第 36 回長崎県糖尿病治療研究会 症例検討会 使用したスライドは近日中に研究会の HP へ掲載いたします http://www2.nim.co.jp/ndmm/
症例 1.41 歳 男性 1 型糖尿病または MODY 現病歴 :2014 年 2 月 業務中に転倒し受傷 S 病院に搬送され左大腿骨頸部骨折の診断を受けた 採血の結果 高血糖および尿ケトン体陽性を認め精査加療目的で内科へ紹介となった これまでに糖尿病の治療歴はない 家族歴 : 母 兄 姉 1 型糖尿病 姉 2 型糖尿病 母の兄弟も糖尿病 現症 : 身長 169.0 cm 体重 50.7 kg(bmi 17.8 kg/m 2 ) 糖尿病神経障害 (-) 糖尿病網膜症 (-) 検査所見 : 尿たんぱく (-) 尿糖 (+) 尿ケトン体 (2+) Hb 12.2g/dl AST 21IU/l ALT 20IU/l γ-gtp 17IU/l BUN 9.5mg/dl Cr 0.32mg/dl LDL-C 88mg/dl TG 173mg/dl 随時血糖 334mg/dl HbA1c 13.5% GAD65 抗体 (-) IA-2 抗体 1.7U/ml IRI 0.4µU/ml CPR 0.3ng/ml HOMA-R 0.12 HOMA-β 2.67% CPI 0.34 内服薬 : ネシーナ 25mg 1x アピドラ (4 2 4) ランタス (0 0 0 6) 質問 緩徐進行 1 型糖尿病と MODY について教えてください
症例 1 のまとめ 41 歳 男性 糖尿病の家族歴濃厚 BMI 17.8 と肥満 (-) GAD65 抗体 (-) IA-2 抗体 (+) ケトーシス (+) HOMA-R 0.12 HOMA-β 2.67 ネシーナ 25mg 1x アピドラ (4,2,4) ランタス (0,0,0,6) で治療中 質問 緩徐進行 1 型糖尿病と MODY の鑑別について
HOMA-R と HOMA-β 1. HOMA-R 空腹時インスリン (µu/ml) 空腹時血糖 (mg/dl) 405 1.6 以下が正常 2.5 以上はインスリン抵抗性の存在 2. HOMA-β 空腹時インスリン (µu/ml) 360 症例 1 のデータ : HOMA-R 0.12 HOMA-β 2.67% 空腹時血糖 (mg/dl)-63 40~60% が正常 30% 未満はインスリン分泌能低下
緩徐進行 1 型糖尿病の診断基準 (2012 年 ) 1 型糖尿病調査研究委員会 ( 緩徐進行 1 型糖尿病分科会 ) 必須項目 1. 経過のどこかの時点でグルタミン酸脱炭酸酵素 (GAD) 抗体もしくは膵島細胞抗体 (ICA) が陽性である a) 2. 糖尿病の発症 ( もしくは診断 ) 時, ケトーシスもしくはケトアシドーシスはなく, ただちには高血糖是正のためインスリン療法が必要とならない b) 判定 : 上記 1 2 を満たす場合 緩徐進行 1 型糖尿病 と診断する a) Insulinoma-associated antigen-2(ia-2) 抗体, インスリン自己抗体 ( IAA) もしくは亜鉛輸送担体 8(ZnT8) 抗体に関するエビデンスは不十分であるため現段階では診断基準に含まない b) ソフトドリンクケトーシス ( ケトアシドーシス ) で発症した場合はこの限り ではない ( 田中昌一郎ほか. 糖尿病 56(8):590~597 2013)
急性発症 1 型糖尿病診断基準 (2012) 1. 口渇 多飲 多尿 体重減少などの糖尿病 ( 高血糖 ) 症状の出現後 おおむね 3 か月以内にケトーシスあるいはケトアシドーシスに陥る 2. 糖尿病の診断早期より継続してインスリン治療を必要とする 3. 膵島関連自己抗体が陽性である 4. 膵島関連自己抗体が陰性であるが 内因性インスリン分泌が欠乏している * 判定 :1~3 を満たす場合 急性発症 1 型糖尿病 ( 自己免疫性 ) と診断する 1 2 4 を満たす場合 急性発症 1 型糖尿病 と診断してよい 内因性インスリン分泌の欠乏が証明されない場合 あるいは膵島関連自己抗体が不明の場合には 診断保留とし 期間をおいて再評価する * 空腹時血清 C ペプチド <0.6 ng/ml を 内因性インスリン分泌欠乏の基準とする ( 川﨑英二ほか. 糖尿病 56 (8): 584-589, 2013)
MODY (Maturity- Onset Diabetes of the Young) 1.25 歳未満に発症し 2. 少なくとも 3 世代にわたって垂直遺伝の家族歴があり 3. 片親および同胞の約半数が 2 型糖尿病である
MODY MODY における異常遺伝子と臨床像 異常遺伝子 インスリン依存状態 MODY 1 Hepatocyte Nuclear Factor (HNF) 4α Yes MODY 2 Glucokinase No MODY 3 HNF-1α Yes MODY 4 Insulin Promotor Factor (IPF) - 1 No MODY 5 HNF-1β Yes MODY 6 NeuroD1 Yes
症例 1 の診断方針 緩徐進行 1 型糖尿病の可能性 GAD65 抗体の再測定 発症時の保存血清があればインスリン抗体を測定 MODY の可能性 HNF-1α HNF-1β HNF-4α NeuroD1 遺伝子の解析 < 清野先生コメント > 遺伝子異常の可能性が高い
症例 2.67 歳 男性 2 型糖尿病 陳旧性心筋梗塞 冠動脈ステント留置術後 現病歴 : 平成 14 年に急性心筋梗塞でステント治療を受け平成 16 年に紹介受診 初診時の血糖値 235mg/dl HbA1c 8.2% ありアマリール 1mg 開始 HbA1c は 6.9% まで改善するも コンプライアンスの低下もあり平成 19 年 7 月には 15.6% まで上昇したため 内服薬を徐々に追加し平成 25 年 12 月にはアマリール 4mg メトグルコ 750mg グラクティブ 100mg にて HbA1c 11.1% アクトス 7.5mg を追加し HbA1c 10.5% となるも 15mg への増量で浮腫をきたし中止となった BOT は拒否している 現症 : 身長 160.4 cm 体重 59.1 kg(bmi 22.9 kg/m 2 ) 糖尿病網膜症 (-) 検査所見 : 尿たんぱく (-) AST 16IU/l ALT 20IU/l γ-gtp 34IU/l Cr 0.66mg/dl 随時血糖 304mg/dl HbA1c 10.5% IRI 31.2µU/ml( 食後 2 時間 ) GAD65 抗体 (-) 質問 今後の治療方針について教えてください
症例 2 のまとめ 67 歳 男性 2 型糖尿病 陳旧性心筋梗塞 冠動脈ステント術後 BMI 22.9 と肥満 (-) 内服コンプライアンス不良 アマリール 4mg メトグルコ 750mg グラクティブ 100mg にて HbA1c 10.5% アクトス 15mg で体重増加あり中止 質問 今後の治療はどうしたらよいか
メトホルミン単独高容量投与による血糖改善効果 HbA1c 空腹時血糖 食事 運動療法で血糖コントロールが不十分な2 型糖尿病患者を対象に メトグルコ 500mgより開始し 750mgまたは1500mgまで増量 14 週間投与試験 承認申請資料
症例 2 への対応策 1. 内服コンプライアンスの確認をおこなう ( 残薬のチェック ) 2. 食事療法の指導 ( 食べる順番など ) 3. グラクティブを他の DPP-4 阻害薬または GLP-1 受容体作動薬へ切り替える 4. メトグルコを増量 (2250mg まで可能 ) 5. SGLT2 阻害薬の併用? < 清野先生コメント >SGLT2 阻害薬は使用すべきでない症例アマリール オイグルコンは心筋梗塞後の症例には適さない
症例 3.67 歳 男性 2 型糖尿病 陳旧性心筋梗塞 現病歴 : 平成 21 年 9 月当院転院時 ノボラピット (10 10 10) ランタス (0 0 10) 使用していた 平成 23 年 1 月 HbA1c 8.0 9.1% まで悪化したため 4 月よりグラクティブ 50mg 追加 しかし体重が初診より 84 89.7kg と増加したためグラクティブ中止し 平成 24 年 3 月からメトグルコ 1000mg 2 へ変更 その後血糖コントロール改善せずアルコール多飲が判明したためメトグルコ中止し グラクティブ再開 また ランタスも 10 12 13 と増量したが 平成 26 年 5 月 HbA1c 9.4% 体重 97kg と治療抵抗状態となっている 元々わがままな性格でまた経済的理由で薬剤追加や専門医紹介を拒んでいる 現症 : 身長 168.0 cm 体重 95.8kg(BMI 33.9 kg/m 2 ) 検査所見 : 尿たんぱく (-) AST 38U/l ALT 31U/l BUN 13 mg/dl Cr 0.69mg/dl 随時血糖値 208 mg/dl HbA1c 9.4% GAD65 抗体 (-) 質問 今後の治療方針について教えてください
症例 3 のまとめ 67 歳 男性 2 型糖尿病 陳旧性心筋梗塞 BMI 33.9 と肥満 (+) 体重が徐々に増加している (13kg/5 年 ) ノボラピッド 30 単位 ランタス 13 単位 グラクティブ 50mg にて HbA1c 9.4% アルコール多飲ありメトグルコを中止 質問 今後の治療はどうしたらよいか
症例 3 の治療 <BMI 33.9kg/m 2 の肥満 5 年で 13kg 体重増加 > 食事療法による減量が重要! 1. 調理担当者を明らかにする 栄養指導時には同席を 2. 問題点を明確にする 食べる速度 咀嚼回数 食べる順番 飲酒 3. 達成可能かつ明確な目標を設定する 体重 1kg 減量 =-7000kcal 3~5% 減を目標に
症例 3 への対応策 1. アルコール摂取量を含め食事療法の見直しを行う アルコール摂取量 <25g/ 日 食べる速度 炭水化摂取量 食べる順番などを指導 2. インスリン注射のコンプライアンスを確認 SMBG のデータも確認 3. GLP-1 受容体作動薬の併用 < 清野先生コメント > 超速効型インスリンを GLP-1 受容体作動薬へ変更するのがよい
症例 4.73 歳 男性 2 型糖尿病 直腸癌術後 高血圧 陳旧性心筋梗塞 糖尿病網膜症 現病歴 : 平成 17 年当院転院後 アマリール 2mg メルビン 750mg ベイスン 0.6mg で HbA1c 6.5% 前後でコントロールされていた その後 内服薬の変更あり平成 25 年 12 月にはアマリール 2mg メトグルコ 750mg セイブル 150mg ネシーナ 12.5mg で HbA1c 6.4% であったが 平成 26 年 3 月に心筋梗塞後アマリール 1mg ネシーナ 25mg で退院 4 月の HbA1c 8.0% にてセイブル 150mg 再開し 6 月には 7.9% となっている 妻が入院中であり朝食 : 缶詰 パン 昼食 : 喫茶店で摂取 夕食 : 外食となっている 現症 : 身長 169.3cm 体重 66.7kg(BMI 23.4 kg/m 2 ) 検査所見 : 空腹時血糖値 159mg/dl HbA1c 7.9% GAD65 抗体 (-) 空腹時 IRI 5.18µU/ml HOMA-R 2.2 HOMA-β 19.4 質問 今後の治療方針について教えてください
症例 4 のまとめ 73 歳 男性 2 型糖尿病 直腸癌術後 陳旧性心筋梗塞 BMI 23.4 と肥満 (-) HOMA-R 2.2 HOMA-β 19.4 アマリール 2mg メトグルコ 750mg セイブル 150mg ネシーナ 12.5mg で HbA1c 6.4% アマリール 1mg セイブル 150mg ネシーナ 25mg にて HbA1c 7.9% 質問 今後の治療はどうしたらよいか
症例 4 への対応策 1. 退院後の血糖コントロール悪化の要因として 食事療法のウエィトが大きいと考えられるため なるべく和食 ( 定食 ) を食べるよう指導 砂糖と油の摂り過ぎに注意 2. セイブルをメトグルコ (500mg 2x より ) ヘ変更 3. アマリールを 2mg へ増量 < 清野先生コメント > 目標を HbA1c<7.5% として 1 2 をおこなってみる
今回 症例をお寄せいただいた先生方 (50 音順 ) 馬場医院深堀内科医院本田内科わたべクリニック 馬場是明先生深堀茂樹先生本田孝也先生渡部誠一郎先生 ありがとうございました