無機化学 0 年 月 ~0 年 8 月 第 5 回 5 月 5 日振動運動 : 調和振動子 担当教員 : 福井大学大学院工学研究科生物応用化学専攻准教授前田史郎 E-mail:smaeda@u-fukui.ac.jp URL:http://acbio.acbio.u-fukui.ac.jp/phchem/maeda/kougi 教科書 : アトキンス物理化学 ( 第 8 版 ) 東京化学同人主に8 9 章を解説するとともに0 章 章 章を概要する 5 月 8 日根拠 9 箱の中の粒子のエネルギーの導出 88 ド ブローイの関係式と波動関数の境界条件から, 箱の中の粒子のエネルギーを求めよ. [ 解法 ] 箱にちょうどあてはまるには, 距離 Lが半波長のn 倍でなければならない. L n λ n,,... L λ n,,... n L 波長 λ と運動量 p の間にはド ブローイの関係式が成り立つ. h nh p したがって, 許されるエネルギーは λ L E p n h n h n m L m 8 ml
授業内容 回元素と周期表 量子力学の起源 回波と粒子の二重性 シュレディンガー方程式 3 回波動関数のボルンの解釈 不確定性原理 回並進運動 : 箱の中の粒子 トンネル現象 5 回振動運動 : 調和振動子 回転運動 : 球面調和関数 6 回角運動量とスピン 水素原子の構造と原子スペクトル 7 回多電子原子の構造 典型元素と遷移元素 8 回原子価結合法と分子軌道法 9 回種々の化学結合 : イオン結合 共有結合 水素結合など 0 回分子の対称性 回結晶構造 回非金属元素の化学 3 回典型元素の化学 回遷移元素の化学 5 回遷移金属錯体の構造 電子構造 分光特性 3 先週のチェックリスト 33 自由な粒子の波動関数は Ψ Ae E k h m である. であって 長さ L の一次元の箱の中の粒子の波動関数とエネルギーは それぞれ Ψ L / nπx L ikx 点エネルギー つまり許される最低のエネルギーはである である ゼロ 3 対応原理とは 量子力学で大きな量子数に到達すると古典力学が現れてくるということである ikx + Be n h 8mL ( x) sin, n,, L, En n h E 8mL 7 トンネル現象とは古典的には禁じられた領域に侵入したり 通り抜けたりすることである
9 章 量子論 : 手法と応用 では 分子全体の運動エネルギー 並進 と, 分子の内部エネルギーである 振動 および 回転 を量子力学的に取り扱うことによって 波動関数とそのエネルギーを導く この過程で自然に量子化が現れてくる これらの波動関数は, 水素原子の波動関数に現れる. 5 回転運動と水素原子の電子の運動 EX 半径 r ポテンシャルエネルギー 動径部分 R n,l (r) 波動関数 ψ(r,θ,φ) 角度部分 Y l,m (θ,φ ) Θ (θ) Φ (φ) 平面 ( 円 ) 上の 次元回転運動 一定 ゼロ 球面上の 3 次元回転運動水素原子の電子の運動 一定変数 ゼロクーロン引力 Ze V πε r 0 ρ ρ l ( ) L n n,le n P l m l ( ) cosθ e ±im lφ L n, l P l m l ( ) cosθ : ラゲール多項式 : ルジャンドル多項式 n,,3l l 0,,, L, n m l l, l +, L, l, l 6
本日のチェックリスト 33 8 調和運動とは 変位に比例する復元力 F-kxの存在のもとでの運動である ここで kは力の定数である その結果 V(/)kx となる 9 量子力学的な調和振動子の波動関数とエネルギーは それぞれ (9 8) 式と (9 5) 式に与えられている Ψ ( x) N H ( ) e x h, α α mk (9 8) k E + hω, ω, 0,,,3... m (9 5) 7 本日のポイント () [] 振動運動許されるエネルギー準位は k E +, hω ω, 0,,,3... m 300 である 隣り合う準位の間隔は E hω E+ となり すべての に対して同じである の許される最小値は 0 であるから 調和振動子は零点エネルギー E 0 hω を持つ 3 0 振動エネルギー準位間隔は hω であり, 一定である 最低エネルギーは (/) hω であり, ゼロ点エネルギーがある h ω 振動エネルギー準位 赤外吸収 8
本日のポイント () [] 三次元の回転運動エネルギー準位と多重度 h E l l +, l 0,,, I 多重度 g l l + ( ) L l の与えられた値に対して,m l の許される値が l + 個ある すなわち, 各エネルギー準位の多重度は l + である 回転エネルギー準位間隔は,B(+) であり, + の遷移で 0 のとき B, のとき B, のとき 6B である. エネルギー 8B 6B B B 6 5 3 0 回転エネルギー準位 68 回転エネルギー準位間隔は,B(+) であり, 一定ではない 吸収線の間隔は B であり, 一定間隔である. 3 最低エネルギーはゼロであり, ゼロ点エネルギーはない 9 振動運動 粒子が, その変位に比例する復元力, F kx を受けると, 調和振動 (harmonic motion) を行う. バネを x だ け伸ばすと, 伸ばした長さに比例してバネが縮まろうとする力が働く.kは力の定数である. 300 調和振動子 0
300 力 Fはポテンシャルエネルギー Vと, 次の関係がある. dv F dx したがって, 調和運動の力 F はポテンシャルエネルギー V, に相当する. V kx シュレディンガー方程式は次のように書ける h m d Ψ dx + kx Ψ EΨ (9 ) 80 図 3.7 調和振動子の放物線ポテンシャルエネルギー V / kx. ここで, x は平衡位置からの変位である 曲線の狭さは力の定数 k に依存している k が大きいと, 同じ変位を起こさせるのに大きな力を加えなければならない ( 堅いバネ )
9 エネルギー準位 9 5 波動関数 300-30 調和振動子のシュレディンガー方程式は 良く知られた微分方程式であり その解は Ψ ( x) N H ( ) e ここで x h, α α mk H () はエルミート (Hermite) 多項式と呼ばれている 3 0 3 表 9 エルミート多項式 H () 8 3 6 H 8 + 30 例えば H 0 () であるから 調和振動子の基底状態 ( 0)( 最低エネルギー状態 ) の波動関数は次式 Ψ 0 ( x) N 0 e N 0 e x α
エルミート多項式 H () は式 () および漸化式 () を満足する H H '' H ' + H + H H 0 () () 30 また, 次の積分を与える H ' H e 0 π d! ' ' のとき のとき 5 303 例題 9 3 調和振動子の波動関数の規格化 規格化されていない波動関数は Ψ H ( ) e である コメント 9 に与えられている積分から, - ( ) e d απ! * * Ψ Ψ dx α Ψ Ψ d α H となる ただし,!(-)(-) である したがって, である N ( απ! ) 6
300 許されるエネルギー準位は k E +, hω ω, 0,,,3... m である 隣り合う準位の間隔は E hω E+ となり すべての に対して同じである の許される最小値は 0 であるから 調和振動子は零点エネルギー E 0 hω を持つ 3 0 振動エネルギー準位間隔は hω であり, 一定である 最低エネルギーは (/) hω であり, ゼロ点エネルギーがある h ω 振動エネルギー準位 赤外吸収 7 二原子分子の調和振動子モデル 300 モデル : 分子 ばねでつながった原子 r: 核間距離 r e : 平衡核間距離 x: 変位 (xr-r e ) k f : ばね定数 ポテンシャルエネルギー V ( x) k f x 古典運動方程式 d x μ dt k f x μ: 換算質量 (m,m : 原子, の質量 ) μ mm m + m 8
振動数 ν π k f μ 300 エネルギー準位 E + hν, 0,,,3... 3 0 h ω 赤外吸収 振動エネルギー準位 9 EX ばね定数が大きいほど, 堅いばねである. 三重結合を持つ N の k f は大きい. 一方, 塩素分子の単結合は k f が小さく柔らかい結合である. 0
数値例 9 3 分子振動の吸収振動数の計算 代表的な X-H 型の化学結合の力の定数は 500Nm - くらいである プロトンの質量はほぼ.7 0-7 kg であるから ( 電子の質量は無視できる ) 30 ω k m 500 kgms m 5. 0 s 7.7 0 kg となり, 隣接準位間の間隔 ΔEは 3 ΔE hω.05 0 s 5. 0 5.7 0 0 5.7 0.60 0-9 0 ev モルあたりにすると, - 0.36eV s ΔE hω 5.7 0 0 6.0 0 3 mol 3kmol 結合の振動を一つの準位から直ぐ上の準位に励起するには, 振動数 ν が ΔE h したがって, 波長 λ が 0 5.7 0 3 8.6 0 s 3 6.63 0 8 c 3.0 0 ms 6 λ 3.5 0 m 3.5μm 3 ν 8.6 0 s s 30 の電磁波が必要となる だから, 分子の隣接振動エネルギー準位間の遷移は赤外線で刺激され, あるいは赤外線を放出することになる 赤外線あるいは遠赤外線は, ヒトの目には感じられないが物質の振動エネルギー準位を励起させるので, 暖かく感じる
電磁波スペクトル EX 電磁波は, 波長の短い, 宇宙線,γ 線から, 波長の長いマイ クロ波, ラジオ波まで広く分布している. 可視領域の電磁波を光 という. 3 同じ分子でも 赤外吸収スペクトルは環境により変化を受ける EX 気体 OH 伸縮振動 CH 3 CH OH CH 伸縮振動 OH 伸縮振動多分子間水素結合 液体中 (0% in CCl) CH 3 CH OH CH 伸縮振動
特性吸収帯の重ね合わせで表現できる安息香酸 5 EX エタノール CO 伸縮 アセトン 3 0 選択律振動遷移が赤外線を吸収して遷移できるかどうか 80 赤外不活性 O O 双極子モーメントを持たない O δ C δ+ O δ 赤外活性 3cm - O C O C O δ δ+ δ 振動する電場ベクトル 赤外線 δ+ C O δ δ+ δ 双極子モーメントがある基準振動により変化すればその基準振動は赤外活性 O C O 赤外活性 667cm - 6
電気双極子モーメント µ と分極率 α EX δ- δ+ μ dδ d 電気双極子モーメントが振動によって変化する δ- d + Δd δ+ μ d δ + Δdδ 赤外活性 ( 対称伸縮振動 ) 振動によってラマン活性 : 分極率 αが変化する. 赤外不活性 : 双極子モーメント µ はない. ( 逆対称伸縮振動 ) 振動によってラマン不活性 : 分極率 αは変化しない. 赤外活性 : 双極子モーメント µ が変化する. 赤外不活性ラマン活性 赤外活性ラマン不活性 7 選択律の違い 赤外吸収とラマン散乱の使い分け 87 自由度 3x3-3 -3 3 自由度 3x3-3 - 8
CO の IR スペクトル 逆対称伸縮振動 対称伸縮振動 ( 赤外不活性 ) 変角振動 EX 波数 /cm - 変角振動 ( 上と同じだが見る方向が 90 異なる ) 9 二原子分子の剛体回転子モデル ( 詳細については 3 章分子分光学 参照 ) 68 モデル : 分子 棒でつながった原子 m,m : 原子, の質量 二原子分子の慣性モーメント I μr 古典回転エネルギーと角運動量 E Iω + x x + Iω I ( Iω ) + ( Iω ) x x 直線分子 二次元回転子 30
三次元の回転運動 68 6 エネルギー準位と多重度 h E l l +, l 0,,, I 多重度 g l l + ( ) L l の与えられた値に対して,m l の許される値が l + 個ある すなわち, 各エネルギー準位の多重度は l + である 回転エネルギー準位間隔は,B(+) であり, + の遷移で 0 のとき B, のとき B, のとき 6B である. エネルギー 8B 6B B B 5 3 0 回転エネルギー準位 回転エネルギー準位間隔は,B(+) であり, 一定ではない 吸収線の間隔は B であり, 一定間隔である. 3 最低エネルギーはゼロであり, ゼロ点エネルギーはない 3 85 分子の振動と回転は同時に起こるので, 二原子分子では振動回転スペクトルが観測される 二原子分子の振動回転エネルギー準位 CO の振動回転スペクトル 3
剛体回転子の問題は, 分子の回転スペクトルから, 原子の質量や結合長を決定するときに応用できる 回転スペクトルでは, 量子数 を用いるのが普通である 69 E ΔE ΔE Δ Δ ( + ) + h I E E ( E) ΔE ( ~ ) B Δ Δν, 0,,, L E + E ΔE hc B hc B + ( + ) hc B 回転スペクトルの吸収線は等間隔 (B) である 回転定数 B h hcb I h B πci 33 7 図 3 9 直線回転子の回転エネルギー準位と, 選択律 ±によって許される遷移, および代表的な純回転スペクトル. B エネルギー準位が高くなるに連れて, 占拠数は指数関数的に減少するはずだが途中まで強度が増大している. 回転準位の場合は各準位の多重度は + である. 高いエネルギー準位ほど多重度が増すので, 収容できる粒子の数は増えるので, 吸収強度はどこかで極大になり, その後は単調に減少する. 3
8 図 3 3 HCl の高分解能振動回転スペクトル. H 35 Cl と H 37 Cl の両方が寄与するので ( 天然存在比は 3: である ), 吸収線は対になって現れる. 35 本日のチェックリスト 33 8 調和運動とは 変位に比例する復元力 F-kxの存在のもとでの運動である ここで kは力の定数である その結果 V(/)kx となる 9 量子力学的な調和振動子の波動関数とエネルギーは それぞれ (9 8) 式と (9 5) 式に与えられている Ψ ( x) N H ( ) e x h, α α mk (9 8) k E + hω, ω, 0,,,3... m (9 5) 36
5 月 5 日, 学生番号, 氏名 () 量子力学的な調和振動子の振動運動のエネルギーを示し エネルギー準位間隔, 吸収線の間隔, 最低エネルギーなどの特徴を説明せよ () 三次元の回転運動のエネルギー準位と多重度を示し エネルギー準位間隔, 吸収線の間隔, 最低エネルギーなどの特徴を説明せよ (3) 本日の授業についての意見, 感想, 苦情, 改善提案などを書いてください. 37