トピックス Ⅲ. B 型肝炎再活性化の対策 B 型肝炎再活性化の対策 要旨 免疫抑制 化学療法によりB 型肝炎ウイルス (hepatitis B virus:hbv) が再増殖することをHBV 再活性化と称する.HBV 再活性化による肝炎は重症化しやすく, 原疾患の治療を困難にさせる. 発症そのものを阻止することが最も重要であり, 日本肝臓学会からガイドラインが発行されている. 近年,C 型肝炎に対する直接作用型抗ウイルス薬 (direct-acting antiviral:daa) の治療中にもHBV 再活性化の症例が認められており, 注意が必要である. 梅村武司 日内会誌 107:26~31,2018 Key words HBV DNA,de novo 肝炎, 核酸アナログ製剤 はじめに 1.B 型肝炎の疫学 本邦では,B 型肝炎ウイルス (hepatitis B virus:hbv) に感染したHBVキャリア (HBs 抗原陽性者 ) は130~150 万人存在し, 既往感染者 (HBs 抗原陰性, かつHBc 抗体またはHBs 抗体陽性 ) は65 歳以上の2~3 割を占める.HBV 感染患者において免疫抑制 化学療法等により HBVが再増殖することをHBV 再活性化と称する.HBV 再活性化による肝炎は重症化しやすく, 死亡例も存在する. また, 原疾患に対する治療の中断もしくは中止を余儀なくされ, 予後が悪化する. よって, 現時点では再活性化の発症を阻止することが重要である. 本稿では,HBV 再活性化のリスク因子, その対策について紹介する. HBV 持続感染の多くは出生時の母子感染により成立する. 幼少期はHBVに対して免疫寛容であり,HBV DNA(deoxyribonucleic acid) は高値で,ALT は正常なHBe 抗原陽性無症候性キャリアとして経過し, 成人期になると肝炎を発症し, HBV DNAが低下し,HBe 抗原陰性非活動性キャリアとなる. 一方, 成人でのHBV 感染例では, 本邦に多いゲノタイプBとCに感染した場合は大半が一過性の急性肝炎を発症し, 経過でHBs 抗原, 血中 HBV DNAは陰性化し,HBs 抗体が陽性となり, 臨床的な治癒と考えられる既往感染となる. しかし, 既往感染者の肝臓内ではHBVの複製中間体である閉鎖環状 DNA(covalently closed circular DNA:cccDNA) が検出されており, ウイルスの複製が持続し続けている潜伏持続感染状態であ 信州大学内科学第二教室 ( 消化器内科学 ) Basics and Clinics on Viral Hepatitis in the era of Viral Elimination. Topics:III. Management for reactivation of hepatitis B virus. Takeji Umemura:Division of Gastroenterology and Hepatology, Department of Medicine(Department of Gastroenterology),Shinshu University School of Medicine, Japan. 26 日本内科学会雑誌 107 巻 1 号
特集 肝炎ウイルス克服時代の肝臓病学 HBV DNA の増加肝炎発症回復 化学療法 800 10 6 血清 ALT 値 (IU/l) 400 200 100 50 HBV DNA ALT 10 5 10 4 10 3 10 2 血清 HBV DNA 量 (IU/ml) 25 20 図 1 HBV 再活性化の 3 段階 る. つまり, 免疫抑制の状態に陥るとHBV DNA が急速に増殖し, 肝炎を起こす危険性がある. 2.HBV 再活性化の機序 HBV 再活性化の定義とは, キャリアでは血中 HBV DNA 量が増加した場合, 既往感染者では治療前には陰性であったHBV DNAが陽性化した場合を指す. 既往感染者からの再活性化による肝炎は de novo B 型肝炎 と称される. 既往感染者から発症する再活性化は, 図 1のように3 段階に分けることができる. まず, 第 1 段階では, 化学療法 免疫抑制療法が開始されると, 免疫抑制により潜伏持続感染している肝細胞内でHBV 複製が急速になり, 血中にHBV DNAが検出され, その量は増加していく. しかし,ALTの上昇は認められない. 第 2 段階では, 化学療法 免疫抑制療法の中断もしくは終了に伴い, 免疫機能が回復してくることにより, 肝障害が出現する. 細胞表面にウイルスペプチドを提示したHBV 感染肝細胞が機能を回復したT 細胞によって排除されるため, 肝細胞壊死を引き起こす. 回復した免疫応答によりHBV DNAは 減少していく. 臨床的にはALTの上昇が認められ, 肝炎を発症する. 肝障害の程度によって重症肝炎を発症し, 急性肝不全から死亡する例も存在する. 第 3 段階では, 肝炎は落ち着き,HBV DNAも陰性化し, 回復に向かう. 3.de novo B 型肝炎の背景 HBV 再活性化のリスクは, 主にウイルスの感染状態と免疫抑制の程度に規定されている. ウイルスの感染状態では, 慢性活動性肝炎, 非活動性キャリア, 既往感染者に分類される.HBV 再活性化のリスクはこの順に高い. 慢性活動性肝炎, 非活動性キャリアからのHBV 再活性化が高率に生じることは,1975 年頃から既に報告がされていた. 一方, 既往感染者からの再活性化については注目されていなかったが,2000 年代になると,HBV 再活性化を起こして急性肝不全に陥った症例の報告が散見されるようになった. そこで, 日本肝臓学会認定施設に対してアンケート調査を行い, 新規 HBs 抗原陽性症例の頻度 劇症化 死亡率について検討を行った 1). 登録された552 例のうち96% が急性 B 型肝炎, 日本内科学会雑誌 107 巻 1 号 27
トピックス Ⅲ. B 型肝炎再活性化の対策 4% にde novo B 型肝炎の発症が認められた. 劇症肝炎は de novo 肝炎 (22%) で急性肝炎 (9%) と比較して有意に高率に発症した. 劇症化した de novo 肝炎では全例死亡しており, 急性肝炎の 42% と比較して有意に高率であった. 背景疾患では悪性リンパ腫が多く,R-CHOP( リツキシマブ+シクロホスファミド+ドキソルビシン+ビンクリスチン+プレドニゾロン ) 療法との関連性が示唆された. さらに,de novo 肝炎を発症してから核酸アナログ製剤を投与しても救命できないことも判明した. 4.HBV 再活性化への対策 1) 再活性化対策のガイドライン de novo B 型肝炎による劇症化死亡例を予防することを目的として,2009 年 1 月, 厚生労働省 難治性の肝 胆道疾患に関する調査研究 班及び 肝硬変を含めたウイルス性肝疾患の治療の標準化に関する研究 班が合同で 免疫抑制 化学療法により発症するB 型肝炎対策 を策定した. 図 2に最新のガイドラインとその注釈を掲載する ( 日本肝臓学会肝炎診療ガイドライン作成委員会編 :B 型肝炎治療ガイドライン ( 第 3 版 ).2017 年 8 月,78 80 頁より引用 : http://www.jsh.or.jp/medical/guidelines/jsh_ guidlines/hepatitis_b). 基本となるのは, 免疫抑制 化学療法施行前に全ての症例においてHBVのスクリーニング検査を施行することである. まずHBs 抗原を測定し, 陽性者ではHBe 抗原,HBe 抗体,HBV DNA 検査を実施する. 再活性化の高リスク群であることから, 免疫抑制 化学療法前に肝臓専門医にコンサルトする必要がある. 一方,HBs 抗原陰性者ではHBc 抗体とHBs 抗体検査を実施し, HBc 抗体またはHBs 抗体陽性の既往感染者と確認できた場合には, 血中 HBV DNAの測定を行う. 血中 HBV DNAが (1.3 LogIU/ml) 未満の場合は, 治療開始後, 定期的 (1~3カ月毎 ) にHBV DNAの測定を行い, モニタリングを継続する. 2) 免疫抑制薬の種類によるリスクの違いリツキシマブ (± ステロイド ) を含む治療法は,HBV 再活性化のリスクが高い. 既往感染者に発症したB 細胞リンパ腫に対するR-CHOP 療法施行時のHBV 再活性化の前向き観察試験では 8.3%/1.5 年 ~41.5%/2 年と高率にHBV 再活性化が認められている 2,3).HBV DNA 陽性化を認めた時点で核酸アナログ製剤投与を開始することで肝炎の発症は予防可能であった. さらに, 再活性化のリスク因子として, 治療前のHBs 抗体 4) 価 10 miu/ml 未満が検出された. メタ解析においても, 血液悪性疾患に対する化学療法で発症する再活性化はHBs 抗体陽性者ではリスクが約 1/5になることが明らかになった. よって,HBs 抗体陰性者にはHBワクチン接種を受けることを推奨している. 免疫抑制効果の強いフルダラビンを用いる化学療法, 造血幹細胞移植はHBV 再活性化の高リスクであり, 注意が必要である. 治療中及び治療終了後少なくとも12カ月の間,HBV DNAを月 1 回モニタリングする. 造血幹細胞移植例は, 移植後長期間のモニタリングが必要である. 通常の化学療法及び免疫抑制作用を有する分子標的薬の併用の場合,HBV 再活性化の頻度は少ないながら, 発症のリスクがある.HBV DNA 量のモニタリングは1~3カ月毎を目安とし, 治療内容を考慮して間隔及び期間を検討する. 血液悪性疾患については慎重な対応が望ましい. 副腎皮質ステロイド, 免疫抑制薬, 免疫抑制作用あるいは免疫修飾作用を有する分子標的治療薬による免疫抑制療法でも,HBV 再活性化のリスクがある. 免疫抑制療法では, 治療開始後及び治療内容の変更後 ( 中止を含む ) 少なくとも6カ月間は, 月 1 回のHBV DNA 量のモニタリングが望ましい. なお,6 カ月以降は3カ月毎の 28 日本内科学会雑誌 107 巻 1 号
特集 肝炎ウイルス克服時代の肝臓病学 スクリーニング ( 全例 ) HBs 抗原 注 1) HBs 抗原 (+) 注 2) HBs 抗原 (-) HBc 抗体,HBs 抗体 HBe 抗原,HBe 抗体, HBV DNA 定量 HBc 抗体 (+) または HBs 抗体 (+) HBV DNA 定量 注 4) HBc 抗体 (-) かつ HBs 抗体 (-) 通常の対応 注 3) (1.3 LogIU/ml) 以上 (1.3 LogIU/ml) 未満 注 6) 注 2),8),9),10) 核酸アナログ投与 注 6) 注 7) モニタリング HBV DNA 定量 1 回 /1 ~ 3 か月 AST/ALT 1 回 /1 ~ 3 か月 ( 治療内容を考慮して間隔 期間を検討する ) (1.3 LogIU/ml) 以上 (1.3 LogIU/ml) 未満 注 5)a,b,c 図 2 免疫抑制 化学療法により発症する B 型肝炎ガイドライン ( 日本肝臓学会肝炎診療ガイドライン作成委員会編 :B 型肝炎治療ガイドライン ( 第 3 版 ).2017.8,78-80 より引用 : http://www.jsh.or.jp/medical/guidelines/jsh_guidlines/hepatitis_b) 補足 : 血液悪性疾患に対する強力な化学療法中あるいは終了後に,HBs 抗原陽性あるいは HBs 抗原陰性例の一部において HBV 再活性化により B 型肝炎が発症し, その中には劇症化する症例があり, 注意が必要である. また, 血液悪性疾患または固形癌に対する通常の化学療法およびリウマチ性疾患 膠原病などの自己免疫疾患に対する免疫抑制療法においても HBV 再活性化のリスクを考慮して対応する必要がある. 通常の化学療法および抑制療法においては,HBV 再活性化, 肝炎の発症, 劇症化の頻度は明らかでなく, ガイドラインに関するエビデンスは十分ではない. また, 核酸アナログ投与による劇症化予防効果を完全に保証するものではない. 注 1) 免疫抑制 化学療法前に,HBV キャリアおよび既往感染者をスクリーニングする. まず HBs 抗原を測定して,HBV キャリアかどうか確認する.HBs 抗原陰性の場合には,HBc 抗体および HBs 抗体を測定して, 既往感染者かどうか確認する.HBs 抗原 HBc 抗体および HBs 抗体の測定は, 高感度の測定法を用いて検査することが望ましい. また,HBs 抗体単剤陽性 (HBs 抗原陰性かつ HBc 抗体陰性 ) 例においても,HBV 再活性化は報告されており, ワクチン接種歴が明らかである場合を除き, ガイドラインに従った対応が望ましい. 注 2)HBs 抗原陽性例は肝臓専門医にコンサルトすること. また, すべての症例において核酸アナログの投与開始ならびに終了にあたって肝臓専門医にコンサルトするのが望ましい. 注 3) 初回化学療法開始時に HBc 抗体,HBs 抗体未測定の再治療例および既に免疫抑制療法が開始されている例では, 抗体価が低下している場合があり,HBV DNA 定量検査などによる精査が望ましい. 注 4) 既往感染者の場合は, リアルタイム PCR 法により HBV DNA をスクリーニングする. 注 5)a. リツキシマブ (± ステロイド ), フルダラビンを用いる化学療法および造血幹細胞移植 : 既往感染者からの HBV 再活性化の高リスクであり, 注意が必要である. 治療中および治療終了後少なくとも 12 か月の間,HBV DNA を月 1 回モニタリングする. 造血幹細胞移植例は, 移植後長期間のモニタリングが必要である.b. 通常の化学療法および免疫作用を有する分子標的治療薬を併用する場合 : 頻度は少ないながら,HBV 再活性化のリスクがある.HBV DNA 量のモニタリングは 1~3 か月ごとを目安とし, 治療内容を考慮して間隔および期間を検討する. 血液悪性疾患においては慎重な対応が望ましい.c. 副腎皮質ステロイド薬, 免疫抑制薬, 免疫抑制作用あるいは免疫修飾作用を有する分子標的治療薬による免疫抑制療法 :HBV 再活性化のリスクがある. 免疫抑制療法では, 治療開始後および治療内容の変更後 ( 中止を含む ) 少なくとも 6 か月間は, 月 1 回の HBV DNA 量のモニタリングが望ましい. なお,6 か月以降は 3 か月ごとの HBV DNA 量測定を推奨するが, 治療内容に応じて高感度 HBs 抗原測定 ( 感度 0.005 IU/ml) で代用することを考慮する. 注 6) 免疫抑制 化学療法を開始する前, できるだけ早期に核酸アナログ投与を開始する. ことに, ウイルス量が多い HBs 抗原陽性例においては, 核酸アナログ予防投与中であっても劇症肝炎による死亡例が報告されており, 免疫抑制 化学療法を開始する前にウイルス量を低下させておくことが望ましい. 注 7) 免疫抑制 化学療法中あるいは治療終了後に,HBV DNA 量が (1.3 LogIU/ml) 以上になった時点で直ちに核酸アナログ投与を開始する ( 未満陽性の場合は, 別のポイントでの再検査を推奨する ). また, 高感度 HBs 抗原モニタリングにおいて 1 IU/ml 未満陽性 ( 低値陽性 ) の場合は,HBV DNA を追加測定して 以上であることを確認した上で核酸アナログ投与を開始する. 免疫抑制 化学療法中の場合, 免疫抑制薬や免疫抑制作用のある抗腫瘍薬は直ちに投与を中止するのではなく, 対応を肝臓専門医と相談する. 注 8) 核酸アナログは薬剤耐性の少ない ETV,TDF,TAF の使用を推奨する. 注 9) 下記の1か2の条件を満たす場合には核酸アナログ投与の終了が可能であるが, その決定については肝臓専門医と相談した上で行う.1スクリーニング時に HBs 抗原陽性だった症例では,B 型慢性肝炎における核酸アナログ投与終了基準を満たしていること.2スクリーニング時に HBc 抗体陽性または HBs 抗体陽性だった症例では,(1) 免疫抑制 化学療法終了後, 少なくとも 12 か月間は投与を継続すること.(2) この継続期間中に ALT(GPT) が正常化していること ( ただし HBV 以外に ALT 異常の原因がある場合は除く ).(3) この継続期間中に HBV DNA が持続陰性化していること.(4)HBs 抗原および HB コア関連抗原も持続陰性化することが望ましい. 注 10) 核酸アナログ投与終了後少なくとも 12 か月間は,HBV DNA モニタリングを含めて厳重に経過観察する. 経過観察方法は各核酸アナログの使用上の注意に基づく. 経過観察中に HBV DNA 量が (1.3 LogIU/ml) 以上になった時点で直ちに投与を再開する. 日本内科学会雑誌 107 巻 1 号 29
トピックス Ⅲ. B 型肝炎再活性化の対策 表 DAA 治療施行 C 型慢性肝炎患者における HBV 再活性化 報告者 既往感染者数 HBV 再活性化 治療内容 リスク因子 Ogawa, et al 63 4(6.3%) SOF/LDV SOF+RBV 治療前 HBs 抗体陰性もしくは低力価 Doi, et al 147 5(3.4%) SOF/LDV SOF+RBV 治療前 HBs 抗体低力価 ALT 高値 Kawagishi, et al 84 5(5.9%) DCV+ASV SOF/LDV SOF+RBV 治療終了後 HBs 抗体低力価 SOF:sofosbuvir,LDV:ledipasvir,RBV:ribavirin,DCV:daclatasvir,ASV:asunaprevir HBV DNA 量測定を推奨するが, 治療内容に応じて高感度 HBs 抗原測定 ( 感度 0.005 IU/ml) で代用することを考慮する.5 mg/ 日以上の副腎皮質ステロイドかつ / または免疫抑制薬を使用しているリウマチ性疾患患者の前向き試験では, 再活性化のリスクは低いことが明らかにされた 5). 本試験でもHBs 抗体 10.0 miu/ml 未満が再活性化発症のリスク因子である. その他にも添付文書上にHBVの増殖が注意喚起されている薬剤は数多くあり, 新規薬剤に関するHBV 再活性化に関する情報は, 独立行政法人医薬品医療機器総合機構 (Pharmaceuticals and Medical Devices Agency:PMDA) による副作用情報 (https://www.pmda.go.jp/safety/infoservices/drugs/adr-info/0001.html) 等を参考にするとよい. 3) 核酸アナログ製剤投与開始と終了時期核酸アナログ製剤の投与開始は,HBVキャリア例では免疫抑制 化学療法開始前にできるだけ早期に行い,HBV DNA 量を低下させてから治療に入ることが望ましい. 一方, 既往感染者では, 免疫抑制 化学療法治療中 治療終了後に HBV DNAが(1.3 LogIU/ml) 以上になった時点で直ちに投与を開始する. 免疫抑制 化学療法中の場合は, 免疫抑制薬や抗腫瘍薬を直ちに投与を中止せず, 肝臓専門医と対応を相談することを推奨している. 使用する核酸アナログ製剤は薬剤耐性の少ないエンテカビル, テノホビル, テノホビル アラフェナミドの使用が 推奨されている. 核酸アナログ製剤投与終了の決定については, ガイドラインを参考に肝臓専門医と相談したうえで行う. 核酸アナログ製剤投与終了後, 少なくとも12カ月間は,HBV DNAモニタリングを含め, 厳重に経過観察をする必要がある. 経過観察中にHBV DNA 量が (1.3 LogIU/ ml) 以上になった時点で直ちに投与を再開する必要がある. 5. C 型肝炎に対するDAA 療法とHBV 再活性化最近,HBV 再活性化の話題が再び注目を浴びることになった.C 型肝炎ウイルス (hepatitis C virus:hcv) 感染患者の治療薬として直接作用型抗ウイルス (direct-acting antiviral:daa) が開発された ( トピックスV 参照 ).DAA の投与中にHCV RNA(ribonucleic acid) が陰性化しているにもかかわらず,ALT 値が急に上昇する症例のなかにHBV 再活性化を起こしている症例があり, 重症肝炎発症例や死亡例まで存在することが判明した. 本邦の検討では,DAA 治療を施行した既往感染者からのHBV 再活性化率は約 3~ 6% であった ( 表 ) 6~8). 再活性化を起こした症例はHBV DNAの増殖,ALT の上昇は軽度な症例が多かった. さらに,HBV 再活性化のリスク因子としては治療前もしくは治療終了時のHBs 抗体が低力価の場合, 治療前のALT 値が高値な症例で発症率が高いことが明らかとなった. ただし, インターフェロン治療を行った症例群ではHBV 再 30 日本内科学会雑誌 107 巻 1 号
特集 肝炎ウイルス克服時代の肝臓病学 活性化は報告されておらず 8),DAA 治療とHBV 再活性化発症の機序解明は今後の課題である. おわりに医療の進歩によって, 今後も新薬の開発が行われ, 新しい化学療法 免疫抑制療法が施行される機会が増加することが予想される. 最近で は,C 型慢性肝疾患に対するDAA 療法中のHBV 再活性化という新しい問題もあり, 注意が必要である. 既往感染者におけるHBV 再活性化のリスク因子はHBs 抗体が低力価であることが明らかとなっており, 予防法としてのHBVワクチン接種も重要な課題と考えられる. 著者の COI(Conflicts of Interest) 開示 : 本論文発表内容に関連して特に申告なし 文献 1 ) Umemura T, et al : Mortality secondary to fulminant hepatic failure in patients with prior resolution of hepatitis B virus infection in Japan. Clin Infect Dis 47 : e52 56, 2008. 2 ) Seto WK, et al : Hepatitis B reactivation in patients with previous hepatitis B virus exposure undergoing rituximab-containing chemotherapy for lymphoma : a prospective study. J Clin Oncol 32 : 3736 3743, 2014. 3 ) Kusumoto S, et al : Monitoring of Hepatitis B Virus(HBV)DNA and Risk of HBV Reactivation in B-Cell Lymphoma : A Prospective Observational Study. Clin Infect Dis 61 : 719 729, 2015. 4 ) Paul S, et al : Role of surface antibody in hepatitis B reactivation in patients with resolved infection and hematologic malignancy : A meta-analysis. Hepatology 66 : 379 388, 2017. 5 ) Fukuda W, et al : Incidence of hepatitis B virus reactivation in patients with resolved infection on immunosuppressive therapy for rheumatic disease : a multicentre, prospective, observational study in Japan. Ann Rheum Dis 76 : 1051 1056, 2017. 6 ) Ogawa E, et al : Potential risk of HBV reactivation in patients with resolved HBV infection undergoing direct-acting antiviral treatment for HCV. Liver Int, 2017. 7 ) Doi A, et al : Frequency of, and factors associated with, hepatitis B virus reactivation in hepatitis C patients treated with all-oral direct-acting antivirals : analysis of a Japanese prospective cohort. Hepatol Res, 2017. 8 ) Kawagishi N, et al : Comparing the risk of hepatitis B virus reactivation between direct-acting antiviral therapies and interferon-based therapies for hepatitis C. J Viral Hepat, 2017. 日本内科学会雑誌 107 巻 1 号 31