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品質管理システム 統計的手法を用いた抜き取り検査 小長井和裕 KAZUHIRO KONAGAI 日本ねじ研究協会誌 第 44 巻第 3 号抜刷 平成 25 年 3 月 20 日発行 ベクトリックス株式会社 171-0043 東京都豊島区要町 1-4-11 サダシン要町ビル TEL:03-5995-3800 FAX:03-5995-3831

統計的手法を用いた抜き取り検査 小長井和裕 KAZUHIRO Konagai 1. はじめに 1ロット10 万本で生産したねじからサンプル 10 本を抜き取って検査を行った結果 サンプルは10 本とも全て合格だった 残りの 99,990 本のねじは全て合格か? 私はパソコンでの品質管理システム QCプロ を開発して 20 数年になるが その開発のきっかけとなったのは上記のねじ製造現場からの素朴な質問であった 当時は ほとんどのねじメーカーでは納入時に提出する検査成績表の作成にあたりサンプル 10 本の検査を行い 手書きで作成していた時代であった そこで私は 前述の素朴な質問に答えるべく統計的手法による品質管理をパソコンソフトに組み込み 測定データの自動入力機能を備えた検査成績表自動作成システム QCプロ の開発を思いついたのである 当時は今と違って まだパソコンは高価なもので マウスもなく操作性も悪いものであったが QCプロ は瞬く間にねじ業界をはじめ全国の製造業の検査室に導入された そしてその後の Windows の出現とともに パソコンの低価格化と高性能化が進み それに伴い品質管理ステム QCプロ もバージョンアップを重ねて 2012 年 11 月にはバージョン 8 を発売するまでに至った そこでこの度 統計的手法による抜取り検査の仕組みとその基本理論を現場の立場に立って 平易に解説することとした 2. ばらつきの理論 1 抜き取りサンプルの解析ランダムに採取した抜き取りサンプルは全く同じ測定値ではない 必ず僅かであるが少しずつ違っている これが ばらつき である このランダムで採取したサンプルの ばらつき を解析して 1 ロット ( 母集団 ) が合格しているか否かを判定する これが統計的手法による抜き取り検査である そのためにはサンプルの ばらつき を数値化する必要がある この ばらつき の数値化こそが統計的手法の最初の 1 歩となる 言い換えれば統計的手法の基本は ばらつき を数値で表現することから始まる 1

2 ばらつき の数値化 1) ばらつき の概念 1( 偏差の合計 ) 下図は 8 個の測定値 Xnとその平均値 Xbar との差異を表したものである この測定値 Xnと平均値 Xbar との差異を品質管理では 偏差 という 上図 8 個の偏差の合計 =(Xbar-X1)+(Xbar-X2)+ +(Xbar-X8)=0 各偏差を合計すると 0 になる 2) ばらつき の概念 2 ( 分散 ) 各偏差には+-があるため単純に合計すると 0 になる (0 になるところが平均値 ) ため 0 では ばらつき の数値化の基とすることができない そこで各偏差を 2 乗して全て+にしてから合計する その合計した式 (1) が偏差平方和 Sで ばらつき の数値化の基となる S=(Xbar-X1) 2 +(Xbar-X2) 2 + +(Xbar-Xn) 2 式 (1) この偏差平方和 Sを個数 nで除した ( 割り算 ) 式 ( 2) が分散 σ 2 である σ 2 = S/n 式 (2) つまり分散 σ 2 とは ばらつき を数値にしたものである 3) ばらつき の概念 3( 標準偏差 ) 通常 分散 σ 2 は小数点以下の小さな数字を 2 乗しているため 式 (3) 範囲 R と比べて極端に小さな値となるため ばらつき の数値としては扱いにくい R= 最大値 (MAX)- 最小値 (MIN) 式 (3) そこで分散 σ 2 を平方根して数値として扱い易くしたものが式 (4) の標準偏差である σ= σ 2 式 (4) 一般的に ばらつき を数値にしたものとは この標準偏差 σのことである 2

しかし 式 (4) は母集団の標準偏差としては問題が無いが 抜き取りサンプルの場合 サンプルの数が少ないと式 (4) の標準偏差 σは信頼度に欠ける そこで考案されたのが n-1 理論 である n-1 理論 とはサンプル数が少ないとペナルティを与えて ばらつき としての数値 つまり 標準偏差 σを大きくして需要者側から見て安全側に補正するという理論である その方法は 偏差平方和 Sを個数 nで除する ( 割り算 ) のではなく (n-1) で除してその商を大きくする式 (5) の方法である σ= {S/(n-1)} 式 (5) サンプルの標準偏差とは 式 (4) のσではなく 式 (5) のσが標準偏差となっている この n-1 理論 により標準偏差 σは 抜き取りサンプル数の大小に関係なく ばらつき の数値として問題なく扱えることとなった また 数量 nが多くなればなるほど 式 (5) が示す通り 式 (4) と式 (5) より算出された標準偏差 σの差は殆ど無くなり近似する そこで今日ではサンプルの標準偏差と母集団の標準偏差との区別を特に設けず 式 (5) を標準偏差 σとしている 尚 標準偏差 σの単位は測定値と同じ単位となり mm なら mm gならgとなる 3. 標準偏差とヒストグラム 図 (1) のグラフは 平均値 Xbar 標準偏差 σ 正規分布曲線の関係を示したものである 図 (1) 図 (1) は横軸が測定値で 式 (3) で算出した範囲 R を 10 等分している 各々の測定値を 3

10 等分にクラス分けして個数を数え 横軸の上にその数えた個数を積み重ねて棒グラフを作成する よって縦軸は個数となる この図 (1) のグラフをヒストグラムという そして 中央に配置された曲線は正規分布曲線である 左右両端の縦線は平均値 Xbar±3σ の位置で測定値 Xnと同じ単位で示している 安定している生産状態 ( 統計的管理状態 ) では 各測定値 Xnの個数の分布配置は 図 (1) のヒストグラムが示す通り正規分布曲線と近似した配置となる また正規分布曲線の中央が平均値 Xbar となる ここで注目して頂きたい点は Xbar±3σの値が正規分布曲線の左右それぞれの裾の位置 ( 個数 0 の近辺 ) にあるということである つまり殆ど の測定値 Xnは Xbar±3σ( 図 (1) ヒストグラム左右両端の縦線の内側 ) に入るため 下記の式 (6) が成立する Xn<Xbar±3σ 式 (6) この式 (6) が統計的手法による計算式の原点となっている 殆どとは 99.73% であり 式 (6) は 99,73% の確率で成立する 尚 この確率の算出式は かなり高度な数式となり本稿の趣旨にそぐわないため割愛する 4. 工程能力指数 Cp 1Cpの理論式 (6) により Xbar±3σ の範囲 (6σ) の外側に規格の範囲 ( 公差 ) があれば 母集団 ( ロット ) のXnは規格の中に 99.73% 入ることとなる つまりサンプルの 6σが規格の範囲 ( 公差 ) より小さければ 抜き取りサンプルの測定で 母集団 ( ロット ) は概ね合格と判断できることとなる 逆にサンプルが全て規格内に入っていて合格であっても その6σが公差より大きい場合は そのロットは不合格と判定できる これが統計的手法を用いた抜き取り検査の基となる理論であり その理論の基に 生産工程の品質能力 を指数で表記したものが工程能力指数 Cpである 尚 Cpとは Process Capability の略である 2Cpの算出方法前述の理論により工程能力指数 Cpは 下記の式 (7) で算出される Cp=( 公差 )/(6 倍のサンプルの標準偏差 ) =( 規格の上限値 SU- 規格の下限値 SL)/ 6 標準偏差 σ =(SU-SL)/ 6σ 式 (7) 4

式 (7) のCpが 1 以上であればロットは概ね合格となり 1 以上の大きな数値 ( 指数 ) になればなるほどロットの合格の確率は上がり 充分に工程能力があるということになる 但し 規格の中央 Mにサンプルの測定値 Xnの平均値 Xbar があるという条件が付く 5. 偏りを見た工程能力指数 Cpk 1Cpk の理論規格の中央 Mに測定値 Xnの平均値 Xbar があるというのは稀である 通常平均値 Xbar は どちらかに偏っているものである そこで 平均値 Xbar が規格の中央 Mから偏っている分を割り引いて 式 (7) の工程能力指数 CPを小さく評価しようという方法が考案され これが 偏りを見た工程能力指数 Cpk である 今日では工程能力指数といえば この偏りを見た Cpk を指す 尚 Cpk のkは 日本語の偏り katayori の頭文字である 2Cpk の算出方法 図 (2) は規格の中央 M に対して 平均値 Xbar の偏りを示したものである 図 (2) 規格の中央 Mに対して平均値 Xbar の 偏りの割合 Kは 式 (8) となる K= 偏り /( 公差 /2) = M-Xbar /{(SU-SL)/2} = (SU+SL)/2-Xbar /{(SU-SL)/2} = (SU+SL)-2Xbar /(SU-SL) 式 (8) 5

そこで 式 (8) で算出した 偏りの割合 Kを式 (7) のCPに組み込んだ 偏りを見た工程能力指数 Cpk は式 (9) となる Cpk=(1-K)Cp 式 (9) この Cpk の考案により 平均値 Xbar が規格の中央 Mから偏っていても 工程能力の指数として使用することが可能となった 3 合格基準 Cpk 1.33 以上とは? サンプル 10 本の Cpk 1 で ロットは殆ど (99.73%) が合格となる と言うことは 0.27% は不合格になると言うこともできる 1ロット 10 万本のねじの 0.27% は 270 本となり 凄く多い不良のねじの本数である それならば Cpの式 (7) を 6σで除するのではなく 安全を見て8σで除したい でも公式は 6σとなっている どうしよう! そこで品質管理の現場で考案されたものが Cpk 1.33 である これは 8/6 は 1.33 となり Cpk 1.33 とすれば 8σで除した Cpk 1 と同じ結果になる よって ねじ業界では通常 Cpk 1.33 を抜き取り検査の合格基準としている 因みに充分な安全を見た 10σ 対応の合格基準の Cpk は 10/6 の 1.67 となり 重要な箇所に対しては Cpk 1.67 を合格基準としている現場や企業 業界もある ここで 本稿冒頭のねじ製造現場からの質問に下記回答する サンプル10 本の全検査項目の測定値が Cpk 1.33 であれば 残りの 99,990 本の検査項目に関しては合格と判定し Cpk<1.33 では残りの 99,990 本の中に不合格品が入っているため そのロットは不合格と判定する 6. あとがき統計的手法による品質管理についての書籍 文献 解説書などの多くは 高度な専門知識と高度の数学を必要とし ねじ業界に従事する一般社員が理解するには難しいとの多くの現場の声を聞き 本稿の執筆にあたった そして専門各位の批判を覚悟に ねじ業界の統計的手法の理解とその普及を第一優先にして 確率計算式のブラックボックスや筆者独自の持論も取り入れて 統計的手法による抜き取り検査の仕組みと基本理論を平易に解説したものである 末筆ながら 統計的手法と進化し続けるITを活用して ねじ業界を含めた全ての製造業の世界に誇る品質管理体制の構築を願ってやまない < 参考文献 > 6

1. 外島忍著 要説品質管理 日本規格協会 2. 坂本碩也著 品質管理テキスト 理工学社 3. 草場郁郎著管理図活用の基本と応用日本規格協会 4. 三浦新, 今泉益正著品質管理講座 日本規格協会 5. JIS ハンドブック品質管理 日本規格協会 7