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II III II 1 III ( ) [2] [3] [1] 1 1:

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事例研究 ( ミクロ経済政策 問題分析 III) - 規制産業と料金 価格制度 - ( 第 8 回 手法 (4) 応用データ解析 / 時系列分析 ) 2011 年 6 月 9 日 戒能一成

0. 本講の目的 ( 手法面 ) - 応用データ解析の手法のうち 時系列分析 (ARMAX, 共和分, VAR) パネルデータ分析の概要を理解する ( 内容面 ) - 計量経済学 統計学を実戦で応用する際の留意点を理解する (2) 2

1. 時系列分析の基礎 1-1. 時系列分析の重要性 - 料金 価格制度やその変更が及ぼす効果を推計する際に 財サービスの費用 価格 料金 数量などは 系列相関 を持っている場合が多い - 系列相関が生じる原因は多様 - 季節変動の存在 (12ヶ月, 四半期など ) - 循環過程の存在 ( 蜘蛛の巣調整過程など ) - 価格変更費用の存在 - 長期契約 先物契約の存在 - 規制 許認可手続の影響 ( 対前年比 査定 ) 3

1. 時系列分析の基礎 1-2. 時系列分析の要点 - 料金 価格制度の時系列分析では 系列相関 と 外的要因 の 2つの要因の除去が必要時間 0 1 t ( 制度変更 ) n (2010) 対象 対照時系列比較? 系列相関 外的要因除去が必要 X1 y10 y11 y1t ( 変更 ) y1n ( 変更 ) 対照群横断比較? 独立性が必要 ( 影響の均質性 ) X2 y20 y21 y2t ( 変更 ) y2n ( 変更 ) X3 y30 y31 y3t ( -- ) y3n( -- ) X4 y40 y41 y4t ( -- ) y4n( -- ) 異質性が存在 外的要因 ( 毎年度変化 ) の影響が存在 4

1. 時系列分析の基礎 1-3. ARMAX モデルと成立条件 (1) 系列相関消滅 - ARMAX モデルとは 自己相関項 (AR) 移動平均 項 (MA) により系列相関の影響を説明し 説明変 数 X により 外的要因の影響を説明したモデル y(t)=μ +Σ i θ i *y(t-i)+σ j κ j *ε (t-j) +x β +ε (t) 定数項自己相関項 (AR) 移動平均項 (MA) 説明変数項誤差 過去の y 自身の値 過去の誤差 ε ( 時系列も可 ) - モデルが正しく構築されていれば 系列相関 は 残らない 系列相関が残ってないこと ( 成立条件 #1) 5

1. 時系列分析の基礎 1-4. ARMAXモデルと成立条件 (2) 定常性 - ARMAXモデルが意味を持つためには y 及び x が 弱定常 : Weakly Stationary であることが必要強定常 : 分布の確率密度関数が常に不変弱定常 : 期待値 E(z(t)), 分散 Var(z(t)), 自己相関 Cov(z(t), z(t-h)), h が常に不変 - 弱定常でなければ弱定常になるまで階差 ( z(t) = z(t)-z(t-1)) をとる (1 階階差, 2 階階差 ) - y 及び x ( 又は y 及び x ) が弱定常であること ( 成立要件 #2) 6

1. 時系列分析の基礎 1-5. 何故時系列分析では定常性を問題とするのか - 定常性がない変数 x, y をそのまま回帰分析すると 全く意味のない相関を検出することが多い ( 疑似相関 Spurious Regression) - ex. 廃棄物総埋立処分量と国債発行残高 いずれも累積値 見掛上右肩上りのあたかも関係があるような推移をする - 定常性がない変数は 1 階階差 ( x, y) を採る などの方法で ( 弱 ) 定常化し 本当に関係がある 変数なのか否かを判断する必要あり 7

1. 時系列分析の基礎 1-6. ARMAXモデルと成立条件 (3) 因果一方向性 - ARMAXモデルの説明変数 X の条件は 説明変数の外生性を満たすこと - 説明変数 X が全ての誤差項 ε (t)~ε (0) と独立であること E( ε (i) X ) = 0 for i: i T(t,,0) - 上記説明変数 X についての条件を言換えると y から x 方向のフィードバック ( 逆因果性 ) が存在しないこと ( 成立要件 #3) 8

1. 時系列分析の基礎 1-7. ARMAX モデルの構築 (1) - 自己相関項 (AR) 移動平均項 (MA) の次数 (= 何 期前の値を使うか ) は 自己相関関数 (ACF) 偏自己相関関数 (PACF) により判定 - 自己相関関数 (ACF): ρ h = Cov(y(t), y(t-h)) / Var(y(t)) ( 次数 h = 1, 2 ) - 偏自己相関関数 (PACF): η hh = (Cov(y(t) - E(y(t) y(t-1,,yt-h+1), y(t-h)))/ Var(y(t)) 自己相関 (ACF) 偏自己相関 (PACF) AR 項 ( 次数と共に減衰 ) ピークがAR 項の次数 MA 項ピークがMA 項の次数 ( 次数と共に減衰 ) 9

1. 時系列分析の基礎 1-8. ARMAX モデルの構築 (2) - 自己相関項 (AR) 移動平均項 (MA) の組合わせは 何通りも可能であるが 赤池情報量 (AIC) 又は ベイズ情報量 (BIC) が最も小さいものを選ぶ - 赤池情報量 (AIC) ln(ζ *2 )+ 2*(p+q)/T - ベイズ情報量 (BIC) ln(ζ *2 )+ 2*(p+q-1)*ln(T)/T ( BIC は計量分析ソフトにより Schwartz と表記される場合あり, p: AR 最大次数, q: MA 最大次数, T: 期間 ( 試料 ) 数 ) - 自己相関項 (AR) 移動平均項 (MA) をたくさん使う と系列相関は消しやすいが AIC BIC は膨張 Simple is best! 10

1. 時系列分析の基礎 1-9. ARMAXモデルの解釈 - 正しく構築された ARMAXモデルの係数の意味 y(t) = μ +Σ θi * y(t-i) + Σκj*ε (t-j) +Σ βk * x(t-k) + ε (t) β 0 (= y(t)/ x(t)) : 短期効果 ( x 1 単位変化時 ) Σβk / ( 1 Σθi ) : 長期効果 ( x 1 単位変化時 ) ( 1 Σθi ) : 調整速度 ( 長期均衡に至る迄の速さ ) x y 11

2. 時系列分析と検定 2-1. 系列相関検定 - ARMAXモデルに 系列相関 がない ( 成立条件 #1) ことを確認する検定 - Breusch Godfrey Lagrange Multiplier (LM) 検定 ε (t) = Σ ei * ε (i) ; ( ei = 0? ) 誤差項を相互に線形回帰した際に 仮に系列相関がなければ回帰係数 eiは全て 0 のはず - これまで Durbin Watson 検定 (DW 比 ) が多用されたが 複合相関に使えない 判定不能域があるなどの理由から使われなくなってきている 12

2. 時系列分析と検定 2-2. 定常性検定 ( 単位根検定 ) - 試料 y, x が 弱定常 であること ( 成立条件 #2) を確認する検定 ( 単位根検定 Unit Root Test) - Augmented Dickey Fuller (ADF) 検定仮に x(t) が非定常の場合 x(t) の自己相関項 (AR) を多項式で表した特性方程式に尐なくとも 1つ z 1 なる解がある x(t) = Σθ i *x(t-i) + ε (t) が非定常 特性方程式 1-Σ θ i *z i =0に zが1 以下の解有 計量分析ソフトにより 1/z を表示するものあり 要注意 13

2. 時系列分析と検定 2-3. 因果方向性検定 - ARMAXモデルで y x 方向の因果性がない ( 成立条件 #3) ことを確認する検定 - Granger Causality ( 因果性 ) 検定 ( β k = 0?) x(t) = μ + Σθ i *x(t-i) + Σβ k *y(t-k) +ε (t) x * (t) = μ * + Σθ * i*x(t-i) +ε * (t) 仮に x(t) を xの過去値と yの過去値を説明変数として推計した結果が xの過去値のみで推計した結果 (x * (t)) と有意な差がないならば y x 方向の (Grangerの意味での) 因果性 なし 14

2. 時系列分析と検定 2-4. Box-Jenkins 法 ( 定常化解析法 ) [ 重要 ] #0 因果方向性判定 (ARMAX モデルのみ ) ( 成立条件 #3) Granger 因果性検定で y x の因果性がないことを確認 #1 定常化処理 ( 成立条件 #2) y, x を対数化 階差化 指数化などの処理により定常性 (ADF) 検定を用いて ほぼ 弱定常 の状態にする #2 モデル仮構築 推計 ACF, PACF の状態を見ながら y(t) を説明するモデルを AIC or BIC が最小化されるよう構築し 非線形回帰推計 #3 系列相関消滅の確認 ( 成立条件 #1) #2 のモデルの残差 ε (t) を求め Breusch Godfrey LM 検定などにより系列相関が残っていないことを確認する ; ( 系列相関が残っていれば #2 に戻りモデルを再考する ) 完成 15

3. 時系列分析とVAR 共和分 3-1. 因果性条件の破れとVAR - 試料 y, x の間に y x 方向の逆因果性がある場合でも y, x 両方の過去の値を説明変数として使い y(t), x(t) を自己相関項 (AR) モデルで同時推計してしまうことが可能 - 当該推計を Vector Auto Regression と呼ぶ y(t) β yy1 β xy1 y(t-1) ε y (t) = + + x(t) β yx1 β xx1 x(t-1) ε x (t) VAR には最小二乗法が使える利点有 16

3. 時系列分析とVAR 共和分 3-2. VARによる分析と結果表現 - VAR 分析においては y, x の過去の値を誘導型のまま説明変数とし同時推計するため 個々の係数を解釈する意味に乏しい - VAR 分析の結果表現は以下の 2つを用いる - 衝撃応答分析 Impulse Response Analysis x が 1 単位変化した際 h 期後の y がどの程度変化するか - 分散分解分析 Variance Decomposition An. h 期後の y の変動に x, y がどの程度寄与するか 17

3. 時系列分析とVAR 共和分 3-3. VARによる分析と順序仮定 - VAR 分析において 衝撃応答 分散分解の両方とも 結果表現に際して変数の 順序 ordering を仮定する必要有 (ex. [y, x] or [x, y], Cholesky Decomposition Ordering ) ( x, y に同時に起きた変動は識別できない ) - 順序を仮定する結果 最も上位の変数の 1 期目の変動には 自己の変動分しか寄与しない - 期数が増加するにつれて 順序を仮定した影響は減衰していく 18

3. 時系列分析と VAR 共和分 3-3+. VAR による分析の概念 ( 補 ) t+1 期 x(t+1) y(t+1) β xx β xy β yy t 期 Z x (t) β yx y(t) 衝撃応答 h 期後への z の伝搬分散分解 h 期後の z の由来累計比較 19

3. 時系列分析とVAR 共和分 3-4. 定常性条件の破れと共和分 Co-integration - 試料 y, x が 弱定常 でない場合でも 下の 2つの条件 ( 共和分条件 : Co-integration) を満たせば直接 ( 階差をとらずに ) 回帰分析が可能 - x, y とも1 階階差 ( x, y) により 弱定常 とすることができる ( 2 階階差以上で 弱定常 となる場合は不可 ) - y(t) を x(t) で回帰した際に 残差 ε (t) が 弱定常 となるような β が存在する y(t) = x(t)* β + ε (t) 20

3. 時系列分析と VAR 共和分 3-5. Johansen rank 検定法 - 試料 y, x が共和分条件を満たすか否かについ ては Johansen rank 検定法により判定 - Z(t) = μ + Π *Z(t-1) + θ * Z(t-1) +ε (t) と変形すると rankπ が共和分の数を示す Z(t) = (y(t), x(t)), Z(t) =(y(t)-y(t-1), x(t)-x(t-1)) - rank 0 共和分なし 1 階階差で分析 rank 1 共和分関係 1 つ有 rank 2 共和分関係 2 つ有 直接分析可 ( 通常は VAR) ( 最大で Z の次数迄 ) 21

4. パネルデータ分析 4-1. パネルデータ分析の概念 - パネルデータ分析とは 複数の対象 複数の時 点に関するデータを用いた分析をいう パネルデータ分析時間 ( 0 複数対象 複数時点 1 ) t ( 制度変更 ) n (2010) 対象 外的要因変化と対象異質性の同時除去 X1 y10 y11 y1t ( 変更 ) y1n ( 変更 ) X2 y20 y21 y2t ( 変更 ) y2n ( 変更 ) X3 y30 y31 y3t ( -- ) y3n( -- ) 異質性が存在 X4 y40 y41 y4t ( -- ) y4n( -- ) 外的要因 ( 毎年度変化 ) の影響が存在 22

4. パネルデータ分析 4-2. パネルデータ分析の方法 - 固定効果モデル (Fixed Effect Model) 個々の対象に対応したダミー変数を説明変数として設け 対象毎の異質性を固定的に識別 ( 時間に対しダミーを設ける場合も有 ) Y(i,t) = α + X(i,t)*β fx + Σ i DMi(1/0) + ε (i,t) - 変量効果モデル (Random Effect Model) 対象 ( 時間 ) に対応したダミー変数を設けず 対象 ( 時間 ) 毎の異質性を確率的現象とする Y(i,t) = α + X(i,t)*β rd + ε (i,t)

4. パネルデータ分析 4-3. パネルデータ分析と検定 - 定常性検定 - パネルデータ分析でも定常性の問題は存在 ( 単位根検定 Unit root test) パネル ADF 検定 (Fisher Type) - 固定効果 変量効果検定 - モデル選択の問題 Hausman 検定

5. 時系列分析 - 実戦編 - 5-1. 時系列分析と結果の解釈 (1) EViews - 例 : 灯油消費量 ( 家計調 全国 / 地域, 02JAN-) 時系列分析の場合 時系列推移図を併用する

5. 時系列分析 - 実戦編 - 5-2. 時系列分析と結果の解釈 (2) EViews - Granger 因果性検定 : Pairwise Granger Causality Tests Date: 06/09/10 Time: 00:02 Sample: 2002M01 2010M03 Lags: 12 ( 全て対数 ) 帰無仮説 H0: Gr. 因果性がない が正しい確率 Null Hypothesis Obs F-Statistic Probability LPKRO does not Granger Cause LQKRO ( 価格 量 ) 87 1.5338 0.1363 - LQKRO does not Granger Cause LPKRO ( 量 価格 ) 1.8315 0.0622 - LINC does not Granger Cause LQKRO ( 所得 量 ) 87 1.7372 0.0802 - LQKRO does not Granger Cause LINC ( 量 所得 ) 2.9621 0.0026 ** LINC does not Granger Cause LPKRO ( 所得 価格 ) 87 2.8026 0.0040 ** LPKRO does not Granger Cause LINC ( 価格 所得 ) 1.6711 0.0956 -

5. 時系列分析 - 実戦編 - 5-3. 時系列分析と結果の解釈 (3) EViews - ADF 定常性検定 : 原数値 : 全変数が非定常 1 階階差 : ほぼ定常化 ( 採用 ) 帰無仮説 H0: 定常でない が正しい確率 ADF 検定結果原数値 1 階階差 t-value Prob. t-value Prob. 灯油消費量 LPKRO -1.9024 0.3300 - -5.2850 0.0000 ** 灯油価格 (2000 年実質 ) LQKRO 0.2710 0.9755 - -12.0211 0.0001 ** 世帯当所得 (2000 年実質 ) LINC -1.1050 0.7108 - -2.8604 0.0544 - Exogenous: Constant Lag Length: 12 (Automatic based on SIC, MAXLAG=12) *MacKinnon (1996) one-sided p-values. Method: Least Squares Sample (adjusted): 2003M02 2010M03 Included observations: 86 after adjustments

5. 時系列分析 - 実戦編 - 5-4. 時系列分析と結果の解釈 (4) EViews - モデル仮構築 (1): 系列相関確認 灯油消費量 1 階階差 系列相関検定 DLQKRO(t) = C + β 1*DLPKRO(t) + β 2*DINC(t) + Σ j γ j*dmj + ε (t) ( 月ダミー 3 月基準 11 個 ) 棄却 ( 系列相関残存 ) Breusch-Godfrey Serial Correlation LM Test: 帰無仮説 H0: 系列相関がない が正しい確率 F-statistic 2.231626 Probability 0.01877 * Obs*Rsquared 26.8399 Probability 0.00815 **

5. 時系列分析 - 実戦編 - 5-5. 時系列分析と結果の解釈 (5) EViews コレログラム (ACF/PACF) - モデル仮構築 (2): ACF/PACF ( コレログラム ) Date: 06/09/10 Time: 00:31 Sample: 2002M02 2010M03 Included observations: 98 次数 1, 2 に自己相関 (AC) 偏自己 相関 (PAC) が残存 AR/MA の組合わせを AIC/BIC が最小になるよう試行 ( 例では 4 通り ) AR(1)&AR(2), MA(1)&AR(2), AR(1)&MA(2), MA(1)&MA(2) Autocorrelation Partial Correlation AC PAC Q-Stat Prob. **. **. 1-0.2829-0.2829 8.083228 0.00447 ** **. ***. 2-0.2190-0.3250 12.97775 0.00152 **. *... 3 0.1600-0.0170 15.61862 0.00136 **. *.. *. 4 0.1300 0.1380 17.38028 0.00163 **.*... 5-0.1410 0.0007 19.47656 0.00157 **.*..*. 6-0.0700-0.0761 19.99828 0.00277 **

5. 時系列分析 - 実戦編 - 価格所得 5-6. 時系列分析と結果の解釈 (6) EViews Dependent Variable: DLQKRO Method: Least Squares Sample (adjusted): 2002M04 2010M03 Included observations: 96 after adjustments Convergence achieved after 11 iterations 月タ ミー ( 一部略 ) 定数項 ARMA 帰無仮説 H0: 係数が 0 である が正しい確率 Variable Coefficient Std. Error t-statistic Prob. DLPKRO -0.3514 0.1723-2.0395 0.0447 * DLINC 0.5108 0.8196 0.6233 0.5349 - DMAPR -0.3292 0.1579-2.0855 0.0402 * DMSEP 0.3980 0.1821 2.1851 0.0318 * DMOCT 0.9918 0.1186 8.3596 0.0000 ** DMNOV 1.0300 0.1575 6.5394 0.0000 ** DMDEC 0.7713 0.0849 9.0846 0.0000 ** C -0.2463 0.1306-1.8862 0.0629 - AR(2) -0.2240 0.1159-1.9330 0.0568 - MA(1) -0.5127 0.1070-4.7933 0.0000 ** R-squared 0.944933 Meandepvar -0.00011 Adj R-squared 0.934608 S.D.depvar 0.4933 S.E. of reg 0.126146 AIC -1.15174 SSR 1.273026 Schwarz -0.72435

5. 時系列分析 - 実戦編 - 5-7. 時系列分析と結果の解釈 (7) EViews - モデル仮構築 (3): AR(2) & MA(1) AIC 最小 (-1.15) & 系列相関消滅 可 DLQKRO(t) = C + β 1*DLPKRO(t) + β 2*DINC(t) + Σ j γ j*dmj + δ 1*DLQKRO(t-2) +δ 2*ε (t-1) +ε (t) AR(2) MA(1) Breusch-Godfrey Serial Correlation LM Test: 帰無仮説 H 0 : 系列相関がない が正しい確率 F-statistic 0.5974556 Probability 0.836809 Obs*R-squared 9.1556247 Probability 0.689584

5. 時系列分析 - 実戦編 - 5-8. 時系列分析と結果の解釈 (8) EViews - 同様の分析をパネルデータで実施 : 1) 定常性検定 ( パネルADF: 02 JAN~x10 地域 ) 原数値の定常性棄却 1 階階差で可 2) モデル仮構築 ACF PACFは使用不能 3) 時系列分析の結果からAR 項を追加し AIC BICを比較 いきなりパネルデータ分析を掛けるとこの操作はできない

5. 時系列分析 - 実戦編 - 価格 所得 5-9. 時系列分析と結果の解釈 (9) EViews 月タ ミー ( 一部略 ) 定数項 Dependent Variable: DLQKRO Method: Panel Least Squares Sample: 2002M02 2010M03 Cross-sections included: 10 Total panel (balanced) observations: 980 帰無仮説 H0: 係数が 0 である が正しい確率 Variable Coefficient Std. Error t-statistic Prob. DLPKRO -0.3507 0.1972-1.7783 0.0757 - DLINC 0.1357 0.1655 0.8200 0.4124 - DMJAN 0.2842 0.0709 4.0069 0.0001 ** DMOCT 0.8911 0.0560 15.9198 0.0000 ** DMNOV 0.9584 0.0604 15.8727 0.0000 ** DMDEC 0.7914 0.0533 14.8501 0.0000 ** C -0.1909 0.0439-4.3527 0.0000 ** R-squared 0.6598524 Mean depvar -0.00302 Adj. R-squared 0.6552749 S.D. depvar 0.576283 S.E. of reg. 0.3383545 AIC 0.684738 SSR 110.59132 Schwarz 0.75456

5. 時系列分析 - 実戦編 - 価格 所得 5-10. 時系列分析と結果の解釈 (10) EViews 月タ ミー ( 一部略 ) 定数項 AR Dependent Variable: DLQKRO Method: Panel Least Squares Sample (adjusted): 2002M04 2010M03 Cross-sections included: 10 Total panel (balanced) observations: 960 Convergence achieved after 5 iterations 帰無仮説 H0: 係数が 0 である が正しい確率 Variable Coefficient Std. Error t-statistic Prob. DLPKRO -0.0881 0.1550-0.5687 0.5697 - DLINC 0.3813 0.1710 2.2296 0.0260 * DMJAN 0.3208 0.0732 4.3830 0.0000 ** DMOCT 0.8950 0.0578 15.4808 0.0000 ** DMNOV 0.9771 0.0626 15.6172 0.0000 ** DMDEC 0.7428 0.0542 13.7016 0.0000 ** C -0.1976 0.0461-4.2891 0.0000 ** AR(1) -0.3487 0.0324-10.7604 0.0000 ** AR(2) -0.1161 0.0324-3.5806 0.0004 ** R-squared 0.697966 Mean depvar 0.001259 Adj. R-squared 0.693167 S.D. depvar 0.580381 S.E. of reg. 0.321488 AIC 0.584812 SSR 97.56654 Schwarz 0.665927

5. 時系列分析 - 実戦編 - 消費量 5-11. 時系列分析と結果の解釈 (11) EViews 原油価格 月タ ミー ( 一部略 ) 定数項 AR - 価格を消費量で分析 / 時系列分析 Dependent Variable: DLPKRO Method: Least Squares Sample (adjusted): 2002M03 2010M03 Included observations: 97 after adjustments Convergence achieved after 14 iterations 帰無仮説 H0: 係数が 0 である が正しい確率 Variable Coefficient Std. Error t-statistic Prob. DLQKRO -0.0460 0.0177-2.6037 0.0109 * DLPOIL 0.2487 0.0464 5.3570 0.0000 ** DMJAN 0.0501 0.0149 3.3523 0.0012 ** DMDEC 0.0735 0.0210 3.5012 0.0008 ** C -0.0277 0.0119-2.3313 0.0222 * AR(1) 0.4911 0.0985 4.9878 0.0000 ** R-squared 0.674333 Mean dependent var 0.006376 Adj. R-squared 0.618731 S.D. dependent var 0.047555 S.E. of reg. 0.029364 AIC -4.0768 SSR 0.070704 Schwarz -3.67865

5. 時系列分析 - 実戦編 - 消費量 5-12. 時系列分析と結果の解釈 (12) EViews 原油価格 月タ ミー ( 一部略 ) 定数項 AR - 価格を消費量で分析 / パネルデータ分析 Dependent Variable: DLPKRO Method: Panel Least Squares Total panel (balanced) observations: 970 Convergence achieved after 8 iterations Variable Coefficient Std. Error t-statistic Prob. DLQKRO -0.0095 0.0041-2.3216 0.0205 * DLPOIL 0.3505 0.0202 17.3188 0.0000 ** DMJAN 0.0449 0.0071 6.3091 0.0000 ** DMOCT 0.0254 0.0080 3.1558 0.0017 ** DMNOV 0.0260 0.0082 3.1826 0.0015 ** DMDEC 0.0503 0.0079 6.3367 0.0000 ** C -0.0222 0.0049-4.4879 0.0000 ** AR(1) 0.1700 0.0322 5.2729 0.0000 ** R-squared 0.4049285 Mean depvar 0.004815 Adj. R-squared 0.3962049 S.D. depvar 0.058712 S.E. of reg. 0.0456213 AIC -3.32154 SSR 1.9876475 Schwarz -3.24612 帰無仮説 H0: 係数が 0 である が正しい確率

5. 時系列分析 - 実戦編 - 5-13. 時系列分析と結果の解釈 (13) EViews - 灯油消費量は 所得弾力性 価格弾力性とも不安定であり大きな地域別差異が推察される - 灯油消費量は 階差に負の定数項が見られ 短期需給要因以外に構造的減尐要因の存在 ( 過疎化 全電化住宅増 ) が推察される - 灯油価格は 基本的に原油価格と連動しているが 灯油の需要減とともに上昇する傾向が見られ 地域輸配送網 施設の維持管理など大きな固定費の存在が推察される