糖尿病

Similar documents
虎ノ門医学セミナー

第三問 : 次の認知症に関する基礎知識について正しいものには を 間違っているものには を ( ) 内に記入してください 1( ) インスリン以外にも血糖値を下げるホルモンはいくつもある 2( ) ホルモンは ppm( 百万分の一 ) など微量で作用する 3( ) ホルモンによる作用を内分泌と呼ぶ

PowerPoint プレゼンテーション

3 スライディングスケール法とアルゴリズム法 ( 皮下注射 ) 3-1. はじめに 入院患者の血糖コントロール手順 ( 図 3 1) 入院患者の血糖コントロール手順 DST ラウンドへの依頼 : 各病棟にある AsamaDST ラウンドマニュアルを参照 入院時に高血糖を示す患者に対して 従来はスライ

スライド タイトルなし

インスリンが十分に働かない ってどういうこと 糖尿病になると インスリンが十分に働かなくなり 血糖をうまく細胞に取り込めなくなります それには 2つの仕組みがあります ( 図2 インスリンが十分に働かない ) ①インスリン分泌不足 ②インスリン抵抗性 インスリン 鍵 が不足していて 糖が細胞の イン

<4D F736F F F696E74202D20819C939C CC82A896F282C982C282A282C A2E >

第三問 : 次の認知症に関する基礎知識について正しいものには を 間違っているものには を ( ) 内に記入してください 1( ) インスリン以外にも血糖値を下げるホルモンはいくつもある インスリンが血糖値を下げる唯一のホルモンです 2( ) ホルモンは ppm( 百万分の一 ) など微量で作用する

糖尿病の薬について 糖尿病とうまく付き合うために薬を知ろう

PowerPoint プレゼンテーション

J Hospitalist Network Journal Club! DKAの輸液は生食と乳酸リンゲル液では どちらがいいのか! Fluid management in diabetic-acidosis! Ringer s lactate versus normal saline:! a ran

食欲不振 全身倦怠感 皮膚や白目が黄色くなる [ 肝機能障害 黄疸 ] 尿量減少 全身のむくみ 倦怠感 [ 急性腎不全 ] 激しい上腹部の痛み 腰背部の痛み 吐き気 [ 急性膵炎 ] 発熱 から咳 呼吸困難 [ 間質性肺炎 ] 排便の停止 腹痛 腹部膨満感 [ 腸閉塞 ] 手足の筋肉の痛み こわばり

九州支部卒後研修会症例

デベルザ錠20mg 適正使用のお願い

やまぐち糖尿病療養指導士講習会  第1回 確認試験

日本の糖尿病患者数は増え続けています (%) 糖 尿 25 病 倍 890 万人 患者数増加率 万人 690 万人 1620 万人 880 万人 2050 万人 1100 万人 糖尿病の 可能性が 否定できない人 680 万人 740 万人

表 1 入院時検査所見 11,500L 471 L 17.0 gdl.3 L ph 7.49 PaCO 37.8 mmhg PaO 67.4 mmhg HCO 3.6 meql B E 1. meql 141 meql K 3.9 meql Cl 108 meql Ca 8.4 mgdl P 4.5

Microsoft Word - 1 糖尿病とは.doc

PowerPoint プレゼンテーション

糖尿病は 初めは無症状で経過しますが 血糖値の高い状態が長く続くと口渇 多飲 多尿 体重減少 倦怠感などの症状がみられます 糖尿病は自覚症状が乏しいので 血糖値がある程度改善すると 通院しなくなる人がいます 血液検査を行わなければ糖尿病の状態を知ることはできないので 自覚症状だけに頼ってはいけません

PowerPoint プレゼンテーション

PowerPoint プレゼンテーション

経口血糖降下薬について

標準的な健診・保健指導の在り方に関する検討会

sick contact1l

第12回 代謝統合の破綻 (糖尿病と肥満)

PowerPoint プレゼンテーション

A9R284E

やまぐち糖尿病療養指導士講習会  第1回 確認試験

脂質異常症を診断できる 高尿酸血症を診断できる C. 症状 病態の経験 1. 頻度の高い症状 a 全身倦怠感 b 体重減少 体重増加 c 尿量異常 2. 緊急を要する病態 a 低血糖 b 糖尿性ケトアシドーシス 高浸透圧高血糖症候群 c 甲状腺クリーゼ d 副腎クリーゼ 副腎不全 e 粘液水腫性昏睡

糖尿病がどんな病気なのか 病気を予防するためにどんな生活が望ましいかについて解説します また 検診が受けられるお近くの医療機関を検索できます 健康診断の結果などをご用意ください 検査結果をご入力いただくことで 指摘された異常をチェックしたり 理解を深めたりすることができます 病気と診断され これから

糖尿病がどんな病気なのか 病気を予防するためにどんな生活が望ましいかについて解説します また 検診が受けられるお近くの医療機関を検索できます 健康診断の結果などをご用意ください 検査結果をご入力いただくことで 指摘された異常をチェックしたり 理解を深めたりすることができます 病気と診断され これから

PowerPoint プレゼンテーション

PowerPoint プレゼンテーション

腎性尿崩症の3例

糖尿病経口薬 QOL 研究会研究 1 症例報告書 新規 2 型糖尿病患者に対する経口糖尿病薬クラス別の治療効果と QOL の相関についての臨床試験 施設名医師氏名割付群記入年月日 症例登録番号 / 被験者識別コード / 1/12

糸球体で濾過されたブドウ糖の約 90% を再吸収するトランスポータである SGLT2 阻害薬は 尿糖排泄を促進し インスリン作用とは独立した血糖降下及び体重減少作用を有する これまでに ストレプトゾトシンによりインスリン分泌能を低下させた糖尿病モデルマウスで SGLT2 阻害薬の脂肪肝改善効果が報告

untitled

糖尿病患者 : 世界の動向 我が国を含む西太平洋地区にかなりの患者が存在する 2040 年 642M 全世界には 3 億 8200 万人の糖尿病患者が存在する 2035 年には世界の糖尿病患者数は 5 億 9200 万人になると予測される 診断すらついていない人が多い 418M IDF Diabet

人間ドック結果報告書 1/5 ページ 所属 : 株式会社 ケンコウタロウ健康太郎 様 性別 / 年齢 男性 / 49 歳 生年月日 昭和 40 年 3 月 17 日 受診日 平成 26 年 5 月 2 日 受診コース 人間ドック ( 胃カメラ ) 問診項目 今回前回前々回平成 26 年 5 月 2

72 20 Ope / class Alb g/ cm 47.9kg : /min 112/60m

Microsoft PowerPoint - 薬物療法専門薬剤師制度_症例サマリー例_HP掲載用.pptx

やまぐち糖尿病療養指導士講習会  第1回 確認試験

PowerPoint プレゼンテーション

T O P I C S 食後高血糖改善薬を用いた BOT の有効性 SMBG のデータを治療へのモチベーションとして活かす 東大介先生 関西労災病院糖尿病内分泌内科 < 略歴 > 2002 年香川医科大学医学部医学科卒業香川医科大学医学部附属病院研修医 2005 年香川県済生会病院内科 2007 年

Microsoft Word - 高血糖②.doc

<4D F736F F F696E74202D2091E F18FC797E18C9F93A289EF205B8CDD8AB B83685D>

Sample2 g/dl Target1 : 6.01 g/dl TP Target2 : 8.39 g/dl

Microsoft Word - 血液検査.docx

H26_大和証券_研究業績_C本文_p indd

肝疾患に関する留意事項 以下は 肝疾患に罹患した労働者に対して治療と職業生活の両立支援を行うにあたって ガイド ラインの内容に加えて 特に留意すべき事項をまとめたものである 1. 肝疾患に関する基礎情報 (1) 肝疾患の発生状況肝臓は 身体に必要な様々な物質をつくり 不要になったり 有害であったりす

医療法人将優会 将優会 クリニックうしたに

3. 発症時の尿中 Cペプチド<10µg/day, または, 空腹時血清 Cペプチド<0.3ng/mLかつグルカゴン負荷後 ( または食後 2 時間 ) 血清 Cペプチド<0.5ng/mLである *: 劇症 1 型糖尿病発症前に耐糖能異常が存在した場合は, 必ずしもこの数字は該当しない < 参考所見

稲熊先生-責.indd

告示番号 1 糖尿病 ( ) 年度小児慢性特定疾病医療意 書 新規申請用 病名 1 1 型糖尿病 受給者番号受診日年月日 受付種別 新規 1/2 ふりがな 氏名 (Alphabet) ( 変更があった場合 ) ふりがな以前の登録氏名 (Alphabet) 生年月日年月日意見書記載時の年齢歳か月日性別

患者向医薬品ガイド

<4D F736F F F696E74202D2091E63589F18FC797E18C9F93A289EF205B8CDD8AB B83685D>

53巻6号/TNB06‐10(委員会報告)

患者向医薬品ガイド

佐賀県肺がん地域連携パス様式 1 ( 臨床情報台帳 1) 患者様情報 氏名 性別 男性 女性 生年月日 住所 M T S H 西暦 電話番号 年月日 ( ) - 氏名 ( キーパーソンに ) 続柄居住地電話番号備考 ( ) - 家族構成 ( ) - ( ) - ( ) - ( ) - 担当医情報 医

日本呼吸器学会雑誌第44巻第10号

ただ太っているだけではメタボリックシンドロームとは呼びません 脂肪細胞はアディポネクチンなどの善玉因子と TNF-αや IL-6 などという悪玉因子を分泌します 内臓肥満になる と 内臓の脂肪細胞から悪玉因子がたくさんでてきてしまい インスリン抵抗性につながり高血糖をもたらします さらに脂質異常症

リキスミア 添付文書改訂のお知らせ


症例

生化学検査 臨床検査基準値一覧 近畿大学病院 (1) 検査項目 基準値 単位 検査項目 基準値 単位 CRP mg/dl WBC /μl Na mmol/l M RBC K mmol/l F 3.86-

日本呼吸器学会雑誌第47巻第6号

糖尿病と治療の目的 糖尿病とは 糖尿病とは 体内でインスリンというホルモン p.3参照 が不足したり はたらきが悪くなったりすることによって 血液中に含まれる糖 血糖 の値が高い状態が続く病気です 糖尿病 患者さんの 場合 健康な 人の場合 インスリンによって糖が細胞に取り込まれ 血液中の糖が使われ

られる 糖尿病を合併した高血圧の治療の薬物治療の第一選択薬はアンジオテンシン変換酵素 (ACE) 阻害薬とアンジオテンシン II 受容体拮抗薬 (ARB) である このクラスの薬剤は単なる降圧効果のみならず 様々な臓器保護作用を有しているが ACE 阻害薬や ARB のプラセボ比較試験で糖尿病の新規

_03大山.indd

血圧低下に対する工夫

1. 尿毒素に関する検査 尿素窒素 (BUN) 70~90 mg/dl タンパク質の燃えカスです タンパク質の過剰摂取 透析不足 消化管出血などで上昇します 筋肉でエネルギーとして使われた後の代謝 クレアチニン (Cr) 16 mg/dl 以下 物質で 筋肉量の多い人は高値になります 透析不足でも上

フォシーガ錠5mg_患者向医薬品ガイド

病気のはなし48_3版2刷.indd

血糖高いのは朝食後のため検査項目 下限値上限値 単位名称 9 月 3 日 9 月 6 日 9 月 15 日 9 月 18 日 9 月 21 日 9 月 24 日 9 月 28 日 10 月 1 日 10 月 3 日 10 月 5 日 10 月 9 日 10 月 12 日 10 月 15 日 10 月

わが国における糖尿病と合併症発症の病態と実態糖尿病では 高血糖状態が慢性的に継続するため 細小血管が障害され 腎臓 網膜 神経などの臓器に障害が起こります 糖尿病性の腎症 網膜症 神経障害の3つを 糖尿病の三大合併症といいます 糖尿病腎症は進行すると腎不全に至り 透析を余儀なくされますが 糖尿病腎症

グルコースは膵 β 細胞内に糖輸送担体を介して取り込まれて代謝され A T P が産生される その結果 A T P 感受性 K チャンネルの閉鎖 細胞膜の脱分極 電位依存性 Caチャンネルの開口 細胞内 Ca 2+ 濃度の上昇が起こり インスリンが分泌される これをインスリン分泌の惹起経路と呼ぶ イ

スライド 1

減量・コース投与期間短縮の基準

Microsoft Word - sa_niflec_ doc

 今年のスギやヒノキ花粉の飛散は、「少なく」または「非常に少なく」なりそうです

News Release 報道関係各位 2015 年 6 月 22 日 アストラゼネカ株式会社 40 代 ~70 代の経口薬のみで治療中の 2 型糖尿病患者さんと 2 型糖尿病治療に従事する医師の意識調査結果 経口薬のみで治療中の 2 型糖尿病患者さんは目標血糖値が達成できていなくても 6 割が治療

糖尿病

PowerPoint プレゼンテーション

2010 年 6 月 25 表 身体所見 134 cm 31 kg /60 mmhg 83/ ,

糖尿病治療 と 検査値

薬事58巻7月増刊

日本内科学会雑誌第105巻第4号

PowerPoint プレゼンテーション

複製 転載禁止 The Japan Diabetes Society, 2016 糖尿病診療ガイドライン 2016 CQ ステートメント 推奨グレード一覧 1. 糖尿病診断の指針 CQ なし 2. 糖尿病治療の目標と指針 CQ なし 3. 食事療法 CQ3-2 食事療法の実践にあたっての管理栄養士に

『糖尿病(H27年度1-1グループ)』

PowerPoint プレゼンテーション

もくじ糖尿病は 合併症を防ぐために治療する 1 高血糖の三大原因 スルホニル尿素薬 (SU 薬 ) 4 速効型インスリン分泌促進薬 5 - グルコシダーゼ阻害薬 ビグアナイド薬 (BG 薬 ) 7 チアゾリジン薬 9 DPP-4 阻害薬 10 SGLT2 阻害薬 11 糖尿病の治療薬で起こる 低血糖

B 糖尿病に関する指標 1 疾患の考え方1 平均血糖値を反映する指標 HbA1c(hemoglobin A1c, グリコヘモグロビン ): ヘモグロビン A0の安定型糖化産物である HbA1c の値は, 採血時から過去 1,2 ヵ月間の平均血糖値を反映し, 糖尿病の診断に用いられる (21 頁 :

(2) 健康成人の血漿中濃度 ( 反復経口投与 ) 9) 健康成人男子にスイニー 200mgを1 日 2 回 ( 朝夕食直前 ) 7 日間反復経口投与したとき 血漿中アナグリプチン濃度は投与 2 日目には定常状態に達した 投与 7 日目における C max 及びAUC 0-72hの累積係数はそれぞれ

遡及調査にて77日前の献血時のHBVウイルス血症が確認できた急性B型肝炎の一例

高脂血症の検査

2型糖尿病の成因と病態

PowerPoint プレゼンテーション

パネルディスカッション 2 Q 専門領域について選択してください 1. 消化器内科 2. 消化器外科 3. 放射線科 1% 4% 3% 21% 4. その他の医師 5. その他 ( 医師以外 ) 71%

Transcription:

糖尿病と急性合併症 吉岡佑紀

糖尿病とは インスリンが分泌されなくなる ( インスリン分泌障害 ) もしくはインスリンは分泌されるが効きにくくなる ( インスリン抵抗性亢進 ) などの原因によって細胞に糖が取り込めなくなり 高血糖状態になる疾患

血糖値の維持に関わる臓器 組織 インスリン分泌障害 摂食の際 血糖値上昇に反応し膵臓からインスリンが分泌される インスリンの作用により肝臓 筋肉 脂肪組織において糖が細胞内に取り込まれ血糖値が下がる インスリン抵抗性亢進

糖質 体を動かすエネルギー 飢餓状態 肝臓から糖を放出 枯渇すると筋肉 脂肪組織を分解して糖を作る ( 糖新生 ) 糖質ケトン体 筋肉からアミノ酸が 脂肪組織から遊離脂肪酸とグリセロールができ肝臓にて糖を合成 副産物でケトン体が産生

インスリン作用が高度に障害されると 糖はあるが筋肉 脂肪組織で取り込みができなくなる ( 飢餓状態のようになる ) 糖質ケトン体 筋肉 脂肪組織の分解が起こり糖質 ケトン体の産生が起こる 糖はあるが更なる血糖値の上昇 ケトン体の蓄積が起こる 意識障害の原因に!

糖尿病の成因 ( 機序 ) と病態 ( 病期 ) 1 型糖尿病その他の型 2 型糖尿病 ( 膵 β 細胞の破壊 絶対的インスリン欠乏 ( 相対的インスリン欠乏 ) ) A: 自己免疫性 ex 膵疾患 内分泌疾患 肝疾患等妊娠糖尿 B: 特発性病

A: 自己免疫性膵 β 細胞破壊に自己免疫機序が関わり自己抗体が証明できる B: 特発性自己抗体が陰性でインスリン依存状態に至る

IDDM と NIDDM IDDM( インスリン依存型糖尿病 ) 1 型糖尿病 NIDDM( インスリン非依存型糖尿病 ) 2 型糖尿病 C ペプチド (CPR) インスリン分泌の評価 空腹時血中 C ペプチド ( 血中 CPR) が 0.5ng/ml 以下 24 時間尿中 C ペプチドが 20μg/ 日以下 インスリン依存状態の目安

糖尿病の治療 インスリンが必要なとき 1 型糖尿病 糖尿病昏睡 ( 糖尿病ケトアシドーシス 高血糖高浸透圧症候群 ) 重度の肝障害 腎障害 重症感染症 中等症以上の外科手術 糖尿病合併妊娠 空腹時血糖値 250mg/dl 以上 随時血糖値 350mg/dl 以上などの高血糖状態や尿ケトン体陽性

経口血糖降下薬 1 スルホニル尿素 (SU) 薬 : インスリン分泌を刺激副作用 体重増加 低血糖 2 速攻型インスリン分泌促進薬 : インスリン分泌を刺激副作用 低血糖 3α グルコシダーゼ阻害薬 : 糖の吸収を遅らせる副作用 腹部膨満 下痢 4 ビグアナイド薬 : 肝臓での糖新生抑制副作用 乳酸アシドーシス 5 チアゾリジン薬 : インスリン抵抗性改善副作用 体液貯留 6DPP4 阻害薬 : インクレチン活性増加副作用 低血糖 (SU 薬との併用 ) 7SGLT2 阻害薬 : 尿糖排泄促進副作用 尿路感染 体液減少

シックデイ (Sick Day) 糖尿病患者が治療中に発熱 下痢 嘔吐等をきたし または食欲不振のため食事ができない状態 糖尿病性ケトアシドーシスや高血糖高浸透圧症候群の原因になりうる シックデイ時の医療機関受診の目安 1 急性症状 ( 発熱嘔吐等 ) が強く改善ないとき 2 食事摂取が困難なとき 3 脱水症状が強いとき 4 意識レベルの低下があるとき 5 高血糖 (ex>350mg/dl) のとき

糖尿病の急性合併症 糖尿病ケトアシドーシス 高血糖高浸透圧症候群 清涼飲料水ケトーシス ( ペットボトル症候群 ) 乳酸アシドーシス 低血糖

糖尿病ケトアシドーシス (DKA) インスリン作用欠乏 主に 1 型糖尿病 2 型糖尿病清涼飲料水多飲者 ブドウ糖をエネルギーとして利用できない 遊離脂肪酸を分解 ケトン体産生 ケトン体産生著明の結果 アシドーシス 高血糖による脱水とケトン体産生によるアシドーシスが本体

高血糖高浸透圧症候群 (HHS) 高齢等で元々脱水状態 主に 2 型糖尿病の高齢者 高血糖による脱水 ( 浸透圧利尿 ) 循環虚脱 脱水進行 著明な脱水が主体インスリン欠乏は DKA に対して相対的でアシドーシスになるほどケトン体産生は生じない

清涼飲料水ケトーシス ( ペットボトル症候群 ) 清涼飲料水多飲による高血糖 2 型糖尿病の肥満者 高血糖による口渇 更なる摂取 高血糖増悪 糖毒性によるインスリン作用低下 ケトアシドーシス ケトン体産生 ケトーシス 糖毒性によりインスリン作用が低下 ( インスリン分泌能低下 インスリン抵抗性増加 ) アシドーシスに至ることも

乳酸アシドーシス ビグアナイド薬を適切に使用する 禁忌症例 ( 腎機能障害 脱水 過度のアルコール多飲 シックデイ 心肺機能障害 肝機能障害 75 歳以上の高齢者 )

治療 糖尿病性ケトアシドーシス 高血糖高浸透圧症候群 検査項目 (1 時間毎 ) 血糖 K 他 初期 (0 4 時間 ) 4 8 時間その後 (2 時間毎 ) 血糖 K 他 ( 適時 ) 血糖 K 他 輸液速度 250 500ml/h 250ml/h 100 200ml/h インスリン 速攻型インスリン持続静注 持続静注継続 K 補充 5mEq/l 以下で補充 5mEq/l 以下で補充適時 HCO3 補充 Ph<7.0 以下で補充 経口摂取可能となれば皮下注射に変更 生理食塩水を中心とした輸液で水分とナトリウムを補充 K は適時補充アシドーシスの補正は原則として行わないインスリン少量持続投与 (0.1U/ 体重 kg/h)

低血糖 治療はブドウ糖補充 スルホニル尿素 (SU) 薬 持効型インスリンによる低血糖に注意 腎機能が低下していると遷延しやすく経過観察入院が better

症例 1 50 台男性 主訴不眠 現病歴 20XX/3 に産業医で 2 型糖尿病と診断 HbA1c9 台 内服治療を開始 8 月上旬頃より口渇感 水分摂取量増加 頻尿 不眠となり 8 月中旬に睡眠障害にて近医 8 月下旬に別の近医受診したが 睡眠薬処方されず 不眠にて来院 既往歴 2 型糖尿病高血圧前立腺肥大家族歴母 兄 : 糖尿病 ( 型は不明 ) 内服薬ジャヌビア (DPP4 阻害薬 ) ハルナールタムスロシンアレルギーなし

入院時身体初見 JCS 10 BT 35.5 BP 132/103mmHg HR 117bpm SpO2 97%(room air) デキスタ Hi 心音雑音なし呼吸音清ラ音なし 腹部腸雑音良好下腿浮腫なし 口唇の痺れあり四肢の痺れなし口渇感あり

入院時検査初見 血球 WBC 10930 /μl RBC 576 10 4 /μ l Hb 17.6 g/dl Ht 49.4 % PLT 16.6 10 4 /μ 凝固 l Ddimer 0.6 μg/ml 生化学 TP 8.3 g/dl BUN 25.8 mg/dl ALB 4.4 g/dl UA 8.1 mg/dl T-Bil 1.2 mg/dl Cre 1.21 mg/dl D-Bil 0.4 mg/dl Na 131 meq/l ALP 301 IU/L K 5.0 meq/l AST 33 IU/L Cl 88 meq/l ALT 37 IU/L CK 487 IU/L γ-gtp 134 IU/L S-AMY 35 IU/L CRP 0.47 mg/dl BS 995 mg/dl HbA1c 12.2 % 静脈血液ガス ph 7.511 HCO3 22.2 mmol/l BE 2.0 mmol/l 尿検査 尿糖 4+ 尿ケトン体 2+

治療経過 1200 328 1000 995 326 326 324 800 600 400 200 475 319 299 314 231 322 320 318 316 314 312 310 血糖 (mg/dl) 血漿浸透圧 (mosm/l) 0 0hour 3hour 6hour 10hour 308 インスリン持続静注 持続終了 経口摂取開始 インスリンスケール

入院後経過 Day1 高血糖高浸透圧症候群で入院持続インスリン開始 Day2 持続インスリン中止 食事開始 スケール併用 Day3 インスリン定期打ち Day7 ビグアナイド内服追加 Day11 ビグアナイド増量 Day16 DPP4 阻害 + ビグアナイド + インスリン定期打ちで退院

症例 2 30 台男性 主訴口渇感 現病歴 20XX/7 末頃より口渇感 頻尿を自覚 元来サイダー等清涼飲料水を好んで摂取していたが 口渇感のため 2L 程度のポカリスエット サイダーなどを飲んでいた 勤務中に嘔吐 倦怠感も出現し 8 月上旬紹介医を受診 血糖値 537mg/dl 検尿にてブドウ糖 3+ ケトン体陰性 高血糖是正目的 糖尿病治療目的に当院紹介 既往歴高血圧肥満症 (BMI:34) 虫垂炎 ope 家族歴祖父 : 糖尿病 ( 型は不明 ) 内服薬なしアレルギーなし生活歴喫煙 : なし飲酒 : なし職業 : 半導体製造業食習慣 : 清涼飲料水 1L/ 日

入院時身体所見 JCS 0 口渇感 (+) 口腔内乾燥 (+) 頻尿 ( ) 嘔気 嘔吐 ( ) 腹痛 ( ) 四肢の痺れ ( ) 皮膚潰瘍 ( ) 筋肉痛 筋力低下 ( )

血球 入院時検査所見 WBC 7560 /μl RBC 590 10 4 / μl Hb 17.6 g/dl Ht 47.7 % PLT 18.8 10 4 / μl 生化学 TP 7.8 g/dl Na 134 meq/l ALB 4.7 g/dl K 4.2 meq/l T-Bil 2.1 mg/dl Cl 97 meq/l AST 108 IU/L CK 1058 IU/L ALT 142 IU/L S-AMY 50 IU/L γ-gtp 79 IU/L BS 494 mg/dl CRP 0.34 mg/dl HbA1c 9.7 % BUN 11.9 mg/dl S-CPR 3.7 ng/ml UA 5.2 mg/dl S-OSM 306 mosm/l Cre 0.78 mg/dl 静脈血液ガス ph 7.439 HCO3 25.8 mmol/l BE 1.9 mmol/l 尿検査 尿糖 4+ 尿ケトン体 尿潜血

治療経過 1200 1000 800 600 400 血糖 (mg/dl) AST(IU/L) ALT(IU/L) CK(IU/L) 200 0 Day1 Day2 Day7 Day9 強化療法 持効型インスリン ビグアナイド内服

入院後経過 Day1 ペットボトル症候群で入院強化療法開始 Day7 ビグアナイド内服開始 Day8 強化療法中止 持効型インスリン開始 Day11 ビグアナイド + 持効型インスリンで退院

まとめ 糖尿病による急性合併症を予防するために 内服薬 (SU 薬やビグアナイド薬等 ) がその人の今の状態に合っているかどうかをチェック 食事とれないときの対応を説明 高血糖や低血糖で来たら 低血糖は意識改善しても経過観察 高血糖は脱水の程度や電解質も見て