埼玉工業大学機械工学学習支援セミナー ( 小西克享 ) 剛体の重心と自由運動 -1/8 テーマ 07: 剛体の重心と自由運動 一般的に剛体が自由に運動できる状態 ( 非拘束の状態 ) で運動するとき, 剛体は回転運動を伴った運動をします. たとえば, 棒の端を持って空中に放り投げると, 棒はくるくる回転しながら上昇してやがて地面に落ちてきます. 剛体が拘束されない状態で運動する様子を考察してみましょう. (1) 剛体の重心 剛体を構成する微小部分の質量を [kg] とすると, 微小部分には g kn の重力が発 生します. 剛体の全質量を kg] とすると, 剛体全体では i g g0 d g kn i の重力が発生することになります. この全体の重力が作用する位置は, モーメントのつり 合いから求めることができます. 任意の点を基準に微小部分の重力によるモーメント i gx i kn の合計が剛体全体のモーメント gx とつり合うものとすると,[ i x gx g g x d i i i 0 0 g x d i k と求まります. この位置を重心といい, 重心は剛体の全重力 g が 1 点に作用したと仮定 した場合の位置に相当します. 剛体をつるすと重心の位置を求めることができます. 図 のように剛体の一部分 ( 支点 ) を持って剛体をつるすと, 剛体には g のモーメントが作用します. このモーメントによって剛体は回転することになり, 重心が支点の真下に来る位置で剛体は静止します. 任意の位置からつるしたとき, 支点から鉛直下方に引いた線はすべて一点を通ることになります. か所からつるしてそれぞれの線の交点を求めれば, この点が重心になります. g b g g 図 1
埼玉工業大学機械工学学習支援セミナー ( 小西克享 ) 剛体の重心と自由運動 -/8 () 重心の運動 剛体の重心を通る方向に力を加えると剛体は, 力の方向に運動をします. 下の図で, 重 心 に力 が作用すると, 剛体は姿勢を変えることなく力の方向に運動をします. 図 (3) 偶力による回転運動 1 偶力が重心に点対称に作用する場合この場合, 剛体の重心には力が作用しないため剛体は運動することなく, 回転運動のみをします. 回転の中心位置は重心になりますが, このことを理論的に求めてみましょう. 摩擦が無視できるなめらかな水平面に質量 kg], 長さ k の棒が置かれているものとします. x 偶力によりモーメント M >0 が発生 重心は移動せず, 剛体は重心回りに角加速度回転運動する 図 3 棒の中央にある重心 から k の 点と 点に偶力 を与えたとき, 重心 から x k の 点に作用するモーメントは M x x 一定 となります. 回転運動の運動方程式 ( オイラーの運動方程式 ) は, 点回りの慣性モーメ
埼玉工業大学機械工学学習支援セミナー ( 小西克享 ) 剛体の重心と自由運動 -3/8 ントを kg], 点回りの角加速度を [rd/s] とすると M なので, 角加速度 は M を x で微分すると ここで, より, d dx 4 d 0 dx 4 0 x 0 とおくと, 角加速度が最大となる位置は, となります. すなわり, 点は重心 に一致することがわかります. このとき 重心において最大の角加速度 が発生します. このように偶力を与えると, 重心回りの加速度が最大となることから, ほ かの位置よりも重心を中心として早く回転しようとするため, 棒は重心を中心に回転する ことになります. 慣性モーメント は回転のしやすさを表す物理量であり, 値が小さいほ ど回転が加速しやすくなります. 重心回りの慣性モーメントが最も小さいことから, 拘束 されない剛体の回転は重心が回転の中心となるのです. 次に, 重心回りの角速度を求めます. 偶力 によるモーメント M が一定となるように, 棒に偶力 [kn を t[ks 作用させ, 角速度が 0 から [rd/s] に増加したとすると, 角運動量は Mt となります. よって, 角速度 は Mt t となります. さらに回転のエネルギー Erot は E rot 1 1 Mt 1 M t t t となります. このように棒は重心を中心に回転を始め,t ks 後に角速度は まで到達 します. 偶力が消滅しても棒はそのままの角速度で回転を続けることになります.[ 偶力の位置が重心から非対称な場合次に, 偶力の作用する位置が棒の中央にある重心 から k の 点と b k の 点にある場合を考えます. この場合も1の例と同じように剛体の重心には力が作用しないため剛体は運動することなく, 回転運動のみをします. 回転の中心位置は重心になります. この
埼玉工業大学機械工学学習支援セミナー ( 小西克享 ) 剛体の重心と自由運動 -4/8 ことを理論的に求めてみましょう. x b 偶力によりモーメント M >0 が発生 重心は移動せず, 剛体は重心回りに角加速度回転運動する 図 4 重心 から x k の 点に作用するモーメントは M x b x b 一定 となります.( 参考 : 中心軸上のどの位置でもモーメントは一定.) 回転運動の運動方程式 ( オイラーの運動方程式 ) は, 点回りの慣性モーメントを kg], 点回りの角加速度を [rd/s] とすると M なので, 角加速度 は M を x で微分すると d dx d ここで, 0 とおくと, 角加速度が最大となる位置は, dx 0 より, x 0 となります. すなわち, 点は重心 に一致することがわかります. このとき, 重心において最大の角加速度 が発生します.
埼玉工業大学機械工学学習支援セミナー ( 小西克享 ) 剛体の重心と自由運動 -5/8 重要 : 重心 が 間にない場合でも, 同じ結果になります. このように, 偶力が作用する位置が重心と点対称になっていなくても, 重心を中心とし て剛体は回転することになります. 次に, 重心回りの角速度を求めます. 偶力 によるモーメント M が一定となるように, 棒に偶力 [kn を t[ks 作用させ, 角速度が 0 から [rd/s] に増加したとすると, 角運動量は Mt となります. よって, 角速度 は Mt t となります. さらに回転のエネルギー Erot は E rot 1 1 Mt 1 M t t となります. このように棒は重心を中心に回転を始め,t ks 後に角速度は t します. 偶力が消滅しても棒はそのままの角速度で回転を続けることになります.[ まで到達 (4) 一点のみに力が作用した場合の回転運動 図に示すように, 質量 [kg] の棒の一点 に力 が作用する場合を考えます. 重心 の 位置に相殺する力 と - が作用すると考えると. 重心 [ には力 が作用し,[ 間に は M のモーメントが発生していると考えることができます. 間のモーメントは, 重心 [ にも作用するので剛体は重心 [ に作用する力の方向に運動するとともに, モーメ ント M により剛体は重心 回りに回転することになります. (3) の結果から重心における最大の角加速度は になります. 偶力 によるモーメント M が一定となるように, 棒に力 kn が t ks 作用す ると, 棒は重心を中心に回転を始め,t ks 後に角速度は 動の速度は力積の式から, v 0 t よって,t ks [ 後の重心の速度は t v になります.[ t まで到達します. 重心の運
埼玉工業大学機械工学学習支援セミナー ( 小西克享 ) 剛体の重心と自由運動 -6/8 - 力の作用する方向は常に同じ 重心が移動しながら, 重心回りに角加速度回転運動する 図 5 重心の移動方向は, 偶力の作用する方向に依存します. 図 5 に示すようにモーメントを一定に保つため力の作用点の位置が変化する場合は, 重心は直線運動します. 一方, 常に 点に直角に力作用する場合には, 重心を移動させる力の方向が変化するため, 重心の運動方向も変化します. (5) 平行で大きさの異なる逆向きの力による回転運動
埼玉工業大学機械工学学習支援セミナー ( 小西克享 ) 剛体の重心と自由運動 -7/8 1 力の作用点が対称の場合 図に示すように, 棒の中央にある重心 から k の 点に力 と b k の 点に を与える場合を考えます. ただし, とします. (4) の場合と同様に力を分解して考えると, 重心 [ には力 が作用するとともに,[ M M b が発生していると考えることができます. こ モーメント のことから剛体は重心 [ に作用する力の方向に運動するとともに, モーメント M により 剛体は重心 回りに回転することになります. (4) の結果から重心における最大の角加速度は になります.[ b M+M - 重心が移動しながら, 重心回りに角加速度回転運動する 図 6 偶力によるモーメント M が一定となるように, 力 と が t ks 作用すると, 棒は重心を 中心に回転を始め,t ks 後に角速度は t まで到達します. 重心の運動の速度は
埼玉工業大学機械工学学習支援セミナー ( 小西克享 ) 剛体の重心と自由運動 -8/8 力積の式から, v 0 よって,t ks 後の重心の速度は v となります. t t (6) 一点にモーメントのみが作用する場合の回転運動 剛体の一点 にモーメントのみが作用する場合, それ以外の場所にはモーメントも力も 働かないため, 剛体はモーメント作用した点回りに等加速度回転運動します. モーメント M kn [ が 点に t[ks 間作用したとき, 点回りの角速度 は Mt Mt となります. モーメントが作用しなくなった後, 回転の中心が重心に移動し, 回転を続け ます. このとき角運動量が保存されるため, 角速度は に加速し, 等速回転運動することになります. x M >0 点にモーメント M が作用している間, 点回りに等加速度回転運動する モーメントが作用しなくなると, 加速して重心回りに等速回転運動する 図 7 http://www.sit.c.jp/user/gonishi/jpn/_support/supportpd/reemotionofri]idody.pdf opyri]ht[c[015[ 小西克享,[[Ri]hts[Reserved. 個人的な学習の目的以外での使用, 転載, 配布等はできません. お願い : 本資料は, 埼玉工業大学在学生の学習を支援することを目的として公開しています. 本資料の内容に関する本学在学生以外からのご質問 ご要望にはお応えできません.