多発性骨髄腫の腎病変と MGRS 要旨 多発性骨髄腫 (multiple myeloma:mm) は, その経過中に2 人に1 人は腎障害 (renal impairment:ri) を合併し, 腎障害は予後不良因子である. その腎障害はいくつかの障害機序に分かれ, 多彩な腎病理像を呈し, 骨髄腫のみならず,MGUS(monoclonal gammopathy of undetermined significance) の段階でも起こり得る. 近年,MGUS 合併の腎障害の中で M 蛋白が強く腎病態に関与する疾患を新たにMGRS(monoclonal gammopathy of renal significance) と提唱し,M 蛋白への早期介入が検討され始めており, 臓器予後を見据えた視点での評価や血液内科以外からのアプローチも期待される. 水野真一 日内会誌 105:1224~1230,2016 Key words 骨髄腫腎,MGUS,MGRS, 腎臓内科, 蛋白尿 はじめに多発性骨髄腫 (multiple myeloma:mm) と腎障害 (renal impairment:ri) は古くから密接な関係があり,1840 年代に初めてMMの患者が報告された数年後にHenry Bence JonesがMMにおける異常な尿蛋白を報告している. これが後の Bence Jones protein(bjp) であり,kappa(κ) とlambda(λ) の2 種類の軽鎖が同定された. 正常な免疫グロブリンを構築する重鎖と軽鎖以外にも余分に産生される遊離軽鎖 (free light chain:flc) は, そのκ/λ 比の異常が診断や治療マーカーとして重要とされている. 今回, その FLCによる多様なRIの病態と臨床的特徴のほ か, 新たに提唱されたmonoclonal gammopathy of renal significance(mgrs) について概説する. 1. 骨髄腫と腎障害の疫学 RIは新規発症 MMの約 2~4 割に認められ, 約 1 割は透析が必要となり, 経過中に約半数の症例がRIを呈する 1).RI は治療対象となる症候性骨髄腫の重要な骨髄腫診断事象の1つである ( 表 ) 2). 近年の欧米の報告では, 約 5 割の新規 MM 症例が糸球体濾過率 (glomerular filtration rate: GFR)60 ml/ 分 /1.73 m 2 未満のRI, つまり慢性腎臓病 (chronic kidney disease:ckd) のステージ 3 以上を合併していたと報告され, この頻度は 地域医療機能推進機構仙台病院腎臓疾患臨床研究センター Multiple myeloma:from diagnosis to the up-to-date treatment. Topics:IV. Multiple myeloma with renal impairment and monoclonal gammopathy of renal significance. Shinichi Mizuno:Department of Nephrology, Japan Community Health Care Organization Sendai Hospital, Japan. 1224 日本内科学会雑誌 105 巻 7 号
特集 多発性骨髄腫 : 診断のポイントから最新の治療まで 表 骨髄腫診断事象 (myeloma defining events: MDE)( 文献 2 より一部改変 ) 骨髄腫診断事象 (Myeloma Defining Events:MDE) a. 腎機能低下 : 以下のいずれか 1) 推算糸球体濾過率 (egfr) の年 35% 以上の低下 ( 他に原因がないこと ) 2) ほかに原因がなく egfr<50 ml/min/1.73 m 2 3) 腎生検で light chain cast nephropathy を認める b. 貧血 :Hb<10 g/dl c. 骨病変 d. 高カルシウム血症 : 補正血清カルシウム >11 mg/dl e. 症候性粘稠度亢進症状ただし以下は MDE とみなさない アミロイドーシス, 単クローン性免疫グロブリン沈着症 (MIDD) のみで他の MDE を認めない場合 年 2 回を超える細菌感染のみ 神経症状の存在 1990 年からほぼ変化していない 3). なお MM 発 症時のRIの程度が重度なほど, 生命予後も悪化し,RIは予後不良因子である. 2. 骨髄腫腎について MMのRIで一番頻度が高い腎病態は円柱腎症であり, 骨髄腫腎とも呼ばれ, 急性腎障害で発症する. 遠位尿細管付近で過剰な軽鎖と正常でも存在するTamm-Horsfall 蛋白 (THP) が結合し, 円柱を形成することで尿細管を閉塞し, 乏尿を来たす. そして同部位への炎症性細胞の浸潤による尿細管細胞の傷害が起こり, サイトカインによるアポトーシスや間質の線維化も進行し, 徐々に慢性腎不全に至る. MMのRIではFLC 自体の腎毒性による直接的傷害機序も考えられる ( 図 1) 4). 本来, 血液中のFLCは低分子蛋白のため容易に糸球体から濾過されるが, 健常者の場合, 近位尿細管細胞 (proximal tubular cell:ptc) で再吸収され, ライソゾームで処理されるため, ほとんど尿中には検出されない.MM では大量のFLCが糸球体で濾過され,PTCで過剰な再吸収が起きると, 酸化ストレスが生じ,NFκB などを介して炎症性サイトカインが産生され, 尿細管間質の炎症や線 維化, アポトーシスを誘導し, 腎障害が進行していく. これにより,PTCの水 電解質, 酸塩基の調節能が崩れ, 尿細管性アシドーシスや腎性糖尿, 汎アミノ酸尿を呈するとFanconi 症候群に進展する. なお,Fanconi 症候群はM 蛋白の沈着や結晶蓄積による尿細管細胞への障害などあらゆる原因で起こり得る. また, 過剰な軽鎖を再吸収しきれなくなると, 遠位尿細管へ過剰な軽鎖が流出し, 円柱を形成しやすい環境が整う. この病態を考慮すれば, 円柱腎症の発症以前, つまり, 骨髄腫細胞で過剰なFLCが産生されている段階からすでに腎組織では潜在的に腎障害が進行していることになり, 現在の骨髄腫診断事象の基準では腎保護の視点からは課題が残る. 3. 骨髄腫腎の治療 MM 同様の新規薬を併用した治療を行う. 新規薬の中でもボルテゾミブは図 1のごとく,FLC 産生を抑えることによる間接的な腎保護作用だけでなく,NFκB を抑える作用も示唆されているため,PTCでの炎症を直接抑える作用も期待される. また, 同薬剤は腎不全でも用量調整が不要であるため, 腎不全症例では使用しやすい. なお, 骨髄腫腎において21 日以内にFLCを60% 減少させると8 割の症例で腎機能の改善を認め, かつ生命予後も延長したと報告されており 5), 近年,FLCの除去を目的とした血漿交換や特殊なダイアライザーを使用した血液透析 (high cut-off membrane hemodialysis) も期待されているが, まだその明確な治療介入基準はない. 対症療法として補液や尿のアルカリ化, 腎毒性のある薬剤の使用を控えることも重要であり, 尿毒症症状が顕著な腎不全例では透析も検討する. 日本内科学会雑誌 105 巻 7 号 1225
部位 形質細胞 ( 骨髄腫細胞 ) 糸球体 近位尿細管細胞 尿細管間質 病態 FLC の過剰産生 FLC の過剰濾過 過剰な FLC のエンドサイトーシス アミノ酸尿酸化ストレス 腎性糖尿電解質異常 c-src,ask1 MAPK pathway NFκB pathway 炎症性サイトカインやケモカインの産生 (IL-6,IL-8,MCP-1,TGF-β,etc.) 炎症 & 線維化 & アポトーシス 抗腫瘍効果新規薬 ( 間接的腎保護作用 ) 血漿交換 / HCO-HD 直接的 FLC 除去 Fanconi 症候群 直接的腎保護作用? ボルテゾミブ? 尿細管性アシドーシス尿細管における再吸収機能障害 THP FLC と THP の結合 近位尿細管で再吸収しきれなかった過剰な FLC 遠位尿細管へ [risk factor] 脱水 / 酸性尿 NSAIDs / 利尿剤 CDR3 の配列による親和性 円柱形成による閉塞 円柱腎症 尿への排泄 腎不全 炎症性細胞浸潤 乏尿 ( 急性腎障害 ) Bence Jones 蛋白 図 1 軽鎖による腎障害のメカニズムと治療 ( 文献 4 より一部改変 ) FLC:free light chain,thp:tamm-horsfall glycoprotein,hco-hd:high cut-off hemodialysis,ask-1:apoptosis signal-regulating kinase 1,MAPK:mitogen-activated protein kinase,nfκb:nuclear factor-kappa B, MCP-1:monocyte chemoattractant protein-1,tgf-β:transforming growth factor-β,cdr3:complementarity determining region 3,NSAIDs:nonsteroidal anti-inflammatory drugs 4.M 蛋白によるその他の腎障害 M 蛋白が関与する腎障害は前述した円柱腎症以外にも多数存在し, その腎病態は障害される部位により図 2のように分類され, 障害される部位により臨床症状も異なり, 円柱腎症のように尿細管間質が障害される場合は,GFRの低下がメインとなる.ALアミロイドーシスやmono- clonal immunoglobulin deposition disease (MIDD) のように糸球体が主に障害される場合は蛋白尿がメインで, 時にネフローゼ症候群で発症する. これらの腎疾患は, 腫瘍細胞から産生された M 蛋白やその一部の断片化した蛋白が沈着した り, 結晶を形成し蓄積したりすることで障害を起こす. 沈着する線維の形状や特異な構造の違いにより図 2のような多彩な腎病理診断名となる.MMによる高 Ca 血症による二次的な腎障害や NSAIDs(nonsteroidal anti-inflammatory drugs), 造影剤などの腎毒性薬物も腎障害の一因と考えられ, 特殊なtypeとしてC3 腎症 with monoclonal gammopathyも挙げられる.c3 腎症自体は補体系の異常によりC3のみが沈着する膜性増殖性糸球体腎炎で, その中でもM 蛋白が補体制御因子に対する自己抗体活性をもつものが, 同疾患として位置づけられている. 以下に代表的なALアミロイドーシスとMIDDについてその特徴を記載する. その他の疾患は非常に稀 1226 日本内科学会雑誌 105 巻 7 号
特集 多発性骨髄腫 : 診断のポイントから最新の治療まで [ ネフロン ] [ 障害部位および障害パターンと病名 ] [ 血液学的評価 ][ 新規骨髄腫薬 ] 糸球体 ( 臨床症状 : 蛋白尿 >egfr ) AL アミロイドーシス Monoclonal immunoglobulin deposition disease(midd) クリオグロブリン腎炎細線維性腎炎イムノタクトイド腎症 PGNMID C3 腎症 with monoclonal gammopathy Myeloma MGUS MGRS * 尿細管間質 ( 臨床症状 :egfr > 蛋白尿 ) 円柱腎症腫瘍浸潤 Others( 脱水,NSAIDs, 高 Ca 血症など ) Light chain proximal tubulopathy (±Fanconi 症候群 /± 結晶蓄積 ) 結晶蓄積性組織球症 MIDD AL アミロイドーシス Myeloma MGUS MGRS * * 推奨治療 ( 本邦ではまだ保険適応なし ) 図 2 M 蛋白の腎障害部位とその代表的疾患およびMGUS-MGRS-Myelomaの関連 M 蛋白に由来する腎障害部位は糸球体と尿細管間質に分けられ, 前者は蛋白尿, 後者は腎機能障害を呈しやすい. 主な代表的疾患は図のごとくである.MGRSの提唱によりM 蛋白を産生する細胞を標的とした早期治療介入が検討されている. MGUS:monoclonal gammopathy of undetermined significance,mgrs:monoclonal gammopathy of renal significance,pgnmid:proliferative glomerulonephritis with monoclonal IgG deposits な疾患のため割愛する. 1)ALアミロイドーシス高齢者のネフローゼ症候群の原因となり, 全身臓器にM 蛋白由来のアミロイド蛋白が沈着し, 多彩な全身症状を呈する.FLCの異常比を呈することが特徴で, 病理学的にはコンゴーレッド陽性の結節病変を糸球体に認め, 小 細動脈壁や尿細管への沈着も認める. 典型的な軽鎖型の場合,κ,λ の免疫染色で偏りがある. 電子顕微鏡においては, ランダムに錯綜する8~ 10 nmの細線維構造を認める. 無治療の場合, 予後は約 1 年とされ, 心アミロイド合併の場合はさらに不良である. 2)MIDD 腎生検症例の約 0.5% に認め 6), 円柱腎症の合併も約 20% に認める. 腎臓以外にも多臓器に障害を認めることがある. 蛋白尿がメインで, 約半数に血尿を伴う.FLC の異常比も8 割以上の症例で認める. 病理学的にはコンゴーレッド陰性の糸球体の結節様病変や膜性増殖性糸球体腎炎様変化を認める. 免疫染色では軽鎖, 重鎖のサブクラスにて単クローン性の沈着を認める. 電子顕微鏡では基底膜に細線維構造のない細顆粒状沈着を認める. 円柱腎症を伴うMIDDでは腎予後は不良で約 4カ月とされる 7). 日本内科学会雑誌 105 巻 7 号 1227
5.M 蛋白の質と腎病態なぜM 蛋白が多様性のある腎病理像を呈するかは,M 蛋白の種類や性質, 構造の違い, そして沈着する臓器や部位との親和性, 共存蛋白や液性因子の存在など, あらゆる因子の関連が示唆されている. 例えば, 円柱腎症は軽鎖における超可変領域のcomplementarity determining region 3の配列の違いにより,THPとの親和性が異なり,M 蛋白の 量 ではなく 質 も重要であることが近年明らかになった 8). また, 沈着するM 蛋白の特徴として, アミロイドーシスではλ 鎖が多く, 中でも腎アミロイドでは軽鎖のvariable regionのvλ6 サブグループが多く, 逆にMIDDではκ 鎖が多く,Fanconi 症候群では Vκ1 が多い. 6.MGRSとは前述した多彩な腎病態は,MMのみならず, monoclonal gammopathy of undetermined significance(mgus) でも起こり ( 図 2), しばしば MGUS 合併の腎障害などと報告されてきた. MGUSは年に1% 程度がMMに移行するとされるが, 血液学的に治療対象ではない.MMに進展することなく, 蛋白尿や腎機能障害を呈する MGUS 患者は,M 蛋白の組織親和性やその腎病態への関与を考慮すれば,M 蛋白量や腫瘍量が少ない小さなクローンであっても, 腎臓にとっては異常なクローン, すなわちdangerous small B cell cloneとも考えられてきたが 9),M 蛋白に対するMM 同様の治療対象にはならず, 確立した治療はなかった. しかし,2012 年にMGUS 合併の腎障害の中で, 血液学的にMMの診断および治療介入基準を満たさずとも,M 蛋白が強く腎病態に関与している疾患群をMGRSという概念で総称し, そのM 蛋白を産生するクローン細胞を標的とした早期の治療介入を検討すべきと提唱された 10). さらに近年,MGUS だけでなくクローン性 B 細胞が産生するM 蛋白による腎障害へも, そのB 細胞を標的とした治療が検討されている. ただ, MGRSの有病率や治療後の腎 生命予後などはまだ明らかでなく, 今後の前向き臨床研究などが期待される. 当院の後ろ向きの検討では,1,190 例の腎生検症例において,MGUS 合併症例は21 例, そのうち腎生検後にMGRSが判明した症例は10 例であった (10/1,190 例 :0.8%) 11). それ以外の11 例はM 蛋白が関与しない腎疾患であった. 両群とも腎機能やM 蛋白量には差がないにもかかわらず,MGRS 群において有意に蛋白尿が多く, かつ腎組織障害が高度であった. 当院の腎生検症例のMGRSの有病率はわずか1% 未満ではあったが, 腎障害を伴うMGUS 症例の約半数が MGRSであったことからも, 蛋白尿を伴うMGUS 症例は注意すべきである. 7.M 蛋白患者へのアプローチ M 蛋白が陽性である患者では, 血液学的に腫瘍量が少ないMGUSであってもMGRSのような疾患群も存在するため, 定期的に採血のほかに, 非侵襲的かつ簡便な尿検査も同時にフォローすべきである. 腎臓専門医への紹介基準に関しては, 以下のCKDガイドラインと同様である 12). 1 高度蛋白尿 ( 尿蛋白 /Cr 比 0.5 g/gcr または定性で2+ 以上 ) 2 蛋白尿と血尿がともに陽性 (1+ 以上 ) 3 GFR 50 ml/ 分 /1.73 m 2 未満 ( ただし以下も参照 ) 40 歳未満はGFR 60 ml/ 分 /1.73 m 2 未満 70 歳以上ではGFR 40 ml/ 分 /1.73 m 2 未満 1~3のいずれかに該当するM 蛋白症例は腎臓専門医にコンサルトおよび腎生検を検討すべきである. 特にMGRS 症例では, 糸球体疾患が多く, 腎機能障害が顕在化する前に蛋白尿が初発症状 1228 日本内科学会雑誌 105 巻 7 号
特集 多発性骨髄腫 : 診断のポイントから最新の治療まで 円柱腎症タイプ 糸球体障害タイプ 尿細管間質障害タイプ 代表疾患例 円柱腎症 アミロイドーシス /MIDD Fanconi 症候群 尿蛋白分画 ( 自験例 ) 尿蛋白 定性検査軽度陽性 (or 偽陰性 ) 中 ~ 高度陽性陰性 or 軽度陽性 定量検査中等度 ~ 大量中等度 ~ 大量 ~ 少量 尿アルブミン定量 ~ 少量中等度 ~ 大量 ~ 少量 尿細管間質マーカー ( 例 :β2mg,nag) 1 234 5 Alb 分画 γ 分画 1 234 5 1 234 5 ~ ~ ~ 図 3 M 蛋白患者における蛋白尿の性質や尿細管間質マーカーによる腎病態の鑑別蛋白尿の中のアルブミン尿の割合や尿細管間質マーカーの値を組み合わせることで, ある程度の腎病態が推測できる. ただし, あくまで参考程度であり, 確定診断は腎生検が必要であり, 他の腎疾患が合併した場合はこの限りではない. β2mg:β2 microglobulin, NAG:N-acetyl-β-D-glucosaminidase となることが多いため, 尿検査は重要である. 近年, 新規発症のMM 患者の高齢化が進んでおり, 今後, 脳心血管イベント発症後で抗血小板薬などの休薬が困難で腎生検が施行できない症例の増加が見込まれる. 腎臓内科医が常勤でいる施設も限られ, 侵襲を伴う腎生検は実際の臨床現場ではハードルが高い検査といえる. ただ, 腎生検をしなくとも蛋白尿の性質を評価することで腎病態が推測できる. 実施可能な施設は限られるが, 尿蛋白分画 ( 図 3) を評価することで円柱腎症は診断がほぼ可能である. さらにアルブミン尿の定量をすることでも, 蛋白尿の主たる原因蛋白がアルブミンなのか免疫グロブリンなのかを判断できる. なお, 一般尿検査の注意点として, 定性検査は尿中のアルブミンを検知するため,BJPなどの非アルブミン尿が排泄される円柱腎症の場合, 偽陰性になりやすい. そのため,M 蛋白症例では必ず定性だけでなく, 尿定量検査を行うべきである. アミロイドーシスやMIDDではアルブミン尿が大量に出るため, 尿蛋白定性および定量でもほぼ一 致した所見となる. なお, 尿細管間質マーカーであるβ2 マイクログロブリンは尿細管の再吸収機能が障害されると高値となりやすく,NAG (N-acetyl-β-D-glucosaminidase) は近位尿細管の逸脱酵素のため, 早期の器質的障害を反映するとされる. これらの尿検査を上手く組み合わせることで, ある程度の腎病態が把握可能となる. おわりに MMの予後が不良となる要因の1つは, 進行した段階で見つかることである. 進行した段階では臓器障害も高度になり, 進行した腎不全では治療選択肢も限られてしまうため, 非専門医がいかに本疾患を早期に疑って専門医へ紹介できるかも重要な予後規定因子と考えられる. MMは免疫物質を産生する形質細胞の腫瘍であるため, 免疫疾患的な側面もあり, 多彩な症状を呈する 全身疾患 という特徴を兼ねそろえた興味深い悪性腫瘍である. そのため, 血液内科が初診となることは稀である. その主訴は, 日本内科学会雑誌 105 巻 7 号 1229
高齢者における腰痛や貧血, 健診での尿異常, 腎不全が進めば電解質異常や心不全, 高血圧かもしれないし, アミロイドーシスであれば低血圧や不整脈, 神経障害, 消化器症状かもしれない. また, 骨折や高 Ca 血症による意識障害で救急外来を受診する症例もいる. 大多数の内科医にとって MM= 血液疾患 という印象が強いが,generalistが望まれる現代の医療事情も考慮 すれば,MM は多岐にわたる臨床症状を呈する 総合内科疾患 と捉えて診療にあたるべきであ る. 全身症状を呈する M 蛋白症例をみた場合は, 腎機能だけでなく尿検査も評価し, 疑わしい場 合は専門医への紹介を検討いただきたい. 著者の COI(conflicts of interest) 開示 : 本論文発表内容に関連して特に申告なし 文献 1 ) Davenport A, Merlini G : Myeloma kidney : advances in molecular mechanisms of acute kidney injury open novel therapeutic opportunities. Nephrol Dial Transplant 27 : 3713 3718,2012. 2 ) 日本骨髄腫学会編 : 多発性骨髄腫の診療指針. 第 3 版, 文光堂, 東京,2012. 3 ) Dimopoulos MA, et al : Significant improvement in the survival of patients with multiple myeloma presenting with severe renal impairment after the introduction of novel agents. Ann Oncol 25 : 195 200,2014. 4 ) 水野真一 : 骨髄腫の腎障害 ~ 成因の多様性,MGRS の意義を含めて ~.Pharma Medica 33 : 27 31,2015. 5 ) Hutchison CA, et al : Early reduction of serum-free light chains associates with renal recovery in myeloma kidney. J Am Soc Nephrol 22 : 1129 1136,2011. 6 ) 今井裕一, 管憲広 : アミロイド腎症と Monoclonal Immunoglobulin Deposition Disease (MIDD). 日腎会誌 56 : 493 499,2014. 7 ) Lin J, et al : Renal monoclonal immunoglobulin deposition disease : the disease spectrum. J Am Soc Nephrol 12 : 1482 1492, 2001. 8 ) Ying WZ, et al : Mechanism and prevention of acute kidney injury from cast nephropathy in a rodent model. J Clin Invest 122 : 1777 1785, 2012. 9 ) Merlini G, Stone MJ : Dangerous small B-cell clones. Blood 108 : 2520 2530, 2006. 10)Leung N, et al : Monoclonal gammopathy of renal significance : when MGUS is no longer undetermined or insignificant. Blood 120 : 4292 4295,2012. 11)Mizuno S, et al : Clinicopathological characteristics of MGRS and MGUS with renal dysfunction in a single institution. JSH 2013 (abstr PS-1-27). 12) 日本腎臓学会編 :CKD 診療ガイド 2012. 東京医学社, 東京,2012. 1230 日本内科学会雑誌 105 巻 7 号