日臨技九州支部卒後研修会第 28 回血液検査研修会症例 4 2017.2.18 宮崎県立宮崎病院野中真由美
症例 症例 80 歳代男性 主訴 発熱 下血 現病歴 2 日前より発熱 嘔気があり 腹痛を伴う下血も見られたため近医を受診 血液検査にて白血球増加と血小板減少を認めたため精査 加療目的で当院へ転院となった 既往歴 胆嚢摘出術 前立腺癌術後 身体所見 眼瞼結膜蒼白 眼球結膜黄染なし胸部 : 心音 呼吸音異常なし腹部 : 平坦 軟 圧痛なし歯肉腫脹なし 口腔内出血なし頸部リンパ節腫脹なし
初診時検査所見 生化学検査 T-Bil 1.36 mg/dl AST 65 U/L ALT 25 U/L LD 698 U/L ALP 217 U/L Na 136 mmol/l K 4.51 mmol/l Cl 103 mmol/l BUN 30.0 mg/dl Cre 2.01 mg/dl UA 7.3 mg/dl TP 5.3 g/dl Alb 3.0 g/dl CRP 9.52 mg/dl Fe 89 μg/dl フェリチン 812 ng/dl 末梢血検査 WBC 32,970 /μl RBC 295 10 4 /μl Hb 9.1 g/dl HCT 27.2 % MCV 92.0 fl MCH 30.7 pg MCHC 33.4 % RDW 14.0 % PLT 5.0 10 4 /μl 凝固検査 PT(sec) 16.1 sec PT (%) 54.6 % PT -INR 1.32 APTT 42.6 sec Fbg 287 mg/dl FDP 40.9 μg/ml D-dimer 12.2 μg/ml 感染症検査 HBs 抗原 (-) HCV 抗体 (-) TP 抗体 (-) HTLV-1 抗体 (-)
末梢血血液像 白血球分類 Myelo 1.0 % Meta 0.0 % Stab 0.0 % Seg 1.5 % Lymph 3.0 % Mono 0.0 % Eosin 0.0 % Baso 0.0 % OTHER 94.5 % OTHER: 芽球様細胞 大型 (20μm 前後 ) で N/C 比小 核網繊細 大型の核小体 (+) 好塩基性の細胞質に微細顆粒や空胞を認める
検査データのまとめ 異常所見 生化学 LD, フェリチン, CRP 高値 悪性腫瘍 感染症 etc 末梢血 白血球増加, 貧血, 血小板減少 血液像 芽球様細胞の増加疑われる疾患 急性白血病 追加検査 骨髄検査 ( 特殊染色 フローサイトメトリー 染色体 遺伝子 ) リゾチーム
PROMY 0.0 % MYEL 1.0 % META 0.3 % STAB 0.5 % SEG 0.7 % EOSIN 0.9 % BASO 0.0 % MONO 0.0 % **MYE-SUB** 3.4 % PRO-ERY 0.0 % BASO-ERY 0.4 % POLY-ERY 6.0 % ORTH-ERY 0.0 % **ERY-SUB** 6.4 % LYMPH 1.7 % PLASMA 0.5 % OTHER 88.0 % 骨髄検査所見 NCC : 305,000/μL MGK : <15/μL M/E : 0.53
芽球様細胞の特徴 ( 骨髄 ) 大型で N/C 比小 核網繊細で核小体をもつ 細胞質は好塩基性で空胞や顆粒をもつ
MPO 染色 細胞化学染色 EST 二重染色 NaF 阻害 陰性 α-nb : 陽性 リゾチーム : 53.3μg/mL( 基準値 5.0-10.2) 阻害あり
フローサイトメトリー T 系 CD1 0.2 CD2 1.9 CD3 0.5 CD4 25.1 T 系 TCR-αβ 0.5 TCR-γδ 0.4 cy CD3 4.1 CD19 1.3 CD5 0.5 CD7 1.4 CD8 0.5 B 系 CD24 8.0 cy CD22 9.3 cy CD79a 1.8 B 系 M 系 CD10 1.9 CD19 0.4 CD20 0.3 CD13 1.6 CD14 0.5 CD33 90.8 CD41 1.7 その他 cy μ 2.0 CD15 22.2 CD64 69.0 CD65 60.0 CD117 46.9 MPO 44.4 TdT 1.5 GP-A 5.9 その他 CD34 0.3 CD56 97.9 HLA-DR 77.1
染色体 遺伝子検査 A:48, XY, add(8)(p11.2), -17, add(19)(q13.1), -20, [ 4] +der(?) t(?;17)(?;q21), +mar1, +mar2, +mar3 B:49, idem, del(11)(q?), +mar4 [ 11] C:46, XY [ 1] 白血病キメラマルチスクリーニング : 検出せず
最終診断 急性単芽球性白血病 (Acute monoblastic leukemia)
臨床経過 WBC, Blast 35000 30000 25000 20000 15000 10000 5000 CZOP ST 合剤 morphine Blast WBC PLT CRP 0 day1 day2 day4 day7 WBC Blast PLT CRP PLT, CRP 18 16 14 12 10 8 6 4 2 0 本人と家族の意向で積極的な治療は望まず 骨痛と発熱に対してステロイドと NSAIDs を投与し改善がみられた 一時でも自宅への退院を希望されたが 感染による発熱もあるとして第 4 世代セフェム (CZOP) を投与開始 CRP の上昇と発熱が持続し入院 8 日目には胸部 X 線にてスリガラス影を認め 肺炎の発症を確認した 酸素化の低下による呼吸困難もあり 緩和の意味も含めてモルヒネの持続投与を開始した 入院 11 日目には急激に悪化し死亡された
急性単球性白血病 (AMoL) 白血病細胞の 80% 以上を単球系細胞 ( 単芽球 前単球 単球 ) が占め 顆粒球系細胞は 20% 以下である (WHO 分類 ) *FAB 分類 :NEC の 80% 以上を単球系細胞を占め 顆粒球系細胞は 20% 以下である 急性単芽球性白血病 (M5a) 80% 以上を単芽球が占める 急性単球性白血病 (M5b) 前単球が大半を占める ( 単芽球が 80% 未満 ) 出血傾向を呈することが多く 髄外腫瘤や皮膚 歯肉浸潤 中枢神経浸潤などもよく認められる
単球性白血病の診断ポイント 1 形態学的所見 ( 単芽球と前単球の区別 ) 2 細胞化学的所見 (MPO, EST 染色 ) 3 免疫形質学的所見 ( 細胞表面マーカー ) 4 染色体 遺伝子検査所見
1 単球系細胞の形態 単芽球 大型で 中等度から高度に塩基性を呈する 核は円形で核網は繊細 明瞭な核小体を認める 豊富な細胞質を有し 微細なアズール顆粒や空胞を有することもある 前単球 核形不整がみられる 細胞質は単芽球より塩基性が弱く アズール顆粒や空胞を有する
1 単球系細胞の形態 急性単球性白血病 (M5b) の前単球 骨髄疾患診断アトラス P158 より 不規則なくびれや脳回状の陥入を伴った形状不整な核を有し 細胞質の青みは単芽球よりもやや弱く多数のアズール顆粒や空胞を有する
単球系細胞の同定基準 (Goasguen J ら ) ( 核形 ) ( クロマチン ) ( 細胞質 ) ( コメント ) ( 単芽球 ) ( 前単球 ) ( 幼若単球 ) ( 成熟単球 ) Jean E. Goasguen, John M. Bennett, Barbara J. Bain, Teresa Vallespi, Richard Brunning, Ghulam J. Mufti Haematologica July 2009 94: 994-997;
2 単球の細胞化学的特徴 MPO 染色 単芽球は陰性 前単球は弱陽性 NSE 染色 単芽球 前単球ともに通常強陽性 (10~20% の症例は陰性 ~ 弱陽性 )
3 単球系細胞のマーカー 骨髄系 CD13, CD33, CD15, CD65 単球系 CD14, CD4(dim), CD11b, CD11c, CD64, CD68, CD36, リゾチーム M5aでは CD34(-), CD14(-) のことが多い (CD34は約 30% の症例に陽性 ) CD7, CD56 のアベラントマーカーは 25~40% の症例で発現 本症例は CD4(dim), CD33(+), CD56(+), CD64(+), CD65(+) CD117(+), MPO(+), HLA-DR(+) CD13( ー ), CD14( ー ), CD34( ー )
3 単球系細胞のマーカー Stage-1 Stage-2 Stage-3 CD11b 抗原発現強度 CD33 (+) CD13 ( ー ) HLA-DR (+) CD34 ( ー ) CD15 (+) CD14 ( ー ) 単球分化成熟方向 CD14 は単球系に特異性が高いが AML M5 における陽性率は高くない CD14*CD11b の組み合わせは成熟単球の比率を知るのに役立つ CD36 は単球 血小板 赤芽球に発現する CD11c は顆粒球 単球に発現し 単球での発現量が多い CD36*CD11c の組み合わせは幼若な単芽球の検索にも有効
4 染色体 遺伝子異常 t(9;11)(q22;q23):mllt3-mll 小児に多く見られる染色体異常で WHO 分類第 4 版では特定の遺伝子異常を有する急性白血病に分類 t(8;16)(p11.2;p13.3) 赤血球貪食像と凝固異常を呈することが多い
芽球の比較 M5a M0 M2 M7 ALL 大型 N/C 比小塩基性が強い微細顆粒 N/C 比大 核網繊細 ~ やや粗顆粒なし N/C 比大核網繊細顆粒を認める N/C 比大核網粗剛 bleb N/C 比大 核網繊細 ~ やや粗核の切れ込み
結語 単球性白血病では単芽球と前単球の鑑別が重要であり 細胞の特徴をしっかり理解する必要がある 単芽球と前単球の鑑別は 症例によって細胞形態や染色性も異なるため 同一標本内で典型的細胞との対比を行うことが重要なポイントである