に対して 例 2: に対して 逆行列は常に存在するとは限らない 逆行列が存在する行列を正則行列 (regular matrix) という 正則である 逆行列が存在する 一般に 正則行列 A の逆行列 A -1 も正則であり (A -1 ) -1 =A が成り立つ また 2 つの正則行列 A B の積

Similar documents
行列、ベクトル

Microsoft PowerPoint - 10.pptx

Matrix and summation convention Kronecker delta δ ij 1 = 0 ( i = j) ( i j) permutation symbol e ijk = (even permutation) (odd permutation) (othe

<4D F736F F D E4F8E9F82C982A882AF82E98D7397F1>

PowerPoint Presentation

<4D F736F F D A788EA8E9F95FB92F68EAE>

DVIOUT-SS_Ma

数学の世界

Microsoft PowerPoint - 10.pptx

代数 幾何 < ベクトル > 1 ベクトルの演算 和 差 実数倍については 文字の計算と同様 2 ベクトルの成分表示 平面ベクトル : a x e y e x, ) ( 1 y1 空間ベクトル : a x e y e z e x, y, ) ( 1 1 z1

数学 ⅡB < 公理 > 公理を論拠に定義を用いて定理を証明する 1 大小関係の公理 順序 (a > b, a = b, a > b 1 つ成立 a > b, b > c a > c 成立 ) 順序と演算 (a > b a + c > b + c (a > b, c > 0 ac > bc) 2 図

数値計算で学ぶ物理学 4 放物運動と惑星運動 地上のように下向きに重力がはたらいているような場においては 物体を投げると放物運動をする 一方 中心星のまわりの重力場中では 惑星は 円 だ円 放物線または双曲線を描きながら運動する ここでは 放物運動と惑星運動を 運動方程式を導出したうえで 数値シミュ

パソコンシミュレータの現状

補足 中学で学習したフレミング左手の法則 ( 電 磁 力 ) と関連付けると覚えやすい 電磁力は電流と磁界の外積で表される 力 F 磁 電磁力 F li 右ねじの回転の向き電 li ( l は導線の長さ ) 補足 有向線分とベクトル有向線分 : 矢印の位

航空機の運動方程式

Microsoft Word docx

Microsoft PowerPoint - H21生物計算化学2.ppt

PowerPoint Presentation

<4D F736F F D208C51985F82CD82B682DF82CC88EA95E A>

DVIOUT-17syoze

Microsoft PowerPoint - 2.ppt [互換モード]

喨微勃挹稉弑

DVIOUT

<4D F736F F D2094F795AA95FB92F68EAE82CC89F082AB95FB E646F63>

2015年度 2次数学セレクション(整数と数列)

Microsoft Word - 漸化式の解法NEW.DOCX

スライド タイトルなし

行列の反復解法 1. 点 Jacobi 法 数値解法の重要な概念の一つである反復法を取り上げ 連立一次方程式 Au=b の反復解法を調べる 行列のスペクトル半径と収束行列の定義を与える 行列のスペクトル半径行列 Aの固有値の絶対値の最大値でもって 行列 Aのスペクトル半径 r(a) を与える 収束行

以下 変数の上のドットは時間に関する微分を表わしている (ex. 2 dx d x x, x 2 dt dt ) 付録 E 非線形微分方程式の平衡点の安定性解析 E-1) 非線形方程式の線形近似特に言及してこなかったが これまでは線形微分方程式 ( x や x, x などがすべて 1 次で なおかつ

線積分.indd

微分方程式による現象記述と解きかた

<4D F736F F D2097CD8A7793FC96E582BD82ED82DD8A E6318FCD2E646F63>

Microsoft Word - 補論3.2

Microsoft Word - 1B2011.doc

Microsoft Word - thesis.doc

Microsoft PowerPoint - 9.pptx

Microsoft PowerPoint - 9.pptx

2014年度 筑波大・理系数学

FEM原理講座 (サンプルテキスト)

Microsoft PowerPoint - mp11-02.pptx

【FdData中間期末過去問題】中学数学2年(連立方程式計算/加減法/代入法/係数決定)

2011年度 筑波大・理系数学

オートマトン 形式言語及び演習 3. 正規表現 酒井正彦 正規表現とは 正規表現 ( 正則表現, Regular Expression) オートマトン : 言語を定義する機械正規表現 : 言語

解析力学B - 第11回: 正準変換

2014年度 信州大・医系数学

チェビシェフ多項式の2変数への拡張と公開鍵暗号(ElGamal暗号)への応用

OCW-iダランベールの原理

オートマトン 形式言語及び演習 1. 有限オートマトンとは 酒井正彦 形式言語 言語とは : 文字列の集合例 : 偶数個の 1 の後に 0 を持つ列からなる集合 {0, 110, 11110,

Chap2

数学 Ⅲ 微分法の応用 大学入試問題 ( 教科書程度 ) 1 問 1 (1) 次の各問に答えよ (ⅰ) 極限 を求めよ 年会津大学 ( 前期 ) (ⅱ) 極限値 を求めよ 年愛媛大学 ( 前期 ) (ⅲ) 無限等比級数 が収束するような実数 の範囲と そのときの和を求めよ 年広島市立大学 ( 前期

2015-2018年度 2次数学セレクション(整数と数列)解答解説

2010年度 筑波大・理系数学

受信機時計誤差項の が残ったままであるが これをも消去するのが 重位相差である. 重位相差ある時刻に 衛星 から送られてくる搬送波位相データを 台の受信機 でそれぞれ測定する このとき各受信機で測定された衛星 からの搬送波位相データを Φ Φ とし 同様に衛星 からの搬送波位相データを Φ Φ とす

Microsoft Word - NumericalComputation.docx

2011年度 大阪大・理系数学

<8D828D5A838A817C A77425F91E6318FCD2E6D6364>

技術者のための構造力学 2014/06/11 1. はじめに 資料 2 節点座標系による傾斜支持節点節点の処理 三好崇夫加藤久人 従来, マトリックス変位法に基づく骨組解析を紹介する教科書においては, 全体座標系に対して傾斜 した斜面上の支持条件を考慮する処理方法として, 一旦, 傾斜支持を無視した

スライド 1

( 最初の等号は,N =0, 番目は,j= のとき j =0 による ) j>r のときは p =0 から和の上限は r で十分 定義 命題 3 ⑵ 実数 ( 0) に対して, ⑴ =[] []=( 0 または ) =[6]+[] [4] [3] [] =( 0 または ) 実数 に対して, π()

Microsoft PowerPoint - H22制御工学I-10回.ppt

耳桁の剛性の考慮分配係数の計算条件は 主桁本数 n 格子剛度 zです 通常の並列鋼桁橋では 主桁はすべて同じ断面を使います しかし 分配の効率を上げる場合 耳桁 ( 幅員端側の桁 ) の断面を大きくすることがあります 最近の桁橋では 上下線を別橋梁とすることがあり また 防音壁などの敷設が片側に有る

Microsoft PowerPoint - zairiki_3

例 e 指数関数的に減衰する信号を h( a < + a a すると, それらのラプラス変換は, H ( ) { e } e インパルス応答が h( a < ( ただし a >, U( ) { } となるシステムにステップ信号 ( y( のラプラス変換 Y () は, Y ( ) H ( ) X (

< BD96CA E B816989A B A>

2019年度 千葉大・理系数学

1 対 1 対応の演習例題を解いてみた 微分法とその応用 例題 1 極限 微分係数の定義 (2) 関数 f ( x) は任意の実数 x について微分可能なのは明らか f ( 1, f ( 1) ) と ( 1 + h, f ( 1 + h)

memo

2015-2017年度 2次数学セレクション(複素数)解答解説

vecrot

二等辺三角形の性質 (2) 次の図の の大きさを求めなさい () = P=Q P=R Q 68 R P (2) (3) 五角形 は正五角形 = F 50 F (4) = = (5) === = 80 2 二等辺三角形の頂角の外角を 底角を y で表すとき y を の式で表しなさい y 2-5-2

3 数値解の特性 3.1 CFL 条件 を 前の章では 波動方程式 f x= x0 = f x= x0 t f c x f =0 [1] c f 0 x= x 0 x 0 f x= x0 x 2 x 2 t [2] のように差分化して数値解を求めた ここでは このようにして得られた数値解の性質を 考

<4D F736F F F696E74202D2091E6824F82538FCD8CEB82E88C9F8F6F814592F990B382CC8CB4979D82BB82CC82505F D E95848D8682CC90B69

09.pptx

Microsoft PowerPoint - H22制御工学I-2回.ppt

2015-2018年度 2次数学セレクション(整数と数列)解答解説

2016年度 京都大・文系数学

座標変換におけるテンソル成分の変換行列

ファイナンスのための数学基礎 第1回 オリエンテーション、ベクトル

高ゼミサポSelectⅢ数学Ⅰ_解答.indd

構造力学Ⅰ第12回

2014年度 名古屋大・理系数学

第1章 単 位

<4D F736F F F696E74202D208AF489BD8A7782C CF97CA82A882DC82AF2E B8CDD8AB B83685D>

オートマトン 形式言語及び演習 4. 正規言語の性質 酒井正彦 正規言語の性質 反復補題正規言語が満たす性質 ある与えられた言語が正規言語でないことを証明するために その言語が正規言語であると

2011年度 東京大・文系数学

Microsoft Word - K-ピタゴラス数.doc

学習指導要領

2018年度 筑波大・理系数学

物理演習問題

( 慣性抵抗 ) 速度の 2 乗に比例流体中を進む物体は前面にある流体を押しのけて進む. 物 aaa 体の後面には流体が付き従う ( 渦を巻いて ). 前面にある速度 0 の流体が後面に移動して速度 vとなったと考えてよい. この流体の質量は単位時間内に物体が押しのける体積に比例するので,v に比例

Microsoft PowerPoint - fuseitei_6

線型代数試験前最後の 3 日間 できるようになっておきたい計算問題 ( 特に注意 まぁ注意 ) シュミットの直交化とその行列表示 (P5) ユニタリ行列による行列の対角化 (P8) 数列, 微分方程式の解法 対角可能な条件もおさえておきたい とりあえず次の問題を ( まだやっていない人は ) やって

2-1 / 語問題 項書換え系 4.0. 準備 (3.1. 項 代入 等価性 ) 定義 3.1.1: - シグネチャ (signature): 関数記号の集合 (Σ と書く ) - それぞれの関数記号は アリティ (arity) と呼ばれる自然数が定められている - Σ (n) : アリ

2017年度 長崎大・医系数学

<4D F736F F D208D5C91A297CD8A7793FC96E591E631308FCD2E646F63>

入門講座 

ポンスレの定理

7 渦度方程式 総観規模あるいは全球規模の大気の運動を考える このような大きな空間スケールでの大気の運動においては 鉛直方向の運動よりも水平方向の運動のほうがずっと大きい しかも 水平方向の運動の中でも 収束 発散成分は相対的に小さく 低気圧や高気圧などで見られるような渦 つまり回転成分のほうが卓越

20~22.prt

Microsoft Word - 中村工大連携教材(最終 ).doc

Transcription:

2 逆行列 逆行列の計算は 連立一次方程式を数値的に解くために利用される 気象学の分野では線形系の応答問題を数値的に解くときに用いられることも多い ここでは計算機を用いて逆行列を求める方法を学ぶ 2.1 はじめにたとえば 次のような連立一次方程式を解くことを考える このような 2 元連立一次方程式は 代入法や消去法によって容易に解くことができる 解法をプログラミング言語によって記述することも困難ではない では 次のような多元連立一次方程式はどうであろうか 原理的には 未知数と方程式の数が増えても 2 元連立一次方程式の場合と同様に代入法や消去法によって解くことができるはずである しかし現実には 計算の手順は煩雑となり プログラミング言語によって記述することも容易ではなくなる n 元連立一次方程式の解法を一般的に記述する方法はないだろうか 実は このようなときには 連立一次方程式を行列によって記述すると便利である すなわち 上の連立方程式は と書きかえることが可能である もし 左辺の行列の逆行列を求めることができれば この連立一次方程式の解は として計算することができる 以下では このような n 次正方行列の逆行列を一般的に計算する方法を考えてみる 2.2 正則行列と逆行列ある正方行列 A について AX=XA=E (E は A と同じ型の単位行列 ) となる正方行列 X が存在するとき X を A の逆行列 (inverse matrix) といい A -1 で表す なお あとで述べるように AX=E と XA=E のうち どちらか一方が成り立てば他方も成り立つ 例 1: 7

に対して 例 2: に対して 逆行列は常に存在するとは限らない 逆行列が存在する行列を正則行列 (regular matrix) という 正則である 逆行列が存在する 一般に 正則行列 A の逆行列 A -1 も正則であり (A -1 ) -1 =A が成り立つ また 2 つの正則行列 A B の積 AB は正則であり 逆行列は (AB) -1 = B -1 A -1 である また 一般に AX=E が成り立てば XA=E も成り立つことがわかっている 1 2 次の正方行列 A= に対して =ad-bc とおくと 0 ならば A は正則であり A -1 = =0 ならば A は正則ではない 問 1. 以下の行列の逆行列を求めよ (1) (2) (3) 2.3 連立一次方程式と逆行列逆行列を使って連立一次方程式を解くことを考える たとえば に関して とおくと この連立一次方程式を,, と表現することができる ここで行列 A が正則であれは 8

となり 逆行列 A -1 とベクトルの積を計算することによってベクトルを求めることができる 上の例では 行列 A は実際に正則であって だから となって であることがわかる 問 2. 以下の連立 1 次方程式を 逆行列を用いて解け ただし (3) では上の結果を用いてよい (1) (2) (3) 2.4 基本変形と階数正方行列 A に対して行列 X で表現されるような変換を行なって単位行列に変換できたとする このとき XA=E だから 行列 A の逆行列は A -1 =X である つまり 行列 A を単位行列に変換する操作を行なえば 行列 A の逆行列を求めることができる 正方行列 A に対して行なわれる 以下のような操作を左基本変形 ( 行基本変形 ) (elementary row operation) という 1. 二つの行を入れ替える 2. ある行に 0 でない数をかける 3. ある行に他のある行の定数倍を加える これらの操作は 行列 A に対して左からある正方行列 P をかける演算として表現できる このとき行列 P を基本行列 (elementary matrix) という 例 1:2 行目と 3 行目を入れ替える 例 2:2 行目に 3 をかける 9

例 3:3 行目に 2 行目の 4 倍を加える 同様に 以下のような操作を右基本変形 ( 列基本変形 )(elementary column operation) という 1. 二つの列を入れ替える 2. ある列に 0 でない数をかける 3. ある列に他のある列の定数倍を加える これらの操作は 行列 A に対して右からある正方行列 Q をかける演算として表現できる 行列 Q も基本行列とよばれる 一般に基本行列は正則である 任意の n 次正方行列は 基本変形を何回か行なうことによって 以下のような標準形に変形することができる l r o n-r (1) このとき r を行列の階数 (rank) という 一般に 行列の階数は一意に定まることがわかっている 2 階数が次数に等しければ 右辺は単位行列である 実は 階数が次数に等しい場合には 左基本変形か右基本変形のどちらか一方のみによって行列 A を単位行列に変形できる 3 つまり P m P 2 P 1 A=E のように書くことができる このとき 逆行列 A -1 =P m P 2 P 1 が存在するから 行列 A は正則である 逆に 一般に基本行列 P Q は正則だから 行列 A が正則であれば 式 (1) において P k P 2 P 1 AQ 1 Q 2 Q l も正則である 右辺が正則であるためには単位行列でなければならないから 階数は次数に等しい つまり 正則である 逆行列が存在する 階数が次数に等しい 問 3.4 次の正方行列に対する 以下の右基本変形を表す基本行列を求めよ (1)1 列目と 3 列目を入れ替える (2)3 列目に -2 をかける (3)4 列目に 2 列目の -3 倍を加える 2.5 逆行列の計算正則行列では階数が次数に等しいので 左基本変形のみによって単位行列に変形できる つまり となる ここで 逆行列の定義より 10

である このことを利用して 逆行列を求めることができる すなわち 行列 A を単位行列 E に変形するための基本変形を 単位行列に対しても同様に行なえば逆行列が得られる 例 : の逆行列を求める まず 行列 A と単位行列 E を並べて書く はじめに 1 行目を 1/2 倍する 次に 1 行目の -1 倍を 2 行目に加える 2 行目の -3 倍を 1 行目に -1 倍を 3 行目に加える 3 行目を 2 倍する 3 行目の -3/2 倍を 2 行目に加える したがって 以上の操作をまとめると 次のようになる 1.n 次正方行列 A に関して 左側に行列 A 右側に同じ型の単位行列を書く 2.m=1,...,n について以下の操作を反復する 両方の行列に対して同じ操作を行なう a. 各行列の第 m 行に 1/( 左側の行列の (m,m) 成分 ) をかける b. 各行列の第 m 行以外のすべての行 ( 第 l 行 ) について その行列の第 m 行の -( 左側の行列の (l,m) 成分 ) 倍を その行列の第 l 行に 11

加える 左側の行列の (m,m) 成分がゼロになった場合は 他の行との入れ替えが必要である どの行と入れ替えても左側の行列の (m,m) 成分をゼロ以外の値にすることができない場合 つまり 左側の行列の第 m 列がすべてゼロである場合は 正則ではなく 逆行列は存在しない 右基本変形によっても同様にして逆行列を求めることができる ただし 左基本変形と右基本変形の両方を同時に用いてはならない 問 4. 次の行列の逆行列を求めよ (1) (2) (3) 2.6 行列式正方行列が正則であるか判定するために行列式 (determinant) を用いることができる 2 次の正方行列の逆行列の計算においては =ad-bc という量が重要な意味を持っていた すなわち 0 であれば逆行列が存在して A -1 = =0 であれば存在しな かった そこで に相当する量を行列式と呼ぶことにする 行列 A の行列式を A または deta と書き 次のように定義する 2 次の正方行列 A= に対して A =a11a22-a12a21 以下では 3 次以上の正方行列についても 行列式を定義することができないか考えてみる 3 次の正方行列 A= の場合には D=a11a22a33+a12a23a31+a13a21a32-a13a22a31-a12a21a33-a11a23a32 という数を定義すると D 0 であれば逆行列が存在し と書ける D=0 であれば 逆行列は存在しない そこで 3 次の正方行列の行列式を次のように定義する 3 次の正方行列 A= に対して A =a11a22a33+a12a23a31+a13a21a32-a13a22a31-a12a21a33-a11a23a32 12

例 1: 例 2: さて n 次正方行列 A= の場合 ならば 左基本変形を行なっても常に列目と m 列目は同じなので 単位行列に変形できず 逆行列は存在しない そこで ( )=0 となるような量 を定義してみる 別の見方として ( )=- ( ) となるような量 を定義すると考えてもよい 実際に上の式に l=m を代入すれば =0 になる 2 次の場合 =a11a22-a12a21 は 以上の条件をみたしている 3 次の場合も =a11a22a33+a12a23a31+a13a21a32-a13a22a31-a12a21a33-a11a23a32 は 以上の条件をみたしている 2 次と 3 次の場合の行列式の定義をみると 列番号を {1, 2} とか {1,2,3} {2,3,1} のように 正順 に並べたものを足し {2,1} とか {3,2,1} {2,1,3} のように 逆順 に並べたものを引いていることがわかる 一般に n 次の正方行列に対しては 置換 (permutation) を用いて行列式を定義する 置換とは n 個の自然数が並んだ数列 {1,2,,n} を何回か並べ替える操作のことである 例えば n=4 の場合 数列 {1,2,3,4} 2 番目の要素と 3 番目の要素を入れ替える数列 {1,3,2,4} 3 番目の要素と 4 番目の要素を入れ替える数列 {1,3,4,2} のような置換を行なうことができる このとき 置換 σ を σ(1)=1 σ(2)=3 σ(3)=4 σ(4)=2 のように表す 一般に n 個の要素の置換は n! 個存在する 2 つの要素を入れ替える 1 回の操作のことを互換という 偶数回の互換 ( 入れ替え ) によって表現される置換を偶置換 奇数回の互換によって表現される置換を奇置換という 一般に ある置換が偶置換であるか奇置換であるかは一意に決まることがわかっている 4 置換 σ の符号 sgnσ を σ が偶置換のとき sgnσ=1 奇置換のとき sgnσ=-1 と定義する このとき n 次の正方行列の行列式は と定義される ここで はすべての置換の集合であり 換すべてに関する和を表す は n 個の要素に対する置 13

例 : 以上のように定義された行列式が 逆行列の有無に対応しているか調べてみる 実は 行列式に関しては以下の性質が成り立っている 5 A B = AB ここで 行列 A に逆行列 A -1 が存在するとする このとき AA -1 =E が成り立つ ゆえに A A -1 = AA -1 = E =1 A A -1 0 だから A 0 である すなわち 行列 A の逆行列 A -1 が存在すれば 行列式 A の値はゼロではない また 逆に 行列 A の行列式 A の値がゼロでなければ 逆行列 A -1 が存在することもわかっている 6 つまり 正則である 逆行列が存在する 階数が次数に等しい 行列式がゼロではない 問 5. 以下の行列の行列式を計算し 逆行列の有無を判定せよ (1) (2) (3) (4) 課題 2:1 任意の正則な n 次正方行列について 左基本変形によって逆行列を求めるプログラムを作成せよ 作成にあたっては以下の点に注意せよ 1) 与える行列は正則であることを前提としてよい また 基本変形の過程で 行の入れ替え の必要は生じないことも前提としてよい 2) 逆行列を求めるプログラムは INVMTX という名前のサブルーチン (C の場合は invmtx という名前の関数 ) として作成せよ サブルーチン ( 関数 ) の中では 別に作成したサブルーチン ( 関数 ) を参照してもよい 3) 主プログラム中では n の値は固定でよいが サブルーチン ( 関数 ) は任意の n に対して適用可能なもの (n の値を変更しても内部を書き替えなくてもよいもの ) にせよ 2 適当な行列と 計算された逆行列との積を計算することによって 逆行列の演算が正しく行われたか検算せよ ( 提出は不要 ) 3 作成したサブルーチン ( 関数 ) を用いて以下の連立一次方程式を解け 14

計算に用いたプログラム (1 で作成したサブルーチンまたは関数を使って 3 を解いたもの ) (prog02.f または prog02.c) と 逆行列と連立方程式の解を記したテキストファイル (answer02.txt) を提出せよ 主プログラム中では n の値 (=4) は固定し 入力する行列とベクトルを DATA 文 (C の場合は配列の初期値 ) として与えてよい 15

応用例 : 下の図のように 厚さ D せん断弾性係数 μ の弾性体に荷重を加えたときの応答 ( 変形 ) を計算する 荷重によって外部から弾性体に加わる圧力を P とする 変形に伴う応力と 外部から弾性体に加わる圧力との間のつりあいを考えると が成り立つことがわかる ただし u は弾性体の変形に伴う変位 ( 下向きが正 ) である 弾性体の左端から右端に向かって等間隔の格子点を順に定義し それぞれの格子点におけ る変位 u を u i (i=1,2,,n) とする また 各格子点においてはたらく外力 の 値を f i とする ここで, と定義すれば 上の微分方程式は と書ける ただし A は n 次の正方行列であって である 外力を与えたときの弾性体の応答は 逆行列を用いて で求めることができる たとえば 次の図 ( 上 ) のような外部強制に対して 弾性体は図 ( 下 ) のように応答する 弾性体の中央部に荷重すると 全体が下へたわむことがわかる この図では 荷重がかかっている中央部では放物線型の応答を示し 荷重がかかっていない周辺部では変位の分布は直線になっている 上の式でを変えれば 任意の荷重分布に対して変位の分布を計算することができる 16

このような手法は 地震学や建築学 材料力学などでしばしば用いられる 気象学においても 非断熱加熱に対する大気の応答の計算などに利用することがある 17

1 基本行列が正則であることを用いて証明する 次数が 1 のときは自明である 次数が n-1 のと きは命題が成り立っていると仮定する 次数 n のとき 次数 n の正方行列 A が を満たすとする 適当な基本行列 P と Q を用いて とする A n-1 は次数 n-1 の正方行列である このとき 行列 を と表す X n-1 は次数 n-1 の正方行列である ここで である 一方で だから が成り立つ 次数が n-1 のときは命題が成り立っているので となる これらを用いると である したがって 両辺に左から Q 右から Q -1 をかけて が得られる 数学的帰納法より 一般に命題が成り立つ 2 n 次の正方行列 A が 基本変形によって と (s r) の 2 通りに変形さ れたとする 基本変形を表す基本行列は正則だから との関係を と表せる 右辺を第 1~r 成分と 第 r+1~n 成分に分けて表すと となる は単位行列だから は正則である は零行列だから 左からをかければも零行列である ゆえに は零行列であり の第 r+1 成分以降の対角成分はすべてゼロである したがって の階数はrである よって階数は一意に定まる 3 階数が次数に等しい正方行列 A について l のように基本変形を行なって単位行列に変形したとする 両辺に左から をかけると 18

となる 続いて 両辺に右から l をかけると l が得られる 右基本変形のみで単位行列に変形できることが示された 左基本変形の場合も同様に 示される 4 n 個の要素の置換に関して 差積 Δ を と定義する Π は可能なすべての組み合わせについて積をとるという意味である 差積に置換 σ を 作用させると となる 差積の定義より 一般に である 置換 σ が互換 τ i υ i の積として 2 通りに表され とする 置換に互換 τ を 1 回だけ作用させたときには 簡単な計算より であることが示される したがって である よって k と l の偶奇性は一致していなければならない 5 n 次の正方行列 X Y の積 XY は と書けるので 行列式は と表すことができ と変形できる ここで はすべての置換の集合である また 変換 τは {1,2,,n} から {1,2,,n} への任意の変換であり は変換 τの集合である ここで ( ) をみたすi i が存在するような変換 τを考える 置換 σ を 置換 σに対してiとi との互換をかけた置換として定義すると,, が成り立つので と変形できる つまり ある置換 σ に対して 必ず の符号が逆になるような 19

置換 σ が存在する したがって ( ) をみたす i i が存在するような変換 τ を除外して和をとっても結果は変わらない ゆえに 変換 τ として置換のみを考えて と書くことができる σ=υτ となるような置換 ρ を定義すれば となるので である 6 n 次の正方行列 A に対して 余因子 (cofactor) を と定義する ただし は行列 A の第 i 行と第 j 列だけを取り除いた n-1 次の正方行列の行列 式である は行列 A の (i,j) 小行列式とよばれる このとき 行列式の定義と性質から である ここで 余因子行列 (cofactor matrix) を と定義すると が成り立つ ゆえに A がゼロでなければ は A の逆行列である したがって A がゼロでなければ逆行列が存在する 20