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Transcription:

熊本大学アプリケーション実験 ~ 実環境における無線 LAN 受信電波強度を用いた位置推定手法の検討 ~ InKIAI プロジェクト @ 宮崎県美郷町 熊本大学副島慶人川村諒 1

実験の目的 従来 信号の受信電波強度 (RSSI:RecevedSgnal StrengthIndcator) により 対象の位置を推定する手法として 無線 LAN の AP(AccessPont) から受信する信号の減衰量をもとに位置を推定する手法が多く検討されている しかし フェージングやマルチパスの影響で RSSI が大きく変化するような実環境において ほとんど実験が行われておらず 実環境での位置推定技術の検討は行われていない 本実験ではフェージングやマルチパスなどの影響でノイズを多く含む実環境での測定を行い その測定データから 位置推定をするに十分なデータを抽出し 位置推定方法が有効であるかを調べる 2

実験理論 AP と PC の距離の関係ターゲットの座標 (x, y, z) を推定するために用意する N 台の PC の座標 (x, y, z)(=1,,n) の距離の関係は次の式で表現できる r 2 2 ( x x ) ( y y ) ( z z ) 2 距離 r と受信電波強度 A(r) の関係受信電波強度は 自由空間において距離の -2 乗に比例するが 実環境ではマルチパスやフェージングなどの影響を受け 受信電波強度は大きく変動し -2~-4 乗に比例して減衰すると言われている 次の式は AP から PC が受信する受信電波強度 A(r) ノード間の距離 r をの関係を示しており C および α は伝播環境のモデル化時に決まるパラメータである この C および α は環境により異なるため 各環境において予め受信電波強度の測定を行い 最小二乗法を用いて導出される近似曲線により決まる A( r ) 10log C r 3

実験理論 推定方法最尤推定は 一般的なパラメータの推定法であり 一連の測定データの同 時条件付確率密度関数と共に推定問題に適用することができる 下式で示す確率密度関数は正規分布モデルであり AP からPC が受信する受信電波強度がPr δは標準偏差である p(pr r ) 1 exp Pr A( r ) 2 2 2 2 2 4 この式を用いて 最尤法の対数尤度関数は次の式で表すことができる f ( x, y, z) ln N 1 p(pr r ) N 1 lnp(pr この最尤法の式が最大になる座標 つまりターゲットの存在確率がもっとも高くなる座標をAP の推定位置とする この尤度推定量を求めるために それぞれのパラメータで微分した連立方程式を解けばよい f ( x, y, z) 0 x f ( x, y, z) 0 x f ( x, y, z) 0 x r )

実験概要 山間部のような通信通信インフラの未整備地域で発生した災害時等において 現場からの通信手段を確立するための方法のひとつとして 無線 LAN のアクセスポイントを搭載した小型バルーンによる臨時的な通信インフラ網構築実験が行われており この災害現場に打ち上げられたバルーン AP の位置推定を行った 5

測定環境 地上 PC とバルーン AP の位置関係を右図のように配置する また 本実験では以下の機材を用いて実験を行う バルーン AP - 無線 LAN( 本体 ): アイコム /SB-5000 - 無線 LAN 用アンテナ ( 無指向性 ):AH-104 地上 PC - 無線 LAN 搭載 PC(DellVostro1520)3 台 - ソフトウエア NetworkStumbler 地上に示すPC3 台で1 秒毎に 受信電波強度を記録する NetworkStumbler を動作させ それぞれ同時に45 分間の測定を行った またバルーンは5 本のケーブルで固定され 実験時にほぼ無風であったことからほとんど動かないものとして仮定する 6

測定結果 地上に設置した PC で測定した受信電波強度は次の図のようになった 真空のような理想的環境の場合 PC と AP の距離に変化がなければ受信電波強度は大きく変動することはない しかし 今回の実験では距離がほぼ一定であるにもかかわらず 受信電波強度が大きく変動している このため 実環境下では必ずしも安定したデータが測定できるとは限らないことがわかる 7

伝播環境のモデル化 45 分間で得られたすべての受信電波強度と距離の関係は下図のようになる この結果より α および C の値はそれぞれ -4.727 および 4.742 となった また相関係数は 0.3677 となり 相関はあまり強くなかった また PC1 PC2 PC3 の分散はそれぞれ 10.849 7.176 41. 248 となった 8

位置推定結果 受信電波強度の伝播環境をモデル化した時のパラメータを用いて位置推定を行った 今回の位置推定は 精度を良くし 計算の速度を上げるために 一般的に行われている (x, y) 座標の推定のみで検証を行った このときの実際の位置と推定した位置との距離の誤差およびその累積密度は下図のようになった これより 位置推定誤差の平均は13.41mとなり 分散は89.78となった 9

位置推定手法の改善 今回の位置推定精度はあまり良くなかった これは伝播環境のモデル化時に フェージングなどの影響で電波強度が大きく変化している時間帯の影響が位置推定の精度を下げていると考えられる そこでこれを改善するために 45 分間測定した受信電波強度を 60 秒毎に分割し それらをデータセットとして扱い 各データセットの距離と受信電波強度の相関係数を考察した 今回の実験では時間の経過と共に相関係数の値が下がっていることがわかる そこで相関係数が最大となるデータセットを用いてモデルを構築した また このモデルの相関係数は 0.879 となった 10

位置推定の改善方法 位置推定をするに十分なデータを抽出するために 相関係数が最大となるデータセットと各データセットの相関をとった結果を左図に示す その結果いくつかのピークが目立つことが分った さらに各データセット毎の受信電波強度の分散を右図に示す 位置推定をするに十分なデータを抽出するために 相関係数が最大となるデータセットと各データセットの相関をとった結果を左図に示す その結果いくつかのピークが目立つことが分った さらに各データセット毎の受信電波強度の分散を右図に示す これより マルチパスやフェージングの影響が少ないと考えられる分散が小さいデータセット ( ここでの分散の閾値はそれぞれ すべてのデータセットの分散の半分である5.424 3.588 20.624とする ) と各データセットとの相関が強い 11 3 箇所を用いて位置推定を行う

位置推定精度の改善結果 各データセットとの相関が高く 分散が小さい 3 箇所のデータセットを用いて位置推定を行ったところ 実際の位置と推定した位置の誤差およびその累積確率は下図のようになった この結果 誤差の位置推定誤差の平均は 8.26 m となり 分散は 51.32 となった これらの結果より すべての区間を用いて位置推定を行ったほうが良いという帰無仮説に対し 各データセットとの相関が高く 分散が小さいデータセットを用いたほうが位置推定精度が向上するという対立仮説を有意水準 1% で検定を行った 検定を行った結果 対立仮説は棄却され位置推定精度が向上したとわかった 12

結論 実環境で 45 分間 AP から PC が受信する受信電波強度の測定を行った 受信電波強度の測定データはマルチパスやフェージングの影響を大きく受け AP の位置推定を行った結果精度があまり精度は良くなかった 測定した受信電波強度をいくつかのデータセットに分割し 受信電波強度と距離の相関が最大になる区間をモデルとして作成し モデルとなるデータセットと各データセットの相関が強く 分散が小さいデータセットを位置推定に用いることで 約 38% の位置推定精度の改善がみられた 13