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マルコフ スイッチング GARCH モデルにおけるオプション価格の評価法 7 マルコフ スイッチング GARCH モデルにおけるオプション価格の評価法 里 吉清隆 要旨. はじめに. モデル.. マルコフ スイッチング GARCH モデル.. 投資家の危険中立性と収益率の定式化 3.MS-GARCH モデルの最尤法による推定法 3.. 尤度関数 3.. ハミルトン フィルタ 4. モンテカルロ シミュレーションによるオプション価格の評価法 4.. 危険中立性の下でのオプション価格 4.. シミュレーションの手順 4.3. 分散減少法 5. 結論と今後の課題参考文献 要旨本稿は, 原資産価格のボラティリティがマルコフ スイッチング GARCH モデルに従う場合のヨーロピアン オプション価格の評価法を解説したものである. 危険中立性の仮定の下でのモンテカルロ シミュレーションによる評価法を説明し, 精度の高い推定値を得るために負相関法と制御変量法のつの分散減少法を用いることを提案する.. はじめにヨーロピアン オプションの評価において頻繁に用いられている Black / Scholes(973) モデル ( 以下,BS モデル ) では, ボラティリティと呼ばれる原資産価格変化率の 次のモーメントの値は満期まで一定であると仮定している. しかしながら, 過去の多くの実証分析の結果からボラティリティは時間を通じて確率的に変動していると考えられ, そうした場合にオプション価格のボラティリティの変動をどのように定式化するかは非常に重要な問題となっている.Egle(98)

8 はその変動を明示的に捉えるために, 各時点のボラティリティを過去の予期しないショックの 乗の線型関数として定式化する ARCH(Auoregressive Codiioal Heeroskedasiciy) モデルを提案した. また,Bollerslev(986) はボラティリティの説明変数に過去のボラティリティの値を加えて, GARCH(Geeralized ARCH) モデルと呼ばれるより一般的なモデルに拡張している. ARCH モデルを始めとしたボラティリティ変動モデルの文献では, 一般に, ボラティリティに対するショックの持続性が非常に高いことが知られている. しかし,Diebold ( 986 ) と Lamoureux / Lasrapes(990) が指摘しているように, このような持続性はボラティリティの構造変化によって引き起こされている可能性が考えられる. このことから,Hamilo / Susmel (994) と Cai(994) は, 構造変化を捉えるために ARCH モデルの定式化にマルコフ過程に従う状態変数を含めたマルコフ スイッチング ARCH(MS-ARCH) モデルを提案した. さらに,Gray (996) は ARCH モデルではなく GARCH モデルにおいて構造変化を含めたマルコフ スイッチング GARCH(MS-GARCH) モデルを提案している.GARCH(,) モデルは ARCH( ) モデルに対応していることから, オプション価格の実証分析に用いるボラティリティ変動モデルとしては,MS-ARCH モデルよりも MS-GARCH モデルのほうが適切であると考えられる. 本稿では, ボラティリティが MS-GARCH モデルに従う場合のオプション価格の評価法を解説する. 日経 5オプションのようなヨーロピアン オプションの価格は, 投資家の危険中立性を仮定するとモンテカルロ シミュレーションによって簡単に導出することができる. また, シミュレーションの収束を早める手段として, 負相関法と制御変量法のつの分散減少法を用いることを提案する. 本稿の構成は次の通りである. 第 節では, マルコフ スイッチング GARCH(MS-GARCH) モデルを説明し, 危険中立性を仮定したときの収益率の定式化について述べる. 第 3 節では,MS- GARCH モデルの最尤法による推定法を解説する. 第 4 節では, モンテカルロ シミュレーションによるヨーロピアン オプションの評価法を提案する. 第 5 節は結論と今後の課題である.. モデル.. マルコフ スイッチング GARCH モデル Gray(996) は,GARCH モデルのパラメータがマルコフ過程に従う状態変数に依存してスイッ チングを引き起こすモデルを提案した. 時点の収益率を R, ボラティリティをσ とすると, マ ルコフ スイッチング GARCH(MS-GARCH) モデルは次のように表される. R µ + ε, ()

マルコフ スイッチング GARCH モデルにおけるオプション価格の評価法 9 [ ] ε σ z, σ > 0, z iid..., E z 0, Var z, () σ ωs + α sε + βs E σ I, (3) ω ω s + ω s, (4) ( s ) ( s ) s 0 α α + α s, (5) s 0 β β + β s. (6) s 0 () 式の定数項 µ は期待収益率, ε は誤差項であり, 収益率に自己相関は無いと仮定する. (3) 式の I は 時点までの情報集合, つまり, I ( R, R ), である.(4) 式, 3 (5) 式,(6) 式の s はマルコフ過程に従う状態変数であり, その推移確率は Pr[ ] Pr[ 0 0] とする. ただし, [ s j s i] のボラティリティを s s p, s s q (7) は状態 i から状態 j に推移する確率である. s 0 Pr σ, s のときのボラティリティを それぞれ 0 のとき σ とすると, ボラティリティσ は σ0 ω0 + α0ε + β0e σ I, σ ω + α ε + β E σ I る. 誤差項が正規分布に従う場合,() 式における z は z ( 0,) とな N (8) となる. また, 本稿では 分布のケースも考える. z 0,, ν. (9) ただし,ν は自由度である. (3) 式の右辺第 3 項の 期前のボラティリティは I を条件とした条件付き期待値 E I σ に従う状態変数を GARCH モデルに直接導入すると,(3) 式は σ ω + α ε + β σ σ ではなく, 時点までの情報集合 となっている. 仮に, マルコフ スイッチング s s s となる. この式を変形して, 過去のボラティリティを逐次的に代入すると,

30 σ ω + α ε + β ω + α ε + β σ s s s s s s ω + β ω + β β ω + + β β β ω s s s s s s s s s s + α ε + β α ε + β β α ε + + β β β α ε s s s s s s 3 s s s s 0 s s β sσ 0 + β β となり, このモデルではボラティリティσ は 時点の状態変数 s だけでなく, 時点までの全て の状態変数 ( s, s,, s ) に依存してしまうため, 最尤法で推定することができない. そこで, Gray(996) のモデルでは (3) 式のように 期前のボラティリティσ き換えている. この条件付き期待値は, Pr[ s 0 I ] を の確率で 0, E σ I と置 σ, Pr[ s I ] の確率でσ, の値をとることから次式のように計算される. [ ] [ ] E σ I σ0, Pr s 0 I + σ, Pr s I. よって, σ は 時点の状態変数 s のみにしか依存しなくなるので, 最尤法での推定が可能になる. 詳しい推定法は第 3 節で説明する... 投資家の危険中立性と収益率の定式化 S を 時点の原資産価格とし, 時点の収益率 R S R を以下のように定義する. S. (0) S 本稿では, 投資家に危険中立性を仮定したときのモンテカルロ シミュレーションによるオプショ ン評価を考える. このとき, 期待収益率 µ は安全資産の金利に等しくなり, 安全資産の金利を r, 誤差項をε とすると,() 式の収益率 R は R r+ ε () となる. なぜなら, 時点までの情報 I が与えられた条件のもとで () 式の期待値は E[ R I ] rであり, R は (0) 式のように定義されているので代入して書き換えると S S E S I S r E I r S [ ] ( + )

マルコフ スイッチング GARCH モデルにおけるオプション価格の評価法 3 となり, 危険中立性が成立していることが確認できる. ところで, ここでは収益率を (0) 式のように定義しているが, オプションを始めとした金融工 学理論では, 連続複利方式で R l S l S とすることが一般的である. ここで, 例えばボラティリティσ はマルコフ スイッチングを含まない通常の GARCH モデルに従うとしよう. 危険中立性を仮定すると, 収益率は R r σ + ε () と定式化される. ただし, r は連続複利方式の金利であり () 式の r とは異なる.() 式と 比べると, 右辺の第 項に ( /) σ という項が追加されていることが分かる. z が標準正規 分布に従うとき, I が与えられた条件のもとで収益率 R は 時点までの情報 E[ R I ] r σ, Var( R I ) σ という期待値と分散をもつ正規分布に従う. l S について書き換えると l S I N l S + r σ, σ となる. したがって, S は条件付き期待値が E S I S r S e ( ) exp l + σ + σ r となる対数正規分布に従うことが分かる. この式は危険中立性が成立していることを示している. したがって, 連続複利方式で収益率を計算し, z が標準正規分布に従い, ボラティリティが通常の GARCH モデルのケースでは () 式のように定式化することになる. ところが, 誤差項の z が正規分布ではなく 分布に従う場合,() 式の右辺第 項を書き換えなければならないが, そ れを解析的に求めることはできない. そこで, 本稿では収益率を (0) 式のように計算し,() 式を用いることにする. 3.MS-GARCH モデルの最尤法による推定法 3.. 尤度関数 r と連続複利方式の金利 r の間には, r l ( r) + という関係が成立する.

3 この節では, 最尤法による MS-GARCH モデルの推定法を解説する. モデルのパラメータをまと めてθ とする.θ は誤差項が正規分布に従うときは θ ( ω0, ω, α0, α, β0, β, p, q) の場合は自由度 ν が追加されて θ ( ω0, ω, α0, α, β0, β, p, q, ν) チング モデルでは, 尤度関数 L( θ ) は次のようになる. L( θ) f ( R, R,, R θ) 状態変数, 分布 となる. マルコフ スイッ s 0 s 0 s は観測できないため, (, ; ) f R s I θ となる. 誤差項の を ( ; θ ) f R I (, ; θ ) f R s I ( θ ) ( θ ) f R s, I ; f s I ;. R の周辺密度 f ( R I ; θ ) は R と s について足し合わせて求めることになる. 対数尤度関数は l L( θ ) l f ( R s, I ; θ) f ( s I ; θ) s の同時分布 (3) s 0 z が正規分布に従うとき, 中括弧 {} の中は次のようになる. ( R r) f ( R s, I ; θ) f ( s I ; θ) exp Pr 0 s I s 0 σ πσ 0 0 ( R r) [ ] + exp Pr [ s ]. I πσ σ (4) + + I, ただし, 右辺のボラティリティσ 0, σ はそれぞれσ ω α ε β E σ σ ω+ αε + βe σ I である. Pr[ s 0 I ] 0 0 0 0 と Pr[ s ] は, 時 点までの情報 I が与えられたもとで s のとる確率であり, 計算方法は3. 節で説明する. 誤 差項の z が 分布に従うときは,(3) 式の中括弧 {} の中は I

マルコフ スイッチング GARCH モデルにおけるオプション価格の評価法 33 s 0 (, ; θ) ( ; θ) f R s I f s I (( ν ) ) ( ν /) (( ν ) ) ( ν /) ( R r) ( ν ) ( R r) ( ν ) ν + Γ + / + Pr 0 σ 0 π Γ ( σ ) 0 ν [ s I ] ν + Γ + / + + Pr σ π Γ ( σ ) ν [ s I ] (5) となる. 3.. ハミルトン フィルタ (4) 式,(5) 式の Pr[ s 0 ] と Pr[ s ] I は,Hamilo(989) の提案した フィルタリング手法 ( ハミルトン フィルタ ) によって求める. 以下では, i 0,, j 0, は, I それぞれ 時点, 時点の状態を表すことにする. 時点までの情報 s I が与えられたときに j となる確率, つまり, Pr [ s j I] を求めるには, まず, Pr [ s i I ] れたとして, 次式より Pr [ s j I ] を計算する. Pr [ s j I ] Pr [ s j, s i I ] ただし, Pr [ s j s i] を追加すると, i 0 i 0 [ s j s i] [ s i I ] Pr Pr. が与えら (6) は (7) 式で与えられる推移確率である. 次に, 時点のデータ f ( s j, R I ) [ s j I] [ s j I R] f ( R I ) f ( R s j, I ) Pr [ s j I ] f ( R s j, I ) Pr [ s j I ] Pr Pr, j 0 となり, この式から Pr [ s j I] を求める. ただし, I (, I R) (6) 式と (7) 式を繰り返すことによって,,,, について Pr [ s j I ] (4) 式, または (5) 式に代入する. 時点の計算に必要な Pr [ s i I ] R (7) である. 以上の つの式, 0 0 を計算し, には, 一般に定

34 常確率 p π 0 Pr[ s0 0 I0], p q q π Pr[ s0 I0] p q を用いる. 4. モンテカルロ シミュレーションによるオプション価格の評価法 4.. 危険中立性の下でのオプション価格 投資家が危険中立的な場合, ヨーロピアン オプションの価格は, 満期におけるオプション価格 の期待値を安全資産の金利 r で割り引いた割引現在価値となる. すなわち, 権利行使価格 K のコール オプションの 時点の価格を すると, τ + τ 時点が満期で C, プット オプションの価格を P と C + r E Max S+ τ K,0, (8) τ ( ) (,0) P + r E Max K S + τ (9) と表される. ここで, S + τ はオプションの満期の原資産価格である.MS-GARCH モデルの場合, 右辺の期待値を解析的に求めることができないので, モンテカルロ シミュレーションによって評価する. シミュレーションを 回行い, 個の満期の原資産価格 S + τ を得られたとして, これら を (), ( ),, ( S ) + τ S+ τ S+ τ とする. ただし, S ( i) + τ は i 回目のパスの発生によって得られた満期の 原資産価格である. が十分に大きいとき, 大数の法則より (8) 式,(9) 式の期待値はそれぞ れ以下の式によって評価できる. + τ + i ( τ ) E Max( S K,0 ) Max S K,0, (0) ( τ ) E Max( K S,0) Max K S,0. () + τ + i 4.. シミュレーションの手順 本稿のモデルにおけるオプション価格の計算手順は以下の通りである. ただし,MS-GARCH モ デルの誤差項は正規分布に従うとする.

マルコフ スイッチング GARCH モデルにおけるオプション価格の評価法 35 [] 標本 { R R R },,, を使って,MS-GARCH モデルの未知パラメータを最尤推定する. [] 互いに独立な標準正規分布から { () () () i i i z, z,, z } + + + τ i [3] 互いに独立な標準一様分布から { () () () i i i u, u,, u をサンプリングする. + + + i をサンプリングする. [4] 手順 [3] の一様乱数と最尤法で推定された推移確率 p, q を使って, マルコフ過程に従う状 態変数 { s, s,, s + + + i を求める. [5] 手順 [],[4] の値を MS-GARCH モデルに代入して,{ R, R,, R る. [6] 次の式を使ってオプションの満期 τ 求める. τ + τ + + + + i を計算す () + 時点における原資産価格 (,,, S+ τ S+ τ S+ τ ) を S S + R, i,,,. () s s [7] 次の式からコール オプションの価格 C, プット オプションの価格 P をそれぞれ計算する. ( + τ ) (3) τ C ( + r) Max S K,0, i ( + τ ) (4) τ P ( + r) Max K S,0. i シミュレーションの回数は 0,000 程度で十分であると考えられる. 計算されるC, P の分散を小さくするために, 本稿では制御変量法 (corol variaes) と負相関法 (aiheic variaes) を合わせて用いることを提案する. 詳細は 4.3 節で解説する. ところで, 手順 [4] では一様乱数と推移確率を用いてマルコフ過程に従う状態変数を求めていくのであるが, 出発点である + 時点の状態変数 s + に関してはこの方法が適用できない. なぜならば, 手順 [] においてパラメータの最尤推定を行ってもオプションの評価時点である 時点の状態変数 s の値は依然として未知であり, 既知でなければ一様乱数と推移確率から状態変数 s + を求めることはできないからである. したがって, s + についてはハミルトン フィルタで 得られた 時点の確率 Pr [ s i I ] と推移確率 Pr [ s j s i] + を使って

36 [ s+ j I] [ s+ j s i] [ s i I] Pr Pr Pr i 0 を計算し, この確率からサンプリングを行うことにする. 4.3. 分散減少法 本稿ではシミュレーションの値の分散を減らし, より精度の高い推定値を得るために負相関法と 制御変量法の つの分散減少法を用いることを提案する. 負相関法とは, 乱数を発生させるときになるべく互いに負の相関を持つ系列を つ生成し, それ らの平均値を取ることによってサンプリングの誤差を減らす手法である. 本稿のモデルでは, 手順 [] において標準正規分布から { z, z,, z + + + i マイナスをつけた値 { z, z,, z + + + i 標準一様分布から { u, u,, u + + + i { u, u,,u + + + i がサンプリングされたとすると, それに を作成して乱数に加える. 手順 [3] でも同様に, をサンプリングしたら, から一様乱数を引いた値 を追加する. したがって, 手順 [4] 以降のシミュレーション の回数は となる. このような 種類の乱数系列を用いて計算される満期の原資産価格, すなわ { } ち S τ + i { } と S + τ の間には高い負の相関が生じるので, それによって計算されるオプ i + ション価格の分散を小さくすることができる. もう一つの分散減少法である制御変量法とは, 解析的に計算できる変量を制御変量として, 制御 変量を解析的に計算した値とシミュレーションによって計算した値の両方を使って分散を小さくす る方法である. 制御変量法の制御変量としては BS モデルのオプション価格を用いることにする. BS モデルでは, 原資産価格 S は次の幾何ブラウン運動に従うと仮定している. ds µ Sd + σ SdW. ただし, µ は期待収益率, d は無限小の時間間隔,σ は標準偏差, dw は標準ブラウン運動の 無限小増分である. このとき, 伊藤の公式から原資産価格の自然対数 l S は + d l S µ σ d σdw となり, l S は算術ブラウン運動に従う. ここで, オプション価格の評価時点である 時点の原

マルコフ スイッチング GARCH モデルにおけるオプション価格の評価法 37 資産価格を る l S S, 満期の + τ 時点の原資産価格を l S + τ は次のような正規分布に従う. l S+τ l S N µ σ τ, σ τ. S + τ とすると, それぞれの自然対数の差であ 本稿では投資家の危険中立性を仮定しているので, µ は連続複利方式の安全資産の金利 r に等し くなる. したがって, 連続複利における 時点の収益率 と定式化することができる. また, l R ε σz, r σ + z iid... N 0, S l S R l S l S は ε, (5) + τ は以下のように書き換えることができる. l S l S l S l S + l S l S + + l S l S + τ + τ + τ + τ + τ + R + R + + R + τ + τ +. (6) ( i) したがって,i 回目のパスの発生によって得られた満期の原資産価格 S + τ は (5) 式,(6) 式より次式のように表現できる. ( ) + τ exp + τ + + τ + + + S S R R R S exp r σ + ε+ τ + r σ + ε+ τ + + r σ + ε+ S r + z i + τ exp τ σ τ σ,,,,. + (7) よって,BS モデルからシミュレーションによって満期の原資産価格を求めるにはこの式を用いることになる. 標準偏差 σ には, 過去 0 日間の原資産価格変化率の標準偏差 ( ヒストリカル ボラティリティ ) を用いることが多い. ヒストリカル ボラティリティを HV とすると, 0 HV ( R R) (8) 0 で計算される. ただし, R は 0 日間の平均値である. シミュレーションを行うと同時に,BS 公式 からオプション価格の解析解も計算する.MS-GARCH モデルからシミュレーションで計算された BS 公式のコール, プットのオプション価格はそれぞれ,

38 満期 + τ 時点における原資産価格を S ( i) MS GARCH,BS モデルからシミュレーションで計算された満期における原資産価格を S ( i) BS とする. さらに, それぞれのモデルで計算された 時点のコール オプション価格をC MSGARCH, BS C とする. こ C とする. また,BS 公式による解析解を BS れらを使って, コール オプション価格を次のように計算する. 上式の両辺の期待値をとると, C C MS GARCH ϕ ( C BS CBS ). (9) [ ] MS GARCH ϕ ( BS BS ) EC EC C C E C ϕ C C MS GARCH BS BS E CMS GARCH となり, 左辺のシミュレーションで得られる C の期待値は,MS-GARCH モデルからシミュレーションで計算されるC MSGARCH の期待値と等しいことが分かる. また,(9) 式より, C の分散は次のように表される. ( ) ( MS GARCH ) + ϕ ( BS ) ϕ ( MS GARCH BS ) Var C Var C Var C Cov C, C. この分散を最小化する ϕ は, 上式を ϕ で偏微分してゼロとおき ϕ に関して解いた Cov C ϕ ( MS GARCH, C BS ) Var ( C BS ) (30) となる. プット オプションの計算も同様に行う. MS-GARCH モデルの誤差項が (9) 式のように 分布に従う場合には, 手順 [] において標準 正規分布からではなく, 自由度 ν, 分散 に基準化された 分布から { z, z,, z + + + i を ( τ) ( τ) C SN d Kexp r N d, P SN d + Kexp r N d, l ( S / K) + ( r + σ / ) τ l ( S / K) + ( r σ / ) τ d, d σ τ σ τ である. ただし, N () は標準正規分布の分布関数を表す. シミュレーションによる BS 解と整合的になるように,BS 公式の ボラティリティσ にも (8) 式のヒストリカル ボラティリティを用いる. ただし,BS 公式では年率換算したボラティリティが必要となるので, 例えば年間取引日数が 50 日の場合,(8) 式は 0 50 HV ( R R) 0 となる.

マルコフ スイッチング GARCH モデルにおけるオプション価格の評価法 39 サンプリングすることになる. このサンプリングを行うには, まず, 互いに独立な標準正規分布と 自由度 ν の χ 分布からそれぞれ x ( i) と w ( i) をサンプリングして, z ν w x i と計算すればよい. この場合, 制御変量法で BS モデルのオプション価格をシミュレーションで求 める際には,(7) 式の z ( i) の代わりに x ( i) を使って計算することになる. 5. 結論と今後の課題本稿では, 原資産価格のボラティリティが MS-GARCH モデルに従う場合のシミュレーションによるオプション価格の評価法を解説した.Gray(996) の MS-GARCH モデルは最尤法によって簡単に推定することができ, また, 危険中立性を仮定するとモンテカルロ シミュレーションによってオプション価格の導出が可能となることが明らかとなった. 今後の課題としては, 日経 5オプションなどの実際のデータを用いた実証分析を行い,MS- GARCH モデルを仮定すると通常のスイッチングを含まない GARCH モデルや BS モデルのオプション評価に比べてパフォーマンスが向上するのかどうかを検証する必要がある 3. また,MS- GARCH モデルとしては他に Klaasse(00),Haas / Miik / Paolella(004) があり, これらのモデルとの比較も行う予定である. 参考文献 [] Black, F. ad M. Scholes(973), he Pricig of Opios ad Corporae Liabiliies, Joural of Poliical Ecoomy, 8, pp.637-659. [] Bollerslev,.(986), Geeralized Auoregressive Codiioal Heeroskedasiciy, Joural of Ecoomerics, 3, pp.307-37. [3] Cai, J.(994), A Markov Model of Swichig-Regime ARCH, Joural of Busiess & Ecoomic Saisics,, pp.309-36. [4] Diebold, F. X.(986), Modelig he Persisece of Codiioal Variaces: A Comme, Ecoomeric Reviews, 5, pp.5-56. [5] Egle, R. F. (98), Auoregressive Codiioal Heeroscedasiciy wih Esimaes of he Variace of Uied Kigdom Iflaio, Ecoomerica, 50, pp.987-008. 3 GARCH モデルによる日経 5 オプション価格に関する実証研究としては, 三井 (000), 三井 / 渡部 (003), 渡部 (003) がある.

40 [6] Gray, S. F.(996), Modelig he Codiioal Disribuio of Ieres Raes as a Regime-Swichig Process, Joural of Fiacial Ecoomics, 4, pp.7-6. [7] Hamilo, J. D.(989), A New Approach o he Ecoomic Aalysis of Nosaioary ime Series ad he Busiess Cycle, Ecoomerica, 57, pp.357-384. [8] Hamilo, J. D. ad R. Susmel(994), Auoregressive Codiioal Heeroskedasiciy ad Chages i Regime, Joural of Ecoomerics, 64, pp.307-333. [9] Haas, M., S. Miik ad M. S. Paolella(004), A New Approach o Markov-Swichig GARCH Models, Joural of Fiacial Ecoomerics,, pp.493-530. [0] Klaasse, F.(00), Improvig GARCH Volailiy Forecass wih Regime-Swichig GARCH, Empirical Ecoomics, 7, pp.363-394. [] Lamoureux, C. G. ad W. D. Lasrapes(990), Persisece i Variace, Srucural Chage, ad he GARCH Model, Joural of Busiess & Ecoomic Saisics, 8, pp.5-34. [] 三井秀俊 (000), 日経 5オプション価格の GARCH モデルによる分析, MP フォーラム 日本ファイナンス学会 現代ファイナンス No.7, pp.57-73. [3] 三井秀俊 渡部敏明 (003), ベイズ推定法による GARCH オプション価格付けモデルの分析, 日本統計学会 日本統計学会誌 第 33 巻, 第 3 号, pp.307-34. [4] 渡部敏明 (003), 日経 5オプションデータを使った GARCH オプション価格付けモデルの検証, 日本銀行金融研究所 金融研究 第 巻, 別冊第 号, pp.-34. (005 年 9 月 8 日受理 )