは適用できない. そこで, オブザーバを併用し, ここから得られる状態の推定値を用いて状態フィードバック制御を行うことを考える. 可制御かつ可観測な 次元 m 入力 r 出力線形時不変システムを考える. x Ax Bu y Cx (35) このシステムの同一次元オブザーバを 6
xˆ AxˆBu G( y yˆ) yˆ Cxˆ (36) とし, 状態変数の推定値 ˆx に対する状態フィードバック制御則を適用する. u Fxˆ v (37) この閉ループ系の安定性を調べる. 閉ループ系の状態方程式は以下のようになる. x A BF x B ˆ ˆ v x (38) GC A BF GC x B 推定誤差 e x xˆ を用いて, 上式の状態変数を ˆ x x から x e に変換する座標変換を考える. x x x ˆ ˆ e x x x, : I I I (39) すると, x A BF x B v e GC A BF GC e B A BF BF x B v A GC e (4) このシステムの安定性を調べるために, 特性多項式を求めると, si A BF BF si A GC si ABF si AGC (4) となる. すなわち, 同一次元オブザーバを用いた状態フィードバック制御による閉ループ系の極は, 状態フィードバック制御系の閉ループ極と同一次元オブザーバの極からなる. したがって, この 種類の系が安定であれば, 両者を合わせたシステムも安定である. また, 式 (4) は状態フィードバック制御系の極と同一次元オブザーバの極を独立に任意に設定することができる. 分離定理同一次元オブザーバを用いたフィードバック制御系において, フィードバックゲインとオブザーバゲインはそれぞれ分離して設計できる. 7
一般に, オブザーバゲインを設計する際, フィードバックの設計で設定する閉ループ極 よりオブザーバの極がより左半平面に存在するようにする. なぜなら, オブザーバによる 状態の推定が, フィードバックによる状態の収束より速いほうが好ましいからである. 8