第 54 回神奈川腎炎研究会 尿蛋白が遷延しステロイド療法で治療し得た溶連菌感染後急性糸球体腎炎の一例 1 石原有子 1 海津嘉蔵 細川桂 1 緑 2 義久 1 宇都栄作 始めに急性糸球体腎炎は, 多くの場合は溶連菌による先行感染の後,1 ~ 2 週間の潜伏期を経て血尿, 浮腫, 高血圧を三主徴として急性に発症する また, 補体価の低下を認め症状の改善とともに2 週間以内に回復を始め6 週以内に正常化するといわれている 今回われわれは, 尿蛋白が遷延しステロイド療法で治療し得た成人発症の溶連菌感染後急性糸球体腎炎を経験したので報告する 症例症例 :68 歳女性主訴 : 全身倦怠感, 顔の浮腫既往歴 : 特になし, 検診等での尿所見異常の指摘なし家族歴 : 特記すべき事なし現病歴 : 平成 21 年 12 月中旬より全身倦怠感を自覚していた 平成 22 年 1 月 8 日, 起床時に顔面の浮腫を認め,1 月 9 日近医を受診した 尿蛋白 3+, 尿潜血 3+,Cre 2.05mg/dl, BUN 67.6mg/dl,Hb 9.9g/dl と貧血 腎機能障害を認め 1 月 12 日当院紹介受診した 受診時血圧 168/68mmHgと高血圧を認め, 採血上 Cre 1.78mg/dl,BUN 56.5mg/d,Hb 9.0g/dl, 尿蛋白 +, 尿潜血反応 3+, であり精査加療目的に 1 月 15 日入院となった 入院時現症 : 身長 :146cm, 体重 :58.9kg( 入 院前 :52kg +6.9kg), 血圧 :167/89mmHg, 脈拍 :63 回 / 分, 体温 :35.0, 呼吸 :20 回 / 分 整, 意識清明, 眼底 : 両眼とも異常なし, 顔面浮腫を認める 眼球結膜黄染なし, 眼瞼結膜貧血あり 咽頭 口蓋扁桃 : 発赤なし, 腫脹なし 胸部所見 : 異常なし 腹部所見 : 異常なし 下腿浮腫 : 両側で ++ 皮膚: 異常なし, 感染巣なし 神経学的所見 : 異常なし 図 1 (1 社会保険横浜中央病院腎血液浄化科 (2 同病理科 Key Word: 間質性腎炎, ステロイド, 用連菌感染後急性糸球体腎炎 155
腎炎症例研究 27 巻 2010 年 図 2 図 3 入院時検査所見 尿検査 PH 5.0 比重 1.009 蛋白 (3+) 潜血 (3+) 糖 (-) ケトン (-) 白血球 (1+) 白血球 10-19 /HF 赤血球 10-19 /HF 硝子円柱 2+ 顆粒円柱 1+ 細菌 1+ 尿中 β2m 3.004 mg/l 尿蛋白一日定量 1.36 mg/ 日 尿中 FDP 9450 ng/ml 24hCcr 22.7 ml/min/1.73m 2 尿細胞診 classⅡ 血算 WBC 8230 /μl RBC 310 10 4 /μl Hb 9 g/dl Ht 27.6 % Plt 30.7 10 4 /μl 生化学 T-Bil 0.6 mg/dl AST 22 IU/l ALT 29 IU/l LDH 256 IU/l ALP 147 IU/l ChE 194 IU/l γgtp 13 IU/l CPK 157 IU/l BUN 56.5 mg/dl Cr 1.78 mg/dl TP 6.8 g/dl Alb 2.9 g/dl Na 141 meq/l K 4.9 meq/l Cl 110 meq/dl Ca 9.2 mg/dl ip 4.5 mg/dl UA 8.5 mg/dl Fe 19 μ g/dl UIBC 172 μ g/dl T-Cho 108 mg/dl LDL-Cho 175 mg/dl HDL-Cho 43.1 mg/dl TG 100 mg/dl CRP 0.85 mg/dl 免疫学的検査 ASO 603 mg/dl ASK 20480 倍 C3 35 mg/dl (86-160) C4 24 mg/dl (17-45) CH50 27.6 U/ml (25.0-48.0) IgG 2221 mg/dl (870-1700) IgA 308 mg/dl (110-410) IgM 90 mg/dl (46-240) RF (-) P-ANCA (-) C-ANCA (-) ANA (-) レニン活性 0.3 ng/ml (0.3-2.9) アルドステロン 97.9 pg/ml 血液ガス分析 PH 7.421 PCO 2 35.6 mmhg PO 2 87.5 mmhg HCO 3-22.2 mmol BE -2.1 mmol/l 各種培養咽頭培養尿培養 陰性陰性 156
第 54 回神奈川腎炎研究会 図 4 図 6 図 5 図 7 退院直後 (3/11) 最近の外来 (8/2) WBC 4880 /μl RBC 287 /μl Hb 8.7 g/dl Ht 25.4 % PLT 21.7 /μl BUN 14.8 mg/dl Cr 1.12 mg/dl C3 85 mg/dl C4 28 mg/dl CH50 40.2 U/ml ASO 557 mg/dl ASK 40960 倍 egfr 37.7 ml/ 分 /1.73m2 尿蛋白 0.72 mg/ 日 WBC 8670 / μ l RBC 325 / μ l Hb 10.3 g/dl Ht 30.7 % PLT 19.7 / μ l BUN 17.7 mg/dl Cr 0.9 mg/dl C3 109 mg/dl C4 32 mg/dl CH50 43.6 U/ml ASO 182 mg/dl ASK 5120 倍 egfr 47.9 ml/ 分 /1.73m2 尿蛋白 0.04 mg/ 日 157
腎炎症例研究 27 巻 2010 年 図 8 図 11 図 9 図 12 図 10 図 13 158
第 54 回神奈川腎炎研究会 図 14 図 17 図 15 図 18 図 16 図 19 159
腎炎症例研究 27 巻 2010 年 図 20 図 23 診 断 血尿 浮腫 高血圧の三主徴 ASO ASK の上昇 補体の低下 光顕での管内への細胞浸潤 糸球体の腫大 電顕での hump 成人発症溶連菌感染後急性糸球体腎炎 光顕での間質への細胞浸潤 間質性腎炎 溶連菌感染後急性糸球体腎炎の 一般的治療 図 21 1 一般療法 安静 保温 食事療法 水分 食塩 たんぱく質制限 十分なカロ リー 2 薬物療法 抗生物質 病初期の病巣感染に対して 利尿剤 症状の強い場合や心不全の徴候がある例に 対して 降圧剤 ACR,ARB を主体として 図 22 専門医のための腎臓病学より 160
第 54 回神奈川腎炎研究会 考察 1 本症例は経過から溶連菌感染後急性糸球体腎炎と考えられたが, 腎生検上間質への細胞浸潤も著明であり, 間質性腎炎の併発もあった可能性がある また, 蛋白尿や高血圧等の症状が遷延していることから通常の PSAGN の診断であったか疑問が残る 溶連菌感染後急性糸球体腎炎の治療は対症療法が基本であり, ステロイド療法についてのエビデンスは現在のところない 疑問点 1. 生検での診断は溶連菌感染後急性糸球体腎炎で正しかったか? 間質性腎炎の合併 ( 併発 ) はなかったか? 2. 慢性期でのステロイド投与は妥当であったか? 考察 2 これまで PSAGN に対するステロイド療法についてははっきりした指針はない 吉澤らは, 急性糸球体腎炎のステロイド療法の適応として,1 RPGN or 半月体形成 30%,2 Nephrotic syndrome or Nephrotic range proteinuria,3 Garland pattern( 成人 ) をあげている これまでの急性糸球体腎炎に対するステロイド療法について1990 年以降 15 例の報告があった いずれも, 腎不全やネフローゼ症候群を呈した例に対し急性期に使用した報告でありそれらはステロイド療法が著効していた 吉澤らの提案の1~3のいずれかに当てはまる症例であった 本症例は補体の値は回復し腎機能も改善傾向にあった患者における遷延する蛋白尿に対しステロイド療法行っており, 上記の適応にはあてはまらないが, ステロイドの内服にて蛋白尿の改善を認めた 我々はブドウ球菌感染後の急性糸球体腎炎であるが同様の症例を一例経験している 慢性期での遷延する蛋白尿に対してもステロイド投与が効果がある可能性が示唆された 結語 成人発症溶連菌感染後急性糸球体腎炎において遷延する尿蛋白に対してもステロイド療法が効果的である可能性が示唆された 161
腎炎症例研究 27 巻 2010 年 討論石原はい, よろしくお願いします 尿蛋白が遷延しステロイド療法で治療し得た溶連菌感染後急性糸球体腎炎の一例です 初めに, 急性糸球体腎炎は, 多くの場合は, 溶連菌よる先行感染の後,1,2 週間の潜伏期を経て, 血尿, 浮腫, 高血圧を3 主徴として急性に発症します また, 補体価の低下を認め, 症状の改善とともに 2 週間以内に回復を始め, 6 週間に正常化すると言われています 今回われわれは, 尿蛋白が遷延し, ステロイド療法で治療し得た成人発症の溶連菌感染後急性糸球体腎炎を経験したので報告します 症例は 68 歳女性です 主訴は全身倦怠感と顔面の浮腫です 既往歴, 家族歴は特にありません 平成 21 年 12 月中旬より全身倦怠感を自覚していました 平成 21 年 1 月 8 日, 起床時に顔面の浮腫を認め1 月 9 日近医に受診しました 尿蛋白 (3+), 尿潜血 (3 +), クレアチニン2.05mg/ dl,hb9.9g/dlと貧血, 腎機能障害を認め,1 月 12 日, 当院を紹介受診されました 受診時の血圧が168の 68と高血圧を認め, 採血上もクレアチニン 1.78mg/dl,Hb9.0g/dl, 尿蛋白 (+), 尿潜血 (3+) であり, 検査加療目的に1 月 15 日に入院となりました 入院時現症です 体重は通常時と比べ, 約 6.9kg 増加しておりました 167/89 と高血圧を認めました 眼瞼結膜に貧血を認め, 顔面と下腿に浮腫を認めました 咽頭や扁桃に異常所見はなく, 皮膚にも感染創との異常はありませんでした 入院時検査所見です 尿潜血 (3 +), 尿蛋白 (3 +), 白血球 (1+), 沈渣では白血球 10から19 万視野, 赤血球は 10-19/ 毎視野, また, 硝子円柱, 顆粒円柱を認めました 尿中 β2 ミクログロブリンは3.004mg/lと上昇, 尿中 FDP が9450ng/ ml, 尿蛋白 1 日定量は 1.36gでした 24 時間 Ccr は 22.7ml/min/1.73m 2 と低下していました 採血 上は, 貧血と腎機能障害を認めました 免疫学的検査です ASO603g/dl,ASK20480 倍と上昇を認めました C3は低下,CH50は正常下限でした 咽頭培養や尿培養も陰性でした 入院時の胸部レントゲン写真ですが, CTR58% と心拡大を認めました KUBは特に異常を認めません 腹部エコーですが, 腎臓の形態異常や, サイズは異常ありませんでした その他の臓器も明らかな異常所見はありません 胸腹部 CT 上も特に異常所見はありませんでした 経過です 入院約 2 週間前の12 月中旬より全身倦怠感を認め,1 月 8 日起床時に顔面に浮腫を自覚し,1 月 9 日近医を受診しました その際フロセミド 40mg 処方され,1 月 12 日に当院を紹介受診となりました 1 月 15 日より当院入院となり, 精査加療を行いました 高血圧, 血尿, 浮腫の臨床症状と,ASO, ASKの上昇, 補体の低下を認めており, 溶連菌感染後急性糸球体腎炎を疑い, 安静と塩分制限, 蛋白制限による食事療法とともに, 浮腫に対し利尿剤を投与, 高血圧に対してはARB, カルシウムブロッカーの投与を行いました 入院時低値を認めていた補体価や,eGFR は徐々に回復しました また, 入院時に貧血を認めていたため, 上部消化管内視鏡検査や便潜血も確認しましたけれど異常はなく, エリスロポエチンの投与で経過観察としました 高血圧や浮腫も改善していたため, 確定診断のために2 月 16 日に腎生検を実行しました 生検後合併症などの出現はなく,2 月 22 日に退院となりました 生検の結果です 糸球体は6 個確認されました 軽度の単核球中心の細胞浸潤, 部分的に中等度の細胞浸潤を認めました 糸球体は腫大していました 富核を呈し, 管内増殖性変化が著明で, 分葉化傾向を呈しています また, mesangium 細胞,mesangium 基質の増加を認め, 白血球, 赤血球も認められます 尿細管内には, cast も散見されました 単核球中心の細胞浸潤 162
第 54 回神奈川腎炎研究会 も軽度に認めています 間質は, 単核球を中心とした細胞浸潤が著明で, 間質の浮腫も認めました PAS 染色です 白血球が糸球体係蹄内や mesangium 領域に浸潤し, 侵出性変化を認めていました 糸球体を富核を呈しており, 腫大し, 分葉化傾向を呈してます mesangium 細胞, mesangium 基質の増加も認め, 血管内腔が狭小化しています また, ボーマン嚢の肥厚も認めました PAM 染色です 小葉間動脈と思われる血管の肥厚もあり,68 歳ということで, 年齢相応の変化と思われます 先ほどの糸球体と同様に富核を呈しておりまして,mesangium 細胞, 基質の増加を認め, 血管内腔は狭小化しております Masson 染色です 局所的に線維化が著明でした これも同様の所見ですが, 細胞浸潤が著明で, 血管内腔の狭小化を認めました 蛍光抗体法です 蛍光抗体では,IgG,IgA, IgM,C3,C4,C1q, フィブリノゲンの染色を施行しました こちらの写真はC3ですけれども, 基底膜と mesangium 領域に部分的にgranu- lar に強陽性の沈着を認めました IgG, フィブリノゲンは同様のパターンで弱陽性で沈着を認めました 電顕所見です mesangium 細胞, 内皮細胞が増殖し, 血管内腔は閉塞しております 上皮下に humpを認めました また, 基底膜内にも electron-dense depositを認めております また, 側突起の癒合も認めています 診断です 血尿, 浮腫, 高血圧の臨床症状, ASO,ASKの上昇, 補体の低下, 光顕での管内の細胞浸潤と糸球体の腫大, 電顕での hump の所見より, 成人発症溶連菌感染後急性糸球体腎炎の診断となりました また, 光顕での間質への細胞浸潤の所見により, 間質性腎炎の併発も疑われました 退院後の経過です 高血圧は遷延しており, 降圧療法を継続いたしました 補体は回復し, egfr は緩徐な回復を認めておりましたが, 尿蛋白陽性が持続していたため,3 月 16 日よりプレドニンの20mg の内服を開始いたしました 0.72g あった尿蛋白は速やかにその後低下し, ステロイドを漸減, 現在 2.5mg の内服で経過を見ております 外来での採血検査ですが, 補体は回復し, ASO,ASKも低下しております 退院直後 37.7 だったeGFR は8 月 2 日は47.9 といまだ腎機能障害は残存しておりますが, 改善傾向です 尿蛋白は, 退院直後 0.72g でしたが, ステロイドの内服加療を行い,0.04g まで低下しております 溶連菌感染後急性糸球体腎炎の一般的な治療ですが, 安静, 保温, 水分 塩分 蛋白制限, 十分なカロリーによる食事療法 薬物療法としては, 病初期の病巣感染に対しての抗生剤投与, 浮腫や心不全に対しての利尿剤投与, 高血圧に対して降圧剤の投与などの加療が一般的に行われます 本症例は, 経過から, 溶連菌感染後急性糸球体腎炎と考えられましたが, 腎生検上, 間質への細胞浸潤も著明であり, 間質性腎炎の併発もあった可能性があります また, 蛋白尿や高血圧等の症状が遷延していることから, 通常の PSAGNの診断であったか疑問が残ります 溶連菌感染後急性糸球体腎炎の基本は対症療法が基本であり, ステロイド療法についての evidence は現在のところありません これまでに報告された溶連菌感染後急性糸球体腎炎に対し, ステロイド療法を施行した報告をまとめました 1990 年以降で15 例ありましたが, いずれも急性期に使用されておりました 腎生検で半月体を認めていたものがほとんどで,RPGN 様の急激な腎機能低下を認めた例や, ネフローゼ症候群を認めた症例, 補体低下が遷延した症例等に投与されておりました 次に, これらの報告の中で共同演者の海津の経験した事例を挙げます 症例は16 歳男性,RPGN 様の急激な腎機能障 163
腎炎症例研究 27 巻 2010 年 害を認め, 無尿となり, 血液透析を施行, 尿蛋白も約 10gとネフローゼ症候群を呈していました ステロイドパルス療法を施行し, 尿蛋白の上昇を認め, 補体は上昇, 症状も改善し, ステロイド療法が著効した事例です 先ほど示した報告も, この症例と似た経過でのステロイドの投与症例がほとんどでした この症例での病理所見ですけれども, 激しい糸球体腎炎の所見を認めました 慢性期に使用された症例としましては, われわれは溶連菌ではなく, 皮膚感染によるブドウ球菌感染後の糸球体腎炎に対してですけれども, 遷延する蛋白尿に対してステロイド加療を行い, 蛋白尿の減少を認めた一例を経験しています 考察です これまで PSAGN に対するステロイド療法については, はっきりした指針はありません ヨシザワらは急性糸球体腎ステロイド療法の適応として,RPGN, もしくは半月体形成が30% 以上のもの, ネフローゼ症候群を呈するもの,IFでの garland patternを呈するものを挙げています これまでの急性糸球体腎炎に対するステロイド療法について,1990 年以降 15 例の報告がありましたが, いずれも腎不全やネフローゼ症候群を呈した例に対し, 急性期に使用した報告であり, これらはステロイド療法が著効していました ヨシザワらの提案の 1 から3 のいずれかに当てはまる症例でした 本症例は, 補体の値は回復し, 腎機能も改善傾向にあった患者における遷延する蛋白尿に対しステロイド療法を行っており長期の適応に当てはまりませんが, ステロイドの内服蛋白尿の改善を認めました われわれはブドウ球菌感染後の急性糸球体腎炎ですけれども, 同様の症例を1 例経験しています 慢性期での遷延する蛋白尿に対してもステロイド投与が効果的である可能性が示唆されました 結語です 成人発症溶連菌感染後急性糸球体腎炎において, 遷延する尿蛋白に対してもステ ロイド療法が効果的である可能性が示唆されました 疑問点です 生検での診断は溶連菌感染後急性糸球体腎炎で正しかったでしょうか また, 間質性腎炎の合併はなかったでしょうか また, このタイミングでのステロイド投与は妥当だったでしょうか 以上です 竜崎ありがとうございました 臨床のところで何かご質問はありますでしょうか いかがでしょう 遠藤先生どうぞ 遠藤東海大学の遠藤です ステロイド投与は間違いではないと思うのですが, やらなくても戻ると思います じっと待っていれば ずいぶん古いこの会で, 当時, 出浦先生が世話人で, 治療も診断も意見が分かれるような症例を出せと言われて, 形式も, 全体を発表しないで, この症例はどうしますかというようなかたちでやったのです そのときにわれわれが, もっとひどい腎炎の, 組織を出したときに, 一人の病理の先生はMPGNで, もう一人の病理の先生は急性糸球体腎炎, 臨床の先生の治療は, 片方ではステロイドパルス, 片方はこのまま観察と, 見事にsplit decision になりました その後の経過は, 結局われわれは何もやらないでじっと待っていたら,1 年でほぼ戻ったという症例を発表しました そのときに出浦先生が, 自分の計画が成功したと喜んでいらっしゃいました この症例も, じっと待てば戻ると思います 石原はい 竜崎じゃあ, 海津先生 海津外来でステロイドを使ったのは私でございます 0.7 ~ 0.8g/ 日でしたので, 新たな治療なしでも改善するかもしれないと思いましたが, 量的には多いのでステロイドを使用しました すると, あまりにもすぐに 0.04g ですから, 著効したのです 降圧剤を使って, そんなにはなかなか減らないものですから, ステロイド剤のこういう使い 164
第 54 回神奈川腎炎研究会 方もあるのではないかと思いました あまりにも著効したので, ひょっとすると, 後で組織を見ると間質の多小の細胞浸潤などもあったので, そういうのが遷延していた可能性あって, それがステロイドに効いたのかなと後から思ったのですけれども, 先生の言われるのも妥当だなと思います 竜崎ほかにいかがでしょうか この点に関しては最後にもう 1 回, ステロイドを使うべきだったかどうか, 病理も含めて検討したいと思います 病理の先生方 重松先生からよろしくお願いいたします 重松 PSGN については診断上問題ないと思うのですけれども, どうして遷延したかということです そして, ステロイド療法がどうして効いたかという点について, ちょっと病理のほうからお話をやりたいと思います スライド01 九つglomerulusがあったのですが, みんなきれいな,endocapillary proliferation のある糸球体でありました 動脈硬化はありません スライド 02 そしてもう一つは, かなりfocal ですけれども,interstitial nephritisが起こって, かなりの浮腫が一緒に伴って起こっております スライド 03 標本がやや厚いのですが,endo- capillary proliferationがあるわけです 血管腔に入っている細胞の種類はある程度分かると思います スライド 04 それからきれいな hump があちこちに見えます 光顕レベルで見つけることができます ここにもあります ここにもある スライド 05 それで,PAM 染色で基底膜の変化などを見ていったのですが, ともかくあまり強い基底膜の変化,mesangium の増殖は強くありません ただ, 血管腔はちゃんと出ていて, 糸球体はそれ程腫大していない そういうのが少し気になります スライド 06 血管のほうは結構開いているの ですけれども, 糸球体の富核や腫大というふうな特徴はあまりないわけです スライド07 例えばこういうところ 間質の炎症があるようなところは, 糸球体が collapse 気味になっているのです これが間質性の炎症による係蹄壁のcollapse というのが, 一つ治りを遅くしている原因だと思います スライド08 それから, 間質炎です この傍尿細管毛細血管炎があって, そして間質性の炎症, そして一部尿細管炎も起こっております スライド 09 その間質炎のところに, あまり線維の増生は目立たない こういう毛細血管炎が結構あって, これは糸球体と同じようにここから免疫結合物が入って間質炎を起こしている可能性が非常に強いと思います これは光顕では分かりませんので, 電顕で確かめることにしました スライド10 これも線維化を見ているのですけれども, ちょっと部分的には起こっていますけれども, まだ浮腫状の状態で, 線維症というふうな進行性の変化は強くないと思います スライド11 これは, ワンギーソン染色です ちょっと部分的にはありますけれども, まだまだ間質炎はフレッシュな状態であります スライド12 蛍光は非常にきれいなC3 の顆粒状の沈着があって,PSGNの典型像といってもいいような蛍光像です スライド 13 それで, 糸球体のほうは hump があります humpがあって,mesangial interposition みたいなところがあります mesangial deposit も見られます スライド14 遊走細胞が入ってきています スライド15 そして, この糸球体です もうひとつまた遷延するというか, 治りがよくなかったのは, 例えばここを見てください ここはずっとpodocyte が反応性にactin filament を増して, 係蹄壁を保護しているのです しかしここで基底膜がちょん切れているわけです 内皮細胞といまや接着するぐらいになっているわけですから, こういう部分的に修復される部分は, 165
腎炎症例研究 27 巻 2010 年 このあと上皮の下に新しい基底膜ができて, この基底膜をもう一回つくり直さなきゃいけないのです そういう点で, ちょっと回復が遅れるということがあり得ると思います スライド16 ここでもずっと見ていきますと, ここで基底膜がやっぱりちょん切れて, 上皮と内皮細胞が密着している ここもそうです そういうふうに部分的に基底膜の損傷が起こっているということが言えます スライド17 それから三つ目ですけれども, 間質の病変を見ると, 浮腫があって, そしてそのほかに沈着物が見えます これもそうだと思いますけれども, 基底膜の上に載っているのもあるということで, 糸球体に起こっている immune complex 腎炎と同じようにimmune complex で起こった間質性腎炎となっていると言えると思います そういうことで, この臨床で慢性期でステロイドが効いたというのは, 恐らく糸球体炎に直接ということよりも, 間質炎をある程度早く治めることができた それが原因ではないかというふうに, 病理のほうでは考えました 竜崎ありがとうございました それでは続いて山口先生, お願いいたします 山口ちょっと髄質部の病変は, 何か間質性腎炎なのか, 感染性のものなのかというのがちょっと気になったところです 最初, 僕は, ちょっと MPGN-like で, 低補体血症性の腎炎も考えたほうがいいのかなとは思っていたのですが スライド01 糸球体が最初に出てこなくて, どちらかというと尿細管間質の, ですから普通は急性の糸球体腎炎があれば, その周囲に炎症反応があるのですが, 全然関係のないところに, 確かにplasma リンパ球系の細胞がだいぶ出てきているのです 血尿の影響で, 尿細管上皮障害もちょっとは見られます ですから, 糸球体炎以外に何か, 臨床の先生たちも疑ったように, 間質性腎炎が随伴して起きていたのかなということです ただ, あまり 顕著な尿細管炎的なものはそんなに目立たないです どちらかというと,capillaryの毛細血管内腔にあるような形のものも多いです みんな, peritubular capillary の中に少し集積されてきていますので, 通常の間質性腎炎というよりは, capillarize を含む何か間質性腎炎的なものだろうと思います スライド02 それで分からない病変は, この, ちょっと髄質で, 先ほど重松先生も何回か出されたのですが,abscess とは言えないのです abscess ということになると好中球の集積で, だんだん自壊して溶けてきますので, 組織が壊れる, 破壊されるのです abscessまでいかないのですが, ちょうど ( 01:00:06 / 一語不明 ) の周囲だろうと思うのです 何か以上に炎症細胞が集積して これは髄質部です ですから, 先ほどはどちらかというと, ちょっと皮質側に, 皮髄境界ぐらいというか, 皮質側に近いところなのですが, それで, 尿細管内にちょっと,cell debris 的なものがたまってきています ご老人の感染腎炎というのは, なかなか普通の感じとだいぶ違うのかなという印象です ですから, これが急性腎炎の糸球体炎とどういうふうに関係しているのか, ちょっと気になったところです スライド 03 糸球体はやはり, 非常に ( 01:01:01 / 一語不明 )cellularで, 外来性の細胞が入り込んで, 分葉化をしています 逆にこの糸球体の周りの炎症も, 少しは capillarize を含めてあります スライド04 ちょっと切片が厚いのでなかなかdetail が分かりづらいのですが, 分葉状になっていることは分かります こういうように間質炎が, 例えば普通は,crescent とか何かができて, その周囲に広がるというかたちですが, 関係なしに少しcapillarize がある スライド 05 しつこいようですが, 先ほどのところを PASで見ますと, やはり好中球などもちょっと混ざっているのです ( 01:01:48 / 一語不明 ) のアファレンス, あるいはエフェ 166
第 54 回神奈川腎炎研究会 レンス,ascending 側に capillarize 的になっています 何か非常にこの辺が,focusが何カ所かあって, 一番強いのがこの箇所です ですから, versal( 00:02:28 / 一語不明 ) の炎症と言うべきなのか,capillarizeと言うべきなのかは, ちょっと分かりません スライド 06 しつこいようですが, あまり破壊はないようです はっきりした破壊とは言えないように思います スライド 07 end capillaryというか, 外来性の細胞が capillary の中にだいぶ入り込んで, 少し mesangiumを拡大しているように思います スライド 08 Masson で hump がだいぶあったように思うんですが, 重松先生の写真のほうが本当は これ以上わたしの顕微鏡だと上がらないので, 見えないですが スライド 09 そういうようなことです MPGN とかとの区別は, 基本的にはhump 様のものが普通, 低補体性の腎炎だと, このhump が,IgG だとか, ほかのimmunoglobulinが付いてこないのです 大体 C3 dominant で,mesangial pattern で,peripheral プラス,hump にも陽性になってきています IgG は弱いのですが,mesangialで,hump らしいところに陽性になってきますから, いわゆる primary の MPGN とちょっと違うところです どういうわけだか,humpに IgG がMPGN のtypeⅠ とか,dense deposit disease だと出てこないというのが一般的です スライド 10 もうこれは end capillary で, いろいろな分葉状の好中球と hump が多発しております スライド 11 同じです humpと,inter membranes deposit(?) で,mesangial deposit を起こしてきています mesangiumの増殖もあるようです スライド 12 先ほど言いました gapに近い病変です 基底膜の障害が強いのだろうと思います inter deposit 様の病変があって,humpが多発して garland typeというのは,hump が多発 しているもので, 基底膜の障害が強かったのを garland type と言うのだろうと思います そういうようなことで,end capillary で hump があるということで, 一応 AGNということでいいと思います 最近, 溶連菌感染関連腎炎というのが, 防衛医大の小田先生が, ヨシザワ先生たちのグループで,( 00:05:41 / 一語不明, ナップル ) を証明すると関連腎炎というようなことで言われているわけで, これは参考程度ですが,( 00:05:54 / 一語不明, ナップル ) を染めて,C3 を染めて, 両方マージすると, 一部マージされて, プラスミンの活性も非常に高かったというようなことで, 最近少しC3 dominant で, ほかのimmunoglobulin が非常に弱い場合に,DDD とか, 低補体血症が持続性である場合に, 普通の急性腎炎とちょっと違うtype のものがあるわけで, その中に ( 00:06:35 / 一語不明, ナップル ) をやると溶連菌関連腎炎というものが, どうも新しい疾患概念として考えるべきではないかなというようなことが言われています これは参考程度で, やはり AGNで, この症例はPSAGNでいいと思います 以上です 竜崎ありがとうございました まとめて何がご質問, 病理の先生方にご質問でもいいですし 石原先生からは何か, 病理の先生に 大丈夫ですか 先ほど遠藤先生が投げかけた疑問ですけれども, これは, 病院の先生方からすれば,capillaritisみたいなものも絡んでいて, あの時点でステロイドを使って効果があっただろうことは予測できることだと思うのです それはいいと思うんですけれど, 臨床家としていろいろな先生方が今いらっしゃいますから, そこで使って効果があるのはうなずけるけれども, 放っておいてもよくなるだろうという先生もいるだろうし, やっぱりあそこで使ったほうがよかったという先生もいらっしゃると思うのですが その点に関してはいかがでしょうか 167
腎炎症例研究 27 巻 2010 年 使わなくてよかったんじゃないかという先生方, いらっしゃいますかね なかなか難しい 角田北陸病院の角田です 以前に腎学会の総会で,AGN で半月体をすごく著明に形成したものを発表したときなのですけれども, その方も半月体がすごくひどかったのですけれども, 何も治療せずに,1 年後の生検をすると, 見事に回復されているという症例はありました その方はやはり, この症例みたいに, 間質に細胞浸潤がそんなに著明ではなかったので, ステロイドを使用しませんでしたが, この患者さんでは, 間質に対してすごくステロイドが効いた様なので, 間質の病変があれば使ってもいいのかなという印象を持ちました 竜崎ありがとうございます ほかに何かご意見はありますか 僕は, あまり間質の病変に着目していたわけではないのですが,15 年ぐらい前に50 歳ぐらいの人で,nephrotic になってしまって, 割とそれが遷延した人がいましたけれども, その人は我慢してステロイドを使わないでいたら, 半年ぐらいで尿蛋白が消えたという症例がありますが, ちょっと見直してみないと間質のことは分からないです いろいろな症例があると思うので, 皆さんからほかに意見があれば, いかがでしょうか なかなかまとまりが付かないと思うのですけれども, 今はどうしても,PSAGN だとすると糸球体に目が行きがちなので, 間質にも目を向けて間質病変を考えるという問題提起を一ついただいたような気がするので, これからの教訓にしていきたいなと思います ほかに何かご質問ありますでしょうか なければ以上でこのセッションを終わりにしたいと思います どうもありがとうございました 168
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