応用音響学 第9回 音場の境界値積分表現

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Transcription:

応用音響学第 9 回 小山翔一 東京大学大学院情報理工学系研究科システム情報学専攻 2021/6/11 小山翔一 (UTokyo) 応用音響学第 9 回 2021/6/11 1 / 62

講義スケジュール S セメスター金曜 2 限 (10:25-12:10) @ オンライン 日程 4/9 第 1 回 4/16 第 2 回 4/23 第 3 回 4/30 第 4 回 5/7 第 5 回 5/14 第 6 回 猿渡先生 5/21 第 7 回 5/28 休講 6/4 第 8 回 6/11 第 9 回 6/18 第 10 回 6/25 休講 7/2 第 11 回 7/9 第 12 回 小山 小山翔一 (UTokyo) 応用音響学第 9 回 2021/6/11 2 / 62

講義目的 講義前半 ( 猿渡先生担当 ) 音声分析, 音声符号化, 音声認識, 音声合成, 音響信号処理などに関連する基礎知識について講義する 応用として, 携帯電話や MP3 などの音声音楽情報圧縮技術や音声認識技術 音声合成システムなどがある 統計的信号処理の基礎, スペクトル解析, パターン認識, 確率モデル, 統計学習, 最適解探策などの基本概念とアルゴリズムを理解し, これらの技術の基礎になる知識と概念の習得を目指す 講義後半 ( 小山担当 ) 音響現象の数理的なモデリング方法を理解することを目的とし, 音波の伝播, 反射, 回折, 散乱などの現象を数学的に記述するための基礎事項について講義する 応用として, 音源位置の推定や音場の可視化, 音の VR/AR や騒音 振動制御, 音響数値シミュレーションなどがある これらの基本概念を理解することで, 様々な波動場の計測 制御技術の基礎となる知識の習得を目指す 小山翔一 (UTokyo) 応用音響学第 9 回 2021/6/11 3 / 62

講義後半の概要 講義内容 ( 予定 ) 5/21: 音波の伝播 6/4: 音響管 自由空間中の音波 6/11: 6/18: フーリエ音響学 (1) 7/2: フーリエ音響学 (2) 7/9: 室内音響学と音響数値シミュレーション参考文献 安田仁彦, 機械音響学, コロナ社, 2004. E. G. Williams, Fourier Acoustics: Sound Radiation and Nearfield Acoustical Holography, Academic Press, 1999. 小山翔一 (UTokyo) 応用音響学第 9 回 2021/6/11 4 / 62

講義資料と成績評価 講義資料 ITC-LMS に前日までにアップロード予定 http://www.sh01.org/ja/teaching/ あるいはシステム 1 研のウェブサイトからもたどれます成績評価 レポート or オンライン試験 (7/30) 小山翔一 (UTokyo) 応用音響学第 9 回 2021/6/11 5 / 62

本日の目次 1 境界値積分表現とその応用 Green 関数とその性質 Kirchhoff Helmholtz 積分方程式境界条件を与えた場合の Green 関数 Single layer potential による音場の積分表現 小山翔一 (UTokyo) 応用音響学第 9 回 2021/6/11 6 / 62

境界値積分表現とその応用 本日の目次 1 境界値積分表現とその応用 Green 関数とその性質 Kirchhoff Helmholtz 積分方程式境界条件を与えた場合の Green 関数 Single layer potential による音場の積分表現 小山翔一 (UTokyo) 応用音響学第 9 回 2021/6/11 7 / 62

境界値積分表現とその応用 とは? ある境界面上の値から, その内部あるいは外部への伝播を記述する積分表現 音源のパラメータを陽に与えることなく音場を記述できる 基本的には音源が境界面の内部あるいは外部のみに含まれると仮定し, 音源の存在しない空間への伝播 ( 順問題 ) を定式化する 小山翔一 (UTokyo) 応用音響学第 9 回 2021/6/11 8 / 62

境界値積分表現とその応用 の応用例 音響数値シミュレーション 波動場の数値解析, e.g., 境界要素法 (Boundary element method) 音響ホログラフィ / 音場再構成 ( 特に伝播の逆方向に関して ) 複数の観測値から音圧分布を推定音場の合成 / 制御 複数のスピーカを用いて所望の音場を合成 / 制御 Figure: https://www.onosokki.co.jp/hp-wk/products/ application/hologram.htm より 小山翔一 (UTokyo) 応用音響学第 9 回 2021/6/11 9 / 62

Green 関数とその性質 本日の目次 1 境界値積分表現とその応用 Green 関数とその性質 Kirchhoff Helmholtz 積分方程式境界条件を与えた場合の Green 関数 Single layer potential による音場の積分表現 小山翔一 (UTokyo) 応用音響学第 9 回 2021/6/11 10 / 62

Green 関数とその性質 Green 関数 Green 関数は, 角周波数 ω の定常な場において, ある点 r に与えた単位作用のある点 r での場の量 ( 音圧や粒子速度 ) に与える影響を, 2 つの点の関数 G(r r ) として記述する 重ね合わせの原理により物理系に対する作用を細分化して考えるために,Green 関数を求めることは有用 Helmholtz 方程式に関する自由空間 Green 関数 G(r r ) は, を満たし, 2 G(r r ) + k 2 G(r r ) = δ(r r ) G(r r ) = ejk r r 4π r r 小山翔一 (UTokyo) 応用音響学第 9 回 2021/6/11 11 / 62

Green 関数とその性質 Green 関数 自由空間 Green 関数では位置 r = r の点音源である δ 関数のみを与えたが, 一般に Green 関数は, 音源に加えて境界条件や ( 波動方程式の場合 ) 初期条件を与えることで定まる よく出てくる境界条件 Neumann 境界条件は, 境界面上での音圧の ( 外向き ) 法線方向微分 p/ n を 0 とする Dirichlet 境界条件は, 境界面上での音圧 p を 0 とするこれらを満たす Green 関数を Neumann 型,Dirichlet 型 Green 関数と呼ぶ Robin 境界条件は,Neumann 境界条件と Dirichlet 境界条件の組み合わせ ap + b p n = g ここで a,b は定数であり,g は境界面上で定義される関数 さらに一般化して a,b を関数とする場合もある 小山翔一 (UTokyo) 応用音響学第 9 回 2021/6/11 12 / 62

Green 関数とその性質 Green 関数の相反性 Green 関数 G(r r ) が, ( 2 + k 2 )G(r r ) = δ(r r ) を満たし, 境界面において以下を満たすとする ag(r r ) + b G(r r ) n = 0 このとき,Green 関数は相反性 (reciprocity) を持つ G(r r ) = G(r r) 小山翔一 (UTokyo) 応用音響学第 9 回 2021/6/11 13 / 62

Green 関数とその性質 Green 関数の相反性 証明は以下の Green の ( 第 2) 定理を用いる Green の ( 第 2) 定理 ある領域とその境界面をそれぞれ V,S とし,V 内で 1 階および 2 階微分が連続かつ有界な関数 Φ(r),Ψ(r) に対して, 以下が成り立つ V ( Φ 2 Ψ Ψ 2 Φ ) dv = S ( Φ Ψ ) n Ψ Φ ds n 小山翔一 (UTokyo) 応用音響学第 9 回 2021/6/11 14 / 62

Green 関数とその性質 Green 関数の相反性 Φ = G(r r ),Ψ = G(r r ) として, ( ) G(r r ) G(r r ) G(r r ) G(r r ) ds S n n ( = G(r r ) 2 G(r r ) G(r r ) 2 G(r r ) ) dv V ( = G(r r )δ(r r ) G(r r )δ(r r ) ) dv V = G(r r ) G(r r ) さらに境界条件より, 第 1 式は 0 になることから, G(r r ) = G(r r ) 小山翔一 (UTokyo) 応用音響学第 9 回 2021/6/11 15 / 62

Green 関数とその性質 Green 関数の相反性 Green 関数の相反性 (reciprocity) G(r r ) = G(r r) つまり, 音源位置と評価位置を入れ替えても Green 関数は等しい 小山翔一 (UTokyo) 応用音響学第 9 回 2021/6/11 16 / 62

Kirchhoff Helmholtz 積分方程式 本日の目次 1 境界値積分表現とその応用 Green 関数とその性質 Kirchhoff Helmholtz 積分方程式境界条件を与えた場合の Green 関数 Single layer potential による音場の積分表現 小山翔一 (UTokyo) 応用音響学第 9 回 2021/6/11 17 / 62

Kirchhoff Helmholtz 積分方程式 Huygens の原理 波面の伝播は, ある瞬間の波面のそれぞれの点から, 球面状の二次波 ( 素元波 ) が出ていると考える 波動の回折現象を説明するために導入された Huygens の原理をより数学的に記述するには? Figure: https://ja.wikipedia.org/wiki/ ホイヘンス = フレネルの原理より 小山翔一 (UTokyo) 応用音響学第 9 回 2021/6/11 18 / 62

Kirchhoff Helmholtz 積分方程式 Helmholtz 方程式の境界値積分表現 境界面と境界条件が決まると,Helmholtz 方程式の解は Green 関数を用いた積分として表される Green の定理をもう一度思い出すと, ( Φ 2 Ψ Ψ 2 Φ ) ( dv = Φ Ψ ) n Ψ Φ ds n V これら 2 つの関数 Φ(r) と Ψ(r) が斉次 Helmholtz 方程式を満たすとする 2 Φ + k 2 Φ = 0, 2 Ψ + k 2 Ψ = 0 このとき,Green の定理の左辺の被積分関数は 0 となるので, ( Φ Ψ ) n Ψ Φ ds = 0 n S 上式が Helmholtz 方程式の境界値積分表現を導くための基礎となる 小山翔一 (UTokyo) 応用音響学第 9 回 2021/6/11 19 / 62 S

Kirchhoff Helmholtz 積分方程式 境界値積分表現における内部問題と外部問題 2 つの境界値積分表現内部問題 ある領域 Ω の境界面 Ω から, 領域内部への音場を記述 音源は Ω の外側に存在 外部問題 ある領域 Ω の境界面 Ω から, 領域外部への音場を記述 音源は Ω の内側に存在 ( 放射音場 ) 小山翔一 (UTokyo) 応用音響学第 9 回 2021/6/11 20 / 62

Kirchhoff Helmholtz 積分方程式 内部問題における Kirchhoff Helmholtz 積分方程式 内部問題における Helmholtz 方程式の境界値積分表現を考える Green の定理において,Ψ が領域 Ω 内の位置 r = r に特異点を持ち,Φ は連続である場合を考える 2 Ψ + k 2 Ψ = δ(r r ) ここで Ψ には (Sommerfeld の放射条件を満たすことを除いて ) 境界条件は存在しない 一般解は, 特殊解 Ψ p と斉次解 Ψ h との和として書ける Ψ = Ψ p + Ψ h 特殊解 Ψ p は, 自由空間 Green 関数 G(r r ) に等しいことから, Ψ p = G(r r ) = ejk r r 4π r r 小山翔一 (UTokyo) 応用音響学第 9 回 2021/6/11 21 / 62

Kirchhoff Helmholtz 積分方程式 内部問題における Kirchhoff Helmholtz 積分方程式 Ψ h = 0 つまり Ψ = Ψ p = G(r r ) となるように, 領域 Ω が特異点を取り除くように変形することを考える 図のように, 境界面 Ω を特異点を囲う半径 ϵ の微小球面 S i と外部表面 S o の結合による形とすると, この領域で Ψ と Φ は連続となることから,Green の定理が成り立つ S o ( Φ G(r r ) n + lim ϵ 0 S i G(r r ) Φ n ) ds o ( Φ G(r r ) G(r r ) Φ n n ) ds i = 0 小山翔一 (UTokyo) 応用音響学第 9 回 2021/6/11 22 / 62

Kirchhoff Helmholtz 積分方程式 内部問題における Kirchhoff Helmholtz 積分方程式 微小球上の積分である第 2 項を考える lim ϵ 0 S i ( Φ G(r r ) G(r r ) Φ n n ) ds i 第 2 項は / n = / ϵ,g(r r ) = e jkϵ /4πϵ, ds i = ϵ 2 sin θdθdϕ より, ( lim G(r r ) Φ ) ds i ϵ 0 n Φ(r) = lim ϵ 0 ϵ G(r r )ϵ 2 sin θdθdϕ r=r = lim ϵ Φ(r) ϵ 0 ϵ = 0 r=r Φ(r) は r = r まわりで連続であることに注意 小山翔一 (UTokyo) 応用音響学第 9 回 2021/6/11 23 / 62

Kirchhoff Helmholtz 積分方程式 内部問題における Kirchhoff Helmholtz 積分方程式 第 1 項は, sin θdθdϕ = 4π より, ( ) lim Φ G(r r ) G(r r ) ds i = lim Φ(r) ϵ 0 S i n ϵ 0 r=r n ϵ2 sin θdθdϕ = Φ(r ) ここで, 以下の近似を用いた G(r r ) n = ejkϵ /ϵ ϵ = ejkϵ ejkϵ (jk 1/ϵ) 4πϵ 4πϵ 2 以上により,r Ω\ Ω において, Φ(r ) = Ω ( G(r r ) Φ n ) Φ G(r r n ) dr 小山翔一 (UTokyo) 応用音響学第 9 回 2021/6/11 24 / 62

Kirchhoff Helmholtz 積分方程式 内部問題における Kirchhoff Helmholtz 積分方程式 評価点 r が境界面上にある場合 (r Ω), 微小球 S i 上の積分は 1/2 が掛けられた形となるので, ( 1 2 Φ(r ) = G(r r ) Φ ) Ω n ) Φ G(r r dr n 評価点 r が領域 Ω の外にある場合 (r R 3 \Ω), 特異点が存在しないため Green の定理が Ω 内のあらゆる位置で成り立つので, ( 0 = G(r r ) Φ ) n ) Φ G(r r dr n Ω 小山翔一 (UTokyo) 応用音響学第 9 回 2021/6/11 25 / 62

Kirchhoff Helmholtz 積分方程式 内部問題における Kirchhoff Helmholtz 積分方程式 以上により,Helmholtz 方程式の境界値積分表現として, 内部問題における Kirchhoff Helmholtz 積分方程式が得られた 内部問題における Kirchhoff Helmholtz 積分方程式 ある音源を含まない領域 Ω 内部の位置 r Ω\ Ω における音圧 p(r) は, 境界面 Ω 上の積分方程式によって以下のように得られる ( ) p(r) = G(r r ) p(r ) n p(r ) G(r r ) n dr Ω 小山翔一 (UTokyo) 応用音響学第 9 回 2021/6/11 26 / 62

Kirchhoff Helmholtz 積分方程式 内部問題における Kirchhoff Helmholtz 積分方程式 以上により,Helmholtz 方程式の境界値積分表現として, 内部問題における Kirchhoff Helmholtz 積分方程式が得られた 内部問題における Kirchhoff Helmholtz 積分方程式 ある音源を含まない領域 Ω 内部の位置 r Ω\ Ω における音圧 p(r) は, 境界面 Ω 上の積分方程式によって以下のように得られる ( ) p(r) = G(r r ) p(r ) n p(r ) G(r r ) n dr Ω 音圧の法線方向微分 p(r)/ n( ここからは音圧勾配と呼ぶ ) は, 周波数領域では粒子速度に比例する量 (cf. 第 7 回の資料 ) p(r) n = jωρv n(r) 境界面 Ω 上の音圧と音圧勾配がわかれば,Kirchhoff Helmholtz 積分方程式にしたがって内部の音圧を求められる 小山翔一 (UTokyo) 応用音響学第 9 回 2021/6/11 27 / 62

Kirchhoff Helmholtz 積分方程式 外部問題における Kirchhoff Helmholtz 積分方程式 外部問題の場合, 上図のような 3 つの境界面 S o,s i,s ( 半径が無限大の球面 ) からなる面に対して Green の定理を適用する ( ) ( Φ G(r r ) G(r r ) Φ ) dr = 0 n n S o + S i + S 小山翔一 (UTokyo) 応用音響学第 9 回 2021/6/11 28 / 62

Kirchhoff Helmholtz 積分方程式 外部問題における Kirchhoff Helmholtz 積分方程式 S i における積分は内部問題の場合と同様 ( lim Φ G(r r ) G(r r ) Φ ) ds i = ϵ 0 S i n n S Φ(r ) r R 3 \Ω 1 2 Φ(r ) r S o 0 r Ω\S o S における積分は, 球の半径を r として, ( lim Φ G(r r ) G(r r ) Φ ) ds r r r さらに, ejk r r G(r r ) = 4π r r ejkr 4πr ( ) G(r r ) = e jk r r r r 4π r r jk ejkr 4πr 小山翔一 (UTokyo) 応用音響学第 9 回 2021/6/11 29 / 62

Kirchhoff Helmholtz 積分方程式 外部問題における Kirchhoff Helmholtz 積分方程式 近似式を使って S における積分を計算すると, ( lim Φ G(r r ) G(r r ) Φ r r r S lim r = lim r e jkr r r ( Φ(r) r ) ds ) jkφ(r) したがって,S における積分を 0 とするためには, 次の関係式が成り立たなければならない ( ) p(r) jkp(r) = 0 ここで Φ を音圧 p に置き換えた この条件は Sommerfeld の放射条件と呼ばれ, 無限遠での境界条件を与えている 小山翔一 (UTokyo) 応用音響学第 9 回 2021/6/11 30 / 62

Kirchhoff Helmholtz 積分方程式 外部問題における Kirchhoff Helmholtz 積分方程式 以上により,Helmholtz 方程式の境界値積分表現として, 外部問題における Kirchhoff Helmholtz 積分方程式が得られた 外部問題における Kirchhoff Helmholtz 積分方程式 ある領域 Ω 外部の音源を含まない領域内の位置 r R 3 \Ω における音圧 p(r) は, 境界面 Ω 上の積分方程式によって以下のように得られる ( ) p(r) = G(r r ) p(r ) n p(r ) G(r r ) n dr Ω 小山翔一 (UTokyo) 応用音響学第 9 回 2021/6/11 31 / 62

Kirchhoff Helmholtz 積分方程式 外部問題における Kirchhoff Helmholtz 積分方程式 以上により,Helmholtz 方程式の境界値積分表現として, 外部問題における Kirchhoff Helmholtz 積分方程式が得られた 外部問題における Kirchhoff Helmholtz 積分方程式 ある領域 Ω 外部の音源を含まない領域内の位置 r R 3 \Ω における音圧 p(r) は, 境界面 Ω 上の積分方程式によって以下のように得られる ( ) p(r) = G(r r ) p(r ) n p(r ) G(r r ) n dr Ω 境界面 Ω 上の音圧と音圧勾配がわかれば,Kirchhoff Helmholtz 積分方程式にしたがって外部の音圧 ( 放射音場 ) を求められる 式の形としては内部問題の場合と同じだが, 法線方向ベクトルの向きが異なることに注意 ( 内部問題の場合も同様だが,) Ω は物理的な境界と一致している必要はなく, 仮想的な境界面として設定してよい 小山翔一 (UTokyo) 応用音響学第 9 回 2021/6/11 32 / 62

Kirchhoff Helmholtz 積分方程式 散乱問題における Kirchhoff Helmholtz 積分方程式 外部問題を変形して,S o 内部に存在する物体による散乱を扱うこともできる 位置 r = r p に存在する点音源による音場を入射場とする 小山翔一 (UTokyo) 応用音響学第 9 回 2021/6/11 33 / 62

Kirchhoff Helmholtz 積分方程式 散乱問題における Kirchhoff Helmholtz 積分方程式 位置 r = r p に強度 Φ 0 の点音源による特異点を持つ Φ と, 位置 r = r に特異点を持つ Ψ = G(r r ) は, それぞれ以下を満たす 2 Φ(r) + k 2 Φ(r) = Φ 0 δ(r r p ) 2 G(r r ) + k 2 G(r r ) = δ(r r ) これらに対し,S o,s i,s,s p の境界面において Green の定理を適用する ( ) ( Φ G(r r ) G(r r ) Φ ) dr = 0 n n S o + S i + S + S p S i における積分は外部問題の場合と同様,S における積分は Sommerfeld の放射条件を満たすとして 0 となる 小山翔一 (UTokyo) 応用音響学第 9 回 2021/6/11 34 / 62

Kirchhoff Helmholtz 積分方程式 散乱問題における Kirchhoff Helmholtz 積分方程式 S p における積分は, 球 S p の半径を ϵ としたとき,ϵ 0 の場合に点音源近傍では自由空間に置かれた点音源による音場として近似できることから, e jk r rp lim Φ(r) = Φ 0G(r r p ) = Φ 0 ϵ 0 4π r r p よって,S p における積分は S i における積分と同様の形で求められる ( lim G(r r ) Φ ) ϵ 0 n ) Φ G(r r ds p n = G(r p r Φ ) lim ϵ 0 S p n ϵ2 sin θdθdϕ = Φ 0 G(r p r ) この式は入射場と呼ばれ, ここでは p inc と表す 小山翔一 (UTokyo) 応用音響学第 9 回 2021/6/11 35 / 62

Kirchhoff Helmholtz 積分方程式 散乱問題における Kirchhoff Helmholtz 積分方程式 散乱問題における Kirchhoff Helmholtz 積分方程式 ある散乱体を含む領域 Ω 外部の位置 r R 3 \Ω における音圧 p(r) は, 入射場を p inc として, 境界面 Ω 上の積分方程式によって以下のように得られる ( ) p(r) = p inc (r) + p(r ) G(r r ) n G(r r ) p(r ) n dr Ω ここで法線方向ベクトルの向きを逆にしていることに注意 小山翔一 (UTokyo) 応用音響学第 9 回 2021/6/11 36 / 62

Kirchhoff Helmholtz 積分方程式 散乱問題における Kirchhoff Helmholtz 積分方程式 散乱問題における Kirchhoff Helmholtz 積分方程式 ある散乱体を含む領域 Ω 外部の位置 r R 3 \Ω における音圧 p(r) は, 入射場を p inc として, 境界面 Ω 上の積分方程式によって以下のように得られる ( ) p(r) = p inc (r) + p(r ) G(r r ) n G(r r ) p(r ) n dr Ω ここでは入射場 p inc を位置 r p の点音源としたが,S p の取り方を変えれば領域 R 3 \Ω の音源による任意の p inc に対して上式が成り立つ このように散乱音場は, 入射場 p inc と散乱場 p sct の和として表すことができる p(r) = p inc (r) + p sct (r) ただし,p sct (r) = Ω ( ) p(r ) G(r r ) n G(r r ) p(r ) n dr 小山翔一 (UTokyo) 応用音響学第 9 回 2021/6/11 37 / 62

Kirchhoff Helmholtz 積分方程式 音源を含む領域における積分表現 領域に音源を含む場合,Ω 内の音源分布を Q(r) とすると, 音場は以下の非斉次 Helmholtz 方程式を満たす ( 2 + k 2 )p(r) = Q(r) 一方,3 次元自由空間 Green 関数 G(r r ) は以下を満たす ( 2 + k 2 )G(r r ) = δ(r r ) 小山翔一 (UTokyo) 応用音響学第 9 回 2021/6/11 38 / 62

Kirchhoff Helmholtz 積分方程式 音源を含む領域における積分表現 両辺に Q(r ) をかけて体積 Ω にわたって積分すると, ( 2 + k 2 ) Q(r )G(r r )dr = δ(r r )Q(r )dr Ω = Q(r) したがって, 音源分布 Q(r) による音場は,Q(r) と G(r r ) の畳み込みとして表される p(r) = Q(r )G(r r )dr Ω 自由空間でない場合は, さらに斉次解の項 p h を加えた形となる p(r) = Q(r )G(r r )dr + p h (r) Ω Ω 小山翔一 (UTokyo) 応用音響学第 9 回 2021/6/11 39 / 62

Kirchhoff Helmholtz 積分方程式 音源を含む領域における積分表現 非斉次 Helmholtz 方程式に対して Green の定理を適用すれば, ( ) G(r r ) p(r ) Ω n p(r ) G(r r ) n dr ( = G(r r ) 2 p(r ) p(r ) 2 G(r r ) ) dr Ω ( = G(r r )Q(r ) p(r )δ(r r) ) dr Ω = G(r r )Q(r )dr + p(r) ( ただし,r Ω\ Ω) Ω したがって,r Ω\ Ω のとき, p(r) = Q(r )G(r r )dr Ω ( ) + G(r r ) p(r ) n p(r ) G(r r ) n dr Ω 小山翔一 (UTokyo) 応用音響学第 9 回 2021/6/11 40 / 62

境界条件を与えた場合の Green 関数 本日の目次 1 境界値積分表現とその応用 Green 関数とその性質 Kirchhoff Helmholtz 積分方程式境界条件を与えた場合の Green 関数 Single layer potential による音場の積分表現 小山翔一 (UTokyo) 応用音響学第 9 回 2021/6/11 41 / 62

境界条件を与えた場合の Green 関数 境界条件を与えた場合の Green 関数 Kirchhoff Helmholtz 積分方程式は, 領域の境界面上の音圧と音圧勾配を用い, 自由空間 Green 関数の項とその法線方向微分の項の和による境界値積分により, 内部あるいは外部の音場を決定できる 境界面上の音圧または音圧勾配のみを用いた積分表現も可能であり, その場合は自由空間 Green 関数の代わりに, 具体的な境界条件を満たすような Green 関数を用いればよい Neumann 境界条件を満たすような Green 関数,Neumann 型 Green 関数 G N は, 境界面 Ω において以下を満たす G N n = 0 このような Green 関数を使えば,Kirchhoff Helmholtz 積分方程式の項が 1 つ消去される p(r) = G N (r r ) p(r ) n dr Ω 小山翔一 (UTokyo) 応用音響学第 9 回 2021/6/11 42 / 62

境界条件を与えた場合の Green 関数 境界条件を与えた場合の Green 関数 Dirichlet 型 Green 関数 G D (r r ) は, 境界面 Ω において Dirichlet 境界条件を満たす G D = 0 この場合,Kirchhoff Helmholtz 積分方程式のもう一方の項が消去される p(r) = p(r ) G D(r r ) n dr Ω したがって,Neumann 型 Dirichlet 型 Green 関数が得られれば, 境界面上の音圧または音圧勾配のみから ( 禁止周波数を除いて ) 内部あるいは外部の音場を計算できる 境界条件を与えた場合の Green 関数を求める方法は, 大きく分けて二つある 1 斉次 Helmholtz 方程式を満たす関数 g を用いて, 自由空間 Green 関数との和 G + g が境界条件を満たすように定める方法 2 固有関数系による展開または積分変換をを用いる方法 小山翔一 (UTokyo) 応用音響学第 9 回 2021/6/11 43 / 62

境界条件を与えた場合の Green 関数 斉次方程式を満たす関数を用いる構成法 まずは一つ目の方法を Neumann 型 Green 関数の場合について考える 斉次 Helmholtz 方程式を満たすような r と r の関数 g N (r r ) を定義する ( 2 + k 2 )g N = 0 この式に Green の定理を適用すれば, Ω 上の境界値積分は 0 になる よって, 自由空間 Green 関数 G と g N との和 G N を考えると, G N = G + g N この Green 関数も Kirchhoff Helmholtz 積分方程式を満たす ( p(r) = G N (r r ) p(r ) n p(r ) G N(r r ) ) n dr Ω 小山翔一 (UTokyo) 応用音響学第 9 回 2021/6/11 44 / 62

境界条件を与えた場合の Green 関数 斉次方程式を満たす関数を用いる構成法 あとは G N が Neumann 境界条件を満たすように g N を決めればよい しかしながら, 実際には境界面が変数分離可能な座標系の 1 変数を固定した面で表現できるような, 単純な形状 ( 平面, 球面, 円筒面など ) の場合にのみ Green 関数の具体的な形が得られる 特に平面境界の場合には鏡像法と呼ばれるテクニックが使える ここでは境界面 Ω が無限大の平面である場合の Neumann 型 Green 関数を求める 小山翔一 (UTokyo) 応用音響学第 9 回 2021/6/11 45 / 62

境界条件を与えた場合の Green 関数 平面境界の場合の Green 関数 外部問題における Kirchhoff Helmholtz 積分方程式において, 境界面を上図のように変形する S の半径を r とすれば,S o は無限平面となる Sommerfeld の放射条件を仮定すれば, / n = / z として, 平面境界上で Kirchhoff Helmholtz 積分方程式が成り立つ ( p(r) = p(x, y, 0) G(r r ) z p(x, y ), 0) z G(r r ) dx dy S o 小山翔一 (UTokyo) 応用音響学第 9 回 2021/6/11 46 / 62

境界条件を与えた場合の Green 関数 平面境界の場合の Green 関数 Neumann 型 Green 関数を構成するためには,z = 0 において, G N z = 0 を満たす g N を求めることが必要 このような g N を求めるには, 特異点 r の平面に対する鏡像位置 r i = (x, y, z) にある仮想的な波源を考えればよい 小山翔一 (UTokyo) 応用音響学第 9 回 2021/6/11 47 / 62

境界条件を与えた場合の Green 関数 平面境界の場合の Green 関数 具体的には,g N を以下のように定義する g N (r r ) = G(r i r ) = ejk r i r 4π r i r このとき g N は Ω 内に特異点を持たないので, 斉次 Helmholtz 方程式を満たす したがって, これを自由空間 Green 関数に加えると, G N (r r ) = ejk r r 4π r r + ejk ri r 4π r i r z = 0 において, r r = r i r となるので, G N z = 0 z =0 よって G N は Neumann 境界条件を満たす 小山翔一 (UTokyo) 応用音響学第 9 回 2021/6/11 48 / 62

境界条件を与えた場合の Green 関数 平面境界の場合の Green 関数 さらに,z = 0 において,G N は自由空間 Green 関数の 2 倍となる G N z =0 = ejk r r 2π r r よって,Kirchhoff Helmholtz 積分方程式の Green 関数に対してこの G N を用いれば, p(r) = p(x, y, 0) z e jk r r 2π r r dx dy この式は z = 0 の無限平面から z > 0 の音の伝播を記述する重要な式であり, 第 1 種 Raylegih 積分と呼ばれる 小山翔一 (UTokyo) 応用音響学第 9 回 2021/6/11 49 / 62

境界条件を与えた場合の Green 関数 平面境界の場合の Green 関数 ちなみに,Dirichlet 型 Green 関数を構成する場合は, 同じように鏡像波源を考えて, とすればよい G D (r r ) = ejk r r 4π r r ejk ri r 4π r i r この場合,z = 0 の平面において Dirichlet 境界条件 G D z = 0 が満たされ, 以下の第 2 種 Rayleigh 積分が得られる p(r) = p(x, y, 0) z e jk r r 2π r r dx dy 鏡像法が使えない球状の境界面の場合などは次回 小山翔一 (UTokyo) 応用音響学第 9 回 2021/6/11 50 / 62

境界条件を与えた場合の Green 関数 Rayleigh 積分の近似 光学の分野でよく出てくる回折の式は,Rayleigh 積分を近似し, 積分区間を開口部とすることで導ける https://ja.wikipedia.org/wiki/ フレネル回折 開口部の大きさがスクリーンまでの距離 R に対して十分小さいとすれば,A を振幅として以下の Fresnel 回折の式が得られる p(r) = A jλr ejkr p(x, y, 0)e jk 2R [(x x ) 2 +(y y ) 2] dx dy さらに近似をすることで Fraunhofer 回折の式が得られる 小山翔一 (UTokyo) 応用音響学第 9 回 2021/6/11 51 / 62

境界条件を与えた場合の Green 関数 固有関数展開による Green 関数の構成法 もう一つの Green 関数の構成法として, 固有関数による展開に基づく方法を考える ここで固有関数とは, ある境界条件を満たす領域内の共振に対応する 3 次元のモード形状を指す ( ただし内部音圧に対しては境界条件を指定しない ) 音源を含まない領域 Ω 内部の音場は, 以下の斉次 Helmholtz 方程式を満たす 2 p(r) + k 2 p(r) = 0 Dirichlet 型 Green 関数は, 以下の非斉次 Helmholtz 方程式および境界面 Ω における Dirichlet 境界条件を満たせばよい { 2 G D (r r ) + k 2 G D (r r ) = δ(r r ) G D (r r ) = 0, r Ω 小山翔一 (UTokyo) 応用音響学第 9 回 2021/6/11 52 / 62

境界条件を与えた場合の Green 関数 固有関数展開による Green 関数の構成法 このような Green 関数を使うと,Kirchhoff Helmholtz 積分方程式が単純化される p(r) = p(r ) G D(r r ) n dr Ω ここで, 領域 Ω の 3 次元固有関数 Ψ q (r) が既知であるとする この固有関数は G D と同じ境界条件を満たし,k q = ω q /c で与えられる固有周波数を持つものとする ここで q は固有関数の番号である これらの固有関数が完全直交系をなすと仮定すると, 領域 Ω 内の任意の音圧分布が固有関数の線形和として表現できる 係数を A q (r ) とすれば, G D (r r ) = q A q (r )Ψ q (r) 小山翔一 (UTokyo) 応用音響学第 9 回 2021/6/11 53 / 62

境界条件を与えた場合の Green 関数 固有関数展開による Green 関数の構成法 Ψ q は領域 Ω の固有関数なので, 斉次 Helmholtz 方程式を満たす固有値 k q を持つ 2 Ψ q + k 2 qψ q = 0 G D の固有関数展開の式を非斉次 Helmholtz 方程式に代入し, 上式を用いると, A q ( kq 2 + k 2 )Ψ q (r) = δ(r r ) q 両辺に Ψ q (r) をかけて, 領域 Ω にわたって積分すると, A q (k 2 kq) 2 Ψ q (r)ψ q (r) dr = Ψ q (r ) したがって, Ω Ψ q (r ) A q = (k 2 kq) 2 Ω Ψ q(r)ψ q (r) dr 小山翔一 (UTokyo) 応用音響学第 9 回 2021/6/11 54 / 62

境界条件を与えた場合の Green 関数 固有関数展開による Green 関数の構成法 以上の結果から,Dirichlet 型 Green 関数が以下のように得られる G D (r r ) = q Ψ q (r)ψ q (r ) (k 2 q k 2 ) Ω Ψ q(r)ψ q (r) dr Neumann 型 Green 関数についても同様の手続きで導出できる ( 最終的に同じ形になる ) ただし,k = k q の場合, 境界面 Ω での音圧が 0 となり, 内部音圧を計算することができない これは Dirichlet 型 Green 関数の分母が 0 になることにも表れている これは固有関数を用いる場合以外の方法でも共通の問題であるが, 閉じた境界面に対する Neumann 型 Dirichlet 型 Green 関数は禁止周波数において計算できない また, 固有関数をどのように得るかという問題が残っているが, これを具体的な関数として得られるのは Ω が単純な形状の場合に限られる 小山翔一 (UTokyo) 応用音響学第 9 回 2021/6/11 55 / 62

Single layer potential による音場の積分表現 本日の目次 1 境界値積分表現とその応用 Green 関数とその性質 Kirchhoff Helmholtz 積分方程式境界条件を与えた場合の Green 関数 Single layer potential による音場の積分表現 小山翔一 (UTokyo) 応用音響学第 9 回 2021/6/11 56 / 62

Single layer potential による音場の積分表現 Single layer potential による音場の積分表現 Kirchhoff Helmholtz 積分方程式は, 領域の境界面上の音圧と音圧勾配を用い, 自由空間 Green 関数の項とその法線方向微分の項の和による境界値積分により, 内部あるいは外部の音場を決定できるというものであった 自由空間 Green 関数の項のみを用いる積分表現として,single layer potential( あるいは単純波源の定式化 :simple source formulation, 等価音源法 :equivalent source method とも呼ぶ ) がある 小山翔一 (UTokyo) 応用音響学第 9 回 2021/6/11 57 / 62

Single layer potential による音場の積分表現 Single layer potential による音場の積分表現 境界面 Ω とその内部領域 外部領域をそれぞれ Ω int,ω ext として定義し, 以下の積分表現を考える p(r) = µ(r )G(r r )dr Ω つまり自由空間 Green 関数の項のみを用いる ここで法線方向が逆になっていることに注意 小山翔一 (UTokyo) 応用音響学第 9 回 2021/6/11 58 / 62

Single layer potential による音場の積分表現 Single layer potential による音場の積分表現 µ(r) を具体的に導出するため, 外部 内部問題における Kirchhoff Helmholtz 積分方程式を思い出すと, p ext (r) (r Ω ext ) p ext (r)/2 (r Ω) 0 (r Ω int ) ( = G(r r ) p ext(r ) Ω n p ext (r) G(r r ) n 0 (r Ω ext ) p int (r)/2 (r Ω) p int (r) (r Ω int ) = Ω ( G(r r ) p int(r ) n p int (r) G(r r ) n ) dr ) dr 法線方向が領域の内側を向いているため, 内部問題に関しては正負が逆になっている 小山翔一 (UTokyo) 応用音響学第 9 回 2021/6/11 59 / 62

Single layer potential による音場の積分表現 Single layer potential による音場の積分表現 r Ω において,p ext (r) = p int (r), p ext (r)/ n p int (r)/ n として, 外部問題の式から内部問題の式を引くと, p ext (r) (r Ω ext ) p int (r) = p ext (r) (r Ω) p int (r) (r Ω int ) ( pext (r ) = n p int(r ) ) n G(r r )dr Ω したがって,µ(r) は外部 内部領域の Ω 上の音圧勾配の差となる µ(r) = p ext(r) n p int(r) n この関係式は jump relation と呼ばれる Single layer potential は内部問題 外部問題どちらかに対して適用できるものであり, 両方同時に適用できるわけではない 小山翔一 (UTokyo) 応用音響学第 9 回 2021/6/11 60 / 62

Single layer potential による音場の積分表現 Single layer potential による音場の積分表現 Single layer potential を用いて境界面 Ω 上の音圧勾配を導出する場合は, 外部 内部音場で音圧勾配が不連続であることに注意が必要 不連続面における音圧勾配を両側の値の平均として定義すれば, µ(r ) G(r r ) n dr = 1 ( pext (r) + p ) int(r) (r Ω) 2 n n Ω このとき,µ(r) の定義より, ( 1 pext (r) + p ) int(r) 2 n n = µ(r) 2 + p ext(r) n よって, 例えば外部問題の場合, p ext (r) = µ(r) + µ(r ) G(r r ) n 2 n dr (r Ω) Ω 小山翔一 (UTokyo) 応用音響学第 9 回 2021/6/11 61 / 62

Single layer potential による音場の積分表現 参考文献 今村勤 (2017) 物理とグリーン関数岩波書店, Tokyo. E. G. Williams (1999) Fourier Acoustics: Sound Radiation and Nearfield Acoustical Holography Academic Presss, Cambridge. D. Colton and R. Kress (2013) Inverse Acoustic and Electromagnetic Scattering Theory Springer, New York. 小山翔一 (UTokyo) 応用音響学第 9 回 2021/6/11 62 / 62