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第 52 回神奈川腎炎研究会 図 5 図 8 図 6 図 9 図 7 図 10 121

腎炎症例研究 26 巻 2010 年 図 11 図 14 図 12 図 15 図 13 図 16 122

第 52 回神奈川腎炎研究会 図 1: 入院時の胸部レントゲンでは心胸比 57% と心拡大を認め, 肺うっ血像と両側胸水を伴っていました 図 2: 心電図では四肢誘導の低電位,Ⅰ avr avl,v3-6 に陰性 T 波を認めました 図 3:HE 染色を示します 標本中の糸球体は24 個で, 全節性硬化を示す糸球体は認めませんでした 全ての糸球体にはメサンギウム細胞の増殖が認められ, 核の断片化を伴う強い管内増殖性病変も認められました また,6 個の糸球体には左の糸球体にみられるような細胞性半月体の形成を認めました 右の糸球体には係蹄の肥厚が認められワイヤーループ病変と考えられました 図 4: 右の糸球体には, 係蹄内腔を狭小化する程の強い細胞増殖を認め, 核の断片化を伴っていました また, ワイヤーループ病変と考えられる係蹄の肥厚と一部の血管腔にはヒアリン血栓が認められました 左の糸球体の血管極には細動脈の内皮下に多量の沈着物を認めました この糸球体を拡大したものを示します 図 5: 糸球体には細胞増殖が認められ, 血管極の細動脈には内皮下に多量の沈着物と血管壁の一部に変性像を認めました 図 6:PAS 染色を示します 糸球体にはメサンギウム細胞の増殖が認められ, 血管極の細動脈内腔は狭小化し, 内皮下と血管壁内に PAS 陽性の沈着物を認めました 図 7: 他の糸球体にも同様にメサンギウム細胞の増殖が認められ, 血管極の細動脈内腔の狭小化と内皮下に PAS 陽性の沈着物を認めました 図 8:PAM 染色を示します 糸球体にはメサンギウム細胞の増殖と癒着が認められ, 血管極の細動脈内腔は狭小化し, 内皮下に多量の沈着物を認めました 点刻像や spikeは認めず, 一部の基底膜に二重化を認めました 図 9:Masson 染色を示します 糸球体にはメサンギウム細胞の増殖と癒着病 変を認め, 血管極の細動脈には, 赤く染色される多量の沈着物により内腔の狭小化が認められました 図 10: 蛍光抗体法所見を示します IgG,IgA,IgM,Fibrinogenは糸球体に fringe pattern での発光を示し, 更に細動脈にも内皮に一致した発光を示していました 図 11:C1q,C3,C4も同様に糸球体に fringe pattern での発光を示し, 更に細動脈にも内皮に一致した発光を示していました 図 12: 電子顕微鏡所見を示します 血管極の細動脈内には内腔に多量の高電子密度物質が充満して認められました 図 13: 内皮下からメサンギウム領域に, 高電子密度物質の沈着を認めました 図 14:( 左側の基底膜の右側 ) 左の基底膜上皮下に高電子密度沈着物を認めました ( 右側の基底膜の右側 ) 右の基底膜内皮下に高電子密度沈着物を認めました 図 15: 内皮細胞質内にvirus like particlesを認めました 私たちは本症例の糸球体病変を,ISN/RPSによるループス腎炎 2003 年分類によりびまん性ループス腎炎のⅣ -G(A) 型と診断しました また, 細動脈には特異な血管病変の合併を認めました 図 16: 入院後経過を示します SLEの診断で第 2 病日からステロイドパルス療法を 3 日間施行し, その後はプレドニン 60mg/dayの内服を開始しましたが, 尿量の減少と血清クレアチニン値の上昇を認めたため, 第 4 病日から血液透析を開始しました 更に, 第 10 病日からは免疫吸着療法を併用しました また, 入院時よりわずかな破砕赤血球を認めていましたが, 第 16 病日に突然, 破砕赤血球の増加を伴う血小板減少が認められ, 破砕赤血球症候群の診断にて第 17 病日より血漿交換療法と血液濾過透析を施行しました この時, 下痢や腹痛などの症状はなく, 測定した ADAMTS13 活性は正常でインヒビターも陰性 123

腎炎症例研究 26 巻 2010 年 でした 血漿交換を4 回施行後, 血小板は上昇傾向となり血漿交換を中止しました また, 尿量も増加し, 第 38 病日には透析を離脱しました その後, プレドニンは漸減し, 第 55 病日よりエンドキサンを追加しました 経過中, 補体は上昇傾向を示し, 抗 dsdna 抗体は免疫吸着療法 血漿交換療法施行後に速やかに陰性化しました 入院時エコー所 < 腹部エコー 2009/4/21 > 腎サイズ右 117 59mm 左 117 57mm 肝腫大, 脾腫あり脾臓周囲に少量の腹水貯留 < 心エコー 2009/4/24 > LV wall motion 全周性に hypokinesis,ef46% 少量 ~ 中等量の心嚢液貯留あり RA RV の collapse あり IVC 13/8mm 呼吸性変動あり本症例のまとめネフローゼ症候群と腎機能障害で発症し, SLEと診断した 腎生検にて, 糸球体に管外, 管内の増殖性病変と wire loop を認め, 細動脈には特異な血管病変を認めた ステロイド治療中, 破砕赤血球増加を伴う血小板減少を認めた 血漿交換療法を施行し, 破砕赤血球の減少, 血小板数の回復, 腎機能の改善を認めた 考察びまん性ループス腎炎に Noninflammatory Necrotizing Vasculopathy を合併した 治療により細動脈病変の血流が再開した事で破砕赤血球症候群の病態が生じた可能性が考えられた 討論鎌田 ( 真 ) よろしくお願いします 症例は 32 歳, 男性です 主訴は手足のむくみです 現病歴ですが, 平成 21 年 4 月初旬に咽頭痛を自覚し, 近医を受診しました 咽頭培養にて溶連菌が検出され, 抗生剤にて加療されました 4 月中旬より手指のむくみを自覚するようになり,4 月 20 日近医を受診し, 尿検査にて蛋白 40mg/dL, 尿沈渣にて赤血球 30 ~ 40HPF, 血液検査にて総蛋白 5.4g/dL, アルブミン2.4g/dL, クレアチニン 2.88mg/dLを指摘され, 精査加療目的に 4 月 23 日に入院しました 既往歴には猫ひっかき病 家族歴には母が IgA 腎症, 弟とおばにバセドー病と自己免疫疾患があります 飲酒歴は機会飲酒程度, 喫煙歴はありません 入院時の身体所見ですが, 血圧 159/99 と高血圧を認め, 眼瞼浮腫を認めました 胸部聴診所見では両下肺野で呼吸音の減弱を認めました また両手指, 手背, 両下腿に浮腫を認めました 入院時の検査所見です 尿所見では尿蛋白 3+,1 日の蛋白排泄量は 8.4g/day, 潜血 3+, 尿沈渣では赤血球 50 ~ 99HPF, 赤血球 20 ~ 29HPF を認め, また多彩な円柱を認めました 尿生化学では NAG,β 2-microglobulin の上昇を認めました 血液ガス分析ではPaO2,70Torrと低酸素血症を認め, また軽度の代謝性アシドーシスを認めました 血算ではリンパ球約 1000 μlと減少しており, また正球性正色素性貧血を認め, 血小板は 5.4 万 / μ Lと減少していました 破砕赤血球も少量認められました 凝固系では fibrinogen,fdp,d-dimerの上昇と, 赤沈の亢進を認めました 血清生化学では総蛋白 5.3g/dL, 血清アルブミンが 2.2g/dLと低下していました LDH の上昇とトータルコレステロールとトリグリセリドの上昇を認めました 尿素窒素は 59mg/dL, 血清クレアチニン 3.18mg/dLと上昇を認め, 尿酸カリウム, クロー 124

第 52 回神奈川腎炎研究会 ル, リンも上昇していました 免疫ではCRP の上昇とIgAの上昇, 補体の低下を認め, 自己抗体は抗核抗体, 抗 DNA 抗体, 抗 ds-dna 抗体, 抗 Sm 抗体, 抗 SSA 抗体, 抗 SSB 抗体,TA,IgC の上昇を認めました また軽度の抗カルジオリピン IgG 抗体の上昇を認めました haptoglobin の低下と直接クームス, 弱陽性も認めました スライド 入院時のレントゲンでは心胸比 57% と心拡大を認め, 肺うっ血像と両側胸水を伴っていました スライド 心電図では四肢の誘導の低電位と 1aVR,aVL,V3 から V6の陰性 T 波を認めました スライド 腹部のエコーでは両側腎臓の腫大と肝腫大, 浮腫, 脾臓周囲に少量の腹水貯溜を認めました 心エコーではLV wall motion は全周性に hyperkinesisを呈し,pf は 46% と低下していました また少量から中等量の心嚢液貯溜も認めました 米国リウマチ協会による SLEの診断基準のうち, 腎障害, 心外膜炎, 血液異常として溶血性貧血, リンパ球減少, 血小板減少, 免疫異常として抗 ds-dna 抗体陽性, 抗 Sm 抗体陽性, 抗カルジオリピン IgG 抗体陽性, 抗核抗体陽性の計 5 項目を満たし,SLEと診断しました 以上よりループス腎炎による急速進行性糸球体症候群の病態と考えられ, 検査のために第 6 病日に腎生検を施行しました HE 染色を示します 標本中の糸球体は 24 個で, 全節性硬化を示す糸球体を認めませんでした すべての糸球体には mesangium 細胞の増殖が認められ, 核の断片化を伴う強い管内増殖性の病変も認められました また 6 個の糸球体には, 左の糸球体に見られるような細胞性半月体の形成を認めました また右の糸球体には係蹄の肥厚が認められ,wire loop 病変と考えられました スライド 右の糸球体には係蹄内腔を狭小化するほどの強い細胞の増生が認められ, 核の断片化を伴っていました また wire loop 病変と考えられる係蹄の肥厚と, 一部の血管腔内には hyalin 血栓を認めました 左の糸球体の血管極には, 細動脈の内皮下に多量の沈着物を認めました この糸球体を拡大したものを示します 糸球体には細胞の増殖が認められ, 血管腔の細動脈には内皮下に多量の沈着物を認めました また一部に変性像も認めました スライド PAS 染色です 糸球体には mesangium 細胞の増生が認められ, 血管極の細動脈内は狭小化と, 内皮下に PAS 陽性の沈着物が多量に認められました スライド ほかの糸球体にも同様に mesangiumの増生が認められ, 血管極の細動脈, 内腔の狭小化と内皮下にPAS 陽性の沈着物を認めました この部分です スライド PAM 染色です 糸球体には mesangium 細胞の増殖と, 癒着病変が認められ, 血管極の細動脈や内腔は狭小化し, 内皮下に多量の沈着物を認めました 点刻像やスパイク像は認められませんでしたが, 一部, 二重化を認めるような所見もありました スライド Masson 染色を示します 糸球体にはmesangium 細胞の増殖と癒着病変をこちらの糸球体でも認めております 血管極の細動脈には赤く染色される多量の沈着物により内腔が狭小化していました スライド ほかの糸球体にも血管極の細動脈に赤く染色されるような沈着物を認めました この糸球体にもwire loop 病変を認めています スライド 蛍光抗体法では IgG,IgA,IgM, fibrinogen は糸球体に fringe pattern で発光を呈し, さらに細動脈の内皮にも発光を示しました スライド C1q,C3,C4も同様に, 糸球体に fringe pattern の発光を示し, さらに細動脈にも, 内皮に一致した発光を示しました スライド 電子顕微鏡所見です 血管極の細動脈内には内腔に多量の高電子密度物質を認めました スライド また内皮下から mesangium の領域に高電子密度物質の沈着を認めています スライド 左側の基底膜の上皮下に高電子密 125

腎炎症例研究 26 巻 2010 年 度物質を認めました 右側には内皮下に高電子密度物質の沈着を認めています スライド 内皮細胞内に virus-like particles を認めました スライド わたしたちは本症例の糸球体病変をISN/RPS によるループス腎炎 2003 年分類より, び慢性ループス腎炎の IVG(A) 型と診断しました また細動脈には特異な血管病変を認めました 入院後の結果を示します SLEの診断で, 第 2 病日よりステロイドパルス療法を施行し, その後はプレドニン 60mgの内服を行いました 尿量の減少と血清クレアチニンの上昇を認めたため, 第 4 病日より透析を開始しました さらに第 10 病日から免疫吸着療法を施行しました また入院時より, わずかな破砕赤血球を認めておりましたが, 第 16 病日に突然, 血小板の減少を伴う破砕赤血球の増加を認めました そのため, 破砕赤血球症候群の診断にて, 第 17 病日より, 血漿交換療法と血液ろ過透析を開始しました このときに下痢や腹痛の症状はなく, 測定した ADAM13 活性は正常で,inhibitorも陰性でした 血漿交換療法を 4 回施行後, 血小板は上昇傾向となり, 血液ろ過透析と血漿交換は中止をしました またその後, 尿量の増加を認め, クレアチニンも低下傾向となり, 透析を離脱しております その後, プレドニンを漸減し, 第 55 病日よりエンドキサンを追加しました 結果, 中補体は上昇傾向を示し, 抗 ds-dna 抗体は免疫吸着療法, 血漿交換療法後, 速やかに陰性化しております スライド 本症例のまとめです ネフローゼ症候群と腎機能障害で発症した SLEと診断しました 腎生検にて糸球体に管外, 管内の増殖性病変とwire loop を認め, 細動脈には特異な血管病変を認めました ステロイド療法中, 破砕赤血球の増加を伴う血小板減少を認めました 血漿交換療法を施行し, 破砕赤血球の減少, 血小板数の回復, 腎機能の改善を認めました スライド Appel らが 1994 年の JASN に報告した SLE 腎血管病変の病理分類を示します SLEの血管病変を uncomplicated vascular immune deposits,noninflammatory necrotizing vasculopathy,thrombotic microangiopathy,true vasculitisに分類し, またそれぞれの病理学的特徴を血管障害部位, 沈着物, 血管内皮, 血管壁の炎症で分類しています 本症例の細動脈には IgG,IgA,IgM,C1q,C3,C4,fibrinogen の沈着と血管壁の壊死所見から noninflammatory necrotizing vasculopathyに相当する血管病変と考えました スライド また Appel らは, それぞれの SLE 血管病変の臨床的特徴を頻度, 糸球体病変, 高血圧の有無, 腎不全の有無, 予後で分けています noninflammatory necrotizing vasculopathy は WHO 分類で主に IV 型の糸球体病変を示し, 高血圧, 腎不全も合併し, また予後は不良とされており, 本症例の糸球体病変と臨床的特徴に一致していました スライド 考察を示します び慢性ループス腎炎にnoninflammatory necrotizing vasculopathy が合併したと考えました このような血管病変が合併したために, 治療により細動脈病変の血流が再開したため, 破砕赤血球症候群の病態が生じたと考えました 以上です 座長ありがとうございました ただいまの発表につきまして何かご意見はございますでしょうか どうぞ 山口先生, 組織を見てから治療を始められたわけですよね 鎌田 ( 真 ) 治療を始めたのは 山口組織を見る前からですか 鎌田 ( 貢 ) 実は私が初診しましたが, この方は急性糸球体腎炎として紹介されてきました 身体所見に特徴的所見はなく,AGN の発症期にネフローゼ症候群にはならない事, 血小板減少が見られることが AGN とは一致しませんでした 来院日の夕方にはループス腎炎であろうと診断しました 血小板減少のために腎生検が 126

第 52 回神奈川腎炎研究会 できず, 翌日から腎炎と血小板減少の改善を目的にステロイド療法を開始しました ステロイドパルス療法を開始した直後から血小板が増加したので, すかさず腎生検としました 治療 3 日目か 4 日目に腎生検をしています この様な条件を持つ腎組織です 山口こういう血管病変があるときに, 最初にステロイドパルスで行くよりも, 血漿交換を先にやって, それからやるようにと, 僕はだいたい言っています 先にそっちを取ってあげないと, どうしてもいろいろな形で defect が残ってしまうものですから, そこの経過を知りたかったもので, すみません 座長ほかに何かご質問はありますでしょうか 臨床経過からすると,SLEでHUS,TTP を合併したような感じも見えますが,necrotizing vasculopathy というふうに,HUSとは違うと考えたのでしょうか 鎌田 ( 真 ) はい HUS としては腹痛とか, 消化器症状などはなくて,TTP とすると ADAM13 inhibitorが陰性だったということもあって, HUS,TTP ではないと考えています 座長ほかに何かご質問はありますでしょうか それでは病理の先生, よろしくお願いします 山口今座長の言ったポイントですよね そこをもう少しあとでディスカッションしていただきたい この血管病変をどういうふうにとらえるかというのは, 一つ問題になると思いますので スライド01 Masson 染色で見ますと, やはり索状に尿細管の萎縮, 間質の線維化がだいぶ進んでいるという印象を受けます まずはつぶれた糸球体はそんなにないわけですが, 尿細管間質系の障害が非常に強いということだろうと思います スライド02 このように尿細管の萎縮傾向と, びまん性の間質の線維化ですね それから糸球体の病変はあとで出てきますが, 主に血管極部のところに fibrin と, それから hyalin とがミックスしたような形でthromboticな変化が出 ているわけですね ですから hyalin だけではなくて,fibrinも一緒に混ざっている もちろん hyaline thrombi も一緒にあります スライド 03 こういうところは萎縮が非常に強くて,cellular crescentも出ていますし, 分葉状でhypercellularな糸球体の病変 スライド 04 先ほどお示しになったように, きれいな糸球体によっては wire loop lesion が主体の糸球体もあります 少しendocapillary な変化も含まれて, 二重化もところどころ見えているということだろうと思います だいぶ多いですね 二重化もある スライド 05 hyaline thrombi とwire loop はだいたい一緒に出てくることはよくあるように思います 糸球体が非常に大きくなって, 尿細管極の方に少し loop が Invaginationみたいな形で出てきてしまっています スライド06 例の硝子様物ですが, 血管極, 輸入細動脈から血管極にかけて硝子様物 こっちはefferenceだろうと思いますが, だいぶ collapsと二重化が出てきていますし, こっちは crescent が主体です スライド 07 PAS 陽性にPAS に濃染するものが確かに壁内にあって, ただ必ずしもそれに染まらない弱陽性の fibrin か, あるいは血漿が一緒に混ざってきて少し細胞が絡んでいるというところがあります スライド 08 Massonで見ると, 少し網目状といいますか,fibrin が混ざっているような形のものが見られますし, これも壁在性には硝子物が主体で, 内腔にはいろいろなものが混ざり合っているという形でしょうか 末梢にはそんなに目立たないですね やはり血管極に近い loopに少し血栓が及んでいるということだろうと思います スライド 09 われわれのところには fibrinogen がなかったのですが,IgG はあまりついていないですが,IgAは糸球体主体に出て,IgM が確かに細動脈の壁に一部出ている これがもしかしたら入り口のところに濃く染まっている 127

腎炎症例研究 26 巻 2010 年 ものかもしれないです IgG はちょっと分かりづらいように思います スライド 10 C1q, このへんが糸球体全体に出てしまって,C4, それから C3もおそらく動脈壁に少し出ているのかな このへんが C1q, 動脈壁かどうか分かりませんが, 入り口のところにはありそうだということだろうと思います スライド 11 糸球体は endocapillary, マクロファージ系の細胞が非常に多くて,subendo の沈着が全体にあって,intramembranous, paramesangial,mesangial matrix, あらゆるところに沈着がある endocapillary で少し軽い interposition,partialな interpositionが見られる スライド 12 血管極部のところです ちょうど入り口のところ,densityの非常に強い deposit 様のものがほとんど詰まっている状態で, たぶん全部, それかというと, このへんが fibrin 様のものが少しミックスになっているというふうに思います スライド 13 先ほど示されたように, 上皮下沈着物, 内皮下沈着物に少しfinger print 様の構造があって,virus-1ike particles がありますから,SLEで間違いない所見だろうと思います スライド 14 そういうことで一応, いちばん新しい Heptinstallのもので,lupusのvascular lesion はいくつかに分けられていて, お示しのものが noninflammatory necrotizing vasculopathy そこでlupus vasculopatchy ということですね あとthrombotic microangiopathyの中に, この方はリン脂質抗体,APS があるということで, それに伴うTMA そうすると, これとこれをどうやって, 鑑別するのはなかなか難しいということが言われてはいます 鑑別点は比較的, こちらはfibrin, あるいは fibrin の関連物質の沈着が主体である ただ, カルジオリピンとか, いろいろなものはほかの IgGとか IgMとか, 補体系も一緒に含んでいるわけで, その沈着が一緒に来るというわけで, なかなか鑑別が難しいです それから TMAの場合はどちらかというと, 細動脈から 血管極部にかけて主体的に来ますが, こちらは細動脈からもう少し太いオーダーでも沈着が見られるということだろうと思います スライド 15 われわれのvasculopathy,lupus vasculopathy を経験したやつは, 比較的, 小葉間動脈の壁内に, 内皮下にべったり来て,C1q がこのように来て, あまり TMA 的な病変はない形のものを経験しております スライド 16 この症例は膜の変化を言うのを忘れてしまいましたが,PAM で見ますと, やっぱりbubbling とか, 糸球体の半分以上に及んでいるので,+ Vもあるかなということ 主体はやはり細動脈から血管極部にかけてfibrin- ogen が一応陽性にはなっていましたから, それがミックスの形で出てきていますので, 一応抗リン脂質抗体に伴う TMA と考えて Heptinstall の記載だと IgGが意外とない, ネガティブであるというとこちらに入る こちらは IgGがだいたい主体のことが多いという記載なので, わたしとしては APS に伴う TMAの方がいいのではないかと思います 以上です 座長ありがとうございました 重松先生, お願いします 重松重松のスライドをお願いします スライド 01 32 歳の男性ですね そして弱拡大の写真で分かるように, すべての糸球体に, 糸球体の変化と, それから血管の変化 糸球体の変化は管内増殖あるいは管外増殖ですね wire-loop 的な病変, それも一緒に混じって, 多彩な糸球体病変, 血管病変を呈しております スライド 02 これは要約的な糸球体病変になると思いますが lupusのときには血栓なのか, 血栓ではなくて deposition で起こっている変化なのかの区別は非常に大事になってきます 血栓だということになると, 本症例は抗リン脂質抗体が陽性ですから, その関連の thromboticなものになります 血管内に沈着しているのが分かりますが, あまり太くなってくると, だんだんそれが分からなくなる こちらは糸球体血管腔の中に thromboticな変化があって, こ 128

第 52 回神奈川腎炎研究会 れを hyaline thrombi と見るか, あるいはTMA で起こってきた thromboticな変化と見るか これはIFを参考にして調べなければいけませんが, とにかくdepositionと thromboticなものが混在して血管と糸球体の中に見られるということです こちらは wire-loop 的な変化が主である 間質はかなり強い浮腫があって, あまり細胞の浸潤はないということですね スライド03 こういう管外性の病変を示すところもある スライド 04 血管炎の分布ですが, こういう大きな小葉間動脈レベルになると, ほとんどないです 若い男性ですからelastosisもあまり強くない 入り口の輸入動脈あたりにdepositive な変化で noninflammatory necrotizing vasculopathy という表現に相当するような変化を呈していると思います スライド 05 PAM で見ますと, ここでも血栓ではなくて何か内腔がありますから, これは depositiveな変化で起こっていると見られると思います スライド 06 これは管外増殖です 一方こちらは matrixの増殖がほとんどなくて, おそらく炎症細胞が mesangium の中にも入り込んでいる像だと思います スライド 07 こうなってしまうと, あまりひどくなってしまって, これは血栓なのか分かりません なるべく早期の病変で, 血栓なのか, depositive lesion が進展して血管壁を破壊的にしたのかということをよく見る必要があろうかと思います スライド 08 これもそうですね こうなってしまうと血栓かもしれないですね スライド 09 Masson 染色で血管腔内物質が, 非常にきれいな赤い色をしているのが印象的です スライド10 これは輸入動脈にメインに起こってくるという特徴がとらえられていると思います スライド 11 この症例ではbiopsy の周りに 脂肪性の被膜がついています そこにけっこうすごい炎症所見がありました これは HE ですが, このレベルの血管には, 明らかな血管炎があります 血管の外膜からその周囲にかなりのリンパ球性の反応があります スライド 12 これは PAS 染色です 小さな血管, 糸球体に輸入動脈レベルの血管に普通ではない変化, つまり血管の内膜の増殖があったり, 管腔に炎症細胞が増殖しているという所見があります スライド 13 いろいろ探し回りますと, 内腔は保たれていて, 血管の周囲に炎症がある ただ糸球体に見られたものとは組織像が全く違います こちらは cellular のリアクションが強い スライド 14 最後にもう少し血管炎らしいのが加わります ここに炎症細胞の接着があって, そして管内に細胞が増殖して, 一種の貫通性の血管炎が起こっています ただ, これは糸球体の病変とは全く違うタイプの血管炎を示しております ただ, 血管炎がけっこうほかの臓器にもあるのではないかということを示唆する所見だと思います スライド 15 先ほど血管炎がある症例では, IgGはあまり強くないよと言われたとおり, やはりIgG はそれほど強くないですね C1q,C3, こちらがメインの沈着を示している C1q が血管の病変の中にも出ているということです スライド 16 糸球体の病変ですが, これはマクロファージがおそらく mesangium にも入り込んでいるところだと思います これは血管ですね 血管の中にいるマクロファージです スライド 17 これは何回も出てきましたが, あらゆるところにdeposition が出てくるという lupusの特徴が出ています スライド 18 これは内皮下,deposit がかなり強い mesangial deposit があるということです スライド 19 これも lupusに特徴的な viruslike particleということです スライド 20 これは非常に貴重な写真だと思うのですが これは noninflammatory necrotiz- 129

腎炎症例研究 26 巻 2010 年 ing vasculopathyと言われる一つの所見でしょう 残念ながら山口先生もおっしゃったように, fibrin 様のものが混じっているところまではいいのですが, 血管腔の中までべったり入ってきます あるいは血管腔がどこかに隠れてしまっているのかもしれません けれども糸球体の入口部に特徴的な変化があるということで, こういう名前がついている 僕もあまりこういう血管をみる経験がなかったので, 非常にいい勉強をさせてもらいました ということで演者が示された所見, 山口先生の所見に, 異論はありません 以上です 座長今のご発表に関しまして何かご質問はありますでしょうか 乳原虎の門病院腎センターの乳原です 先ほど演者の方が, これは HUS ではないだろうということでおっしゃったわけですが, まず溶血性貧血があって, 血小板減少がある カルジオリピン抗体が陽性ですから, そういう場合にカルジオリピン抗体が陽性ということで, 本来ならAPS でいいだろうと考えられるわけですが, 実際に APSの場合には必ずといっていいほど, 腎外病変が出てくるだろうと思います 腎外病変は何か, どこかに血栓ができたとか, 多いのは動脈病変ですね 例えば脳梗塞とか, いろいろなことを起こしてくると言われていますが, そういうものはなかったのでしょうか 鎌田 ( 真 ) 特に脳梗塞の所見などはなく FDPD dimerの上昇もさほど変わりがなかったと思います ヘパリンをしっかりそのころは使っていて, 血栓予防はかなりしていたので, その影響もあるかもしれないのですが あと, 免疫吸着をしたころには, 血漿交換をする前に, もうカルジオリピン抗体は陰性化をしていたと思います 破砕赤血球が出現したときにカルジオリピン抗体が陰性だったので, またAPS も考えにくいかなと思っていますが 乳原実際には APS の場合には腎外病変が先に出てきてしまったりします 抗カルジオリピン抗体が,SLEのときに2,3 割は陽性に出る ことがあります そのときの腎病変はどうだろうかということが問題になります APS について多くの症例を集めている, 北海道大学の渥美先生にお聞きしますと, 腎不全を呈することはほとんどない カルジオリピン抗体が陽性の場合にむしろ脳とかの腎外病変の方が APS の症状がでやすいと言われました ということで腎病変はあっても, 極めてというか, 機能障害まで来すことは極めて少ないということをよく言われていますので APS がこのような血栓病変から腎不全を起こしたとは考えにくいだろうと考えます 溶血性貧血と血小板減少があると もう一つ先ほど言いましたように,APS は腎不全がきたしにくいということを合わせますと, この人の場合は腎不全も急激な腎不全が来ているということで, それを合わせると臨床的には HUSということになってしまいます さらに発熱とか, あとは意識障害, そういう神経症状が出てきたら TTP ということになりますが, この場合は意識障害としての脳血管障害はなかったわけですか 鎌田 ( 真 ) 意識障害も全くなく, 経過中, ずっとクリアで来られまして, 発熱も入院後はずっと熱もなく, 微熱が出ることもなく, 経過しました 乳原だとしたら, 三徴候が合致しますから HUS で全然問題はないと思います この患者の場合は, かなり激しい糸球体病変ともう一つ細動脈病変がある 血小板減少とか, 溶血性貧血もあり, 腎症も激しい変化があるSLEだからといって, 急激に腎臓が悪くなることは通常ないわけです やはり腎不全が急性に悪くなるような症例は,HUS,TTP を考える SLEに HUS を合併した症例だと考えられないのでしょうか 特に HUSのような場合には, こういう細動脈病変で immunoglobulin が沈着する場合には激しい経過を取るのではないでしょうか 座長どうぞ 鎌田 ( 貢 ) 乳原先生の考えには疑問があります この SLE 症例で HUS,TTPはどういう機 130

第 52 回神奈川腎炎研究会 序で起こっていると想定されますでしょうか 乳原 IgGのような免役グロブリンが糸球体の細動脈にくっつき病変をおこす 鎌田 ( 貢 ) 特発性 TTP ではvon Willbrand factor cleaving enzyme(adams13) に対する自己抗体 (inhibitor) が発症に関与していますが このような例では糸球体内皮障害は強いものの IgG 沈着はほとんど見られません また典型的 HUSは 病原性大腸菌が産生する verotoxinが血管内皮細胞上の Gb3 に直接に結合して内皮障害を発症させますが このような HUS でも IgG の沈着は見られません HUS TTP は あくまでも thrombotic microangiopathy(tma) として発症し 障害部位の血管壁に免疫グロブリンの沈着を伴いません また 抗リン脂質抗体は直接的に血管内皮を障害して破砕赤血球症候群を起こしますが 一次性の APS では血管障害部位への免疫グロブリンの沈着はみられないとされています マイトマイシン C による HUSも直接的な血管内皮細胞障害によりますが IgGの沈着は見られません HELLP 症候群でも血管内皮障害部位へのIgG 沈着は見られません このように 破砕赤血球症候群を呈する疾患では 障害局所への免疫グロブリンの沈着は見られずに 内皮障害が発症するのが一般と思います 本例ではADAMS13 は正常で ADAMS13 inhibitor も見られず 特発性 TTPに見られる自己免疫機序は見られません 一方 本例では細動脈や糸球体に大量の免疫沈着物を認めていますが この沈着物が破砕赤血球症候群を引き起こしたとするのは 類例がないように思います 乳原 ADAMS13の場合は, やはりSLEの場合はなかなか出にくいということがすでに言われていまして, 出る症例もあるようですが, ほかのSLE 以外でTMAを呈したような症例を見てみると,immunoglobulin の沈着があまりはっきりしないということで,SLE で immunoglobulin の沈着がはっきりしているということで, 僕は SLEのimmunoglobulinの関係した細動脈病変, またはそれと関係したTMAとわたしは思ったのですが 鎌田 ( 貢 ) 悪性高血圧で見られる破砕赤血球は ほとんどの場合で赤血球の 1% 以下で 稀に数 % になります 一方 特発性 TTPや病原性大腸菌が原因の HUS では 破砕赤血球の割合が 5-30% にもなります 破砕赤血球の割合を見るだけでも ある程度は原因疾患や機序を想定することができます この方の破砕赤血球は 最初は1% 以下でしたので 特発性 TTP や HUS の機序は働いていないであろうと考えていました ところがステロイド治療が少し経過し その効果が出てくる時期に 突然に破砕赤血球が 4% くらいに増加しました 血管病変や糸球体病変に対する治療効果が出てくる時期に一致して破砕赤血球が増加したこと この時期に臨床症状の増悪や腎機能の増悪を伴わなかったことから 輸入細動脈や糸球体での血流再開が 破砕赤血球症候群の増悪をもたらした可能性を考えています 輸入細動脈や糸球体での破砕赤血球の形成は 悪性高血圧などで見られるような 内皮障害に続発する破砕赤血球症候群ではなかったかと考えています この症例の破砕赤血球症候群を HUS/TTP と簡単に片付けることには疑問があります 乳原では, もう一つだけ言わせてください HUS,TTP のときに, まず臨床で最初は HUS かなと思って考えていて, 当初はなかなかすぐに破砕赤血球というか,haptoglobinが下がらないことがあります しかし, 経過を観察していますと遅れて破砕赤血球の増加,Hptの低下がおこるのも事実です むしろ immunoglobulinにより細動脈が障害を受けてきて, 糸球体に入る血液の中の, 赤血球は細動脈を通りますからそこを通るとき障害を受ける そこでトラップされ, 修飾を受けて破砕赤血球がどんどん増えてしまうと考えたらいかがでしょうか 鎌田 ( 貢 ) 破砕赤血球の割合を見ていますと 131

腎炎症例研究 26 巻 2010 年 2つのグループがあるように思います 悪性高血圧では 多くの症例の破砕赤血球比率は 1% 前後以下です このような例では 血管内皮障害に続発して赤血球の破砕が起こるのではないでしょうか 一方 特発性 TTP やHUS では 破砕赤血球の割合は 10-30% 以上にもなります このような疾患では 血管内皮障害によるだけでなく 赤血球の変形能にも障害が起こって 大量の破砕赤血球が形成される可能性を考えています この症例の破砕赤血球は4% 程度ですので 特発性 TTP や HUS の破砕赤血球割合には届いておらず どちらかといえば悪性高血圧の機序に近い可能性を考えます 山口鎌田先生, 細動脈から血管極部にかけてあれだけhyaline material が沈着していますが, やっぱりprimary には内皮細胞障害がないと起こらないと思います そうすると 鎌田 ( 貢 ) APS ですか 山口だからその区別は別にして, とりあえずあそこにあれだけ massiveに出るのには, 内皮細胞障害が先にないと起こらない現象だろうと思います それでは内皮細胞障害をどう考えるかですよ どうして起こったか 例えば, それに対する抗体があるとか 鎌田 ( 貢 ) 今, 持ってるデータの範囲では, APS の関与は完全には否定はできませんが 山口 TMAはあのあたりに非常に内皮細胞障害を起こしやすいのですね 急激に圧が変わります 鎌田 ( 貢 ) ですから,SLE の沈着物によって起こったのか, それとも APSのように TMAから, 血栓や内皮障害が起こって, この病態に進展したかのいずれかであるかが, よく分からない 山口われわれの症例を一例を見せましたが, あれは全く thrombotic なTMAの所見はないです べったりついても, それだけでは起こらない 結局, 現象として TMAは起こしてこない ただべったりくっついているだけ 座長どうぞ 北澤今の TMA はやっぱり内皮細胞障害主体だと思います noninflammatory の場合には同じような内皮細胞障害が来るのでしょうか 僕は電顕を見ていて,TMA らしくないなという, 内皮細胞障害から見てそう思ったのですが noninflammatory の方の内皮細胞障害の程度というのは知らないものですから, 電子顕微鏡の内皮細胞障害から今の鑑別はできないものかということを疑問に思ったのですが 僕は今まで経験したTMAの内皮細胞障害とはものすごくあの症例は軽いなと思ったのですが 座長重松先生, いかがでしょうか 重松血管病変は TMAのときに見られる細動脈の変化は, もっと serous insudation が強いですね 糸球体の方には, わたしも出しましたが, 一部に thrombotic microangiopathy 様の変化が同時進行していることは確かだと思います 今, 問題になっているのは, どうも糸球体病変にかなりび慢的な HUS,TTP 様の病変が進展したのではないかということで議論が進んでいます しかし電顕で見ますと, そんなに強い内皮下の浮腫が全節にひろがっているということはないですよね ということで, わたし自身はあまり TTP/HUS 説には乗っていないということです 座長山口先生はさっき TMA の方が 山口ですから同じ HUS でも細動脈型と糸球体型と広く分けられるのですよ もちろんミックスしてくるタイプがある 細動脈型というのもあるのですね, 同じTMAというかHUSでも ですからそれは理由は分かりません ただ糸球体の末梢側に, 非常に顕著に出てくるというタイプと, 必ずしもそちらには出なくて, 血管極部型に細動脈型で出てくるタイプもあるということです 座長どうぞ 角田横浜南共済病院の角田です 話題がそれてしまうのかもしれませんが, われわれもやっぱり SLEの活動性が高いときに下肢に突然, 壊死みたいな感じになって, 実際, 調べてみると APS も否定的だし,HUS みたいなものでもな 132

第 52 回神奈川腎炎研究会 いし, どうして血栓はないのに, 末梢のそういう循環不全みたいなところから壊死を起こすような症例があって, そういうもの noninflammatory necrotizing vasculopathy という風に考えると個人的には思っていたのです さっき乳原先生がおっしゃったみたいに APS だとすると, やっぱり腎臓だけに限局するというのは,SLEの病態を考えるうえではちょっとおかしいかなと僕も個人的に思って, 頭のMRI とか眼底所見で何らかの血栓があれば, 腎病変に関してもAPS が関与するものと考えればいいと思いますが, それがないということなので, あとはSLEには一部, 抗内皮細胞抗体みたいなものができるので, そういうものも関係しているのかなという印象を受けました この方はちなみに下肢に潰瘍みたいなものがあったのかどうかというのは, いかがでしょうか 鎌田 ( 真 ) 入院時, 皮疹はあって, それは皮膚科の先生に診ていただきましたが, 特に膠原病と関係がないということで, 紫斑などは出現しませんでした あと潰瘍もできたりというのはありませんでした 角田最後に重松先生がお示しになった脂肪織のところにけっこう細胞浸潤があって, いわゆるlupus profundusみたいな感じで, それも末梢の循環障害のときに何かが関与しているのかなと思ったので, とても興味深い症例をありがとうございました 座長どうぞ 大橋虎の門病院の大橋です お話を聞いていると, いわゆる病名としての TMA,HUSという言葉と, 病理所見としての TMAがごちゃごちゃになると議論がかみ合わないと思います 本例は病名としての HUS,TMAとは組織像も違うと思いますが,TMAの病態があるかというところが問題だと思います 先ほど SLE,vasculopathy に関する教科書の分類がいろいろと紹介されましたが, 個人的に SLEの活動性が非常に高いときに似たような細動脈病変を経験したことがあります 分類に は困るのですが,SLEと関係ない人に見られる TMAの変化とは違う印象があり,SLE 特有な変化とも思えます Heptinstallの教科書では似たような写真をTMAと表現されています わたし個人としては, おそらく糸球体と連続した細動脈病変があるので, 引き金はやはり immune deposit というか, やっぱり immune complexと関係した病変とは思いますが, やはり細動脈の内皮障害を合併して, 他疾患に見られるような TMA 所見が合わさっているためにこういう独特の所見が見られると思います あまりこの病態をどちらにあてはめるかという議論をしていてもすっきりしませんし,SLE 独特の病態内皮障害に伴う破砕赤血球の出現を伴うようなアクティビティの高いときに, 出やすい病態と解釈しています 疑問点は治療を開始してから出始めている点です わたしの経験した例は非常にアクティブなときに生検をして得られたものですから, こういう治療を開始後に出てくるというのは, はたしてどう説明すればよいのか分かりません その点はコメンテーターの先生に教えてほしいのですが 座長よろしいですか 治療に関してですが, 血漿交換が著効したようにも見えますが,necrotizing vasculopathyの治療に関しては, 文献的にはありますでしょうか 鎌田 ( 真 ) necrotizing vasculopathy そのものではありませんが, ループス腎炎の血管病変を伴っているものに対しても, 血漿交換の明らかな治療効果がないという文献がたしかあったと思います 座長 vasculopathy といいますと, ステロイドとか免疫抑制製剤の方がむしろ効きそうな感じはしますが よろしいでしょうか そうしましたら, これで前半の部を終わらせていただきたいと思います 活発なご討議, ありがとうございました 15 分ほど休憩を取らせていただきたいと思います 133

腎炎症例研究 26 巻 2010 年 山口先生 _01 山口先生 _06 山口先生 _11 山口先生 _02 山口先生 _07 山口先生 _12 山口先生 _03 山口先生 _08 山口先生 _13 山口先生 _04 山口先生 _09 重松先生 _01 山口先生 _05 山口先生 _10 重松先生 _02 134

第 52 回神奈川腎炎研究会 重松先生 _03 重松先生 _08 重松先生 _13 重松先生 _04 重松先生 _09 重松先生 _14 重松先生 _05 重松先生 _10 重松先生 _15 重松先生 _06 重松先生 _11 重松先生 _16 重松先生 _07 重松先生 _12 重松先生 _17 135

腎炎症例研究 26 巻 2010 年 重松先生 _18 重松先生 _19 重松先生 _20 136