Microsoft PowerPoint - 7依田高典 ppt[読み取り専用]

Similar documents
Probit , Mixed logit

Microsoft PowerPoint - 資料3 BB-REVIEW (依田構成員).ppt

講義「○○○○」

. イントロダクション 06 年の電力自由化に伴い, すべての消費者が自由に電力会社や料金プランを選べるようになった. しかし依然として従来の規制料金から自由料金へ乗り換える人は少ない. こうした行動は, 料金プランを切り替えた際に自分が得をするのか, 損をするのかが把握できていないため, 切り替え

統計的データ解析

Kumamoto University Center for Multimedia and Information Technologies Lab. 熊本大学アプリケーション実験 ~ 実環境における無線 LAN 受信電波強度を用いた位置推定手法の検討 ~ InKIAI 宮崎県美郷

様々なミクロ計量モデル†

日心TWS

カイ二乗フィット検定、パラメータの誤差

Microsoft Word - 補論3.2

EBNと疫学

基礎統計

スライド 1

PowerPoint プレゼンテーション

Microsoft PowerPoint - sc7.ppt [互換モード]

スライド 1

4 段階推定法とは 予測に使うモデルの紹介 4 段階推定法の課題 2

ベイズ統計入門

スライド 1

NLMIXED プロシジャを用いた生存時間解析 伊藤要二アストラゼネカ株式会社臨床統計 プログラミング グループグルプ Survival analysis using PROC NLMIXED Yohji Itoh Clinical Statistics & Programming Group, A

生命情報学

情報工学概論

Microsoft PowerPoint - 資料04 重回帰分析.ppt

ビジネス統計 統計基礎とエクセル分析 正誤表

要旨 携帯電話 スマートフォン タブレット PC の需要代替性 2 定性的な傾向 現在利用では 携帯端末が多いが 次回買い換え時には スマートフォンのシェアが上がる ただし 直ちに移行が進むわけではない ( p.4) 用途別に見た移動体端末の利用意向では 通話 メール 電子マネーのような基本サービス

Microsoft PowerPoint - stat-2014-[9] pptx

自動車感性評価学 1. 二項検定 内容 2 3. 質的データの解析方法 1 ( 名義尺度 ) 2.χ 2 検定 タイプ 1. 二項検定 官能検査における分類データの解析法 識別できるかを調べる 嗜好に差があるかを調べる 2 点比較法 2 点識別法 2 点嗜好法 3 点比較法 3 点識別法 3 点嗜好

第3章 離散選択分析

Microsoft PowerPoint - statistics pptx

Microsoft PowerPoint - e-stat(OLS).pptx

13章 回帰分析

Microsoft PowerPoint - ICS修士論文発表会資料.ppt

<4D F736F F D208EC08CB18C7689E68A E F AA957A82C682948C9F92E82E646F63>

Microsoft Word - å“Ÿåłžå¸°173.docx

Microsoft PowerPoint - 14回パラメータ推定配布用.pptx

Excelによる統計分析検定_知識編_小塚明_5_9章.indd

Microsoft PowerPoint - statistics pptx

青焼 1章[15-52].indd

Python-statistics5 Python で統計学を学ぶ (5) この内容は山田 杉澤 村井 (2008) R によるやさしい統計学 (

Medical3

(3) 検定統計量の有意確率にもとづく仮説の採否データから有意確率 (significant probability, p 値 ) を求め 有意水準と照合する 有意確率とは データの分析によって得られた統計値が偶然おこる確率のこと あらかじめ設定した有意確率より低い場合は 帰無仮説を棄却して対立仮説

サーバに関するヘドニック回帰式(再推計結果)

Microsoft PowerPoint - R-stat-intro_12.ppt [互換モード]


統計学 - 社会統計の基礎 - 正規分布 標準正規分布累積分布関数の逆関数 t 分布正規分布に従うサンプルの平均の信頼区間 担当 : 岸 康人 資料ページ :

多変量解析 ~ 重回帰分析 ~ 2006 年 4 月 21 日 ( 金 ) 南慶典

Microsoft Word - Stattext12.doc

Microsoft PowerPoint - 測量学.ppt [互換モード]

ii 3.,. 4. F. (), ,,. 8.,. 1. (75% ) (25% ) =9 7, =9 8 (. ). 1.,, (). 3.,. 1. ( ).,.,.,.,.,. ( ) (1 2 )., ( ), 0. 2., 1., 0,.

Bvarate Probt Model 0.24% 0.4% 5.%.% %.% Keyword Bvarate Probt Model 6- TEL & FAX: E-mal:

評価点の差と選択率 実際には ほとんど評価点が同じときは, どちらも選択される可能性がある 評価点の差が大きいときは, 片方しか選ばれない. A が圧倒的に劣る A が選ばれることはほとんどない 選択肢 A が選ばれる可能性 0 つは同じ魅力 0% ずつ A が圧倒的に良いほとんど A だけが選ばれ

Microsoft PowerPoint - ch04j

Microsoft Word - HM-RAJ doc

RSS Higher Certificate in Statistics, Specimen A Module 3: Basic Statistical Methods Solutions Question 1 (i) 帰無仮説 : 200C と 250C において鉄鋼の破壊応力の母平均には違いはな

Microsoft PowerPoint - Econometrics pptx

切片 ( 定数項 ) ダミー 以下の単回帰モデルを考えよう これは賃金と就業年数の関係を分析している : ( 賃金関数 ) ここで Y i = α + β X i + u i, i =1,, n, u i ~ i.i.d. N(0, σ 2 ) Y i : 賃金の対数値, X i : 就業年数. (

PowerPoint プレゼンテーション

Microsoft PowerPoint - Statistics[B]

集中理論談話会 #9 Bhat, C.R., Sidharthan, R.: A simulation evaluation of the maximum approximate composite marginal likelihood (MACML) estimator for mixed mu

森林水文 水資源学 2 2. 水文統計 豪雨があった時, 新聞やテレビのニュースで 50 年に一度の大雨だった などと報告されることがある. 今争点となっている川辺川ダムは,80 年に 1 回の洪水を想定して治水計画が立てられている. 畑地かんがいでは,10 年に 1 回の渇水を対象として計画が立て

スライド 1

モジュール1のまとめ

Microsoft PowerPoint - H17-5時限(パターン認識).ppt

データ科学2.pptx

PowerPoint プレゼンテーション

第 3 回講義の項目と概要 統計的手法入門 : 品質のばらつきを解析する 平均と標準偏差 (P30) a) データは平均を見ただけではわからない 平均が同じだからといって 同一視してはいけない b) データのばらつきを示す 標準偏差 にも注目しよう c) 平均

経済統計分析1 イントロダクション

解析センターを知っていただく キャンペーン

Microsoft PowerPoint - S11_1 2010Econometrics [互換モード]

SAP11_03

Microsoft Word doc

0 部分的最小二乗回帰 Partial Least Squares Regression PLS 明治大学理 学部応用化学科 データ化学 学研究室 弘昌

ii 3.,. 4. F. (), ,,. 8.,. 1. (75%) (25%) =7 20, =7 21 (. ). 1.,, (). 3.,. 1. ().,.,.,.,.,. () (12 )., (), 0. 2., 1., 0,.

The effect of smoking habit on the labor productivities

Microsoft PowerPoint - statistics pptx

Medical3

スライド 1

jphc_outcome_d_014.indd

<4D F736F F F696E74202D B CC8EC091482E B8CDD8AB B83685D>

Microsoft Word - Time Series Basic - Modeling.doc

ファイナンスのための数学基礎 第1回 オリエンテーション、ベクトル

PowerPoint プレゼンテーション

untitled

パーキンソン病治療ガイドライン2002

スライド 1

研修コーナー

Microsoft Word - ㅎ㇤ㇺå®ı璃ㆨAIã†®æŁ°ç’ƒ.docx

Microsoft Word - 予稿

以下のように整理できる ( 個人の添え字 n は省略 ). Ordered Logit exp Z exp Z exp Z exp Z Ordered Probit P P F Z P P F Z F Z P 3 P3 F Z あとは通常の MNL と同様, 以下の尤度関数を最大化すればよい. L

Microsoft PowerPoint - 【配布・WEB公開用】SAS発表資料.pptx

当し 図 6. のように 2 分類 ( 疾患の有無 ) のデータを直線の代わりにシグモイド曲線 (S 字状曲線 ) で回帰する手法である ちなみに 直線で回帰する手法はコクラン アーミテージの傾向検定 疾患の確率 x : リスクファクター 図 6. ロジスティック曲線と回帰直線 疾患が発

Microsoft PowerPoint slide2forWeb.ppt [互換モード]

摂南経済研究第 6 巻第 1 2 号 (2016), ページ 論文 プロ野球チケットへの支払い意思額に関する分析 特典付きチケットを事例として 持永政人 西川浩平 The Analysis of Willingness to Pay for Professional Baseball T

Microsoft Word - mstattext02.docx

Microsoft Word - Chap17

データ解析

Validation of TASHA: A 24-h activity scheduling microsimulation model Roorda, M. J., Miller,E. J., Habib, M. N. K. Transportation Research Part A, Vol

0 スペクトル 時系列データの前処理 法 平滑化 ( スムージング ) と微分 明治大学理 学部応用化学科 データ化学 学研究室 弘昌

統計学の基礎から学ぶ実験計画法ー1

OpRisk VaR3.2 Presentation

Transcription:

2007/02/10 第 6 回行動経済学ワークショップ 時間選好率 危険回避度 そして喫煙習慣 : 喫煙する人としない人は同じ人 違う人? 京都大学大学院経済学研究科助教授依田高典 1

1. 時間 危険に関する選好と喫煙行動の先行研究 喫煙者は 非喫煙者よりも 近視眼的な時間割引をする (Mitchell 1999 Bickel et al. 1999 Odumu et al. 2002 Baker et al. 2003 Reynolds et al. 2004 Ohmura et al. 2005 など ) 喫煙本数が多い喫煙者ほど またニコチン摂取量が多いほど () 割引率が大きい (Reynolds et al. 2004 Ohmura et al. 2005) 他方で 危険選好研究では 必ずしも喫煙者が非喫煙者よりも衝動的な確率割引をするとは限らない (Mitchell 1999 Reynolds et al. 2003 Ohmura et al. 2005) 本論文は Fagerström Test for Nicotine Dependence (FTND) に基づき 喫煙習慣度を 3 段階に分け 時間選好率と危険回避度を測定する (Heatherton et al. 1991) 2

2. 時間選好率または危険回避度の測定の先行研究 時間選好と危険選好のアノマリーは同じ構造を持っているが 時間選好と危険選好の相互作用の性質は解明されていない (Prelec and Lowenstein 1991 Raclin and Siegel 1994) 時間や危険に関する選好パラメータを測定し 喫煙 飲酒 未保険 危険資産投機などの危険愛好的な行動との関連性を検証した ( Barsky et al. 1997) しかしながら 従来の研究は 時間選好と危険選好を別々に測定 時間選好と危険選好の総合的測定の試みは数少ない (Rachlin et al. 1991 Keren and Roelofsma 1995 Anderhub et al. 2001 Yi et al. 2006) 本論文は 表明選好離散選択モデル分析 (Stated Preference Discrete Choice Model, SPDCM) を用いて 被験者レベルで時間選好率と危険回避度を同時に測定するという点で 革新的な研究 3

3. 本論文の 2 つの主要な結論 第一に 喫煙習慣と時間選好率 相対的危険回避度の関係を調べた 喫煙者全体の方が 非喫煙者全体よりも 時間選好率が高い 特に 喫煙者の中では 高度喫煙者が一番時間選好率が高い 非喫煙者の中では 過去喫煙者の方が 生涯非喫煙者よりも 時間選好率が低い 喫煙者全体の方が 非喫煙者全体よりも 危険愛好的である 特に 喫煙者の中では 高度喫煙者が一番危険愛好的である 非喫煙者の中では 過去喫煙者の方が 生涯非喫煙者よりも 危険回避的である 第二に 喫煙習慣と男女差のどちらが選好の違いに関係するのかを調べた 喫煙者の男女の選好の差であるが 時間選好率の平均値の差は存在するとは言えない また 非喫煙者の男女の選好の差であるが 時間選好率 危険回避度共に平均値の差は存在するとは言えない 喫煙者 非喫煙者の選好の差であるが 男性 女性共に 時間選好率 相対的危険回避度の平均値の差が存在すると言える 4

4. サンプル データの抽出モニタ調査会社に登録している成人日本人 ( 登録総数 22 万人 ) を対象に アンケート調査を行った サンプルの抽出は 次のように三段階に分けて行った 第一段階データ抽出 サンプル数 全サンプル比率 サブ サンプル比率 女性比率 平均年齢 全サンプル 10,816 --- --- 51% 40.0 非喫煙者 7,632 71% --- 56% 39.7 (1) 生涯非喫煙者 6,089 56% 80% 60% 38.4 (2) 過去喫煙者 1,546 14% 20% 38% 45.1 喫煙者 3184 29% --- 40% 40.6 (1) 高度喫煙者 (H) 671 6% 21% 38% 43.4 (2) 中度喫煙者 (M) 1,340 12% 42% 38% 40.8 (3) 低度喫煙者 (L) 1,173 現在喫煙者 11% ( 高度 中度 低度喫煙者 37% 43% ) に分類 38.8 第一に 登録モニタの中から約 1 万人をランダムに抽出し 現在非喫煙者 ( 生涯非喫煙者 過去喫煙者 ) 第二段階データ抽出 サンプル数 全サンプル比率 サブ サンプル比率 女性比率 平均年齢 全サンプル 1,022 --- --- 34% 41.1 非喫煙者 406 40% --- 50% 40.7 (1) 生涯非喫煙者 203 20% 50% 66% 40.2 (2) 過去喫煙者 203 20% 50% 35% 41.3 喫煙者 616 60% --- 23% 41.3 (1) 高度喫煙者 (H) 205 20% 33% 15% 44.2 (2) 中度喫煙者 (M) 206 人を抽出し 喫煙行動に関する質問を行った 20% 33% 23% 40.4 (3) 低度喫煙者 (L) 205 20% 33% 30% 39.3 第二に 5 つのサブカテゴリーからそれぞれ約 200 第三段階データ抽出 サンプル数 全サンプル比率 サブ サンプル比率 女性比率 平均年齢 全サンプル 692 --- --- 35% 40.2 非喫煙者 288 42% --- 50% 39.6 (1) 生涯非喫煙者 139 20% 48% 65% 36.1 (2) 過去喫煙者 149 22% 52% 37% 42.8 喫煙者 404 58% --- 25% 40.7 (1) 高度喫煙者 (H) 125 18% 31% 18% 43.8 (2) 中度喫煙者 (M) 127 険選好に関するアンケートへの回答を得た 18% 31% 21% 39.9 5 (3) 低度喫煙者 (L) 152 22% 38% 34% 38.8 第三に 第二段階回答者の 7 割から 時間選好 危

4. 喫煙者の喫煙習慣度の分類 我々は 現在喫煙者の喫煙習慣度を分類するために Fagerström Test for Nicotine Dependence(FTND) を実施した FTND とは 次のような 6 問の回答結果に応じて 高度喫煙者 (H) 中度喫煙者 (M) 低度喫煙者 (L) に分類した 問 1 朝起きてからどのくらいで最初のたばこを吸いますか 1.5 分以内 (3 点 ) 2.6~30 分 (2 点 ) 3.31~60 分 (1 点 ) 4.60 分以上 (0 点 ) 問 2 寺院や図書館 映画館など 喫煙を禁じられている場所で禁煙することは あなたにとって難しいことですか? 1. はい (1 点 ) 2. いいえ (0 点 ) 問 3 一日の喫煙の中で どちらが一番やめにくいですか? 1. 朝の最初の一本 (1 点 ) 2. その他 (0 点 ) 問 4 あなたは一日に何本たばこを吸いますか? 1.10 本以下 (0 点 ) 2.11-20 本 (1 点 ) 3.21-30 本 (2 点 ) 4.31 本以上 (3 点 ) 問 5 一日のうち 起きてから数時間のほうが 他の時間帯に比べて多く喫煙しますか? 1. はい (1 点 ) 2. いいえ (0 点 ) 問 6 あなたは 病気でほとんど一日中寝込んでいるようなときも 喫煙しますか? 1. はい (1 点 ) 2. いいえ (0 点 ) 0 3 点ニコチン依存度弱 4 6 点ニコチン依存度中 7 点以上ニコチン依存度強 6

4. 喫煙者の喫煙習慣度の分類 その結果 1 万人中からランダム サンプルした喫煙者の喫煙習慣度の比率は 高度喫煙者 (21%) 中度喫煙者 (42%) 低度喫煙者 (37%) であった 第一段階のサンプリングの喫煙者の女性比率は 40% と 2005 年現在の日本人成人喫煙者女性比率 23% よりも高めであったために 喫煙者の性比の割付に関しては 日本人成人喫煙者の女性比率 23% が再現されるように 喫煙習慣度の比率を考慮して 第二段階の喫煙者の女性比率は高度喫煙者 (15%) 中度喫煙者 (23%) 低度喫煙者 (30%) とした 7

5. コンジョイント分析 我々は 被験者の時間選好と危険選好を同時に測定するために 692 名に対して 表明選好法の一種であるコンジョイント分析を実施した コンジョイント分析では 財を様々な属性の束 ( プロファイル ) から成り立っているものと見なし 属性ごとの評価を行うことが可能である 本調査で使用する選択肢 属性および水準は 次の通りである 選択肢 1 は 賞金 10 万円 当たりの確率 100% 待ち時間なしとした 選択肢 2 は 賞金額 当たりの確率 待ち時間を問題ごとに変化させた 賞金額は 15 万円 20 万円 25 万円 30 万円 当たりの確率は 40% 60% 80% 90% 賞金が貰えるまでの待ち時間は 1 ヶ月後 半年後 1 年後 5 年後 直交計画法によりプロファイルを作成し 質問は一人あたり 8 問ずつ設けた 従って 総サンプル数は 生涯非喫煙者 (1112) 過去喫煙者 (1192) 高度喫煙者 (1000) 中度喫煙者 (1016) 低度喫煙者 (1216) である 8

設問例 選択肢 1 選択肢 2 賞金額 10 万円 25 万円 賞金がもらえる待ち時間 今すぐ 1ヶ月後 当たりの確率 100% 80% 選択する選択肢に 9

6. 割引 期待効用関数 選択肢 j の効用を Vj( 利得 j 遅滞時間 j 確率 j) と置く 経済学では 通常 指数関数型時間選好を持つ割引効用 確率に関する線形性を持つ期待効用を用いる 割引効用 :exp(-t* 遅滞時間 j)* 効用 ( 利得 j) 期待効用 : 確率 j* 効用 ( 利得 j) 以上から Vj を書き直せば となる Vj( 利得 j 遅滞時間 j 確率 j) =exp(- t* 遅滞時間 j)* 確率 j* 効用 ( 利得 j) 10

6. 割引 期待効用関数 ここでは 効用を利得の r 乗とおく このような効用関数を相対的危険回避度一定型と呼び 相対的危険回避度は 1- r と定義される 両辺の対数をとると を得る lnvj( 利得 j 遅滞時間 j 確率 j)=- t* 遅滞時間 j+ln 確率 j+ r *ln 利得 j 不忍耐とは時間選好率 t が正であり 近視眼的であればあるほど t は大きくなる 危険回避的とは相対危険回避度 1- r が [0,1] であることであり 危険回避的であればあるほど 1- r は大きくなる 11

7. ミックスド ロジット (ML) モデル 従属変数が離散的な場合の手法として標準的な条件付ロジット (CL) モデルでは 誤差項が独立かつ同一に分布すること (IID) を仮定するために 経済分析上制約的な無関係な選択肢からの独立性 (IIA) が課されてしまう そこで 我々は IIA 仮定を緩和したミックスド ロジット (ML) モデルを用い 個人間の選好の多様性 制約されない需要代替パターンを表現する MLモデルでは 係数 βが分布を持つと仮定し CLモデルの選択確率をβの分布に関して積分した形で表現される CLモデルの選択確率 Lniは 各説明変数のパラメータをβ 個人 nが選択肢 iから得る効用のうち観察可能な部分をvni 選択肢の数をJとすると となる L ni (β ) = exp(v ni (β )) / exp(v nj (β )) j =1 J ML モデルの関数型は β の密度関数を f(β) とおくと J P ni = exp(v ni (β )) / exp(v nj (β )) j =1 となる f (β )dβ 12

7. ミックスド ロジット (ML) モデル 効用関数は 選択肢 j の観察された変数を xni と zni α を固定された係数 μ を平均 0 の誤差項 εni を IID の極値分布を持つ誤差項とすると U ni = α ' x ni + μ ' z ni + ε ni となる ここでは 効用関数はパラメータに関して線形 (Linear-in-Parameter) であると仮定している ML モデルは 解析的に解くことができないため シミュレーションを用いる β が f(β θ) という分布を持つ場合 分布から引き出された β を β と書くことにし ドローの回数を R とする f(β θ) から β のドローを行うことで その β のもとでの標準ロジット モデルの選択確率 Lni(β) を計算できる このシミュレートされた確率の平均値は R ˆ r P = ni 1/ R L ( ) r 1 ni β = となり 真の確率 Pni の不偏推定量となる 13

7. ミックスド ロジット (ML) モデル シミュレートされた対数尤度関数 (SLL) は 当該選択肢が選択された場合に 1 選択されていない場合に 0 をとるインジケータ関数 dni を利用して となる このシミュレートされた対数尤度関数の最大値を与える θ がシミュレートされた最尤推定量となる MLモデルでは ベイズの定理に基づいて 実際の選択データをもとに 個人レベル別にパラメータの条件付分布の計算を行うことができる 回答者 nの選択プロファイルynを所与としたβの事後確率分布は となる SLL= h(β y n ) = N J n=1 j = 1 d ni ln Pˆ nj P(y n β ) f (β ) P(y n β ) f (β )dβ 14

7. ミックスド ロジット (ML) モデル 実際の ML モデルの推定では 2 つのパラメータが正規分布に従うようにすることで 選好の多様性が表現可能になる シミュレートされた最尤 (Maximum Simulated Likelihood) 法で推定を行い 100 回のハルトン ドローを用いた 回答者に 8 回繰返し質問するためデータをパネル データとして見なしてランダム イフェクト分析を用い パラメータのドローが 8 回繰返し利用されると仮定する ML モデルの推定で用いる変数は 次の通りである ランダム パラメータ TIME= -t ( 時間選好率は-TIME) RISK=r ( 相対的危険回避度は1-RISK) 15

8. 記述統計 全喫煙者 高度喫煙者 (H) 中度喫煙者 (M) 低度喫煙者 (L) 全非喫煙者 生涯非喫煙 過去喫煙 選択肢 1の選択率 64.1% 63.9% 63.6% 64.9% 64.1% 63.6% 64.5% サンプル平均値 サンプル平均値 サンプル平均値 サンプル平均値 サンプル平均値 サンプル平均値 サンプル平均値 遅滞時間 ( 月 ) 10.232 9.972 10.311 10.384 11.011 10.941 11.078 確率 (ln 確率 ) -0.232-0.243-0.235-0.221-0.228-0.228-0.227 利得 (ln 万円 ) 12.370 12.371 12.373 12.366 12.355 12.350 12.361 注 : サンプル平均値は選択された選択肢 2 のもの 16

9. 喫煙行動別推定結果 推定結果には ランダム パラメータが正規分布することを仮定し パラメータ毎に平均と標準偏差が出力される 全喫煙者 高度喫煙者 (H) 中度喫煙者 (M) 低度喫煙者 (L) 全非喫煙者 生涯非喫煙者 過去喫煙者 Sample No. 3232 1000 TIME: 平均値は全てt 値が統計的に有意である 標準偏差は過去喫煙者を除いて 1016 1216 t 値が統計的に有意である 2304 1112 1192 LL Max -1664.532-512.547-525.702-624.071-1220.735-587.972-630.015 LL(0) -2240.2517-693.1472 RISK: -704.238平均値は全て -842.867 t 値が統計的に有意である 標準偏差は低度 -1597.011-770.780-826.231 Pseudo R2 0.257 0.261 喫煙者と過去喫煙者を除いて少なくとも 0.254 0.260 0.236 10% 0.237 水準でt 値が統計的 0.237 に有意である Coeff./S.E. Coeff./S.E. Coeff./S.E. Coeff./S.E. Coeff./S.E. Coeff./S.E. Coeff./S.E. TIME(MEAN) RISK(MEAN) TIME(S.D.) RISK(S.D.) -0.0664-0.0693-0.0611-0.0669-0.0447-0.0516-0.0390 *** *** *** *** *** *** 0.0068 0.0133 0.0115 0.0105 0.0054 0.0084 0.0064 0.9104 0.9557 0.9230 0.8496 0.6999 0.7619 0.6461 *** *** *** *** *** *** 0.0714 0.1408 0.1295 0.1102 0.0785 0.1076 0.1152 0.0398 0.0388 0.0347 0.0423 0.0222 0.0321 0.0126 *** *** *** *** *** *** 0.0061 0.0121 0.0110 0.0091 0.0062 0.0082 0.0103 0.3030 0.5526 0.4028 0.0442 0.4203 0.0288 0.6368 * *** * *** 0.1622 0.2003 0.2405 0.2793 0.1476 0.3312 0.1533 *** *** *** 注 : 上段は推定値 下段は標準誤差 ***1% 水準有意 **5% 水準有意 *10% 水準有意 さらに 推定結果は全喫煙者 ( 高度喫煙者 中度喫煙者 低度喫煙者 ) 全非喫煙者 ( 生涯非喫煙者 過去喫煙者 ) の別に掲載されている 17

10. 喫煙習慣の別に見る時間選好率 相対的危険回避度 全喫煙者 高度喫煙者 中度喫煙者 低度喫煙者 全非喫煙者 生涯非喫煙者 過去喫煙者 時間選好率 (/ 月 ) 0.0664 0.0693 0.0611 0.0669 0.0447 0.0516 0.0390 相対的危険回避度 0.0896 0.0443 0.0770 0.1504 0.3001 0.2381 0.3539 時間選好率 喫煙者全体の方が 非喫煙者全体よりも 時間選好率が高い 喫煙者の中では 高度喫煙者が一番時間選好率が高い 非喫煙者の中では 過去喫煙者の方が 生涯非喫煙者よりも 時間選好率が低い 相対的危険回避度 喫煙者全体の方が 非喫煙者全体よりも 危険愛好的である ( ただし 双方とも 相対危険回避度は危険回避的範疇に分類 ) 喫煙者の中では 高度喫煙者が一番危険愛好的である 非喫煙者の中では 過去喫煙者の方が 生涯非喫煙者よりも 危険回避的である 18

11. 喫煙習慣の別に見る選好の同一性テスト 全喫煙者対全非喫煙者喫煙者内 ( 高度喫煙者対中度喫煙者対低度喫煙者 ) 非喫煙者内 ( 生涯非喫煙者対過去喫煙者 ) 注 : 臨界値はχ2(d.f.=4,p=0.05) 検定統計量 臨界値 15.851 9.488 4.424 9.488 5.496 9.488 結果選好同一性は棄却できる選好同一性は棄却できない選好同一性は棄却できない 全喫煙者と全非喫煙者の間では 時間選好率と危険回避度のような選好には 統計的に有意な差異が存在する 喫煙者の中では 喫煙依存度の高低の別で 時間選好率や危険回避度のような選好には 統計的に有意な差異が存在するとまでは言えない 非喫煙者の中では 過去喫煙の有無の別で 時間選好率や危険回避度のような選好には 統計的に有意な差異が存在するとまでは言えない 従って 時間選好率と危険回避度のような選好に影響を与えるのは 現在喫煙の有無である ただし ここで検証された現在喫煙者と現在非喫煙者の選好の差が喫煙の原因なのか 結果なのか 別の真因が存在するのか さらなる分析が 19 必要である

12. 個人レベル別選好パラメータの条件付分布表 100 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 相対危険回避度 喫煙者非喫煙者 20-0.60-0.55-0.50-0.45-0.40-0.35-0.30-0.25-0.20-0.15-0.10-0.05 0.00 0.05 0.10 0.15 0.20 0.25 0.30 0.35 0.40 0.45 0.50 0.55 0.60 0.65 0.70 0.75 0.80 ML モデルを用いて パラメータを正規分布させている 全喫煙者 全非喫煙者 TIME と RISK の標準偏差は統計的に有意である 時間選好率 喫煙者非喫煙者 140 120 100 80 60 40 20 0 相対危険回避度 -0.025-0.020-0.015-0.010-0.005 0.000 0.005 0.010 0.015 0.020 0.025 0.030 0.035 0.040 0.045 0.050 0.055 0.060 0.065 0.070 0.075 0.080 0.085 0.090 0.095 0.100 0.105 0.110 時間選好率 ここでは TIME RISK の条件付パラメータ分布を掲載している こうした選好には個人間多様性が非常に大きい

13. 条件付パラメータの喫煙習慣 性別比較 時間選好率 (/ 月 ) 相対的危険回避度 喫煙者 : 男性対女性 非喫煙者 : 男性対女性 男性 : 喫煙者対非喫煙者 女性 : 喫煙者対非喫煙者 条件付パラメータの分布をもとに 喫煙習慣の別 男女の別に 時間選好率 相対危険回避度の平均値の差を検定した 喫煙者非喫煙者 男性 女性 男性 女性 平均 0.0668 0.0652 0.0435 0.0454 標準偏差 0.0240 0.0256 0.0118 0.0098 い 平均 0.0813 0.1042 0.2975 0.3115 標準偏差 0.0859 0.0752 0.1607 0.1616 先ず 喫煙者の男女の選好の差であるが Welch-tテストの結果 時間選好率に関して 平均値の差は存在するとは言えな 他方で 非喫煙者の男女の選好の差であるが Welch-tテストの結果 時間選好率 相対危険回避度の平均値の差は存在するとは言えない 時間選好率 (/ 月 ) 相対的危険回避度時間選好率 (/ 月 ) 相対的危険回避度時間選好率 (/ 月 ) 相対的危険回避度時間選好率 (/ 月 ) 相対的危険回避度 Welch-t value p value 0.5500 0.5820 2.5520 0.0110 1.4370 0.1510 0.7390 0.4600 13.7415 0.0000 15.1068 0.0000 7.4194 0.0000 13.4714 0.0000 次に 喫煙者 非喫煙者の選好の差であるが Welch-tテストの結果 男性 女性共に 時間選好率 相対危険回避度の平均値の差が存在すると言える 以上から 選好の差と強く関係しているのは 性別の差ではなく 喫煙習慣の有無であることが判った 21

FIN 22

付録 1 習慣的行動の相互依存関係の分析 4 つの習慣的行動の相互依存関係を測定する 喫煙 飲酒 パチンコ 競馬 実証方法 : 第一段階 :ML モデルを用いた時間選好率 危険回避度の測定第二段階 : 行動間の内生生を考慮した 2 段階プロビット モデルによる測定 1. 誘導型を外生変数についてプロビット推定し 予測確率を求める 2. 予測確率を行動変数の代理変数として 構造型をプロビット推定する 期待される結論 : 1. 4つの習慣的行動の相互依存関係の有無 強度はどうか 2. 時間選好率 危険回避度など個人属性の影響はどうか 23

喫煙と飲酒の間には 高度に有意な正の相互作用が存在する -TIME 1.027 *** 1-RISK -.685 *** AGE -.205 ** TOBACCO.321 ***.175 *** 喫煙とパチンコの間には 弱いが有意な正の相互作用が存在する ALCOHOL -TIME -.518 *** 1-RISK.550 *** AGE.535 ***.200 *.090 ** -.218 ***.180 *.294 *** -TIME.444 *** 1-RISK -.300 *** GENDER -.331 *** AGE -.368 *** PACHINKO 飲酒と競馬の間には 弱いが有意な正の相互作用が存在する.403 ***.706 *** Note1: *** significant at the 1% level, ** significant at the 5% level, * significant at the 10% level. Note2: Figures 喫煙と競馬 飲酒とパチンコには相互作 are elasticities. Note3: The 用があるとは言えない interaction from tobacco to horse racing and the effects of time and risk preferences on alcohol are statistically significant but of unexpected signs. HORSE RACING -TIME.717 *** 1-RISK -.441 *** GENDER -.675 *** AGE -.561 *** パチンコと競馬の間にも 高度に有意な正の相互作用が存在する 時間選好率 危険回避度は 喫煙 パチンコ 競馬に 予想通りの影響を与える 24