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取引ネットワークの経済分析 はじめに 北海道大学経済学研究科菊地真 本稿は グラフ理論に基礎を有するネットワーク分析によって 経済現象を考察することの有効性を提起するものである そこでは 今日の経済学の主流派である新古典派経済学の枠組みでは十分に分析できない各種経済主体が形成する複雑な相互関係がネッ

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ている 本研究はQ 学習のような特定の行動決定手法を想定していない点と 以下に述べるとおり より実社会に近い社会状況での行動選択をモデルに取り入れている点が異なっている 通常 合理性をもつ行動主体が 1 回限りの囚人のジレンマ問題で選択する行動は非協力となり 協力行動が引き出される余地はない これは

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経済学概論資料 5(2) 改訂版 吉川卓也 6.3 寡占 1. 寡占と複占 寡占とは ある産業で財 サービスを供給する企業の数が少数しかなく それぞれの企業が価格支配力をある程度もっており 他の企業の行動によって影響される状態をいう 寡占のなかで 企業数が2の場合を複占という たとえば 日本ではビール産業は事実上 4 社の寡占である 外国では多数の企業が生産をおこなっている 2 他方で 日本酒の市場は多くのメーカーが競合している 同じ酒類の産業でこのように市場が異なるのは ビールの生産に対する規制の影響が大きい 表 6 完全競争と寡占 完全競争 寡占 複占 企業数 無数 少数 2 社 価格支配力 なし あり あり 余剰 消費者 企業とも最大 消費者余剰を犠牲にして 企業の利潤が増加 消費者余剰を犠牲にして 企業の利潤が増加 3 4 2. 同質財と差別財 寡占市場では 同質財と差別財が取引される 同質財とは 複数の企業の生産する財が需要者にとって同じ財であり どの企業が生産したかは無関係な財のことである 差別財とは 個々の企業の生産する財が たとえ機能的にほとんど同じ財であっても 需要者にとって異なる財であり どの企業が生産したかが意味をもつ財のことである 5 寡占市場では 資本財 ( 機械など ) や中間財 ( 部品など ) のように企業に販売される財には 同質財が多くある 逆に消費者に販売される財には 差別財が多い 6 1

同質財の場合は 競争相手企業の価格設定が自分の企業の価格設定に影響する 他の企業より高い価格を設定すると その財を市場で販売できなくなるからである 他方 差別財の場合は 他の企業の価格設定の影響は小さく ある程度自由に 自分の企業の価格を設定できる 他の企業より多少高い価格を設定しても その財を市場でまったく販売できなくなるわけではない 7 3. 屈折需要曲線の理論 寡占市場での企業は 完全競争市場や独占市場での企業と違い 他の企業の行動が問題になる 企業間の相互依存関係が 寡占市場での価格形成 生産水準に影響を与える 寡占市場における差別財の価格硬直性を説明するのが 屈折需要曲線という概念である ( 図 6.8) 寡占企業の直面する需要曲線 DADは A 点で屈折している 8 限界収入 MR 価格 p D P A O 図 6.8 屈折需要曲線 A H D( 需要曲線 ) G F y A 生産量 y この企業は 現在 A 点 ( 生産量 y A 価格 P A ) で操業しているとする この企業が価格を引き上げると 需要が大きく落ち込むため A 点より左方 ( 現行価格 P A より高い価格 ) では需要曲線の傾きは水平に近くなる ( 需要が価格に対して弾力的 ) この企業が価格を引き下げると 価格競争力がなくなるのを恐れて他の企業も価格を引き下げてくるので 需要はあまり増えないため A 点より右方 ( 現行価格 P A より低い価格 ) では需要曲線の傾きはかなり急になる ( 需要が価格に対して非弾力的 ) 9 10 このように価格を引き上げると需要が大きく減り 価格を引き下げると需要があまり増えない状況では この寡占企業の価格設定は硬直的になる 3.1. 企業の利潤極大化行動 寡占企業は 屈折需要曲線 DAD に直面している 利潤極大化条件は 限界収入 MR= 屈折需要曲線 DAD に対応する限界収入曲線は DH および GF となる したがって 限界費用曲線 MC が HG 上で限界収入曲線と交わっている限り 外生的ショックなどで限界費用曲線がシフトしても 利潤が極大となる生産量 ya と価格 PA は変化しない ( 価格が硬直的である ) 11 12 2

限界収入 MR 価格 p D P A 図 6.9 価格の硬直性 A H D( 需要曲線 ) G F 4. カルテル 寡占市場では 寡占企業間で協力が可能である 生産量や価格について合意形成できれば 独占企業と同様の独占利潤を寡占企業全体として獲得できる それを企業間で分配すれば 協力しないで生産や価格決定をおこなうより 各企業の利潤は大きくなる O y A 生産量 y 13 14 したがって 寡占企業はカルテルを結んで 協調して価格を上昇させたり 生産量を抑制させたりする動機がある とくに 同質財を生産している場合は 価格競争を避けるためにカルテルを形成する誘因が大きい しかし カルテルは参加企業に強制力を持たせて維持するのが困難なものである 他の企業がカルテルを維持するなら カルテルを破棄して生産を拡大した方が その企業にとって利潤が増えるからである その理由は以下の通り 15 16 カルテルは生産を抑制することなので 企業にとっては限界収入 > 限界費用の状態にある ( 限界収入 = 限界費用までは生産を拡大すれば利潤が増える ) その状態で1 企業だけが価格を引き下げて生産を拡大すれば 大きな利潤が得られる ただし ほかのすべての企業が生産を拡大すれば カルテルを維持するより個々の企業が得る利潤は少なくなる 5. 囚人のジレンマ カルテル行為の問題は 囚人のジレンマというゲーム理論の問題として考えることができる 囚人のジレンマというゲームは以下の通り 共犯として捕まった 2 人の囚人には 取り調べに対して 自白する 自白しない という 2 つの戦略がある 1 自分が自白しないと相手の囚人の利益になる 2 互いに自白しないと 2 人とも利益を受ける 3 しかし 自分だけ自白して 相手が自白せず罪をかぶせると 自分だけ大きな利益を得る 17 18 3

このとき 自分の利益が大きくなるのは 自分だけが自白して相手が自白しない 場合である 2 人が合理的に行動すると 2 人とも自白することになり 2 人とも損をするという結果になる 表 6.6A 囚人のジレンマのゲーム 自白しない 囚人 2 の戦略 囚人 1の 囚人 2の 囚人 1の 利得 利得 利得 自白する 囚人 2 の利得囚人1 の戦略自白しない 10 10 0 20 自白する 20 0 5 5 19 20 業1 の戦略協力 ( 生産抑制 ) 非協力 ( 生産拡大 ) 表 6.6 カルテルのゲーム企業 2の戦略 協力 ( 生産抑制 ) 企業 1の 企業 2の 企業 1の 利潤 利潤 利潤 非協力 ( 生産拡大 ) 企業 2 の利潤企10 10 0 20 20 1 5 5 21 カルテル ゲームの企業の戦略は 2 つの企業が協力して 生産量を抑制し 価格を上昇させるカルテルを結ぶ か 協力しないで 自らの生産量を拡大して 自分の利益のみを確保する かである 企業 1, 企業 2 の利潤 ( ペイオフ ) は 以下の通りとする 1 カルテルを結べば 両社とも 10 の利潤を得る 2 自分だけカルテルを抜ければ 自分だけ 20 の利潤を得る 3 両者ともカルテルを抜ければ 両者ともカルテルを結ぶときより少ない 5 の利潤しか得られない 22 このとき 企業 1, 企業 2の利潤は 表 6.6のようになる その結果 両者ともカルテルを抜けてしまい カルテルは成立しない 6. 長期的な運命共同体 無限の将来まで考慮すると カルテルは長期的に維持される ルールは 前回相手が非協力的でなければ 自分も協力する ( 相手がカルテルを維持するなら 自分も維持する ) 前回相手が非協力的であれば 今回以降永遠に自分も非協力を選択する ( 相手がカルテルを抜けるなら 自分も抜ける )( トリガー戦略 ) 23 24 4

利潤については 以下のように考える 1 今回カルテルから抜けるとその回だけ 20 の利潤がある 2 しかし来期以降は 利潤は 5 に減少する 3 カルテルを維持していると 10 の利潤が続く このゲームでは 企業の利潤は表 6.7 のようになる 表 6.7 長期的なゲーム 1 2 3 4 5 非協力 20 5 5 5 5 協力 10 10 10 10 10 25 26 2 つの戦略 ( カルテルを維持する カルテルから抜ける ) の利潤を比較すると 現在の利潤より将来の利潤を重視する限り カルテルを抜けない戦略からの利潤の方が大きくなる このような長期的なゲームが当てはまるのは 寡占市場での企業数が固定されていて 同じ企業間で長期的にカルテル行為が可能な運命共同体のような状況がある市場である それに対し 他の産業から企業が参入したり 退出したりしている市場では 長期的なカルテルの損得を考えることが困難となり カルテル行為は形成されにくい 7. ゲーム理論の紹介 : 繰り返しゲームとフォーク定理 ここで紹介したゲームでは 各プレイヤーが選択できる戦略 その結果としての利得 ( ペイオフ ) を前提とし ゲームの構造 ( 選択可能な戦略やペイオフ ) や 各プレイヤーが合理的に行動することを全員が知っていると仮定している 無限回繰り返しゲーム ( ここでは長期的なゲーム ) では 利得の割引現在価値合計の割引率が高くなければ 協力するという回が得られる 27 28 前回相手が協力すれば今回自分も協力するが 前回相手が非協力であれば今回以降永遠に非協力を選択する というトリガー戦略と呼ばれる戦略をとるなら 最適戦略 ( プレイヤーがとるべき行動 ) は お互いトリガー戦略をとり 結果として永遠に協力し続けることが最適戦略 ( 行動 ) となる 割引率が小さいほど 現在より将来の利得を重視するので 協力解がナッシュ均衡と呼ばれる均衡解になる可能性が高くなる フォーク定理とは 無限回繰り返しゲームでは 囚人のディレンマゲームの非協力解以上の利得を ナッシュ均衡解として実現できるという命題のことである 29 30 5