制御工学 3 第 8 章 : フィードバック制御系の設計法 8. 設計手順と性能評価キーワード : 設計手順, 性能評価 8. ID 補償による制御系設計キーワード : ( 比例 ),I( 積分 ),D( 微分 ) 8.3 進み 遅れ補償による制御系設計キーワード : 遅れ補償, 進み補償 学習目標 : 一般的な制御系設計における手順と制御系の性能評価について学ぶ. ループ整形の考え方を用いて, 遅れ補償, 進み補償による制御系設計を習得する. 感度関数 S( 8.3 進み 遅れ補償による制御系設計 低感度特性 ( パラメータ変動 ) : Δ 外乱抑制 : y Sd 目標値追従 : e Sr 相補感度関数 T ( r + 目標値追従 : y Tr ロバスト安定性 : W T < 雑音除去 : y Tn e d ( u ( + + y + + y SΔ n S( + ( ( T ( + ( 拘束 S( + T ( 周波数帯を分ける 低周波数帯 : S を小さくする高周波数帯 : T を小さくする 同時に に近づけることは出来ない S + より, 低周波域で を大きく ( >> ) S : 小 T より, 高周波域で を小さく ( << ) + T : 小 ( 閉ループ伝達関数から, 開ループ伝達関数へ ) lg ( j) S( j) T ( j ) lg ( j) << >> 感度関数 相補感度関数 3 [ rad / s] 図 8.9 ループ整形 4 ey ints 定常特性 : 低周波 () を大きくとる 速応性 : 交差周波数 減衰特性 : 余裕 を確保する [ 復習 ] 余裕 db 8 GM pc を高くする O [ ] 8 () >> << [ rad / s] 5 ey ints との関係 最小系 好ましくない遅れ db / dec 9 4dB / dec 8 不安定 緩やかなの傾き ( db/ dec ) ( 交差周波数付近 ) の傾きが急 ( 4dB / dec 以下 ) (sec. 5.4) [ ] 8 不安定 安定 [ rad / s] 6
制御工学 3 ey ints ( 低周波域 ) 開ループ を大きく 偏差定数, v が大 定常偏差 : 小, + v [ ] 型 4dB / dec 型 db / dec 型 ey ints ( 高周波域 ) ロール オフ特性 : 4 ~ 6dB/dec 以下 [ ] 目標値 ステップ状 型 ( s を含む ) db / dec ランプ状 型 ( s を含む ) 4dB / dec 8 [ rad / s] 7 8 [ rad / s] 8 ey ints 定常特性 : ループ整形 低周波 () を大きくとる 速応性 : 交差周波数 減衰特性 : 余裕 を確保する を高くする [ ] 8 () >> << 遅れ補償 コントローラ α( Ts + ) + 定常特性の改善 + lgα ( α > ) lg j) lgα lg j) lgα db / dec T [ 復習 ] 余裕 db 8 GM pc O [ rad / s] 9 ) α, ( ) 9 [ 注 ] 遅れ :( 安定性の劣化の原因 ) 折点角周波数 T を適切に 図 8. 遅れ補償のボード線図 遅れ補償と I 補償の比較 lg j) lg I ( j) lgα lg j) lgα db / dec T lg I ( j) db / dec T [ ] 9 遅れ補償器 α( Ts + ) + α 9 I 補償器 ( + ) Ts I 8 [ rad / s]
制御工学 3 遅れ補償の設計手順 [ ステップ] 余裕や交差周波数に着目し, 望ましい過渡応答特性が得られるように補償 を決める. [ ステップ] [ ステップ] の を用いて開ループ伝達関数のボード線図を描き, その低周波を評価する. [ ステップ3] 低周波が + lgα 上がることを考慮し, 定常特性に関する仕様を満たすようにパラメータの値を定める. [ ステップ4] 遅れにより安定性が劣化しないように, 折点角周波数 T を交差周波数より dec 程度下になるように選ぶ. もうひとつの折点角周波数を /( ) と定める. [ ステップ5] 以上で設計パラメータ,α, T が定められたので, 遅れ補償を構成する. 3 α [ 例 8.3 ] 制御対象 ( s + )( s + ) 性能仕様速度偏差定数 ( 定常特性 ) v 余裕 ( 減衰特性 ) 4 [ ステップ] 余裕や交差周波数に着目し, 望ましい過渡応答特性が得られるように補償 を決める. 交差周波数.8 [rad/sec] 余裕 47 4 を満たす O [ ] 4 9 5 8 47.8 [rad / s] 図 8. 遅れ補償と開ループ特性 4 [ ステップ] [ ステップ] の を用いて開ループ伝達関数のボード線図を描き, その低周波を評価する. 開ループ伝達関数 s + )( s + ) 速度偏差定数 ' lim s'( v s ( ) lim s ( s + )( s + ) 性能仕様は v 低周波 倍以上必要 [ ] 4 9 5 8 '. 8 47 図 8. 遅れ補償と開ループ特性 5 [ ステップ3] 低周波が + lgα 上がることを考慮し, 定常特性に関する仕様を満たすようにパラメータの値を定める. 低周波 倍で 速度偏差定数 lg j) db / dec lgα lg j) 9 α lgα v T [ ] 4 9 5 8 lgα '. 8 47 α 6 [ ステップ4] 遅れにより安定性が劣化しないように, 折点角周波数 T を交差周波数より dec 程度下になるように選ぶ. もうひとつの折点角周波数を /( ) と定める. T (.) と選べば, 交差周波数 より十分に小さい. 折点角周波数.,. T / /T [ ] 8 / /T [ rad / s] [ ] 4 9 5 8 '. 8 47 7 [ ステップ5] 以上で設計パラメータ,α, T が定められたので, 遅れ補償を構成する. 遅れ補償 α( Ts + ) +, α, T (s + ) s + s +. s +. 交差周波数 余裕 4.8 [ ] / 4 9 5 8 ' /T. 8 47 4.7 8 3
制御工学 3 [CHEC] 性能仕様速度偏差定数 ( 定常特性 ) v 余裕 ( 減衰特性 ) 4 ( ( ( s +.) s +.)( s + )( s + ) v lim s. O 4. 8 O ステップ応答, ランプ応答 O y (t) y(t ).5.5 3 ステップ応答 ランプ応答 9 進み補償 コントローラ Ts + + ( α < ) 過渡特性の改善, 安定化 進み < < T [ 注 ] 高周波 大 lg j) lg( / α) lg( / α ) lg ( j) 9 + db / dec T φ ノイズ増幅 ロバスト安定性の劣化 が最も進む角周波数 図 8.3 進み補償 のボード線図 α 進みの最大値 α + α + 8 章演習問題 [4] ベクトル軌跡で見る進み補償 制御対象 ( ˆ, : 補償 進み補償余裕を増加させる ˆ Im Re 補償のみ Im Re [ ] 3 大 進み補償 8 [ rad / s] [ ステップ] 速応性や定常特性に対する仕様が満たされるように, 補償 の値を決める. [ ステップ] [ ステップ] の を用いて開ループ伝達関数 ˆ( ( のボード線図を描き, その余裕 を評価する. 与えられた余裕 とこの との差 ˆ φ が, 必要な進み量となる. これに適当な ( 例えば 5 以上の ) 余裕を考慮し, ( φ ˆ φ + 5 以上 ) と定める. α + 進み補償の設計手順 [ ステップ3] から, パラメータの値を決める. α [ ステップ4] 進み補償では最もが進む角周波数で, が α 倍に上がる. そこで ˆ ( j) が α ( lg α ) である角周波数を, 補償後の新しい交差周波数 とおく. [ ステップ5] から, パラメータ T の値を決める. このとき進み補償の折点角周波数は, / T α, /( α T ) / α となる. [ ステップ6] 以上で設計パラメータ,α,T が定められたので, Ts + から, 進み補償を構成する. + 3 4 4
制御工学 3 [ 例 8.4 ] 制御対象 ( s + )( s + ) 性能仕様交差周波数 ( 速応性 ) 余裕 ( 減衰特性 ) 4 [ ステップ] 速応性や定常特性に対する仕様が満たされるように, 補償 の値を決める. 補償 5 開ループ伝達関数 5 ˆ( s + )( s + ) 交差周波数 ˆ. > を満たす O [ ] 4 4 9 5 8 3.6 図 8.4 開ループ特性 5 ˆ ˆ. [ ステップ] [ ステップ] の を用いて開ループ伝達関数 ˆ( ( のボード線図を描き, その余裕 を評価する. 与えられた余裕 とこの との差 ˆ φ が, 必要な進み量となる. これに適当な ( 例えば 5 以上の ) 余裕を考慮し, ( φ ˆ φ + 5 以上 ) と定める. 余裕 3.6 性能仕様は 4 ˆ φ 4 3.6 6. 4 ( 必要な進み量 ) φ φˆ + 36. 4 ( マージン ) [ ] 4 4 9 5 8 3.6 ˆ ˆ. 図 8.4 開ループ特性 6 [ ステップ3] から, パラメータの値を決める. α + φ α.55 α + Ts + + 36. 4 [ ] 4 4 9 5 8 α 3.6 ˆ ˆ. 図 8.4 開ループ特性 7 [ ステップ4] 進み補償では最もが進む角周波数で, が α 倍に上がる. そこで ˆ ( j) が α ( lg α ) である角周波数を, 補償後の新しい交差周波数とおく. ˆ( j ) α.55 に下がっている. lg ( 後で db に上がる. ) 3. [ ] 8 [ rad / s] [ ] ˆ. α 4 lg α 4 9 5 8 3.6 図 8.4 開ループ特性 8 ˆ 3. ˆ. [ ステップ5] から, パラメータ T の値を決める. このとき進み補償の折点角周波数は, 折点角周波数.5, T / T α, T T.66 α 3., α. 55 5.94 /( α T ) / [ ] 4 lg α 4 9 5 8 α となる. 3.6 /T / ˆ ˆ. 図 8.4 開ループ特性 9 [ ステップ 6] 進み補償 Ts + + 5,α.55, T.66.66s + 5.55.66s + 9.6( s +.5) s + 5.94 交差周波数 余裕 38 以上で設計パラメータ,α,T が定められたので, Ts + から, 進み補償を構成する. + 3. 9 38 5 8 3.6 /T / [ ] 4 4 ˆ. ˆ 3. 図 8.4 開ループ特性 3 5
制御工学 3 [CHEC] 進みー遅れ補償 性能仕様交差周波数 ( 速応性 ) 余裕 ( 減衰特性 ) 4 3.( ) O 38 O ステップ応答 O y(t).5.5 4 3 T α ( Ts + ) s + ( α α Ts + T s + 進み α <, α ) ( > [ 注 ] 多段にしても良い 定常特性 過渡特性の改善 + lgα 進み : < < T α T [ 注 ] 遅れ, 高周波 遅れ lg j) lg( α ) lg( / α) lg /( α ) j) T / T / T /( α T ) [ rad / s] 9 9 db / dec + db / dec [ rad / s] 図 8.6 進みー遅れ補償 3 のボード線図 [ ] 8 [ rad / s] 33 [ 例 8.5 ] 5 制御対象のモデル. ( 5 s +.4s +. 遅れ ( I 補償 ) s I ( +. 9 s 8 7 I 低周波 : 大 36 進み 4.3( s +.53) (.4 s + 7. 5. 進み- 遅れ補償 43( s +.)( s +.53).8 ( s ( s + 7.5).6 [ ] 交差周波数 : 大.4 傾き : 緩. 余裕 : 十分 4 t 6 8 34 y(t) 43( s +.)( s +.53) ( ( s + s + s + 7.5)( s + s + ) ロール オフ特性.5 5 5.5 9 8 7 4 6 8 36 [ ] [ ] 8 [ rad / s] 35 36 6
制御工学 3 実際の制御対象 : ~. ( s +.4s +. s a ) 進み- 遅れ補償 : ( b ) ロール オフ特性を有する進み- 遅れ補償 : 5 +. 5s + 5 43( s +.)( s +.53) s + 7.5) ( ( s + s + 振動モード 37 [ ] 3 ~ ~.5 ~ 3 3 3 4 6 8 5 ~ 6 ~ 5 ~ ~ 8 9 ~ 4 8 7 ~ 4 4 6 8 36 38 y(t) u(t).5 実際の制御対象 : ~. ( s +.4s +. s a ) 進み- 遅れ補償 : 5 +. 5s + 5 振動モード ( c ) ノッチフィルタを備えた進み - 遅れ補償 : ( N s +.3 5s + 5 s +. 5s + 5 43( s +.)( s +.53) s + 7.5) s + ζ ns + s + ζ s + n n n 39 [ ] 3 ~ N ~ ~.5 ~ 3 3 5 ~ 3 4 6 8 ~ N 6 ~ 5 ~ ~ 8 9 ~ 4 8 7 ~ 4 4 6 8 36 4 y(t) u(t).5 ~ N 第 8 章 : フィードバック制御系の設計法 8. 設計手順と性能評価キーワード : 設計手順, 性能評価 8. ID 補償による制御系設計キーワード : ( 比例 ),I( 積分 ),D( 微分 ) 8.3 進み 遅れ補償による制御系設計キーワード : 遅れ補償, 進み補償 学習目標 : 一般的な制御系設計における手順と制御系の性能評価について学ぶ. ループ整形の考え方を用いて, 遅れ補償, 進み補償による制御系設計を習得する. 4 フィードバック制御のまとめ ( 学習目標 ) 第 章 : 序論. 制御とは. 制御系の標準的構成と制御目的.3 フィードバック制御の利点と課題学習目標 : フィードバック制御の利点を理解する. 第 章 : ダイナミカルシステムの表現. ダイナミカルシステム. 伝達関数表現.3 ブロック線図学習目標 : ダイナミカルシステムの伝達関数表現を理解する. 第 3 章 : ダイナミカルシステムの過渡応答と安定性 3. インパルス応答とステップ応答 3. 次系の応答 3.3 次系の応答 3.4 極 零点と過渡応答 3.5 ダイナミカルシステムの安定性学習目標 : システムの過渡応答特性を理解し, 極の位置との関係 を把握する. また, システムの安定性の概念を理解する. 4 7
制御工学 3 第 4 章 : フィードバック制御系の特性 4. 感度特性 4. 定常特性 4.3 根軌跡学習目標 : フィードバック制御系の感度特性 定常特性を理解する. 第 5 章 : 周波数応答 5. 周波数応答と伝達関数 5. ベクトル軌跡 5.3 ボード線図 5.4 ボード線図性質学習目標 : システムの周波数応答を理解し, ベクトル軌跡 ボード線図による表示を習得する. 第 6 章 : フィードバック制御系の安定性 6. フィードバック系の内部安定性 6. ナイキストの安定判別法 6.3 余裕, 余裕学習目標 : フィードバック系の内部安定性を理解し, ナイキストの安定判別法を習得する. さらに安定余裕について理解すること. 43 第 7 章 : フィードバック制御系のロバスト性解析 7. 不確かさとロバスト性 7. ロバスト安定性 7.3 制御性能のロバスト性学習目標 : モデルの不確かさとフィードバック制御系のロバスト性について理解する. 第 8 章 : フィードバック制御系の設計法 8. 設計手順と性能評価 8. ID 補償による制御系設計 8.3 進み 遅れ補償による制御系設計学習目標 : ループ整形の考え方を理解し, フィードバック制御系の設計法を習得する. 第 9 章 : 自由度制御系 9. フィードフォワードとフィードバックの役割 9. 自由度制御系の構造と設計法 9.3 安定化制御器のパラメータ表現 9.4 H 制御による自由パラメータの選択学習目標 : 自由度制御系の構成について理解する. 44 8