不確かさ評価について ( 独 ) 産業技術総合研究所計測標準研究部門 物性統計科応用統計研究室 田中秀幸

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不確かさ評価について ( 独 ) 産業技術総合研究所計測標準研究部門 物性統計科応用統計研究室 田中秀幸

不確かさとは何か? 計測標準フォーラム 計量標準等トレーサビリティ導入に関する調査研究 WG2 制作 :( 独 ) 産業技術総合研究所計測標準研究部門物性統計科応用統計研究室田中秀幸

なぜ今 不確かさ評価なのか? 測定結果測定値は通じる ヤード ポンド 尺 貫では値はどのくらいなど信用できるのか? SI 単位導入 測定結果に一貫性 世界中のどこでも通じる 結果の質についての指標 不確かさ

結果の質の表現方法統一による利点 測定結果の比較の容易さ 製品の検査 国際比較 測定結果の信頼性の証明 校正証明書 トレーサビリティ制度 ワンストップテスティング

測定の信頼性の確保 製品の性能を保証するためには 検査の測定の信頼性確保測定の信頼性確保が必要 測定の信頼性確保のためには 計測における精度管理が重要 計測における精度管理の指標の一つとして用いられるのが不確かさ.

測定の信頼性の確保 製造装置 フィードバック制御 測定装置 製品を製作 測定 測定にばらつきが存在すると, 製品にもばらつきが表れる.

トレーサビリティ 質量では 日本国キログラム原器 比較 ( 校正 ) 標準供給 社内標準等の分銅 どれくらいうまく比較できているのか? 比較 ( 校正 ) 普段測定で用いているはかり

トレーサビリティとは トレーサビリティ 不確かさがすべて表記された 切れ目のない比較の連鎖を通じて 通常は国家計量標準又は国際計量標準である通常は国家計量標準又は国際計量標準決められた標準に関連づけられ得る測定結果又は標準の値の性質 トレーサビリティを確保するためには不確かさが必要!

国際度量衡委員会 CIPM BIPM 計測の信頼性の共通的尺度が必要 (1977 年 ) 不確かさの歴史 承認 (1981 年 ) 再確認 (1986 年 ) 勧告 INC-1 作成国際度量衡局 (1980 年 ) 国際的な計量に関する 8 機関 IUPAP OIML ISO 国際純粋応用物理連合 BIPM TAG4 国際法定計量機関 国際電気 GUM 1993, 1995 IEC 標準会議 VIM 1993 IFCC 国際臨床化学連合 国際試験所認定協力機構 ILAC IUPAC 国際純粋応用化学連合

GUM Guide to the Expression of Uncertainty in Measurement 計測における不確かさの表現のガイド日本規格協会

GUM のメンテナンス GUM はしばらく改訂しないことが決定. ただし,GUM を補足するための文書を作成. GUMのISO Guide 化 ISO Guide98シリーズ 98-1 イントロダクション 98-2 GUMの統計的根拠について 98-3 GUM 本体 + 補足文書 3 つ 98-4 適合性評価について 98-5 最小二乗法について

VIM International Vocabulary of Basic and General Terms in Metrology JIS Z 8103-2000 計測用語は VIM に矛盾しない形で整合 計測における不確かさの表現のガイド 内の付録 Ⅱ に和訳が収録

VIM のメンテナンス VIM 現在用いられている VIM 第 2 版の改訂作業が終了.2007 年末に第 3 版が発行. 主な変更点誤差評価を元にしたEA( エラー アプローチ ) から不確かさ評価を元にしたUA( アンサートンティ アプローチ ) への転換 日本の対応 VIM 第 3 版をJIS 化するための作業を開始.

不確かさとは 不確かさ 合理的に測定量に結びつけられ得る値のばらつきを特徴づけるパラメータ. これは測定結果に付記される. 簡単に言うと 不確かさ ばらつきを特徴づけるパラメータ 不確かさは, 測定のばらつきを表す!

ばらつきとは 同じ測定を繰り返した場合であっても 必ずしも同じ測定結果が得られ続けるとは限らない 9.86min 砂時計の時間 999min 9.99min 994min 9.94min 9.98min 10.04min04min 10.02min02min 9.78min

ばらつきとは 体温計で体温を測ったら, と表示された. これは, 体温が37.15 から37.25 の間にあることを示している. よって,37.15 から 37.25 の間で体温よって,37.15 から 37.25 の間で体温がばらついている, と考える.

不確かさの求め方 測定のばらつきの要因を特定する 特定した個々のばらつきの要因によってどのくらい測定値がばらつくのかを求める. 求められた個々のばらつきを合成して全体的なばらつきを求める. この測定値の全体的なばらつきが不確かさとなる.

不確かさ評価の概要 計測標準フォーラム 計量標準等トレーサビリティ導入に関する調査研究 WG2 制作 :( 独 ) 産業技術総合研究所計測標準研究部門物性統計科応用統計研究室田中秀幸

誤差と不確かさの違い (1) 誤差 真の値は分かるんだ, という前提 不確かさ 私たちが知ることができる知識には限界がある, という前提 母平均 試料平均 真の値

誤差と不確かさの違い (2) 私たちが知ることができる値は真の値ではなく, 真の値に最も近いであろうと思われる値の推定値であるある. さらにその推定した値の周りに測定値はばらついている. ばらつきの要因は? ばらつきの大きさは? 個々のばらつきの大きさを調べ, そのばらつきが全部合わさった時のばらつきを求める.

不確かさ評価の流れ 不確かさ要因 (1) (2) (3) (4) (5) etc. 実験 成績書 個々のばらつきを求める 個々のばらつきを合成し全体的なばらつきを求める.

本セミナーの目標バジェットシート 記号 不確かさ要因 値 + 確率分布 除数 標準不確かさ 感度係数 標準不確かさ ( 測定量の単 位 ) u c ( ) U 合成標準不確かさ 拡張不確かさ 正規分布 正規分布 (k=2) 本セミナーの目標 このバジェットシートの意味を理解し, 値を代入し, バジェットシート上で計算を行って, 最終的な不確かさを算出する!!

不確かさ要因 測定器測定測定対象測定環境 不確かさ 主なものすべてについて評価する 測定器とその校正方法必要はない! 標準器 最終結果に与える影響が 測定のための装置 大きなものを 測定方法 手順 ピックアップすることが重要! データ処理方法 必要なところに必要な精度で 測定対象の安定性 再現性 時間 手間 コストを 測定環境 最小にするよう努力!

不確かさ要因 記号 不確かさ要 値 確率分布 除数 標準不確かさ 感度係数 標準不確かさ 因 + ( 測定量の単 位 ) u c ( ) U 合成標準不確かさ 拡張不確かさ 正規分布正規分布 (k=2) ここに記入

不確かさ評価の分類 不確かさ評価とは 個々の要因によって起こるばらつきを求め, それを合成することで全体のばらつきを求める. A タイプの評価 実験からデータを得てばらつきを求めるタを得. Bタイプの評価 実験以外の方法でばらつきを推定する. 注意 :AA タイプ,BB タイプはあくまでも実験データからばらつきタからばらつきを求めるか否かということを表す. ある要因がAタイプかBタイプか重要ではない.

A タイプの不確かさ評価 Aタイプの評価 実験からデータを得てタを得て, ばらつきを求める. つまり, 測定値 統計的手法 を用いてばらつきを算出する方法. 10.0202 10.10 10.21 10.11 10.21 統計的手法 ばらつき Aタイプとして評価された 不確かさ となる.

B タイプの不確かさ評価 (1) なぜ B タイプの不確かさ評価が必要なのか 標準器の校正の不確かさ 使っている標準器の校正の不確かさ評価まで行わなくてはいけない? 再現することが難しい不確かさ要因 実験室の温度が変化することによってばらつきがでるとするならるとするならば,1 年間実験室の温度を測りつづけなければいけない? そもそも測定できない不確かさ 使っている温度計は ±0.5 でしか温度が分からないのだけど, その計れなかった ±0.5 の間の温度のばらつきの評価は?

B タイプの不確かさ評価 (2) 確率分布を仮定するには合理的な判断材料が必要. 実際に実験を行わないので, コスト, 時間, 人手の節約に大きく貢献する.

ばらつきの大きさの算出 記号 不確かさ要 値 確率分布 除数 標準不確かさ 感度係数 標準不確かさ 因 + ( 測定量の単 位 ) u c ( ) 合成標準不正規分布確かさ U 拡張不確か 正規分布 さ (k=2) A タイプ,B タイプの評価法で算出された値等をここに記入, 計算

不確かさの合成 個々の不確かさの大きさが Aタイプの評価, Bタイプの評価によって求められる. 求められた個々のばらつきを合成する. その測定の全体的なばらつきが算出できる.

最終的な不確かさの算出 記号 不確かさ要 値 確率分布 除数 標準不確かさ 感度係数 標準不確かさ 因 + ( 測定量の単 位 ) u c ( ) U 合成標準不確かさ 拡張不確かさ 正規分布 正規分布 (k=2) ここの欄を用いて最終的に報告する不確かさを算出する

例 ある居酒屋で出される生ビール大ジョッキにはここまで入れるというラインが付いている. そのラインまでの量をメスシリンダーで 10 回測定しその平均値をその居酒屋で出される大ジョッキの体積とする. また, 測定時の温度は 5 で行う. この例を用いて, 不確かさの算出について考える.

不確かさ要因 記号 不確かさ要 値 確率分布 除数 標準不確かさ 感度係数 標準不確かさ 因 + ( 測定量の単 位 ) u R u s u T u c ( ) 測定の繰返し性 標準器の校正の不確かさ 温度による効果 合成標準不確かさ 正規分布 U 拡張不確かさ 正規分布 (k=2)

A タイプの不確かさ評価 計測標準フォーラム 計量標準等トレーサビリティ導入に関する調査研究 WG2 制作 :( 独 ) 産業技術総合研究所計測標準研究部門物性統計科応用統計研究室田中秀幸

目的 記号 不確かさ要 値 確率分布 除数 標準不確かさ 感度係数 標準不確かさ 因 + ( 測定量の単 位 ) u c ( ) 合成標準不確かさ 正規分布 U 拡張不確か 正規分布 さ (k=2) A タイプによる評価法でこの欄に入れる値の算出法を学習する.

A タイプの不確かさ評価とは 実験によって測定データを得て, そのデータからばらつきを求める. 不確かさ評価では, ばらつきは 実験標準偏差 によって表される. 実験標準偏差とは 平均値に対してどのくらいばらついているかを表す指標. 正確な言い方ではないがばらつきの平均を表していると考えておけばよい. ここで実験標準偏差を算出しただけでは A タイプここで実験標準偏差を算出しただけでは A タイプの不確かさを算出したことにはならない.

標準偏差の算出法 関数電卓の機能, 表計算ソフトの機能を使えばよい. 注意 : 標準偏差には意味合いの違う 2 種のものがある. 対象 : 母集団 対象 : 標本 関数電卓 1 σ s x x 関数電卓 2 σ n σ n-1 1 表計算ソフト stdevp() stdev() 不確かさ評価では右側の対象 : 標本のものを用いること!

標準偏差と実験標準偏差の計算式 標準偏差 ( 高校で学ぶ ) 実験標準偏差 1 n i σ= ( x x ) 2 n = i 1 n 1 s ( x ) = x x 1 n i = 1 ( ) 2 i

2 つの違い 例 : 小学 6 年生の身長測定 A 小学校 6 年 A 組母集団全員の身長 標本 A 小学校 6 年 A 組の平均の日本の小学 6 年生の平均の身長と標準偏差を知りたい身長と標準偏差を知りたいすべてのデータを知ってて日本全国の小学 6 年生の身長いて, そこから平均と標準は測れない.A 小学校 6 年 A 組偏差を算出のデータから日本全国の身長の平均と標準偏差を推定. 左の 対象 : 母集団 を用いる右の 対象 : 標本 を用いるこれを実験標準偏差という

分散 標準偏差について 例 : ある製品の質量測定 (g) x 1 x 2 x 3 x 4 x 5 87.5 86.2 90.1 88.4 87.0 平均 : 87.5+ 86.2 + 90.1+ 88.4 + 87.0 x = = 5 87.84 (g) 平方根単位 :g 平均値からの距離 ( 偏差 ) 単位 :g 1.494 87.5-87.84=-0.34 ( 平均値からの距離 ) 2 86.2-87.84=-1.64 単位 :g 2 90.1-87.84=2.26 偏差の二乗和 88.4-87.84=0.56 0.1156 単位 :g2 データの個数 -1 87.0-87.84=-0.84 ( 自由度 ) で割る単位 :g 2 2.6896 5.1076 8.9320 0.3136 0.7056 2.233

実験標準偏差の算出における注意点 分散を算出する式は一般的な書き方をすると, n 2 ( xi x) 2 i= 1 s = n 1 となる. しかし一般的に計算の時に使うのは, 上式を変形した, s = n 2 i= 1 x n ( x ) 2 i 2 i= 1 i n 1 n で行われるときが多い.

実験標準偏差の算出における注意点 コンピュータで扱える桁数について Excelで用いることができる数字は, 有効数字 15 桁までである. 不確かさ評価で標準偏差を算出するときに2 乗を行うことを考えると, 不確かさ評価では有効数字 7 桁までしか用いることができない. s n 2 ( xi ) n 2 i= 1 x i 2 i= 1 n ( 積み残し ) = n 1 この式を用いるときの注意.

実験標準偏差の算出における注意点 コンピュータで引き算を行うときの注意 コンピュータは大きさが似ている大きな数の引き算が苦手である. よって, 大きさが似ている 2 つの数を引き算するとおかしな答えが出ることがある. s = n 2 i= 1 ( x x) i n 11 上記の問題点の例 Excel を用いて, 2 この式を用いるときの注意 ( 桁落ち ) (123456789.1-123456789) を計算してみると? 計算 分散算出におは積み残しほうが起る可能性が高分散の算出においては, 積み残しのほうが起こる可能性が高い. 桁落ちはデータ数が多いときに注意.

標準偏差から不確かさへ 平均値 実験標準偏差 = 測定値のばらつき 測定値 報告する値 = 平均値 必要なのは測定値のばらつきばらつきではなく, 平均値のばらつき! 平均値の実験標準偏差を求める必要がある.

平均値の実験標準偏差 サイコロを振って, 出た目の平均値を求める. 1 回目 2 回目 3 回振った平均値 3 回目 1 回目 2 回目 3 回目 10 回振った平均値 平均 計算 4 回目 5 回目 6 回目 7 回目 8 回目 9 回目 10 回目 平均

平均値の実験標準偏差の求め方 平均値の実験標準偏差と, 最初に算出した実験標準偏差の間には以下の関係がある. sx ( ) = sx ( ) ここで, s () x は平均値の実験標準偏差,s(x) はデータの実験標準偏差,nは測定回数である. n ここで求められた平均値の実験標準偏差が A タイプの評価で求められた不確かさとなる.

有効数字について 校正証明書に記載する最終的な不確かさは 原則 2 桁である. よって, 個々に算出された不確かさはこの後に合成する必要があるため,4 桁以上まで計算しておく.

バジェットシートへの挿入 記号 不確かさ要因 値 確率分布 除数 標準不確かさ 感度係数 標準不確かさ + ( 測定量の単 位 ) 1.641 -------- 1 Aタイプ評価では, この欄に算出された平均値の実験標準偏差を書き込む これら欄は標準偏差を求めるためのものであるので, すでに標準偏差を算出している A タイプ評価では 確率分布 欄は空欄, 除数 欄はすべて1となる.

例 :A タイプの不確かさ評価 メスシリンダーでビールジョッキに入れられた液体の体積を繰返し測定を行い次のデータを得た. 1 2 3 4 5 632 629 639 635 627 6 7 8 9 10 回目 636 633 637 634 633 平均値 :633.5 ml 実験標準偏差 :3.598 ml 平均値の実験標準偏差 :1.138 ml ( 単位 :ml)

バジェットシート 記号 不確かさ要因 値 確率分布 除数 標準不確か 感度係数 標準不確かさ + さ ( 測定量の単 位 ) u R 測定の繰返し性 1.138 ml -------- 1 u s 標準器の校正 の不確かさ u T u c ( ) 温度による 効果 合成標準不確かさ 正規分布 U 拡張不確かさ 正規分布 (k=2)

確率分布について 計測標準フォーラム 計量標準等トレーサビリティ導入に関する調査研究 WG2 制作 :( 独 ) 産業技術総合研究所計測標準研究部門物性統計科応用統計研究室田中秀幸

確率分布とは 例えば, サイコロの確率分布を考える. サイコロは1-6の目を持っている. これはそれぞれ同じ確率で出る. それならば, 各目とも 1/6 の確率の確率分布を持つということになる. 確率 サイコロの目の確率分布 1/6 1 2 3 4 5 6 サイコロの目

B タイプの評価で用いられる確率分布 (1) 最もよく使われる分布限界値のときなどに適用. a a μ a 3 矩形分布 ( 一様分布 ) 解説

B タイプの評価で用いられる確率分布 (2) a 中心が多く, 端にいくほど少なくなる分布に適用. 正規分布のときはこの分布を適用す a μ ることが多い. a 6 三角分布 解説

B タイプの評価で用いられる確率分布 正規分布校正証明書などで不確かさが分かっている時に適用. (3) 正規分布の性質よく管理されている測定の測定値はほとんどの場合正規分布する. μ 3σμ μ 2σμ μ σ μ μ+σ μ+2σμ 68.3% 95.5% 5% 99.7% μ±1σ:68.3% μ±2σ:95.5% μ±3σ:99.7% μ+3σμ の値が含まれる.

その他の分布と標準偏差 0 b 1 a a ba ba -a a μ μ a 2 周期的に変化する要因に対して適用. U 字分布 a (1 + b ) 6 2 2 中は同じ確率だが端に行けば徐々に減る要因に適用. 台形分布

除数について 矩形分布 分布の半幅を 3 で割る. 三角分布 分布の半幅を 6 で割る. この値のことを除数という 校正証明書から引用する場合, 分布は正規分布とし, この時除数を 2 とすること. 理由は後で解説する.

例 :B タイプの不確かさ 標準器の校正の不確かさに相当する, メスシリンダーの校正の不確かさは, 校正証明書より,3.0mL. また, 校正証明書を用いる場合, 確率分布は正規分布である. 温度による効果は, 温度を測定している温度計が最小目盛り1 のデジタル温度計を用いているため, ±0.5 で温度が分からない. ±0 5 の範囲内ではどこでも同じ確率で現れるので ±0.5 の範囲内では, どこでも同じ確率で現れるので, 矩形分布を仮定

例 :B タイプの不確かさ 標準器の校正の不確かさは校正証明書から値を得るため, 正規分布である. またその時の除数は 2 である. 温度による効果は, 矩形分布を仮定しているので 除数は 3.

バジェットシート 記号 不確かさ要因 値 確率分布 除数 標準不確か 感度係数 標準不確かさ + さ ( 測定量の単 位 ) u R u s 測定の繰返し性 1.138 ml 標準器の校正 3.0 の不確かさ ml 温度による 0.5 u T 効果 u c ( ) 合成標準不確かさ -------- 1 正規分布 2 矩形分布 3 正規分布 U 拡張不確かさ 正規分布 (k=2)

用語について 計測標準フォーラム 計量標準等トレーサビリティ導入に関する調査研究 WG2 制作 :( 独 ) 産業技術総合研究所計測標準研究部門物性統計科応用統計研究室田中秀幸

不確かさに関する用語 JIS Z 8103-2000: 計測用語より引用 標準不確かさ 標準偏差で表される, 測定結果の不確かさ 合成標準不確かさ いくつかの他の量の値から求められる測定の結果の標準不確かさ. 各量の変化に応じて測定結果がどれだけ変わるかによって重み付けした, 分散又は他の量との共分散の和の平方根に等しい.

不確かさに関する用語 JIS Z 8103-2000: 計測用語より引用 拡張不確かさ 合理的に測定量に結びつけられ得る値の分布の大部分を含むと期待される区間を定める量.

不確かさの表現 不確かさ要因これらのばらつきを不確かさ要因不確かさ要因標準偏差で表す. 不確かさ要因確合不確かさ要因 不確かさ要因成一般的に校正証明書には拡張不確かさ拡張不確かさを記載する.

例 : 標準不確かさ 標準不確かさは, 標準偏差で表されている. このバジェットシートでは, 値 を 除数 で割ることによって, 標準偏差を求めることが出来る.

バジェットシート 記号 不確かさ要因 値 + 確率分布 除数 標準不確か 感度係数 標準不確かさ さ ( 測定量の単 位 ) u R u s 測定の繰返し性 1.138 ml 標準器の校正 3.0 の不確かさ ml 温度による 0.5 u T 効果 u c ( ) 合成標準不確かさ -------- 1 1.138 ml 正規分布 2 1.5 ml 矩形分布 3 0.2887 正規分布 U 拡張不確かさ 正規分布 (k=2)

不確かさの合成と拡張 計測標準フォーラム 計量標準等トレーサビリティ導入に関する調査研究 WG2 制作 :( 独 ) 産業技術総合研究所計測標準研究部門物性統計科応用統計研究室田中秀幸

目的 記号 不確かさ要因 値 確率分布 除数 標準不確かさ 感度係数 標準不確かさ + ( 測定量の単 位 ) u c ( ) 合成標準不確かさ 正規分布 U 拡張不確かさ 正規分布 (k=2) A,B タイプの評価法を用いて算出した値から拡張不確かさを求める

不確かさ要因の単位 不確かさの要因には, 実際に行っている測定と同じ単位で表されるものと, 異なる単位で表されているものがある. 例 : 金属棒の長さ測定 同じ単位で評価された要因 異なる単位で評価された要因 測定の繰り返しマイクロメータの校正の 温度変化による影響 不確かさ 単位 :mm 単位 : 異なる単位で表されているものはその測定量の単位に変換しなければならない! これが感度係数! 温度による金属棒の長さの不確かさ (mm) = 熱膨張係数 ( -1 ) 金属棒の長さ (mm) 温度の影響 ( )

記号 不確か 値 さ要因 + 感度係数 確率分布除数標準不確かさ感度係数標準不確かさ ( 測定量の単位 ) 1.46 2.131 1.46 2.131 mm/ =3.111 mm 求めた感度係数を書き入れる. 元々の値が測標準不確かさと感度係数を掛け定量と同じ次元の場合合わせた値を入れる. これには1 を書き入れる. よって, 測定量の次元に変換された標準不確かさが求められる.

例 : 感度係数 繰返し性と標準の不確かさは測定量の単位と同じであるから感度係数は1. この計測における, 温度を体積に変換する感度係数は, 体膨張率 ある物質が,1 温度が変化するとどのくらい膨張するかを割合で表した値. 液体の体積 体膨張率はどのくらい膨張するかを表した割合である. この測定で用いられている液体は,633.5 ml であったので, その液体の体積を体膨張率にかけることによって,633.5 mlの液体の膨張量が算出される.

例 : 感度係数 この液体の体膨張率 5.23 10-3 -1 この液体の体積 633.5 ml 感度係数 523 10 5.23 10-3 - 1 633.5 5 ml =3.313 ml/

バジェットシート 記号 u R u s 不確かさ要因 測定の繰返し性 値 + 1.138 ml 標準器の校正 3.0 の不確かさ ml 温度による 0.5 u T 効果 u c ( ) 合成標準不確かさ 確率分布 -------- 1 正規分布 2 矩形分布 正規分布 除数 標準不確か 感度係数 標準不確かさ さ ( 測定量の単 位 ) 3 1.138 ml 1 1.138 ml 1.5 1.5 1 ml ml 0.2887 3.313 0.9564 ml/ ml U 拡張不確かさ 正規分布 (k=2)

不確かさの合成 標準不確かさはすべて標準偏差で表されている. 標準偏差を合成するときには二乗和の平方根を用いる. 各標準不確かさを合成し合成標準不確かさを求めるには標準不確かさを二乗し, 足しあわせ, 平方根を取る. u n 2 c = ux i i= 1

不確かさの合成 記号不確かさ要値確率分布除数標準不確かさ感度係数標準不確かさ因 + ( 測定量の単位 ) 1.234 2.126 1.397 0.4610 u c ( ) 合成標準不 正規分布 2.865 確かさ U 拡張不確かさ 正規分布 (k=2) もし, このような標準不確かさが得られているとするならば, ここに, もし, このような標準不確かさが得られているとするならば, ここに, 測定量の単位に変換した標準不確かさの二乗和の平方根を書き入れる. これが合成標準不確かさとなる.

中心極限定理 + 標準不確かさを合成した合成標準不確かさの分布は正規分布に近づく. + これを中心極限定理と呼ぶ + 実際に見てみよう 標準偏差が合成標準不確かさとなる測定結果の分布は標準偏差が合成標準不確かさとなる, 測定結果の分布は, 中心極限定理によって正規分布していると見なせる.

拡張不確かさ 合成標準不確かさは 標準偏差として表されている. 許容差などでは, ほぼこの中にすべての値が入る と言う範囲で示す. ばらつきの平均値で表されている. 合成標準不確かさで示された範囲には約 68% のものしか含まれない. この数を包含係数と言い,kで表す.(k=2) 合成標準不確かさは, 中心合成標準不確かさを 2 倍すれば 極限定理により正規分布し 約 95% が含まれ, ていると見做せるる. 今までと同じような値になる.

正規分布 μ 3σμ μ 2σμ μ σ μ μ+σ μ+2σμ μ+3σμ 68.3% 95.4% 99.7% μ±1σ:68.3% μ±2σ:95.4% μ±3σ:99.7% の値が含まれる.

確率分布の例 -a a -a a -a a σ σ 矩形分布 ( 一様分布 ) 三角分布 U 字分布正規分布 最もよく使われる分布限界値のときなどに適用. 中心が多く, 端にいくほど少なくなる分布に適用. 周期的に変化する要因に対して適用. 校正証明書などで不確かさが分かっている時に適用. 正規分布のときはこの分布を適用することが多い. a a a U 3 6 2 2

拡張不確かさ 記号 不確かさ要因 値 確率分布 除数 標準不確かさ 感度係数 標準不確かさ + ( 測定量の単 位 ) u c ( ) 合成標準不確正規分布かさ 2.865 U 拡張不確かさ正規分布 2 2.858 (k=2) 5.7 もし, 合成標準不確かさが 2.865 という値であったならば, 合成標準不確かさを包含係数倍したもの, すなわち,2 倍したものをここに書き込む. これによって, 最終的に報告される拡張不確かさを算出することができた.

最終結果 感度係数標準不確かさ値標準不確か記号不確かさ要因確率分布除数 ( 測定量の単 + さ位 ) 測定の 1.138 1.138 1.138 u -------- 1 1 R 繰返し性 ml ml ml u s u T u c ( ) 標準器の校正 3.0 1.5 1.5 正規分布 2 1 の不確かさ ml ml ml 温度による 0.5 0.2887 3.313 0.9564 矩形分布 3 効果 ml/ ml 合成標準不確かさ 正規分布 2.112 ml U 拡張不確かさ正規分布 42 4.2 (k=2) ビールジョッキの体積 633.5 ml±4.2 ml, k=2 ml

様々なバジェットシート JCSSホームページ JCG204S21-02 不確かさの見積もりに関するガイド ( 力 / 一軸試験機 ) より引用.