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非典型溶血性尿毒症症候群 (ahus) * 診断から治療まで 監修 : 東京大学大学院医学系研究科腎臓 内分泌内科教授 南学正臣先生 * 本疾患は 2015 年 1 月 1 日より 指定難病 ( 医療費助成対象疾病 ) に指定されています * 本冊子における ahus とは 補体制御異常による ahus をさします

ahus とは 疾患の定義 2013 年に 日本腎臓学会と日本小児科学会から 非 hemolytic uremic syndrome :ahus) は 図 1 のよ 典型溶血性尿毒症症候群 診断基準 が公表された うに定義された これにより 非典型溶血性尿毒症症候群 (atypical 図 1 ahus の定義 ahus は : 1. 溶血性貧血 2. 血小板減少 3. 急性腎障害 を 3 徴とし 志賀毒素に関連するものでない血栓性血小板減少性紫斑病でない 指定難病に該当するのは 補体制御異常による血栓性微小血管症 (TMA) であり 以下を除外する : 志賀毒素産生性大腸菌感染による典型溶血性尿毒症症候群(HUS) 血栓性血小板減少性紫斑病(TTP) 二次性 TMA( 代謝異常症 感染症 薬剤性 自己免疫性疾患 HELLP 症候群 移植後 などで起こる血栓性微小血管症 ) 日本腎臓学会と日本小児科学会の診断基準では TMA から HUS TTP を除外し 二次性 TMA を含めた疾患を広義の ahus としているので注意が必要である 現在 学会で診断基準の見直しが行われている 日本および世界での発生状況 ahus は 海外では 毎年 100 万人に 2 3 人が発 症し 小児の 100 万人に 7 人程度が発症すると報告さ れている 近年 日本においても様々な遺伝子異常に 数 原因遺伝子頻度 予後に関しては不明である 日 本では 2015 年度現在で 100 例前後が ahus と診断 されている よる ahus が報告されているが 全国レベルでの発症 ahus の発症機序 補体は 3つの異なる経路 ( 古典的経路 レクチン経路 第二経路 ) により活性化する 補体系に関連する ahusは これらの経路のうち 第二経路の活性化異常により発症する 第二経路の活性化は C3がC3aとC3bに分解されることで生じる 生じたC3bが微生物などの細胞膜表面に結合すると B 因子 (complement factor B: CFB) やD 因子 (complement factor D:CFD) 等と 2

図 2 補体関連 ahus では 第二経路の活性化異常を契機に発症 レクチン経路 古典的経路 補体活性化第二経路 免疫複合体除去微生物オプソニン化 C3 C3 + H 2 O: 常に活性化 阻害因子 : H 因子 I 因子 MCP 弱いアナフィラトキシン C3a C3b トロンボモジュリン 機能獲得型変異 : C3 CFB C3 転換酵素 C5 転換酵素 ic3b C5 C5b C6 C7 C8C9 C5a C5b-9( 膜侵襲複合体 ) アナフィラキシー炎症血栓症 結果 強力なアナフィラトキシン遊走性炎症促進白血球活性化内皮活性化血栓形成促進 細胞融解炎症促進血小板活性化白血球活性化内皮活性化血栓形成促進 結果 溶血炎症血栓症組織障害 1. Noris M, Mescia F, Remuzzi G. Nat Rev Nephrol. 2012;8:622-633. 2. Leban N, Abarrategui-Garrido C, Fariza-Requejo E, et al. Int J Immunogenet.2012;39:110-113. 3. Hirt-Minkowski P, Dickenmann M, Schifferli JA. Nephron Clin Pract. 2010;114:c219-c235. 4. Loirat C, Noris M, Fremeaux-Bacchi V. Pediatr Nephrol. 2008;23:1957-1972. 反応してC3 転換酵素 (C3bBb) を形成する このC3 転換酵素は さらにC3をC3aとC3bに分解し 生じたC3bと結合してC5 転換酵素 (C3bBbC3b) となる C5 転換酵素はC5をC5aとC5bに分解し 生じた C5bがC6-C9と順次反応することで膜侵襲複合体 (membrane attack complex:mac) となり 病原体の溶菌 細胞融解を引き起こす ( 図 2) C3の分解反応により生じたC3bはきわめて反応性の高いチオエステル結合を有するため 病原体だけでなく自己の細胞膜上にも結合しうる C3bの自己細胞への結合は有害であるため 自己細胞上にはH 因子 (complement factor H:CFH) membrane cofactor protein(mcp CD46) トロンボモジュリン等の制御因子が存在し これらの因子がプロテアーゼであるI 因子 (complement factor I:CFI) による C3bの速やかな分解不活化を促し 補体による細胞傷害から自己細胞を保護している 補体系因子の異常によるaHUSは 抑制因子の機能喪失変異と 活性化因子の機能獲得型変異に分けられる 抑制因子の機能喪失変異の例として CFH CFI CD46 トロンボモジュリンの変異 または抗 factor H 抗体の出現によるCFHの機能低下が挙げられ 抑制機能の低下により補体系を過剰に活性化することによってaHUSが引き起こされると考えられる 活性化因子の機能獲得型変異の例としては CFB C3の変異が挙げられ いずれも第二経路の活性化により血管内皮細胞や血小板表面の活性化をもたらし ahusを発症すると考えられる 血管内皮細胞は 血液の流れを良くして凝固を阻止する機能を担っている しかし ahus 患者では この血管内皮細胞上で補体の過剰な 3

活性化が起き 制御不能となるため 血管内皮の機能異常 血小板血栓の形成が生じる その結果 様々な臓器で虚血性の障害が起こり それに伴って炎症が引き起こされる ( 図 3) また ahusには 感染 妊娠といった発症の契機となるトリガーがある ahusは このトリガーと 第二経路での制御異常の2つが組み合わさることで発症する 発症に至るトリガーの強度は 第二経路での制御異常の重度に依存するため 例えば 第二経路での制御異常が重度であれば ahus はごく軽度のトリガーで発症する 反対に 第二経路での制御異常が軽度であれば ahusは重度のトリガーによって発症する なお これらの強度がどのような場合でも ahusが発症した際には様々な臓器で 虚血性の障害が起こる ( 図 4) また ahus 患者の約 8~10% では CFHに対する自己抗体が存在することが知られている この抗体は CFHのC 末端を認識し CFHのC3bへの結合を阻害することで CFHによる細胞保護作用を阻止する CFH 抗体の出現はCFHとCFH 関連蛋白質 (complement factor H Related:CFHR)1~5 の遺伝子異常 ( 欠損 ) が関与していることが判明しており これらの遺伝子異常によりCFHに対する抗体が出現し CFH の機能を阻害するものと考えられている 特にCFHR 遺伝子欠損により CFH 抗体が出現した ahusは DEAP-HUS (DEficiency of CFHR plasma proteins and Autoantibody Positive form of 図 3 1 持続的かつ制御不能な補体活性化による内皮細胞の障害とTMA 症状の進行 ベースラインの補体活性の上昇 慢性的な補体活性化 補体介在性の TMA 虚血 進行性の臓器障害 C5b-9 C5a 図は説明を目的とするものであり 縮尺は正確ではありません 赤血球 血小板 活性化した 血小板 白血球 活性化した白血球 vwf ( フォンビルブランド因子 ) 血栓形成促進因子 破砕赤血球 制御不能な補体活性化により 血管内皮細胞損傷が進行する 2-5 これによる TMA 病変は回復不能な多臓器障害に進行することがある 2-5 1. Noris M and Remuzzi G. Nat Rev Nephrol. 2014; 10(3): 174-80. 2. Laurence J. Clin Adv Hematol Oncol. 2012; 10(suppl 17): 1-12. 3. Legendre CM, Licht C, Muus P, et al. N Engl J Med. 2013; 368: 2169-2181. 4. Sellier-Leclerc A-L, Frémeaux-Bacchi V, Dragon-Durey MA, et al; French Society of Pediatric Nephrology. J Am Soc Nephrol. 2007; 18: 2392-2400. 5. Nester CM, Thomas CP. Hematology Am Soc Hematol Educ Program. 2012; 2012: 617-625. 4

トリガーの強5 Hemolytic Uremic Syndrome) とも呼ばれている なかでも CFHR3-CFHR1の欠損は 最も頻度の高い異常である CFHR 領域は 多彩な遺伝子異常が報告されているが homologyの高い領域であることから遺伝子検査が困難な領域である 最近 TMA 患者でDGKE(diacylglycerol kinase epsilon) プラスミノーゲンなどの凝固系の制御に関連する因子の異常が報告されている また トロンボモジュリンがC3bやCFHに結合し C3bの不活化を 固系因子であるため トロンボモジュリン DGKE プラスミノーゲンによるTMAを凝固関連 TMAと呼ぶ分類 ( すなわち これまで補体関連 ahusとされていた疾患を 補体関連 TMAと凝固関連 TMAに分ける分類 ) も提唱されている DGKE プラスミノーゲンによるTMAの発症機序に関してはまだ詳細が分かっておらず 純粋に凝固系異常によるTMA 症状なのか どこまで補体系を介した異常なのかははっきりしていない 低下させることも報告されている これらの因子は凝 図 4 ahus 発症に関わる 2 つの要因 TMA 補体系の制御不能な活性化 弱いトリガー 強いトリガー さ軽度 第二経路における制御異常 重度 制御因子と活性化因子のバランスは以下の条件により決まる 遺伝子の転写 蛋白質の合成 分泌 発現 蛋白質の機能 Tsai HM. Transfus Med Rev. 2014; 28(4): 187-197.

ahus 患者の呈する症状 ahusは 1. 溶血性貧血 ( 破砕赤血球を伴う貧血で Hb 10 g/dl 未満 ) 2. 血小板減少 ( 血小板数 15 万 / μl 未満 ) 3. 急性腎障害 ( 血清クレアチニン値が年齢 性別基準値の1.5 倍以上 ) が三主徴である この三主徴はHUSと同様であるが HUSとは異なり ahusで はO157などの志賀毒素産生性大腸菌感染は認められない 三主徴以外にも 中枢神経症状 心臓障害 呼吸障害 腸炎 高血圧などの多臓器症状を呈する ( 図 5) ahusで虚血性腸炎などの消化器症状を呈する例 図 5 ahus で発症する臓器障害とその頻度 全ての患者で 複数の臓器障害が発症した (30 例 ) 1 48% の患者で神経系症状がみられる 2 3 4 2 脳卒中 脳障害 痙攣 43% の患者で心血管系症状がみられる 2 5 6 心筋梗塞 高血圧 びまん性血管障害 7 34% の患者で腎臓以外での血栓がみられる 1 37% の患者で消化器系症状がみられる 8 3 虚血性腸炎 3 腹痛 9 膵炎 4 胃腸炎 7 肝壊死 10 下痢 9 悪心 嘔吐 肺 5 呼吸困難 14 肺出血 5 肺水腫 50% 以上の患者が ESRD( 末期腎不全 ) へと進行する 11 クレアチニン値の上昇 12,13 4,12 浮腫 悪性高血圧 egfr( 7,13 推算糸球体濾過量 ) の低下 2 蛋白尿 ahusでは 過剰な補体の活性化により 全身性の血栓性微小血管症 (TMA) 生命維持に関わる進行性の臓器障害 多臓器不全に至る 8,10,11,15 1. Muus P, et al. Presented at: 18th Congress of the European Hematology Association. June 13-16, 2013; Stockholm, Sweden. Abstract B1774. 2. Neuhaus TJ, et al. Arch Dis Child. 1997; 76: 518-521. 3. Ohanian M, et al. Clin Pharmacol. 2011; 3: 5-12. 4. Noris M, et al. Clin J Am Soc Nephrol. 2010; 5: 1844-1859. 5. Sallée M, et al. Nephrol Dial Transplant. 2010; 25: 2028-2032. 6. Kavanagh D, et al. Br Med Bull. 2006; 77-78: 5-22. 7. Loirat C, et al. Pediatr Nephrol. 2008; 23: 1957-1972. 8. Langman CB. Haematologica. 2012; 97(suppl1): 195-196. 9. Dragon-Durey M-A, et al. J Am Soc Nephrol. 2010; 21: 2180-2187. 10. Zuber J, et al. Nat Rev Nephrol. 2011; 7(1): 23-35. 11. Caprioli J, et al; for the International Registry of Recurrent and Familial HUS/TTP. Blood. 2006; 108: 1267-1279. 12. Ståhl A-L, et al. Blood. 2008; 111: 5307-5315. 13. Ariceta G, et al; for the European Paediatric Study Group for HUS. Pediatr Nephrol. 2009; 24: 687-696. 14. Sellier-Leclerc A-L, et al; French Society of Pediatric Nephrology. J Am Soc Nephrol. 2007; 18: 2392-2400. 15. Laurence J. Clin Adv Hematol Oncol. 2012; 10(suppl 17): 1-12. 6

や 消化器感染を契機に ahus を発症する例もあり ので注意を要する 下痢を呈していても ahus が否定されるわけではない 治療の概要 従来 補体制御異常によるaHUSと診断されれば 血漿交換 血漿輸注療法が治療の第一選択とされてきた 2013 年 9 月には 補体 C5に対するモノクローナル抗体であるエクリズマブの適応症に 補体制御異常によるaHUSが追加され その治療効果が期待されて の分解とそれに伴うMACの形成を阻害することで 補体の過剰な活性化を抑制する なお DGKEやプラスミノーゲンなどの凝固関連因子の異常によるaHUS に対する治療効果については 未だ十分なデータが得られていない いる エクリズマブは補体 C5 に特異的に結合し そ 治療 診断についての留意点 ahus は再発の可能性があるので 再発が疑われる ときには血算 生化学 検尿などを実施し 精査を行う がその結果について本人 家族に十分に説明すること が望ましい また 遺伝子診断を行った場合には 知識を持った者 食事 栄養についての留意点 腎機能低下がある場合には 急性期 慢性期ともに が必要となる 食事制限 ( 蛋白 塩分 カリウム リンなどの調整食 ) 予後 海外では 表 1 のように 血漿交換への反応性 腎 移植後の予後など 原因遺伝子別の治療成績の報告が ある しかし 日本では蓄積された症例報告がなく 日本人の予後は不明である また エクリズマブ治療 により予後の改善が報告されているが 遺伝子別の治 療成績は不明のままである 7

表 1 ahus の遺伝子異常と予後 遺伝子蛋白名変異の影響 頻度欧米 ( 本邦 ) 血漿交換の短期的効果 血漿交換の長期的効果 腎移植後の腎予後 CFH Factor H 内皮に結合できない 20~30% (10%) 寛解率 60% 死亡または腎死 70~80% 再発率 80~90% CFHR1/3 Factor HR1, R3 抗 H 因子抗体の出現 6% (6%) 寛解率 70% 腎死 30~40% 再発率 20% CD46 (MCP) Membrane cofactor protein 内皮表面の発現低下 補体制御機能低下 10~15% (13%) 一般的に軽症 死亡または腎死 20% 以下 再発率 15~20% CFl Factor l Co-factor 機能低下 4~10% (0%) 寛解率 30~40% 死亡または腎死 60~70% 再発率 70~80% CFB Factor B C3 convertase 活性化 1~2% (3.3%) 寛解率 30% 死亡または腎死 70% 1 例再発の報告 C3 Complement C3 C3b 不活化低下 5~10% (43%) 寛解率 40~50% 死亡または腎死 60% 再発率 40~50% THBD Thrombomodulin C3b 不活化低下 5% (3.3%) 寛解率 60% 死亡または腎死 60% 1 例再発の報告 DGKE Diacylglycerol kinase epsilon DAG シグナルによる血栓形成 不明 2013 年に 13 例の報告 ( 不明 2015 年に 1 例の報告 ) 不明 20 歳までの腎死が多い 3 例中 1 例が移植後拒絶 再発のリスクは低い PLG Plasminogen 血栓形成 5%( 報告なし ) 不明不明不明 難病情報センター http://www.nanbyou.or.jp/entry/3847 参考文献 : Fan X, et al. Mol Immunol. 2013; 54: 238-246. Miyata T, et al. Thromb Haemost. 2015; 114.[Epub ahead of print] 8

ahus の診断 診断には 1 診断基準 2 重症度分類を用いる 2 つを明確に区分することが重要である 1 診断基準 指定難病としてのaHUSに該当するのは HUS TTP 二次性 TMA( 代謝異常症 感染症 薬剤性 自己免疫性疾患 HELLP 症候群 移植後 など ) を除いた 補体制御異常によるTMAである ( 図 6) しかし 日本腎臓学会と日本小児科学会から2013 年に公表された 非典型溶血性尿毒症症候群 (ahus) 診断基準 では 図 7の診断基準が用いられているので注意が必要である 図 6 典型 HUS TTP ahus の診断と治療のフローチャート TMA 1 2 志賀毒素関連 3 ADAMTS13 活性著明低下 (10% 未満 ) 4 典型 HUS ( 先天性 後天性 ) TTP 補体制御異常による ahus 二次性 TMA 支持療法 血漿輸注血漿交換 血漿交換エクリズマブ 病因に応じた治療 1 TMA の鑑別 診断 2 典型 HUS の鑑別 3 TTP の鑑別 4 二次性 TMA 疾患の鑑別 臨床的補体制御異常による ahus が疑われる患者に対しては特殊検査による確定診断 南学正臣, 藤村吉博, 香美祥二, 他. 第 58 回日本腎臓学会.( 名古屋, 2015 年 6 月 5 日 ~ 7 日 ) 図 7 日本腎臓学会と日本小児科学会により 2013 年に公表された ahus の診断基準 Definite: 三主徴 ( 下表 ) がそろい 志賀毒素に関連するものでないこと TTP でないこと 二次性血栓性微小血管症でないこと 微小血管症性溶血性貧血 血小板減少 急性腎障害 (AKI) Hb10g/dL 未満血中 Hb 値のみで判断するのではなく 血清 LDHの上昇 血清ハプトグロビンの著減 末梢血スメアでの破砕赤血球の存在をもとに微小血管症性溶血の有無を確認する PLT 15 万 /μl 未満小児例 : 年齢 性別による血清クレアチニン基準値 ( 表 4) の1.5 倍 ( 血清クレアチニンは 小児腎臓病学会の基準値を用いる ) 成人例 :AKIの診断基準を用いる Probable: 急性腎障害 (AKI) 微小血管症性溶血性貧血 血小板減少の3 項目のうち2 項目を呈し かつ志賀毒素に関連するものでも TTPでも 二次性血栓性微小血管症でもないこと 難病情報センター http://www.nanbyou.or.jp/entry/3847 9

2 重症度分類 ahus の重症度分類 ( 表 2) では 下記項目 1 あるい は 2 を満たし 3~11 のいずれかを満たす場合を 重 症 1 と 2 を満たす場合を 中等症 それ以外を 軽症 とする 表 2 ahus の重症度分類 項目 症状 目安 1 溶血性貧血 Hb 10.0 g/dl 未満 2 血小板減少 Plt 15 万 /μl 未満 3 急性腎障害 成人は AKI 病期 2 以上 ( 表 3) 小児は年齢 性別ごとの血清クレアチニン中央値の2 倍値以上 ( 表 4) 4 精神神経症状 - 5 心臓障害 虚血性心疾患 心不全等 6 呼吸障害 - 7 虚血性腸炎 - 8 高血圧緊急症 多くは収縮期血圧 180mmHg 以上 拡張期血圧は120mmHg 以上を示し そのほかに高血圧に起因する標的臓器症状を有する 9 血漿治療抵抗性 - 10 再発例 - 11 血漿治療または抗補体抗体治療依存性 - 軽症 : 下記以外中等症 :1 と2を満たす重症 :1 あるいは2を満たし 3~11のいずれかを満たす なお 症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であっても 高額な医療を継続することが必要な者については 医療費助成の対象とする 難病情報センター http://www.nanbyou.or.jp/entry/3847 表 3 AKI 病期 (KDIGO 2013) 項目血清クレアチニン尿量 病期 1 基準値の 1.5 1.9 倍 6 から 12 時間で <0.5mL/kg/ 時 病期 2 基礎値の 2.0 2.9 倍 12 時間以上で <0.5mL/kg/ 時 病期 3 基礎値の 3 倍または血清クレアチニン 4.0mg/dL の増加または腎代替療法の開始または 18 歳未満の患者では egfr<35ml/min/1.73m 2 の低下 24 時間以上で <0.3mL/kg/ 時または 12 時間以上の無尿 なお 基礎値の実測値がない場合は予測される基礎値で判定 KDIGO Clinical Practice Guideline for Acute Kidney Injury Kidney International Supplements(2012)2,1-138 10

表 4 小児血清クレアチニンの基準値 血清クレアチニン正常値酵素法による年齢別基準値 12 歳未満 ( 男女合計 ) 小児血清クレアチニン基準値 年齢 n 2.5% 50.0% 97.5% 3 5ヵ月 18 0.14 0.20 0.26 6 8ヵ月 19 0.14 0.22 0.31 9 11ヵ月 31 0.14 0.22 0.34 1 歳 70 0.16 0.23 0.32 2 歳 73 0.17 0.24 0.37 3 歳 88 0.21 0.27 0.37 4 歳 81 0.20 0.30 0.40 5 歳 96 0.25 0.34 0.45 6 歳 102 0.25 0.34 0.48 7 歳 85 0.28 0.37 0.49 8 歳 56 0.29 0.40 0.53 9 歳 36 0.34 0.41 0.51 10 歳 44 0.30 0.41 0.57 11 歳 58 0.35 0.45 0.58 日本小児腎臓病学会ホームページ http://www.jspn.jp/file/pdf/ckd_2.pdf 血清クレアチニン正常値酵素法による年齢別基準値 12 歳以上 17 歳未満 ( 男女別 ) 小児血清クレアチニン基準値 性別 男 女 年齢 n 2.5% 50.0% 97.5% n 2.5% 50.0% 97.5% 12 歳 15 0.40 0.53 0.61 54 0.40 0.52 0.66 13 歳 30 0.42 0.59 0.80 38 0.41 0.53 0.69 14 歳 17 0.54 0.65 0.96 40 0.46 0.58 0.71 15 歳 15 0.48 0.68 0.93 22 0.47 0.56 0.72 16 歳 30 0.62 0.73 0.96 27 0.51 0.59 0.74 日本小児腎臓病学会ホームページ http://www.jspn.jp/file/pdf/ckd_3.pdf 11

ahus の治療と治療指針 図 8 診断と治療の流れ 臨床診断 ( 鑑別診断 ) 補体制御に関する遺伝子検査と溶血試験などの蛋白解析の依頼を行う 血漿交換 / 血漿輸注 小児の場合など エクリズマブ エクリズマブ 臨床的に ahus と診断されたら 確定診断を待たずに血漿療法の施行またはエクリズマブによる治療を考慮する * 遺伝子検査などの結果を考慮し治療継続を検討 * エクリズマブ投与開始後は血小板数などを定期的にモニタリングし 改善傾向が認められない場合 投与継続の要否を検討する 緊急な治療を要する場合などを除いて 原則 エクリズマブ投与開始の少なくとも 2 週間前までに髄膜炎菌に対するワクチンを接種する 小児へ使用する場合は 肺炎球菌 インフルエンザ菌 b 型に対するワクチン接種状況を確認し 未接種の場合にはそれぞれのワクチンの接種を検討する 図 9 治療指針 ahus の治療は 1980 年代から長らく血漿療法が中心であった 血漿療法の効果としては 異常補体 関連蛋白や 抗 CFH 抗体を除去し 正常補体関連蛋白を補充することにある 遺伝子解析や 患者血漿を用いた蛋白質学的解析には時間がかかるため 臨床的にaHUSと診断されたら確定診断を待たずに血漿療法の施行 またはエクリズマブによる治療を考慮する ( 図 8) 血漿交換血漿交換を行う場合には速やかに開始し 連日で施行し 徐々に減量していく治療が推奨されている しかし 身体の小さい患者や状況に応じて 血漿輸注が施行されることもある 通常は 血小板数 LDH ヘモグロビンの推移を見て 改善 または正常化したらtaperしていく ahus 全体では 血漿輸注や血漿交換により 約 70% が血液学的寛解に至り それまでの死亡率 50% から 25% へと減少させたが 長期的には再発 腎不全の進行が認められる ( 図 10) 長期血漿交換により アレルギー反応や ブラッドアクセス不全 感染などの合併症がある また 腎機能を改善させるほどには効果が期待できないことが多い 難病情報センター http://www.nanbyou.or.jp/entry/3847 参考文献 : Yoshida Y, et al. PLos One. 2015; 10: e0124655. 12

累積無イベ0.50 ント図 10 ahus の従来の治療と予後 1.00 MCP 変異 0.75 最も多くみられる遺伝子変異型である CFH( 補体 H 因子 ) 変異を有する患者の 70% は 1 年以内に死亡 透析施行 または慢性腎不全に至る 率0.25 0.00 追跡期間 ( 月 ) 患者の 94% には TMA( 血栓性微小血管症 ) 初発時に PE/PI( 血漿交換 / 血漿輸注 ) が施行されていた CFH 変異 0 3 6 12.5 25 50 75 100 125 147 150 No. at risk MCP 変異 14 13 13 13 13 11 7 4 2 2 CFH 変異 40 27 20 12 7 5 3 3 3 3 Caprioli J, Noris M, Brioschi S, et al; for the International Registry of Recurrent and Familial HUS/TTP. Blood. 2006; 108: 1267-1279. エクリズマブによる治療 ahusの内皮細胞障害の発症には 補体の終末経路の活性化が重要である ヒト型リコンビナント モノクローナル抗体のエクリズマブは 終末経路のC5 に結合することにより C5からC5aとC5bへの分解を抑え C5aとMAC(C5b-9) の産生を抑制する ( 図 11) エクリズマブは 元々は発作性夜間ヘモグロビン尿症の治療薬として開発され 2007 年に欧米で 2010 年に本邦で承認されていた そして 難治性 ahusに対してエクリズマブを使用し 劇的に改善した2 例が報告された (2009 年 The New England Journal of Medicine) のを機に 2011 年に米国で 2013 年 9 月には本邦でも エクリズマブの適応症にaHUSが追加された なお エクリズマブによる治療が対象となる疾患は補体制御異常によるaHUSであり 二次性 TMAに対する使用は現時点では推奨されないので注意が必要である 日本腎臓学会と日本小児科学会からも 二次性 TMAに対するエクリズマブの不適切使用について注意喚起がなされている また エクリズマブをいつまで投与するかに関しては 十分なコンセンサスがない 今後はさらに遺伝子変異の違いによる治療反応性 長期予後についての報告が待たれるところである 13

図 11 エクリズマブによる補体の終末経路の活性化阻害 レクチン経路古典的経路補体活性化第二経路 免疫複合体除去微生物オプソニン化 C3 補体制御異常による ahus における制御不能な補体の活性化の原因 : C3 CFB CFH CFI MCP および THBD などの遺伝子の変異 CFH および CFHR1 などの遺伝子の多型 CFH に対する自己抗体 増幅 エクリズマブモノクローナル抗体 C5 C5a C5b-9 ( 膜侵襲複合体 ) アナフィラキシー炎症血栓症 結果 強力なアナフィラトキシン遊走性炎症促進白血球活性化内皮活性化血栓形成促進 細胞融解炎症促進血小板活性化白血球活性化内皮活性化血栓形成促進 結果 溶血炎症血栓症組織障害 1. Soliris SmPC: Soliris (eculizumab) summary of product characteristics. Alexion Pharmaceuticals, Inc.; 2014. 2. Laurence J. Clin Adv Hematol Oncol. 2012;10(suppl 17): 1-12. 3. Legendre CM, et al. N Engl J Med. 2013;368:2169-2181. 4. Sellier-Leclerc A-L, et al; French Society of Pediatric Nephrology. J Am Soc Nephrol. 2007;18:2392-2400. 5. Noris M, et al. Nat Rev Nephrol. 2012;8:622-633. 6. Kelly R, et al. Ther Clin Risk Manag. 2009;5:911-921. 7. Rother RP, et al. Nat Biotechnol. 2007;25:1256-1264. [Published correction appears in Nat Biotechnol. 2007;25:1488]. 14

鑑別診断 エクリズマブ投与時の留意点 エクリズマブ投与に際しては 髄膜炎菌感染症のリスクの増大 肺炎球菌 インフルエンザ菌感染症の潜在的リスクの上昇が指摘されており ワクチン接種が推奨されている 本邦においても 2014 年に 髄膜炎菌のワクチンであるメナクトラ ( 血清型 A C Yおよび W-135を混合した4 価ワクチン ) の製造が承認された 本邦では 髄膜炎菌感染症の発症自体は非常に稀であるが 血清型 BおよびYの発症が多く 血清型 Bはワク 肺炎球菌 インフルエンザ菌は2013 年に定期接種化されたが 特に小児へエクリズマブを投与する際は 肺炎球菌 インフルエンザ菌 b 型に対するワクチンの接種状況を確認することが重要である 未接種の場合には それぞれのワクチンの接種が推奨されている 鑑別診断の際は 他疾患を除外し 補体制御異常以外のaHUSを除外するための検査を実施する ( 図 12 13) チンでカバーされていないことに注意が必要である 図 12 鑑別診断時の留意点 1. 溶血性貧血の確認と他疾患の除外 溶血性貧血であることの確認 : 血液像で破砕赤血球の有無の確認 ハプトグロビン クームス試験など 2. 急性腎障害を来す他の疾患の鑑別 3. 典型 HUS TTPの鑑別 典型 HUSの診断 : 便培養検査 志賀毒素直接検出法 抗 LPS-IgM 抗体など TTP の診断 :ADAMTS13 活性測定 (TTP の診断基準では 10% 未満 ) ADAMTS13 インヒビター抗体測定 4. 補体制御異常以外の ahus の除外に必要な検査 ( 下表 ) 除外項目必要な検査コバラミン代謝異常症 ( 特に生後 6か月未満で考慮 ) 血漿ホモシスチン 血漿メチルマロン酸 尿中メチルマロン酸抗核抗体 抗リン脂質抗体 抗 DNA 抗体 抗セントロメア抗体 抗 Scl-70 抗体 C3 C4 自己免疫疾患 膠原病 CH50 IgG IgA IgM など悪性高血圧症の除外 DIC( 播種性血管内凝固症候群 ) の除外 PT( プロトロンビン時間 ) APTT( 活性化部分トロンボプラスチン時間 ) FDP Dダイマーなど悪性腫瘍の除外感染症によるTMAの除外肺炎球菌 HIV インフルエンザウイルス 百日咳 水痘など妊娠関連 TMA HELLP 症候群の除外薬剤性 TMAの除外 : 抗悪性腫瘍薬 抗血小板剤 免疫抑制剤臓器移植 骨髄移植後 TMAの除外 疑わしい患者がいる場合には 後日必要な検査に出せるように 治療前の血漿 血清 便を凍結保存しておくことが大切である 図 13 ahus が疑われる場合の対応 ahus が疑われる場合 まずaHUSと類似する疾患 [ 血栓性血小板減少性紫斑病 (TTP) や志賀毒素産生性大腸菌感染による典型溶血性尿毒症症候群 (HUS)] との鑑別を行うことが重要 TTPの除外診断に際しては ADAMTS13(a disintegrin-like and metalloproteinase with thrombospondin type 1 motifs 13) という血漿中の酵素活性を測定し 10% 未満の場合には TTPが疑われる HUSの除外診断に際しては 便培養検査 志賀毒素直接検出などで便の検査を行う さらに二次性 TMA を来す疾患がないかを除外する必要がある ahus 診断のためのさらなる検査としては 補体等に関する様々な特殊な検査 遺伝子検査が必要となる これらの検査は 各医療機関を通じて 非典型溶血性尿毒症症候群 (ahus) の全国調査研究班 の事務局 (ahus-office@umin.ac.jp) で 疑わしい患者さんの検査を行っている 難病情報センター http://www.nanbyou.or.jp/entry/3847 15

近年の動向 ahusは 近年 研究が急速に進歩している疾患の一つで 2013 年にDGKE 2014 年にプラスミノーゲンと 新規原因遺伝子が次々と見つかっている また 現在 厚生労働省の難治性疾患克服研究事業 において 非典型溶血性尿毒症症候群 (ahus) の全国調査研究班 によるaHUSの疫学調査が行われている 一般社団法人日本腎臓学会では 同学会のウェブサイト上で ahusの臨床登録を呼びかけている 関連情報一覧 疾患の基本的な情報から 診断 治療 試験などの最新情報まで ahus に関 する情報収集にお役立てください 難病情報センター非典型溶血性尿毒症症候群 http://www.nanbyou.or.jp/entry/3847 非典型溶血性尿毒症症候群 (ahus) 疾患情報サイト http://www.ahussource.jp 2015 年 9 月現在 16

MEMO 17

2015年 5月改訂 2014年11月改訂 点滴静注製剤 緊急な治療を要する場合等を除いて 原則 本剤 投与開始前に髄膜炎菌に対するワクチンを接種すること 連する使用上の注意 及び 効能 効果に関 本剤投与に際しては 緊急な治療を要する場合等を除いて 原則 本剤投与開始の少なくとも2週間前までに髄膜炎菌に対するワクチンを接種すること