がんの痛みのコントロール 痛みを和らげ 日常生活を過ごしやすくするために 平成 26 年 2 月 12 13 日 松江赤十字病院 がん性疼痛看護認定看護師引野律子
本日の目標 1 がん性疼痛の分類を理解することができる 2 がん性疼痛の分類に応じたアセスメント方法を知ることができる 3 がん性疼痛で使用する薬剤の種類を理解することができる
痛みとは 痛みの定義 実際に何らかの組織障害が起こった時 あるいは組織障害が起こりそうなとき あるいはそのような損傷の際に表現されるような 不快な感覚体験および情動体験 つまり 痛みは主観的な症状!! そして 心理 社会的 スピリチュアルな要素の修飾を受けるものです 国際疼痛学会より引用
全人的な痛み 身体面 痛み以外の症状治療の副作用不眠 慢性疲労感 心理面 診断の遅れへの怒り効果のない治療への怒り容姿の変化痛みの恐怖 死の恐怖絶望感 全人的な痛み (Total Pain) 社会面 家族と家計についての悩み職場上の信望と収入の喪失疎外感 孤独感 スピリチュアル ( 霊的 ) 面 なぜ私に起ったのかなぜ神はこんなに苦しめるのかいったい何のためなのだこれでも生きる意味があるのかこれまでの過ちがゆるされるのか
がん性疼痛の分類 1. がんの原因による分類 2. 時間による分類 3. 病態による分類
がんの原因による分類 1. がん自体が原因となる痛み 2. がんに関連した痛み 3. がん治療に関連した痛み 4. がんに関連のない痛み
1. がん自体が原因となる痛み がんの原因による分類 1 がんの痛みの約 70% はがん自体が周囲の組織に広がって起こる その 50% はかなり強い痛み 2. がんに関連した痛み がんが間接的な原因となる痛み 廃用症候群 褥瘡 便秘
3. がん治療に関連した痛み がんの原因による分類 2 がんの治療によって起こる痛み 手術によってできた瘢痕や神経損傷 放射線治療の副作用 化学療法の副作用 4. がんに関係のない痛み もともとの持病である頭痛や関節痛などが併発して起こる
時間による分類 1. 急性疼痛 2. 慢性疼痛
時間による分類 2 1. 急性疼痛 身体の傷害に続いて起こり 傷害の治癒に伴い消失する 生理学的反応 行動学的反応が出現する 2. 慢性疼痛 3~6 か月以上続く痛み 生理学的 行動学的反応が乏しくなる
病態による分類 がん性疼痛は 以下のように分類される 分類することで 効果的な薬剤選択をすることができる がん性疼痛 侵害受容性疼痛 神経障害性疼痛 内臓痛 体性痛
病態による分類 1 侵害受容性疼痛 切創 炎症 機械的刺激などの侵害刺激によって生じる疼痛 体性痛 骨 皮膚 粘膜に生じる疼痛 痛みの部位が限局している うずく痛み 差し込む痛みが持続する 代表例は骨転移の痛み 内臓痛 内臓に生じる疼痛 痛みの部位が明確でない 締め付けられる痛み 鈍い痛みと表現される 代表例は肝臓がんや膵がんの痛み
病態による分類 2 神経障害性疼痛 末梢神経や中枢神経の損傷 障害によっておこる 灼熱痛 電撃痛 刺すような痛みなどと表現される痛みが神経の支配領域に一致して表在性に放散する
薬剤の作用部位 アセトアミノフェン NSAIDS 鎮痛補助薬 オピオイド鎮痛薬
症例 1 A さん : 左乳がん 入院時に腫瘍が 20 cm弱で深い潰瘍があった 精査で 両肺転移あり 骨転移なし 入院後からトラマール (25 mg )4 錠 / 日が開始となったが効果なく デュロテップ MT パッチ (2.1 mg ) へオピオイドローテーション レスキューはロキソニンとオプソ (5 mg ) だが 痛みが継続するためデュロテップ MT パッチ (4.2 mg ) へ増量となった A さん 水薬 ( オプソ ) は 全く効かない シールも量が増えたけど 効果が無いわ 看護師 痛みは どんな痛みですか? A さん 左背中から横腹にかけて じんじんとしたうずく痛みがあるの 看護師 痛みは いつもありますか? A さん いつも痛いよ でも 痛みどめ ( ロキソニン ) 飲むと良くなるから あればっかり飲むのよ
背中の痛みがあるけど 骨転移は無かったから 骨に関連した痛みではないわね オピオイドの効果は無いけど NSAIDs で痛みが取れている 痛みが限局しているし 皮膚の炎症もあるから左乳がんによる皮膚転移から生じる体性痛かしら NSAIDs が効果があり その中でも効果持続時間の長いセレコックス (100 mg ) を提案 最終的には セレコックスを使用し疼痛コントロールが可能となりオピオイドは中止となった
痛みのアセスメントまとめ 痛みの観察ポイント 1. 痛みの部位 2. 痛みの強さ 程度 3. 痛みの性質 4. 痛みの1 日の変化 ( 出現パターン ) 5. 検査所見 6. 痛みの緩和 増悪因子 7. 日常生活への影響 8. 今まで使用した鎮痛薬の効果 9. 痛み 薬に対する思いや考え 10. 患者の希望 11. 心理 社会 スピリチュアルな側面
鎮痛薬 ~ 薬剤の種類 効果と副作用について ~
痛みの治療方法 痛み止めの薬 神経ブロック 痛み 鍼 ( はり ) レーザー療法物理療法 心身医学的アプローチ 外科的治療 放射線療法
WHO が推奨するがん性疼痛治療の目標 目標 1 目標 2 目標 3 痛みで眠りを邪魔されない 安静にしていれば痛まない 体を動かしても痛みが強くならない
WHO が推奨するがん性疼痛治療の三段階除痛ラダー
薬剤の剤系 投与法 飲み薬 点滴 持続皮下注射 坐薬 貼り薬 硬膜外 くも膜下への注入
薬剤の体内動態 経口 肝臓で分解 胃 腸 坐薬 血液中 注射静脈内投与皮下投与 貼付剤
モルヒネ製剤 MSコンチン錠 世界初の除放剤 1 日 2 回の服用 効果持続時間 8~14 時間 最大効果発現時間 2~4 時間 効果発現時間内服後 約 70 分レスキュードーズの使用には適さない 10 mg 30 mg 60 mg
オプソ 初めての1 回使い切り型分包品 効果持続時間 3~5 時間 最大効果発現時間 30 分 ~1 時間 効果発現時間内服後 約 10 分液体なので服用時に水が不要モルヒネ独特の苦みが矯正されており飲みやすい 5 mg 10 mg
アンペック 効果持続時間 6~10 時間 最大効果発現時間 1~2 時間 効果発現時間 投与後 約 20 分 経口困難時に使用可能 10 20 30 mg 肛門周囲膿瘍になる危険性が高いため重度の血小板減少 白血球減少時には使用しない 人工肛門造設患者の場合 人工肛門からの投与は 生体内利用率にバラつきがあるため 長期使用は推奨されていない ( 静脈叢が乏しく吸収が悪く不安定 薬剤が便と混じりやすく 排泄の調節も困難である )
モルヒネの特徴 鎮痛効果に有効限界がない 剤系が多いので様々な投与経路に対応できる 腎機能が低下していると活性代謝物の蓄積によって傾眠 鎮静などの副作用が起りやすい
オキシコドン オキシコンチン錠 効果持続時間 8~14 時間 最大効果発現時間 2~4 時間 効果発現時間 内服後 約 1 時間 定期鎮痛薬の切れ目の痛みが出現しやすい WHO 第二段階薬として使用可能 (10 mg /day の低用量 ) 5 10 20 40 mg
オキシコンチン錠の抜け殻 ( ゴーストピル ) 人工肛門や糞便中に錠剤の抜け殻が検出される 薬剤の成分は吸収されており 効果に影響はない 排泄されたからと自己判断で薬剤を追加服用しないこと 下痢の人は血中濃度が低下しやすく効果が少し低くなる
オキノーム 最大効果発現時間 1~2 時間 効果持続時間 3~6 時間 効果発現時間内服後 約 15 分ほのかな甘み服用時に水などが必要 2.5 5 10 mg オキシコドンの特徴 腎機能障害でも使用しやすい 鎮痛効果に有効限界が無い モルヒネの効きにくい神経障害性疼痛 骨転移に対する有効性が基礎実験の成績から示唆されている
フェンタニル デュロテップMTパッチ 3 日に1 回の投与 最大効果発現時間 17~48 時間 効果持続時間 約 72 時間 効果発現時間 初回貼付時 1~2 時間 フェンタニル注射液 効果発現時間 ただちに 効果持続時間 1~2 時間
デュロテップ MT パッチ 2.1 mg 4.2 mg 8.4 mg 12.6 mg 16.8 mg 3 日に 1 回交換 フェントステープ 1 mg 2 mg 4 mg 6 mg 1 日に 1 回交換
フェントス貼付剤の特徴 便秘や呼吸抑制 嘔気 嘔吐の副作用が少ない 経口不能の患者にも投与可能 吸収の個人差が大きく 至適投与量のバラつきが大きい 不慮の過量投与による副作用の発現のリスクが高い 効果発現と消失に時間がかかり細かい投与量の調整ができない 鎮痛効果に有効限界がある 脂溶性が高いので 皮膚吸収型製剤に適している
投与方法の留意点 貼る場所に毛がはえている場合 毛を切る ( うぶ毛程度であればそのまま貼っても大丈夫 ) 粘着力が弱くなったり 吸収が変わるため 粘着面には触れないよう注意 袋から取り出す時 パッチに傷が付くためハサミやカッターを使用しない 開封してしばらくすると効果が弱くなる可能性があるため 速やかに使用する 流水で手をよく洗うですが 石鹸やオイルを使用するとフェンタニルの成分が余分に吸収され 過剰投与になり副作用が出現する可能性があるため石鹸やオイルの使用は避けましょう
投与方法の留意点 貼付をする時には 30 秒以上 しっかり押さえる 40 度以上の発熱がある時は医師へ相談する 電気毛布 カイロ 日光浴 サウナ 湯たんぽ こたつ等の電源に接しないようにすること 入浴の際 熱いお湯に長時間入ることは避ける 高体温により 貼付剤の皮膚吸収率が変わってくるため注意が必要です発汗でテープが剥がれることもあります
デュロテップパッチを貼るのに適した場所は 胸 腹 上腕 太ももそれ以外の場所には貼らないようにしましょう デュロテップパッチは全身に効くタイプの貼り薬ですので 痛い場所に直接貼っても効果が強くなるわけではありません
お薬を貼ってよい場所 悪い場所 貼るのに適した場所 胸 腹 上腕 太もも 貼ってはいけない場所 傷やおでき 発疹のある場所直射日光の当たる場所 パーミロールの使用 貼付剤の上にパーミロールを使用することで 皮膚体温の上昇から皮膚吸収が進み高濃度の投与量になってしまう恐れがあります 製薬会社への質問では お勧めできないとの返答でした しかし 皮膚の乾燥状況や理解力 認知力によりパーミロールの使用の検討をしてください
薬剤の分類 モルヒネオキシコドンフェンタニル 徐放性製剤 MSコンチン オキシコンチン フェンタニル MTパッチ フェントス 速放性製剤オプソ オキノーム オプソ オキノーム 即効性製剤は どの製剤でも使用可能
レスキュー使用の原則 用量設定の原則内服 坐薬によるレスキュー :1 日量の 1/6 アンペックはカットして使用することも出来る持続注射オピオイドのレスキュー : 1 日量の 1/24 量 (1 時間量 ) 投与経路 定期投与されているオピオイドの速効性製剤を使用し経口投与 MSコンチン ( ) オキシコンチン ( ) 投与間隔と使用回数ベースを増量するためのデータになる連続してレスキューを使用する場合は 病態の変化を疑う
例 オキシコンチン 30 mg / 日 ( ) アンペック坐薬 60 mg / 日 ( ) モルヒネ塩酸 6ml(60 mg )+ 生食 6ml= 計 12ml を 0.5ml/ 時で持続皮下注 ( )
定期投与薬とレスキュー薬の分類 徐放性製剤 速放性製剤 ROO 製剤 レスキュー薬 SAO 製剤 イーフェンアブストラルアクレフ 定時投与薬 LOA 製剤 オキシコンチン錠 MS コンチン錠デュロテップ MT パッチフェントステープ オプソ内服薬オキノーム散オキファスト 即効性製剤
痛みのケア 痛みを増強させる因子 不眠疲労倦怠感不快不安恐怖怒り悲嘆抑うつ孤独感絶望感社会的地位 収入の喪失家族間での役割喪失存在意義の喪失 痛みを減弱させる因子 痛み以外の症状の緩和睡眠安心気分高揚精神的集中緊張感の緩和人とのふれあい他人からの理解ゆるし存在意義の発見鎮痛薬抗不安 抗うつ薬心理療法物理的療法補完 代替療法 痛みのために ~ できない ではなく 閾値を上げてく関わりが必要
引用 参考文献 塩野義製薬 がんの痛みは我慢しない www.shionogi.co.jp/itami/ がん化学療法ケアガイド (2012,2,23 改訂版 ): 濱口恵子 中山書店 日本緩和医療学会 緩和医療ガイドライン作成委員会編集 : がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン 金原出版株式会社 2010 小山富美子 山下めぐみ他編集 : 今日からできる疼痛ケア 南江堂 2010 坂井建雄 河原克雅編集 : カラー図鑑人体の正常構造と機能 全 10 巻縮刷版 日本医事新報社 2012 林章敏 中村めぐみ他編集 : がん性疼痛ケア完全ガイド 照林社 2 010 的場元弘 : がん疼痛治療のレシピ 春秋社 2007