浮力と圧力 もくじ 浮力以前 2 ビニル袋の水の重さは なくなった のか 3 浮力の導入 4 圧力とは 4 液体による圧力 5 浮力はなぜ生じるのか 6 アルキメデスの原理 8 浮力とそれ以外の力のつりあい 9 問題 10 答え 13 1
浮力以前 ばねを水にひたしても, 水の重さがばねにかかることはない ( 図 1) 水の入ったビニル袋がばねの近くにただよっていても, ばねに影響はない ( 図 2) では, そのビニル袋をばねに結びつけると, 袋の水の重さがばねにかかるだろうか ( 図 3) 容器の水が静止しているならば, ビニル袋の水は, ばねがあってもなくても, いまある位置から上がることも下がることもない だから, ばねに重さはかからない ところが, ビニル袋を結びつけたまま, ばねを容器の水から取りだすと, ばねに, 袋のなかの水の重さがかかる ( 図 4) 図 1 図 2 図 3 図 4 図 4 のとき, ばねにはたらく力が 100 g であり, 図 3 では 0 g であるとする 図 4 から図 3 のように, 袋を容器の水に入れると, ばねにはたらく力は,100 g から 0 g に減る ( 図 5) そのことをどのように 理解するかが, 浮力という考えかたの出発点である 図 5 2
ビニル袋の水の重さは なくなった のか 図 3 でばねにはたらく力が 0 g であるとき, ビニル袋の水の重さは なくなった のだろうか それは, なにを 重さ と考えるかによる もし, ばねを持っている手にかかる力を 重さ と考えるならば, たしかに図 3 でビニル袋の水の 重さ はなくなっていると言える ところが, ニュートンが考案した重力という考えかたによれば, 地球の近くにある物体は, すべて地球の中心方向に重力を受けている 地球の重力は, 地面に接していない物体にもはたらく 鳥にも飛行機にも月にも, 重力ははたらく ならば, 水中の物体にも重力がはたらくのではないだろうか 地球が物体に及ぼす重力のことを 重さ と考えるならば, 図 3 で, ビニル袋の水の 重さ はなくなっていないかもしれない 対立する意見のどちらが正しいかを決めるとき, 理科では実験に頼る 図 5 の容器を台はかりに載せる ビニル袋が容器の外にあるとき, 台はかりが, かりに 800 g を示しているとする すると, ビニル袋を容器の水に入れたとき, 台はかりは 900 g を示すことが, 実験で確かめられる ( 図 6) 台はかりの目もりが 100 g だけ増加する原因は, ビニル袋の水である 図 6 たしかに図 3 では, ばねを持つ手にはたらく力が 0 g になる しかし, 台はかりにはたらく力を含 めて考えると, ビニル袋の水の重さはなくなっていないことが, この実験結果から分かる 3
浮力の導入 いまの段階で, 私たちは, 一見矛盾するような 2 つの事実に直面している 1. ビニル袋が容器の水に入っているとき, ばねにはたらく力の大きさは 0 g である 2. 水中にあるビニル袋の水の 重さ は, なくなっていない これらの事実は人間の手で変えようがないから, それが矛盾だと思うならば, そう思う人間の考えかたを改良する必要がある そこで, 図 7 のように考える 水中にあるビニル袋の水には, 容器の外にあるときと同じように,100 g の重力 (= 重さ ) がはたらいている つまり, 重さ はなくなっていない 一方, 容器の水が, ビニル袋を 100 g の力で上向きに押している それら 2 つの力がつりあっているので, ばねにはたらく力の大きさは 0 g である 図 7 このように考えるとき, 容器の水がビニル袋を上向きに押す力を, 浮力と いう では, この 浮力 という考えかたは, 矛盾を弁解するためのつじつまあわせにすぎないのか, そ れとも 浮力 は現実の力なのか それを検討するには, 圧力について学ぶ必要がある 圧力とは 圧力とは, 面積 1 cm 2 あたりに, 面に垂直にはたらく力をいう たとえば, 重さ 180 g の直方体があるとする 底面のたての長さが 5 cm, よこが 4 cm で, 高さが 3 cm であるとする ( 図 8) この直方体の重さによって床にはたらく圧力 (= 面積 1 cm 2 あたりにはたらく力 ) の大きさは, 図 8 である 180 ( 5 4 ) = 9 g 固体による圧力が問われた場合, 圧力とは 面積 1 cm 2 あたり にはたらく力 であることを知っていれば, 十分である 4
液体による圧力 圧力は, 液体の重さによっても生じる たとえば,1 辺 10 cm の正方形を底面とする容器に, 深さ 8 cm の水が入っているとする ( 図 9) この水の体積は, 10 10 8 = 800 cm 3 である 800 cm 3 の水の重さは 800 g であり, それが容器の底面にかかる重さである だから, 底面にはたらく圧力 (= 面積 1 cm 2 あ 図 9 たりにはたらく力 ) の大きさは, 800 ( 10 10 ) = 8 g である 液体による圧力は, 底面以外の箇所にもはたらく たとえば, 水面からの深さが 3 cm の箇所にかかる圧力は, 次のように求められる ( 図 10) 水面からの深さが 3 cm の箇所には,3 cm 分の水の重さがかか 図 10 っている 容器の底面が 1 辺 10 cm の正方形であるとすると, 深 さ 3 cm 分の水の体積は, 10 10 3 = 300 cm 3 である 300 cm 3 の水の重さは 300 g だから, 深さ 3 cm での圧力 (= 面積 1 cm 2 あたりにはたらく力 ) の大きさは, 300 ( 10 10 ) = 3 g である 水による圧力の大きさは, 容器の底面積に関係なく, 水面から 図 11 の深さのみで決まる 容器の水を水面から 1 cm 3 ごとの立方体に 区切る ( 図 11) すると, 深さ 3 cm の面 1 枚には, かならず 3 g の 水の重さがかかっているし, 深さ 5 cm の面 1 枚には, かならず 5 g の水の重さがかかっている 圧力 (= 面積 1 cm 2 あたりにはたらく力 ) とは, この場合,1 辺 1 cm の正方形にかかる力であるから, 深さ 3 cm で圧力は 3 g であり, 深さ 5 cm で圧力は 5 g である 5
浮力はなぜ生じるのか 以下では, 圧力の考えかたを用いて浮力が生じる原因を確かめる 内容が 難しければ, この部分は読みとばして, アルキメデスの原理に進んでも, さし つかえない 図 12 固体の圧力は, 下向きにだけはたらく ( 図 12) 一方, 液体の圧 力は, 下向きだけでなく横向きにもはたらく もし容器に図 13 の ようなでっぱりがあれば, 液体の圧力は, 場所によって上向きに もはたらく 液体の圧力は, 容器の面にたいして, かならず垂直 図 13 にはたらく 容器の水のなかに物体があれば, 水の圧力は, その物体にも はたらく その場合も, 水の圧力は, 物体の面にたいして垂直に はたらく ( 図 14) つまり, 水の圧力は, 物体の側面にたいして水 平方向にはたらき, 物体の下の面には上向きにはたらく 底面が 1 辺 4 cm の正方形で, 高さが 2 cm の直方体を, 糸で 吊って容器の水に入れるとする ( 図 15) 直方体の上の面が水深 図 14 3 cm のところに来るようにすると, 下の面は水深 5 cm のところに 来る ( 図 16) 図 11 で見たように, 水による圧力の大きさは, 水面からの深さ によって決まる 直方体の上の面は, 水深 3 cm にあるから,3 g の圧力 (= 面積 1 cm 2 あたりにはたらく力 ) がかかる だから, 上の面の 図 15 面積 16 cm 2 全体にはたらく力の大きさは, 3 ( 4 4 ) = 48 g である この力は, 下向きにはたらく 同じように, 直方体の下の面は水深 5 cm にあるから,5 g の圧力 (= 面積 1 cm 2 あたりにはたらく力 ) がかかる 下の面 16 cm 2 にはたらく力の大きさは, 5 ( 4 4 ) = 80 g である この力は, 上向きにはたらく 図 16 6
水中の直方体には, 左右からも圧力がかかる しかし, 深さが同じところでは圧力が等しいので, 直方体が水から左右方向に受ける力は, つりあっている 手前, 奥から受ける力も, 同じように, つりあっている 直方体が上下方向に受ける力は, つりあっていない ( 図 17) 上 図 17 下の面にはたらく力を差しひきすると, 80-48 = 32 g つまり, 直方体は水から 32 g の力を上向きに受けている これが, 浮力である 浮力は, 物体の上面と下面とにはたらく圧力の差によって生じる力である 直方体の場合, 上面全体が水から下向きに受ける力の大きさは, [ 上面の深さ ] [ 底面積 ] であり, 下面全体が上向きに受ける力の大きさは, [ 下面の深さ ] [ 底面積 ] である この 2 つを差しひきしたものが浮力だから, [ 浮力 ] = [ 下面の深さ ] [ 底面積 ] - [ 上面の水深さ ] [ 底面積 ] = ( [ 下面の深さ ] - [ 上面の深さ ] ) [ 底面積 ] = [ 立体の高さ ] [ 底面積 ] 下面と上面との深さの差は, 立体の高さである と表される = [ 立体の体積 ] つまり, 水中にある物体が受ける浮力の値 (g) は, その物体の体積 (cm 3 ) の値と一致する * * このことは, 容器の液体が水であるときにだけ成りたつ 水 1 cm 3 の重さが 1 g だからである 食塩水やアルコールか ら物体が受ける浮力の大きさは,[ 液体 1 cm 3 の重さ ] [ 立体の体積 ] である 7
アルキメデスの原理 たとえば, 体積 32 cm 3 の金属を糸で吊って容器の水に入れると, 容器の底にかかる力は 32 g だけ増加する ( 図 18) このことは, 圧力の変化によって説明できる 底辺が 1 辺 10 cm の正方形である容器に, 深さ 8 cm の水が入っているとする 水による圧力の大きさは, 水深で決まるから, 容器の底の圧力 (= 面積 1 cm 2 あたりにはたらく力 ) は,8 g である その水に 32 cm 3 の金属を入れると, 水面が上昇する ( 図 19) 図 18 図 19 水面の上昇する高さは, [ 物体の体積 ] [ 容器の底面積 ] = 32 100 = 0.32 cm である 水面が 0.32 cm だけ上昇することによって, 容器の底にかかる圧力 (= 面積 1 cm 2 あたりにはたらく力 ) は,0.32 g だけ増加する 容器の底面 100 cm 2 全体では, 0.32 [ 容器の底面積 ] = 0.32 100 = 32 g だけ力が増す この 32 g という値が, 金属が水から受ける浮力の大きさに一致する アルキメデスの原理は, 液体中の物体が受ける浮力の大きさは, その物体がおしのけた液体の重さに等しい というものである 上の例では, 容器の水に金属を入れると, 水の体積が見かけ上 32 cm 3 増加した その 32 cm 3 の水が, 物体がおしのけた液体 であり, その重さは 32 g である だから, 金属が水から受ける浮力の大きさは 32 g であると言ってよい, というのがアルキメデスの原理の述べている内容である 8
浮力とそれ以外の力とのつりあい 水中の物体には, 浮力以外の力もはたらく 水中の物体にはたらく力は, 重力 ( 重さ ): 地球が物体を下向きに引く力 物体が空気中にあっても水中にあっても, 重 力の大きさは同じである 浮力 : 水が物体を上向きに押す力 それ以外の力 : 物体に接触しているものがあれば, それによる力 である ニュートンの考案した力の理論によれば, 静止している物体に 2 つ以上の力がはたらいているとき, それらの力はつりあっている 力の理論は, 重力や浮力など異なる原因で生じるはたらきを単純にたしたりひいたりできるという点で, 優れている たとえば, 体積 32 cm 3, 重さ 100 g の金属が, 水中で糸に吊られているとする ( 図 20) この金属には, 次の力がはたらく 重力 : 水中でも 100 g の重力がはたらいている 浮力 : 体積が 32 cm 3 だから,32 g の浮力がはたらく それ以外の力 : 金属を吊っている糸の力がはたらく 静止している物体にはたらく力はつりあっているから, 図 20 [ 糸の力 ] = 100-32 = 68 g である 物体が, ばねや糸などに支えられずに水面で浮いている場合, 物体に はたらく力は, 重力と浮力との 2 つだけである たとえば, 重さ 100 g の木 材が水面に浮かんでいるとする ( 図 21) この木材にはたらく力は, 次の 図 21 とおりである 重力 : 水中でも 100 g の重力がはたらいている 浮力 静止している物体にはたらく力はつりあっているから, である [ 浮力 ] = 100 g 9
問題以下の [ ] にあてはまる数を答えなさい また,{ } に選択肢がある場合は, 正しい選 択肢を選んで番号で答えなさい 1. 1 辺 5 cm の立方体の形をした木材を水に入れると, 木材が水に浮かんで静止した そのとき, 立方体の高さ 5 cm のうち 4 cm が水面下にあり,1 cm が水面より上に出ていた 水深 4 cm の底面には,1 cm 2 あたり [ ア ] g の水圧が, { イ 1 上向き,2 下向き,3 あらゆる向き } にはたらく 立方体の底面積は [ ウ ] cm 2 であるから, 底面全体にはたらく力の大きさは, [ ア ] [ ウ ] = [ エ ] g である これが, 木材にはたらく浮力の大きさである 水面に浮かんでいる木材には, 浮力のほかに重力がはたらいている その 2 つの力はつりあっているから, 木材にはたらく重力は [ オ ] g である その木材を水から出して, 空気中で重さをはかると, その重さは { カ 1 [ オ ] g より重い, 2 [ オ ] g である,3 [ オ ] g より軽い } 10
2. 底面が 1 辺 2 cm の正方形で, 高さが 5 cm の直方体の形をした金属を, ばねで吊る 空気中でその重さをはかると,160 g であった 金属をビーカーの水に入れたとき, 水中の金属にはたらく重力は [ ア ] g である 金属の体積は,[ イ ] cm 3 であるから, 水中の金属にはたらく浮力は [ ウ ] g である 静止している物体にはたらく力はつりあっているから, 水中の金属をばねが引く力は [ エ ] g である また, 金属を入れる前の, 水を入れたビーカーの重さ, を台はかりではかると, 600 g であった すると, 金属を入れたとき, 台はかりは [ オ ] g を示す 3. 体積の分からない物体をばねで吊り, 空気中でその重さをはかると 80 g であった その物体を水に入れると, ばねが物体を引く力が 50 g になった 水中にある物体にはたらく重力は,[ ア ] g である ばねが水中の物体を引く力が 50 g であり, 静止している物体にはたらく力はつりあっている だから, 水中にあるこの物体にはたらく浮力は,[ イ ] g である したがって, この物体の体積は [ ウ ] cm 3 であると分かる 11
4. 水の重さによって圧力が生じるのと同じように, 空気の重さによっても圧力が生じる 地表付近での空気の重さは,1 リットルあたり 1.3 g である つまり,1 辺 10 cm の立方体に囲まれる空気の重さが 1.3 g である 空気は, 地表から上空 100 km まで存在している それは,1 辺 10 cm の立方体を積みあげたとすると,100 万個分の高さである もし地表から上空 100 km まで空気の重さがずっと 1 リットルあたり 1.3 g であるならば, 立方体 100 万個分の空気の重さは, 1.3 g 1000000 =1300000 g =1300 kg である しかし実際には, 上空に行くほど空気は薄くなる 1 辺 10 cm のからっぽの立方体を地表から 100 万個積みあげたとして, それらに含まれる空気の重さを合計すると, その重さは現実には 103 kg である つまり, 地面に 1 辺 10 cm の正方形を描いたとすると, その正方形に 103 kg の空気の重さがかかっている だから,1 cm 2 あたりにかかる空気の重さは, 103 kg [ ア ] =[ イ ] kg である これが, 大気圧の大きさである 水による圧力と同じように, 大気圧も, 物体の面にたいして { ウ 1 上向きに,2 下向きに, 3 垂直に } はたらく 天気予報などでは, 大気圧の大きさはヘクトパスカルという単位で表される 12
1. ア 4 イ 1 ウ 25 エ 100 オ 100 カ 2 2. ア 160 イ 20 ウ 20 エ 140 オ 620 3. ア 80 イ 30 ウ 30 4. ア 100 イ 1.03 ウ 3 13