第 4 章 応力とひずみの関係 4. 単軸応力を受ける弾性体の応力とひずみの関係 温度一定の下で, 負荷による変形が徐荷によって完全に回復する場合を広義の弾性というが, 狭義の弾 性では, 負荷過程と徐荷過程で応力 - ひずみ関係が一致しない場合は含めず ( 図 - 参照 ), 与えられたひ ずみ状態に対して応力が一意に定まる, つまり応力がひずみの関数と して表される. このような物体を狭義の弾性体 (elastic body), 変形を 弾性変形 (elastic deformation) という. まず, 図 4- に示すような単軸垂直応力を受ける弾性体を考えよう. 既に材料力学で学んだように微小変形の場合, 応力 とその方向の垂 直ひずみ の間には次式のフックの法則 (Hooke's law) が成立する. (4-) ここで比例係数 はヤング率 (Young s modulus, あるいは縦弾性係数 modulus of longitudinal elasticity) と よばれる. このように応力がひずみの一次式として表される弾性体を特に線形弾性体 (linear elastic body) といい, 本講義ではこれを対象とする. また, 図 4- で応力に直交する方向の垂直ひずみ ( 横ひずみと いう ) は負の値 ( つまり横方向には縮む ) であり, (4-) のように, やはり応力 やその方向のひずみ に比例する. ここで係数 はポアソン比 (Poisson s ratio) とよばれる. 微小変形の場合に応力とひずみが比例すると見なせる理由を説明しておこう. 図 4- に示すような線形弾性とは限らない任意の弾性体を考える. 上述した狭義 の弾性体の定義から, 応力 はひずみ の関数として () のように表される. これを = 0 の周りにおいて展開すると d d (0 ) (0) d d 0 0 微小変形の場合はひずみ の二次以上の項が無視できる. さらに = 0 のとき () = 0 と考えれば次の結果 を得る. d ( ) d 0 上式より, 任意の弾性体の微小変形下において応力はひずみに比例し, 式 (4-) との比較から = (d/d) =0 であることが解る. (4-3) 4. 一般の三次元弾性体における応力とひずみの関係 前節と同様の考え方によって, 一般の多軸応力 ひずみ下における弾性体の応力 -ひずみ関係を導くことができる. 次式のように任意の応力成分 ij がすべてのひずみ成分 ( テンソルひずみ ) の関数と考える. ( ) (,,,,,,,, ) (4-4) ij ij kl ij 3 3 3 微小変形に対して, ひずみ kl = 0 の周りで上式の応力を展開し, ひずみの二次以上の項を無視すると 3 3 3 3 ij ij ij ij ij ij (0 kl ) ij (0) kl ij (0) 3 k l k l kl 3 ij ij ij ij ij 3 3 3 3-0 -
ひずみが 0 のときに応力が 0 と考えれば, 次式のように応力がひずみ成分の一次式として表される. ij ここで (4-5) 3 3 ij 3 3 ij kl ijkl kl ijkl k l kl k l ちなみに係数 ijkl は 4 階のテンソルとなる. この応力 - ひずみ関係を 6 個の独立な応力成分に対して具体 的に書くと 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 3 また, ij = ji = ij / の関係を用いて上式を工学ひずみで書き直すと ( 3 3 ) 3 / ( 3 ) / ( ) / ( 3 3 ) 3 / ( 3) / ( ) / ( 3 3 ) 3 / ( 3) / ( ) / 3 3 3 ( ) 3 / ( 3) / ( ) / ( 3 3 ) 3 / ( 3 ) / ( ) / ( 3 3 ) 3 / ( 3 ) / ( ) / 係数を置きなおすと, 応力 - ひずみ関係が次の形でまとめられる. C C C3 C4 C5 C6 C C C3 C4 C5 C6 C C C3 C4 C5 C6 C C C3 C4 C5 C6 C C3 C C34 C35 C 36 C C3 C C34 C35 C 36 3 C4 C4 C43 C44 C45 C46 3 C4 C4 C43 C44 C45 C46 3 C5 C5 C53 C54 C55 C 56 C5 C5 C53 C54 C55 C 56 C6 C6 C63 C64 C65 C 66 C6 C6 C63 C64 C65 C 66 C ij のような応力 - ひずみ関係の係数を弾性係数あるいは弾性定数 (elastic constant) という. 特に, 式 (4-6) の C ij はスティフネス係数とよばれる.C ij については, 章末の付録 A に記したように次の関係が成立する. C C kl (4-6) ij ji ちなみに式 (4-5) のijkl に対しては ijkl klij (4-7) つまり, 式 (4-6) の弾性係数行列は常に対称行列であり, 次のように書くことができる. C C C3 C4 C5 C6 C C C3 C4 C5 C6 C C3 C4 C5 C6 C C3 C4 C5 C6 C C34 C35 C 36 C C34 C35 C 36 (4-8) 3 C44 C45 C46 3 C44 C45 C46 3 sym. C55 C 56 sym. C55 C 56 C 66 C 66 この関係を一般化されたフックの法則 (generalized Hooke's law) という. 上式によれば独立な弾性係数は 最大 個であるが, 実際のほとんどの材料ではそれより少ない. 式 (4-8) をひずみについて解くと次の形になる. S S S3 S4 S5 S6 S S3 S4 S5 S6 S S34 S35 S 36 3 3 S44 S45 S46 3 sym. S55 S 56 S 66 S ij をコンプライアンス係数といい, 行列 {S ij } は {C ij } の逆行列である. (4-9) - -
4.3 等方弾性体における三次元の応力とひずみの関係 4.3. 応力とひずみの関係 実際に機械構造等に使用される材料のほとんどは, どのような方向に座標系をとっても弾性係数が等し い. このような弾性体を等方弾性体 (isotropic elastic body) といい, 本講義ではこれを対象とする. 等方弾性体の応力 - ひずみ関係は次の形となる ( 証明略 ). C C C 0 0 0 C C 0 0 0 C 0 0 0 3 ( C C ) / 0 0 3 sym. ( C C ) / 0 ( C C ) / この式を見ればわかるように, 等方弾性体における独立な弾性係数はたった つとなる. 式 (4-0) の応力 - ひずみ関係は, 普通, なじみのある弾性係数を用いて以下の式で表される. ( ) ( ) ( )( ) ( ) ( ) ( )( ) ( ) ( ) ( )( ) 3 G3 Gε3, G Gε, G Gε ひずみについて解くと ( ), ( ), ( ) 3 3 3,, G G G (4-0) (4-) (4-) ここで はヤング率, はポアソン比,G はせん断弾性係数 (shear modulus, あるいは横弾性係数 modulus of transverse elasticity) である. 一見, 独立な弾性係数が 3 つのように見えるが, と と G の間には の関係がある. G (4-3) ( ) 等方弾性体における円柱座標系 rz の応力 - ひずみ関係は, 式 (4-) と式 (4-) で r,,3 z と置 き換えたものとなる. ( ) rr rr ( zz ) ( )( ) ( ) ( zz rr ) ( )( ) (4-4) ( ) zz zz ( rr ) ( )( ) z Gz Gz, zr G zr Gzr, r Gr Gr rr rr ( zz ), ( zz rr ), zz zz ( rr ) (4-5) z zr r z z, zr zr, r r G G G 4.3. 体積弾性係数式 (4-) のうち,, に関する三つの式の和をとると, 平均応力 ( ) / 3 と体積ひずみ - -
の関係が次のように表されることがわかる. ( ) K( ), ここで K (4-6) 3 3( ) K を体積弾性係数 (bulk modulus) という. 4.4 平面応力と平面ひずみ 4.4. 平面応力 板厚方向の力や曲げ ねじりを受けない薄板 では, 板厚方向の応力成分を 0 と見なすことが できる. 表面力を受けていない物体表面でも, 表面に垂直な応力成分は 0 である. また, 内圧 を受ける薄肉円筒や薄肉球のように, 厚さ方向 の応力が面内応力に比べて充分小さく, 近似的 に 0 と見なすことができる場合も多い. このよ うに, ある方向の応力成分が 0 である状態を平 面応力 (plane stress) 状態という. 図 4-3(b) に示すような,x 3 軸方向の応力が 0 となる平面応力状態では, 次式の応力成分が 0 である. 0, 3 3 0, 3 0 (4-7) 以下では等方弾性体を考える. 上式の平面応力状態において,x 3 軸方向のひずみは式 (4-) から ( ), 3 3 0 ( 3 3 0), 3 0 ( 3 0) (4-8) は 0 とならないが, と によって定まる値である. 結果として, 独立な応力 ひずみ成分は x x 面 内の,, および,, ( ) の 3 つずつとなる. これらの応力成分とひずみ成分の間の関係 は, 式 (4-) および式 (4-) に式 (4-7) を代入することで次のように得られる.,, G G あるいは (4-9),, G 円柱座標系の場合,z 方向の応力成分が 0 の平面応力状態では, 独立な応力 ひずみ成分は r 面内の rr,, r および rr,, r ( r ) の 3 つずつとなる. これらの応力成分とひずみ成分の関係は式 (4-9) で r, と置き換えたものとなる ( 式 (4-4),(4-5) で zz = z = zr = 0 としても同じ結果を得る ). rr rr, rr, r Gr Gr あるいは (4-0) r rr rr, rr, r r G 4.4. 平面ひずみある方向のひずみ成分が 0 である状態を平面ひずみ (plane strain) 状態という. 物体が完全な平面ひずみ状態にあるケースは必ずしも多くないが, 実用上, 平面ひずみで近似される問題は少なくない. 例えば, 厚板の問題や応力集中部などがそれにあたる. 図 4-4 に示すように x 3 方向のひずみが 0 の平面ひずみ状態では, 次式のひずみ成分が 0 である. - 3 -
0, 0 ( 0 ), 0 ( 0) (4-) 3 3 3 3 3 3 上式の平面ひずみ状態において, これらの方向の応力成分は式 (4-) から ( ), 0, 0 (4-) 3 3 3 となる ( は 0 ではない ). したがって, 平面ひずみ状態でも平面応力状態と同様に, 独立な応力 ひずみ成分は x x 面内の,, および,, ( ) の 3 つずつである. これらの応力成分とひずみ成分の間の関係は, 式 (4-) および式 (4-) に式 (4-) を代入することで次のように得られる. ( ), ( )( ) ( ), G G ( )( ) (4-3) あるいは,, G 円柱座標系で z 方向のひずみ成分が 0 の平面ひずみでは, やはり平面応力と同様に独立な応力 ひずみ成分は r 面内の rr,, r および rr,, r ( r ) の 3 つずつである. これらの応力成分とひずみ成分の関係は式 (4-3) で r, と置き換えたものとなる. ( ) rr rr, ( )( ) ( ) rr, r Gr Gr ( )( ) (4-4) あるいは r rr rr, rr, r r G 付録 A 弾性係数行列の対称性 単軸垂直応力 が作用し, その方向の垂直ひずみが の場合, 弾性体の 単位体積当たりに蓄えられるひずみエネルギー U 0 ( ひずみエネルギー関数, あるいはひずみエネルギー密度という ) は右図のグレー部分の面積となり, 次式で表される. U0 ( )d (4-5) 一般の多軸応力状態の場合は工学ひずみで書くと (4-6) U d d d d d d 0 3 3 上式から, ひずみエネルギー関数の全微分 du 0 は du0 d d d 3d 3 d d (4-7) 一方で, 弾性体のひずみエネルギー関数はひずみの関数であるので, 次の形で書ける. U 上式の全微分をとると U (,,,,, ) 0 0 3 U U U U U U du d d d d d d 0 0 0 0 0 0 0 3 3 式 (4-7) と式 (4-8) との比較から以下の関係が得られる. U U U U U U 0 0 0 0 0 0,,, 3,, 3 次に式 (4-6) において, 例えば C と C に着目すると, これらは次の意味をもっている. (4-8) (4-9) - 4 -
C, C この式に式 (4-9) の, を代入すると次の結果を得る. C C U0 他の C ij と C ji についても同様に考えることで式 (4-7) の関係が得られる. (4-30) 付録 B 直交異方性弾性体の応力 - ひずみ関係 図 4-6 に示すように, 方向が揃えられた非常に細い繊維が埋め込まれている材料は, 巨視的に均質な材料と見なした場合の弾性係数が繊維方向と繊維直交方向とで異なる. このように方向によって弾性係数が異なる弾性体を異方性弾性体 (anisotropic elastic body) という. 異方性弾性体において, ある平面に対して材料構造が対称であれば, 当然, 弾性特性もこの面に対して対称となる. 例えば図のように繊維が均等に配置されている場合, それぞれの座標軸垂直な 3 つの材料構造対称面を有し, 特に直交異方性弾性体 (orthotropic elastic body) という. 直交異方性弾性体の弾性係数行列は次の形となり, 独立な弾性係数は 9 個である. C C C3 0 0 0 C C C3 0 0 0 C C3 0 0 0 C C3 0 0 0 C 0 0 0 C 0 0 0 3 C44 0 0 3 C44 0 0 sym. C55 0 sym. C55 0 C 66 C 66 3 (4-) 演習問題 ( いずれの問題でも物体は等方弾性体とする ) 他章でも同様 4. あらゆる方向から一様な圧力 p を受けている三次元の弾性体 ( ヤング率, ポアソン比 ) における 応力成分とひずみ成分をすべて求めなさい. 4. 主応力,, 3 が与えられているとき, 主ひずみ,, 3 を求めなさい. 4.3 式 (4-7) の平面応力状態について,x x 面内の応力成分とひずみ成分の関係が式 (4-9) となることを式 (4-) と式 (4-) から導きなさい. 4.4 式 (4-) の平面ひずみ状態について,x x 面内の応力成分とひずみ成分の 関係が式 (4-3) となることを式 (4-) と式 (4-) から導きなさい. 4.5 一辺の長さが a で一様厚さの正方形ブロック ( ヤング率, ポアソン比 ) を, 図 4-7 に示すように剛体壁と間隔 a の剛体天井 剛体床で囲まれた 位置にすき間なく無応力状態で挿入した後, ブロックの右面に一様圧力 p を与えた. ただし,x 3 方向 ( 厚さ方向 ) の変形が拘束されない平面応力 状態とし, ブロックと壁面 天井面 床面との間に摩擦は生じないもの とする. このとき, 垂直応力成分,, と垂直ひずみ成分,, を求めなさい. 4.6 図 -5, 図 3-5 に示すように,x 3 軸を中心として x x 座標を反時計回りに角度 回転した xx 座標を考える.x 3 方向の応力成分が 0 の平面応力状態として, xx 座標における面内の応力成分,, - 5 -
とひずみ成分,, の間に成り立つ関係を式 (-4), 式 (3-), 式 (4-9), および式 (4-3) を用い て導きなさい. ただし, ヤング率を, ポアソン比を とする. 4.7 平面ひずみ状態にあるヤング率 A, ポアソン比 A の平板 A と, 平面応力状態にあるヤング率 B, ポ アソン比 B の平板 B を考える. 両平板に対して同じ x x 面内応力成分,, を与えた場合, そ の,, がいかなる値であっても, 面内ひずみ成分,, がいずれも両平板で互いに一致 するものとする. このとき以下の問に答えなさい. () が両平板で一致する条件から, 平板 B のせん断弾性係数 G B を A と A で表しなさい. () と がいずれも両平板で互いに一致する条件から, B, B を A と A で表しなさい. (3) () と () で求めた G B, B, B の間に成り立つ関係式を求めなさい. (4) A = 06 GPa, A = 0.3 のとき, B と B の値を求めなさい. - 6 -