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第一原理計算法の基礎 固体物理からのアプローチを中心に

第一原理計算法とは 原子レベルやナノスケールレベルにおける物質の基本法則である量子力学 ( 第一原理 ) に基づいて, 原子番号だけを入力パラメーターとして, 非経験的に物理機構の解明や物性予測を行う計算手法である.

計算可能な物性値 第一原理計算により, 計算セル ( 原子番号と空間座標既知の原子を含むモデル ) の全エネルギーと電子のエネルギーバンド構造が求まる. 全エネルギーは, 通常, セルを構成するすべての原子を互いに無限遠に離した場合のエネルギーを基準としており, 負の値を取る. 全エネルギーの値から, 原子に働く力を計算できる. これにより, 構造最適化が可能である. さらにエネルギーバンド構造などから次頁の物性値が得られる. S の慣用単位胞

1) 格子定数 ( 実験値と % 以内の差. 圧力依存性も OK) ) 0K における最安定構造 3) 磁性 ( 強磁性など. 交換相関エネルギーに依存 ) 4) 弾性定数 ( ヤング率などは実験値と 0% 以内の差 ) 5) 不純物の形成エネルギーや拡散障壁高さ 6) 表面エネルギーや界面エネルギー 7) 表面における不純物の吸着サイトや安定性 8) 複合体の結合エネルギー 9) フォノン分散 10) バンドギャップ, 状態密度, 不純物準位 などの値が求まる.

適用限界 原子数 : 高々数百から数千個密度汎関数法でも, 扱える原子数に限りがある. ただし, 3 次元周期境界条件の設定などにより, 無限の大きさを持つ結晶のバンド計算が可能である. 扱える格子欠陥 : 数百原子でモデル化できる範囲内転位や積層欠陥, 結晶粒界などを扱うことは難しい. 温度の効果 :0K の静的計算第一原理分子動力学法により温度の効果を取り込むことはできるが, 計算コストが膨大となる.

バンドギャップ : 実験値の半分程度 密度汎関数法では, 基底状態しか扱うことができない. そのため,1 個の電子を基底状態から励起状態へ持ち上げるのに必要なエネルギー ( バンドギャップ ) を正しく計算できない. 凝集エネルギー : 大きく見積もりすぎる傾向がある 強電子相関系 :Mott 絶縁体など, 扱えない系がある局所密度近似では, その扱いが不十分.

バンド計算 1) 電子密度 n() が結晶格子の並進に対して不変であるということは, ポテンシャルエネルギー U() が結晶格子の並進に対して不変であることと等価である. すなわち, U ( + T ) = U ( ) である. ここで T は並進ベクトルである. ) 簡単のため, 格子定数 a を持つ長さ L の1 次元格子中の電子を考える. このポテンシャルエネルギーのフーリエ級数は次式で書ける. Gx U ( x) = U G e G = nπ / a G ここで, ( ただし n は正負のすべての整数 ) である.

3) 波動関数 ψ (x) を次式のように平面波展開したものは, 周期ポテンシャル場におけるシュレーディンガー方程式の解となる. ψ この波動関数は ψ k ( x) = C( k G G) e ( k G) x Gx kx kx ( x) = ( C( k G) e ) e e u ( x) k = G のようにも書け, ブロッホ関数と呼ばれる. ブロッホ関数は 平面波 exp( k ) と結晶格子の周期を持つ関数 u k () の積の形 をしており,(1) 周期境界条件を満たしているとともに,() 電子密度が結晶格子の並進に対して不変であることも, 同時に満たしている. k

4) ポテンシャルと波動関数をシュレーディンガー方程式に入れて整理すると, h k ( m ε ) C( k) + U C( k G) G G = 0 となる. この式はすべての k について成立する. すなわち展開した平面波の個数からなる連立方程式となっている. さらに, この連立方程式は展開係数 C のうち,k の値が互いに逆格子ベクトル G だけ異なるもの同士のみを結び付けている. すなわち,1 st BZ 内における k 点同士は結びつくことがないが,1 st BZ 外における k 点は, それと結びつく k 点が1 st BZ 内にある (ng だけ移動すれば,1 st BZ 内に入る ). それゆえ, 1 st BZ 内における k 点のみについてシュレーディンガー方程式を解けばよい ( エネルギーバンド構造が描ける ) ことになる.

C ε ( k G) ε1 5) 連立方程式を解くと, 展開した平面波の個数と等しいエネルギー固有値の数と, 各々のエネルギー固有値を与える展開係数 C のセットが求まる. 展開に用いた k の値が同じでも, 異なるバンド ( 異なるエネルギー固有値 ) に属する波動関数は互いに独立 (C のセットが異なる ) である. エネルギーバンドの横軸 : 1st BZ 内で展開に用いた k 点 Enegy (ev) 4 CASTEP Band Stuctue S ある k 点を決め ( ), シュレーディンガー方程式を解く : エネルギー固有値 ( ) のセットが求まる. それを 1st BZ 内で k 点を変えながら行う : エネルギーバンドが得られる. 3 1 0-1 - -3-4 W L G X W K

() 近似による多電子系の扱い固体は, 相互作用する膨大な数の電子と原子核で構成された系である. 電子 ( 位置, 運動量 P, 電荷 -e) と原子核 ( 位置 R, 運動量 P I, 電荷 Z I e) がクーロン力で相互作用している系を考える. 全ハミルトニアンはとなる. 多電子系の波動関数にこのハミルトニアンを作用させたものが, シュレーディンガー方程式となる. この波動関数は全原子核と全電子の位置の関数であり, このまま解くことは不可能である. + + + + = J I J I J I j j nucl I I I tot R R e Z Z e V M P m P H 1 1 ) ( = I I I nucl R e Z V ) ( ),, ( 3 1 N τ τ τ τ Φ

ボルンーオッペンハイマー ( 断熱 ) 近似 電子の運動と原子核の運動を分け, 電子は静止した原子核のクーロン引力と電子間に働くクーロン斥力のもとで運動するという近似. それゆえ, 原子核の運動エネルギー項は無視し, 原子核間の相互作用は古典的に計算することにより, シュレーディンガー方程式は電子系の方程式となる. 一電子近似 1 個の電子を収容し他の軌道と相互作用しない 1 電子軌道 (obtal) の概念を持ち込む近似. 密度汎関数法では, スレーター行列式により多電子系の波動関数を 1 電子軌道を用いて近似する. この近似では, まずは, 電子相関 ( 反発力で電子が互いによけ合うような ) を無視することになる ( 最後に交換相関エネルギー項で考慮する ).

多電子系のシュレーディンガー方程式の近似解法 ハートリーフォック方程式 : 化学から コーンシャム方程式 : 物理から, 密度汎関数法 ( 基底状態のエネルギーは, 基底状態の電子密度の汎関数である ) は ) ( ) ( ] ) ( )] ( [ ) ( ) ( [ ' ' ' n n E d n v m xc ext φ ε φ δ δ = + + + h ) ( ) ( = N n φ ) 1,, ( N = φ N ε ε ε ε 3 1 : 電子を指定する添え字 N: 全電子数

コーンシャム方程式 [ h m + v ext ( ) + ' n( ) d ' ' + δe xc[ n( )] ] φ ( ) δn( ) = ε φ ( ) 左辺第 1 項 : 相関のない電子の運動エネルギー第 項 : 電子と原子核の相互作用エネルギー第 3 項 : 相関のない電子間の古典的クーロンエネルギー第 4 項 : 交換相関エネルギー ( 量子力学的エネルギー ) 解法のポイント コーンシャム方程式は1 電子方程式であり, バンド理論で勉強した解法がそのまま適用できる. 左辺には電子密度 n() が含まれるため, 最初にN 個の仮の波動関数 φ ( = 1,, N) を与える必要がある. 方程式を解いて新たな波動関数が決まるが, それが自己無撞着 (SCF) になるように収束計算で決める.

交換相関エネルギー項 E [ n( xc )] 1 電子近似で取り込めなかったややこしい部分をこの項がすべて受け持っている. 交換エネルギー ( 平行スピンを持つ電子間の交換相互作用により生じるエネルギー ) 相関エネルギー ( 電子間クーロン相互作用において, 古典的な相互作用と交換相互作用を除いた部分 ) この項の近似方法は, 最先端の研究テーマである. その代表例として局所密度近似がある.

(3) エネルギーバンド計算 コーンシャム方程式を1st BZ 内の各 k 点で解くと, エネルギーバンド構造が得られる. バンド構造は還元ゾーン形式で描かれることが多い. 波数ベクトル k が 1st BZ の外にある場合に, 適当な逆格子ベクトル G を選んで 1st BZ 内に移動させたもの. 同じ k の値に対して複数のエネルギー値が存在する. これらは別々のバンドを表している. Enegy (ev) 4 3 1 0-1 - -3-4 フェルミ準位 CASTEP Band Stuctue S W L G X W K

各単位格子は, 各エネルギーバンドに対して正確に 1 個の k の独立な値を寄与する. すなわち, スピンを考慮すると, 各単位格子に属する価電子のうち 個が 1 つのバンドに寄与する ( たとえば Bcc Na なら, 基本単位格子に 1 個原子があり, その原子は 1 個の価電子を持つので,1 番下のバンドが半分埋まる ). 電子が占有する最高のエネルギー準位をフェルミ準位とよぶ. エネルギーバンド形状の k 依存性から, そのバンドを構成する電子について軌道の性質が議論できる. k が G (Γ) 点から 1st BZ の境界へ増加するにつれ, s 的なバンド : 上の方に曲がる p 的なバンド : 下の方に曲がる d 的なバンド : ほとんど平ら ( エネルギー分散を持たない )

Bcc Na 単位格子のエネルギーバンド計算 ( 価電子は3sの1 個 ) Na Enegy (ev) CASTEP Band Stuctue 6 5 4 3 1 番下のバンド が半分詰まって いる 1 0-1 - -3-4 -5 フェルミ準位 s 的なバンド G(Γ) H N P G(Γ) N G H N P G N

Fcc Cu 単位格子のエネルギーバンド計算 ( 価電子は 3d と 4s の 11 個 ) Enegy (ev) 3 Cu CASTEP Band Stuctue 下から 6 番目の バンドが半分 1 0-1 - d 的なバンド フェルミ準位 詰まっている -3-4 -5 p 的なバンド -6-7 -8-9 s 的なバンド W L G X W K W L G(Γ) X W K

Damond S 単位格子のエネルギーバンド計算 ( 価電子は 3s と 3p の 8 個 ) Enegy (ev) 3 CASTEP Band Stuctue S 下から 4 番目の バンドまで完全 に詰まっている 1 0-1 - -3-4 -5-6 -7-8 -9-10 -11-1 フェルミ準位 p 的なバンド s 的なバンド G W L G(Γ) X W K

第一原理計算における計算手順 ( 擬ポテンシャルを用いた構造最適化 ) 影島博之, 応用物理学会誌第 75 巻 (006) p.158

平面波展開法 結晶は周期ポテンシャルを持つが, このポテンシャルは結晶格子の並進に対して不変である. 結晶中の電子の波動関数は (1) 周期境界条件を満たし, () 電子密度が結晶格子の並進に対して不変である. この条件を満たす波動関数をブロッホ関数と呼ぶ. 基底として平面波を用いる平面波展開法で表現された波動関数はブロッホ関数であり, コーンシャム方程式の解となっている. S の単位胞 S(110) 面内の価電子分布

局所密度近似 コーンシャム方程式 [ h m + v ext ( ) + ' n( ) d ' ' + δexc[ n( )] ] ϕ ( ) δn( ) = ε ϕ ( ) を解く上で, 困難な点は交換相関エネルギーの厳密な表式が不明であることである. 今, 電子密度分布の空間変化が十分に小さいとすると, と近似できる. E [ n( )] = ε [ n( )] n( ) d xc xc E xc [ n( )]

ここで, ε xc [ n( )] は位置 において 相互作用する密度 の一様な電子ガスにおける,1 電子あたりの交換相関エネルギー ( 交換相関エネルギー密度 ) である. このような近似を局所密度近似 (LDA) とよぶ. 一方,LDAの問題点の1つに, 電子密度が一様でなくなる ( 一般的にはこの状態 ) と, 一様電子ガスの交換相関ポテンシャルからのずれが大きくなる. このずれが一様な場合からあまりはずれていなければ, 密度の勾配によって展開することが可能であろう. この考えに基づいて密度勾配展開法 (GGA) がある.GGAは固体の格子定数や凝集エネルギーを大幅に改善する. しかし, 半導体のバンドギャップの大きさはあまり改善されない ( ギャップ幅は実験値の0.5 倍程度 ).

超格子法 一般に, 不純物を含む結晶では, 不純物周囲の結晶は格子歪みを伴う. このような歪みを伴った不純物原子 ( あるいは原子空孔 ) を含む結晶学的構造配置とその電子構造を理論的に調べる方法として用いられるのが超格子法である. この計算セルでは,H 原子が周囲に形成する歪みがセル境界まで及ぶ. H 原子 1 個を含む S の慣用単位胞 イメージセルと相互作用してしまう.

超格子法では, 完全結晶の小さい単位格子をいくつか集めてそれを新たな単位格子とみなし, その中に不純物などの欠陥を導入する. さらに, 超格子に 3 次元周期境界条件を課せば, 系に並進対称性があり, 通常のバンド計算手法を用いることが可能となる. イメージセル内の不純物原子 ( 自分自身 ) との相互作用をできるだけ小さくするような, 大きな超格子を用いる. H 原子 1 個を含む S 3 3 3 超格子