8 章配置間相互作用法 : Configuration Interaction () etho [] 化学的精度化学反応の精密な解析をするためには エネルギー誤差は数 ~ kcal/mol 程度に抑えたいものである この程度の誤差内に治まる精度を 化学的精度 と呼ぶことがある He 原子のエネルギーをシュレーディンガー方程式と分子軌道法で計算した結果を示そう He 原子のエネルギー Hartree-Fock エネルギー -794.7 kcal/mol(a) Schröinger 方程式で計算したエネルギー -8.63 kcal/mol(b) 分子軌道近似の誤差 :(B) - (A) -6.36 kcal/mol 両者の誤差は % 以内だが その絶対値は 6 kcal/mol になる このように 分子軌道法は多くの場合化学的精度を満たさない 前章のP 法と本章のSD 法は分子軌道法を補正する最も簡単な方法である 本章では 法を説明する [] 配置関数 Configuration Hartree-Fock 方程式 Fˆ n nn ( n,,3, ) で求めた分子軌道 { n } を考える スピン- 分子軌道は 分子軌道にスピン関数を乗じて作る つまり もしくは P 法では Hartree-Fock 波動関数と 電子励起配置だけを必要としたが 法では Hartree-Fock 波動関数と 電子励起配置 電子励起配置 3 電子励起配置 などを適宜に用意する Hartree-Fock 配置 ( x, x, x,, x ) 3 N ( r) ( ) ( r) ( ) ( r3) ( 3) N( rn) ( N) ( N)! 電子励起配置 ( x, x, x,, x ) a i 3 N ( r) ( ) ( r) ( ) ( r3) ( 3) a ( r) ( ) N( rn) ( N) ( N)! 電子励起配置 i 番目 ab ij ( x, x, x,, x ) 3 N ( r) ( ) ( r) ( ) ( r3) ( 3) ( N)! ( r ) ( ) ( r ) ( ) ( r ) ( ) a b N N N i 番目 ここで or である j 番目 精密な計算において3 電子励起配置以上も必要となることはあるが 多くの場合は 電子励起で展開を打ち切る 電子励起配置 (singly excite configuration ) と 電子励起配置 (oubly excite config-
ration) だけを使う 法をSD 法と呼ぶ 電子励起配置 (oubly excite configration) だけを使う D 法もある 理論上は SDTQ 法 SDTQ 法 全ての電子配置を考慮するFull - 法も考えられる [3] 波動関数 法では a i ab ij に係数を付けて和を取った形を波動関数とする a ab abc abc ia i ijab ij ijkabc ijk ijklabc ijkl i a ij a, b ijk a, b, c ijkl a, b, c, ab ij に通し番号を付けて と記すと次式の表現を得る a i () 足し合わせの係数 ( 係数 ) は後に決める は足し合わせの上限 ( 例 ) H 分子の場合 (と 軌道のみの場合 ) 軌道と 軌道しかない場合 SD 法はFull- 法と等価になる [4] 配置関数の規格直交性 : Lv L () [5] 方程式 波動関数が与えるエネルギー Hˆ v v 通常は規格化条件 ( 下式 ) があって 上式の分母は不要である (3) v (4) しかし 変分法の手続き上 係数を変化させるので (3) 式のように規格化を露わに書いた式を使う (3) 式に () 式を代入すると次式を得る ˆ ˆ LL L L L L LLv L L L L H v H v v
ここで () 式を代入して L Hˆ v L L を最小にする条件は (6) 3 が同時に満たされることである 以下は簡単のため実数の範囲で話を進める つまり (5) (5) 式の分母を払って ˆ L L L H v 係数 で微分する ( P,,,, ) P H v ˆ L L P P P L Hˆ v P P P (6) 式の条件を入れると ˆ HPvP ( P,,,, ) 更に整理すると ( HP P) ( P,,,, ) (7) ここでH L は配置間の積分で H ˆ L HLv と定義する (7) 式は連立 次方程式であり 行列で表記すると以下のようになる H H H H H H H H H (8) 若しくは を右辺に置いて 行列の固有値方程式の形にする H H H H H H H H H (9)
[6] 配置関数の数 (N 電子系 ) 法の配置関数の数が極めて多いことを示すために 配置の数の概数を計算してみる 条件として 占有分子軌道の数 =N 仮想分子軌道の数 = (N<) とする 簡単のため スピ ン- 分子軌道で考えることにする すると 電子が占有したスピン- 分子軌道の数 N(= 電子数 ) 非占有のスピン- 分子軌道の数 スピン- 分子軌道の合計 N+ N この条件で配置の数を数えてみる 電子励起配置関数の数 C C N 4N ( 重項と3 重項が含まれる ) N N(N ) ( ) 電子励起配置関数の数 NC C (~5 重項 ) 全ての励起電子配置の総数 N C C C N n n N N n ごく小さなサイズの分子 ( 例えばアントラセン ) でも 電子数 に近い 配置関数の総数は天文学的な数となることが解る 全ての配置関数を考慮した( 完全, Full-) は実際上不可能である [7] Brillouin 定理 F 電子励起配置 : Hartree-Fock 方程式 ˆ i i i が成立しているので次式が成立する Fˆ r r r () a i a i i i a i この式を使うと 次式の Hartree-Fock 配置と 電子励起配置は直接の相互作用の式はゼロとなる (Brillouin 定理 ) ˆ a Hi v () 電子励起配置は Hartree-Fock 配置と直接の相互作用をもつ ab Hij v () 3 電子励起配置以上は と直接に相互作用しない 従って abc Hijk v (3) を補正するために直接に必要となる最も重要な配置は 電子励起配置である この点では 電子励起配置しか必要としないP 法と通じるものがある 勿論 法では 電子励起配置も3 電子励起以上の配置も 電子励起配置を通して 間接的に を補正する
[8] 水素分子 ( 再度 ) 結合性軌道 :, 反結合性軌道 ( 仮想軌道 ): 3, 4 波動関数 : () 式から ˆ Hv になるので と だけを使った 法を考える 方程式は (8) 式から得る H H H ここで H Hˆ v Hˆ v H H ˆ v エネルギーを計算する 上式の係数行列の行列式をゼロと置く ( )( H ) H ( H ) H H 次方程式の解の公式から ( H ) ( H ) 4( H H) ( H ) ( H ) 4H 最低エネルギーを求めるのだから 複号 は を採用する H を考慮する 4H ( H ) ( H ) ( ) H 4H ( H ) ( H ) 上式の第 項が の補正項になる 後の比較のために と の相互作用を特に とおく ˆ ˆ H Hv H v 更に H と置く は H 分子 個分の励起エネルギーに近い量である すると
4 ここで として x x /の近似を採用すると次式を得る この結果はPと類似の形をしている ( や の定義が少し異なる ) [9] エネルギー曲線 [] 計算する分子の大きさについての無矛盾性 (size-consistency) A + B A-B という化学反応において (A-B) [ (A) (B)] という反応熱の計算が意味をもつためには 計算の精度が分子の大きさ ( つまり電子数 ) に依存してはならない A 分子の計算精度と A-B 分子の計算精度が異なれば 反応熱の計算はできない つまり 電子を持つ分子の計算精度と 電子を持つ分子の計算精度は同等でなければならない これを size consistency と表現する 先に結論を述べて置くと Hartree-Fock 法とP 法は size consistent であり SD 法は通常には size consistent ではない このことを以下に示す 無限に離れた ( 相互作用の無い ) 個の水素分子のエネルギーと 個の水素分子のエネルギーの 倍 が一致することは size consistent であることの必要条件となる 個の水素分子の結果は [8] 節で述べた
[8] 節と同じ条件で 個の水素分子を考える 水素分子は無限に離れているので両者には相互作用はないとする 電子励起配置は [8] 節と同様に無視する SD 法なので4 電子励起配置 3 は使わない 3 4 H H H H H H H H 3 電子励起 波動関数の式を書く 方程式は (8) 式を適用する H H H H H H H H H 4 電子励起配置 ここで [8] 節との対応関係に注意して [8] 節の を [] 節の記号に対応させる H H H H ( は [8] 節で定義した記号 ) H ( は 個分の H のエネルギー ) H H ( 式 (3) の帰結である ) H H H ([8] 節の と対応させると H ) とすると H H エネルギーを求める ( )( H ) ( H ) H H ( ) ( )( ) ( H ) ( H) ( ) H ( H) ( H) 4( ) H 8 ( H) ( H ) 8 8 ( H) ( H ) ( H )
8 ( H ) ( H ) 4 電子励起 法のエネルギーは 個の水素分子の 倍ではない つまり size-consistent ではない 再度 x x /の近似式を使うと次式を得る この式はP 法と同じ形をしており この式は size-consistent である Hartree-Fock 法が size-consistent であることはほぼ自明である 無限遠に離れたつの水素分子を分子軌道法 (Hartree-Fock 法 ) で考えてみる 分子軌道の番号を下図のように決める 3 4 H H 分子軌道のエネルギーは 左側の水素分子は h J で 右側の水素分子は h J となります つの水素分子を同時に考えると と が占有軌道だから h h J J (4J ) ですが つの水素分子は無限遠方であるという仮定から J, である 従って つの水素分子の全エネルギーは h h J J となり これは左と右を別々に計算した水素分子のエネルギーの和に等しい 従って size-consistent である
8 章の演習問題 () 相互に無限遠方に離れた3つの水素分子を考える 夫々の水素分子間には相互作用はない 6 電子系として全体を計算した場合のエネルギー 個の水素原子 ( 電子系 ) のエネルギーの3 倍 の両者が P 法と Hartree-Fock 法で等しいことを示せ ()[8] 節の設定 ( 水素分子 ) において Brillouin 定理を証明しよう 成立している条件は以下の Hartree-Fock 方程式である つまり ˆ () r () r () r F に 電子が占有しているので 電子のエネルギー演算子 (Fock 演算子 ) は次式となる Fˆ() r hˆ () r Jˆ () r Hartree-Fock 方程式に左から を掛けて積分すると次式を得る () r Fˆ () r () r r () r () r r さて Brillouin 定理として成立すべき式は次式である H ˆ Hxx 具体的な波動関数の形を代入して計算を進める 重項波動関数であることを考えて H ˆ ( r) ( r) ( ) H [ ( r ) ( r ) ( r) ( r)] ( ) rr ( ˆ ) ( ) H[ ( ) ( ) ( ) ( )] r r r r r r r r ( r) ( r ) Hˆ ( r) ( r ) rr ここで Hˆ hˆ ( r) hˆ ( r ) Gˆ ( r, r ) hˆ ( r) hˆ ( r ) e /4 r r であるとして ˆ ˆ ( ) h( ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( ) h( ) ( ) r r r r r r r r r r r r r r e ( r) ( r ) ( r) ( r ) rr 4 r r ˆ e ( r) h( r ) ( r) r( r ) ( r) ( r) r ( r) r 4 r r h ˆ( r ) r ( r ) J ˆ ( ) ( r ) r この続きの を進めて下さい r