第 66 回神奈川腎炎研究会 検査所見 < 尿定性 > 尿蛋白尿糖尿潜血 < 尿沈渣 > 赤血球白血球扁平上皮硝子円柱上皮円柱顆粒円柱卵円形脂肪体 (4+) (±) (3+) 多数 多数 (1+) /HPF /HPF /HPF /HPF /HPF /HPF

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/12/28 UP 3+, TP 4.2g/dl, Alb 1.9g/dl PSL 50mg/day 1/17 PSL 45mg/day PSL 2006/4/4 PSL 30mg/day mpsl mpsl1000mg 3 2 5/ :90 / :114/64 mmhg

59 20 : 50 : : : : : 2 / :20 / 25 GTP /28 5/3 5/4 5/8 6/1 1 7kg 6/9 :178.7cm :68.55kg BMI:21.47 :37.3 :78 / :156/78mmHg 1

1996 papilloma virus 2001 Bowen AIHA PSL1mg/kg BMA PRCA parvovirus B19 PVB19 DNA PCR PV IgM 4 PVB19 PRCA MAP PVB19 DNA DNA PR

腎炎症例研究 27 巻 2011 年 図 1 図 2 入院時検査所見 (2008 年 8 月 ) 尿所見 比重 ph 6.0 蛋白 3+ 潜血 3+ RBC >51 /HPF 顆粒円柱 1-3 /WF 蝋様円柱 1-3 /WF 赤血球円柱 1-3 /WF 尿蛋白 /Cr 比 4.5 g/

腎炎症例研究 32 巻 2016 年 検査所見 初診時 生化学 血算 WBC Hb Ht Plt 9300 (/μl) 16.8 (g/dl) 47.5 (%) (/μl) TP Alb Na K Cl㻌 㻌㻌 BUN 㻌 㻌 Cr 㻌㻌 UA GOT 㻌 㻌 GPT 㻌 㻌 TG T

第 58 回神奈川腎炎研究会 血清 CRP 0.03 mg/dl IgG 488 mg/dl IgA 195 mg/dl IgM 164 mg/dl C3 121 mg/dl CH /ml ASO 51 入院時検査所見 2 RF 8.2 IU/mL 抗核抗体 陰性 HBsAg 0.1

腎炎症例研究 33 巻 2017 年 Tac3mg (12時間トラフ3 7ng/ml) (mg/dl) mpsl PSL40mg (g/dl) 0.5g (g/gcr) HbA1c 8.0 蛍光顕微鏡所見 LDL-apheresis計12回施行 治療経過 PSL40mg PSL20mg PSL5mg

WBC 5700 / l Gran 58.5% Lym 29.0% Eosin 0.3% RBC 499x10 6 / l Hb 14.8 g/dl Hct 44.40% PLT 15.3x10 3 / l PT 157% Fbg 616 mg/dl DD 0.99 g/ml GOT GPT LDH

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九州支部卒後研修会症例

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腎炎症例研究 27 巻 2010 年 図 2 図 3 入院時検査所見 尿検査 PH 5.0 比重 蛋白 (3+) 潜血 (3+) 糖 (-) ケトン (-) 白血球 (1+) 白血球 /HF 赤血球 /HF 硝子円柱 2+ 顆粒円柱 1+ 細菌 1+ 尿中 β2m

1 8 ぜ 表2 入院時検査成績 2 諺齢 APTT ALP 1471U I Fib 274 LDH 2971U 1 AT3 FDP alb 4 2 BUN 16 Cr K4 O Cl g dl O DLST 許 皇磯 二 図1 入院時胸骨骨髄像 低形成で 異常細胞は認め

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第 59 回神奈川腎炎研究会 入院時検査所見 尿一般 比重 PH 蛋白 蛋白定量 潜血 糖 赤血球 白血球 円柱 BJP 尿生化学 Osmo Cr Na K NAG FENa FEUN 凝固系 PT-INR APTT FIB g /g Cr - - <1/HPF 1

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腎炎症例研究 25 巻 2009 年 自己免疫性膵炎に合併した IgG4 関連腎炎の 1 例 藤 井朋子 梅園朋也 呉 瓊 宮 内雅晃 山本直之 豊田雅夫 鈴 木大輔 谷亀光則 遠藤正之 症例症例 :59 歳女性主訴 : 下腿皮疹 1989 年より橋本病にて近医通院 2004 年黄疸, 肝障害を発見

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IgG4 関連疾患 IgG4 関連疾患診断基準 IgG4 関連疾患 厚生労働省 IgG4 関連疾患に関する調査研究 班 ポケットブック版にてご覧いただけます. お問い合わせフォーム IgG4 関連疾患の診断は基本的には,

なくて 脳以外の場所で起きている感染が 例えばサイトカインやケモカイン 酸化ストレスなどによって間接的に脳の障害を起こすもの これにはインフルエンザ脳症やH HV-6による脳症などが含まれます 三つ目には 例えば感染の後 自己免疫によって起きてくる 感染後の自己免疫性の脳症 脳炎がありますが これは

My DIARY ベンリスタをご使用の患者さんへ

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は減少しています 膠原病による肺病変のなかで 関節リウマチに合併する気道病変としての細気管支炎も DPB と類似した病像を呈するため 鑑別疾患として加えておく必要があります また稀ではありますが 造血幹細胞移植後などに併発する移植後閉塞性細気管支炎も重要な疾患として知っておくといいかと思います 慢性

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腎炎症例研究 30 巻 2014 年 生化学 TP 7.0 g/dl Alb 3.0 g/dl T-bil 0.7 mg/dl AST 12 IU/L ALT 5 IU/L LDH 648 IU/L ALP 278 IU/L γgtp 39 IU/L BUN 130 mg/dl Cre 21.5 m

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15 検査 尿検査 画像診断などの腎障害マーカーの異常が3ヶ月以上持続する状態を指すこととしている その病期分類方法は成人と小児では若干異なり 成人では糖尿病性腎障害が多い事からこれによる CKD 患者ではアルブミン尿を用い その他の疾患では蛋白尿を用いてそのリスク分類をしている これに対し小児では

遡及調査にて77日前の献血時のHBVウイルス血症が確認できた急性B型肝炎の一例

ども これを用いて 患者さんが来たとき 例えば頭が痛いと言ったときに ではその頭痛の程度はどうかとか あるいは呼吸困難はどの程度かということから 5 段階で緊急度を判定するシステムになっています ポスター 3 ポスター -4 研究方法ですけれども 研究デザインは至ってシンプルです 導入した前後で比較

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腎炎症例研究 33 巻 2017 年 ANCA 陰性の RPGN で, 組織学的にループス腎炎が鑑別に挙がる一例 川 1 井沙記 柳 1 智貴 矢 嶋 1 優 田 1 中啓之 1 高橋直宏 1 七松東 1 安藝昇太 2 長濱清隆 1 桂川史子 1 樋口真一 1 青柳誠 3 病理コメンテータ城謙輔 山口 4 裕 症 例 症例 :75 歳, 男性 主訴 : 浮腫 体重増加 現病歴 :X 年 1 月末 食思不振 腹部膨満感 が出現 2 月 2 日頃下腿浮腫が出現 2 月 11 日頃 血痰も出現したため精査目的に 近医受診 UN58,Cre4.17と腎障害を指摘 2 月 12 日精査加療目的に当院受診 腎機能障害の他, 尿蛋白 (4+) 潜血(3+), 急速な浮腫の進行 (2 週間で体重 +6kg 増加 ) を 認め,RPGN の精査加療目的に同日当科緊急入 院 既往歴 : 年数不明 肺気腫 40 年前両側気 胸 2 年前白内障 内服薬 : タムスロシン 0.2mg 1T1X ミラベグロン 50mg 1T1X 酸化マグネシウム 1500mg 家族歴 : 父 : 老衰にて死去, 母 :89 歳時に 乳癌にて死去 腎疾患, 膠原病の家族歴なし 生活歴 : 飲酒焼酎 0.5 合 / 日程度 喫煙 :30 本 / 日 (20-66 歳 以降禁煙 ) Allergy:food(-)/drug(-) 職業歴 : 電気溶接工 (20-60 歳 ) 現症身長 :164 cm, 体重 :54.3 kg 体温 :37.6, 血圧 :156/87mmHg 脈拍 :80bpm( 整 ),SpO2 94%(RA) 頭頚部 : 眼瞼結膜蒼白 (-), 眼瞼浮腫 (+), 甲状腺腫大なし胸部 : 心音整, 呼吸音清, 明らかな Crackle 聴取せず腹部 : 平坦 軟, 疼痛 圧痛 (-), 腸蠕動音正常四肢 : 皮疹 関節腫脹 (-), 両下肢 pitting edema(+) (1 横須賀共済病院 (2 日本医科大学 腎臓内科 解析人体病理学 (3 東北大学大学院医学系研究科 (4 山口病理組織研究所 病理病態学講座 190 Key Word:ANCA 陰性,RPGN, ループス腎炎

第 66 回神奈川腎炎研究会 検査所見 < 尿定性 > 尿蛋白尿糖尿潜血 < 尿沈渣 > 赤血球白血球扁平上皮硝子円柱上皮円柱顆粒円柱卵円形脂肪体 (4+) (±) (3+) 多数 10-19 1-4 多数 20-29 10-19 (1+) /HPF /HPF /HPF /HPF /HPF /HPF < 尿生化 > 尿 UN 尿 Cre 尿 Na 尿 β2-mg 尿 NAG Selectivity Index < 蓄尿 > 尿蛋白 1 日量 537 86.7 86.3 14904 37.9 0.47 meq/l μg/l U/I 3.65 g/day 現症 CXp:CTR 42.0% 右 CPA dull 肺野の透過性亢進 ECG:HR 70bpm NSR No ST-T change CT : 高度肺気腫右上葉 (S3 肺尖部背側) に浸潤影両側胸水 腹水 (+) 肝 膵 脾 : 異常なし腎サイズ正常水腎症なし 図 1 図 4 検査所見 < 血算 / 凝固 > WBC 10400 Hb 11.1 Ht 32.8 MCV 103.9 Plt 26.5 10⁴ PT 12.4 APTT 36.3 D-dimer 2.42 < 生化学 > LDH 291 AST 17 ALT 12 ALP 200 T-Bil 0.4 CK 469 /μl g/dl % fl /μl sec sec μg/ml U/l U/l U/l U/l U/I U/I T-cho LDL-Cho TP Alb UN Cr Na K CL Mg CRP BNP Fe TIBC フェリチン < 血糖 > HbA1c 216 124 5.5 2.4 47 4.04 139 4.4 110 2.5 0.78 159.2 55 261 126 g/dl g/dl meq/l meq/l meq/l mg/l μg/dl μg/dl ng/ml 6.1 % 入院後経過 2/12-18 血痰 (+) Cre 7 6 11 月 30 日 5 Cre0.97 フロセミド80mg/ 日アドナ トラネキサム酸 PIPC/TAZ 2.25g q8hr 臨床診断 : ANCA 陰性のMPA 5.33 4.91 4.04 2/17 腎生検施行 4 3 体重 (kg) 54.3 52.7 51.4 50.2 49.2 48.5 Alb() 2.4 2.0 2 1 尿蛋白 4+ 3+ 尿潜血 3+ 0 2 月 12 日 2 月 13 日 2 月 14 日 2 月 15 日 2 月 16 日 2 月 17 日 6.01 図 2 図 5 検査所見 < 痰培養 >Geckler Group3 H.Parainfluenzae + Α-Streptococcus + < 尿培養 > 陰性 < 血液培養 > 陰性 < 感染症 > HBsAg HBV-DNA HCVAb 梅毒 TPLA 梅毒 RPR HIV (+) 検出せず (-) (-) (-) (-) < 免疫 > IgG IgA IgM RA PR3-ANCA MPO-ANCA 抗 GBM 抗体抗核抗体抗 dsdna 抗体抗 SS-DNAIgG 抗体クリオグロブリン CH50 免疫電気泳動 1085 251 33.2 3 未満 1.0 未満 1.1 2.0 未満 (-) IU/ml U/ml U/ml U/ml (-) 19 AU/ml (-) 51.1 CH50/ml 尿 血清異常なし 2 月 17 日腎生検標本 図 3 図 6 191

腎炎症例研究 33 巻 2017 年 糸球体への好中球浸潤と間質の浮腫状拡大 図 7 図 10 PAS 染色 糸球体以外に血管炎を疑う所見は明らかでなかった 図 8 図 11 IgG IgA 21 個 : 細胞性半月体 2 個 : 線維細胞性半月体 図 9 IgM 図 12 fib 192

第 66 回神奈川腎炎研究会 C3 IgG C1q IgA 糸球体のメサンギウム領域に一致した IgG IgA IgM C3 C1q の樹枝状の蛍光所見 IgG C3 には毛細血管基底膜の一部にも軽度陽性像あり C4 IgM 30000 沈着物はあるも構造物は認めなかった 図 13 図 16 基底膜内もしくはパラメサンギウム領域に沈着物が散在 アドナ トラネキサム酸 フロセミド 80mg/ 日 PIPC/TAZ 2.25g q8hr 透析開始 PSL mpsl 1000mg 45mg 35mg 透析離脱 20mg 12 10 2/12-18 血痰 (+) 2/17 腎生検 9.44 9.3 11.56 9.76 9 8 7 8 7.83 7.48 7.11 6 6 4 4.91 4.04 6.61 6.01 6.67 6.09 5 4 9 月 15 日 Cre3.09 3 11 月 30 日 Cre0.97 2 5000 2 Cre () 0 乏尿出現 うつ症状出現 1 推定 1 日尿蛋白 (g/gcre) 0 図 14 図 17 内皮下沈着物 本症例の疑問点 病理学的診断と臨床的診断に解離あり 本症例の診断に関してご教授よろしくお願いいたします 1500 5000 図 15 図 18 193

腎炎症例研究 33 巻 2017 年 RPGN 重症度 スコア血清 Cre 年齢肺病変血清 CRP 0 <3 <60 無 <2.6 1 3 <6 60~69 2.6~10 2 6 70 有 >10 3 透析療法 臨床所見学的重症度 GradeI GradeII GradeIII GradeIV 総スコア 0~2 3~5 6~7 8~9 本症例は治療開始時 Clinical GradeIII の RPGN であった (5 年生存率は 60% 程度 ) 免疫複合体型 RPGN 一次性免疫複合体型 RPGN の 2% を占める 原発性糸球体腎炎に半月体形成を伴う RPGN の治療については それぞれの腎炎の病態に沿った治療を行う 特発性は頻度も低く プロトコルはない ANCA 陽性の RPGN として治療を行うことが望ましい 二次性免疫複合体型 SLE に合併するループス腎炎や紫斑病性腎炎 クリオグロブリン結晶性腎炎などが挙がる 副腎皮質ステロイドや免疫抑制剤の投与が中心となる 図 19 図 22 RPGN 初期治療 ANCA 型の場合 CY 併用の法が予後よいとの文献が散見されるも本症例の場合背景肺を考え使用せず ループス腎炎 ANCA 陽性 RPGNGradeIIIまたはIVかつ70 歳以上の場合 ( 本症例 ) 抗 GBM 型 RPGN ステロイドパルス療法 + 経口ステロイド (mpsl500-1000mg/ 日 3+PSL0.6-0.8mg/kg/ 日 ) 血漿交換療法 + 経口ステロイド 40-60mg/ 日 重症例ではステロイドパルス療法や免疫抑制剤の併用も考慮 一般的治療 PSL0.8-1.0mg/kg/ 日の大量投与を行い 尿所見の改善や免疫学的活動性の改善を見ながら漸減 半月体形成している場合などはステロイドパルスに加え IVCY をスタンダードな治療として行う 免疫複合体型 RPGN 感染症による RPGN 各腎炎の病態に準じた治療 原因に対する治療 重症例 低用量の IVCY で寛解導入を行い早期から AZA にスイッチするレジメンで副作用減少を報告している文献も有り ミゾリビン シクロスポリン リツキシマブ 抗体除去目的に血漿交換療法や免疫吸着療法も行われている 図 20 図 23 RPGN 寛解維持治療 ANCA 陽性 RPGN 抗 GBM 型 RPGN 免疫複合体型 RPGN 感染症による RPGN 再燃時は ANCA 陽性 RPGN の場合 初期治療を行う 難治例では免疫グロブリン療法やアフェレシス療法の追加 初期治療開始後 8 週以内に経口ステロイド 20mg/ 日未満を目指す アザチオプリン CY ミゾリビンなどの免疫抑制薬の併用療法を考慮する 抗 GBM 抗体の消失を確認しながら 6-12 ヶ月程度での免疫抑制剤の中止を検討する 各腎炎の病態に準じた寛解維持治療 原因に対する治療 パルボウイルス B19 感染後糸球体腎炎 概要 : 飛沫感染し 10-20 日間の潜伏期の後 発症成人においては皮疹 関節痛 発熱 倦怠感など多彩な症状を呈するまれに糸球体腎炎を来す感染時期は冬 ~ 春に多い SLE 様の症状を来すのでループス腎炎との鑑別を有する 検査所見 : 低補体血症 (C3,C4 低値 ) パルボウイルス B19IgM 抗体 IgG 抗体陽性 PCR 法にてパルボウイルス B19 の DNA を証明 腎病理所見 : 糸球体のびまん性腫大 血管内腔の細胞増殖 中等度のメサンギウム細胞増殖免疫蛍光抗体法で係蹄壁とメサンギウム領域に IgG C1q C3 の沈着電顕で糸球体基底膜内皮下とパラメサンギウム領域に高電子密度沈着物 CJASN 2:S47-S56,2007 図 21 図 24 194

第 66 回神奈川腎炎研究会 肺腎症候群 (PRS:Pulmo-renal syndrome) 狭義の PRS: びまん性肺胞出血 +RPGN goodpasture 症候群 MPA WG 広義の PRS: その他の肺病変との組み合わせ ex)mpa+ 間質性肺炎 蜂巣肺 気腫肺 SLE やクリオグロブリン血症 HSS IgA 腎症なども PRS を来しうる 図 25 195

腎炎症例研究 33 巻 2017 年 討論川井よろしくお願いいたします 今回, 私たちは,ANCA 陰性のRPGN で, 組織学的にループス腎炎が鑑別に挙がる一例を経験いたしましたので, 報告いたします 症例は75 歳男性の方です 主訴は, 浮腫, 体重増加です 現病歴ですが,X 年 1 月末, 食思不振, 腹部膨満感が出現いたしました 2 月 2 日ごろ下腿腫が出現,2 月 11 日ごろ血痰も出現したため, 精査目的に近位受診され, UN58mg/dL,Cr4.17mg/dLと腎障害を指摘されました 2 月 12 日, 精査加療を目的に当院受診, 腎機能障害のほか尿蛋白 (4+), 潜血 (3+), 急速な浮腫の進行を認め,RPGN の精査加療目的に, 当日当科緊急入院となりました 既往歴です 肺気腫と両側気胸の既往がありました 内服薬はご覧のとおりです 家族歴ですが, 腎疾患, 膠原病の家族歴はありませんでした 生活歴ですが, 喫煙を1 日 30 本,20 歳から66 歳までされていました 現症ですが, 身長 164cm, 体重 54.3kgでした バイタルは特に異常なく, 身体所見としては眼瞼浮腫と両肩への浮腫を認める以外, 特記すべき点はありませんでした 検査所見ですが, 尿蛋白は蓄尿検査にて 3.65g/day 析出していたほか, 尿潜血 (3+), 尿中の赤血球多数, 顆粒円柱は毎視野 10-19, 硝子円柱多数と糸球体障害を認める所見を認めました selectivity index(si) は低選択性でした UN,Cr 高値を認めるほか,ALBは2.4g/dL であり, 尿蛋白析出と併せて, ネフローゼ症候群と診断されました そのほか, 炎症反応高値, 軽度貧血を認めました 感染と免疫検査の結果です 痰培養にてインフルエンザ桿菌,A 群溶連菌が検出されたほか, B 型肝炎抗原陽性でしたが, こちらは特に活動性はありませんでした 免疫検査ですが, これはどれも陰性でした 補体も正常値でした レントゲンでは, 縦隔拡大はなく, 右の胸水貯留を疑う所見を認めました また, 肺野の透過性の亢進を認めました CTでは, 両側の高度肺気腫に加え, 右上葉に浸潤影を認め, こちら放射線科の読みでは肺炎もしくは喀血の病巣ではないかと考えました こちらはお示しはしていませんが, 腎サイズのほうはCT 上正常でした 入院後経過です こちらは,11 月 30 日時点, 元のCrが0.97mg/dL でありましたが, 初診時はCr4.04 と増悪しておりました 経過中ですが, こちらにはお示ししておりませんが,37 台の微熱を認め, 肺炎の合併も疑われましたので, 抗菌薬加療は施行しておりました 体重に関しては, 初診時 54.3kg, また浮腫も認めたため, フロセミドを同日より施行しております その後, 体重は減少傾向でしたが, 腎機能に関しては, 入院後 5 日でCr6.01mg/dL と増悪したこと, また入院時に血痰を認め, 胸部 CTで浸潤影を認めたこと, 尿蛋白, 尿潜血が持続陽性であったことより,ANCA 血管炎が疑われ,2 月 17 日に腎生検を施行いたしました 腎生検の結果ですが, まずPAS 染色はご覧のとおりです 糸球体は29 個採取されており, そのうち21 個は細胞性半月体,2 個は線維細胞性半月体でした 半月体を伴う糸球体には, 所々で好中球の浸潤も見られ, 一部は係蹄壁不明瞭となり, フィブリンの析出を認めました また, 中位動脈は軽度の硬化を認めるのみで, そのほか, 糸球体以外に血管炎を疑うような所見は, 明らかではありませんでした 免疫染色画像になります こちらは, ご覧のように糸球体のメサンギウム領域に一致した IgG,IgA,IgM また,C3,C1q の樹枝状の蛍光所見を認めております 電顕画像です 腎生検の, このように基底膜内, もしくはパラメサンギウム領域に沈着物が散在している所見, このように内皮下の沈着物, 高拡大で, 沈着物あるも構造物は認めませんで 196

第 66 回神奈川腎炎研究会 した その後の経過です 腎生検の光学顕微鏡で, 広範囲に糸球体障害を認めたため, クリニカルグレード3のRPGN と判断いたしました 2 月 24 日よりステロイドバルス療法を開始しております 途中, 腎機能の悪化, 乏尿が出現したため, 一時的に透析導入といたしましたが, 透析は計 6 回施行した時点で腎機能障害はピークアウトし, 尿量も回復してきたため, 離脱となっております その後, ステロイドバルス療法後, ステロイドを徐々に減らしていき,20mg 減量となった時点で 3 月 29 日に退院, その後は外来にてステロイドを減らしておりますが, 現在も腎機能は改善を続けており, ネフローゼの再発も認めておりません また, 今回腎生検にて免疫複合型のRPGN として SLEを疑う生検結果が得られましたが, 経過を通して臨床的にSLEを疑う所見は認められませんでした また,SLEの鑑別を有する疾患として, パルボウイルスの感染であったり, 溶連菌感染ですが, 今回は喀痰検査で溶連菌が出てきましたが, パルボウイルスに関しては関節痛は特になかったこと, また, 両者としての補体は特に低下を認めていなかった点より, こちらも臨床的には否定的ではないかと考えています 本症例の疑問点です 病理学的診断と臨床的診断に乖離を認めました 本症例の診断に関して, ご教授よろしくお願いいたします 以上です 座長はい, ありがとうございます 今, 臨床側からということで, 問題点についてまとめていただきましたけれども, フロアの先生から, 臨床情報に関する質問, コメントがありましたらお願いします 城はっきりした免疫複合体性腎炎があって, しかもループスは否定される 免疫複合体性腎炎の臨床的な原因はよく分からないということですけれども, 結局, 否定されるだけで, 免疫 複合体性腎炎の背景についてのアイデアは全くなかったですか 川井今振り返って考えてみると, 血痰のエピソードが, 血管炎であったり, 高次 immune 抗体のGoodpasture ではないものとしたら, 上気道炎の症状で血痰が出てしまってということで, 感染関連の糸球体腎炎は鑑別して, 今振り返ると分かるのかなと思います 城 IgA が陽性だったですよね 川井 IgA は 城陽性じゃなかったかな 川井はい 城確か,IgA が陽性だったと思います 座長陽性じゃないですね 城陰性でしたか 川井はい 座長陽性だったかな 城 IgA 陽性ですよ しっかりした陽性ですよ 座長 IFでは陽性です 川井あ, はい 城そうすると,IgA dominant 感染後腎炎という解釈はどうですか 川井すみません お伺いしたいのですけれども, そういった場合は,IgG であったり,IgA もその全ての蛍光が 城出てくることがあります 川井ありがとうございます その可能性もあるかな 城問題は, 感染症についての臨床的な把握をどれだけしているかということですね 血痰の原因, 肺の病変などはどうなっているのですか 川井今振り返って考えると, そのとき, あまり咳嗽であったりとか, 発熱は持続してはいたのですけれども, 画像でしっかり肺炎の像, もしくは喀血の病巣ではないかと疑う所見があったので, 今考えると感染していた可能性はあるのですけれども, 臨床症状として咳嗽が, その時点ではあまり私たちの中で主座というか, あまり重要なものと考えていなかったので, そこのあたりは追っていなかったかなというのは反 197

腎炎症例研究 33 巻 2017 年 省点になります 乳原もう一回検査所見を出してくれますか どこまで検索されたのかです 川井そうですね 検索が少し足りていなかった部分があるのですけれども, 具体的にC3, C4 というのは採っていなかった ASO であったり, 溶連菌感染の関連するマーカーを採っていなかったというのが, 足りていない部分かなと思います 城あともう1つ, 皮膚のUrticariaだとか, 皮膚炎みたいなものはなかったですか 川井皮膚症状は, たぶんなかったです 城たぶん? 川井恐らくそうです 座長はい, ほかにご質問はありますか よろしいでしょうか そうしましたら, コメンテーターの先生からコメントをいただければと思います 城 スライド01 この症例は, 臨床的には RPGNで, ループス腎炎が鑑別に挙がるというのは, 免疫学的にほぼfull houseのimmuno- globulin の陽性所見があって, しかもループス腎炎が否定されているということと,RPGN をどういうふうに結び付けるかというのがポイントだろうと思います スライド02 Masson 染色があまりいい染色ではなくて,PAS を出さざるを得なかったのですけれども,PAS だと, 尿細管と間質の割合がどの程度で, 尿細管が萎縮して間質の線維化がどの程度あるのか, それが現時点のGFR とかクレアチン値とどういうふうに結び付けるのかというイメージが湧かないのです 尿細管はそこそこ萎縮していて, 糸球体病変がある その病変の大部分に半月体があることは分かります 局所的には炎症細胞のfocusがある スライド03 かなり半月体の頻度が高いです その周囲に炎症の反応があることも分かります スライド04 強拡にしますと, 古い病巣と新 しい病巣が混じっている特徴があります 炎症細胞では,mononuclear( 単核球 ) の細胞が多いと思います スライド05 ここもそうです 非常にフレッシュな半月体がありますけれども, 一方では, 古い半月体もあります スライド06 こういうところは, 糸球体毛細血管係蹄が切片に入らないで, 半月体だけを切った場所だろうと思います この症例は, ボーマン嚢の破壊はわずかにありますけれども, 大部分のボーマン嚢は保たれている症例だと思います スライド07 この中に, かなり強い好中球の浸潤があります スライド08 半月体を起こしておりますけれども, 毛細血管係蹄の中に, 多核であって, 胞体に強いPAS 陽性細胞がmesangium ならびに毛細血管係蹄に多く見られます これが特徴だと思います 通常のループス腎炎は, 好中球の浸潤もありますけれども, 強いdeposit が出ながらに, 炎症細胞浸潤のない症例はいくらでもあります しかし, この症例は, どちらかというと, 好中球の浸潤が非常に強く出るタイプであって, ループス腎炎のimmune complex だとすると, まれとは言いませんけれども, そんなに多くはないと思います スライド09 半月体は, 早期にはこういう細胞性半月体があってもボーマン嚢基底膜が保たれておりますけれども, その後, だんだんPAM 陽性のfibrous なelement が出てまいります しかし, これを Masson で染めると, コラーゲンはまだ出てこないです こういうPAM 陽性の線維が半月体内に出てきたとしても, これはしっかりしたフレッシュな細胞性半月体と言うことができます スライド10 tuft necrosis( 毛細血管壊死 ) が起こった瞬間でありまして, この後, 細胞性半月体に移行していく スライド11 これも, 恐らくこの壊死の中に, 198

第 66 回神奈川腎炎研究会 先ほどの症例のように血栓も絡んでいると思います スライド12 間質ですけれども, かなり強い炎症細胞があって,tubulitisもあります スライド13 好中球がここに, かなり強く出ております 好中球浸潤があって, 一部 tubulitis, そして基底膜の破壊を伴っています スライド14 この場所は肉芽腫かもしれません epithelioid cellが構成する肉芽腫なのではないかと思います 違うと言う人がいるかもしれません スライド15 糸球体は, 全節性硬化が6%, 総数は31 個あります この大部分に好中球浸潤がある 光顕で見る範囲では, 細胞性半月体が 58%, 線維細胞性半月体が9%, 線維性半月体が10% ということで, 合わせると約 80% です メサンギウム細胞増多はなかった スライド16 残存糸球体には, 二重化, spike,bubblingはなかった 糸球体の腫大はない スライド17 4 個の糸球体でボーマン嚢の破壊がありました スライド 18 好中球の浸潤が強いfocusがあったと思います スライド19 尿細管間質では40% の萎縮があって, 炎症細胞の範囲は80% で, 尿細管炎と尿細管基底膜の破壊を伴っています 炎症細胞は, リンパ球, 形質細胞のほかに, 好中球もあります スライド20 遠位尿細管に赤血球円柱を認めております スライド 21 血管系では, 動脈炎はなかった 軽度の動脈硬化の所見しかなかったと思います スライド22 これがIF ですけれども,IgG, IgM,IgA が, ほぼ同等にmesangium patternで陽性です C1q が結構強く出ております fibrinogen,κ,λは, 弱陽性か陰性です スライド23 続いて電顕ですけれども, まず傍 mesangiumにdense depositが出ております スライド24 恐らく内皮下胞に続いていると思いますが, 基本的は傍 mesangium から内皮下, それからmesangium 領域にdense depositがあります スライド25 deposit に構造はありませんし, ループス腎炎によく出るmicrotubular structure 等の変化もありません スライド26 これは弱拡像ですが, 傍 mesangium 領域にhemispherical nodule 様の変化もあります IgA 腎症だけではなくて,paramesangium でのmassive なdeposit は, ループス腎炎でも, cryo でも出てまいります スライド27 当然,IgA 血管炎のときにも出てきます deposit には構造がありません 間質ですけれども,tubulitis があります これは好中球だと思います スライド28 免疫染色では,IgG,IgA,IgM, C3,C1q が, いずれも同程度の強度でmesan- gium 領域に陽性で, 免疫複合体性腎炎と診断しました C1q 陽性のことから, 二次性糸球体腎炎が疑われる SLEの臨床経過がない場合は, C1q 腎症という取って付けたような診断があります ネフローゼを伴うMCNS のvaliant としてのC1q 腎症は知られておりますけれども,SLE の症状がなくC1q が非常に強く出てくる症例も,C1q 腎症として片付けている スライド29 電顕的には, 傍 mesangium に半球状沈着物が見られる 内皮下にも見られます スライド30 わずかに上皮下沈着物も見られます さっき説明しませんでしたが, あったように思います スライド31 そのために, 足細胞の足突起の消失が広範に見られます 以上の所見から, ループス腎炎,cryo が形態的に疑われますが, 臨床的に否定されています IgA 腎症, あるいはIgA 血管炎は鑑別に入ります 先ほどの質問にあったように, 感染があってIgA dominant 感染後糸球体腎炎の可能性がありますので, やはりIgA 腎症関連疾患として捉える可能性もあると思います 199

腎炎症例研究 33 巻 2017 年 スライド32 尿細管炎がありますが, 尿細管基底膜にはdense depositはなかった まとめですけれども, まず, 免疫染色が均等に見られたということ, 電顕的に明らかな免疫複合体性腎炎があったということ, そして臨床的にはSLEと cryoが否定されている 病理的には免疫複合体を伴いびまん性半月体形成性腎炎を起こしていた症例です 尿細管間質では, 尿細管炎, そして基底膜の破壊を伴うかなり強い間質性腎炎があって, 好中球も絡んでいる これらの所見はANCA 関連腎炎に矛盾しないけれども, 電顕的に免疫複合体性腎炎があるので, 当然 ANCA 関連血管炎だけでは説明ができません 臨床的に抗核抗体が陰性,MPO,PR3, 抗 GBM 抗体が陰性ということで, 膠原病関連腎症,ANCA 関連腎症は一応否定していいと思います そうすると一体何が残るかということなのですけれども, 確かhepatitis 関連の抗体が陽性だったと思います 免疫複合体性腎炎をどう捉えるかということですが,1 つは, 感染があって,IgA dominantの感染後性腎炎が1つ上がると思います それから, 広範な細胞性半月体腎炎がありフレッシュなものと古いものが混ざっているということで,double negative な ANCA が免疫複合体性腎炎に関与していた可能性も否定できないと思います IgA dominant 感染後腎炎で片付けるのか, あるいはC1q 腎症, 要するにループス類似でありながら, 臨床的にSLE が否定された, しかも C1q が非常に強く染まっているfull house 型の免疫グロブリン型腎炎をC1q 腎症というかたちでまとめてありますので, そういう範疇に入るかどうかです もしUrticaria みたいなものがあれば, より説明が付くのですけれども, 皮膚症状はなかったということで,C1q 腎症が1つ鑑別診断に入るかと思います 臨床的にネフローゼ症候群, そして急速進行 性腎炎があったということは, 非常に強いびまん性半月体形成性腎炎で説明が付くと思います 免疫複合体性腎炎があったということ, foot process effacement が強かったということで,RPGN にネフローゼが合併したことでも説明が付くと思います この病気の本体が何かということについては, 感染症がらみのものなのかどうかよく分からないけれども,C1q 腎症のかたちに入るのか それから,hepatitis が陽性だったということで, そしてcryo の検査がはっきりしなかったかも知れないということで,cryoglobulin 血症性糸球体腎炎は, 一応鑑別に入ると思います 以上です 座長はい, ありがとうございます では, 山口先生, お願いします 山口最近, お年寄りですと,combine な, いろいろなベースにimmune complex 腎炎があって, そこへ, この方はANCA negative ですが, RPGN が合併してくるのは, 最近多い スライド01 組織学的には,full house でいろいろな沈着を見るとlupus を考えたいのですが, serological に必ずしもうまく証明できない ただ, 男性で高齢者ですと,behavior が同じlupus でも違うと聞いたことがあるので,lupus を組織学的にぱっと見たときに, 全然問題ないなと考えてしまった症例です スライド02 主体は,full moon のcrescent が糸球体にできてしまって, 尿細管間質炎,capillaritis, 通常見るplasma lymphoid で, 好中球も少し混ざっているのだろうと思うのです 普通のANCA 関連 ANCAは陰性ですけれども, necrotizing な,crescentic な腎炎です スライド03 fibrous になっているところと, cellular なところと, 新旧混ざって, 間質炎は広範囲に見られている 赤血球円柱もある スライド04 先ほどのIgA vasculitis なのか, 問題がありましたけれども,full house のcel- lular crescent で, ボーマン嚢が比較的保持されている crescent のないところは,mesangium 200

第 66 回神奈川腎炎研究会 の拡大が目立っています これが, この間, 仙台で堀田先生がintratubular macrophageという, macrophageのマーカーで染めると出てくる 上皮の剥離像も関係あると思います スライド 05 crescentのところしか見えていないのですが, 一部断裂しています スライド 06 Masson で見ますと,fibrin なのか, fibrinoid necrosis なのか,cellular crescentが全周性に見られています スライド07 一部 necrosisを起こしているようには思います 残った tuft の反応というのは, 弱いように思います スライド08 同じようなところなのですが, 少しmesangium matrix が増えて,capillary 内への浸潤はあまり目立たないです こちらも軽い管内への浸潤はあります patch tubular injury もあります スライド09 部分的にtuft necrosis,fibrinoid necrosis がベースで,crescentic になっている ANCA は陰性ですけれども,necrotizingな病変が,primary focus でcrescentに移行している スライド 10 capillaritisも軽いです スライド11 好中球は浸潤してきますので,ischemic になってTBMが障害されても来ることはよくありますので 好中球が来ているところでしょうか スライド12 necrosis がベースで, 先ほどの IgA vasculitis とちょっと雰囲気が違うのかなと感じます 我々がNETsと言っているのは, こういうことです 核を引っ張った, 脱核して細胞が死んでいろいろなenzymeを組織に振り掛けるので, 溶けてしまう NETsの現象と我々は呼んでいるのです 普通のANCA 陽性のものと区別が付かないです 残ったところを見ますと,paramesangial depositが一部残ってあります IgA などで見る paramesangial deposit がある スライド13 full house 最近 full house nephropathy で SLEが証明できない例 そういう疾患群がペーパーが出ていたと思います 我々は,SLEの診断のときには,extra glomerular に沈着が起こる このようにボーマン嚢領域に沈着が起こる あるいはTBMに出てくる 一部 mesangial peripheral も,granular に出ています スライド14 crescent のない糸球体で, 半球状のparamesangial deposit と内皮下, 上皮下にもあり,mesangium のmatrix とmesangium の増殖と浸潤細胞も少し見られる スライド15 ここもmesangiumの増殖, あるいは浸潤です paramesangiumにnodularで,mesangium matrix 内にも virus-like particleははっきりしなかった スライド16 尿細管炎が見られ,ANCA 陰性ですけれども,necrotizing のときにはtubulitis も起こしてきます deposit ははっきりしなかった スライド 17 overlap necrotizing crescentic glomerulonephritis とmesangial ループス腎炎の疑いと思います SLEが証明できないfull house 腎症の文献がありましたので, それを引いて, 参考にしていただければなと思います immunecomplex 型の腎炎と,ANCA 陰性の壊死性の半月体腎炎の合併と思います 以上です 座長はい, ありがとうございました 非常に多彩な複雑な部分がありまして, なかなか整理が難しいかなと思って伺っていました 何かコメント, 質問のある先生 では, 星野先生から 星野まず, この臨床の経過を拝見していまして, 感染関連の糸球体腎炎に矛盾しないのではないかなと思いました 最近では高齢者の肺炎後に 特に溶連菌に限らずさまざまな菌で糸球体腎炎を呈するプラスミン活性関連腎炎という概念が提唱されています 本例の組織がそれに合致するかどうかが, 個人的には一番興味があります 好中球が多いなど,AGN 的な変化はいかがでしょうか? 臨床的な点では, 補体 CH50 が正常ですが, C3,C4 はいかがでしょうか? 低補体があれば 201

腎炎症例研究 33 巻 2017 年 より感染性腎炎に診断が近づくと思います もう1つは組織で,NAPr の活性を見てみたいなというのが感想です 座長はい, ありがとうございます では, 城先生, それに関して 城まず, 感染で IgA が染まってくるタイプの, Nasrの IgA-dominant postinfectious glomerulonephritis の論文には,IgA 腎症とは違って, C1q が出てくると書いてあったと思います もう1つ言うことを忘れました 後で思い出したらまた 座長またよろしくお願いします では, 鎌田先生, お願いします 鎌田皆さんの議論をいろいろ聞いてきて, 僕は, 感染性腎炎だと思います 理由は, まず最初に血痰が出ています 腎臓患者で血痰が出るのは皆さんご存じのとおり非常にまれです 血痰が出る腎疾患としては,GPA,MPA, グッドパスチャー症候群がありますが, いずれも否定的とのことですので, 血痰の原因として感染症が挙がります ですから, あの肺病変を更に追及するべきであったかなと思います それから, 低補体と抗核抗体のいずれも伴わないSLEを見たことがありません この点から,SLEは否定的だと思います それではこの疾患は何かと考えると, まず光顕でfocal segmental な tuft necrosisがある これに伴って, 管外増殖がある IF を見ると, 抗体も補体もfull houseですけれども,mesangial pattern です これはMRSA 腎症そっくりです 私が見てきた6,7 例のMRSA 腎症の組織では, 間質の炎症が強く, 糸球体壊死が巣状におこり,IgA 免疫グロブリンの沈着を伴なっていました 本例は, 私の見てきたMRSA 腎炎とよく類似しています MRSA 腎炎では多くの場合, 下肢に点状出血斑があります 本例ではありませんけれども, 時々出血斑がないのもありますから, 本例は MRSA 腎症に準じた何らかの感染性腎炎と考え ます これを感染性腎炎だと捉えると, 腎組織病変は, 全て説明できると思います 座長ありがとうございます では, 城先生, お願いします 城上皮下沈着物があったのですけれども, 感染性腎炎, あるいは多くはIgA 血管炎ですけれども,crescent の強いタイプの中にああいう上皮下沈着物を示す症例が, 多いように思いました それから,seronegative なループス腎炎という概念ですけれども,Jennette やHaas など, いろいろな先生に聞いてみたのですけれども, seronegative なループス腎炎という概念は誰も認めていないみたいです ただ, ここにおられる臨床の先生で, あすなろループス, すなわち完全に抗核抗体も陰性なものから徐々にループス腎炎になっていくような前段階でseronega- tive なループス腎炎という概念をどう考えていらっしゃるのか もし何かご意見があれば, ぜひ機器対のですけれど 鎌田相模大野内科 腎クリニックの鎌田です 私の経験した症例ですが,1 回目の腎生検で, MPGNと診断したのですけれども, その症例は低補体のみ伴い, 抗核抗体は, 伴いませんでした そのときは16 歳か17 歳でした その後 23 歳ぐらいになって, 大学を卒業してこちらに帰ってきた時には, 見事なSLEになっていました 1 回目の腎生検時には, 低補体があり, 抗核抗体を伴わなかったので,primary MPGN と思ってしまったのですけれども, その後,SLEになりましたから, 初めからSLEであったと思われます 山口それは, 恐らくfactor Hの異常で起きたのではないでしょうか MPGNからSLEに移行するのです 鎌田そうですか ありがとうございます 乳原虎の門病院乳原です まず, 抗核抗体が陰性のSLEがあるかどうかということです 新しい診断基準によりますと, ループス腎炎に相 202

第 66 回神奈川腎炎研究会 当した腎症に加えて, 抗核抗体かdsDNA が陽性でないといけないとされています もう1つは,SLEそのものがどういうものかというと,IgG を中心とした免疫複合体がまず内皮下, または mesangiumに沈着することから, スタートするということです ですから, まず管内性変化, またはmesangium 変化かもしれません または, ちょっと管内性変化があったうえでの半月体形成になるはずです 半月体形成が前面に出ることは, まずあり得ない 免疫複合体がまず血管内に沈着することからスタートするのだということです 抗核抗体が陽性で補体が低下する場合は, dsdna 抗体が陽性になることが多い dsdna が陰性でも補体が下がる場合は,SM 抗体が陽性のこともあります さらにdsDNA もSM 抗体も陰性で, 補体も正常な場合も腎症を呈する その場合, 抗核抗体が陽性の場合には,MCTD 腎症でRNP が陽性になる 全て抗核抗体が陽性だということで, これまでのSLEがらみの腎症は必ず抗核抗体が陽性だという大条件がある ですから, 鎌田先生の所見が, 最初に抗核抗体が陰性だったかどうかということです そういう症例があったということです 城今, ループス腎炎のことでいろいろ学ぶ機会があるのですけれども, ループス腎炎はすべて免疫複合体腎炎から発症するということは, まちがいのようです 例えばRPS/ISN 分類の中にきれいな写真が出ていますけれども, クラスⅢでfocal segmental necrotizing legion のところには,immune complex がないのです 恐らく,focal necrotizing legionに関しては, もちろんimmune complex disease なのですけれども,focal necrotizing legionの場所に,immune complex ではない可能性がある Jennetteも, 恐らくそれは unknown ANCA だと言っています だから, ループス腎炎に関しては,2 つの機序を考えていかなければいけない 若いときに,CPCなどで医局会に呼ばれて思いおこしますと, ループス腎炎のなかで非常に crescent 形成の強い症例は昔からあったと思います そのころANCA 測定はなかったのですけれども,ANCAが陰性で, 非常にcrescentic 形成を伴うループス腎炎は症例としてはあると思います それは,immune complex だけでは説明が付かないカテゴリーに入るものだろうと思います ループス腎炎はcrescentic 腎炎の中のimmune complex type の中に入るというような図が描いてありますけれども, あれは100% 本当ではないと思います 乳原でも, お言葉を返すようですけれども, その場合も, 抗核抗体陽性だという条件があるかどうか dsdna が陽性だといううえで, そういう症例があるかどうかが大切だと そういう症例をちゃんと確認しないといけないと思うのです 本当にそういうデータを持っていてしゃべっているのかどうかということです 城もちろん, 抗核抗体陽性で, ループス腎炎のカテゴリーを満足する中で免疫複合体関連でない機序があるということを言っているのです 乳原そういう論文が, ちゃんとした写真で出してくれているかどうか 実例を 自分の経験でこういうものもありましたよと言っているだけでは 城 RPS/ISN,2004 年の論文の中のあの写真がまさにそうです class Ⅲの写真です GBM がぱんと破裂した, あそこにimmune complex は着いていないです 座長よろしいですか Lupus は非常に多彩な顔つきを示すところと, 病態が実際にどうかというところで, くくり方が難しいなと日ごろ思っています 本症例は, 山口先生は残されましたけれども,Lupus は否定的であるというのがフロアのコンセンサスかなと考えます 感染後腎炎の可能性が高いということでよろしいでしょうか 203

腎炎症例研究 33 巻 2017 年 II-1 ANCA 陰性の RPGN で 組織学的にループス腎炎が鑑別に上がる一例 横須賀共済病院腎臓内科川井沙記 高橋直宏 桂川史子 柳智貴 七松東 樋口真一 矢嶋優 安藝昇太 青柳誠 田中啓之日本医科大学解析人体病理学長濱清隆 病理コメンテーター東北大学大学院 医科学専攻 病理病態学講座城謙輔 第 66 回神奈川腎炎研究会 2016 年 9 月 16 日 ( 土 ) 15:30~19:45 横浜シンポジア 城先生 _01 城先生 _04 城先生 _02 城先生 _05 城先生 _03 城先生 _06 204

第 66 回神奈川腎炎研究会 城先生 _07 城先生 _10 城先生 _08 城先生 _11 城先生 _09 城先生 _12 205

腎炎症例研究 33 巻 2017 年 城先生 _13 城先生 _16 < 光顕 > 標本は 2 切片採取 糸球体は 2/31 個 (6%) に全節性硬化を認めます 残存糸球体において メサンギウム細胞増多ならびに管内性細胞増多や分節性硬化 癒着 虚脱はありません 細胞性半月体を 16/29 個 (55%) 線維細胞性半月他を 2/29 個 (9%) 線維性半月体を 3/29 個 (10%) 壊死性変化を 1/29 個 (4%) 認めます 残存糸球体基底膜の肥厚はなく PAM 染色にて二重化ならびに spike bubbling も見られません 糸球体の腫大はありません (180μm) 上記の半月体を伴う糸球体において 4 個の糸球体にボウマン嚢基底膜の破壊を伴っています 尿細管 間質尿細管の萎縮ならびに間質の線維性拡大を中等度に認め (40%) 炎症細胞浸潤は 80% 見られ 尿細管炎ならびに尿細管基底膜の破壊を伴っています 炎症細胞はリンパ球 形質細胞の他に好中球浸潤を認めます 遠位尿細管腔には赤血球円柱を認めます 血管系小葉間動脈に軽度の内膜の線維性肥厚を認めますが 輸入細動脈に異常ありません 動脈炎の所見はありません 城先生 _14 城先生 _17 G M A C3 城先生 _15 城先生 _18 206

第 66 回神奈川腎炎研究会 C1q Fib Kappa Lambda 城先生 _19 城先生 _22 城先生 _20 城先生 _23 城先生 _21 城先生 _24 207

腎炎症例研究 33 巻 2017 年 まとめ免疫染色にてIgG IgA IgM C3c C1qがほぼ均等に顆粒状メサンギウムパターンで見られます 電顕にて半球状沈着物を含む明らかな免疫複合体性腎炎の所見でループス腎炎 クリオグロブリン血症性糸球体腎炎 IgA 腎症が鑑別診断に挙がります 以上の所見から びまん性半月体形成性腎炎と診断され半月体は細胞性半月体が主体ですが線維性半月体も混入しています 一方 尿細管間質において尿細管基底膜の破壊ならびに尿細管炎を認め炎症細胞はリンパ球 形質細胞の他に好中球浸潤も見られます 以上の所見は ANCA 関連腎症に矛盾しませんが免疫診断ならびに電顕診断から明らかな免疫複合体性腎炎です 臨床的に抗核抗体陰性 MPO-ANCA PR3-ANCA 抗 GBM 抗体が陰性の事からループス腎炎ならびに ANCA 関連腎症は否定されています 通常 ループス腎炎やクリオグロブリン血症性糸球体腎炎は本症例の様な高度の半月体形成性腎炎は起こしません HBV 関連腎症は免疫複合体性腎炎の原因として否定出来ません それにダブルネガティブ ANCA 関連腎症が合併した事が疑われます IgA 腎症の半月体形成性腎症型も鑑別診断に入ります 城先生 _25 城先生 _28 76 歳男性 臨床診断 : ネフローゼ症候群 急速進行性糸球体腎炎症候群 ANCA 陰性 抗 GBM 抗体陰性 クリオグロブリン陰性 HBS 抗体陽性病因分類 : 原発性糸球体疾患病型分類 : 免疫複合体性腎炎 びまん性半月体形成性腎炎 ダブルネガティブANCAの鑑別 IF 診断 : 免疫複合体性腎炎 二次性糸球体腎炎の疑い電顕診断 : 免疫複合体性腎炎 ループス腎炎 クリオグロブリン血症性糸球体腎炎 IgA 腎症の鑑別診断 皮質 : 髄質 =8:2 糸球体数 :31 個 全節性硬化 :2 個 メサンギウム細胞増殖 :0 個 管内性細胞増多 :0 個 半月体形成 :21 個 ( 細胞性半月体 :16 個 線維細胞性半月体 :2 個 線維性半月体 :3 個 ) 分節性硬化 :0 個 癒着 :0 個 虚脱 : 0 個 未熟糸球体 :0 個 壊死性変化 :1 個尿細管の線維化 (IFTA):40% 間質の炎症細胞浸潤 :%80 小葉間動脈内膜の線維性肥厚 : 軽度 輸入細動脈内膜の硝子様肥厚 : ナシ 城先生 _26 城先生 _29 < 免疫染色 > IgG IgA IgM C3 C1q がいずれも同じ強度でメサンギウム領域に顆粒状に陽性です 何らかの免疫複合体性腎炎と診断します C1q が陽性の事から二次性糸球体腎炎が疑われます < 電顕診断 > 傍メサンギウム沈着物が優性で半球状沈着物に成長しています メサンギウム沈着物も見られ一部に内皮下沈着物も見られます また僅かに上皮下沈着物も見られます 足細胞脚突起消失が広範に見られます 以上の所見から ループス腎炎 クリオグロブリン血症性糸球体腎炎 IgA 腎症が鑑別診断に挙がります 尿細管間質が撮影されています リンパ球と好中球による尿細管炎を認めますが尿細管基底膜には dense deposit はありません II-1:ANCA 陰性の RPGN で 組織学的にループス腎炎が鑑別に挙がる 1 例 ( 横須賀共済病院腎内 ) 臨床病理学的問題点 : 1.ANCA 陰性の RPGN とループス腎炎との関連は? 2. その合併か? 城先生 _27 山口先生 _01 208

第 66 回神奈川腎炎研究会 山口先生 _02 山口先生 _05 山口先生 _03 山口先生 _06 山口先生 _04 山口先生 _07 209

腎炎症例研究 33 巻 2017 年 山口先生 _08 山口先生 _11 山口先生 _09 山口先生 _12 IgG IgA IgM C3 C1q 山口先生 _10 山口先生 _13 210

第 66 回神奈川腎炎研究会 66-II-1: Kidney (P16-01394) RPGN 1. Necrotizing crescentic glomerulonephritis 2. Mesangial lupus nephritis, suspected (RPS/INS: class II) 3. Acute tubular injury, severe cortex/medulla = 9/1, global sclerosis/glomeruli= 2/34 光顕では 糸球体には分節状に好中球或いは好酸球浸潤と fibrinoid necrosis を伴い 23 ヶに全周性に及ぶ細胞性半月体が見られ 係蹄壁の断裂やフィブリン析出を認めます その他には軽度のメサンギウム域拡大が見られます 尿細管系には近位尿細管上皮の扁平化と内腔拡張が散在し 脱落上皮を伴い 近位上皮に泡沫或いは硝子滴変性を認め 血球或いは硝子円柱が散見されます 間質はやや浮腫状の拡大がびまん性に見られ 病変部糸球体周囲に単核球や多核球浸潤が拡がり 傍尿細管毛細血管炎や尿細管炎を軽度認めます 動脈系には中位動脈内膜肥厚が中等度見られ 細動脈硝子化は軽度です 蛍光抗体法では IgA(+), IgG(+), IgM(++), C3(+), C1q(++), C4(-), fib(±): mesangial > > peripheral pattern です 電顕では 観察糸球体はGBMに上皮下 膜内或いは内皮下沈着を散見し 内皮の腫大 増生を認めます メサンギウム域には半球状の傍メサンギウム沈着と基質沈着を認め メサンギウム細胞増生と基質増加が見られます 上皮の脚突起癒合が所々で見られます 尿細管炎が見られ 間質にリンパ球などの浸潤を認めます 以上, 上記の診断で ANCA 陰性壊死性半月体性腎炎とループス腎炎の合併と思われます 山口先生 _14 山口先生 _17 山口先生 _15 山口先生 _18 山口先生 _16 211