糖尿病と急性合併症 吉岡佑紀
糖尿病とは インスリンが分泌されなくなる ( インスリン分泌障害 ) もしくはインスリンは分泌されるが効きにくくなる ( インスリン抵抗性亢進 ) などの原因によって細胞に糖が取り込めなくなり 高血糖状態になる疾患
血糖値の維持に関わる臓器 組織 インスリン分泌障害 摂食の際 血糖値上昇に反応し膵臓からインスリンが分泌される インスリンの作用により肝臓 筋肉 脂肪組織において糖が細胞内に取り込まれ血糖値が下がる インスリン抵抗性亢進
糖質 体を動かすエネルギー 飢餓状態 肝臓から糖を放出 枯渇すると筋肉 脂肪組織を分解して糖を作る ( 糖新生 ) 糖質ケトン体 筋肉からアミノ酸が 脂肪組織から遊離脂肪酸とグリセロールができ肝臓にて糖を合成 副産物でケトン体が産生
インスリン作用が高度に障害されると 糖はあるが筋肉 脂肪組織で取り込みができなくなる ( 飢餓状態のようになる ) 糖質ケトン体 筋肉 脂肪組織の分解が起こり糖質 ケトン体の産生が起こる 糖はあるが更なる血糖値の上昇 ケトン体の蓄積が起こる 意識障害の原因に!
糖尿病の成因 ( 機序 ) と病態 ( 病期 ) 1 型糖尿病その他の型 2 型糖尿病 ( 膵 β 細胞の破壊 絶対的インスリン欠乏 ( 相対的インスリン欠乏 ) ) A: 自己免疫性 ex 膵疾患 内分泌疾患 肝疾患等妊娠糖尿 B: 特発性病
A: 自己免疫性膵 β 細胞破壊に自己免疫機序が関わり自己抗体が証明できる B: 特発性自己抗体が陰性でインスリン依存状態に至る
IDDM と NIDDM IDDM( インスリン依存型糖尿病 ) 1 型糖尿病 NIDDM( インスリン非依存型糖尿病 ) 2 型糖尿病 C ペプチド (CPR) インスリン分泌の評価 空腹時血中 C ペプチド ( 血中 CPR) が 0.5ng/ml 以下 24 時間尿中 C ペプチドが 20μg/ 日以下 インスリン依存状態の目安
糖尿病の治療 インスリンが必要なとき 1 型糖尿病 糖尿病昏睡 ( 糖尿病ケトアシドーシス 高血糖高浸透圧症候群 ) 重度の肝障害 腎障害 重症感染症 中等症以上の外科手術 糖尿病合併妊娠 空腹時血糖値 250mg/dl 以上 随時血糖値 350mg/dl 以上などの高血糖状態や尿ケトン体陽性
経口血糖降下薬 1 スルホニル尿素 (SU) 薬 : インスリン分泌を刺激副作用 体重増加 低血糖 2 速攻型インスリン分泌促進薬 : インスリン分泌を刺激副作用 低血糖 3α グルコシダーゼ阻害薬 : 糖の吸収を遅らせる副作用 腹部膨満 下痢 4 ビグアナイド薬 : 肝臓での糖新生抑制副作用 乳酸アシドーシス 5 チアゾリジン薬 : インスリン抵抗性改善副作用 体液貯留 6DPP4 阻害薬 : インクレチン活性増加副作用 低血糖 (SU 薬との併用 ) 7SGLT2 阻害薬 : 尿糖排泄促進副作用 尿路感染 体液減少
シックデイ (Sick Day) 糖尿病患者が治療中に発熱 下痢 嘔吐等をきたし または食欲不振のため食事ができない状態 糖尿病性ケトアシドーシスや高血糖高浸透圧症候群の原因になりうる シックデイ時の医療機関受診の目安 1 急性症状 ( 発熱嘔吐等 ) が強く改善ないとき 2 食事摂取が困難なとき 3 脱水症状が強いとき 4 意識レベルの低下があるとき 5 高血糖 (ex>350mg/dl) のとき
糖尿病の急性合併症 糖尿病ケトアシドーシス 高血糖高浸透圧症候群 清涼飲料水ケトーシス ( ペットボトル症候群 ) 乳酸アシドーシス 低血糖
糖尿病ケトアシドーシス (DKA) インスリン作用欠乏 主に 1 型糖尿病 2 型糖尿病清涼飲料水多飲者 ブドウ糖をエネルギーとして利用できない 遊離脂肪酸を分解 ケトン体産生 ケトン体産生著明の結果 アシドーシス 高血糖による脱水とケトン体産生によるアシドーシスが本体
高血糖高浸透圧症候群 (HHS) 高齢等で元々脱水状態 主に 2 型糖尿病の高齢者 高血糖による脱水 ( 浸透圧利尿 ) 循環虚脱 脱水進行 著明な脱水が主体インスリン欠乏は DKA に対して相対的でアシドーシスになるほどケトン体産生は生じない
清涼飲料水ケトーシス ( ペットボトル症候群 ) 清涼飲料水多飲による高血糖 2 型糖尿病の肥満者 高血糖による口渇 更なる摂取 高血糖増悪 糖毒性によるインスリン作用低下 ケトアシドーシス ケトン体産生 ケトーシス 糖毒性によりインスリン作用が低下 ( インスリン分泌能低下 インスリン抵抗性増加 ) アシドーシスに至ることも
乳酸アシドーシス ビグアナイド薬を適切に使用する 禁忌症例 ( 腎機能障害 脱水 過度のアルコール多飲 シックデイ 心肺機能障害 肝機能障害 75 歳以上の高齢者 )
治療 糖尿病性ケトアシドーシス 高血糖高浸透圧症候群 検査項目 (1 時間毎 ) 血糖 K 他 初期 (0 4 時間 ) 4 8 時間その後 (2 時間毎 ) 血糖 K 他 ( 適時 ) 血糖 K 他 輸液速度 250 500ml/h 250ml/h 100 200ml/h インスリン 速攻型インスリン持続静注 持続静注継続 K 補充 5mEq/l 以下で補充 5mEq/l 以下で補充適時 HCO3 補充 Ph<7.0 以下で補充 経口摂取可能となれば皮下注射に変更 生理食塩水を中心とした輸液で水分とナトリウムを補充 K は適時補充アシドーシスの補正は原則として行わないインスリン少量持続投与 (0.1U/ 体重 kg/h)
低血糖 治療はブドウ糖補充 スルホニル尿素 (SU) 薬 持効型インスリンによる低血糖に注意 腎機能が低下していると遷延しやすく経過観察入院が better
症例 1 50 台男性 主訴不眠 現病歴 20XX/3 に産業医で 2 型糖尿病と診断 HbA1c9 台 内服治療を開始 8 月上旬頃より口渇感 水分摂取量増加 頻尿 不眠となり 8 月中旬に睡眠障害にて近医 8 月下旬に別の近医受診したが 睡眠薬処方されず 不眠にて来院 既往歴 2 型糖尿病高血圧前立腺肥大家族歴母 兄 : 糖尿病 ( 型は不明 ) 内服薬ジャヌビア (DPP4 阻害薬 ) ハルナールタムスロシンアレルギーなし
入院時身体初見 JCS 10 BT 35.5 BP 132/103mmHg HR 117bpm SpO2 97%(room air) デキスタ Hi 心音雑音なし呼吸音清ラ音なし 腹部腸雑音良好下腿浮腫なし 口唇の痺れあり四肢の痺れなし口渇感あり
入院時検査初見 血球 WBC 10930 /μl RBC 576 10 4 /μ l Hb 17.6 g/dl Ht 49.4 % PLT 16.6 10 4 /μ 凝固 l Ddimer 0.6 μg/ml 生化学 TP 8.3 g/dl BUN 25.8 mg/dl ALB 4.4 g/dl UA 8.1 mg/dl T-Bil 1.2 mg/dl Cre 1.21 mg/dl D-Bil 0.4 mg/dl Na 131 meq/l ALP 301 IU/L K 5.0 meq/l AST 33 IU/L Cl 88 meq/l ALT 37 IU/L CK 487 IU/L γ-gtp 134 IU/L S-AMY 35 IU/L CRP 0.47 mg/dl BS 995 mg/dl HbA1c 12.2 % 静脈血液ガス ph 7.511 HCO3 22.2 mmol/l BE 2.0 mmol/l 尿検査 尿糖 4+ 尿ケトン体 2+
治療経過 1200 328 1000 995 326 326 324 800 600 400 200 475 319 299 314 231 322 320 318 316 314 312 310 血糖 (mg/dl) 血漿浸透圧 (mosm/l) 0 0hour 3hour 6hour 10hour 308 インスリン持続静注 持続終了 経口摂取開始 インスリンスケール
入院後経過 Day1 高血糖高浸透圧症候群で入院持続インスリン開始 Day2 持続インスリン中止 食事開始 スケール併用 Day3 インスリン定期打ち Day7 ビグアナイド内服追加 Day11 ビグアナイド増量 Day16 DPP4 阻害 + ビグアナイド + インスリン定期打ちで退院
症例 2 30 台男性 主訴口渇感 現病歴 20XX/7 末頃より口渇感 頻尿を自覚 元来サイダー等清涼飲料水を好んで摂取していたが 口渇感のため 2L 程度のポカリスエット サイダーなどを飲んでいた 勤務中に嘔吐 倦怠感も出現し 8 月上旬紹介医を受診 血糖値 537mg/dl 検尿にてブドウ糖 3+ ケトン体陰性 高血糖是正目的 糖尿病治療目的に当院紹介 既往歴高血圧肥満症 (BMI:34) 虫垂炎 ope 家族歴祖父 : 糖尿病 ( 型は不明 ) 内服薬なしアレルギーなし生活歴喫煙 : なし飲酒 : なし職業 : 半導体製造業食習慣 : 清涼飲料水 1L/ 日
入院時身体所見 JCS 0 口渇感 (+) 口腔内乾燥 (+) 頻尿 ( ) 嘔気 嘔吐 ( ) 腹痛 ( ) 四肢の痺れ ( ) 皮膚潰瘍 ( ) 筋肉痛 筋力低下 ( )
血球 入院時検査所見 WBC 7560 /μl RBC 590 10 4 / μl Hb 17.6 g/dl Ht 47.7 % PLT 18.8 10 4 / μl 生化学 TP 7.8 g/dl Na 134 meq/l ALB 4.7 g/dl K 4.2 meq/l T-Bil 2.1 mg/dl Cl 97 meq/l AST 108 IU/L CK 1058 IU/L ALT 142 IU/L S-AMY 50 IU/L γ-gtp 79 IU/L BS 494 mg/dl CRP 0.34 mg/dl HbA1c 9.7 % BUN 11.9 mg/dl S-CPR 3.7 ng/ml UA 5.2 mg/dl S-OSM 306 mosm/l Cre 0.78 mg/dl 静脈血液ガス ph 7.439 HCO3 25.8 mmol/l BE 1.9 mmol/l 尿検査 尿糖 4+ 尿ケトン体 尿潜血
治療経過 1200 1000 800 600 400 血糖 (mg/dl) AST(IU/L) ALT(IU/L) CK(IU/L) 200 0 Day1 Day2 Day7 Day9 強化療法 持効型インスリン ビグアナイド内服
入院後経過 Day1 ペットボトル症候群で入院強化療法開始 Day7 ビグアナイド内服開始 Day8 強化療法中止 持効型インスリン開始 Day11 ビグアナイド + 持効型インスリンで退院
まとめ 糖尿病による急性合併症を予防するために 内服薬 (SU 薬やビグアナイド薬等 ) がその人の今の状態に合っているかどうかをチェック 食事とれないときの対応を説明 高血糖や低血糖で来たら 低血糖は意識改善しても経過観察 高血糖は脱水の程度や電解質も見て