第 64 回神奈川腎炎研究会 液検査所 症例49歳男性 算 現病歴 7年前から糖尿病 糖尿病性網膜症 圧を指摘され 近医 で内服加療を受けていた 3か 前から下肢の浮腫を 覚し 徐々に全 の浮腫が増悪し たため当院受診した 体重は浮腫発症前は95kgであったが 123kgに増加していた 1か 前は尿

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1 2 2 ANCA pouci immune IgG C3 ANCA 68 '01 '02 7 UN 14mg/dl, Cr 0.7 mg/dl, -, - ' UN 45mg/dl, Cr 2.4 mg/dl, Ht 29.5%, 4+, cm 61

/12/28 UP 3+, TP 4.2g/dl, Alb 1.9g/dl PSL 50mg/day 1/17 PSL 45mg/day PSL 2006/4/4 PSL 30mg/day mpsl mpsl1000mg 3 2 5/ :90 / :114/64 mmhg

腎炎症例研究 33 巻 2017 年 Tac3mg (12時間トラフ3 7ng/ml) (mg/dl) mpsl PSL40mg (g/dl) 0.5g (g/gcr) HbA1c 8.0 蛍光顕微鏡所見 LDL-apheresis計12回施行 治療経過 PSL40mg PSL20mg PSL5mg

腎炎症例研究 32 巻 2016 年 検査所見 初診時 生化学 血算 WBC Hb Ht Plt 9300 (/μl) 16.8 (g/dl) 47.5 (%) (/μl) TP Alb Na K Cl㻌 㻌㻌 BUN 㻌 㻌 Cr 㻌㻌 UA GOT 㻌 㻌 GPT 㻌 㻌 TG T

59 20 : 50 : : : : : 2 / :20 / 25 GTP /28 5/3 5/4 5/8 6/1 1 7kg 6/9 :178.7cm :68.55kg BMI:21.47 :37.3 :78 / :156/78mmHg 1

第 58 回神奈川腎炎研究会 血清 CRP 0.03 mg/dl IgG 488 mg/dl IgA 195 mg/dl IgM 164 mg/dl C3 121 mg/dl CH /ml ASO 51 入院時検査所見 2 RF 8.2 IU/mL 抗核抗体 陰性 HBsAg 0.1

WBC 5700 / l Gran 58.5% Lym 29.0% Eosin 0.3% RBC 499x10 6 / l Hb 14.8 g/dl Hct 44.40% PLT 15.3x10 3 / l PT 157% Fbg 616 mg/dl DD 0.99 g/ml GOT GPT LDH

腎炎症例研究 32 巻 2016 年 肉眼的血尿が出現し急速に腎障害が進行した糖尿病性腎症の一例 1 阿部哲也 1 高橋遼 1 竹内和博 1 村野順也 1 竹内康雄 1 青山東五 1 島田芳隆 1 鎌田真理子 1 内藤正吉 1 関本恵子 1 正木貴教小川みゆき 1 佐野 1 隆 2 病理コメンテータ

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第 54 回神奈川腎炎研究会 図 1 図 4 図 2 図 5 図 3 図 6 101

腎炎症例研究 27 巻 2011 年 図 1 図 2 入院時検査所見 (2008 年 8 月 ) 尿所見 比重 ph 6.0 蛋白 3+ 潜血 3+ RBC >51 /HPF 顆粒円柱 1-3 /WF 蝋様円柱 1-3 /WF 赤血球円柱 1-3 /WF 尿蛋白 /Cr 比 4.5 g/

1996 papilloma virus 2001 Bowen AIHA PSL1mg/kg BMA PRCA parvovirus B19 PVB19 DNA PCR PV IgM 4 PVB19 PRCA MAP PVB19 DNA DNA PR

九州支部卒後研修会症例

腎炎症例研究 27 巻 2011 年 診断と治療に苦慮した C 型肝炎合併のネフローゼ症候群の一例 和 田幸寛 武重由依 竹島亜希子 吉 田典世 伊藤英利 緒方浩顕 衣 笠えり子 症例症例 :46 歳男性主訴 : 呼吸苦と全身浮腫現病歴 :1994 年に C 型肝炎ウイルス (HCV) による慢性肝

人間ドック結果報告書 1/5 ページ 所属 : 株式会社 ケンコウタロウ健康太郎 様 性別 / 年齢 男性 / 49 歳 生年月日 昭和 40 年 3 月 17 日 受診日 平成 26 年 5 月 2 日 受診コース 人間ドック ( 胃カメラ ) 問診項目 今回前回前々回平成 26 年 5 月 2

1治療 かっていたか, 予想される基礎値よりも 1.5 倍以上の増加があった場合,3 尿量が 6 時間にわたって 0.5 ml/kg 体重 / 時未満に減少した場合のいずれかを満たすと,AKI と診断される. KDIGO 分類の重症度分類は,と類似し 3 ステージに分けられている ( 1). ステー

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腎検体の標本作製と染色

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腎炎症例研究 27 巻 2010 年 図 2 図 3 入院時検査所見 尿検査 PH 5.0 比重 蛋白 (3+) 潜血 (3+) 糖 (-) ケトン (-) 白血球 (1+) 白血球 /HF 赤血球 /HF 硝子円柱 2+ 顆粒円柱 1+ 細菌 1+ 尿中 β2m

腎炎症例研究 29 巻 2013 年 入院時血液, 尿検査所見 ( 生化学 ) BS 98 mg/dl T-Bil 0.5 mg/dl AST 23 IU/l ALT 7 IU/l LDH 251 IU/l ALP 115 IU/l TP 6.0 g/dl ALB 2.5 g/dl T-cho 33

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佐賀県肺がん地域連携パス様式 1 ( 臨床情報台帳 1) 患者様情報 氏名 性別 男性 女性 生年月日 住所 M T S H 西暦 電話番号 年月日 ( ) - 氏名 ( キーパーソンに ) 続柄居住地電話番号備考 ( ) - 家族構成 ( ) - ( ) - ( ) - ( ) - 担当医情報 医

第 60 回神奈川腎炎研究会 低補体血症が持続する膜性増殖性糸球体腎炎 3 型の小児の 1 例 1 丸山真理 1 齋藤陽 1 小林久志 2 小池淳樹 1 村田俊輔 3 生駒雅昭 はじめに小児の膜性増殖性糸球体腎炎 ( 以下, MPGN) は一般に予後良好とされているがその多くは 1 型と考えられてい

第 55 回神奈川腎炎研究会 アルポート症候群の一家系 1 石田典子 1 遠藤正之 1 田中寿絵 1 深川雅史 呉新村文男 1 瓊 2 症例症例 1 S.M.:8 歳, 男児 ( 腎生検時 6 歳 ) 現病歴 :5 歳時の検尿で尿潜血を指摘され, 半年後に蛋白尿も指摘されため精査目的に入院 家族歴

糖尿病経口薬 QOL 研究会研究 1 症例報告書 新規 2 型糖尿病患者に対する経口糖尿病薬クラス別の治療効果と QOL の相関についての臨床試験 施設名医師氏名割付群記入年月日 症例登録番号 / 被験者識別コード / 1/12

2 章 +αの 情 報 に 着 目 する! 1 血 球 算 定 検 査 結 果 2 生 化 学 検 査 結 果 手 がかりに 乏 しいのも+α 1 症 例 をみてみよう! 1 60 吉 見 祐 輔 percutaneous coronary intervention PCI

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腎炎症例研究 27 巻 200 年 図 図 2 血液検査 < 血算 > WBC 3500 /μl Neu 62 % Eo 4 % Baso % Mono 7.5 % Lym 25 % RBC 296 /μl Hb 0. g/dl MCV 03.4 Fl MCHC 33 % Plt 5000 / μl

第 59 回神奈川腎炎研究会 ブシラミン内服開始後に発症した半月体形成を伴う膜性腎症の一例 眞部俊伴野麻悠子大島康子波多野道康 症 例 考 察 症例 :76 歳女性 主訴 : 浮腫 既往歴 :25 歳時 : 妊娠高血圧症候群 家族歴 : 兄 : 関節リウマチ 生活歴 : 喫煙歴なし, 飲酒歴ほぼなし

腎炎症例研究 32 巻 2016 年 症例 88 歳女性 主訴 食欲不振, 背部痛, 発熱 現病歴 入院 2カ月前は腎機能障害や尿異常の指摘なし. 2 週間前から食欲不振,1 週間前から背部痛が出現した. 当院受診し, 冠攣縮性狭心症の疑いで入院になった. 入院時にCr 1.8 mg/dl,crp

第 66 回神奈川腎炎研究会 検査所見 < 尿定性 > 尿蛋白尿糖尿潜血 < 尿沈渣 > 赤血球白血球扁平上皮硝子円柱上皮円柱顆粒円柱卵円形脂肪体 (4+) (±) (3+) 多数 多数 (1+) /HPF /HPF /HPF /HPF /HPF /HPF

わが国における糖尿病と合併症発症の病態と実態糖尿病では 高血糖状態が慢性的に継続するため 細小血管が障害され 腎臓 網膜 神経などの臓器に障害が起こります 糖尿病性の腎症 網膜症 神経障害の3つを 糖尿病の三大合併症といいます 糖尿病腎症は進行すると腎不全に至り 透析を余儀なくされますが 糖尿病腎症

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日本内科学会雑誌第99巻第9号

生化学検査 臨床検査基準値一覧 近畿大学病院 (1) 検査項目 基準値 単位 検査項目 基準値 単位 CRP mg/dl WBC /μl Na mmol/l M RBC K mmol/l F 3.86-

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第 63 回神奈川腎炎研究会 Laboratory findings on admission㻌 1 Urinalysis Specific Gravity ph Occult blood Protein Glucose (2+) (3+) (1+) 各種検査 Protein C

腎炎症例研究 27 巻 2011 年 図 5 HE 染色 図 8 図 6 図 9 IgM 図 7 図 10 C4 52

標準的な健診・保健指導の在り方に関する検討会

ども これを用いて 患者さんが来たとき 例えば頭が痛いと言ったときに ではその頭痛の程度はどうかとか あるいは呼吸困難はどの程度かということから 5 段階で緊急度を判定するシステムになっています ポスター 3 ポスター -4 研究方法ですけれども 研究デザインは至ってシンプルです 導入した前後で比較

第 59 回神奈川腎炎研究会 入院時身体所見 血算 WBC RBC Hb Ht Plt Cl Ca IP AST ALT LDH ALP CRP Glu TG Tchol LDL-C /μl /μl g/dl % /μl 血液ガス 静脈

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第 52 回神奈川腎炎研究会 膜性増殖性糸球体腎炎様の多彩な光顕所見を呈したネフローゼ症候群の一例 1 高橋大栄 1 西垣啓介 1 青柳誠 2 津浦幸夫 1 坂本麻実 1 森崇寧 1 田中啓之 3 長濱清隆 1 吉田和香子 1 安藝昇太 1 田村禎一 はじめに今回われわれは, 膜性増殖性糸球体腎炎様

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1 8 ぜ 表2 入院時検査成績 2 諺齢 APTT ALP 1471U I Fib 274 LDH 2971U 1 AT3 FDP alb 4 2 BUN 16 Cr K4 O Cl g dl O DLST 許 皇磯 二 図1 入院時胸骨骨髄像 低形成で 異常細胞は認め

目次 1. 目的 2 2. 人工透析患者の年齢等の分析 3 性別 被保険者 被扶養者 3. 人工透析患者の傷病等の分析 8 腎臓病 併存傷病 平成 23 年度新規導入患者 4. 人工透析 健診結果 医療費の地域分析 13 二次医療圏別 1

ただ太っているだけではメタボリックシンドロームとは呼びません 脂肪細胞はアディポネクチンなどの善玉因子と TNF-αや IL-6 などという悪玉因子を分泌します 内臓肥満になる と 内臓の脂肪細胞から悪玉因子がたくさんでてきてしまい インスリン抵抗性につながり高血糖をもたらします さらに脂質異常症

所見診断のすすめ 腎臓の正常構造と糸球体病変のとり方 所見診断から挙げるべき鑑別診断 所見診断 : 主に光顕所見のみで行う診断最終診断 : 光顕に加えて 蛍光および電顕所見 臨床経過を加味した診断 疾患名や疾患概念を知らなくても記載ができる 最終診断は臨床医に任せ 他の業務に時間を割くことができる

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10,000 L 30,000 50,000 L 30,000 50,000 L 図 1 白血球増加の主な初期対応 表 1 好中球増加 ( 好中球 >8,000/μL) の疾患 1 CML 2 / G CSF 太字は頻度の高い疾患 32

第 52 回神奈川腎炎研究会 特異な細動脈病変を呈したループス腎炎の 1 例 鎌田真理子 佐野 隆 酒井健史 古谷昌子 根本千香子 渡会梨紗子 青山雅則 中野素子 内田満美子 坂本尚登 鎌田貢壽 症例症例 :32 歳男性主訴 : 手足のむくみ現病歴 : 平成 21 年 4 月初旬に咽頭痛を自覚し近医


検査項目情報 P-ANCA Department of Clinical Laboratory, Kyoto University Hospital 一次サンプル採取マニュアル 免疫学的検査 >> 5G. 自己免疫関連検査 >> 5G552.P-ANCA Ver.7 perinucl

2013 年 5 月 9 日放送 第 76 回日本皮膚科学会東部支部学術大会 2 教育講演 1 皮膚科における血管炎診療のパラダイムシフト 聖マリアンナ医科大学 皮膚科 准教授川上民裕 血管炎を理解するための基礎知識血管炎とは 病理組織において血管への好中球浸潤 血管壁のフィブリノイド壊死を特徴とし

亜急性 慢性の区別はあいまいであるが 疾患の期間がわかると鑑別疾患を狭めることができる 臨床経過に関するチェック ( 問診 ) 項目 過去の腎疾患 関連疾患の既往はないか 学校検尿での異常は 保健加入時の尿所見の異常は 職場検診での尿所見の異常は 妊娠 出産時の尿所見の異常は 扁桃炎の既往は ( 急

CQ1: 急性痛風性関節炎の発作 ( 痛風発作 ) に対して第一番目に使用されるお薬 ( 第一選択薬と言います ) としてコルヒチン ステロイド NSAIDs( 消炎鎮痛剤 ) があります しかし どれが最適かについては明らかではないので 検討することが必要と考えられます そこで 急性痛風性関節炎の

モーニングレクチャー 腎臓内科編

セッション 6 / ホールセッション されてきました しかしながら これらの薬物療法の治療費が比較的高くなっていることから この薬物療法の臨床的有用性の評価 ( 臨床的に有用と評価されています ) とともに医療経済学的評価を受けることが必要ではないかと思いまして この医療経済学的評価を行うことを本研

1. 趣旨 目的 香川県糖尿病性腎症等重症化予防プログラム 香川県医師会香川県糖尿病対策推進会議香川県国民健康保険団体連合会香川県 本県では 糖尿病患者の人口割合が全国上位にあり 糖尿病対策が喫緊 の課題となっている 糖尿病は放置すると網膜症や腎症 歯周病などの合 併症を引き起こし 患者の QOL

1 ムを知ることは, 治療介入時の注意点を知る上で重要である. つまり, 臓器の組織還流を維持するために腎での水と Na 保持作用は重要な代償機構である. 利尿薬投与によって体液量を減少させれば, 浮腫は減少するが, 同時に組織還流も減少するため, その程度によっては臓器障害をきたしうることをよく理

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尿試験紙を用いたアルブミン・クレアチニン検査の有用性

行対象症例の選択方針が内外で異なるためと考えられており ヨーロッパ諸国の中でも腎生検を比較的活 発に行っている地域では本症の発現頻度が高いこととともに 無症候性蛋白尿 血尿の比率が高くなってい る 5. 合併症 高血圧 ネフローゼ症候群を呈する場合は脂質異常症 慢性腎不全に進行した場合は 腎性貧血

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腎炎症例研究 29 巻 2013 年 した その約 1 週間後の外来でCr 1.32 mg/dl (egfr 43 ml/min/1.73 m 2 ) と腎機能の急激な低下を認めたため, 加療目的に7 月中旬に再入院とした メチルプレドニゾロン (mpsl) パルス500 mg 3 日間を2クール行

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脂質異常症を診断できる 高尿酸血症を診断できる C. 症状 病態の経験 1. 頻度の高い症状 a 全身倦怠感 b 体重減少 体重増加 c 尿量異常 2. 緊急を要する病態 a 低血糖 b 糖尿性ケトアシドーシス 高浸透圧高血糖症候群 c 甲状腺クリーゼ d 副腎クリーゼ 副腎不全 e 粘液水腫性昏睡

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2178 網 第1表 岡 臨 床 経 過 日数 と組 織 診 断 との関 係 忠 戸 川 淳 志 体,尿 細 管,間 質,中 小動 脈,細 小 動 脈 に分 け,そ れ ぞ れ の障 害 度 を更 に0,1,2,3 の4つ に分 けて 血圧,腎 血 漿流 量,糸 球 体 濾 過値,フ エ ノ ール

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本文/02 渡辺        001‐008

第 62 回神奈川腎炎研究会 尿定性 尿比重 尿 ph 5.5 尿蛋白 (3+) 尿潜血 (2+) 尿沈査赤血球 /HPF 白血球 5-9 /HPF 扁平上皮 1-4 /HPF 尿細管上皮 0-1 /HPF 硝子円柱 多数 /WF 上皮円柱 5-9 /WF 顆粒円柱 1-4

腎炎症例研究 27 巻 20 年 図3 胸部 CT 図5 図4 図6 Masson Trichrome 入院時検査所見 血算 WBC RBC Hb Hct Plt 凝固系 APTT PT PT-INR 生化学 TP x x 04 /μl /μl g


腎炎症例研究 26 巻 2010 年 着を一部に認める 糸球体病変はメサンギウ ム細胞 基質の軽度増加を認めた 毛細管係 蹄の変化を認めず 尿細管炎を認め 間質は 混合性の細胞浸潤があり 一部に線維化を伴 う 2 回目 最終発作から 6 ヶ月後 24 個中 14 個で糸球体硬化像を認めた 硬化 を伴

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ヒト慢性根尖性歯周炎のbasic fibroblast growth factor とそのreceptor

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糖尿病性腎症に合併したネフローゼ症候群の治療

はじめに この 成人 T 細胞白血病リンパ腫 (ATLL) の治療日記 は を服用される患者さんが 服用状況 体調の変化 検査結果の経過などを記録するための冊子です は 催奇形性があり サリドマイドの同類薬です は 胎児 ( お腹の赤ちゃん ) に障害を起こす可能性があります 生まれてくる赤ちゃんに

症例報告書の記入における注意点 1 必須ではない項目 データ 斜線を引くこと 未取得 / 未測定の項目 2 血圧平均値 小数点以下は切り捨てとする 3 治験薬服薬状況 前回来院 今回来院までの服薬状況を記載する服薬無しの場合は 1 日投与量を 0 錠 とし 0 錠となった日付を特定すること < 演習

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インスリンが十分に働かない ってどういうこと 糖尿病になると インスリンが十分に働かなくなり 血糖をうまく細胞に取り込めなくなります それには 2つの仕組みがあります ( 図2 インスリンが十分に働かない ) ①インスリン分泌不足 ②インスリン抵抗性 インスリン 鍵 が不足していて 糖が細胞の イン

腎炎症例研究 30 巻 2014 年 生化学 TP 7.0 g/dl Alb 3.0 g/dl T-bil 0.7 mg/dl AST 12 IU/L ALT 5 IU/L LDH 648 IU/L ALP 278 IU/L γgtp 39 IU/L BUN 130 mg/dl Cre 21.5 m

第 39 回神奈川腎炎研究会 膜性増殖性糸球体腎炎に糸球体および細動脈 内皮細胞障害を伴った一例 牧 橋 守 小 野 本 屋 林 武 志1 ヒロコ 1 利 佳1 豊1 和 岸 坂 重 達 彦1 由美子 1 本 尚 登1 松 秀 一2 田 羽 長 鎌 村 場 田 素 貢 子1 泰1 壽1 血圧は 16

15 検査 尿検査 画像診断などの腎障害マーカーの異常が3ヶ月以上持続する状態を指すこととしている その病期分類方法は成人と小児では若干異なり 成人では糖尿病性腎障害が多い事からこれによる CKD 患者ではアルブミン尿を用い その他の疾患では蛋白尿を用いてそのリスク分類をしている これに対し小児では

2章 部位別のアプローチ法は 最後はちょっと意地悪な質問であるが この一連の問答に 従来わが国で 腹部全般痛のアプローチ と呼ばれてきたものの本質がある わが国では腸閉塞のことを と表現すること もう 1 つ X 線 もしくは CT と腸閉塞を区別しよう でびまん性の腸管拡張を認めるものを と言うた

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2009年8月17日

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パネルディスカッション 2 Q 専門領域について選択してください 1. 消化器内科 2. 消化器外科 3. 放射線科 1% 4% 3% 21% 4. その他の医師 5. その他 ( 医師以外 ) 71%

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50 生化学検査 420 3J 総ビリルビン 数字 PQ 5 NNN.N mg/dl mg/dl 3J010 総ビリルビン 3J 生化学検査 430 3B GOT(AST)

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腎炎症例研究 32 巻 2016 年 糖尿病性腎症のネフローゼ症候群にステロイド治療を施行した一例 1 北見美穂 1 長沼司 1 佐藤浩司 2 白井小百合 1 市川大介 1 音羽孝則 1 岡田絵里 3 小池淳樹 1 末木志奈 1 川田貴章 1 柴垣有吾 4 病理コメンテータ山口裕 城 5 謙輔 症例症例 :49 歳男性 7 年前から糖尿病,2 年前から高血圧を指摘され, 近医で内服加療を受けていた 1 年前に測定した体重は102kgと肥満であった X-1 年の年末に下肢の浮腫を自覚し X 年 2 月 23 日に全身浮腫のため当院受診, 123kgに体重増加していた 血清 Alb 2.2g/dl, 尿蛋白 6.13g/gCr の所見を認めネフローゼ症候群の診断で入院加療となる 3 年前に糖尿病性網膜症を指摘されており, 重度の肥満があったことから糖尿病性腎症や肥満関連腎症の可能性が高いと考えられ, 塩分制限, フロセミドで経過観察とした 3 月 12 日頃より尿量の減少を認め, 血清 Cr は 2.25mg/dl( 入院時 1.16 ) に上昇 乏尿となったため3 月 20 日に腎生検を施行した 光顕所見で, メサンギウム基質の拡大と細胞増殖, 糸球体基底膜の中等度肥厚を認めた 電顕所見で, 高度な足突起消失を認めた 糖尿病性腎症に準ずる所見として経過観察していたが急性腎障害は進行し血清 Cr は10.69mg/dl, 血清 BUN は 120.3mg/dl まで上昇した 微小変化型ネフローゼ症候群を合併している可能性を考え4 月 25 日にステロイドパルス療法を施行 ステロイド治療は著効し血清 Cr1.48mg/dl, 尿蛋白 0.51g/gCr まで改善し浮腫も軽快した 問題点 : 糖尿病性腎症の経過としては, 比較的急激にネフローゼ症候群に進展した 足突起消失の程度は高度で有り, 糖尿病性腎症の影響のみならず, 微小変化型ネフローゼ症候群の合併ととらえて良いでしょうか? (1 聖マリアンナ医科大学腎臓 高血圧内科 (2 聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院腎臓 高血圧内科 (3 川崎市立多摩病院病理診断科 (4 山口病理組織研究所 262 (5 東北大学大学院医学系研究科病理病態学講座 Key Word: 微小変化型ネフローゼ症候群, 糖尿病性ネフローゼ症候群, 足突起消失

第 64 回神奈川腎炎研究会 液検査所 症例49歳男性 算 現病歴 7年前から糖尿病 糖尿病性網膜症 圧を指摘され 近医 で内服加療を受けていた 3か 前から下肢の浮腫を 覚し 徐々に全 の浮腫が増悪し たため当院受診した 体重は浮腫発症前は95kgであったが 123kgに増加していた 1か 前は尿蛋 の指摘はなかったが 尿蛋 6.13g/gCrの所 を認めた 清Alb 2.2g/dlでありネフ ローゼ症候群の診断となり同 院となった Plt 凝固 PT APTT Dダイマー 93% 40.5 4.4 尿酸 Na K Cl Ca P CRP T-c HDL-c LDL-c HbA1c 糖 % sec μg/ml 化学 TP alb T-Bil AST ALT γーgtp CPK Cr GFR UN フロセミド 40mg トルバプタン 15mg アジルサルタン 40mg アムロジピン 家族歴 叔 ;糖尿病 弟 筋梗塞 活歴 喫煙 40本 30年 飲酒 焼酎3合 週5 6 ピオグリタゾン ミチグリニド 5 9 5 9 ボグリボース ここ数年間変化なし /HPF /HPF U/mL U/ml U/ml U/m 15mg 30mg 0.9mg 腹 腎の きさは 較的保たれるが 辺縁は不整 肥満で 下脂肪が厚い 図5 尿検査 尿沈査 球 球 硝 円柱 上 円柱 脂肪円柱 顆粒円柱 pg/ml 5mg 図2 1.021 6.5 4 2 BNP 38.2 TP抗体 RPR HCV抗体 HBs抗原 C3 108 C4 24 CH50 44.1 413 IgA IgG 726 IgM 94 MPO-ANCA <1.0 PR3-ANCA <1.0 抗GBM抗体 <10 免疫電気泳動 M蛋 (-) 画像所 現症 169.4cm 体重 122.7kg 浮腫発症以前は95kg 体温 36.8 脈拍 98bpm 圧 122/80mmHg 頭頸部:表在リンパ節触知せず 甲状腺腫脹なし 胸部: 呼吸 異常所 なし 腹部:圧痛なし 四肢:両側上下肢に 度の圧痕を残す浮腫あり 陰嚢陰茎浮腫あり 紫斑など 湿疹なし 重 ph 蛋 定性 潜 meq/l meq/l meq/l % 図4 内服 2007年 糖尿病網膜症 レーザー治療 2型糖尿病 インスリン使 圧 睡眠時無呼吸症候群(CPAP使 中) 6.1 129 5.1 95 9.9 3.3 0.06 289 82 168 6.2 139 5.1 g/dl 2.2 g/dl 0.4 69 U/L 55 U/L 525 U/L 219 U/L 1.16 54.0 ml/min 22.0 図1 既往 免疫学的検査 化学 6200 103/μL 466 103/μL 15.5 g/dl 46.4 % 104/μ 229 L WBC RBC Hb Ht 0.5g 院後経過 尿蛋 1 尿蛋 蛋 分画 A/G アルブミン α1g α2g βーg γーg NAG 6.21 8.4 g/gcr g/day 5.7 76.1 5.7 3.8 9.2 5.2 % % % % % 115.6 免疫電気泳動 M蛋 (-) U/L 12 腎 検 10 第25病 8 6 9 塩分制限 フロセミド治療で体液コントロールを い蛋 尿 が軽快しないか経過観察をしていた 4 9 塩分制限 フロセミド治療で体液コント ロールを い蛋 尿や体液過剰の改善を期 待して経過観察 2 0 z PSL60mg 肥満や糖尿病の既往で糖尿病性網膜症の指摘 もあることから糖尿病性ネフローゼ症候群が まず第 に考えられた z 較的急激にネフローゼ症候群を発症したた め 次性ネフローゼ症候群の合併の可能性 が考えられた 腎 検を考慮したが 重度の肥満であり腎 検は容易でなくリスクが いと考えられた 0 5 10 15 25 30 40 60 70 80 90 100110120130140150160170180190 清クレアチニン (mg/dl) 尿蛋 (g/gcr) 院第18病 ごろよりフロセミドに反応不良 病 Cr 2.25mg/dlまで上昇し蛋 尿の軽快は認めな かった 120.4kg 96.1kg 院第25病 にリスクを説明して腎 検を施 73.5kg 図3 図6 263

腎炎症例研究 32 巻 2016 年 免疫蛍光所 病理所 z 球体 28個 z球状 球体硬化 6個 尿細管は地図状の尿細管 萎縮と間質線維化 軽度 の炎症細胞浸潤が認めら れた IgG IgA C3 IgM κ Fib C1q λ IgG 線状陽性 基底膜 C3 弱陽性 尿細管基底膜 図7 図 10 電顕所 中等度から 度のメサンギウム領域拡 中等度のメサンギウム細胞増殖 部にメサンギウム結節の形成 管内細胞増多 半 体形成 図8 びまん性の 突起消失 係蹄障害の乏しい部分に 突起の消失を広範に認める 免疫複合体の沈着を認めない 図 11 葉間動脈 線維性内膜肥厚 中等度 細動脈 硝 化 軽度 図9 図 12 264

第 64 回神奈川腎炎研究会 治療経過 病理医の先 にお聞きしたいこと mpsl 0.5g PSL60mg 腎 検 12 この症例におきまして 突起消失の所 は 糖尿病性腎症によるものでなく微 変化型ネフローゼ症候群によるものであると病理所 から述べることは可能でしょうか 第25病 10 8 清クレアチニン (mg/dl) 6 尿蛋 (g/gcr) 4 2 0 体重 (kg) 0 5 10 15 25 30 40 60 70 80 90 100110120130140150160170180190 122.7kg 120.4kg 96.1kg 病 73.5kg 図 13 図 16 糖尿病性腎症において腎 検施 した報告 2型DM 22 腎 検 ネフローゼ14 DM歴 0 13年 (4.2 +/- 4.2) 14 が他疾患 IgA 6, MN 3, MCD 3, LN 1, AIN 1) Yonsei Med J. 1999 Aug;40(4):321-6. 2型DM 97 腎 検 DMNのみ(36.1%) DM 他疾患 16.5%) 他疾患のみ 47.4%) 他疾患の内訳 (IgA 25.8%, MN 21.0%, MCD 12.9%, FSGS 8.1%, MPGN 6.5%) Diabetes Res Clin Pract. 2005;69:237-42. 他疾患の報告は 較的多い 図 14 2型DM患者においてDMNとNon-DMNを 臨床徴候で鑑別するMeta-analysis 網膜症 罹病期間 SBP,DBPはDM群で有意に い PLoS One. 2013; 8: e64184. 図 15 265

腎炎症例研究 32 巻 2016 年 討論北見それではお願いいたします 症例は49 歳の男性で, 現病歴ですが,7 年前から糖尿病, 糖尿病性網膜症, 高血圧を指摘されまして, 近医で内服加療を受けておりました 3カ月前から, 下肢の浮腫を自覚しまして, 徐々に全身の浮腫が増悪したため, 当院受診をしました 体重は浮腫発症前は,95kgでありましたが, 受診時は123kgまで増加しておりました 1 カ月前までは, 尿蛋白の指摘はありませんでしたが, 来院時は尿蛋白が6.13g/gCrの所見を認めておりました 血清アルブミンについては, 2.2mg/dlであり, ネフローゼ症候群の診断となり, 同日入院となりました 既往については,2007 年に糖尿病網膜症でレーザー加療をされておりまして, その以前から 2 型糖尿病を指摘されまして, インスリン加療を行っておりました また同時期に高血圧と指摘されております 家族歴, 生活歴については, ご覧のとおりとなっております 内服については利尿剤と降圧剤, あとは血糖降下薬を内服されておりました 次に現症です 身長 169.4cm, 体重が 122.7kg, 浮腫発症以前は95kg 程度でした 身体所見としては, 両側上下肢に高度の圧痕を残す浮腫がありまして, 陰嚢, 陰茎の浮腫が著明に認められました 尿検査所見では, 尿蛋白が6.21g/gCr,1 日尿蛋白量は8.4g 程度でした こちらについてはアルブミン優位な蛋白尿の所見でした その他としては,NAG が上昇を認めておりまして,M 蛋白は陰性でした 次に血液検査所見ですが, 血算 凝固は異常所見なく, 生化学については, 総蛋白, アルブミンが著明な低下を認めておりました 肝酵素についても, 上昇しておりまして, クレアチニンについては,1.16,GFR は54.0 と軽度の腎機 能低下を認めておりました その他については, 総コレステロールとLDLコレステロールの上昇を認めておりました 免疫学的検査については,IgG が軽度低下を認めております 次に画像所見です 腹部 CTを施行しておりまして, 腹水が認められております 腎の大きさについては, 比較的保たれておりましたが, 辺縁は不正の状態でした 入院後経過です 肥満や糖尿病の既往で, 糖尿病性網膜症の指摘もあることから, 糖尿病性ネフローゼ症候群がまず第一に考えられました 比較的急激にネフローゼ症候群を発症したため, 一次性ネフローゼ症候群の合併の可能性が考えられました 腎生検を考慮したのですが, 重度の肥満があったため, リスクが高いと判断をして, 塩分制限, フロセミド治療で体液コントロールを行い, 経過観察しておりました その後, 入院 18 病日目より, フロセミドに反応不良, クレアチニンが2.25mg/dl まで上昇しまして, 蛋白尿についても軽快を認めなかったため, 入院 25 病日目に腎生検を施行しております 次に病理所見です 糸球体 28 個のうち,6 個が球状糸球体硬化の状態でした 尿細管は地図状の尿細管萎縮と間質線維化, 軽度の炎症細胞の浸潤が認められました 光顕の所見では, 中等度から高度のmesangi- um 領域の拡大と, 中等度のmesangium 細胞の増殖が認められました また, 一部にmesangi- um 結節の形成が認められました 管内細胞増多や半月体の形成は認められませんでした 小葉間動脈については, 線維性の内膜肥厚が中等度認められました 細動脈については, 少子化が軽度認められる所見となっておりました 次に免疫蛍光所見です IgG が基底膜上に腺状陽性となっておりまして,C3 については, 尿細管基底膜に弱陽性の所見でした 次に電顕所見です びまん性の足突起消失が 266

第 64 回神奈川腎炎研究会 認められまして, 係蹄障害の乏しい部分にも, 足突起の消失を広範に認めております 免疫複合体の沈着は認めませんでした こちらが拡大図になっております 治療経過です 腎生検の結果は足突起の消失が高度で, 微小変化型ネフローゼ症候群を合併している可能性が考えられましたが, 糖尿病性腎症の組織像もはっきりと確認されていたため, 糖尿病性腎症によるネフローゼ症候群と考えまして, 経過観察しておりました 第 40 病日以降, 徐々にクレアチニンが上昇しまして, 尿蛋白も高値持続し, 入院第 60 病日目には, クレアチニンが10.5mg/dl,BUN が 120.3mg/dlまで上昇したため, 同日ステロイドパルスを500mg/dayで開始しております 後療法は,60mg/dayとしました 治療開始後 15 日ほどで, 体重が96.7kgまで低下しております 現在は, 外来にてフォローしておりますが, プレドニン10mg 内服中でして, クレアチニンが 0.94, 尿蛋白は 0.3g 程度の状態を維持しており, 体重も 73.5kgまで改善を認めております 2 型糖尿病患者 22 人に対し, 腎生検を施行した結果からは,14 人が他疾患によるネフローゼ症候群であったことが分かっております また 97 人の 2 型糖尿病患者に対しまして, 腎生検を施行した報告ではご覧のとおりとなっておりまして, これらの報告からは,2 型糖尿病患者のネフローゼ症候群でもほかの疾患の合併が多いということが分かります また,2 型糖尿病患者において, 糖尿病性腎症とその他を, 臨床症候で鑑別するmeta-analy- sisにおいて, 網膜症罹病期間, 血圧が糖尿病性腎症の群で有意に高いという結果が出ております 本日, 病理医の先生にお聞きしたいこととしましては, 足突起消失の所見は糖尿病性腎症によるものではなく, 微小変化型ネフローゼ症候群によるものであると病理所見から述べることは可能でしょうか ご教示いただければ幸いです 座長はい ありがとうございました それでは, まず臨床の面からご質問, ご討議等をお願いいたします いかがでしょうか 城先生 城腎生検の後, 迷っているうちにクレアチニンがどんどん上がってきましたよね 例えば, MCNSでも水の制限をすることでクレアチニンがどんどん上がってくることがありますよね この病態の可能性を, 先生はどういうふうに考えておられますか 北見こちらについては, 当初, ラシックスを 80mg 程度まで上げていたのですが, クレアチニンの上昇に伴いまして,20mg 程度まで漸減してみていって, それにも全く反応不良という経過だったので, こちらについては, あまり利尿剤による影響と捉えておりませんでした 座長ほかにいかがでしょうか この方は, 微小変化型ネフローゼ症候群を合併したと考えていらっしゃると思うのですけれども, アレルギー疾患が微小変化型ネフローゼ症候群と合併することがあるかと思うのですが, いかがでしょうか 北見特にこの方の場合は, アレルギー疾患はなく, 入院時に検査した結果でも, 特にそのような所見はありませんでした 座長例えば, 花粉症やRASTの検査は特にされてはいらっしゃらないですか 北見そちらについてはやってはいないのですが, 問診上はアレルギーがあるというお話はされていないです 座長はい ほかにいかがでしょうか なかなか腎生検だけで鑑別するのが難しそうな症例ではありますけれども, よろしいでしょうか 病理の先生から, ご意見を伺いたいと思いますので, よろしくお願いいたします 山口 スライド01 糖尿病性腎症にMCNS が合併するのは, われわれも時々経験するわけで, ペーパーにもなっていて, ステロイド治療をするとよくなる 急性腎不全,anasarca になっていますので恐らくprerenal な障害の可能性です 267

腎炎症例研究 32 巻 2016 年 スライド02 mesangium の結節ができて, そこに血管腔ができてきていますので, 一番可能性として, 糖尿病性糸球体硬化症 そんなに大きくはないですが,micronodular type と思います 見る人が見ると, 健常な尿細管のTBMもやや厚い印象を受ける場合があるようです 切片の厚さで, 判断できない場合もあります スライド03 mesangium の拡大, 毛細血管腔が増えてきて, 一部はnodularで, そのnodular に孔が開いてきています ボーマン嚢腔とのかかわりのない血管腔が 通常のMPGN でもre- modelingして, 血管の孔はできてくると思います スライド04 つぶれた糸球体もhyalinosisが主体で,fibrin cap でつぶれてきている印象です polar vasculosis な血管が増えている スライド05 血管を共有している糸球体が, 時に目立ちます tip lesionをつくって, この tip lesionから染み込み病変が進展するわけであります スライド06 つぶれた糸球体も, 大きなhya- linosisは secondary にも起こらないので, 糖尿病性の病態からつぶれてきている印象です この JGA のところも血管が増えてきています スライド07 mesangium のmatrix が増えたところに血管腔が新たにできてくる ボーマン嚢が少し厚くなっております スライド 08 hyalinosisが増え,efferent 側にも hyalinosis が少しある スライド09 先ほど紹介しました,paratubu- lar basement membrane insudationで, 近位尿細管 straight portion insulative な二重化が見えてくるわけで, こういう病変を見たら,DM による変化と言えると思います スライド 10 この尿細管です 本来のTBMがここで二重化あります 近位の変化であります スライド11 細動脈の硝子化もはっきりしている スライド 12 二重化が目立つことです スライド13 IF で時々 DM で, 先ほど城先生 が言われたように,IgG がlinear pattern に出る これはきれいに出て, ボーマン嚢,TBMにも light chain deposition disease と間違えるぐらいに出る場合もあります Aも少し出ることがあります これはちょっと弱いです なぜ出るのかは, 一般的には染み込みである GBM が厚くなりますので, そこに, 電顕ではdense deposit はないのですが, 染み込みであるといわれてはいます スライド14 電顕で,GBM が軽度から中等度, homogeneous に, 厚くなっています 癒合性に matrix が増える early な糖尿病で, 一般的な criteria はGBM の肥厚で,400nm です もう1 つmesangial type もあると思います mesangium matrix が癒合性に拡大してくるかたちで,mesangium 型も考えてもいいと思っています foot process fusion が広範囲にあって,villous transformation も場所によって目立っています advance な nodular type で,Kimmelstiel-Wilson disease といわれるネフローゼを呈してくる場合があるのですが, その場合はfoot process fusion が目立たないのです それでいて, ネフローゼになっています podocytopathy がなくても,nodular type で advance だと, ネフローゼになるのです スライド15 minimal-change disease が, 合併してきている 軽度のtubular injury があり, hypovolemic なprerenal な障害で, 急性腎不全は軽いと思います 以上です 座長ありがとうございました 城先生, お願いいたします 城 スライド01 僕らは, 臨床の先生が付ける表題は, 患者さんの印象を臨床の先生がどう見ていたかということを知る意味で大変参考になります この症例は糖尿病性腎症のネフローゼ症候群にステロイド治療をした症例ですが, 結果がどうだったかもう少し標題から知りたいです スライド02 所見は, 先ほど山口先生のとお 268

第 64 回神奈川腎炎研究会 りであります 糖尿病性糸球体硬化症のdiffuse type で, この症例ではKW 結節が見られませんが,mesangium 細胞増多があります スライド03 ネフローゼ症候群を合併しているということで, 間質にかなり浮腫があります 浮腫はMasson の染まりが, 通常の青よりも薄いということもあるのですが, 毛細血管管腔がかなり拡張しています これが浮腫の1つの証拠になります スライド04 diffuse global mesangial hypercellularityが見られる 管腔の中の炎症はあまり目立ちません それから, 拡大したdoughnut lesionがありますし,mesangium 領域の拡大した領域にろ過面を持たない小血管がずいぶん見られます スライド05 こういうのは, 私はやはり糖尿病性糸球体硬化症の特徴だろうと思います 通常のMPGN でメサンギウム領域が拡大してくるタイプでは,matrixが拡大しても, 従来の毛細血管をその中に巻き込んでくる動向は, 見られません もちろんlight chain deposition diseaseのときにはdm 腎症と同じような変化が来ます スライド06 このへんも十分に説明されましたので, 付け加えることはありません スライド07 21% 全節性硬化で,diffuse global なmesangium 細胞増多があって, ろ過面を持たない小血管がある スライド08 この症例はネフローゼ症候群があるのですけれども, 時々感染が合併して, 管内増殖病変を合併する糖尿病性糸球体硬化症があって, それでnephrotic になる症例もあります 特に糖尿病の腎生検が5 年以内で, 急に nephrotic になってきた場合, 腎生検の適用になるわけですけれども, そのときの1つの鑑別診断としては, 感染性の変化が加わって, 管内性細胞増多の病態が見つかって, そこで治療を始めるという症例があります この症例はネフローゼでありながら, 管内性細胞増多はなかった スライド09 糸球体は大きいです スライド10 間質は浮腫性に拡大しています スライド11 糖尿病のときの輸入輸出細動脈の硝子肥厚が目立つことが多いですが, この症例は軽度です スライド12 polar vasculosis はあると思います スライド13 免疫染色では糖尿病特有のIgG のlinear なperipheral pattern の陽性を示し, 糖尿病性の変化であっていいと思います スライド14 C3 が尿細管基底膜に出てきていますけれども, これは非特異的で, 正常でも C3 が尿細管基底膜に出てまいります スライド15 fibrin 陽性は, 糖尿病性糸球体硬化症の特徴であるかどうか分かりませんが, この症例ではmesangium 領域にかなり強いfibrin が出ております スライド16 電顕所見ですが, 糸球体基底膜も, 糖尿病性糸球体硬化症の特徴で肥厚している 約 800 μm の厚さで,lamina densa が肥厚している それから,mesangium matrix が拡大している foot process effacement が広範にありますが, これは糖尿病でnephrotic になったときに, 必ずしもextensive なfoot process effacement を伴いません この症例では, 糖尿病に, 臨床経過もそうですけれども,MCNSの合併していることを電顕でdefinitive に診断してもいいかと思います スライド17 これは管腔の中で内皮が賦活化して, 炎症細胞も出ております 光顕で見ると, あまり管内性の変化が強いところはなかったようです スライド18 これが最後の弱拡像ですが, これだけ extensive に foot process effacement があるのは, 普通の糖尿病では見られないことです villous transformation もあります 恐竜の背中のようなごつごつとした突起が全くなく, 平担化しております これはみんなMCNSの特徴です 糖尿病性糸球体硬化症にMCNSの合併を電顕で診断してよろしいかと思います 269

腎炎症例研究 32 巻 2016 年 スライド19 免疫染色ではIgG が糸球体末梢係蹄にlinear に陽性で,IgA も少し出ていたのでしょうか 陽性です さらにC3が輸入 輸出細動脈の内膜に陽性 糖尿病性糸球体硬化症に compatible です スライド20 これはfibrin ではなくて,fibronectin だったです 恐らく, このfibronectinも IgA 腎症でも染まってきますし, 糖尿病の病変でも染まってくるので,fibronectinそのものが, それほどspecificityのある, あるいは何か診断に役立つ染色のようには思えません スライド21 IgG のTBM 陽性の解釈は分かりません スライド22 糖尿病のときに糸球体基底膜が linear なのはいいです それから, ボーマン嚢基底膜も染まることがあります TBMもlinear に出てきますが, 糖尿病の特徴かどうか, 私はよく分かりません 恐らく糖尿病にそのような所見があってもいいのかと思いますけれども, ちょっと自信がありません スライド23 糸球体基底膜の厚さは800μm あります スライド24 mesangium 基質の拡大 ろ過面を持たない小血管がその中にある スライド 25 炎症細胞浸潤は目立たない スライド26 糖尿病性糸球体硬化症で, 特に diffuse type に compatible です スライド27 足細胞脚突起の広範な消失は MCNS の合併が疑われる 通常の硬化症では広範な消失はない スライド28 同じことの繰り返しです 微小変化型ネフローゼ症候群の合併と診断しました スライド 29 こういう症例はよくありますし, 今回も臨床がよく経過を追えて,MCNSの合併であるという証拠も, 臨床的な経過として呈示しておりますので, 示唆的, 教育的な症例だと思います こういう臨床経過を僕たちも体験をして, 先ほどのような foot process effacementが本当にmcns の合併の所見だったということ を, 臨床と共に僕らも経験ができたということですね 糖尿病のときに, 臨床経過で5 年たって, nodular lesion が出て,nephrotic になる症例はあるのですけれども, 糖尿病の発症から5 年以内で, 急激にnephrotic になってきたときの1つの鑑別診断として, こういうものがありますし, こういうものはステロイドでよく治るわけですので, 糖尿病の経過を見るときの1つの典型像としていい症例であると思います 以上です 座長ありがとうございました 竹本すみません JCHO( ジェイコー ) 東京城東病院の竹本といいます 以前虎の門病院にいたときも, 自治医大にいたときも, 糖尿病性腎症にminimal-change を合併した例を幾つか経験しました 糖尿病性のネフローゼというのは, 治療法がないだけに, 例えば,minimal-change が合併しているのを確認して治療に結び付けるのはすごく大事なので, この症例は非常に大事だと思うのですけれども,2 つ質問があります 1 つは,Selectivity Index はどうだったでしょうか 糸球体の透過性で,minimal-change だけが唯一 Selectivity Index が非常に特徴的なので, それが分かれば, 合併している場合にもmini- mal-change が主体なのか, それとも蛋白尿の出現に糖尿病性腎症がどれぐらいかかわっているか分かります それが1 点 2 点目は, 今まで, 糖尿病でminimal-change を合併しているときに, ステロイドを使うと非常に糖がコントロールが不良になって, インスリンを使わなければいけなかったのですけれども, この例ではどうだったですか 例えば, 私は虎の門にいるときに, シクロスポリンを使って血糖のコントロールなしにうまくいったのですけれども, その2 点についてお教えいただければ幸いです 北見ご質問, ありがとうございます 最初の質問については, 当院では測れません 2 点目の血糖コントロールについてなのですが, 本症例においてはプレドニンを開始した後 270

第 64 回神奈川腎炎研究会 は, インスリンの調節を適宜行って, その後は HbA1c が 6.2% 程度で, その後も血糖コントロールは良好な状態を継続しております 城今の質問に関連してよろしいですか アルブミンが2.2mg/dlですけれども, 糖尿病性腎症のときのネフローゼ症候群は,nodular lesionがあって, 典型的なKimmelstiel-Wilsonからネフローゼになったときにアルブミンはどのぐらい下がりますか いかがですか, 先生 竹本先生のおっしゃるのは糖尿病のときですか 糖尿病のときも,minimal-changeのときも, 糖尿病で非常に悪くなった場合, アルブミン1 台になることもあり得ると思います むしろ, minimal-change も 1 台になったり, 最高 0.8 ということもありますけれども,minimal-change のほうが, もっと程度がひどいかもしれないです そのために, 低蛋白血症になって, こんなふうに急性腎不全を起こすことが多いです 低アルブミン血症のため間質に水が移行し循環血液量が減って, 急性腎不全を起こすというのが一般的な理解だと思います 城糖尿病性糸球体硬化症のときには, 低アルブミン血症が来ますか 竹本来ます そのために腹水とか, 非常にコントロールが悪くて難渋いたします 座長乳原先生, どうぞ 乳原私は聖マリアンナの腎臓内科の皆様に, よく頑張ったと敬意を表したいと思います 私は, ちょうど15 年ぐらい前に, やはり同じように糖尿病の方でインスリンを使っている人が急にネフローゼ症候群となり, それが MCNSの合併と診断しステロイド治療で蛋白尿が消失した症例を当時この会で報告した時, 山口先生が これは組織から見ても,minimalchange の合併だ 糖尿病性腎症と糖尿病性でない違いは,foot process fusion があるかないかで決まる 糖尿病ではない と言われて, 勇気を持ったことがあります それを発表すると, 同じように, これはステロイドの適応はあるかどうかといって患者が送 られてきて, 実際に腎生検を見て, どこでステロイドをやって戦うかどうかということになりました それで, 原茂子先生が当時, これはステロイドが効くんだ とどんどんステロイド治療で頑張った時期もありましたが, なかなかそう簡単にうまくいくものではなくて, それで, この中で, この症例がどこで効いたか, どこで判断するか それは, 腎臓内科ではいつも悩むわけです ステロイド治療で頑張るかどうかです その場合に, 私たちが持っていた症例は, それまでほとんど蛋白尿がなかった人が, ぼんと 10g になってしまった これはminimal-change だということですね この症例の場合に, 蛋白尿は5g 出ていたようですが普段がどのぐらいだったか 例えば, 1g 以下しかなかったのが,1,2 カ月で5g になってしまったのなら, これはminimal-change の臨床経過だろうということですが, その前にどのぐらいの人だったのかということです 北見はい ご質問ありがとうございます この方の場合は, ベースにDMがありはしたのですが, 直近のデータで同じ2015 年の1 月の段階で, 特に蛋白尿の指摘がありませんでした これまでも, 特に腎機能が低下しているとか, そのような蛋白尿の出現も全く見られていなかった方なので,2 月に来院したときに急激に発症したという方でした 乳原私たちは, 糖尿病性腎症を, 三瀬広記君が300 例ぐらいを整理して, 蛋白尿の関係, アルブミンの関係とか, それで調べているけれども, その中で, やはり明らかにびまん性病変がないものをターバン分類で1と それから, びまん性病変があるが, それが25% 以下は2A にしよう それで,25% 以上あれば2B にしようということで,nodular region が出てきたら3にしようということで, 分類してまいりました それで, この症例は, 山口先生はもしかしたら,mesangium 領域の病変が25% 以上になるのでしょうか 25% 以下なのでしょうか 271

腎炎症例研究 32 巻 2016 年 北見ご質問ありがとうございました すみません 山口 2A ぐらいでいいかもしれないですね 乳原びまん性病変があっても25% 以下ぐらいの程度だということですね では,2Aの人の蛋白尿は, 普段どのぐらいあるかということです 三瀬君が調べたものによりますと, 何 10 例の症例です そうすると, 大体平均が1.5gなのです それで, びまん性の病変のない1 型です ちょうど腎生検をしたときに1 型が0.8ぐらい そのぐらいの人は,1g 以下ではびまん性病変がない 1gを超えだすとびまん性病変が出てくる ということは,2gを超えると, 今度はびまん性病変が25% 以上になってくる 3gを超えると, 今度はnodular region が出てくるとか, そういうかたちで, ちょうどきれいに出てきたということで, Nephrology Dialysis Transplantation(NDT) には出したのです そういうふうに考えていくと, 普段どのぐらいの蛋白尿があったのか やはり, 糖尿病性腎症でも, 私たちでも,minimal-changeの合併ではないかと送られてきたら,10g 出てきて, アルブミンが1ぐらいしかない でも, 腎生検で nodular region は, まるで nodular になってしまってびっくりするので, こんなのはステロイド治療をするかどうかということで, 一度やったことはあるのですけれども, 効かなかった やはりこれはなかったということですので, 糖尿病性腎症もこういうかたちで整理をしていくといいのかなということで, コメントです 座長ありがとうございました 宮本貴重なご症例をありがとうございました 2 点ほどありまして, まず臨床の先生に伺いたいのですが, 今回,AKI になる経過で, ラシックスを減らされていたと思いますが, 体重そのものは多かったと思います AKI の今の概念としては, 虚血, 還流量の低下と, うっ血, すなわち静脈圧が高いことによって灌流圧が下がる といった要素があると思います この方の体液量がいかがだったかということと, 城先生が先ほどご指摘された毛細血管が拡張しているといったところが, ネフローゼ, あるいはその他の病態で, どれぐらいが臨床的, 病態的な意義があるかといったことについて, お伺いできればと思います 市川共同演者の市川と申します ご質問, ありがとうございます 最初の腎虚血か, 鬱血かに関してはおっしゃるとおりで, 最初の方の議論で先生方が虚血で prerenal だと言ってくれていたのですけれども, この方は30kg ぐらいの体液量の増加があり, 本当は腎鬱血が起こっていても良かったのではないかと思います それも結局, 間質の浮腫, 毛細血管拡張の所見となり得ていると思います 宮本ありがとうございます 病理の先生が毛細血管の拡張があったとご指摘をされたので, それが今回のAKI との関連で, ご説明がどれぐらいできるかという点を 城そうですね そこらへんを,prerenal な acute renal failure の症例と比較したことはないのですけれども, ネフローゼの極期でもedema がなくて, 毛細血管が拡張しない症例も結構あるのです 要するに, 体液の貯留と恐らく関係があると思うのですが ネフローゼ症候群と体液の貯留, それからprerenal な腎不全という, そこらへんの3つの柱をどういうふうに結び付けるかというのは, 僕も分からないです これからの課題だと思います しかし,edema, 毛細血管の拡張ははっきりした所見なので, 何かそういう目安が, 臨床の役に立てばと思います prerenal なARFと実際には呼んでいるのですけれども, あるphase ではprerenal で, クレアチニンがどんどん上がっていって, それが水の補給で, またクレアチニンが元どおりになるというreversible な症例があります 少し昔は, 不幸にも透析をするような症例がありました 272

第 64 回神奈川腎炎研究会 しかし, 当然これは透析を離脱します 離脱した後にどうだったかなと思って,biopsy をしてくる症例を時々見ることがあります そういうときは遠位尿細管にかなり硬いcast がたまっておりまして, これは透析を経由して, 腎機能が元に戻った後も, そういう硬いhyaline cast が残っているのが,biopsyによるprerenal ARFの証明になるのかなと私は思っています そういうものをcast nephropathy,light chaindeposition disease の場合のcast nephropathy ではなく,hyaline cast nephropathy という疾患概念があるのではないかと思っています 僕自身の勝手な思い込みかも分かりません 宮本ありがとうございます 座長では, どうぞ 細川 1つだけ教えていただきたいのですけれども, 横浜中央病院の細川と申します きょうはありがとうございました これだけの結節性病変がありながら, 現在, 尿蛋白が0.3g 程度まで改善したというのは, ステロイドで糖尿病性腎症も改善したと考えてよろしいのでしょうか 北見そちらについては, もちろん生検の結果からは糖尿病性腎症の所見もあったのですが, もともと前医での尿蛋白の指摘はなかったので, 今回の経過については, 微小変化型に対して, かなりステロイドが効いたと考えております 結節は, 別問題と思います 結節があって尿蛋白 0.3gは珍しいと思うので, この患者は臨床と病理が解離傾向にあった症例かもしれません 細川ありがとうございました 市川共同演者の市川と申します これは, 臨床的に MCD が合併していそうで, よくステロイド治療が効いた症例なのですが, 足突起消失を比較的多く認めている糖尿病性腎症にステロイドを使って効かなかったご経験は臨床の先生にあるのではないかなと 実は私はあります この症例では, 電顕の所見がすごく高度で広範囲な足突起消失の所見がありました が, 例えば, 係蹄壁の中で病変のない部分も, 足突起消失があったという点が, すごくMCD 様だとか, 足突起消失が高度だった以外に示唆するポイントがないかと思いまして, ありましたら病理の先生方, お願いします 城足細胞脚突起の消失の他に,villous transformation です また脚突起物質の増加といって基底膜に近いところのactin filament が増えてくる これらの3つが目安になっていると思います それから,MCNS の場合は, やはり all or non であり, あまりfoot process effacement が中途半端にみられるMCNS の症例, すなわち段階的に,3 段階ぐらいに分かれるかというと, そうではなくて, ないか, あるかの all or no だと思います だから, もしそれが50% ぐらいのef- facement だとすれば, これはMCNS ではないです ほかの原因を考えなければいけない 座長よろしいでしょうか では, だいぶ時間も過ぎましたので, こちらで終了させていただきます 先生, ありがとうございました 以上をもちまして演題発表 2 のセッションを終わりたいと思います ありがとうございました 273

腎炎症例研究 32 巻 2016 年 II 3:糖尿病性腎症のネフローゼ症候群にステロ イド治療を施行した1例 聖マリアンヌ医大腎内 症例 49歳 男 7年前糖尿病 2年前高血圧症 1年前102 肥満 その後123 と増加 UP 6.13g/gCrでネフローゼ Cr 2.25 mg/dlと急性腎 障害で生検 臨床病理学的問題点 1 糖尿病性腎症にMCNS合併か? 2 急性腎障害の原因は? 山口先生 _01 山口先生 _04 山口先生 _02 山口先生 _05 山口先生 _03 山口先生 _06 274

第 64 回神奈川腎炎研究会 山口先生 _07 山口先生 _10 山口先生 _08 山口先生 _11 山口先生 _09 山口先生 _12 275

腎炎症例研究 32 巻 2016 年 II-3 IgG 糖尿病性腎症のネフローゼ症候群にステロイド治療を施行した一例 IgA 聖マリアンナ医科大学 腎臓 高血圧内科 川崎市立多摩病院 病理診断科 白井小百合 先生 小池淳樹 先生 東北大学大学院 医科学専攻 病理病態学講座 城 謙輔 第64回 神奈川腎炎研究会2015年9月17日 土 15:30 19:45 横浜シンポジア 山口先生 _13 城先生 _01 山口先生 _14 城先生 _02 病理診断64 II 3 1. Diabetic nephropathy A. Diabetic glomerulosclerosis, micronodular type B. Arteriolosclerosis, severe 2. Minimal change disease, most likely 3. Patchy tubular injury, mild cortex/medulla= 9/1, global sclerosis/glomeruli= 5/30 光顕では 糸球体には小結節状のメサンギウム域拡大が見られ 内皮下の拡大や係蹄壁の 二重化が目立ち ドーナツ病変を伴い 10ヶにボウマン嚢壁との癒着や染み込みを認めます Polar vasculosisを疎らに認めます 尿細管系には近位上皮の硝子滴変性を認め 上皮の扁平化と内腔拡張が散見されます 上 皮下への染み込み或いは二重化のある尿細管萎縮を散在性に認め 硝子円柱が散見され 基底膜肥厚のやや目立つ尿細管系です 動脈系には細動脈硝子化が輸出入に亘り中等度見られ 中位動脈筋層の硬化を認め 軽度 の内膜肥厚を伴っています 蛍光抗体法では IgG(+), IgA(±), IgM( ). C3(±), C1q( ), κ( ), λ( ): linear patternです 電顕では 糸球体にはほぼびまん性に肥厚したGBMに内皮下浮腫や内皮腫大が見られます メサンギウム領域にメサンギウム細胞増生を伴うメサンギウム基質の小結節状癒合性増加を 認めます 足突起は所々で癒合し 微絨毛の発達が見られます 以上 MCNSの合併した糖尿病性腎症と思われます 山口先生 _15 城先生 _03 276

第 64 回神奈川腎炎研究会 城先生 _04 城先生 _07 城先生 _05 城先生 _08 城先生 _06 城先生 _09 277

腎炎症例研究 32 巻 2016 年 光顕 標本は5切片採取 糸球体 5/24個 (21%)に全節性硬化 残存糸球体において メサンギウム細胞増多を19/19個(100%)認め 拡大したメサンギウム基質に濾過面を持たない小血管の増生を認めます 管内性細胞増多ならびに半月体形成 分節性硬化 癒着 虚脱はありません 糸球体基底膜の肥厚はなく PAM染色にて二重化ならびにspike bubblingも 見られません 残存糸球体の腫大が目立ちます(250μm) 尿細管 間質 尿細管の萎縮ならびに間質の線維性 浮腫性拡大を中等度に認め 30% 同域にリンパ球浸潤を10%認めます 血管系 小葉間動脈に軽度の内膜の線維性肥厚を認め 輸入 輸出細動脈に軽度の 内膜の硝子様肥厚を認めます 城先生 _10 IgG 城先生 _13 IgA IgM C3 C1q κ Fib λ 城先生 _11 城先生 _14 城先生 _12 城先生 _15 278

第 64 回神奈川腎炎研究会 < 免疫染色 > IgG が優勢で IgA が糸球体末梢係蹄に線状に陽性です さらに C3 が輸入 輸出細動脈の内膜に陽性です 糖尿病性糸球体硬化症に compatible です fibronectin についての解釈は解りません IgG の TBM への陽性の解釈も解りません < 電顕診断 > 糸球体基底膜は肥厚し ( 約 800nm) さらにメサンギウム基質の拡大を認め 濾過面を持たない小血管の増生を認めます 炎症細胞浸潤は目立ちません 以上の所見から 糖尿病性糸球体硬化症に compatible です さらに本症例では 足細胞脚突起消失が広範にあり MCNS の合併が疑われます 通常の糖尿病性糸球体硬化症においては 足細胞脚突起の広範な消失は見られません 城先生 _16 考察免疫染色において IgG が糸球体末梢係蹄に線状に陽性で 糖尿病性糸球体硬化症に compatible です 免疫複合体性腎炎合併はありません 電顕診断において糖尿病性糸球体硬化症びまん型に加えて 足細胞脚突起消失が広範に見られ 微小変化型ネフローゼ症候群の合併と診断しました 以上の所見から 本症例は糖尿病性糸球体硬化症びまん型に微小変化型ネフローゼ症候群の合併と診断します 本症例は糖尿病性糸球体硬化症としては 小葉間動脈の硬化病変が目立たず 輸入 輸出細動脈の硝子様肥厚も目立ちません 城先生 _17 標本番号 S15-2919 49 歳男性 臨床診断 : ネフローゼ症候群 糖尿病 肥満 腎機能低下病因分類 : 糖尿病性腎症病型分類 : 糖尿病性糸球体硬化症びまん型 微小変化型ネフローゼ症候群の合併 IF 診断 : 糖尿病性糸球体硬化症,compatible 免疫複合体性腎炎否定電顕診断 : 糖尿病性糸球体硬化症びまん型 微小変化型ネフローゼ症候群の合併 皮質 : 髄質 =10:0 糸球体数 :24 個 全節性硬化 :5 個 メサンギウム細胞増殖 :19 個 管内性細胞増多 :0 個 半月体形成 :0 個 ( 細胞性半月体 :0 個 線維細胞性半月体 :0 個 線維性半月体 :0 個 ) 分節性硬化 :0 個 癒着 :0 個 虚脱 : 0 個 未熟糸球体 :0 個尿細管の線維化 (IFTA):30% 間質の炎症細胞浸潤 :10% 小葉間動脈内膜の線維性肥厚 : 軽度 輸入 輸出細動脈内膜の硝子様肥厚 : 軽度 城先生 _18 279