2014人口学会発表資料2

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表紙

次に 母親の年齢別 出生順位別の出生数をみていきましょう 図 2-1は母親の年齢別に第 1 子出生数をみるグラフです 第 1 子の出生数は20 年間で1,951 人 (34.6%) 減少しています 特に平成 18 年から平成 28 年にかけて減少率が大きく 年齢別に見ると 20~24 歳で44.8%

資料 4 明石市の人口動向のポイント 平成 27 年中の人口の動きと近年の推移 参考資料 1: 人口の動き ( 平成 27 年中の人口動態 ) 参照 ⑴ 総人口 ( 参考資料 1:P.1 P.12~13) 明石市の総人口は平成 27 年 10 月 1 日現在で 293,509 人 POINT 総人口

資料 7 1 人口動態と子どもの世帯 流山市人口統計資料 (1) 総人口と年少人口の推移流山市の人口は 平成 24 年 4 月 1 日現在 166,924 人で平成 19 年から増加傾向で推移しています 人口増加に伴い 年尐人口 (15 歳未満 ) 及び年尐人口割合も上昇傾向となっています ( 人

63-3.ren

親と同居の壮年未婚者 2014 年

長野県の少子化の現状と課題

平成27年版高齢社会白書(全体版)

2013年7月3日

将来人口の試算ケース 独自の純社会移動率 = の場合 この資料は 島田市の将来における人口について 以下の 8 ケースで試算を行ったものです 基本的に から まで 5 年ごとの国勢調査による人口をベースとし ています ( 外国人を含む ) 以下の試算は いずれも独自の 純社会移動なし で行っています

 第1節 国における子育て環境の現状と今後の課題         

親と同居の未婚者の最近の状況(2016 年)

【資料1-1】人口ビジョン編・表紙(案) 省略版

平成29年版高齢社会白書(全体版)

図表 1 人口と高齢化率の推移と見通し ( 億人 ) 歳以上人口 推計 高齢化率 ( 右目盛 ) ~64 歳人口 ~14 歳人口 212 年推計 217 年推計

PowerPoint プレゼンテーション

人 ) 195 年 1955 年 196 年 1965 年 197 年 1975 年 198 年 1985 年 199 年 1995 年 2 年 25 年 21 年 215 年 22 年 225 年 23 年 235 年 24 年 第 1 人口の現状分析 過去から現在に至る人口の推移を把握し その背

率 という 出生関連統計でメディアでの取り上げ機会が圧倒的に多いのもこちらの数値であり メディアでは 期間 を除いて 単に合計特殊出生率と記されている もう1つは 生まれ年別に当該世代の女性の15~49 歳の年齢別出生率を過去から積み重ねたもので これを コーホート合計特殊出生率 という この2つの

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不動産学会 空き家.key

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はじめに 当財団では これまで 212 年と 15 年に 沖縄県の 5 年先までの将来推計人口を推計してきたが その後 5 年毎に公表される国勢調査および都道府県別生命表の 215 年の統計が公表されたことから同統計のほか 人口動態調査や住民基本台帳人口移動報告などの年次統計なども直近のデータに更新

福岡大学人文論叢38-3

ポイント 〇等価尺度法を用いた日本の子育て費用の計測〇 1993 年 年までの期間から 2003 年 年までの期間にかけて,2 歳以下の子育て費用が大幅に上昇していることを発見〇就学前の子供を持つ世帯に対する手当てを優先的に拡充するべきであるという政策的含意 研究背景 日本に

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Ⅲ 結果の概要 1. シングル マザー は 108 万人我が国の 2010 年における シングル マザー の総数は 108 万 2 千人となっており 100 万人を大きく超えている これを世帯の区分別にみると 母子世帯 の母が 75 万 6 千人 ( 率にして 69.9%) 及び 他の世帯員がいる世

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岐阜県の将来人口推計について

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沖縄県 全 国 人数 構成比 人数 構成比 図表 1. 将来推計人口と年齢 3 区分別人口の将来推計 ( 単位 : 人 全国は千人 %) 年 総人口 1,392,818 1,423,622 1,440,410

7 対 1 10 対 1 入院基本料の対応について 2(ⅲ) 7 対 1 10 対 1 入院基本料の課題 将来の入院医療ニーズは 人口構造の変化に伴う疾病構成の変化等により より高い医療資源の投入が必要となる医療ニーズは横ばいから減少 中程度の医療資源の投入が必要となる医療ニーズは増加から横ばいにな

( 人口のピークは 225 年に ) 平成 27(215) 年国勢調査による東京の人口は 1,352 万人となり 前回の平成 22(21) 年国勢調査 (1,316 万人 ) と比べ 約 36 万人増加した 一方 全国の人口は1 億 2,79 万人となり 前回の1 億 2,86 万人から約 96 万

平成 25 年 3 月 27 日 国立社会保障 人口問題研究所 ( 厚生労働省所管 ) から 日本の地域別将来推計 人口 ( 平成 25 年 3 月推計 ) が公表されました これに基づく石川県関係分の概要は次のとおりです 目次 1 石川県の将来推計人口 1 2 県内市町 地域の将来推計人口 5 3

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平成26年 人口動態統計月報年計(概数)の概況 1

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別紙2

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本章のまとめ 第 4 章当市の人口推移 本章のまとめ 現在までの人口推移は以下のとおりである 1. 人口の減少当市の人口は平成 23 年 7 月 (153,558 人 ) を頂点に減少へ転じた 平成 27 年 1 月 1 日時点の人口は 151,412 人である 2. 人口増減の傾向年齢 3 区分で

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(2) 高齢者の福祉 ア 要支援 要介護認定者数の推移 介護保険制度が始まった平成 12 年度と平成 24 年度と比較すると 65 歳以上の第 1 号被保険者のうち 要介護者又は要支援者と認定された人は 平成 12 年度末では約 247 万 1 千人であったのが 平成 24 年度末には約 545 万

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25~34歳の結婚についての意識と実態

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このジニ係数は 所得等の格差を示すときに用いられる指標であり 所得等が完全に平等に分配されている場合に比べて どれだけ分配が偏っているかを数値で示す ジニ係数は 0~1の値をとり 0 に近づくほど格差が小さく 1に近づくほど格差が大きいことを表す したがって 年間収入のジニ係数が上昇しているというこ

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2 人口密度 人口密度 ( 人 / km2 ) 全県 1, 蕨 市 14, 川 口 市 9, 草 加 市 8, 志 木 市 7, ふじみ野市 7, 和 光 市 7, 朝 霞 市 7, 戸

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図 1 予測のフローチャート 全体の年齢 (5 歳階級 ) 別人口の予測 ( ロジャーズ ウィルキンス モデル ) 基準年の及び の 5 歳階級別人口 基準年における 5 歳階級別のからへの転出数 からへの転出数 基準年の及びの出生数 5 歳階級別死亡数 出生率 死亡率 移動率の算定 一般化レスリー

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1 人口動態の概況 ( 平成 24 年 1 月 ~12 月 ) (1) 出生数 < 減少 > 出生数は56,943 人で前年に比べ1,116 人減少し 出生率は人口千人に対し8.0で 前年と比べ0.2ポイント低下した (2) 死亡数 < 増加 > 死亡数は59,137 人で前年に比べ1,467 人増

1 計画見直しの趣旨 中央区では 平成 27 年 4 月の子ども 子育て支援新制度実施に伴い 幼児期の教育 保育および地域子ども 子育て支援事業の提供体制の確保を円滑に行うため 子ども 子育て支援施策を中心に 母子保健 教育 ワーク ライフ バランス等の取組を総合的に推進する ( 以下 本計画 とい

合計特殊出生率 : 15 歳から49 歳までの女性の年齢別出生率を合計したもので 1 人の女性が生涯に生む子どもの数の平均に相当するとされる 図 2-1 総人口及び年少 老年人口割合の推移 図 2-2 合計特殊出生率の推移 -8-

国の調査によれば 結婚の意識に関して以下の結果が示されている いずれは結婚しようと考える未婚者の割合 は 9 割弱で 高い水準にある 結婚への意識が高いのにもかかわらず 結婚しない できない 理由として 適当な相手にめぐり会わない の割合が高く 年齢が高くなるほどその傾向が強い 就業形態の違いと結婚

表 就業 出産の経験率 ( コーホート別 ) コーホート 現在の年齢 サンプル就業出産 ( 既婚者 ) サイズ経験率既婚率出産率第 2 子第 3 子第 4 子第 5 子子ども数 全体 3~54 歳

平成 22 年国勢調査産業等基本集計結果 ( 神奈川県の概要 ) 平成 22 年 10 月 1 日現在で実施された 平成 22 年国勢調査 ( 以下 22 年調査 という ) の産業等基本集計結果が平成 24 年 4 月 24 日に総務省統計局から公表されました 産業等基本集計は 人口の労働力状態

賃貸住宅市場のマクロ分析の勧め 4 95歳 9歳 85歳 8歳 75歳 7歳 65歳 6歳 55歳 5歳 その他埼玉県 全国 1歳 さいたま市 45歳 95歳 9歳 85歳 8歳 75歳 7歳 65歳 6歳 55歳 その他埼玉県 1歳 さいたま市 5歳 45歳 4歳 35歳 3歳 25歳 2歳 15

2. 繰上げ受給と繰下げ受給 65 歳から支給される老齢厚生年金と老齢基礎年金は 本人の選択により6~64 歳に受給を開始する 繰上げ受給 と 66 歳以降に受給を開始する 繰下げ受給 が可能である 繰上げ受給 を選択した場合には 繰上げ1カ月につき年金額が.5% 減額される 例えば 支給 開始年齢

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Transcription:

生涯未婚率の上昇による 出生率への影響 平成 26 年 6 月 15 日 ( 日 ) 第 66 回人口学会大会 統計研修所伊原一 1

概要近年の少子化における主な要因として 晩婚化と非婚化が挙げられるが 婚外子の少ない日本では 非婚化は出生率低下に直結することになるため 非婚者の増加による影響は諸外国に比べてより深刻であるといえる 一方で 現時点で 20 歳人口の非婚率は 30 年後にならないとはっきりしないという問題がある そこで 国勢調査の年齢別既婚率をコーホートで接続して 15~50 歳女性の生涯未婚率 ( 非婚率 ) の予測推計を行い 非婚者を除外した出生率を推計することにより 非婚化による出生率への影響について分析を行った 2

日本の合計特殊出生率 (TFR) は 人口動態統計 ( 厚生労働省 ) の結果によると 1970 年の 2.13 から 2005 年前後の 1.26 まで下がった後 2010 年には 1.39 に若干回復しているものの 依然として少子化が続いており 少子高齢化とこれに伴う人口減少社会が長期的に固定化しつつある 出生率が下がる大きな原因として 晩婚化が挙げられるが 晩婚化の根拠となる平均初婚年齢については 女性が結婚して初めて初婚年齢の計算にカウントされる 3

女性が少なくとも一生に一度は結婚することが計算の前提となっており 結婚しない女性についてはそもそも計算に含まれず 生涯未婚の女性が増えても数字に反映されないという問題が生じる いずれ平均初婚年齢の上昇が頭打ちになったとしても 生涯未婚の女性が増え続ければ出生率は低下していくことになる 出生率低下の原因として生涯未婚の女性の増加が見えない部分で作用しているとすると 将来の出生率予測を読み誤ることになってしまうことになる 4

女性の生涯未婚率について見てみると 生涯未婚率の本来の定義は ある年に生まれた女性の人口において 死亡するまで未婚のまま結婚しない女性の割合と考えることができる しかし ある年に生まれた女性人口の生涯未婚率が確定するまでには全員が死亡するまでに 100 年以上の年月がかかることと 死亡してしまった女性の婚姻状態を調べることは困難であることなどから 女性の生涯未婚率の真の値を求めることは難しいといえる 5

そこで 代替方法として女性のコーホート既婚率を求めてその収束値を生涯未婚率の代替値として用いることができる 一方で 女性の出産年齢は一般に 50 歳までであることから 50 歳以上で結婚した女性は出生率には影響しないと考えられる このため 出生率の計算上は 50 歳女性の未婚率を実質的な生涯未婚率として用いる場合も多い 本稿では 出生年別女性人口のコーホート既婚率を予測値として求めた上で 50 歳時点の未婚率を生涯未婚率の近似値として用いることにする 6

まず 国勢調査の結果から 15 歳以上女性人口について 各歳年齢別の既婚者数により既婚率を求めたものが図 1 となる この図からわかる通り 1960 年から 2010 年の半世紀の間に 人口再生産年齢 (15 歳以上 50 歳未満 ) の既婚率は大きく下がっているものの 65 歳の既婚率はそれほど低下していない 7

図 1 各歳年齢別の既婚率 8

ただし この図を見るときに注意する必要があるのは 国勢調査の各回データは調査年における一時点のデータであり この図は調査年時点における異なる世代の出生率を接続してグラフ化したものなっている 2010 年に 15 歳の人口は 1995 年出生 65 歳の人口は 1945 年出生となっており 出生年が異なる世代を年齢別に接続していることになる 9

既婚率が世代間で変化していなければ このグラフでも支障ないかもしれないが 既婚率が大きく変化している場合は あたかも 50 歳で未婚の人が 65 歳までに結婚して 50 歳以上の既婚率が上昇していくような錯覚を与えることになるので注意が必要になる この問題を解決する方法として コーホート分析と呼ばれる方法がある コーホート分析は 時系列の変化を出生年別に同じ世代の人口について観察する方法で 複数年の長期時系列の年齢別データを用いて分析を行う 10

国勢調査の 1960 年から 2010 年までの各歳年齢別既婚率をコーホートで接続してみたものが図 2 となる 国勢調査は 5 年ごとのデータであるため 中間年については補間推計を行っており また 2010 年以降については 1 歳年上の既婚率に変化率を乗じて補外推計を行う方法で 将来分のデータを補っている 11

図 2 各歳年齢別のコーホート既婚率 12

この結果からわかるように 既婚率は 40 歳を過ぎると上昇は頭打ちになり 50 歳以降はほとんど横ばいとなることから 50 歳以降に初婚で結婚する女性は極めて少ないことがわかる また 60 歳を過ぎると既婚率がやや下がる傾向を示し始めることから 60 歳の未婚率がコーホート既婚率から推計可能な生涯未婚率ということになる 13

生涯未婚率の上昇による出生率への影響を分析するためには 実際にはコーホート既婚率から求めた生涯未婚率ではなく 50 歳時点の既婚率に着目する必要がある 女性の一般的な出産可能年齢は 15 歳以上 50 歳未満とされており 50 歳以上で結婚しても出生数には影響しないと考えることができるので 50 歳既婚率が実質的に人口再生産の可能な人口割合を示す出産力人口率ということになる 14

これに対して 50 歳の未婚率は 結婚による出産行動を行わない実質的な非婚者の人口割合という観点から 生涯未婚率の代替値として用いることができる 本来の出産力人口は 子供を産んでいるか若しくは産む意志のある女性の人口として定義できるが 日本の場合は 婚外子が少ないことと 50 歳以上で結婚した女性が子供を出産する可能性が低いことから 50 歳女性の既婚率を出産力人口率の近似値として用いることにする 15

また 子供を出産しない あるいは 出産する意志のない非出産力人口率の近似値という観点から 50 歳女性の未婚率を生涯未婚率の代替値として用いることにする 出産力人口率について 出生年別にグラフ化したものが図 3 になる ただし 2010 年時点で 20 歳未満の世代については 結婚数が少なく 推計期間も長くなってしまうため 推計値がやや不安定な動きを示す 16

そこで 安全をとって 1985 年出生以降の 25 歳未満については 25 歳から 30 歳の変化率を用いて 2000 年出生まで定率変化による補正推計を行っている 17

境界値 (2010 年値 ) 図 3 出生年別の出産力人口率と 50 歳未婚率 18

また 非出産力人口率 (50 歳未婚率 =1- 出産力人口率 ) を求めたものが 生涯未婚率の代替値となる この図から 1910 年出生の女性の出産力人口率は 98% 以上の高い率を示しているが 90 年後に生まれた 2000 年出生の出産力人口率は約 60% となっており およそ 4 割もの女性が 50 歳までに結婚せず 出産力のない非出産力人口になるという予測結果が得られる 19

そこで 50 歳までに結婚している既婚女性を出産力人口として 出生数を出産力人口で除算して求めた出生率を潜在的な全婚出生率として推計を行うことで 非婚女性の増加による出生率への影響を分析してみることにする 一般に 出生率は母親の年齢別出生数を女性人口で除算して求めるが 母親の年齢別出生数を出産力人口で除算することで 潜在的な全婚出生率を求めることができる 20

全婚出生率は 非出産力人口を除外して計算するので 全ての女性が 50 歳までに結婚する場合の潜在的な出生率を示すことになる この出生率計算に出産力人口率を適用するためには 各年の各歳年齢別女性人口に 出生年別の出産力人口率を乗じて出産力人口を求める必要がある 各年の各歳年齢別出産力人口率をグラフ化したものが図 4 になる この図から 2010 年の出産力人口率は特に若い年齢層で低くなっており 子供を産まない非出産力女性が増えていることがわかる 21

図 4 各歳年齢別の出産力人口率の推移 22

出生率計算には 同居児法と呼ばれる出生率推計の手法を用いることで 10 月 1 日現在の出生率推計を行っている 潜在的な全婚出生率による合計特殊出生率の推計結果は 表及び図 5 となっており 女性人口の出生率による合計特殊出生率が 1970 年の 2.13 から 2010 年の 1.38 まで 0.75 ポイント低下しているのに比べて 全婚出生率は 1970 年から 2010 年まで 0.33 ポイント低下しているものの 下がり方はそれほど大きくなく 1970 年から 2010 年までの出生率低下 0.75 ポイントのうち 0.42 ポイント程度は出産力人口率の低下が原因になっていると見ることができる 23

図 5 全婚出生率の TFR(10 月 1 日現在推計 ) 24

( 表 ) 合計特殊出生率 TFR の推計結果 ( 同居児法による 10 月 1 日現在の推計値 ) 25

全婚出生率については 1995 年頃に底を打って横ばいとなっており さらに 2005 年には上昇に転じている 全婚出生率が 2005 年に上昇に転じた原因としては 育児 介護休業法の改正や 育児休業給付制度の改正などが時期的に一致しており これらの政策が出生率にプラスに影響した可能性がある 26

一方で 結婚しない女性が増えて出産力人口率が低下することによる出生率への降下圧力が 出生率の上昇傾向を打ち消してしまっているため 近年の出生率低下の背景として 結婚しない女性の増加による おひとり様 効果が強く働いていると言うことができそうである 27

このように 2010 年までのデータを見る限りでは 子供を産む女性 ( 出産力人口 ) の出生率は上昇に向かっている一方で 結婚しない女性 ( 非出産力人口 ) の増加が出生率を押し下げている状態にあると見られることから これまで少子化の原因としてはあまり注目されていない非出産力人口率 (50 歳未婚率 ) の上昇をいかに抑えて 出産力人口率を上げていくかが 今後の少子化対策において 重要な課題の一つになるのではないかと思われる 28

参考 : 出産力人口率の推移と出生率への影響 ~ おひとり様 効果による出生率低下 ~ エストレーラ 2013 年 12 月号 注 ) 本稿の意見等については 筆者の個人的な見解によるものである また 推計結果については 仮定に基づく予測値であり 実際の数値を示すものではない 29